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News: 2014年8月アーカイブ

August 27, 2014

パーヴォ・ヤルヴィ、パリ管弦楽団との契約を更新せずと発表

●昨日、パーヴォ・ヤルヴィが2016年夏で切れるパリ管弦楽団音楽監督の契約を更新しないと、TwitterおよびFacebookページを通じてアナウンスした。Facebookページでは、2015年秋よりNHK交響楽団の首席指揮者に就任して新たな門出を迎えることも言い添えられている。
●ニュースそのもの以上に、人事がSNSアカウントを通じて広がる様子が興味深かった。少し前ならこういうニュースはオーケストラやマネージメントの公式ウェブサイトを通じて知っただろうし、もっと前なら既存メディアの記事で知ったはず。あと、これはやっぱり本人アカウント(「中の人」がいようがいまいが)だから、鮮度が保てるのだなあとも。
●ベルリン・フィルでのサイモン・ラトルの任期は2018年夏まで。ワタシたちは次期首席指揮者の名前をSNSで知ることになるのだろうか?

August 22, 2014

「おわらない音楽 私の履歴書」(小澤征爾著/日本経済新聞出版社)

私の履歴書 小澤征爾●日経新聞に掲載された小澤征爾の「私の履歴書」が加筆・修正の上、「おわらない音楽 私の履歴書」として書籍化された。さすがに本人が語る言葉だけあって、おもしろい。新聞連載ならではのツルンとした読みやすさもあって、一気に読んだ。小澤征爾本としては以前に「ボクの音楽武者修行」という名著もあって、昔のエピソードなどはこの本などで読んだものと重なるところも少なくないけど、もうそこから時間も経ってるわけで、現時点でのバージョンアップとして、また近年の話題も含めたものとして、貴重な一冊。
●やっぱり若い頃の話のほうがおもしろいのは、「私の履歴書」ならだれであれそうなるのかも。時代の大らかさ、周囲の人々の懐の深さを感じる。特に「N響のボイコット」や「日フィル分裂」の章のインパクトが強い。それにしても「僕には全然経験が足りなかった。ブラームスもチャイコフスキーも交響曲を指揮するのははじめて」という若い指揮者が、N響のツアーや定期演奏会の指揮台に立ってたわけだから、今にして思うと考えられないような時代(60年代前半)である。同時に小澤征爾はその時点でカラヤンの弟子でもありバーンスタインの副指揮者でもあったわけで、なんというか、違う遠近法で描かれた絵を見ているような気分になる。
●ブザンソン国際指揮者コンクールに優勝した直後の話も印象深い。「コンクールに優勝すれば仕事が次々来ると思っていたのに、ほとんどゼロ。人生で一番、不安な時期だった」。でもそこからタングルウッドに渡り、さらにヨーロッパでカラヤンの弟子になるまで約一年。どれだけ濃密な時間が流れていたのかと思う。

