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2026年2月アーカイブ

February 3, 2026

「言語化するための小説思考」(小川哲)

●「言語化するための小説思考」(小川哲著/講談社)がおもしろかった。「ゲームの王国」「地図と拳」「君のクイズ」などの人気作で知られる直木賞作家の著者が、小説を書くときになにを考えているかを言語化した一冊。といっても、小説の書き方を指南するのではなく、もっと根源的な部分、小説とはどういうものなのか、文章をいかに書くかというところまで突きつめて考え、言葉にしている。
●どこも刺激的なのだが、たとえば第7章は「『伏線』は存在しない」と題される。よく小説に対して「伏線回収が鮮やか」みたいな評価があるけど、著者は「伏線」という言葉を激しく嫌う。一般論として、伏線とは「その後の展開を暗示する描写」「意外な展開に対する違和感を減らすための描写」と定義される。しかしこれが無意味なのは、小説の骨格そのものが「その後の展開を暗示する描写」と「意外な展開に対する違和感を減らすための描写」で成立しているからだと指摘する。まったくその通りだと思うじゃないすか。でも、本当にびっくりしたのはその先で、

 僕は普段、プロットを作らずに小説を書いているのだが、プロットがないのに小説を書くことができるのは、「書いてしまった文章をいかにして伏線にするか」という倒錯した発想で物語を構築しているからにほかならない。

というくだり。そういえば、以前読んだ「君のクイズ」でも、書き出しの時点ではトリック(って言うのかな)が見つかっていなかったみたいな話を目にした記憶がある。
●それで思い出したけど、スティーヴン・キングが「ストーリーは由緒正しく、信頼に値する。プロットはいかがわしい」って書いていたっけ(→「書くことについて」スティーヴン・キング その2)。ストーリーは化石の発掘みたいに慎重に探し当てるものだけど、プロットは「優れた作家の最後の手段であり、凡庸な作家の最初のよりどころ」だって言うんすよね。おもしろくない? さらにキングは「なんらかの問題意識やテーマにもとづいて書くというのは、駄作のレシピである。優れた小説はかならずストーリーに始まってテーマに終わる。テーマに始まってストーリーに行き着くことはまずない」って言ってるんだけど、これに近い内容のことが本書にも書かれていた。
●あと、金言だと思ったのは、以下の一文。小説だけでなく、あらゆる原稿に対して有益だと思う。

僕が生まれて初めて小説を書き上げたあと、最初にやった推敲は「自分のために存在している文章」をすべて削除することだった。
February 2, 2026

バッハ・コレギウム・ジャパン ベートーヴェンへの道 vol.1

●31日は鈴木優人指揮バッハ・コレギウム・ジャパンで「ベートーヴェンへの道 vol.1」。プログラムは前半がC.P.E.バッハのシンフォニア ト長調Wq.182-1、ベートーヴェンの交響曲第1番、後半がベートーヴェンの交響曲第2番。珍しく声楽なしのBCJ。コンサートマスターに寺神戸亮、第2ヴァイオリンのトップに白井圭、ホルンに福川伸陽、クラリネットにロレンツォ・コッポラ、ティンパニに菅原淳。名手たちがずらり。
●エマヌエル・バッハのシンフォニアは痛快。鈴木優人のチェンバロを中心に小編成のアンサンブルで小気味よく。ベートーヴェンの2曲の交響曲からは、作品本来が備える規格外のやんちゃぶりが伝わってくる。ピリオド楽器でベートーヴェンを聴く機会はなかなか貴重なのだが、やはり表現のコントラストの大きさを感じる。物理的なダイナミクスは小さいはずなのに、感覚的にはむしろ逆に感じるところがあるのが不思議。荒々しい部分としなやかな部分、透明感のある響きとざらりとした粗い質感の対照、さらにはテンポや音色など至るところで強烈なコントラストが仕掛けられていて、次から次へと大小さまざまなイベントが発生する。自分が当時の聴衆だったら、初めて聴いてこれを味わえたか、まったく自信がない。交響曲第1番の冒頭からして「途中から始まってる」感が半端ない。とくに美しいと思ったのは交響曲第2番の第2楽章。この楽章の目的地が定まらないまま漂泊するような雰囲気が好き。
●交響曲第2番の終楽章で熱いクライマックスを築いた後、カーテンコールがあり、アンコールで同楽章の後半をもう一度。こういった本来のアンコール、つまり本編の一部をもう一度演奏するのは楽しい。ぐっとはじけた自由な指揮ぶりはアンコールならでは。
●東京オペラシティが休館中のため会場がサントリーホールだったが、9月のシリーズvol.2はオペラシティに戻る。次は交響曲第3番「英雄」とケルビーニのレクイエム ハ短調。

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