●10日昼、東京文化会館の大会議室でリッカルド・ムーティのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」記者会見。26年4月26日、29日、5月1日の3回にわたって、ムーティ指揮東京春祭オーケストラによって、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」が上演される(→公演詳細)。演奏会形式ではなく、舞台上演だ。文化会館が改修のため長期休館に入る前の最後のオペラ公演となる。舞台装置と衣裳はトリノ王立歌劇場とパレルモ・マッシモ劇場の共同制作(2022年初演)、演出はキアラ・ムーティ。題名役はムーティが「今イタリアでいちばん興味深い歌手」というルカ・ミケレッティ。合唱は東京オペラシンガーズ。公演の主催は日本舞台芸術振興会、東京・春・音楽祭、日本経済新聞社。
●会見にはリッカルド・ムーティ、鈴木幸一東京・春・音楽祭実行委員長、髙橋典夫日本舞台芸術振興会専務理事が登壇。ムーティはまずは1975年のウィーン・フィル来日公演から始まった日本との関係について語り、「毎回、来日を楽しみにしているのは、聴衆が音楽に本当に集中して聴いてくれるからだ」と述べる。そして「私とモーツァルトの関係はヴェルディとの関係と同じくらい深い。スカラ座やザルツブルクなどで多くの作品を指揮しており、私の人生はモーツァルトの研究に捧げられたと言っても過言ではない。若い音楽家たちにこれを授けたいと思っている」
●ムーティ「ダ・ポンテ3部作は深い意味でイタリア・オペラだと考えている。モーツァルトは完璧にイタリア語を理解していた。レチタティーヴォは奇跡的で、私たちイタリア人がイタリア語を話すのと同じリズムで書かれている。指揮をするにはイタリア語の理解が欠かせない」「モーツァルトのドラマ・ジョコーソには必ず苦みが入っている。オペラのフィナーレはネガティブに終わる。おしまいでワイワイと騒ぐような演出はおかしい。ドン・ジョヴァンニは道化役ではなく、悪の精神を表現している。世界を暗い光で照らしている。でも彼がいなくなると、みんなどうしたらいいのかわからなくなる。ドンナ・アンナはドン・オッターヴィオといっしょになろうと言われて待ってと言い、ドンナ・エルヴィーラは修道院に入ると言い、マゼットとツェルリーナはぜんぜん楽しそうではない。いちばんかわいそうなのはレポレッロ。ドン・ジョヴァンニがいなくなることで、みんなが道を失ってしまう。序曲のニ短調はレクイエムと同じ。『コジ』も『フィガロ』もネガティブな結末を迎える。ちっとも喜劇ではない。『セビリアの理髪師』とは違う」
●1時間の予定の会見だったが、ムーティがたっぷりと語ってくれたので、フォトセッションの時間を省略したにもかかわらず100分以上になった。予定時間を過ぎても質疑応答にずっとムーティが答えてくれたからで、これはビッグネームの会見では珍しいこと。東京春祭オーケストラについては「若いオーケストラのメンバーは本当にすばらしい。私が求めることをすぐに理解して実現してくれる。コンサートマスターは最近、NHK交響楽団のコンサートマスターになったと聞いた。すばらしい音楽家で、彼が指揮者になってくれたらいいと思うほどだ」「今、20代でいくつものオーケストラのポストを持っている指揮者がいる。世の中は変わったと思う。よりよくなったかといえば、そうではない。3つのオーケストラを掛け持ちするのは3つの家族を持つようなもの。何年か前にザルツブルクでベートーヴェンの『ミサ・ソレムニス』を指揮した。この曲を50年かけて勉強した。でも今は25歳の人が指揮している。指揮の世界はこんにち、問題を抱えている。ハイドンやモーツァルトが演奏される機会が減っているのは、それがショーにならないから。マーラーやショスタコーヴィチが人気だ」「モーツァルトとヴェルディには共通点がある。これが私たちなんだという人間的な作品を書いた。心の慰めが必要なときに聴く作曲家はこのふたり。無人島に持っていく楽譜を選ぶなら『コジ・ファン・トゥッテ』、そして『ファルスタッフ』だ」。
September 12, 2025