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2021年3月アーカイブ

March 31, 2021

モンゴル代表vsニッポン@ワールドカップ2022カタール大会 アジア2次予選

ニッポン!●ワールドカップ予選と言われても、久々すぎて「えっ、今どこまでやったんだっけ……ていうか、いつのワールドカップ?」くらいの気分だが、ウイルス禍で中断されていた予選がようやく再開。といっても、かなり奇妙な形だ。モンゴルホームの試合をなぜか千葉のフクダ電子アリーナで無観客開催することに。現状、モンゴル国内では国際試合が禁止されているそうなのだが、そこで中立地開催ではなく、日本で試合を開催することになった。あくまでモンゴルの主催試合扱いなので、放映権料や協賛金はモンゴル協会に入るという。モンゴル代表はいわゆる「バブル方式」で来日。
●で、試合結果はモンゴル 0-14 ニッポンという近年の国際試合では目にすることのなくなった大差のゲームに。これが親善試合だったらマッチメイクのミスということになるが、なにしろ公式戦、それもワールドカップの2次予選なのだからしょうがない。モンゴルはすでに2次予選敗退が決まっていたので、結果にこだわらずに戦った面もあるのかもしれないが……。ともあれ、こういった試合展開で怖いのはラフプレイによるケガだが、試合が荒れることもなく、フェアプレイ―で臨んだモンゴルには敬意を表したい。
●ニッポンは先日の韓国戦から両サイドバックを入れ替えた布陣。GK:権田-DF:松原健、冨安(→畠中)、吉田(→中谷進之介)、小川諒也-MF:守田(→浅野)、遠藤航-伊東、鎌田(→稲垣祥)、南野(古橋)-FW:大迫。もともと参加可能な海外組選手が限られていた上に、途中交代の人数が多かったこともあって、かなりフレッシュ。前半で5点、後半で9点、しかもそのうちの3点がアディショナルタイムというのがすごい。得点者だけ順に挙げると、南野、大迫、鎌田、守田、オウンゴール、大迫、稲垣、伊東、古橋、伊東、古橋、浅野、大迫、稲垣。大迫はハットトリック。力の差が大きかったことはともかくとして、所属チームで苦境にある大迫に結果が残ったことがうれしい。

March 30, 2021

「反省記」(西和彦著/ダイヤモンド社)

●これは抜群におもしろい。西和彦著「反省記」(ダイヤモンド社)。草創期のマイクロソフトに押しかけてビル・ゲイツと意気投合し、マイクロソフトの中核メンバーとして副社長まで務めるものの、結局ビル・ゲイツと対立して退社、アスキーの社長になり史上最年少で上場させるが、その後、資金難に苦しみ、最後は自分で作った会社を追い出される。その半生を振り返る半生記ならぬ反省記。かつて月刊「アスキー」をワクワクしながら読んだ身としては、驚きの連続。
●主にパソコンの世界の話だが、パソコン雑誌「アスキー」創刊のくだりは出版業界の話でもある。出版業界は新規参入者にすごく厳しい業界で、本を作るのはどんな会社でもできるが、それを書店に流通させるのは至難の業。で、創刊したばかりの「アスキー」もやっぱり本を書店に置いてもらえない。パソコン雑誌が求められていた時代、置けば絶対に売れるとわかっていても、流通に乗らなければどうしようもない。著者たちは車に「アスキー」を積んで直接書店に行商に行く。当然、書店は「そんなの置けないよ」というに決まっている(普通、本とは取次を通して仕入れるものなので)。そこで、著者たちは二人組で秋葉原などの書店を回り、ひとりが「アスキー」を売り込む。で、断られると、トイレを貸してほしいと言って、雑誌の束をポンと置いてトイレに消える。そのタイミングでもうひとりが客のふりをして雑誌をしばらく立ち読みして、さっとレジに持っていく、という作戦。これは書店員さんへのインパクトは抜群だろう。トイレから戻ってくると、書店員さんが今一冊売れてしまったから清算しなきゃという話になって、取引が始まる。実際に置いてもらえさえすれば確実に売れる本だったから、そんな作戦が通用したのだと思うが、かなり愉快な話。

