●10日はサントリーホールのブルーローズ(小ホール)でエベーヌ弦楽四重奏団。今年のチェンバーミュージック・ガーデンのベートーヴェン・サイクルはエベーヌ弦楽四重奏団。ついに真打登場といった感。全6回シリーズの第2夜のみ参陣。メンバーはヴァイオリンがピエール・コロンベとガブリエル・ル・マガデュール、ヴィオラがマリー・シレム、チェロが岡本侑也。昨年、トッパンホールで聴いたときも書いたけど、このカルテットに日本人奏者が入っている様子に、マンチェスターユナイテッドに香川真司がいたくらいのインパクトを感じる(←たとえが古い)。曲は弦楽四重奏曲第2番ト長調、第16番ヘ長調、第14番嬰ハ短調。後期作品を2曲聴けるのがうれしい。
●演奏は恐るべき完成度で、弦楽四重奏の枠をはみ出すほどのスペクタクル。表現のコントラストを極大に設定したようなアグレッシブなベートーヴェンで、まるで交響曲を聴いているかのようなスケール感。彩度とシャープネスはマックス、精彩に富み、振幅が大きい。が、もちろん鋭さ一辺倒ではなく、柔らかさ、やさしさも十分。第2番、初期作品がこんなに大きな音楽だったとは。第16番は第3楽章の祈るようなカンタービレが印象的。第14番、自分のイメージではくすんだブルーグレーの色調に惹かれる作品なのだが、むしろエネルギーを全開放した壮麗さに圧倒される。全体にヴィブラートとノンヴィブラートの使い分けも効果的。
●あまりにすごすぎる音楽に接すると、興奮と同時に軽微な憂鬱がセットで付いてくる現象がかねてからの謎なのだが、たぶん、「この水準に慣れると、満足のハードルが高くなりすぎて、ふだんの喜びが減るのではないか」という心配なんだと思う。
June 11, 2026