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June 21, 2022

「本当の翻訳の話をしよう 増補版」(村上春樹、柴田元幸著/新潮文庫)

●積読状態になっていた「本当の翻訳の話をしよう 増補版」(村上春樹、柴田元幸著/新潮文庫)を読む。実はこの本の内容をワタシは勘違いしていて、以前にここでご紹介した「翻訳教室」(柴田元幸著)みたいな翻訳技術についての本だと思い込んで買ってしまったんである。が、中身は主に翻訳小説についての対談だった。それでもとてもおもしろく、ためになったのでなんの問題もない。ここで取り上げられている小説を読みたくなってくる。
●なるほどと思った村上春樹の言葉。「翻訳のコツは2回読ませないことで、わからなくて遡って読ませるようじゃ駄目だと僕は思っていて、2回読ませないということを一番の目的にして訳しているところはある」。世の翻訳書には2回どころか、何回読んでも意味がつかめないものもあるわけで、読む側としてはありがたい話。
●あとカーヴァーに「アラスカに何があるというのか?」という小説があると知って、あ、村上春樹の「ラオスにいったい何があるというんですか?」はそこから来てたのか!と今頃気づいた。
●で、この本を読んで、いちばん気になったのはジョン・チーヴァー「巨大なラジオ/泳ぐ人」をめぐる章で、この短篇集はぜひ読んでおこうと思った。ところが思っただけで、しばらく放っておいたのだが、たまたま若島正著「乱視読者の英米短篇講義」のKindle版がセールになっていたのを見かけて、あわてて購入した。すると、この本でもジョン・チーヴァーについてかなり力の入った紹介がされていて、なかでも「郊外族の夫」をナボコフが傑作短篇ナンバーワンに選んでいるというのではないの。なんというシンクロニシティ。これはもうチーヴァーを読むしかない。短篇集「巨大なラジオ/泳ぐ人」では、「郊外族の夫」は「カントリー・ハズバンド」の訳題で収められていた。この話、飛行機の緊急着陸という大騒動で始まるのに、そんな事件があっさりと日常に回収されるという風変わりなエピソードが冒頭に置かれていて、どうやらそれが話の本筋と相似形をなしている。(つづく、かも)