●最近読んだ本でぶっ飛んでいると思ったのが、クリストファー・プリースト著「不死の島へ」(古沢嘉通訳/東京創元社)。一昨年世を去ったイギリスの作家クリストファー・プリーストの小説は、これまでにも「夢幻諸島から」「双生児」「魔法」などを当欄で紹介している。SFやファンタジーといったジャンル小説の枠組みで刊行されているものの、いずれもが「小説についての小説」や「現実と虚構の境目」といったテーマを扱ったメタフィクション。今回の「不死の島へ」もまさしくそう。
●主人公はロンドンに住む若者。人生に挫折してロンドンを去り、知人の別荘に引きこもって孤独な執筆作業に没頭しながら、自己と向き合う。自分とは何者か。それを書くためには物語が必要(だからこそ世の人々は小説を書いたり読んだりするわけだ)。そこで、彼は「夢幻諸島」(ドリーム・アーキペラゴ)なる架空の世界を舞台に、自己の物語を書く。夢幻諸島とはもうひとつの地球にある赤道近辺に散らばる無数の島々のことで、それぞれの島には独自の文化が花開いている。この世界で主人公は宝くじにあたり、不死になる処置を受ける権利を獲得する。不死になるとは、すなわち生きる意味を問い直すこと。主人公はその処置を受けるべきか、悩みながら恋人とともに島々を巡る。
●この島々への旅が実に魅力的に描かれているのだが、夢幻諸島とはプリーストが別の作品でもたびたび登場させている世界であり、その様子は連作短編集「夢幻諸島から」でたっぷりと描かれている。ふむふむ、なるほど主人公は作者プリースト自身の投影であり、小説が生まれるプロセスを書いた小説なのだね……と納得しながら読んでいると、途中からの展開に不意を突かれることになる。読書の楽しみを損なわない程度に書くと、夢幻諸島側の主人公は架空の都市ロンドンを舞台とした物語を書いているのだ。現実と思った側と虚構と思った側が鏡合わせになっており、その両者が侵食し、どちらが小説内現実なのかが揺らぎ始める。プリーストの真骨頂だ。
●先に「夢幻諸島から」を読んでいる人は、「ああ、これはあの島だね」と記憶を掘り起こしながら読める。でも、未読なら「不死の島へ」を読んだ後に「夢幻諸島から」を読むという楽しみが待っている。読む順番はどちらでもいいと思う。
April 21, 2026