August 18, 2014

「アルゲリッチ 私こそ、音楽」


●試写でドキュメンタリー映画「アルゲリッチ 私こそ、音楽」を見た。監督はアルゲリッチの三女、ステファニー・アルゲリッチ。家族でなければ絶対に撮れない映像のオンパレードで、圧倒されっぱなしの96分だった。あまりの濃密さ、あけすけさにたじろぐほど。なにしろ、この映画のために撮影した映像だけではなく、古いプライベートなホームビデオの映像までたくさん用いられている。「ある時期はミシェル・ベロフが私の父親代わりとなった」みたいなナレーションに合わせて、アルゲリッチとベロフが仲睦まじくする映像がポーンと入る。音楽家アルゲリッチの顔ももちろん興味深いものなんだけど、それ以上に母アルゲリッチの素顔が強烈なインパクトを残す。
●アルゲリッチにはそれぞれ父親の異なる3人の娘がいる。3人全員がこの映画に登場する。長女はヴィオラ奏者のリダ・チェン。父はロバート・チェン。唯一音楽家になった娘だが、母と暮らしたことはない。次女はアニー・デュトワ。シャルル・デュトワとの娘。三女が監督のステファニー・アルゲリッチで、父はスティーヴン・コヴァセヴィッチ。ステファニーは父と暮らしたことはない。ずっと母親のもとで育ち、いつもツアーに付いて世界中を連れられ、学校にはときどきしか行けなかった。家族そろっての夕食や公園での遊びといった平凡な思い出が片手の指で数えられるほどしかなかったという。とても複雑な家庭環境なんだけど、本人たちにとってはそれが生来の環境であり、見ているとだんだんありうる家族の形として、むしろ共感がわいてくる。アルゲリッチがステファニーに向ける表情は母親そのもの。大らかで慈しみに満ちている。一方でいまだに本番直前の舞台袖ではナーバスになって「今日は弾きたくない」とかぶつぶつつぶやいている。
●父スティーヴン・コヴァセヴィッチも登場するんだけど、いい人オーラ全開で、アルゲリッチのパートナーであった姿が想像できない。娘に戸籍上の認知の手続きを求められて、書類と電話と格闘しておろおろする父としての姿が味わい深い。しかし若い頃の演奏姿は激しくカッコいい。
●母親と娘3人がそろって戸外でリラックスしている映像があって、みんな顔立ちが違うのに、髪型は母親とほとんどいっしょだなとに気づく。ステファニーが母の母国アルゼンチンを訪ねるシーンもいい。これは血筋の物語なので。9月27日公開(全国の上映予定)。

August 14, 2014

フランス・ブリュッヘン(1934-2014)

●昨日、フランス・ブリュッヘンがアムステルダムの自宅で世を去った。享年79。
フランス・ブリュッヘンと18世紀オーケストラ●リコーダー奏者としてのブリュッヘン。18世紀オーケストラを立ちあげて指揮者になったブリュッヘン。新日本フィルを指揮して数々の印象深い演奏を披露してくれたブリュッヘン。いくつものブリュッヘンの顔が思い出される。
●自分にとっていちばん思い出深いのは18世紀オーケストラとの初来日の頃と、このコンビの録音がフィリップスから続々とリリースされていた時期。なにしろ今と違って、ピリオド楽器のオーケストラによるベートーヴェンやモーツァルトの演奏なんて、まだみんなほとんど聴いたことがなかったわけだから。実演のみならず録音であってもその一枚一枚が新鮮で、リリースが待ち遠しかった。ちょうどメジャーレーベルから次々と大量の新録音がリリースされていた頃で、しかも日本のバブル経済とも重なった。彼らの出現がもう10年遅かったら、その後の展開はぜんぜん違ったものになっていたはずで、今にして思うと「ここしかない」というタイミングだったと思う。
●すみだトリフォニーホールでの新日本フィルとのハイドン、ベートーヴェン他もすばらしかった。ハイドンの「軍隊」とか、笑った。真摯さに加えて、ある種、肩の力の抜けたユーモアも加わって、老匠としてのブリュッヘンを目にすることができた。インパクトの強さでは彼らが初共演した時のラモーとモーツァルト。心底驚いた。
●安らかに。

August 8, 2014

LFJ2015のテーマはPASSIONS(パッション)(仮題)

●一昨日、東京国際フォーラムから、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2015の開催決定のお知らせが届いた。詳細は今秋に発表予定ということなんだけど、もうあちこちでニュースになっているからここでも書いておくと、開催期間は5月2日から4日まで、テーマは「PASSIONS(パッション)」(仮題)となっている。「普遍的なキーワードをテーマに、クラシック音楽という基本は変えず、時代やジャンルにとらわれない、今までよりもさらに拡がりのあるプログラムを構成します」とのこと。
●テーマの設定をこれまでの時代や地域、作曲家で区切るやり方を改めて、普遍的なキーワードにしたいという話は、今年の音楽祭最終日の会見でも明言されていた。その第1弾が「パッション」(仮題)。うんと制約がなくなって、どんなふうにでもできるともいえるし、だからこそ難しいともいえる。
●無根拠な予想。ベートーヴェンの「熱情」を、エル=バシャとかケフェレックとかベレゾフスキーとか若手フランス人奏者とかいろんなピアニストが競演する。民族舞曲系のアンサンブルがいくつか呼ばれて、キオスクで盛りあがる。バッハの「マタイ受難曲」や「ヨハネ受難曲」が演奏される。もしかしたらもっとたくさんの受難曲(Passion)が演奏される。アレッサンドロ・スカルラッティやテレマンかもしれないし、ひょっとしたらペンデレツキやグバイドゥーリナかもしれない。パッション屋良がLFJアンバサダーに任命されて、記者会見でショートコントを披露する。

