●東劇でMETライブビューイング、リヒャルト・シュトラウス「アラベッラ」を観る。オットー・シェンクによる伝統的な演出。俊英ニコラス・カーターの指揮で、題名役はロール・デビューとなったレイチェル・ウィリス=ソレンセン、マンドリカにトマシュ・コニエチュニー、ズデンカにルイーズ・アルダー、マッテオにパヴォル・ブレスリック、ヴァルトナー伯爵にブリンドリー・シェラット。さすがのMETで充実の歌手陣。とくに印象的だったのはマンドリカのトマシュ・コニエチュニー。英雄的で高貴で、でも土の香りのする人物像を表現する。このオペラをマンドリカの物語として堪能。表から見るとアラベッラのロマンスだけど、裏から見ると田舎紳士ファンタジーなのだった。
●映像であれ実演であれ「アラベッラ」を観たのは久々だったので新鮮な気持ちで楽しんでしまった。音楽もテキストも超高密度。シュトラウスの音楽は「ばらの騎士」と同様に真に陶酔的で精緻。さすがに映画館の音響設備でそのすべてを再現することはできないとはいえ、METオーケストラの精妙なサウンドをたっぷり楽しめる。幕間のインタビュー映像で指揮のニコラス・カーターを推していた。あと、第1幕のヴィオラ・ソロを受けて、幕間インタビューに首席ヴィオラ奏者が出てきた。稀有な例。
●「ばらの騎士」を観ると、自分の心のなかにオックスも元帥夫人もいることに気づくが、「アラベッラ」の場合は自分のどこを探してもアラベッラもマンドリカもいない。そんな高貴な人物、いない。いるとしたら、ヴァルトナー伯爵かな。大事な話をしているのに、カードゲームに戻りたくてしょうがない、かと思えば決闘騒ぎを引き起こす。
●ズデンカは「ズボン役」と呼びたくなるが、男装をしているだけで本当は女性という設定なのだから、そうは呼べない。「半ズボン役」か。
●「アラベッラ」の台本は第1幕の入念な歩みと比べると、第2幕と第3幕はやや駆け足気味になっていると感じる。
February 6, 2026