●グループリーグが終わった後、中一日の休養日(だれの?もしかしてわれわれの?)をはさんで、いよいよ決勝トーナメントへ。スペインやイタリアといった欧州勢が脱落、アジアは一勝もできず(次回の出場枠はきっと減る)。一方、中南米勢は躍進。ブラジルで開催した甲斐があったというべきか。
●しかし、南米勢の4カ国がトーナメントで同じ山に入ってしまったのはまったく残念。ブラジル、チリ、ウルグアイ、コロンビアでつぶし合って、どれか一か国のみがベスト4に進出することに。なにも開催国ブラジルの山といっしょにならなくても、ブツブツ……。南米はアルゼンチンだけが別の山へ。少なくとも準決勝まで生き残ってほしい。
●で、まずはブラジル対チリ。開始前の国歌斉唱からすさまじいテンションの高さ。完全にブラジルホームだが、スタジアムの一角にはチリサポがびっしり集まっていて、雰囲気は最高だ。サンパオリ監督が率いる今回のチリは今大会でも屈指の先端フットボールを展開している。今大会、3バックの復権が見られるが(というか今やJ2でも3バックは増えている)、単に3バックというだけでなく、そこに170cm台の身長の低い選手たちを並べるスタイルは異彩を放っている。それでいて空中戦にひるまない強さも恐るべきものだが(ブラジルのフレッジや途中出場のジョーといった大型選手をことごとく抑えた)、眼目はボール扱いにすぐれた、フィード能力の高い選手を起用したいということなんだろう。つまり従来なら中盤の底を務めたような選手たちを並べる。長身で屈強だが足元はもうひとつという伝統的なセンターバックを排したという点で3バックというよりは、ノーバックと呼びたくなる。前線に伝統的9番を置かないノートップ・システムの時代の次は、ノーバック。チリは従来サモラノやサラスなど9番の人材はいつもいたわけだけど、今回は9番タイプのピニージャをサブに置いているので、いわばノートップ、ノーバックの進化形フットボールを実践しているともいえる。ハイプレス、ハードワークの最適化のひとつのありかたというべきか。
●これに対してブラジルは個人の突破力とインスピレーション豊かなパスワークが頼みの綱。前半12分、フッキのワンツーを使った直線的な突進がすさまじい迫力。前半18分、ネイマールのコーナーキックから、チアゴシウバの頭を経由して、ダビドルイスが泥臭く押し込んでブラジル先制。しかし内容ではむしろチリがペースをつかんでいたかも。前半32分、まさにチリの狙い通りの形がぴたりとはまって、ブラジルの自陣奥深くのマルセロのスローインからフッキが返したところをバルガスがかっさらって、すぐにアレクシス・サンチェスにつないで、これをゴール左隅に決めて同点。前半終盤にもチリが怒涛の攻勢をかける。チリはブラジル相手に自信と気迫にあふれたプレイを見せた。
●ハイペースの展開だっただけに、後半の途中からは両者ともに運動量が落ちて、早々と消耗戦の様相を帯びてくる。ブラジルは前線のフレッジに代えて投入したジョーにまったくボールが収まらない。王国にはいくらでももっといい選手がいそうなものだが……。後半10分フッキのゴールはハンドで幻に。フッキは終盤になっても突破力が衰えないのがスゴい。チリはブラジルを仕留めるチャンスを何度も迎えていた。まさかブラジル開催のワールドカップで、ここでブラジルが敗退してしまっていいものだろうかという思いと、勝者にふさわしいのはチリのはずという思いで、どちらを応援していいのかもまったくわからなくなる。延長に入った時点で、あとは時の運次第という様相に。延長後半14分、交代出場したチリのピニージャのシュートがバーを叩いた。これが入っていれば試合は終わっていた。ブラジルはバーに救われて、PK戦に。
●PK戦が始まる前からブラジルのベテランGK、ジュリオ・セザールが泣いている。PK戦が終わって泣くのではなく、始まる前に泣いたキーパーを始めて見た。カナダのトロント所属のキーパーが正GKというブラジル代表もどうかと思うが、なんと、そのジュリオ・セザールがピニージャ、アレクシス・サンチェスを立て続けに止める。チリの二人はともに「外したくない」という気持ちが強すぎたのか、甘いコースに蹴ってしまった。一方、ブラジルも2人目のウィリアン、4人目のフッキがPKを失敗。チリのキーパーはバルセロナへの移籍が決まっているブラボ。5人目、もっとも重圧がかかるところでブラジルは若きエース、ネイマールが左下に慎重に決め、一方、チリはハラがポストを叩いて失敗。勝ったネイマールも、敗れたハラもピッチ上で号泣。ネイマールとダビドルイスは向き合って跪いて祈りを捧げた。PK戦なので、記録上は引き分け。チリではなくブラジルを大会に残したのは、運の仕業だ。
ブラジル 1-1 チリ (3 PK 2)
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★★★
