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2008年8月アーカイブ

August 29, 2008

北京の鉄人魚群

●猛スピードで記憶の彼方の過去完了となりつつある北京五輪、振り返ってみればいちばんおもしろかったのは何かといえば、それは日頃なじみレスなトライアスロン。五輪の「関心のなかった競技に目を向ける」力って偉大だ。そうかあ、トライアスロンって水泳からスタートするんだ、それから自転車に乗って、最後に走るんだあレベルな無知だった自分にもやってきた感動の嵐。
魚群。これは人じゃありません●まず水泳がスゴかった。プールの水泳競技と全然違う。あれって海じゃなくて湖だったのかな。自然の中で泳ぐから、レーンってものがないんすよ。だからみんなスタートしてしばらくしたら、ワァっと群れになる。何十人もの人間が群れになって泳いでいる。先頭から最後尾まで三角形になって泳ぐ群れ、それはどう見ても「魚群」。いやホントは「人群」だが、観戦してるワタシはほとんどサンマやイワシを見つめる漁師目線。人間ってこんなに泳げるんだ。今自分が未知の惑星からやってきた地球探査隊の一員で、この場面を目にしたとしたら、きっと勘違いする、この惑星には群れを成して泳ぐ水陸両棲哺乳類が文明を築いていると。なんか感動するでしょ。
●あと自転車(バイクっていう)。みんな牽制しながら走ってるんだけど、序盤で3人だけ圧倒的に先行する。でも解説の人はこの3人をまったく相手にしてなくて、地力のある選手たちじゃないから、いくらバイクでリードを広げても、ランで遅れるから気にしなくていい、後続の有力選手たちからは眼中になしだって言う。でもこの先行した3人、それぞれ国籍はバラバラなのに3人でドラフティングしながら助け合うんすよ。
●つまりバイクは先頭がキツくて、後ろのほうはスリップストリームに入れるから楽チン。なので、3人で「オレたちが独力でいくらがんばってもメダルはムリ。だったら3人で交代で先頭に立って助け合おう。そうすれば表彰台に立てるかもしれない」という交渉が無言で成立してる。でも実力がバラバラだから、遅れそうになる選手も出てくる。そんなときは、キツそうな選手を後ろにおいてあげて、なるべく3人で走ることで優位を確保しようとする。本質的に敵同士なんだけど、助け合わない限り3人全員確実に負けるという戦略性がおもしろかった。結局、この3人は途中で一人が脱落し、残った2人もランになった途端に後ろの集団にあっという間に追いつかれてしまったが。
●と楽しんだんだけど、後で知ったが本来のトライアスロンではこういったバイクでのドラフティングは禁止されているそうだ。他人の助けを借りずに、独力で走りきってこその鉄人という考え方。オリンピックのようなトップレベルの大会では、力が拮抗しててどうしても集団にならざるをえないということなのか、解禁されているらしい。

August 28, 2008

「画家と庭師とカンパーニュ」(ジャン・ベッケル監督)

●まだ上映していると思うが、少し前にBunkamuraの映画館で「画家と庭師とカンパーニュ」を観てきたのだった。これは全力でオススメ。あちこちの映画サイトに「男の友情物語」とか「フランスの田舎が美しい、エコでロハスな癒しの物語」とか「泣けます」って書いてあっても、ヤな感じと思ってはいけない。
●パリで成功した画家が、田舎の別荘にやってきて庭師を雇う。すると、それは大昔に悪ガキ仲間だった同級生だった。画家は庭師と対話する。本質的にはそれだけの話なんだけど、今のワタシたちにとってこれほど同時代的で切実なテーマを描いたものはない。この話、前提として二人の階級差がある。画家はオヤジが薬屋で、家業を継がずにパリに出てアーティストとして成功した男。成功はしたけど他人への共感能力が著しく低く、家庭はバラバラ。庭師は労働者階級の出身で、ずっと地元に残ってて、国鉄で長年働き、今はリタイアして庭師をやってる。質素に暮らし、単調な日常の中に限りない喜びを見出している。可哀想なのは画家のほうで、豊かで幸せなのは庭師のほうだ。画家は一方的に庭師から人生の喜びを学ぶ。忌まわしい言葉なのであからさまに書かないが、「勝ち」とか「負け」とかで人の人生を二分する表現があるけど、ああいう世界から宇宙の果てっていうくらい遠い幸福観が描かれている。
●庭師と出会った後に、画家がパリにもどって知人のギャラリーに顔を出すんすよ。どれもこれもなんだかよくわかんない黒い絵が飾ってある。そしたらそこにいた若い気取った男が、小難しい批評言語みたいなのを並べて屁理屈こねて絵を褒める。以前だったらこの画家も話を合わせたかもしれないんだけど、庭師の素朴な生き方に感化された後だから、この若者をコテンパ(死語)にやり込めちゃう。抱腹絶倒。こんな痛快なシーンはないっすよ。
●あとフランスの田舎の家庭菜園とか猛烈にステキでビバ農業な気分になれる。そこで……(続く?)。

