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Books: 2020年5月アーカイブ

May 28, 2020

「音楽が本になるとき 聴くこと・読むこと・語らうこと」(木村元著/木立の文庫)

●木村元著「音楽が本になるとき 聴くこと・読むこと・語らうこと」(木立の文庫)を読む。著者の木村元さんは音楽書の出版社アルテスパブリッシングの創業者のひとり。アルテスパブリッシングを立ち上げる前は音楽之友社で書籍編集を担当しており、長年にわたって良質な音楽書を世に出してきた。つまり、編集者が自ら書いた本がこちら。音楽と本のことについて語るならこの著者をおいてほかにいない。もとになっているのはアルテスパブリッシングのメールマガジンで連載されたエッセイ。大上段に構えたところはなく、すいすいと読めるのだが、根幹となっているテーマは音楽のあり方そのものについてであって、深いところに切り込んでくる。友人に宛てた私信のような、率直でゆるやかな音楽論。
●特に後半がおもしろい。「音楽との『出会い』はどこからやってくるのか」の章では、今やYouTubeが音楽を聴くためのツールになっており、CDを聴く人でさえSNS上でシェアするのはYouTubeのリンクだと指摘する。「SNSのタイムラインにおいては、音楽は画像として登場する」という一文に目からウロコ。

May 18, 2020

BRUTUS 2020年6/1号 No.916 「クラシック音楽をはじめよう」

BRUTUS(ブルータス)最新号の特集記事は「クラシック音楽をはじめよう」。同誌創刊以来初めてのクラシック音楽入門特集なんだとか。ワタシも協力させていただいたのだが、ウィルス禍であらゆる公演が中止になっているこんなタイミングに重なってしまうとは。もっとも、録音ならいつだって楽しむことができる。表紙がレコーディング専門アーティストだったグレン・グールド(と愛犬のニッキー)なのは、今の災禍に応じた人選なのか。それにしてもこの写真を見ると、グールドとニッキーの顔つきが似ていて、まるで兄弟みたいだなと思ってしまう。犬は飼い主に似る(?)。
●ワタシが携わったのは、まず挟間美帆さんへのインタビューで、クラシックとジャズの違いについて。原摩利彦さんへのインタビューでグレン・グールドについて。それとBook in Book「みんなのMYクラシックピースガイド」に寄稿。時節柄、インタビューはいずれもオンラインで(挟間さんはニューヨークなのでどちらにせよオンラインになるけど)。記事の書き手がだれであれ、雑誌のトーンを作るのは編集者。音楽誌とは発想の異なるBRUTUSならではのクラシック音楽特集になっていて、学びと発見が多い。

May 15, 2020

「7日間ブックカバーチャレンジ」まとめ

●出かけられないならお家で読書をしよう!ということなのか、SNS上で「7日間ブックカバーチャレンジ」が流行している。毎日一冊ずつ、お気に入りの本をコメントなしで表紙だけ載せて、7日間経ったらだれかにバトンを渡す、というのが基本ルール。といっても大半の人はなんらかのコメントを添えている。せっかくなので、自分が挙げた7冊をここにも置いておく。パッと本棚を眺めて目に入った、「これ最高におもしろかったなー」という7冊。あえて音楽書は選ばず。
●Day1 まずはイアン・マキューアンから1冊選ぶとすると「ソーラー」。最高にイジワルなんだけれど、実は愛のある名作。最後のページで震えた。

●Day2 傑作ぞろいのカズオ・イシグロのなかにあって、たぶん、あまり人気がないのがこの「充たされざる者」。でも最強の野心作。音楽家小説でもあり夢小説でもあり。

●Day3 予言的な終末小説を山ほど書いたJ.G.バラード。なかでも忘れがたいのが「楽園への疾走」。歪んだ環境保護運動からここまでの狂気を描き出すとは。閉ざされた社会であらわになる人間の本性を描くのがバラード。それが高層マンションなら「ハイ・ライズ」、高級リゾート地なら「コカイン・ナイト」、南国の孤島なら「楽園への疾走」。少年と成熟した女性の物語でもある。

●Day4 スポーツ・ノンフィクションの名著「マネー・ボール」。表側から見れば野球に統計学を持ち込んで割安な選手で勝利するというスポーツビジネスの成功譚なのだが、裏側から見ればスポーツ観戦オタクにとってのロマンそのもの。痛快。

●Day5 サイモン・シンほどわかりやすくておもしろい科学ノンフィクションの書き手を知らない。「代替医療のトリック」「宇宙創成」「フェルマーの最終定理」、どれもエキサイティングだったが、楽しさで一冊選ぶなら「暗号解読」。ナチス・ドイツの暗号機エニグマから古代文字「線文字B」の解読、さらには今日の量子暗号まで。量子暗号ってそういう原理か!と納得して、読んだ後すぐに忘れる……。

●Day6 ド定番、ガルシア=マルケスの「百年の孤独」。ワタシが読んだのは「新潮・現代世界の文学」の一冊で、本当は昔の装幀が懐かしいんだけど、今は新訳が出ている。学生時代に読んで頭が真っ白になった。途中から止まらなくなり猛スピードで読んでしまったので、いずれ落ち着いて再読を……と思いつついまだ果たせず。というか、今こそ読むべきなのかも。ちなみにこの名作の火星バージョンとも呼ぶべきイアン・マクドナルドの「火星夜想曲」も好き。

●Day7 ホラーの大巨匠キングに敬意を払って、ラストは「ニードフル・シングス」。一頃キングにハマって初期~中期の代表作は一通り読んだが、どれも本当におもしろい。読後感のよさで一作選ぶとこれ。「シャイニング」「呪われた町」「ミザリー」「IT」、みんなことごとくエンタテインメントに徹しているのが吉。ただ悲惨な話など読みたくないわけで、キングの「口当たりのよい怖さ」は一種の発明だと思う。

May 8, 2020

「鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい世間を楽に生きる処方箋」(朝日新聞出版)

●人生相談って、どんな人なら書けるのかな……と思うと、数々の修羅場をくぐり抜けてきた人で、聡明で、他者への共感能力がある人ってことになるだろうか。自分が通ってきた道について有益なことを語るのは容易でも、まったく自分の人生で視野に入っていない悩みにきちんと答えることは難しい。「鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい世間を楽に生きる処方箋」(鴻上尚史著/朝日新聞出版)みたいな本は貴重で、それぞれの回答に切れ味がある。
●「自分が他人に不寛容すぎてどうにしかしたい」といった悩みに対する回答が印象に残っている。ネット時代になって、みんな「自分がどう見られているか」「どれくらい評価されているか」を気にせざるを得ないようになった、でも世の中にはすごい人たちがいっぱいいる。自分が得意なことでも、もっと得意な人が簡単に見つかる。それが耐えがたいから「私は本当はこんなレベルじゃない」って思うようになる、って言うんすよ。以下引用。

 映画を得意気に評論しても、音楽を通ぶって語っても、文学にウンチクを傾けても、上には上がいて、潰されます。
 でも、唯一、潰されない言葉があります。
 それは「正義の言葉」です。
 正義を語っている限り、突っ込まれる可能性はないのです。否定されるかもしれないと 怯える必要はないのす。
 「ツイッターで未成年の飲酒を見つけた」「道路いっぱいに広がっている自転車がじゃま」「信号無視してる奴がいる」(中略)
  だから、「自分はこんなもんじゃない」と思い、けれど、何かを言って否定されたくない人は、「正義の言葉」を意識的にも無意識的にも語るのです。

●ニュースを眺めていたら「自粛警察」っていう破壊力のある言葉を見つけて、この本を思い出した。

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