August 6, 2014

ルロイ・アンダーソンの「タイプライター」

タイプライター●そういえば一昨日の川瀬&神奈川フィルでルロイ・アンダーソンの「タイプライター」を聴いたが、今やタイプライターはこの曲の演奏でしか見かけることのない過去の道具となってしまった。実用に供されず、音楽の演奏にしか用いられないのだから、タイプライターは「楽器」と再定義すべきかもしれない。ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」のクラクションと同様に。
●アンダーソンの「タイプライター」では、「パチパチパチパチ」というリズミカルなタイプ音に加えて、明るい「チン!」のベル音と、「シュッ!」のキャリッジリターン音が登場する。一昨日は「チン!」はトライアングルで、「シュッ!」はギロで代用されていたが、どちらも本来は機械式タイプライターが発する音だ。実物のタイプライターを使ったことのある人はすでにかなりの少数派になってしまったと思うが、タイプライターではキーを一文字打つごとに、キャリッジ(シリンダー)が左へ移動する。そして、行末が近づくとそれを知らせるために「チン!」のベル音が鳴る。この音が聞こえたら、シリンダーの左のレバーを持って一番右まで「シュッ!」と動かして、手動で「改行」する。だから「チン!」の後には必ず「シュッ!」が入る。ブラインドでキーを打っていても「チン!」が鳴ってくれるおかげで、視線を動かさずに改行できるわけだ。オフィスで聞こえる「パチパチパチパチ」と「チン!」と「シュッ!」がリズミカルでどことなくコミカルだから、アンダーソンは曲に仕立てようと思ったのだろう。
●ワタシは子供の頃に家に機械式のタイプライターがあったので、その機械としての動作のおもしろさに惹かれて、意味もなく練習してブラインドタッチを覚えた。その後、パソコンやワープロが世に出るようになって、ブラインドタッチは大いに役立ったが、大人になってからタイプライターを使う機会は訪れていない。ちなみに、パソコンの改行コードにCR(キャリッジリターン)とあるのは、このタイプライターの動作が由来だ。

August 5, 2014

フェスタサマーミューザ2014~川瀬賢太郎&神奈川フィル

フェスタサマーミューザ 2014●4日はミューザ川崎でフェスタサマーミューザ2014、川瀬賢太郎指揮神奈川フィルへ。平日の15時開演、プログラムはルロイ・アンダーソンと「スターウォーズ」組曲が中心ということで、会場には子供たちの姿も大勢。先日のインバル&都響のブルックナーとはうってかわって、ファミリーコンサートの雰囲気になった。この多様性がサマーミューザ。
●神奈川フィルの鮮やかな演奏も期待以上の楽しさだったんだけど、川瀬賢太郎さんのトークがうまくて舌を巻く。言葉が聞き取りやすいし、言い淀まない。微妙に乾いた笑いを呼び起こすネタもあって勇気凛々。吉。あと細くてカッコいい。本物の若者しかできないキレのある動きが音楽の躍動感につながっていたと信じる。前にも書いたけど、「オヤジもっさり理論」によれば30代半ばあたりには、だれもがこのキレを失う。速度じゃなくて加速度がなくなるんすよね。
●「スターウォーズ」組曲は、メイン・タイトル、レイア姫のテーマ、帝国のマーチ、ヨーダのテーマ、王座の間とエンド・タイトルの5曲、っすよね? ワタシは「王座の間」のファンファーレを聴くと、第1作の最後でルークやハン・ソロが讃えられる晴れがましい場面が目に浮かんできて、ぐっとくる。オッサンホイホイという気もするけど、子供たちも楽しんでくれただろうか。