March 29, 2021

東京春祭 for Kids 子どものためのワーグナー「パルジファル」(バイロイト音楽祭提携公演)LIVE Streaming

東京・春・音楽祭 2021●27日は東京・春・音楽祭の子どものためのワーグナー「パルジファル」(バイロイト音楽祭提携公演)をライブ・ストリーミングで。会場は三井住友銀行東館ライジング・スクエア1階アース・ガーデン。前から気になっていた「子どものためのワーグナー」シリーズ、配信ながらようやく観ることができた。キッズ向けワーグナーというだけでも大胆なアイディアだが、なかでも「パルジファル」はもっともチャレンジングな題材だろう。超コンパクト編成で、長大な「パルジファル」をぎゅっと1時間にまとめて。石坂宏指揮東京春祭オーケストラ、大沼徹(アムフォルタス)、河野鉄平(ティトゥレル)、片寄純也(パルジファル)、斉木健詞(グルネマンツ)、友清崇(クリングゾル)、田崎尚美(クンドリ)他。冒頭にカタリーナ・ワーグナーからのビデオ・メッセージあり。
●まず、子ども向けとはいえ、歌唱はドイツ語、台詞は日本語というハイブリッド仕様。どんなストーリーになっていたか、あえて本来の「パルジファル」は忘れて、見たままをざっくり書く。まず汚いオッサンが出てきて、次に王様が槍で刺されて、オッサンが薬を作るんだけど王様の傷が治らない。そこに腕っぷしの強そうな若者があらわれて、魔法の石グラールの説明があって、開始20分もしないうちに時間が空間になって、空間が時間になる。おお、本家もこれくらい話が早ければいいのにねっ!(ウソ)。若者はおねえさんたちにお菓子と風船で誘惑されるんだけど、誘惑を断ち切って、槍を王様の傷にあてると、たちまち傷が治って王様は元気になる。で、若者が新しい王様になって、みんなハッピー。すごい! 本当に60分で終わった。
●歌手陣は芸達者で、ちゃんと日本語台詞で子供の興味を引き付けることができていたんじゃないだろうか。一方、ドイツ語歌唱は子供もわからないし、普通の大人もわからない。むしろ大人はワーグナーの音楽を聴けて大満足、みたいな感じかも。そもそも「パルジファル」は大人が見てもよくわからない。仮に子供の視点を代弁するとしたら、「どっちがいい人でどっちが悪い人?」「最後はどうしてこの人が王様になるの?」あたりだと思う。が、その問いには大人も容易に答えられない。そういう意味では「子どものためのワーグナー」として、あるべき姿だったのかも。
●槍が出てくるじゃないすか。これって「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開に合わせて「パルジファル」になったのかなあ?(ちがいます)。
●公演は全5公演で、残りは3/31、4/3、4/4の3公演。

March 26, 2021

ニッポンvs韓国代表@国際親善試合

ニッポン!●ニッポン代表の試合が日本国内で開催されるのはいつ以来なんだろう? 調べてみたら、2019年11月のベネズエラ戦以来なのだとか。依然、ウイルス禍は続いており、むしろ首都圏の感染者は増えているのだが、海外組の選手は2週間の自主隔離を免除されて入国した。その分、感染対策は厳格で、いわゆる「バブル方式」で決まったメンバーが決まった場所だけを移動できるスタイルで、国内移動もチャーター便、それどころか同じ日本代表の海外組と国内組ですら移動バスからホテルのフロアまで分け隔てられ、ピッチ上でやっと一緒になれるという厳しさ。昨年のウィーン・フィル来日を連想する。
●で、メンバーだが、やはりベストメンバーはそろわない。でも、海外組も思ったよりもいる。そこにJリーグのフレッシュなメンバーが加わって、普段ではなかなか見られない顔ぶれの代表になった。ニッポン代表の出場メンバーだけ書くと、GK:権田-DF:山根視来、冨安、吉田、佐々木翔(→小川諒也)-MF:守田英正(→川辺駿)、遠藤航-伊東(→古橋亨梧)、鎌田(→江坂任)、南野(→脇坂泰斗)-FW:大迫(→浅野)。Jリーグを見ていないと知らない名前も多いはず。山根視来は川崎、小川諒也はFC東京、守田英正は川崎→CDサンタクララ(ポルトガル)、川辺駿は広島、古橋亨梧は神戸、江坂任は柏、脇坂泰斗は川崎に所属。マリノス勢は残念ながら出番がなく、ベンチに松原健と畠中槙之輔。
●試合は予想もしなかったほどのニッポン・ペースで進み、特に前半は韓国に攻撃らしい攻撃がなかった。まさかのワンサイドゲーム。韓国も海外組を一部欠いた布陣だったと思うが、それ以前に
試合が淡白で、まるで紅白戦を見ているかのよう。おまけに両チームのジャージのデザインセンスがそっくりだし(あーあ……)。客席の歓声もないので、「日韓戦」ならではの熱さ、激しさは皆無。ガツガツとしたバトルがなければ、この急造代表チームでもニッポンはこれだけ快適にボールを前に運べるのか。ディフェンスラインからそのひとつ前にボールを運ぶのがとてもスムーズ。公式戦ではまず拝めないエレガンス。
●試合結果はニッポン3対0韓国という完勝だったが、もっとゴールを奪えたはず。終盤はお互いに雑になった感も。ゴールは代表デビューのサイドバック山根、フランクフルトで好調な鎌田、ブンデスリーガのデュエルキング遠藤航。山根の思い切りのよさに感嘆。最初の2点はいずれも大迫からチャンスが生まれていた。特殊な状況での試合だったので、結果は追風参考記録という気もするが、好材料はブレーメンで苦境に陥っている大迫が健在だとわかったこと。今のニッポンでハイレベルのポストプレイができるトップは大迫だけ。大迫は以前と同じく、独自のプレイスタイルを磨いている。

