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May 9, 2025

「わたしたちの怪獣」(久永実木彦)

●最近読んだ小説のなかで抜群におもしろいと思ったのが、「わたしたちの怪獣」 (久永実木彦著/創元SF文庫)。4篇からなる短篇集だが、すべてが傑作だと思った。表題作「わたしたちの怪獣」では、父と姉妹の3人家族の間に起きたある事件と、東京湾に巨大怪獣が出現する災厄が交叉する。怪獣はしばしば自然災害のメタファーとして描かれるが、ここでは怪獣に父の姿が投影される。学校の国語の教科書に載せるべき怪獣小説の金字塔だと思う。
●表題作だけでも秀逸なのだが、さらに気に入ったのが「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」。タイムトラベルが実現した未来で、起きてしまった災害や事故をなかったことにするために時間局が設立され、主人公はその職員として働いている。過去を改変して、災害や事故を未然に防ぐのだ。古典的な物語なら主人公はヒーローだが、この物語での時間局の職員は誰にでもできる仕事をこなす底辺労働者でしかない。労働者小説でもあり、純然たる時間SFでもある。未来から現在に戻る際に、個室トイレのような仕切られた小空間が必要という設定がおかしい。
●「『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を観ながら」はゾンビ小説。真っ赤な頭のゾンビたちが豊島区方面から走ってくる。全力疾走するタイプのゾンビだ。「ゾンビ」映画の古典、ジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」では主人公らはショッピングモールに留まるが、この小説では映画館に立てこもる。

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