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July 8, 2025

「成瀬は天下を取りにいく」(宮島未奈著)が文庫化

●これは青春小説の名作だと思う。シリーズ累計135万部(!)を突破した2024年本屋大賞受賞作ということで、今さら紹介するまでもないが、「成瀬は天下を取りにいく」(宮島未奈著/新潮文庫)はとてもよい。連作短編集の形をとっており、滋賀県大津市に住むヒロイン、成瀬あかりの中学2年生から高校3年生までのエピソードが描かれる。成瀬は自分をナチュラルに信じることができる人間で、やりたいと思ったことをなんでもやってしまう。とてもまっすぐで優秀な子で、他人の目を一切気にしない。特徴的なのは各ストーリーごとに視点が入れ替わり、周囲の人物から見た成瀬が描かれるところ。成瀬は常に他者から見つめられる存在で、本人の内面は一貫して描かれない。そこがいい。読後感は爽やか。子どもは子どもの読み方で、大人は大人の読み方で楽しめる。
●で、クラシック音楽ファン的に見逃せないのは、これが膳所(ぜぜ)を舞台にした物語であるところで、膳所で思い出すのはびわ湖ホール。びわ湖ホールはJR膳所駅から徒歩圏内。駅を出ると、小説の舞台にもなったときめき坂だ。びわ湖ホールに向かう途中にあるショッピングセンター、Oh!Me大津テラスの食料品売り場、フレンドマートで成瀬がアルバイトをしていたという設定。惜しい、一昨年、びわ湖ホールに遠征した際には、まだこの本を読んでおらず、Oh!Me大津テラスには立ち寄ったものの、食料品売り場には行かなかった。今だったら、聖地巡礼できたのに!
●続編の「成瀬は信じた道をいく」もおもしろい。成瀬は大学生になる。フレンドマートにやってくるクレーマー主婦と成瀬の交流が秀逸だと思った。