
●4日はサントリーホールファビオ・ルイージ指揮N響。プログラムは藤倉大「管弦楽のためのオーシャン・ブレイカー~ピエール・ブーレーズの思い出に~」(2025/N響委嘱作品/世界初演)、フランクの交響的変奏曲(トム・ボローのピアノ)、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」。藤倉大の「オーシャン・ブレイカー」は雲の本にインスピレーションを受けたという作品。光を反射してきらめく響きの海をたゆたうような作品で、波あるいは雲に身を任せるように聴く。フレッシュな響き。オーケストラには名技性も求められ、洗練された音色と音の運動性に妙味。作曲者臨席。15分ほどの作品。
●フランクの交響的変奏曲は今やめったに演奏されない作品になっているが、15分ほどの曲尺が中途半端で現代のコンサートのフォーマットにはめづらいという点もあるのだと思う。その点、この日はぴったり前半に収まる。この一曲のためにイスラエル出身の新鋭、トム・ボローが出演。渋い味わいがあり、ピアニストが映えるタイプの曲ではないが、本来はスター性のあるタイプか。アンコールにバッハ~ラフマニノフ編の無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番よりガヴォット。明瞭で輝かしい。
●後半のサン=サーンス「オルガン付き」は壮麗さと情熱をあわせもった名演。これまでに聴いたこのコンビの演奏で最上の体験。とくにしなやかでキレのある弦がすばらしい。第1楽章前半からうねるような響き。コンサートマスターは川崎洋介。ルイージと同期して、腰を浮かせながら熱くリードする。白眉は第1楽章後半のアダージョか。オルガンは近藤岳。第2楽章後半は必ず盛り上がる鉄板のクライマックスともいえるし、同時に必ずいくらかの空虚感を残す音楽ともいえる。そこが好き。拍手はすぐに収まりかけたが、やがてふたたび高まってルイージのソロ・カーテンコールに。
●世間的には些細なことだが、この曲には「表記の揺れ」問題がつきまとう。大方の音楽誌は「サン=サーンス」の「オルガン付き」。だが、N響表記は「サン・サーンス」の「オルガンつき」。トレンドでいえば、N響表記のほうが今風だと思う。外国人名の「-」を、日本語で「=」ないし「=」に置き換える習慣は廃れつつある気がする。ぜんぶ「・」にして、リムスキー・コルサコフとかガルシア・マルケスにしたほうがすっきりするんだけど、従来から「=」を使っていると検索性を保つためにそう簡単にはやめられないというのが正直なところ。
December 5, 2025