August 27, 2008

ラジオを流しながら

ラジオ●まだまだ続くBBC Proms。放送日から一週間、オン・デマンドで聴けるというだけでも時差のある日本では十分ありがたいんだけど、主要な公演についてはその後 Afternoon on 3 で放送されて、それがまた一週間ほど聴けるという二毛作状態になっている。ということをご教示いただいて知った(感謝)。BBCは気前がよい。
●仕事中になんとなく耳が寂しくなって、Prom 45のイラン・ヴォルコフ指揮BBCスコティッシュ管弦楽団の公演を流してみた。1976年イスラエル生まれ。この若さで同団首席指揮者。最近の若手指揮者は本気で若くて、世界のあちこちに「千秋真一」がいるっぽい。曲はジョナサン・ハーヴィーを3曲とメシアン「コンセール・ア・キャトル」、ヴァレーズ「ポエム・エレクトロニク」「砂漠」の20世紀音楽プロ……あ、ハーヴィーは21世紀という可能性もあるか。これは後日ちゃんと聴いておいてもいいかも。同じくヴォルコフのベートーヴェン「田園」プロもあったんだが聴き逃してしまった。Afternoon on 3で再放送されるならそのときにきっと。
●この演奏会、独奏チェロが石坂団十郎氏だったんだけど、彼の名前は Danjulo Ishizaka と綴るんすね。公式サイトでもそうなってた。RじゃなくてLだと、Danjuloっていうのがなんかエキゾティックで、漢字の「団十郎」っていう古風で重々しいのとぜんぜん違うのがおもしろい。BBCのアナウンサーは Dan-juloとは読まず、Da-nju-loと認識してて、鼻にかかり気味にダニューロみたいになるのがカッコいい。といいつつ、LとRの区別がつかない自分。
●読み方といえば、イギリスの現代作曲家Jonathan Harveyは「ハーヴィー」だった。80年代のどこかで、彼のCDの国内盤が出たときにレコード会社か音楽雑誌が「ハーヴェイ」にしようと決めてたような記憶があるので、それに従って「ハーヴェイ」って書かれることが多いと思う。別にどちらでもいいんだけど、表記が割れるとGoogle化された社会では損しがち。

August 26, 2008

中古CDはあっても中古データはない

●昔さんざん中古CDショップにはお世話になってて、今でもそのような場所では本能的反射的にワクワクしてしまうんだけど、「中古CDショップ」ってものは外見上十年一日がごとく変わっていないように見えて、中身というか意味合いは恐ろしく変化したと思う。前は「だれかが一度買ったけど気に入らなかったか飽きたかしたCDが売られている場所」という認識だった。でも、今は違う。
●中古CDをPCに突っ込み、リッピングして1bitたがわぬ同一のデータをハードディスクに保存し、さらにそれを簡便に扱うためにmp3とかWMAとかに変換してみると、はっと気が付く、このデータはまさにiTunes等々の音楽配信サイトから購入したデータに等しいではないか(しかもDRMも施されていない行儀の良いデータだ)。「中古」を買ったと思ったら、いつの間にか「新品」ができあがってしまうというマジック! デジタルってすばらしい。放送とか通信とかに先駆けて(CDという形で)いち早くデジタル化を英断した80年代前半の音楽界は、こういう近未来を予期してなかっただろうけど。
●だから今、中古CDショップに行くと、そこは「音楽の原データ置き場」に見える。ワタシはもうそんなことはメンドくさくて絶対やらないと断言できるけど、もし今20代前半くらいの若者だったら(つまり時間と物欲と好奇心は有り余るほどあるけど、それ以外はなんにもない状態なら)、中古CDショップで購入したCDを次々とリッピングして(必要な場合は解説書やジャケットもスキャンして)、その後、同じCDを中古品としてショップに売るだろう。中古CDの買値と売値の差額を、iTunes等でデータを購入したときの価格との比較対象とみなしたかもしれない。容赦も妥協も愛もない即物的な方法で、もっとも効率よく聴きたい音楽を大量に聴く方法を探し出したにちがいない。
●でもまあ、今はそこまで飢えてないし、欲望より節度が大切だと思っちゃうから、想像しただけでお腹いっぱいで、そんなことよりバーゲンコーナーに奇跡の出会いがあるんじゃないかとか、フツーにヲタっぽいロマンを求めてしまうだけなんであるが。

August 25, 2008

アルゼンチン黄金時代継続中

アルゼンチン●北京五輪サッカーはアルゼンチンが1-0でナイジェリアを破って優勝。もうアルゼンチンの強さには呆れるしかない。だって、ありえないっすよ、この好成績は。
●オリンピック(U23)ではこれで2大会連続優勝ということになる。2004シドニー、2008北京で優勝。ちなみに1996アトランタでは今回と同じくナイジェリアと決勝を戦い、惜しくも準優勝で終わっている。オーバーエイジを使っているとはいえ、これだけでも若年層での突出した実力の高さがわかるが、その下の年代、U20を見るとさらにすさまじい。
●実はU20ワールドカップ(旧名ワールドユース)でもアルゼンチンは連覇してるんである。直近2007カナダで優勝、2005オランダで優勝。スゴすぎる。でもこれ、さらに遡れる。間一つおいて、2001アルゼンチンでも優勝、また間一つおいて1997マレーシアでも優勝、1995カタールでも優勝。U23とかU20という大会はアルゼンチンのためにあるんじゃないかと思えるような、優勝猛ラッシュ。永遠の黄金時代が続いているかのようだ。
●あまりに強烈だから整理しちゃう。U20(2年毎)と五輪(4年毎)のアルゼンチンの戦績。-は決勝に進めなかった大会。

1995 U20優勝
1996 五輪準優勝
1997 U20優勝
1999 U20 -
2000 五輪 -
2001 U20優勝
2003 U20 ー
2004 五輪優勝
2005 U20優勝
2007 U20優勝
2008 五輪優勝

●もう笑ってしまうほど強い。今回のリケルメとメッシのチームなんて、そのままワールドカップに出ても決勝くらいまで行けそうな気がする。ところが、実際にはワールドカップでの最近のアルゼンチンはそれほどでもない。2006年はベスト8止まり、2002年はまさかのグループリーグ敗退、1998年もベスト8止まり。若年層の教育は完璧だけど、そのやり方では大人になると通用しないってこと? うーん、そうは思えないけどなあ。
●単にW杯では運に見放されているだけっていう気もする。別の言い方をすると、マラドーナがドーピング検査に引っかかった1994アメリカ大会、あのときマラドーナがナイジェリア相手にゴールを決めて、カメラに向かって「ウオオーーー!」って咆哮したあの瞬間に、呪われた黄金時代がスタートしたのかも。

