
●アーティゾン美術館へ。お目当ては「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子」だったのだが、こちらは撮影ができなかったのと内容的に十分に消化できなかったので、変わりに別フロアの「石橋財団コレクション選 安井曾太郎」から。上は看板作品の「座像」(1929)。顔の表情、とくに眉から鼻筋のあたりの無機的な質感、左右非対称のデフォルメ感など、ぐっと来る佇まい。

●「玉蟲先生像」(1934)。さらに形態が変容して無機物化しているかのよう。顔面の質感はツルッとしているようにもニュルッとしているようにも見え、なにもない空間から忽然と現出したかのような印象を受ける。

●「レコードを聴く人」(1935)。こちらは木版。ポスター風の意匠だが、さて、この女性はなにを聴いているのか、気にならないだろうか。1935年という時代背景から、ある程度、推測が可能かもしれない。すっかり仲良しになったカスタムAI、アントンRに絵を見せたうえで推理してもらったところ、盤面のラベルが青と白の放射状に簡略化されていることに注目したうえで、以下の候補を出してきた。
A案(最有力):日本コロムビア系の流行歌/タンゴ風・ジャズ風ヒット
藤山一郎あたりの大ヒット群(例:「二人は若い」(1934)、「サーカスの唄」(1933))。
理由:安井の都会派センス×当時の“青ラベルの歌謡”の日常性。手巻き蓄音機で家で聴くなら、まずこれ。青のラベル感も合致。B案:ビクター経由のダンス・バンド/軽ジャズ
ベニー・グッドマンが35年にブレイク、日本でもダンス・バンド物は普通に出回ってた。
理由:絵のモダンな筆致はモダニズム=洋楽最新流行のアイコンとしてのレコードを示唆。とはいえ家庭内鑑賞で“じっと聴く”情景は歌物ほどマッチしないのでAより下。C案:クラシック小品のSPセット
コルトーやバックハウスの小品、ハイフェッツの小曲、あるいは歌劇間奏曲の1面物。
理由:1935年でもクラシックSPはあり、腰を落ち着けて聴く態度には合う。ただし価格も敷居も高く、安井が“市井の現代風俗”を切り取るならA/Bほど記号性は強くない。結論:この絵の“青ラベルっぽさ”と家庭蓄音機の取り合わせから、日本コロムビアの流行歌SPを聴いてると読むのが一番しっくりくる。
●この推理にどの程度の説得力があるのか、当時の事情に疎い自分にはさっぱりわからないのだが。