●9日はサントリーホールでキリル・ゲルシュタインと藤田真央のピアノ・デュオ。全席完売、客席の雰囲気もじわっと熱い。プログラムは前半がシューベルトの創作主題による8つの変奏曲、シューマンの「アンダンテと変奏曲」、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」、後半がブゾーニの「モーツァルトのピアノ協奏曲第19番の終曲による協奏的小二重奏曲」、ラフマニノフの「交響的舞曲」。変奏とダンスをキーワードにしたプログラム。ラヴェルとラフマニノフで藤田が第1ピアノを務めた。シューベルト、シューマンは親密。ラヴェルは外連味がなく颯爽として明瞭。ブゾーニがおもしろい。モーツァルトのピアノ協奏曲第19番の終楽章を2台ピアノ用に編曲しているのだが、協奏曲をいったん解体してデュオに再構築したような趣で、ふたりの応酬を楽しめるという点ではこの日のプログラムで随一。ブゾーニがこの曲を選んだのは対位法的な絡み合いに惹かれてのことか。師弟コンビながら両者の異なる持ち味がよく出ていたと思う。剛のゲルシュタインと柔の藤田というか。
●メインプログラムはラフマニノフの「交響的舞曲」。音色表現が多彩で、曲名通り、すこぶるシンフォニック。この曲はオーケストラで聴いても大傑作だと思うが、2台ピアノでも輝かしくスリリング。ラフマニノフにはラフマニノフなりの20世紀のモダンなスタイルというものがあったのだろうと感じる。体感的にはあっという間に終わって、この後にアンコールが4曲も。ドビュッシーの「リンダラハ」、ラフマニノフのピアノ連弾のための6つの小品より第4曲「ワルツ」、ドヴォルザークのスラヴ舞曲第2集から有名な第2番、同じ曲集からそんなに有名ではない第5番。連弾になるとグッとリラックスしたムードになって、アンコールらしくなる。ゲルシュタインはタブレット+フットスイッチだったが、藤田は紙の楽譜+譜めくりあり。カーテンコールで藤田が楽譜を手にして登場するたびに、会場が「わっ」と盛り上がる。
●客層はふだんのサントリーホールのオーケストラ公演とはまったく違って、圧倒的に女性が多い。オーケストラでブルックナーをやると2回の男性用トイレにリンツまで届くかのような果てしない行列ができるが、これが逆転する。もしこのふたりでブルックナーの交響曲の2台ピアノ版を演奏したら、ちょうど半々くらいの男女比になるのではないかと思いつく。
December 10, 2025