August 23, 2008

肌寒い夏の終わりに

夏はみんなで光合成しようぜ!●なんだろうか、この急激な気温の低下は。つい昨日までは夏の太陽が強烈に照り付けていたというのに。今日はすでに秋の気配が感じられた。
●ワタシは夏が好きなのだ。秋の薄ら寒さは嫌いである。だから夏の終わりには物悲しい気分になる。しかし、例年東京は9月に入ってもまだまだ厳しい残暑が続いていなかっただろうか。まだ8月を一週間残してこの肌寒さはどうだろう。スーパーに買い物に行くと寒い。気温が低いのに冷房が効いているからだ。ブルブルと震えながら、ふと心配になった。この調子で年々気温が下がってしまっては困る。もしや地球は寒冷化しているのではないだろうか。
●地球科学における知見によれば、私たちが住むこの惑星には過去数度にわたって氷河期が訪れている。少なくとも4度の大きな氷河期があり、原生代末期の氷河期においては、氷が赤道までを覆いつくしたという。最近で言えばわずか1万年前まで北米とヨーロッパ大陸に氷床が拡大する氷期が続いていた。ウィキペディアの定義に従っていえば、氷河期には特に寒い時期の「氷期」、比較的暖かい時期の「間氷期」がある。そして、なんと、現在私たちが生きている時代は「氷期」と「氷期」の間にある「間氷期」だというではないか。現在は「間氷期」が1万2000年ほど続いているにすぎず、その温暖な時代に私たち人類はかろうじて文明を発達させた。
気候変動●ウィキペディアにあるこのPhanerozoic Climate Changeのグラフが目に留まる。これは顕生代の気候変動、つまり先カンブリア時代の終わりから現代までの気温の変化を描いたものだ。左が現代で、右へ行くと5億年強ほど遡る。青い線は短期の平均値、黒い線は長期の平均値をグラフ化している。いずれを見てもわかるように、約8000万年前から現代まで地球の気温は下がり続けている。
●私たちは来るべき次の「氷期」に、文明を維持することができるのだろうか。この不気味に涼しすぎる晩夏に思う、地球寒冷化問題に対して何かワタシ個人として一つでもできることはないだろうか。
●そう地球環境に思いを馳せながら買い物を済ませ、レジに進んだ。レジの女性が元気よく尋ねた。「レジ袋はご利用になりますか?」。ワタシはこう答えた。「く、ください。2枚くださいっ!」

August 22, 2008

ドイツ女子vsなでしこ、ニッポンvsウルグアイ

●なでしこジャパンが五輪銅メダルをかけてドイツと対戦。ワタシはサッカーを見るときは「ああ、オレがジダンだったら」「三浦カズだったら」「マラドーナだったら」と己を投影しながら観戦するタイプなので(←夢見すぎ。でも男子の基本)、その点でどうしても女子サッカーには興味が持てなかった。でも今回のなでしこは今までと一味違う。アメリカやドイツよりもずっとスペクタクルな美しいサッカーを展開する。これくらい気持ちいいサッカーだと、「もしワタシが丸山桂里奈だったら」とか思える、かもしれない。
●ドイツ戦は0-0までは内容で勝っていたと思うんだけど、リードを奪われてから焦りが出てしまったのが残念。前へ前へと急ぐあまり、前線に人を運ぶための中盤のタメがすっかり作れなくなっていた。それでもあれだけ質の高いサッカーをできたってのは立派、圧倒的に。
ニッポン!●で、その前日はキリン・チャレンジ、ニッポン代表vsウルグアイ代表があったんである。五輪期間中だし、開催地が札幌だということもあって、あまり注目されてなかったかもしれないんだが、実は好ゲームだった。といってもニッポンがよかったんじゃなくて、ウルグアイがすばらしかった。代表の親善試合の相手って、しばしば「えっ、これがA代表なの!?」みたいなチームを連れてくるじゃないっすか。そういう「興行」のために埼玉とか新横浜まで足を運ぶのが最近ヤになってきてたんだけど、今回のウルグアイは本物だった。各国の有力クラブに在籍する選手たちをずらりと並べ、次のW杯南米予選、対コロンビア戦のための強化試合として、本当のサッカーを見せてくれた。札幌のお客さんは幸運。
●ニッポンにある程度攻めさせながら試合を進め、先制されても慌てず、相手の守備の隙を見つけて好機を作り、決定機にはことごとく決める。1-3。成熟度がまるで違うという印象。南米ではこれだけやってもW杯出場権をギリギリ得られるか得られないかというレベルなんだから、正直アジアの出場枠はずいぶん優遇されていると思う。
●岡田ジャパンは小野伸二が超久々に復帰、鹿島の青木剛と清水の高木和道が代表デビュー。帰ってきた大黒も途中出場。うーん、でもどうなんだろか。全体に運動量が不足気味かも。田中達也の突破力が救い。

August 21, 2008

メダルゲット!

●やりました、ついに念願のメダルをゲット! 天空城のタンスから見つけました、小さなメダル、さっそくメダル王の城で「メタルキングの盾」と交換デス! 守備力50は最強、しかもラリホー、メダパニ、ザキ耐性あり♪
●……とか、4年に1回くらい書いてる気がする。
●えーと、2008から1995を引くと13か。本日、当サイトが13歳になりました。ああ、13年もこんなことをやってるなんて。そろそろ書くことがなくならないだろうか。というかネタが循環しているかもしれん。書くことない日は、10年位前の当欄からコピペして凌いでます。ウソです。祝13周年。今後ともよろしく。
radio_green.gif●オンデマンドで配信中のBBCのProms、各公演一週間限定の公開なので、うっかりすると聞きそびれてしまう。たぶんもう今日くらいで消えると思うので、慌ててドゥダメル指揮エーテボリ交響楽団(Gothenburgでエーテボリって訳すんですよ!)の公演を聴く。去年はシモン・ボリバル・ユース・オーケストラを率いて大盛り上がりだったっけ。今年はラヴェルの「ラ・ヴァルス」、ヒルボリのクラリネット協奏曲「孔雀の物語」(英国初演)、ベルリオーズの幻想交響曲。「幻想」の第2楽章が終わったところで、気の早い人がもう「ウヒャーオ!!」って一人で奇声をあげて盛り上がってたけど、気持ちはよくわかる。ヤンチャ度高くて、終楽章の大爆発の後はブラボーの嵐。いいなあ。アンコールにステンハマルのカンタータ「歌」の「間奏曲」をしっとり聴かせて、最後はお楽しみ、「ティコティコ」を演奏し、観客は立ち上がって踊り出す(というのは想像で、音しか聴いてない。でも何か「オオッ」って客席がどよめいて、みんな手拍子を打ってた)。スゴいサービス精神。千秋真一になくてドゥダメルにあるのはこのノリだな(笑)。もうお客は「ウヒャーオ!!」って叫び放題、ワタシもPCの前で小声で「ウヒャーオ」。