March 25, 2021

NHKプラスでプロフェッショナル「庵野秀明スペシャル」

●放送は見逃してしまったが、評判になっていたので、NHKプラスの配信でプロフェッショナル「庵野秀明スペシャル」を見た(配信期限3/29午後8:45)。シリーズ完結編となる「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の制作現場を4年にわたって密着取材した労作。さすがにおもしろい。庵野秀明のクリエイターとしての信念が伝わってくる……などというきれいな言葉では収められない、なんともいえない息苦しさ。ちゃぶ台返しで泥沼化しそうな進行を超然と受け入れる周囲のスタッフ陣にも尊敬の念がわく。
●で、これを見たら「シン・エヴァンゲリオン劇場版」も見たくなるに決まっている。しかし、上映時間155分という長さには怯む。途中で休憩が欲しくなる。ワーグナーの「さまよえるオランダ人」も一幕形式だと2時間を超えてためらってしまうのに、155分って。途中で休憩を入れたオリジナルの「2001年宇宙の旅」はすごい。
●というか、それ以前の問題として、自分は「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」と「:破」までは映画館で見たが、「:Q」は未見なのだった。まず、「:Q」をどうするのか。配信で見るのか、そんな必要はないのか(ないってことはないだろう)。そもそも「:破」の内容を覚えているのか。「:破」も見直さないと「:Q」はわからないのか。だったら「:序」はいいのか? どんどん遡ってしまい、結論が出ない。
NHKプラスはとても便利なサービスだと思う。総合・Eテレの番組を放送中から放送後1週間まで無料配信してくれる。ただし、申し込みはネットだけで完結せず、はがきでの手続きが必要になる(本人確認のため)。

March 24, 2021

フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 記者発表会

フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 記者発表会
●記者会見の話題が続くが、昨日23日はフェスタサマーミューザKAWASAKI2021の記者発表会。会場はミューザ川崎シンフォニーホールのステージながら、オンライン参加も可というハイブリッド方式だったので、ありがたくオンラインで参加(Zoomミーティング使用で、オンラインは30名ほど)。登壇者は福田紀彦川崎市長、指揮者の秋山和慶さん、オルガニストの松居直美さん、東響の大野順二楽団長、日本オーケストラ連盟の桑原浩専務理事。ピアニストの小川典子さんはロンドンよりリモートで参加。
●今回は7月22日から8月9日まで、全20公演が開催される。首都圏のプロ・オーケストラによる競演がこの音楽祭の目玉だが、今回はゲストとしてオーケストラ・アンサンブル金沢(ロベルト・ゴンザレス=モンハスの指揮&ヴァイオリン)、京都市交響楽団(広上淳⼀指揮)を招く。また、ミューザ川崎シンフォニーホールでの18公演に加えて、「出張サマーミューザ@しんゆり」が復活、昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワで2公演が開かれる。ほかにホールオルガニスト大木麻理さんの「真夏のバッハ」、須川展也&小川典子デュオ・コンサートなども。全公演のライブ映像配信もある。昨年のライブ映像配信は有料チケット約1万枚を販売、総再生回数は3万回を超えたそう。
●オーケストラ公演で目を引くものをピックアップすると、オープニングコンサートはジョナサン・ノット指揮交響楽団で、ラヴェル(コンスタン編)の「夜のガスパール」、ヴァレーズの「アルカナ」、ラヴェルのピアノ協奏曲(萩原麻未)、ガーシュウィン「パリのアメリカ人」と強力。都響は最近大活躍中のカーチュン・ウォンとドヴォルザークの「新世界より」他。山田和樹指揮読響はチャイコフスキーとラフマニノフのダブル交響曲第2番プロ。東フィルはバッティストーニとのイタリア音楽プロで、レスピーギの「ローマの松」他に加えてニーノ・ロータのハープ協奏曲(吉野直⼦)も。下野竜也指揮日フィルはベートーヴェン「エグモント」全曲。N響はスケジュールの都合でオケとしての参加はなく、代わって篠崎史紀率いるN響メンバーによる室内合奏団でマーラーの交響曲第4番室内楽版(K.ジモン編)。フィナーレコンサートは原田慶太楼指揮東京交響楽団で、吉松隆の交響曲第2番「地球にて」を中心とする意欲的なプログラム。
●チケット発売時期は例年より一か月ほど遅い5月の連休明け。現時点では通常通り全席販売予定。配信チケットは6月下旬以降に販売。

