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August 15, 2025

「刑事コロンボとピーター・フォーク その誕生から終幕まで」

●これは驚きの一冊。デイヴィッド・ケーニッヒ著「刑事コロンボとピーター・フォーク その誕生から終幕まで」(町田暁雄著/白須清美訳/原書房)。ミステリドラマの大傑作、「刑事コロンボ」シリーズがいかにして誕生し、ひとつひとつのエピソードがどう作られたかをたどる。著者はもちろん「刑事コロンボ」の大ファンであるわけだが、秀逸なのはこれがファンブックにはなっておらず、丹念な取材と一次資料をもとにひたすら事実を追いかけているという点。よくもまあ、ここまで個々のエピソードの成立を克明に追いかけられたものと感心するばかり。自分はごく普通の「刑事コロンボ」好きであって、熱心なファンとは言えないが、それでも読みだすと止まらなくなる。
●とくに一本一本を作る制作過程が興味深い。この業界ではそれが常識なのかもしれないけど、だれかのメモ書き程度のアイディアから始まって、脚本家が書いて、別の脚本家が書き直して、脚本家じゃないだれかが書き足したり削ったりして、長いプロセスをたどって撮影まで行く。と思えば、撮影現場でさらに書き直しがあったり。だれをプロデューサーにするのか、監督はだれを雇うのか、キャスティングはどうするのか、音楽をだれにするのか、人の出入りが激しい。最初期にスティーヴン・スピルバーグが一回だけ監督を務めているのは有名な話だけど、いろんな人がやってきては去ってゆく。でも、コロンボ役のピーター・フォークだけは変わらないし、変えられない。
●で、誕生した当初は「刑事コロンボ」は原作者のリチャード・レビンソンとウィリアム・リンクのものだったと思う。それが進むにつれて、ギャラの高騰とともにピーター・フォークのものに変わってゆく。途中からはピーター・フォークが全権を握って、気に入らないシーンがあれば何度でも撮り直し、製作費も膨れ上がってゆく。スタイルを確立し、ファンが定着し、勢いのある時代が続いた後は、ゆっくりと下り坂を降りていく。終盤の作品はあまり記憶に残っていないんだけど、ある頃からコロンボの老いが目立ってきたのは覚えている。かつての盟友たちが次第に引退し、人が少しずついなくなり、やがてピーター・フォークが取り残されるような雰囲気になるのが味わい深い。
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