August 20, 2008

アルゼンチンvsブラジル@北京五輪準決勝

アルゼンチン●うーむ。太ってる。どう見ても太ってる……。これで往時の切れ味鋭いプレイができるはずがない、ロナウジーニョ。
●オーバーエイジを容赦なく使って、アルゼンチンには王様リケルメが君臨していたし、ブラジルにはロナウジーニョがいた。でもその意味合いはぜんぜん違う。リケルメはいつだって王様としてしかふるまえない。事実、この日も王様で、みんなリケルメがすっと近づくとボールを渡して、恭順の意を示す。どんなにメッシが天才だろうが、フリーキックやPKはリケルメに第一選択権がある。アルゼンチン代表やボカ・ジュニオールズにいるときのリケルメは生き生きとしている。バルセロナに在籍していたときは世界中の不幸を一身に背負ったような顔をしていた。王様になれなかったから。
●ブラジル五輪代表のメンバーはロナウジーニョを見てプレイしていない。ロナウジーニョはもしかしたら、すでに「貯金でプレイする」域に入ったのかもしれない。太っててもそりゃスゴいっすよ。でもあの体型で魔法のようなエラシコを見せてくれるとは思えない。このままでも十分しばらくトップレベルでプレイできることはできるだろう。レアルマドリッドにいたロナウドだって、太りつつもゴールを量産した。バルセロナ時代の疾風のように駆け抜けるロナウドとは別人だったにせよ。マラドーナは太るだけに留まらず、ありとあらゆる欲望を満たそうとした。
●せっかく富と名声を手に入れたのだ、人生を謳歌して何が悪い。ビバ放埓な人生! マスコミやサポーターの理不尽な批判や要求などにいちいち耳を傾けてなんかいられない。さあ、遊ぶぞ! ワタシだったらそう思う。いや、ロナウジーニョやロナウドほどもガマンできない。巨額の契約金を手にしたらさっさと一年で引退して、リゾート地にマンションでも買って後はつましくのんびり暮らすだろう。もうピッチにも立たないし、旅人にだってならないよ!
●……などと考えるような志の低い人間なので、太ったロナウジーニョを見ても、共感こそすれ、批判しようという気にはなれない。メッシ、最高だ。でもメッシだってあと5年くらいしたらどうなってるかわからないっすよ。変わり果てた体型でマラドーナと一緒にスタンドでふんぞり返ってるかもしれない(まさかー)。
●そう考えると、やっぱりジダンとかって偉いね。偉いというか、美しい。節度って美徳だ。ああ、それなのにマテラッツィに頭突きなんかしてしまって(涙)。
●と、どんどん話がズレる。えっと、試合は3-0でアルゼンチンが圧勝。どちらも異次元の巧さで、試合内容はとてもオリンピックとは思えないほどレベルの高いものだったが、チームに一体感を欠いたブラジルに勝ち目はなかった。

August 19, 2008

いつも心に伝説を

●「なでしこジャパン」の北京五輪準決勝、対アメリカ戦、先制しただけに惜しかったっすね。「なでしこ」は本当に足元が巧いし、スピードのある選手も何人かいて、質の高い見ごたえのあるサッカーをしていた。しかしアンラッキーな面もあって2-4と大量失点で完敗。
●3失点目はややキーパーが前に出ていたところをループで頭上を越されてしまったという悔やまれる形。で、続いてアメリカが右サイドからクロスを入れようとしたら、ミスキックでアウトに回転がかかり、これがまた不運にも日本のキーパーの頭上を越してゴールに入ってしまって4失点目。ワタシがキーパーだったら、泣きたくなるような失点だ。ポジショニングを後ろ目にしていればどちらも防げただろうが、その分、前には弱くなる。自分のプレイスタイルとの兼ね合いもあるから難しい。それにしてもよりによって、あんなところにボールが飛ぶかね。
●でも力を落としてはいけない。どんな名キーパーもミスをする。伝説の天才ゴールキーパー、イギータですらワールドカップで恥ずかしい大チョンボをやってロジェ・ミラにゴールを奪われた。それでも己のプレイスタイルを貫かないと、本質的に「ミスのスポーツ」であるサッカーは戦えない。
●ちなみにコロンビア代表のイギータは、フィールドプレーヤー並に足を使い、状況によっては前に出てそのまま攻めあがるというほどの超攻撃的ゴールキーパーだった。後にゴールキーパーとフォワードを兼任したカンポス(メキシコ代表)や、フリーキックからゴールを決めるチラベルト(パラグアイ代表)といった選手が出てきたが、イギータは彼らの先駆者と言っていいだろう。だがイギータが伝説の存在となっているのは、単に奇跡的セーブを連発したり、特異なプレイスタイルを持っていたからではなく、記憶に残る「伝説のプレイ」を残したからだ。大選手はみな「伝説のプレイ」を持つ。マラドーナならワールドカップの「五人抜きゴール」、ファン・バステンならユーロでの浅い角度のボレー、そしてイギータにはこの「スコーピオン」がある。

●スコーピオン(さそり)キックでゴールを決めた選手は何人かいるが、ゴールを守った選手はイギータだけだ。これを天才と呼ばずしてなんと呼ぶ。対戦相手のイングランド代表監督をはじめ、多くの人々がこのプレイを見て言った、「それ、手でフツーに取れるじゃん」。チッチッチッ、詩人の心を持て。サッカーはファンタジーだろ!