March 23, 2021

ヴィオラ・スペース2021 今井信子オンライン記者懇談会

今井信子●17日、「ヴィオラスペース2021 vol.29」に向けて、同音楽祭の提唱者であるヴィオラ奏者、今井信子さんのオンライン記者懇談会に参加した。今年のヴィオラスペースは、5月26日から大阪、東京、仙台で開催される。本来であれば、昨年、ベートーヴェン生誕250年と、ヴィオラにとって欠かせないレパートリーを生み出したヒンデミットの生誕125年を記念したプログラムが予定されていたが、ウイルス禍により中止になってしまった。そこで、今回は昨年予定されていたプログラムをほぼそのまま持ってくることに。今井さんをはじめ、プログラミングディレクターを務めるアントワン・タメスティら、そうそうたるヴィオラ奏者が顔をそろえ、コンサートと公開マスタークラスが開催される。
●東京でのコンサートは、6月1日「オーケストラ」と2日の「室内楽」の2公演。前者はベートーヴェン「七重奏曲」より、ヒンデミット「葬送音楽」、ベートーヴェン「英雄」より第2楽章「葬送行進曲」、ヒンデミット「白鳥を焼く男」他、後者はヒンデミットのヴィオラ・ソナタop25-4、ベートーヴェンのホルン・ソナタのヴィオラ版、ヒンデミットの弦楽四重奏曲第1番より、ベートーヴェンの弦楽五重奏曲ハ長調より他。「ベートーヴェンはレパートリーが尽きないのでなにを選ぶか。七重奏や、あまり演奏されない五重奏、『英雄』の葬送行進曲など、タメスティが頭を絞って考えた」(今井さん)。
●今井さんは現在、日本入国後の2週間の隔離期間中で、実はこの隔離もすでに3度目なのだとか。「オンラインのレッスンなどもあって、忙しくてあっという間に日が過ぎていく」。もうスイスでワクチンを打っているそう。
●会見にはZOOMミーティングを使用。前日にZOOMウェビナーを使ったかっちりした記者発表があったこともあり、この日も映像はオフのつもりでうっかりなんの支度もせずにふらっとアクセスしてしまったら、少人数で飲み物片手の参加ウェルカムといったカジュアルな懇親会だったので、少し慌てた。えっと、これ、映像はオン?それともオフ? どっちが正解? 迷ったが、主催側がみんな顔を出しているのに、自分がオフにするのはなんだか申しわけない気がして、オンにした。思いっきり部屋着だけど……(ガクッ)。自分はこのあたりの作法がいまだ身についていない感じ。

photo © Pete Checchia

March 22, 2021

METライブビューイング レハール「メリー・ウィドウ」

●19日は昨年7月以来の東劇でMETライブビューイング。演目はレハールの「メリー・ウィドウ」。といっても、今、ニューヨークのメトロポリタン・オペラはウイルス禍によりシーズンまるごと休止中。なので、過去の舞台から選りすぐりの名作がアンコール上映されている。本来、ニューヨークの最新の舞台をいち早く映画館で楽しめるはずだったMETライブビューイングが、今や豪華絢爛たる過去にタイムスリップするための貴重な機会となっている。しかも、底抜けに陽気で、あきれるほどゴージャスな「メリー・ウィドウ」を鑑賞するという場違い感。でもオペラが浮世離れしていて、なにか問題でも?
●今回の「メリー・ウィドウ」は2015年1月の舞台。トニー賞演出家スーザン・ストローマンの演出、指揮はアンドリュー・デイヴィス、歌手陣はルネ・フレミング、ケリー・オハラ、ネイサン・ガン、トーマス・アレン、アレック・シュレイダー他の豪華布陣。ブロードウェイのトップスター、ケリー・オハラがオペラデビューを果たして話題を呼んだ公演。上に掲げた予告映像でもわかるように、本気のメトがとことんリソースをつぎ込んだ華やかな舞台で、ダンス・シーンの晴れやかさなど突き抜けている。舞台上至るところで濃厚接触だらけ、お客さんも大歓声。こんなに賑やかだった劇場が今、活動を休止しているなんて……と、つい複雑な気分になる。
●英語上演。歌手陣はみな感心するほど芸達者。もっとも、ルネ・フレミングはハンナ役には成熟しすぎていて違和感も。カミーユ役のアレック・シュレイダーが好き。もう10年以上前にメトのオーディション映画で優勝したのを見て、甘くて透明感のある声で、品もあってカッコよくて、すごいスターになるのかなと期待したんだけど……。第2幕から第3幕への転換が鮮やか。幕を閉めず、妙なところからダンサーたちが出てきて踊りだして「あれ?」と思ったら、さーっと後ろの舞台が動いて、いつの間にか豪華なマキシムの店内になっていた。あの場面、もう一回見たくなる。
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●緊急事態宣言が解除された。都の新規感染者数を見ても、宣言の効果は絶大だったが、いったん飽和状態になった後はゆるやかな上昇に転じている。宣言解除で感染拡大が加速すると予想されるが、タイムラグが2週間とすると、影響が数字に表れるのは4月5日頃から。今月末に感染者の少ない地方に出張する予定なので、だれにも頼まれていないが事前に10日間、外出を控えることにする(散歩や最低限の買い物を除いて)。

