ドミノ・ピザ
March 29, 2011

トラクター工場で労働に励むハチャトゥリアン

ロング・グッドバイ ●レイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」(村上春樹訳/ハヤカワ文庫)で、主人公フィリップ・マーロウがハチャトゥリアンを聴く場面がある。

 しかし眠れなかった。午前三時半に部屋を行きつ戻りつしながら、ハチャトゥリアンがトラクター工場で労働に励む様子に耳を済ませた。彼はそれをヴァイオリン協奏曲と称していたが、私としては「緩んだファンベルトと、それがもたらす苦悶」とでも呼びたいところだ。

●うーむ、「トラクター工場で労働に励む様子」ってのはなかなか出てこない表現っすよね(笑)。しかしこれはどう解釈すればいいんだろう。文字面だけを見ると、ハチャトゥリアンの曲が尖鋭で潤いに欠けた殺伐とした音楽であるかのように読めてしまう気もするが、実際にはむしろ逆でかなり保守的な音楽だ。ただ、「ロング・グッドバイ」は1953年の刊行。ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲は1940年の作品なので、当時としては「現代の音楽」の範疇に入るとは思う。ちゃんと半世紀以上経っても作品が残っている現代曲を選んだという意味では偉い(チャンドラーが)。
アイ・アム・レジェンド●前にもゾンビ連載で少し触れたけど、その点では「アイ・アム・レジェンド」(旧題「地球最後の男」のほうが有名か)のリチャード・マシスンもすごい。1954年の小説で主人公にレナード・バーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」を聴かせている。「不安の時代」は1949年の作品なんだから、完全に同時代の音楽だ。この時代に録音はあったんだろうか……あったんだな、作曲者自作自演盤が。その後、この曲は作曲者以外の指揮者によってなんども録音されているし、「作曲家バーンスタイン」の存在感は人気指揮者として活躍していた存命中よりむしろ死後のほうが高まっているようにも見えるので、リチャード・マシスンは慧眼だったといわざるを得ない。
●今ベストセラー作家が同じように近年の音楽作品を小説中に登場させようと思ったら、どの曲を選ぶだろうか?

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