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※おまけゴルゴル。イギータのフリーキック

August 18, 2008

ブラジルvsカメルーン@北京五輪

●北京五輪はどの競技のどの試合をいつどこのチャンネルで放映しているのか、全然わからんなー。情報が不足してるんじゃなくて、多すぎるのかも。で、男子サッカーの準々決勝はこの1試合しか見つけられなかったのだが、ほかの試合は放映されたんだろうか。
ブラジル●で、ブラジルvsカメルーン。ブラジルはロナウジーニョがオーバーエイジで出てる。つい数年前までは毎試合神のようなプレイを連発していたのに、昨シーズン途中からバルセロナで出場機会を失っていたロナウジーニョ。出場していた頃も、いつも「本来のロナウジーニョではありませんねえ」って言われてた。それが、念願のオリンピック出場を果たしてみると、なんと! やっぱりロナウジーニョは「本来のロナウジーニョではありませんねえ」って言われてた(by相馬直樹)。もうサッカー解説者はロナウジーニョを見るたびに反射的に「本来のロナウジーニョではありませんねえ」って言い続けていてOKな気がする。ファウルをもらおうと倒れるロナウジーニョの姿に漂う悲哀。でも本来ってどの辺が本来なんだ。「本来、この人は神であるはず」と信じられてしまった人間は大変だ。
●以前、オリンピックでカメルーンとブラジルが戦って、二人退場者が出ていたカメルーンが延長で勝ったことがあったじゃないですか、たしか。二人減って延長戦だったらスカスカになってて何でもやられ放題だと思うのに、ブラジル相手にゴールしちゃう。何者っすか、この人たちは。という記憶あり。
●そしてこの試合でもやはりカメルーンから1名退場者が出て延長に突入したのだが、そうそう奇跡が起きるはずもなく、ブラジルが2ゴールを美しく決めて準決勝進出。2-0。
●試合後にアルゼンチンvsオランダのハイライトが放映されて、そっちは凄まじかった。メッシがありえない超絶プレイを次々と披露してて、「これがワールドカップだったら伝説なのに」と妙に惜しい気がした。次の準決勝アルゼンチンvsブラジルは必見かと。

August 16, 2008

行ったことないのに知りすぎてる路地

●仕事で出かける際に、さっそく巷で話題のアレを試してみた。えーっと、ヒト様の家の洗濯物とかヤバい場所を歩いてる通行人とかワールドワイドに丸見えのアレ。あ、思い出した、Googleストリートビュー
●これ、日本の地方都市だとまだまだ撮影されてないところも多そうなんだけど、都内だと裏通りの細い路地まで全部撮影されてて驚く。えっ、こんな道まで。訪れたことのない場所でも予習というか事前訪問しておけるという革命的なアイディアで、これを世界レベルでやれるとするとホントに恐るべしGoogleな感じ。こういう想定外のテクノロジーを社会が無条件に許容できるかどうは別問題としてあるだろうけど。
●今日の訪問先は知っている場所だったんだけど、待ち時間が発生するから近くにお茶したり軽食をとったりできるお店がないかと思って利用してみたのだ。確かに便利。なるほどこう行くとスタバがあってドトールがあって、ここを曲がるとカレー屋が2件あって……とか。どんどんクリックしたりグリグリしたりして、行ったことのない路地にも入って、すっかり出かける前から出かけ終わった気分になり、危うく遅刻しかけた。なんか、これだけ画面で出先を訪問しちゃうと、もう出かけなくてもいいっていうか、たとえば打ち合わせだったらそのままSkypeとかで済ませちゃえばいいんじゃないの? みたいな気になる。いや、Skypeで済ませるんなら、最初からGoogleストリートビューでバーチャル訪問する必要はないか。あー、でも、いやいや、まあいいか。
●唐突に言うのだが、「なでしこジャパン」は巧い。彼女たちにあやかって、男子サッカーのほうは「ますらおジャパン」と命名したらどうか、と書こうと思ったが、よく考えたら前に同じネタを書いてたのだった。と結局書く。

August 14, 2008

オランダvsニッポン@北京五輪録画済待機中

オランダ●すでにグループリーグ敗退が決まっているニッポンと、これに勝たなければ決勝トーナメントに進めない崖っぷちのオランダの対戦。暑気払いイベントと重なったので、ビール片手に横目でチラチラとしか見てなくて、0-1(PK)で負けた結果を知った今となっては録画観戦へのモチベーションが激しく低下しているのだが、これだけ相手の本気度の高い状況で後半28分まで0-0を保っていた、しかもシュート・オン・ターゲットの数でニッポンが上回っていた、相手にはバベルとかオーバーエイジのマカーイがいた、ってことを勘案すれば好ゲームだったのかもしれん。あのポストに当たったシュートが入っていればなあ、と悔やんでみたり。
●結果的に勝点0は予想通りで、近年のオリンピックやユースなど若年層の大会を振り返ってみれば、結局のところトルシエ率いた黄金世代が突出した戦績を残していたんだなあと改めて思う。いやフル代表でもそうか、ワールドカップが地元開催だったとはいえ。その世代以降の世界トップレベルとの距離感は「元に戻った」だけというか、特に近くなってるとも遠くなってるとも感じない。ただアジア地域の底上げがあるので、その分だけアジア予選が厳しくなっている感じ。
●ポルトガルの黄金世代なんかもそうだったけど、タレントって特定世代に集中して生まれる傾向がある気がする。強い世代はそれだけ成長期に豊富な経験を積めるからさらにその世代が強くなるという正のフィードバックが働くのか、あるいは等しい確率で誕生するタレントがたまたまその世代に偏在しただけの統計的な現象なのか、どっちなんだろう。
●決勝トーナメントはアルゼンチンとブラジル見るぞ。

