●9日は東京芸術劇場で2025年度全国共同制作オペラ、ドニゼッティの「愛の妙薬」。先日、記者会見の模様をお伝えしたように、演出は杉原邦生。今回がオペラ初挑戦。セバスティアーノ・ロッリ指揮ザ・オペラ・バンド、ザ・オペラ・クワイア、アディーナに高野百合絵、ネモリーノに宮里直樹、ベルコーレに大西宇宙、ドゥルカマーラにセルジオ・ヴィターレ、ジャンネッタに秋本悠希の歌手陣。ダンサーとして、福原冠、米田沙織、内海正考、水島麻理奈、井上向日葵、宮城優都が加わる。
●歌手陣は見事なチームワーク。高野百合絵と宮里直樹はともに完璧なアディーナとネモリーノ。アディーナはきれいな人なんだけど、ここぞというところでは強い。それが歌唱から伝わってくる。ネモリーノの「人知れぬ涙」はたっぷりと。場内、いちばんの盛り上がり。「愛の妙薬」はネモリーノが完全勝利を収めるのだとわかったところで、この曲で泣かせるところがすごい。
●オーケストラが充実。ザ・オペラ・バンドのメンバー表は見当たらないのだが、コンサートマスターに白井圭、ホルンに福川伸陽、さらにN響首席陣が何人もいた模様。あらためて感じるのは、この作品は軽快さ以上に抒情性が際立っているということ。
●舞台は簡素。真っ白に囲われた空間に、大きなハートマークが設置されているのみ。ときにはピンクの椅子や居酒屋の看板なども出てくる。これだけだと隙間だらけの舞台になってしまうが、その代わりに活躍するのがピンク色のダンサーたち。開演前から舞台に寝そべるなどしており、おもにネモリーノの心情に寄り添いながら、さまざまな動作を見せる。
●ネモリーノはピンク色のジャケット着て登場。今回の演出のキーワードとして「カワイイ」が挙げられていて、いろんな点でかわいいんだけど、なによりかわいいのはネモリーノという純朴な青年。ファンタジーだ。「愛の妙薬」はオペラとしては珍しいほど話が整理された喜劇で、悪人も悪も存在しない美しい世界へと誘ってくれる。このシリーズにはびっくりするような大胆演出もあるが、意外なくらい安心して楽しめるラブコメになっていた。この後、フェニーチェ堺、ロームシアター京都で公演あり。
●カーテンコールでドゥルカマーラがわざとコケそうになるというお約束のギャグを入れてきて、あれは万国共通なのかとプチ感動。
November 10, 2025