March 19, 2021

ロームシアター京都自主事業ラインアップ発表会

●ここ最近、オンラインでの記者会見がいくつか続いている。16日はロームシアター京都の2021年度自主事業ラインアップ発表会。従来だったら京都の会見には参加しようがなかったが、オンラインなので可能に。プログラムディレクターの小倉由佳子さんを中心に、企画概要が発表された。非常に幅広い分野の舞台芸術が対象となっているので、以下、クラシック音楽ファン向けで、なおかつ自分の興味を引いたものをいくつかピックアップ。
●おもしろそうだなと思ったのは、京都市交響楽団×藤野可織のオーケストラストーリーコンサート「ねむらないひめたち」(6月20日)。芥川賞作家の藤野可織がこのコンサートのために新作小説を書き下ろしたという公演で、三ツ橋敬子指揮京響がラヴェルの「クープランの墓」より、「亡き王女のためのパヴァーヌ」他が演奏される。ストーリーテラー(朗読者ってこと?)は女性1名の予定で調整中。この小説は「新潮」7月号に掲載されるそうで、体が硬直して砂色の飴に覆われる謎の伝染病が蔓延する世界が舞台。大人不在でタワーマンションに住む幼い姉妹の暮らしが始まるのだが……というあらすじ。藤野可織さんはビデオメッセージで「新鮮で楽しかった」と語る。既存の名曲と新作小説という組合せを、どうステージに落とし込むのか。
●文学と音楽のコラボレーションという点で、古典中の古典がメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」(9月5日)。石丸幹二さんの語りで、広上淳一指揮京都市交響楽団が演奏する。全曲を聴く機会は貴重。「ホリデー・パフォーマンス」(6月27日)は無料公演で、松平敬さんと橋本晋哉さんの低音デュオが出演。その他、8月の広上淳一×京響コーラスのフォーレ「レクイエム」、10月の京響クロスオーバー オーケストラ・プレミアム 作曲家・編曲家プロジェクト「大島こうすけ×西川貴教×京都市交響楽団」、新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室「ドン・パスクワーレ」、来年3月の「小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト XVIII」など、盛りだくさん。
●この発表会で使われたのは、ZOOMウェビナー。ZOOMミーティングは年中使っているが、ZOOMウェビナーを使用した会見は初めて。これだとホストと参加者の区切りがはっきりしていて、われわれの側はカメラもマイクもオフになっていて、挙手によって許可された場合だけ発言可能なスタイル。参加者の人数が多い場合にはこの方式がいいのかな。ほかにだれが参加しているかはわからず。レクチャーを聴いているみたいな感じで、良くも悪くもざっくばらんな雰囲気にはなりづらい。

March 18, 2021

第19回齋藤秀雄メモリアル基金賞、チェロ部門は新倉瞳が受賞

●少し遡って3月3日はソニー音楽財団による第19回齋藤秀雄メモリアル基金賞のオンライン贈賞式。同賞は毎年、活躍が期待される若手チェリストと指揮者に与えられる。今年のチェロ部門は新倉瞳さんが受賞した(指揮部門は該当者なし)。選考委員は、永久選考委員に小澤征爾、堤剛、任期制選考委員に広上淳一、寺西基之、片桐卓也の各氏。
●贈賞式では、堤剛さんから贈賞の言葉が贈られた。「あなたのパイオニア・スピリッツは齋藤先生に共通するところがある。旺盛なチャレンジ精神は齋藤先生にも通じる」。続いて新倉さんが「身に余る光栄。夢にも思わなかった。15年前にCDデビューしてから、本当にたくさんの方に支えていただいてきた。最近強く思うのは、好きだなあと思う感情を大切にすると、多くの方と前向きの気持ちをシェアできるということ」「人間同士だけのことだけではなく、地球の偉大な美しさをわたしたちは音にしているのだと思う。日々の喜びや悲しみなどの感情を表現すること、そして虫の声や風の音なども表現できる音楽家でありたい」と感謝のメッセージを述べた。
●贈賞に続いて、新倉さんが一曲、演奏。クレズマー音楽で、祈りを意味する「ニグン」という曲。まず奏者の歌で始まって、チェロが続くという変化球に虚を突かれたが、この場にふさわしい選曲だったかも。
●なお、今回のオンライン贈賞式はYouTubeによる配信。約100人が視聴中と表示されていて盛況だった模様。一方通行の配信なので、こちらはずいぶん気楽。そして、感染対策もさることながら、オンラインだと前後の移動時間が不要になるのがありがたい。