August 13, 2008

「のだめカンタービレ」#21 ネタバレなし

のだめカンタービレ●最新刊ゲット。「のだめカンタービレ」第21巻。今回は帯に「夢色☆クラシック」でおなじみの佐久間学先生が登場。物語本編でも「クラシックライフ」の編集者とともにRuiの復帰コンサートを取材するためにパリ出張。なんてリッチな雑誌なんだ、「クラシックライフ」(笑)。あと佐久間学先生の使ってるICレコーダーがワタシのと同じっぽくて、少し嬉しい。オレもがんばってポエム読むぞ!と決意(ウソ)。
●話の本筋のほうはあれとかこれとかあって大いに盛り上がっております。Ruiにもっとも「のだめ」的なラヴェルのピアノ協奏曲で千秋と共演させるとか、演出的にも見どころ多し。
●スパム対策に今まで「の◎だめ」とか書いてたけど、今回からフツーに「のだめ」って書いてみる。いろいろ対策を講じたので。
曼荼羅交響曲もよろしく♪●で、クラヲタ的にはやっぱり千秋のこの選曲かと。黛敏郎の「舞楽」。パリのお客さんには大ウケ。いや、そこまでがんばらなくてもいいって気もするんだけど。amazonの「あわせて買いたい」コーナーに、黛と「のだめ」が並ぶかどうか、しばらく注視。

August 12, 2008

オリンピック横目観戦中

カヌーでスラロ~ム●開幕前は特に関心はなかったんだけど、うっかり見ちゃうとやたらとおもしろい北京オリンピック。番組表とにらめっこして見たい競技を録画する、なんていうことをするにはあまりにもボリュームがあって、たまたまテレビをつけたらやっていたものを見ることしかできないんだけど。
●なじみがなさすぎて「さっぱりわからない」競技が特におもしろかったりする。今日感動したのは男子カヌー・スラローム。会場内に川みたいなのがあって、腕っ節の強そうな男たちが猛烈パワフルにカヌーを漕ぐ。正確にゲートをくぐりながらスピードを競うというスポーツみたいなんだけど、だれがどうスゴいのかさっぱりわからない。でもたぶんみんな天才なんだろうってことは伝わる。人と戦うっていうより濁流と戦ってるって点で、超格闘技な気がする。
●フェンシングもさっぱりわからないけどスゴい。どちらがポイントを取ったのかすらわからない。サッカーとか野球でどっちが点を入れたかわからないなんてありえないのに、フェンシングはフツーにわからない。しかも体中が電気的に武装されているみたいな感じで、あと一歩でサイボーグな雰囲気が吉。「そのコードが外れたら、わたしは3分しか生きてられないのよ!」とか勝手に女子選手にアテレコしてみる。
●水泳はガンガンと世界新記録が出てる。世界新で金メダルとかじゃなくて、予選でもう世界新とか。この勢いで記録が伸びていくとすると、数大会後にはサカナに進化してそうだ。メダリストはサカナ。そしてサカナの子が生まれる。ある日、サカナの子は人間の少年と出会い、友情が芽生え、自分も人間になりたいと……って、もういいか。はやく人間になりたいっ! (それベム)

August 11, 2008

ナイジェリアvsニッポン@北京五輪

ナイジェリア●うーむ、見てられない。怖くて見てられない。バックラインでボールを回していても、少し精度が狂っただけで相手にボールをかっさらわれてゴールされそうな気がする。技術もスピードもパワーもすべてが違いすぎる。
●でもこの年代で世界最強レベルを相手にしていると思うと、希望の持てる内容だったんである、ホントは。安田と内田の両サイドバックはこのレベルでも仕掛けられるし、いいクロスも上がる。谷口は今日もよくやってた。本田圭はさすがと思わせるところもあるんだけど、欧州組であるゆえにこれくらいでは誰も満足してくれなさそう。香川が一回だけ才能の片鱗を見せてくれたけど、それ以外はあまりにもミスが多い。日頃J2でプレイしている選手がいきなり欧州の有力クラブの選手がずらっと並んだチームと戦うとこうなるのか。普段なら取られないボールが簡単に奪われるし、マイボールになりそうに思えても全然ならない。
●前半は五分の戦いを見せたけど、後半2失点して、その後途中出場の豊田が1ゴール。2-1でナイジェリアが勝利。
●結果が伴わなかったのは残念だけど、内容的にはアメリカ戦よりははるかに良いゲームだった。このメンバーで「ここまでやれるのか」と思ったくらい。これが1戦目だったらずいぶん期待が高まっていたとは思うが……。後はオランダ戦のみ。オランダはアメリカと2-2で引分けてしまったので、彼らにとっては「勝つしかない」という背水の陣。強烈な試合になりそう。

August 8, 2008

ニッポンvsアメリカ@北京五輪

ニッポン!●オリンピック開幕。オリンピックというのはサッカー界にとっては微妙な存在なんである。U23国際大会なんだけど変則的にオーバーエイジが参加可能で、FIFA以外の組織が運営していて、なぜかヨーロッパ枠が異様に少なく、しかもイングランドやスコットランドにいたっては「国ではない」という理由で存在しないことになっていて、真夏に消耗戦をやるという大会だ。ワールドカップやアジアカップなら何大会前までも優勝国を記憶してるが、オリンピックとなると前回王者すら忘れてしまっている。だいたいサッカーって夏季五輪じゃなくて冬季五輪でやるべき種目なんじゃないのか(笑)。気温が35度もあったら、それは別のスポーツでは。もうサッカー界はオリンピックに参加するのをやめて、自前のU23大会を6月くらいにやったらどうだろう。そうすれば欧州のクラブが選手を出さないなんてこともなくなるだろうし。8月に大会なんてムリムリ……。
●と毒づいているのがなぜかといえば、それは明らかだ。ワタシは今、全力で負け惜しんでいる。あーあ、アメリカに負けてしまって、後はオランダとかナイジェリアだ。化物みたいな選手がごろごろいるんだろなー。もともと勝点は3試合で0か1とは予想してたんであり、北京五輪を醒めた目で見ていたのだが、現実に試合が始まってみればもはや猫にマタタビ、女郎に小判、ドラえもんにどら焼き、クッキーモンスターにチョコチップクッキー状態であり、猛烈にエキサイトして観戦しているのであって、U23がどうのこうのというのは関係なくなるのだ。ボールをどんどん回して、吐くまでアメリカ人たちを走らせよ。事実、前半は猛暑にとまどうアメリカ相手にニッポンがボールを支配していたのであるが、よく考えると、ゲームは支配されていたというか、まさかという感じだがアメリカのほうが試合巧者だったんである。0-1
●でもほんのわずかな偶然が運命を支配してるんすよ、微妙なところで。ニッポンが勝っててもぜんぜんおかしくない内容だった。アメリカはゴール前のこぼれ球から絶好のシュートチャンスを得てゴールした。残りの2試合は「偶然」とか「微妙」とかをはるかに超越して、永遠に追いつけないレベルの差を痛感することになるんだろうな。ああ、そうなったら、どうやって負け惜しみしよう。
●アメリカはキーパーの質が高かった。ニッポンは内田が右サイドでがんばってた。谷口もよく走った。森本の1トップは意外。前にスペースが欲しいタイプだと思ってたので。中盤の守備はしんどそう。主審はニッポンにフレンドリーな甘口タイプだったのに。終盤、エリア内で倒れた豊田陽平にPKをくれなかったけど、文句は言えない。ダイブっぽく見えたし、その前に長友が一度見逃してもらってる。アメリカは一度として自陣ゴール前でファウルを犯さず、ニッポンにフリーキックの好機を与えてくれなかった。ああ、ヤだヤだ、あんな大人のサッカーをよりによってアメリカにされてしまうなんて。

