
●8日はサントリーホールでミシェル・タバシュニク指揮新日本フィル。スイス出身のタバシュニクは83歳。昨年、ブロムシュテットがN響を振った際の一公演(ストラヴィンスキー「詩篇交響曲」&メンデルスゾーン「讃歌」)で、タバシュニクはカバーコンダクターを務めていた。90代の巨匠を80代の巨匠がカバーする驚異の世界線。幸いに出番はなかったわけだが。
●で、そのタバシュニクが新日本フィルの定期に登場。プログラムはラヴェルの「ラ・ヴァルス」、ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番(アンドレイ・イオニーツァ)、ブラームスの交響曲第2番。モダンな音楽を得意とする人という印象があったので、きっと鋭利で即物主義的な音楽を作り出すのだろうなと想像していたら、ぜんぜん違う方向性のアプローチでびっくり。最初の「ラ・ヴァルス」からして濃厚な表現だったが、白眉はなんといってもブラームス。全編にわたって伸縮自在のテンポ設定で、思い切りリタルダントしたかと思いきや、急加速で突進するなど自由自在。全体の傾向としては遅いところはより遅く、速いところはより速く。これは「変態演奏のおもしろさ」に留まるものではなく、きわめて説得力のあるブラームスで、きっと19世紀の指揮の芸術ではこういった主観的表現や大胆なテンポ操作が駆使されていたにちがいないと思わせてくれる。息の長いフレージングで横に大きな流れを作り出す様子も印象的。客席の反応も上々で、驚きと興奮が伝わってくる。特大ホームランが出た、という感触。
●ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番でソロを務めたアンドレイ・イオニーツァは久々。余裕を感じさせる技巧。アンコールは現代スウェーデンの作曲家、スヴァンテ・ヘンリソンの「ブラック・ラン」という超絶技巧特盛の曲。鮮烈。
May 11, 2026