ドミノ・ピザ
August 12, 2010

「インセプション」(クリストファー・ノーラン監督)

インセプション●映画「インセプション」、あまりにもすばらしいので2回も映画館で観てしまった。クリストファー・ノーラン監督作品としては「メメント」以来の傑作。というか、初期の「メメント」や「インソムニア」で扱ってきた現実と夢・虚構、真実と記憶・物語との境界といったテーマが、ディカプリオ主演の(制約が多いであろう)大作映画の枠組みの中でこれだけ表現できているということに驚嘆。「ダークナイト」や「プレステージ」も悪くなかったけど、「メメント」のインパクトに匹敵するのはこの「インセプション」だろう。
●でも予告編だけ見るとスゴくつまらなさそう(笑)。ネタバレを避けた範囲で言うと、これは人と人が夢を共有できるという設定で、他人の夢の中にある特定の概念を植えつけようとする話。これは現実の体験としても納得できると思うが、夢の中では時間の進行が現実より20倍ほど遅い(いや速いというべきか)。10分の睡眠でも、夢の中では200分の出来事が起こる。夢の中でも人は痛みを痛みとして感じるが、夢で死ぬと現実に戻る(つまり目が覚める)。「メメント」では「記憶を10分しか保持できない記憶障害の男」というアイディアがあったが、今回は「夢の共有」なのだ。夢の中でも人は喜んだり悲しんだりできる。あまりに鮮烈な夢を見てしまい、はっと目が覚めたときに、一瞬現実認識が揺らいでしまうことがある。夢の中でもワタシは生きていたはずだ。夢と現実の境界はどこにあるのだろう。胡蝶の夢みたいな世界で、チームはミッションに挑む……。
●で、紹介はここまでということにして、ここからはネタバレだ。以降、未見の方はご注意を。
●夢の中では現実とは時間の流れが異なる。この設定が「夢の中の夢」というアイディアに生きてくる。現実(飛行機の機内)を第0層とすると、夢の第1層(車の中)、夢の中の夢の第2層(ホテル)、夢の中の夢の中の夢の第3層(雪山)、そして予定外に主人公コブとアリアドネ(っていう名前なんすよ、迷宮の案内役なので)が入り込んだ夢の中の夢の中の夢の中の夢である第4層(海岸沿いの崩落する世界)、虚無(リンボー、忘却界)がある(第4階層とリンボーは同じなのかもしれないが)。
●ラストシーンの解釈に悩む。リンボーで年老いたサイトウが、彼を助け出すためにやってきたコブと対面し、銃を手に取る。そこから一気に第0層の機内へと戻り、コブはハッと目を覚ます。チームは無事にミッションを果たし、コブはついに子供たちと会うことができてハッピーエンドを迎える。最後に、今いる場所が現実か夢かを判定するための「トーテム」がクルクルと回る。これが回り続ければここは夢だが、倒れるなら現実だ。一瞬トーテムは揺らぐが倒れるには至らないところで幕切れとなる。
●最初に見たときは「あ、これは倒れないんだな、つまりこれもまた夢なのだな」と解した。コブはミッションに失敗し、夢の深い場所から抜け出せず、現実界ではきっと機内で魂の抜け殻のようになっている。でも彼は幸福を手にしたわけだ。かつて妻モルとともに夢の中で幸せに老いたように。現実だろうと夢だろうとなにが違う? いや待て。これは確かにリンボーから第0層へと戻ったのかもしれない。戻った上で、実は第0層も現実ではなく夢だったのかも。最初からどこにも現実はなく、現実と思われたものは第n層で、そうからn+4層までもぐったのではないか。そもそも死なない限り夢と現実の区別が付かないのであれば、両者を区別することになんの意味があるのだろう。子供だって実在してないんじゃないの?
●でも2回目に見て気づいたんだけど、トーテムが倒れるシーンで同じ画面内に子供たちはいたから、彼らは実在なんすね。少なくとも話の約束上、この場面は現実。ラストのトーテムも回り続けてはいるけれど、微妙に揺らいでもいる。やはりこれは現実に戻ってハッピーエンドを迎えたとも思えるし、そのほうが筋はよく通る気もする。もちろんどちらとも取れるように描かれているのであって、現実/夢の両義性が表現されている。
●「現実/夢」の裏側にうっすらと「老い」というテーマも含まれている。薬の調合師の場面で眠っているたくさんの老人たちの姿があった。彼らは夢を生きている。主人公ゴブとモルも夢の深層でともに年老いた。そこから列車を使って(ヤなシーンだねえ)現実に戻り、絨毯の上で目覚める場面がとても印象的だ。あのとき、二人は老いた精神のまま若い肉体を取り戻しているわけだ。モルは物語上はインセプションにより夢と現実の境界を見失ってしまったわけだが、もう一度生き直すことに倦んだのだとしても不思議はない。
●モルは美しいけど怖い。なにもしてなくても怖いし、包丁を持ってる場面なんてどんなホラー映画より怖い。「男同士は分かり合えるけど、女は永遠にわからないし恐ろしい」というハリウッド映画おなじみの女性嫌悪。モルは夢の中に勝手に出てきて暴れる。お前は「エルム街の悪夢」のフレディかよっ!
●ワタシもなにか自分自身のトーテムを持っておいたほうがいいかな。アリアドネはチェスの駒を自作してたっけ。何を使うにせよ、ケータイのストラップに付けておくのが便利そう。あるいは万歩計と併用できるのがいいか。万歩計付きトーテムみたいな。

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