●ナイジェリア対アルゼンチン……って、また?? いったいこのカードをなんどワールドカップで見ているのだろうか。4回目? それとオリンピックでも2回くらい見ている気がする。2002年のワールドカップ日韓大会でもこの対戦があったっけ。カシマスタジアムで。そのときはバティストゥータのゴールでアルゼンチンが勝った。現地で見てたので覚えている(←いきなり自慢話かよ!)。
●後がない状況で迎えた第3戦、ニッポンはセントラルMFの山口に代えて青山を起用。大迫ではなく、調子のよい大久保を先発させた。直前の親善試合で青山から縦のロングパス一本が大久保に通ってゴールが生まれたシーンがあったが、ザッケローニにはあの場面が頭にあったにちがいない。一方、すでに2勝して余裕のあるコロンビアはほとんどのメンバーを入れ替えてきた。GK:川島-DF:内田、吉田、今野、長友-MF:青山(→山口)、長谷部-香川(→清武)、本田、岡崎(→柿谷)-FW:大久保。
●グループDはイタリア、ウルグアイ、イングランド、コスタリカ。W杯優勝経験国の強豪が三カ国も含まれる死のグループと目されていた。ところが、どうだ。蚊帳の外と思われていたコスタリカが第1戦でウルグアイを破ると、この第2戦ではイタリアを相手に前線からの精力的な守備と切れ味鋭いカウンターアタックによって互角に渡り合い、ついにはブライアン・ルイスのゴールで勝利を収めてしまった。2連勝でまっさきに勝ち抜け決定。次の相手、イングランドはすでに2連敗して脱落が決まっている。3戦目にイタリアとウルグアイが勝ち抜けを賭けて直接対決することになった。コスタリカは3戦目に主力を休ませるだろうか?
●グループF、1試合目でナイジェリアと引き分けたイランは、アルゼンチンと。実はここまでアジアは1勝もしていない。この調子ではアジアの出場枠を減らされても文句が言えない(現状でもかなり優遇されているわけだし)。本来ならメッシを応援したいところだが、ここはアジアの同胞イランを応援。中東勢のなかでもイランに対してだけは親しみを感じる日本のサッカー・ファンは多いと思う。最近、対戦回数が減っているが、監督はケイロスだし、かつてオサスナで活躍した中盤の要ネクナムは健在、前線にはフラム所属のアシュカン・デヤガ、オランダ育ち(U-19オランダ代表)で欧州のクラブを渡り歩くレザ・グーチャンネジャードといったタレントを擁し、やはりアジアの最強国のひとつだと再認識。
●まずは同じアジアの仲間、オーストラリアから。前節スペインを完膚なきまでに叩きのめしたオランダが相手とあって、ほとんどの人がオーストラリアの苦戦を予想したはず。ところがふたを開けてみれば実力伯仲の好ゲームに。前半20分、オランダはロッベンがハーフラインあたりからゴール前まで猛烈な速度で独走して先制ゴール。唖然とするほどの速さ。ほとんど伝説になりかけたゴールだが、その直後、オーストラリアのキックオフからロングボールをケイヒルが鮮やかなボレーでゴールに叩き込んで同点。なんという美しいボレー。ロッベンのスーパーゴールをたった1分で過去の出来事にしてしまった。
●一方のスペイン対チリ。オランダに大敗したスペインは、シャビをベンチに置き、ジエゴ・コスタとペドロ、ダビド・シルバ、イニエスタを先発させ攻撃的な布陣を敷く。ところが、試合開始からチリがゲームを完全に支配する。場内にはチリ・サポーターの圧倒的な声援。ジエゴ・コスタとカシージャスにブーイング。あのスペインがボールを保持できない。パスをつなぐチリ。どっちが「ティキタカ」なんだか。いや、チリは昔から「ティキタカ」を夢見てプレイしていたのであって、今やついにそれにふさわしいタレントを獲得しただけなのかも。オランダ戦の大敗をきっかけに、スペインの魔法が解けてしまったかのよう。いったいどうして、彼らは延々とパスを回し続けることができたのか、今となってはまったく思い出せない。
●ここから各チーム2試合目に。ホスト国ブラジルはメキシコと対戦。近年の戦績に関していえば、この両者は意外にもメキシコが勝ち越しているのだとか。事実、メキシコは最初から最後までブラジルを恐れずに戦い抜いた。ともにインスピレーション豊かな見ていて楽しいフットボールを好むチーム、しかも1試合目にすでに勝点3を獲得しているとあって、オープンで見ごたえのある試合になった。楽しい。
●開催国ブラジルが世界中のサッカー・ファンにとっての永遠のアイドルだとすれば、ドイツは大会に不可欠の嫌われ者だろうか。とにかくワールドカップになると憎らしいほど強い。異常なくらいの決勝進出率を誇る。選手たちはフィジカルにすぐれ、よく走り、規律があって、気持ちが強くて、あきらめない。しかも大男たちのチームと思っていたら、最近はどんどんテクニシャンもあらわれて、スペクタクルな攻撃も見せるようになってきて、もうホントに手が付けられない。ここ最近はスペインの「ティキタカ」職人芸サッカーがかろうじてドイツを食いとめてくれていたのだが、いよいよスペインに黄昏が訪れたのだとしたら、だれがドイツを食い止められるのだろうか。