August 7, 2008

オペラハウスを爆破せよ

●「オペラハウスを爆破せよ」とは若き日のブーレーズの有名な言葉だが、もちろん比喩的な発言であって、本当に爆破しようという話ではない。何年か前に、この昔の発言がもとで、勘違いをしたスイス当局にブーレーズが一時拘留されたというニュースがあった。あまりにもおかしなニュースだったので、もとのウェブページをどこかに保存しておいた記憶があるのだが、あれはどこにいっただろうか……。しかし笑えるようで笑えない話でもある。そんな古い発言が、しかも明らかに芸術上の比喩とわかるものが、国家権力には伝わらないなんて。
ホテル・ニューハンプシャー●オペラハウスの爆破について言及したのはブーレーズだけではない。もっと直接的な、テロとしてのオペラハウスの爆破計画が描かれているのが、ジョン・アーヴィングの名作「ホテル・ニューハンプシャー」だ。祖父、父母、五人兄弟姉妹の三代に渡る、大人のための少々過激なお伽噺であり、美しく悲しい愛の物語でもある。一家は廃校になった女子学院を改装してホテル・ニューハンプシャーを開業する。そこで「フロイト」と仇名されるウィーン出身のユダヤ人と出会い、後に一家ごとウィーンへと移住し、第二次ホテル・ニューハンプシャーを開く。このホテルに出入りする過激派たちが、オペラハウス爆破を計画する。オペラハウス、つまりウィーン国立歌劇場のことだ。
●テロリストはウィーン市民が崇拝するオペラ座を爆破することで、世界の耳目を引くことができると主張する。五人兄弟の一人がテロリストを翻意させようと、こう言って食い下がる。「今夜のオペラは満員の客を集められるオペラじゃないんだ。ウィーン市民が群れをなすモーツァルトとかシュトラウスじゃない。ワーグナーですらない。『ルチア』なんだ。ドニゼッティのオペラに値打ちがないことなんてワグネリアンじゃなくてもわかるだろう。もっと別のオペラの夜にしろよ。『ルチア』なんか吹っ飛ばしたら、ウィーン市民は拍手喝采して喜ぶぞ」
●笑。ジョン・アーヴィングはニューハンプシャー生まれのアメリカ人だが、ウィーン大学に単身で留学している。小説の中では家族で移住することになって、渡欧する前にみんなでドイツ語やウィーンの文化について予習したりする。兄妹でこんな感じでクイズを出し合ったり。

「こんどはお前の問題だぞ。天才的作曲家で、おそらく世界で最もすぐれたオルガン奏者だ。ところが彼は田舎者で、帝国の都ではまったくの世間知らずだった--そして若い娘とみると首ったけになるばかげた習癖があった」

 さあ誰でしょう。って、クラヲタならブルックナーって即答できる問題っすね。
●最近バイロイトのワーグナーを聴いてたから思い出したんだけど、五人の兄弟姉妹のなかの二人には、「ジークリンデとジークムント」的な問題があったりするんすよ……。ジークリンデとジークムントはジークフリートを生んだけど、さすがにここではそうはならなくて、呆気に取られるような通過儀礼を経て問題を乗り越える。20世紀の神話と呼ぶべきか。

August 6, 2008

ミュージックエンタテインメント

●テレビを見てたら、気鋭の若手アメリカ人ボクサーの腕に「犯人」のタトゥーが。やっぱりお前かっ! って何の犯人?
●ソニーがソニーBMGの完全子会社化を発表。新会社名はソニー・ミュージックエンタテインメント・インク(SMEI)。つまりこれまでソニーと独ベルテルスマン(BMG)とで半分ずつだったソニーBMGが、100%ソニーになる、と。やっとSONY/BMGの表記に慣れてきたと思ったら。でも日本国内では今もソニーとBMGJAPANはそれぞれ別の会社なんだけど、どうなるんだろう。
●資本が入れ替わるとレコード会社の名前はどんどん変わる。ポリグラム、ポリドール、CBSソニー、BMGビクター、ワーナーパイオニア、東芝EMI……。どれも今は使われていない社名だ。今の四大メジャーは、ユニバーサルミュージック、EMIミュージック、ワーナーミュージック、ソニーBMG(→ソニー)。うっかり今でもEMIを「東芝」と言いそうになる。

