
●25日は東京芸術劇場で芸劇リサイタル・シリーズ「VS」Vol.10 角野隼斗×ジャン=マルク・ルイサダ。年内締めくくりの演奏会は、話題の師弟共演に。もちろん全席完売。このふたりのピアニストの関係についてはこれまでにもいろいろな場所で語られていると思う。2018年、パリで角野がルイサダのリサイタルのチケットを買い、そこで聴いた演奏に感激して、縁をたどって師事する機会を得た。今回はそのふたりの共演で、連弾も2台ピアノ(向き合う形ではなく横並び)もあり。
●ルイサダがいるので、プログラムは純粋にクラシック。前半は連弾メインでラヴェルの「マ・メール・ロワ」、フォーレの組曲「ドリー」、モーツァルト~バックマンの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、角野隼斗のソロによる即興演奏、後半はルイサダのソロでブラームスの間奏曲op118-2、シューベルトの「ロザムンデ」間奏曲、ブラームスのワルツ集より3曲、以降は2台ピアノでブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」、チャイコフスキー~コチシュの「くるみ割り人形」より「こんぺいとうの踊り」と「花のワルツ」。「ドリー」のみ1stがルイサダ、だったかな。
●連弾という点ではすでに一曲目の「マ・メール・ロワ」が白眉。オーケストラで聴く際の色彩感の豊かさが、連弾であっても違った形で実現している。ものすごくカラフルなのだ。前半の即興演奏の前に角野がマイクを持って短いトーク。即興は「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の主題をベースに、そこにベートーヴェン「月光」など既存名曲が次々と登場して重なり合う離れ技。ここは思い切りはじけて、角野ワールド全開。が、師匠も負けていないのだ。休憩後のブラームスの間奏曲は絶品だったと思う。洗練の極み。アンコールの際のトークでも、ルイサダの茶目っ気が会場を沸かせていた。作品の聴きごたえという点では、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」が圧巻。この曲、オーケストラ版で聴いても思うことだけど、本当に名曲。ダイナミックな第6変奏とか、たまらないんだけど、でも正直ダサい。力んでタメると、さらにダサい。でも角野&ルイサダが弾くとダサくならない。マジかー。
●おしまいの「くるみ割り人形」は予定されたアンコールみたいな雰囲気で、角野が「こんぺいとうの踊り」でトイピアノを用いて本領発揮。そこからさらに本当のアンコールが続いて、コスマの映画「ディーヴァ」より「プロムナード・センチメンタル」、バッハの「神の時こそいと良き時」BWV106、趣向付きの「サンタが街にやってくる」、ブラームスのハンガリー舞曲第6番、もういちど「ハイドンの主題による変奏曲」フィナーレ。9時半をすぎる長い公演になった。
●映画「ディーヴァ」の曲、聴いているときは「あれ、なんだっけこれ、知ってるはずなのに、だれの曲かわからん、サティっぽいけど違う」となったが、後で曲名を知って納得。この曲、新たなアンコールピースとして定着しつつあるのかな。映画もまた観たい……。
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●明日から年末年始の休みになる人が多いと思う。当欄の年末年始は不定期更新モードで。ブロック崩し BACH BREAKOUT、寂しがり屋のクラシック音楽オタク アントンR、ともに引き続きオススメ。
December 29, 2025