January 10, 2020

バレリア・ルイセリ「俺の歯の話」(白水社)

●(一昨日から続く)もう一冊は新刊でバレリア・ルイセリの「俺の歯の話」(松本健二訳/白水社)。メキシコ出身ながらスペイン語と英語の両方で小説を書く著者による、パチューカ生まれの競売人のささやかな成功と失敗を描いた物語(パチューカといえば本田圭佑が一時期所属していたクラブだ)。歯小説であり収集癖小説でもありアートギャラリー目録小説でもあるという、まったくオリジナルな作品。中南米出身の作家に対して期待されるような、ローカル色豊かな小さな逸話の集積にもたしかにおもしろさがあるのだが、筆致は至って現代的で、アメリカから遠くに眺めるスペインの風景といった感。いくぶん都会的な線の細さも漂う。
●著者はてっきり男性だと誤解して読んでいたが、途中で(名前が示すように)女性だと気づいて軽く驚く。スペイン語と英語を自在に行き来する著者だが、自作をスペイン語から英訳する段階で大幅に改稿され、翻訳が再創造になるという創作プロセスが興味深い。
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●お知らせを。東京・春・音楽祭のサイトに拙稿掲載。毎年短期連載させてもらっているコラムで、昨年のシェーンベルクに続いて、今年はベートーヴェン。「友達はベートーヴェン」第1回「運命はかく扉を叩くvs鳥のさえずり」。ご笑覧ください。

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