August 4, 2014

ミンコフスキ&東京都交響楽団のビゼー

●たまたま都響が続いて、3日は「作曲家の肖像」シリーズでマルク・ミンコフスキ指揮のビゼー・プロへ(東京芸術劇場)。前半に交響曲「ローマ」、後半に「アルルの女」組曲第1番&第2番という珍しいプログラム。ミンコフスキが日本のオケを振るのを聴くのは、一昨年7月の金沢でのOEK公演以来。今回もミンコフスキの全身から発せられる熱波が作品に精彩に富んだ表情を与えて、表現のコントラストの強い、躍動感のあるビゼーに。
●「アルルの女」第2組曲で終わるということは最後は「ファランドール」なわけで、なんだか名曲コンサートのアンコールみたいな終わり方だな……と事前に思っていたけど、これが普段はまず聴けないような濃密で狂躁的な「ファランドール」になっていて、目鱗。手垢にまみれたと思われているような「名曲」でも、いくらでも新鮮な音楽になりうるのだと実感する。しかしこれで終わってしまうのはなんだか足りないなと思っていたら、アンコールとして「カルメン」前奏曲、さらに熱狂する客席にこたえて(これは予定外か)「ファランドール」をもう一度。アンコールの「ファランドール」では、本プロにはなかったダイナミクスを即興的に仕掛けて、別の「ファランドール」を楽しませてくれた。すごい。そしてビゼーでまさかの一般参賀あり。
●このプログラム、きっと前半の交響曲「ローマ」で作品の魅力に気づかされたという人が多いんじゃないかと思うんだけど、自分はどうかな。これだけの演奏をもってしても、やっぱりこの曲にはビゼーの迷いみたいなものを感じてしまう。10代で書いた習作の交響曲ハ長調には、あんなにインスピレーションがあふれててまるでシューベルトみたいだったのになあ……。ちなみにミンコフスキは9月にOEKで交響曲ハ長調のほうを指揮する(金沢、東京、群馬で、辻井伸行独奏のラヴェルのピアノ協奏曲他といっしょに)。

August 1, 2014

フェスタサマーミューザ2014開催中。インバル&都響へ

フェスタサマーミューザ 2014●30日はフェスタサマーミューザ KAWASAKI 2014でインバル指揮東京都交響楽団(ミューザ川崎)。プログラムはワーグナー「ジークフリート牧歌」とブルックナーの交響曲第7番。今年のサマーミューザは例年にも増してエントリー層を意識したプログラムが多いような気がするけど、都響はがっつり本格派のプログラム。そして平日夜公演にもかかわらず客席は盛況で、熱気が渦巻いていた。渦巻きホールにぐるぐる渦巻く熱気。
●サマーミューザは同じ会場で首都圏の各オーケストラを聴き比べられる(しかも安価に)っていうのがいいんだけど、もうひとつの魅力は多くのオケが当日のリハーサルを公開してくれるところ。この日は本番が19時で、公開リハーサルが15時30分から。リハーサルも見ようと思ったらほぼ午後いっぱいと夜を川崎で過ごすことになるから、相当思い切って時間をとらないといけない。でも、この日も熱心なお客さんが多数つめかけていた。ゲネプロだからさくさくっと終わってしまうこともあれば(この日はそう)、えっ、この段階でそんなことやるの?みたいなこともあったりで、それぞれ。ゲネプロと本番の違いを体感できるのも吉。ただし、ある種の「ネタバレ」は避けられないので、そのつもりで。
●独特のインバル節がところどころ炸裂する、よく鳴る雄渾なブルックナーを満喫。強奏時にも響きの澄明さが保たれているのはさすが。この曲で第1楽章と第2楽章をつなげて演奏したのを初めて聴いた(ゲネプロでも第1楽章を通してから、そのまま第2楽章の頭までをつなげて「確認」していた)。演奏が終わった後の客席のわき方はサマーミューザの雰囲気っていうよりは都響定期の雰囲気だったと思うんだけど、これはすごくよかったのでは。少なからずいたサマーミューザの(特に若い)お客さんが、都響のお客さんたちの発する盛大なブラボーや、楽員が退出した後に拍手が止まずインバルがふたたび登場するソロ・カーテンコールを目にして、「ああ、クラシックのコンサートにもこんな本物の熱狂が存在するんだ」って思ってくれただろうから。

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