May 24, 2017

「中世騎士物語」(ブルフィンチ/岩波文庫)その3 ~ エクスカリバー

●(承前 その1 その2)まだ続く、ブルフィンチの「中世騎士物語」(岩波文庫)の話題。ここにはワーグナーの楽劇でおなじみのトリストラムとイゾーデ(トリスタンとイゾルデ)やパーシヴァル(パルジファル)が登場するのだが、もうひとつ共通するようなしないような要素として出てくるのが聖剣エクスカリバー。ワーグナー作品に登場する魔剣はノートゥングと名付けられている。「ワルキューレ」第1幕で、トネリコの木に刺さったかつてだれも抜けなかった剣を、ジークムントは見事に引き抜く。これは窮地に陥ったジークムントのためにヴォータンが用意してくれた剣であり、後にはヴォータン自身の槍で折られてしまうことになる。北欧神話でもそのような話が出てくる。
●一方、「中世騎士物語」のエクスカリバーを抜くのはアーサー王だ。当時アーサーはまだ戴冠前の15歳。教会の入り口で剣が刺さった石が発見され、石にはこの剣が王の剣となると記されていた。そこでこの石から剣を抜いたものがブリトンの統治者となるのだと定められるが、名だたる騎士のだれもこれを抜くことができない。あるとき、腕試しの試合で剣を折った騎士ケイのために、アーサーが剣を取りに帰ったのが、たまたまこの石に剣が刺さっているのを目にすると、それをなんの苦も無く抜いて、ケイに渡した。ケイはこれを石に戻して、ふたたび抜こうとするが抜けない。しかしアーサーはまたしてもこれを抜いてしまう。こうしてアーサーが全員一致で王に推されることになった……というのが、エクスカリバーのエピソード。
●ところでアーサー王は別のエピソードでも不思議な剣を手にしている。これは湖の女王のエピソードで、謎の騎士と戦って敗れ、剣を失ってしまったアーサー王に対して、湖から一本の腕が出てきて、剣を与えるという話。これは湖の女王から与えられたものだが、この剣もどいうわけかエクスカリバーと呼ばれているのだ。というのも、この剣は、アーサー王の死の場面でふたたび登場する。戦いで傷ついて死を覚悟したアーサー王は、騎士ベディヴァに対して、「愛剣エクスカリバーを海に投じて、なにが見えたかを教えてくれ」と命ずる。ところが宝石のちりばめられた剣を惜しいと思い、騎士ベディヴァは剣を木の根に隠して、アーサー王に「剣は海へ捨ててきた」とうそをつく。しかしアーサー王はベディヴァの返答からたちまちうそを見抜く。ベディヴァはそうやって2度もアーサー王を偽るが、3度目にようやく本当に剣を海に投じる。すると海中から一本の腕が出てきて、剣を受け止めて振り回した後、剣もろとも海中へ消え去ってしまう。
●じゃあ、石から抜いたのと、海から腕が出てきて与えてくれたのと、いったいどっちがエクスカリバーなのよ。それとも不思議な力を持った剣のことはどれもエクスカリバーと呼んでいたとでも? (→その4へ)

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