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February 7, 2017

「奇跡なす者たち」 (ジャック・ヴァンス著/国書刊行会 未来の文学)

●先日読んだジャック・ヴァンスの「宇宙探偵マグナス・リドルフ」が楽しすぎたので、読みそびれていた「奇跡なす者たち」(国書刊行会)をようやくゲット。こちらは短篇集なのだが、もうなんといったらいいのか、絢爛たる異世界描写にくらくらする。ヴァンスは出来不出来がそこそこ大きい作家だと思うが、最高到達点の高さは尋常ではなく、特にこの本では「月の蛾」(1961)と表題作「奇跡なす者たち」(1958)が突き抜けた傑作だと思う。歴史的名作といってもいい。
●音楽ファンにとりわけオススメなのは「月の蛾」。登場する架空の楽器群がもたらすイメージの豊饒さと来たら。舞台となるのは独自の文化を発展させた異世界で、人々はみな種々の小型楽器を携帯し、会話の際には必ずこれらの楽器による伴奏を添えることと定められている。どの楽器を選び、どんな調子で演奏するかは相手と自分との関係性や状況によって厳密に決まるものであり、この星に赴任してきたばかりの主人公のような外星人にとってはきわめてハードルが高い。しかもこの星では、人前に姿を見せるときは必ず仮面を付けなければならない。素顔を見せるのは恥辱とされるのだ。仮面にはそれぞれに意味があり、付ける者の位を暗示する。仮面や楽器の選択を誤って礼を失すれば命を落としかねないというほど、ハイコンテクストな文化が育まれている。文化人類学ならぬ文化異類学的な設定の妙はヴァンスならでは。おまけに幕切れが実に鮮やか。この短篇は以前、別のアンソロジーで読んだことがあるのだが、今回再読して改めてその巧妙さに唸らされた。
●「奇跡なす者たち」も抜群のおもしろさ。孤立した異世界もので、舞台設定にだけ触れると、この星では呪術が高度に発展しており、戦ではいかに卓越した呪術師を自軍に擁するかが勝敗を分ける。一方、科学やテクノロジーはすっかり退潮し、太古の昔のものとされている。この世界では呪術とは論理的で実証可能な現実であり、科学というのは理論を欠いたいかがわしい秘術とみなされているという逆転の設定が秀逸。
●ヴァンスはもう少し読んでみよう。

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