August 5, 2008

「真・神々の黄昏」

●ふう。先週のバイロイト音楽祭の中継だが、結局最後の「神々の黄昏」は第1幕と終幕のみ聴いた。第1幕を生で聴いて力尽き(スマソ、ブリュンヒルデ)、第2幕はあきらめたが、第3幕を聴かないのも惜しいと思い、楽しさは半減するものの録音で対応。
ワーグナー●で、これがもう圧倒的にすばらしい。「ラインの黄金」から「神々の黄昏」まで、結局全体の半分も聴けなかったと思うが、それでも「神々の黄昏」終幕は感無量。これほど壮大なスケールの音楽を単に「オペラ」と片付けたくはなく、楽劇とか舞台祝祭劇とか言いたくなる気持ちはわかる。こんな巨大な作品をたった一人で創造したワーグナーって、ずばり、天才だな(←みんな知ってるよ)。
●ワーグナー聴いてると、もうずっとワーグナーさえ聴いてりゃ後は何でもいいじゃないかみたいな怪しい気分に陥るから危うい。ほどほどにしとこ。
●最近大作映画はヒット作の続編ばかり、みたいなことを耳にするけど、だれかワーグナーくらい才能のある作曲家が「神々の黄昏」の続きを書いてくれないか。「神々の逆襲」とか「神々の最後の黄昏」とか「神々の黄昏・外伝」とか。いや、元ネタの北欧神話があるからそうそう勝手なことはできんか。ラグナロク以後の新たな時代の神々の復活と世界樹に守られた二人の人間による新時代の幕開けを描く、超大作楽劇!みたいな感じで。「CG使ってません!」とか。意味不明だが。
●ていうか現代にワーグナーが生きていたらこんな神話的なオペラは書かないか。ウケないし。「ワーグナー大先生、次のオペラは?」「うむ、海を舞台にしようと思う。金魚の女の子がいるのだが、それが少年と出会って、人間になりたいと思ってだな……」
●とか。冗談抜きでポニョの本名が「ブリュンヒルデ」って知ってた?
●「あー、テレビつけると今度のワーグナーの新作オペラのテーマ曲がずっと鳴ってて、頭にこびりつくー。ほら、あれ、♪サカナ、サカナ、サカナ~。えっ、違う?」
●ウソ。見てないし、ポニョ。
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●告知を一つ。衛星デジタルラジオのMUSIC BIRDさんにて、「MUSIC BIRDのクラシックワールドへようこそ」キャンペーン実施中。クラシック入門クイズがたぶん週替わりくらいで出題されるはずなのだが、クイズの一部についてご協力させていただきました。よろしければお試しを。

August 4, 2008

夢の島競技場で初観戦

夢の島競技場●Jリーグはお休みだったこの週末、しかしJFLは試合があったのだ。「東京第三勢力」たる横河武蔵野FCvsジェフリザーブズ。で、これは横河武蔵野FCのホームゲームなのだが、いつもの武蔵野陸上競技場は11月まで使えないらしくて、なんと、夢の島競技場での開催だったんである。夢の島ってあの埋立地のあそこだ。ブックフェアに行くときに通る豊洲よりももっと向こう側。武蔵野陸上競技場起点で考えると、完全に東京の反対側の果てって感じがして、心理的には大変遠い。むしろそれって武蔵野よりもジェフのホームだろうってくらいに。行ってみると案外近いんすけどね。
●ちなみにジェフリザーブズっていうのはJEF千葉の下部組織でアマチュアチームという位置付け。Jリーグの中では珍しいタイプの存在。
●で、試合内容は武蔵野本来の堅守が戻ってきた感じで、コーナーキックのこぼれ球を思い切って蹴った安東のシュートが決まって1-0で勝利。久々のホームゲームの勝利で嬉しい。18時キックオフで涼しかったこともあり(真夏に13時とかに比べれば)、引き締まった好ゲームだった。観衆530名。いつもの半分ほどだが、地元から遠いんだからしょうがない。
●夢の島競技場は飲食物の売店がまったくないのが辛い。最寄り駅は新木場。駅周辺にはいくらかお店があることはあるが、この競技場に足を運ぶときは事前に食べ物などは用意しておいたほうが吉と見た(←その情報ここに書いて誰の役に立つの?)。あと座席数は意外と少ない。駅からは近いんだけど、町が大作りだから地図で見るより遠く感じる。道路を絶え間なくトラックが轟々と走っていておののく。
●競技場の反対側は夢の島公園になっている。ここは熱帯植物館もあるそうなので、次の機会があればぜひ訪れてみたい。

August 1, 2008

バイロイト、ザルツブルク、プロムス開幕中

●寝不足だったので早寝、バイロイトの「ジークフリート」生中継は聴けず。惜しいことをしてしまった。といっても、聴いたとしてもどうせ最後までは聴けないんだけど。「神々の黄昏」は2日深夜。23時開始か。週末なので比較的聴きやすいが、長いので第1幕だけでも起きてるのは厳しいかも。
●本日1日深夜はザルツブルク音楽祭のヴェルディ「オテロ」もあり。ムーティ指揮ウィーン・フィル。ORF他で中継。現地19:30からなので、こちらだと深夜2時30分スタート。これくらい遅いと、さすがにもう生では付き合えない。最近、早寝だし。
●ところで、上記のORF「オテロ」のページを見てると、右側に何か気になる文言があるじゃないっすか。ドイツ語は読めないのだが、FAQ Downloadsとかいう文字がチラッと見える。えっ、もしかしてこれ、ダウンロードできるの!? と一瞬色めくワタシ。

Richtig runterladen
Schritt 1: Log-in
Schritt 2: Download-Berechtigung

Ihre Download-Berechtigung kostet fur ein Jahr EUR 39,- und umfasst 360 Downloads.

●ドイツ語を読めないなりに超能力で解すると(笑)、年間39ユーロを払えばダウンロードできるって書いてあるような気がする。で、勢いで ORF.at-Community っていうのにアカウントを作ってログインしたが、待て待て、落ち着け、支払い情報を入力する前に。これも超能力による推察だが、ダウンロードできる番組は番組表に * が付されたものだけっぽい。そして * が付いているのは、 GESELLSCHAFT とか WISSEN とかRELIGION といった種類の番組ばかりで、MUSIK にはぜんぜん付いていない。
●そうか。そうだよなあ、さすがに年間39ユーロであれもこれも落とせるわけないか。とスゴスゴと引き下がる。でも超能力読みなので全部誤解かもしれない……いや、でもやっぱりムリだよなあ(ウジウジ)。
●一週間オン・デマンドで聴かせてくれるBBC Promsは偉い。

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