
●18日はサントリーホールでスザンナ・マルッキ指揮都響。実はワールドカップ対応で2週間ほど演奏会の予定を入れていなかったのだが、あとは決勝戦を待つばかりなので、そろそろ通常営業へ。プログラムがおもしろい。前半はデュカスのオペラ「アリアーヌと青ひげ」第3幕への前奏曲、拍手を入れずにつなげてドビュッシーの「夜想曲」より「雲」「祭」、後半はバルトークのオペラ「青ひげ公の城」演奏会形式(ジョン・レリエのバス、シルヴィア・ヴェレシュのメゾソプラノ)。これは「青ひげ」プログラムなのだ。ドビュッシーの「夜想曲」は本来なら全3楽章で、「雲」「祭」の後に女声合唱入りの「海の精」が続くわけだが、マルッキはデュカスの「アリアーヌと青ひげ」第3幕への前奏曲の後にドビュッシーの「雲」「祭」をつなげて、全3楽章の曲のように仕立てた。こうすると、おしまいは「祭」で盛大に終わるのも好都合。なんだかハッピーエンドの「青ひげ」が誕生した感。いや、実際ペローの童話の「青ひげ」は、シリアルキラーの青ひげが最後に殺されてハッピーエンドなわけだが!
●後半はバルトークのオペラ「青ひげ公の城」。もともとオペラといっても演技らしい演技がほとんどない作品で、一幕もの、クライマックスのオーケストラは壮絶ということで演奏会形式にはぴったり。マルッキが都響から引き出すサウンドは逞しく硬質な質感による精緻な細密画。バスのジョン・レリエは最初の一声からぐっと引き込まれる深い声でノーブル、シルヴィア・ヴェレシュも強い声から柔らかい声まで用いて起伏に富んだ表現。非常に高水準の上演。
●で、バルトークの「青ひげ公の城」だが、前半との対比も効いていて、この作品で描かれる青ひげ公というキャラクターの独自性が際立っていたと思う。この人、青ひげなんだけど青ひげじゃないというか。もともとの物語の肝として、開けてはいけない扉を開けるという禁忌があると思うんだけど、バルトーク&バラージュの「青ひげ」は最初から開ける気マンマン。最後の扉も「押すなよ!絶対押すなよ!」みたいな感じで、開けますよ宣言している。じゃあ、青ひげはなにをしてるかといえば、「コレクションの開陳」。この話は孤独な男の暗いロマンの体裁を借りて、男のコレクター気質を描いている。武器だ、宝物だ、庭園だ、領土だとコレクションを見せて、最後の扉に陳列されているのは女。ユディットはコレクション完成のための最後の一ピースとして、そこに収納される。青ひげは恋愛プロセスをすっ飛ばして、出会った女を即アーカイブ化する男。でも女たちは死体じゃなくて「生きている」って言うんすよね。コレクションの蝶をピン留めしているイメージなんだけど、それだと生きているとは言えないから、どういう状態なのかな……。「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」のハン・ソロみたいにカーボン凍結されてるとか? ユディットはユディットで収納されて上等という崖っぷちを全力疾走する女。これは暗黒の「割れ鍋に綴じ蓋」なんだと思う。
July 18, 2026