March 17, 2021

JFLが開幕! 東京武蔵野ユナイテッドFC対ラインメール青森 JFL第1節

武蔵野陸上競技場
●週末の14日、日本サッカーの4部リーグに相当するJFLが開幕。注目の新生・東京武蔵野ユナイテッドFCは武蔵野陸上競技場でラインメール青森と戦った。「東京武蔵野ユナイテッドFC」、いまだこのチーム名になんともいえない居心地の悪さを感じるのだが、これは武蔵野市の東京武蔵野シティFC(JFL)と文京区の東京ユナイテッドFC(関東1部リーグ)が合併したチーム。そんな奇妙な合併がありうるのかという疑問はちっとも解消していないものの、ともあれリーグ戦は開幕してしまった。
●JFLのレベルは案外、高い。下からJFLに上がろうとするとかなりの難関になる。だから関東1部のチームが合流したところで、はたしてそこに戦力になる選手がいるものか……などと勝手な予想をしていたら、なんと、先発メンバーの半数近くが元東京ユナイテッド所属の選手たちだった! これにはびっくり。まさに混成軍の様相であったが、どちらかといえば守備陣には武蔵野の選手、攻撃陣には東京ユナイテッドの選手が目立つ。個々の選手について言えば、かなり期待できそうな選手もいれば、微妙な選手もいたが、一試合だけを見て決めつけるのもフェアではない。結果的にチームが活性化されたともいえるし、そもそも武蔵野だって昨季まで順風満帆には程遠かったわけで、今はこの合併劇を見守るのみ。とにかく今季は降格がある。「合併した結果、関東1部リーグに降格した」のでは、元の木阿弥なわけで。
●で、試合は青森に先制されるも、武蔵野が逆転し、しかし最後の最後に追いつかれて2対2で終わるというスリリングな展開になった(ハイライト動画)。守りのチームだった武蔵野としては意外な打ち合いに。池上監督が指揮を執るのは昨季と同じだが、守備面ではより前線からプレスをかけるようになったと感じる。今時の言葉でいえばストーミングを仕掛けて、なるべく前でボールを奪って、ショートカウンターを狙う姿勢があったんじゃないだろうか。ただし、これはうまく機能していない。プレスを簡単に交わされる場面が多く、結果として自陣にできたスペースを突かれてピンチを招くこともしばしば。そもそも一対一の勝負でもう少し優位に立てないとしんどい。
●この日は風が強く、後半は極端な向かい風になった。風が強くて、ゴールキックがハーフラインを越えられない。ゴールキックの度にはらはらする。この逆風を巧みに利用して前線に早めにボールを放り込むのが功を奏して2点目が生まれたが、逆に最後は追い風に乗ったクロスボールにやられて同点弾を浴びた。
●観客数は674名。新生チームの門出としては寂しいが、現在緊急事態宣言中ということもあって制限が多く、やむを得ないか。なお、同日、マルヤス岡崎に感染者が出たことからマルヤス岡崎対ティアモ枚方戦が中止になった。リーグ全体でPCR検査を実施した二日後、選手本人から37.0度の発熱と嗅覚障害の報告があり、検査結果も陽性と判明、その後、チーム全員が再度PCR検査を受けるという流れ。本人以外の全員が陰性だったが、それでも試合はできなかった。JFLレベルであっても、サッカー協会はしっかりしているなという印象。

March 16, 2021

尾高忠明指揮都響の武満&エルガー

●15日はサントリーホールで尾高忠明指揮都響。武満徹の「系図 若い人たちのための音楽詩」(語り:田幡妃菜、アコーディオン:大田智美)、エルガーの交響曲第1番というプログラム。武満徹の「系図」はなんといっても谷川俊太郎の詩ありきの作品で、少女の視点から祖父と祖母、父と母の家族3代の肖像を描く。この家族像の不穏さがたまらなく味わい深い。心を空白にしてご飯を食べているお父さん、ご飯を作りながらビールを飲んでしまい、そのままプイッとどこかに出かけてしまうお母さん。娘はそんな家族を愛おしく思っている。設定上の少女の年齢は10代半ば。録音で聴くと、朗読にはかなり技術も必要なので(日本語の聴き取りやすさは必須)、演者の実際の年齢にこだわる必要はないと思っていたのだが、今回の田幡妃菜さんは設定通りで、当日16歳の誕生日を迎えたのだとか。なるほど、仮想的な娘っぽさ、孫っぽさを醸し出すという点で、ステージだと設定年齢通りなのは意味があるのかもと納得。等身大の少女像で好演。
●この曲、オーケストラの編成がけっこう大きい。朗読中心の曲なんだから2管編成+打楽器+アコーディオンくらいで十分じゃないかと思いきや、実際にはかなり厚い響きを作り出す。輪郭のくっきりした音よりも、朧げなニュアンスに富んだ音を使うことで、日常の光景に非現実感を与えている。なにせ「むかしむかし」で始まる詩でもあるので。この詩は冒頭の「むかしむかし」で時を超え、終曲の「とおく」で空間を超える。
●後半のエルガーの交響曲第1番はマエストロの十八番。先に聴いた「系図」と親近性を感じて、これも一種の「むかしむかし」で始まるノスタルジアなのかなと思う。このうえもなく高貴で輝かしく壮麗な音楽。オーケストラの機能性とパッションが一体となった名演。客席はかなり閑散としていたのだが、なぜかそんなときほど熱い演奏を聴くことが多いような気が。拍手が止まず、マエストロのソロ・カーテンコールあり。

