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April 6, 2026

東京・春・音楽祭 東博でバッハ vol.78 小林海都(ピアノ)

夜の東京国立博物館
●2日は東京国立博物館の平成館ラウンジで「東京・春・音楽祭」のミュージアム・コンサート「東博でバッハ vol.78 小林海都(ピアノ)」。プログラムがいい。前半にクルターグの「ピアノのための遊び」より「J.S.バッハへのオマージュ」、バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻より第21番変ロ長調、第8番変ホ短調、第13番嬰ヘ長調、平均律クラヴィーア曲集第2巻より第4番嬰ハ短調、ラヴェルの「クープランの墓」よりフーガ、バッハのフランス組曲第3番ロ短調、後半にバッハのイギリス組曲第3番ト短調、ブゾーニ編の無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番よりシャコンヌ。冒頭のクルターグは開幕のジングルみたいな短い曲。ラヴェルの「クープランの墓」のフーガをはさむ構成も効果的。
●夜の閉館後の博物館の雰囲気にふさわしく、全般に短調寄りの選曲。端正で格調高いバッハ。当初の発表からフランス組曲第3番とイギリス組曲第3番の順番が入れ替えられた。重めでシリアスなイギリス組曲を後ろに置いたということか。この日の圧巻はそのイギリス組曲第3番。次第に熱を帯びて、じわじわと高揚する。おしまいのブゾーニはバッハの宇宙を飛び出してロマン派ヴィルトゥオジティの別世界へ。アンコールにパルティータ第1番よりサラバンド。
●平成館ラウンジの響きは独特で、床からは音が強く反射する一方、天井側からの音の返りはほとんどなく、床の近くだけで鳴っている感じで、くぐもった骨太の響きになる。ピアノをきれいに響かせるのは難しい場所だけど、それでも東博という場には特別なオーラがある。閉館後の博物館に足を踏み入れるのはワクワクする体験。
●フランス組曲とイギリス組曲、どちらもバッハが名付けたものではないとはいえ、早くからこの名称は定着していたようだ。それぞれフランス風にもイギリス風にも感じない。フランス組曲というのなら第1曲に荘重なフランス風序曲が置かれていてもよさそうなものだが(管弦楽組曲のように)、6曲すべてがいきなりアルマンド(ドイツ風)から始まる謎。本当は6曲とも冒頭にフランス風序曲があったのに何者かが破棄してしまい現行の形で伝わった……というミステリーを空想する。イギリス組曲のほうは、フォルケルの伝記に「高名なイギリス人のために書かれた」と書かれている。これが本当だとしたら、フランス組曲も「高名なフランス人のために書かれた」でもよさそうなものだが、どうなんでしょね。