Books: 2017年3月アーカイブ

March 28, 2017

「未到 奇跡の一年」(岡崎慎司著/ベスト新書)

●昨シーズンのレスター奇跡の優勝を受けて発売された本なんだけど、なぜか見落としていたようで、今頃になって読んだ。「未到 奇跡の一年」(岡崎慎司著/ベスト新書)。実に読みごたえがある。だれひとり予想もしていなかったレスターの優勝が実現し、岡崎慎司がシーズンを振り返る。で、こうして本が出た。そして今シーズン、レスターは優勝争いどころか残留争いをする立場に逆戻りして、ラニエリは解任されてしまった。今、読むからこそ味わい深いってのはあると思う。構成はサッカー・ライターの飯尾篤史さんという方(ワタシと血縁はない……と思う)。構成が抜群にうまい。こういう本のおもしろさは、だれがまとめるか次第。
●岡崎ってレスターとロンドンの両方に家を借りているんすよ。どういうことかというと、レスターにはひとり暮らしの住居があって、ロンドンには妻子の住む家がある。岡崎は試合が終わると、ロンドンに帰って、家族とともにオフ日を過ごして、それから練習のためにレスターに向かうという英国内単身赴任みたいなライフスタイルをとっているのだとか。海外に赴任する人たちの多くが直面する家族の問題が、やっぱりサッカー選手にもある。
●ドイツ時代の岡崎は家族みんなで快適に暮らしていたんだけど、長男がドイツ語を話せず幼稚園で友達がなかなかできず、いつも家で次男や父親と遊んでばかりで、親の立場としては「かわいそうだな」と感じるようになった。で、小学校からは日本の学校に通わせようということで、家族を帰国させ、当初イングランドでは岡崎はひとりで暮らしていた。練習が終わってからの楽しみは、家でオンラインゲームで同じドイツの内田や清武と遊ぶこと。しかしいくらサッカーについて充実した日々が続いていても、ずっと家族と離れたままでは辛いもの。悩んだ末に、子供の教育を考えて家族はロンドン、自分はレスターに住むことに決めたという次第。
●国境を超える選手の移籍って、こういう家族の問題が大変そう。プロ・スポーツ選手は自分の現役時代の姿を子供に見せるためにか、早くから家庭を持つような印象を漠然と抱いていたけど、逆に海外組の選手のなかには「子供が小学校に入る年齢に達する前に(移籍か引退かで)帰国する」ような青写真を描いている人も少なくないんじゃないだろうか。なにせ普通の仕事と違って、どんなに現地で成功してもせいぜい30代半ばで引退年齢に達してしまうわけだし。

March 17, 2017

「天界の眼 切れ者キューゲルの冒険」 (ジャック・ヴァンス・トレジャリー/国書刊行会)

●先日ご紹介した「宇宙探偵マグナス・リドルフ」「奇跡なす者たち」に続いて、国書刊行会から刊行されているジャック・ヴァンスをもう一冊。これが最新刊かと思うが、「天界の眼 切れ者キューゲルの冒険」を読んだ。いやー、これは痛快! 自称切れ者のキューゲルを主人としたピカレスク・ロマン。ろくでもないお調子者であり憎めない小悪党であるキューゲルが、行く先々で騒動を巻き起こす。楽しさという点ではヴァンスのなかでもピカイチでは。
●舞台はヴァンスお得意の「科学が衰退し魔法が効力を持った遠未来の地球」。この一冊だけに関して言えば、特にそういう背景設定がなくても、単純に魔法世界のファンタジーとして成立している気もする。連作短篇集の形をとっており、ひとつひとつのストーリーは完結しているが、全体としては旅と復讐の物語。「宇宙探偵マグナス・リドルフ」でもそうだったんだけど、ヴァンスってイジワルな話が好きなんすよね。登場するのは、笑う魔術師、食屍鬼、ネズミ人間、絶世の美女、巡礼者たち。華麗な異世界描写と底意地の悪いユーモアはヴァンスならでは。幕切れの鮮やかさにも舌を巻く。そこそこ出来不出来のある作家だと思っていたが、この一冊に関して言えば、ぜんぶ傑作なんじゃないかな。
●キューゲルものの短篇はほかにもいくつも書かれているようだが、いずれ翻訳されることはあるのだろうか。ぜひ読みたい。過去に刊行されていたヴァンスの主要諸作品も多くは絶版状態のようだし、新訳で復活してくれないものか。まあ、昨今の出版事情的には難しいだろうけど、この渇望感をどう満たせばいいのやら。

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