March 15, 2021

辻彩奈 ヴァイオリン・リサイタル 2021

●12日は久々に紀尾井ホールへ。辻彩奈のヴァイオリン、阪田知樹のピアノで、前半にモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ変ホ長調 K.380、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調、後半に権代敦彦の「Post Festum ~ ソロヴァイオリンのための」(辻彩奈委嘱作品)、フランクのヴァイオリン・ソナタ。開演前アナウンスが辻彩奈本人でびっくり。いいアイディアかも。聴きものは後半。辻彩奈はつい最近、沼尻竜典指揮N響でショーソン「詩曲」とラヴェルの「ツィガーヌ」の名演を聴いたばかりだが、やはりフランクが期待通りの聴きごたえ。スケールの大きな表現、芯のある力強い音色、うねるような音楽の流れ。情感豊かで、かなり濃厚なのだが、決して無理がない。熱量のあるヴァイオリンに対して、バランスよく調和するピアノもすばらしい。
●先日のN響公演でもソリスト・アンコールとして権代敦彦のPost Festum 第3曲が演奏されたが、今回は全3曲を続けて演奏。といっても、この曲は本来、協奏曲のアンコールとして演奏される前提で独立した3曲が書かれたというもの(作曲者からのメモとして、第1曲はベルク、武満、第2曲はシベリウス、ブラームス、第3曲はメンデルスゾーン、チャイコフスキーの後と例示される)。3曲並べても演奏可能ということなので、先日のアンコールが本来の姿、今回の3曲全曲はオプションといった趣旨。演奏家自ら協奏曲用のアンコールを(しかも3曲も)委嘱しているのがおもしろい。委嘱作だけあってすっかり手の内に入っているようで、冴え冴えとしたソロ。余韻の実体化とでもいうべきか、あえて言語化すれば、風、気流のようなイメージ。無からふっと生まれて春の嵐を巻き起こして、また宙に消滅するかのよう。
●フランクで完璧に充足できたのでこれで終わってもいいくらいだったが、アンコールで、サティの「右と左に見える物(眼鏡なしで)」から「偽善者のコラール」(あまりに短く、肩透かしで終わるので客席が「えっ?」ってなるのが楽しい)、続いてパラディスの「シチリアーノ」で終演。
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●緊急事態宣言中だが都の新規感染者数は完全に下げ止まり、7日移動平均を見るとむしろ増え始めている。膠着状態に入った。

March 12, 2021

「クララとお日さま」(カズオ・イシグロ著/土屋政雄訳/早川書房)

●さっそく読んだ、カズオ・イシグロの新作「クララとお日さま」(早川書房)。驚嘆すべき傑作。こんな小説がほかのだれに書けるだろう。事前に一切のレビューを目にせずに読むのがオススメ。と言いつつ、今から紹介するのだがっ!
●前作「忘れられた巨人」は、老夫婦の物語がファンタジー的世界観に基づいて描かれていた。今回の「クララとお日さま」は近未来が舞台で、主人公はAI。AIの鋭い観察眼を借りて、人間たちを描く。このAIはAF(人工親友)と呼ばれる商品で、常に子供に寄り添う友達になるべく設計されている。物語のテーマを一言でいうなら、愛のかたち。この世界で発達している技術はAIだけではない。選択的に子供に人工的な処置を施すことで(ゲノム編集のようなイメージ)、子供の知的能力が向上し、未来への扉が開かれる一方、処置には大きなリスクも伴う。社会が人間のあり方を変質させる技術とどう対峙するのか、という直接的な問いかけがあると同時に、この人工的な処置を早期教育や受験に置き換えてみれば、そのまま今日の物語になる。親たちが子に対してどのような決断をするのか。なんの決断もしないという選択肢はない。しないのならしないという決断をしている。
●付随的なテーマながら圧倒されたのは、AI側に一種の「信仰」を獲得させている点。その純粋さは尊く、同時にうっすらとした不安を抱かせる(AIはHAL以来暴走するものという先入観ゆえか)。あとは、行き過ぎた能力主義社会、階級社会への警鐘も含まれる。SF小説の枠組みを借りているという点は「わたしを離さないで」と共通するのだが、今作のほうがずっと洗練されているし、後味がよい。具体的に書かないけど、話の着地点になんともいえない切なさがあって(クララよりも少女側に)、これはまさにカズオ・イシグロのテイスト。
●前作「忘れられた巨人」は作者が一種の後期様式に入ったような感があって、ベートーヴェンのピアノ・ソナタにたとえると(なんでだよっ!)、第30番だったんすよ。だから、次は第31番が来ると思うじゃないすか。ノーベル賞も獲ったし。ところがふたを開けてみると「テンペスト」とか「ワルトシュタイン」みたいな力強い中期の傑作が出てきた。そんな驚きあり。
●ずっと前に大野和士さんがカズオ・イシグロにオペラの台本を書いてほしいと手紙を書いたら丁重なお断りの返事が返ってきたという話があって、ホントに惜しいなー。仮に既存作品を日本の劇場でオペラ化するなら「わたしたちが孤児だったころ」でどうだろう。

March 11, 2021

10年後の3月11日

●本日は3月11日。東日本大震災の発生からちょうど10年が経ったことになる。もう10年も経った……それとも、まだ10年しか経っていない? 感じ方は複雑だが、その日の記憶は鮮明に残っている。直接の被災地ではなかったにもかかわらず、東京でも大きな混乱が続いた。コンビニの棚から商品がなくなるとか、電力不足による輪番停電だとか(結局23区はほぼ免除されたのだが)、そういったこともさることながら、人々の恐怖心や相互不信がさまざまな形で可視化されたり、現実認識の違いがもたらす社会の分断のほうが強く印象に残っている。特に首都圏では地震そのものよりも原発事故が激しい反応を引き起こした。人と人は分かり合えない。あのときほどそう思ったことはない。理路整然とした合理的な説明は必ずしも受け入れられない。先に結論があって、それを裏付ける事柄だけが取捨選択されて受け入れられる。目下のウイルス禍で、同種のテーマが変奏されているとよく感じる。
●あの日の前日、すみだトリフォニーホールでハーディングと新日フィルの記者会見があった。ハーディングは新日本フィルのMusic Partner of NJPに就任し、その就任披露公演として3月11日にマーラーの交響曲第5番を指揮するということで会見が開かれたのだった。当日の公演は、もちろんワタシは行っていない。
当時の自分のブログを読み返す。異様に周期の長い強烈な揺れで、てっきりすぐ近くが震源だと思ったら、東北だと知って驚いた。しかもしばらくすると今度は茨城県沖を震源とする強い揺れが来て、パニックになる。余震は延々と続いた。なにが起きているのかわからず、テレビをつけると、ヘリからの映像が生中継されていた。炎を上げながら濁流が流れてきて、家や車や田畑を次々と飲み込んでいく。あの凄惨な映像をもう一度見返す気にはなれない。深夜になってもまるで余震が収まらなかったが、とにかく原稿の〆切があったので、夜になってから書いた。「ぴあクラシック」の原稿だったと思う。日本がどうなるかわからない異常事態なのに、原稿を書いて意味があるのかと疑問を感じつつ。
●何日も経ったある日、仕事で出かけたら、余震で高層ビルがぐらんぐらんと左右に大きく揺れているのを見た。まるで生き物みたいに。異常な光景が目の前にあるはずなのに、すっかり慣れてしまったのか、だれも驚いていなかった。

March 10, 2021

山田和樹指揮読響の「不滅」プロ

●9日はサントリーホールで山田和樹指揮読響。リストの交響詩「前奏曲」、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「死と変容」、ニールセンの交響曲第4番「不滅」という、「生と死」をテーマにしたプログラム。生は死の前奏曲とするリスト、死を経て浄化へと至るシュトラウス、生命力を礼賛するニールセン。震災10年を目前とし、なおかつウイルス禍が続く現在にふさわしい。
●というテーマ性を備えつつも、純粋な音のスペクタクルとしても抜群に楽しいのが吉。3曲ともひたすらカッコいい。ひきしまった「前奏曲」、壮大なクライマックスが訪れる「死と変容」。爆走するロマン主義に心のなかの中二病がうずきだす(「シン・エヴァンゲリオン」どうしよう)。ニールセンの「不滅」は最高のごちそう。オーケストラの太くてキレのあるサウンドを満喫。終楽章の両翼ティンパニバトルが熱い。会心の一撃。客席は拍手喝采、カーテンコールで山田和樹がわざわざマスクをして一言。「わが読売日本交響楽団は永久に不滅です!」。ニールセン「不滅」を読響で指揮しない限り言えないという激レアなシチュエーションを狙った一言(元ネタは長嶋茂雄引退セレモニー、念のため)。
カール・ニールセン●ニールセンの「不滅」は作曲者の意図はともかくとして、第1楽章とか第4楽章を聴くとマシーンの音楽というか、工業的、内燃機関的なイメージがわく。ドヴォルザークの鉄道名曲「新世界より」に連なるエンジンの音楽、鋼鉄の音楽の系譜に分類したい。

March 9, 2021

マリノスvsサンフレッチェ広島 J1リーグ第2節

●さて、緊急事態宣言中ならが、Jリーグは開幕している。開幕戦で前王者川崎相手に敗れたマリノスの第2節はサンフレッチェ広島戦。7万人収容可能な日産スタジアムに観客は約5千人。DAZNで観戦。マリノスは今季は3バックをベースにするのかと思いきや、この試合は従来通りの4バックで。ディフェンスラインが松原、チアゴ・マルチンス、畠中、ティーラトンの安定布陣に戻り、大分から獲得した新戦力の岩田智輝をディフェンスではなく、中盤で扇原と並べて起用。トップ下にはマルコス・ジュニオールが帰ってきた。前線は仲川、前田大然、オナイウ阿道。争いの激しいゴールキーパーはオビ・パウエル・オビンナが先発。控えが背番号1番の高丘陽平で、昨季がんばった梶川はベンチ外。
●で、試合は相手に2点を先行されつつも、最終的に3対3で終わるという打ち合いに。またも勝てなかったのは残念ではあるが、追いつく展開でもあったので感触は悪くない。内容的にポステコグルー監督の目指すサッカーができていたはず。ボール支配率は66%で圧倒。パス数も多いが持たされている感はなく、前線からのアグレッシブな守備もできていたし、果敢な攻撃も見ごたえがあった。こちらの3得点はいずれも流れの中からで、前田大然の2発とオナイウのゴール。前田はスピードが武器だと思っていたが、2点目のダイビングヘッドのようにストライカーとしてのプレイぶりも頼もしい。というか、もともとサイドアタッカーではないようだが。3失点の内訳は、2点がPK、1点がフリーキックから。ミスもあったし、ツキもなかった。
●ともあれ、結果は出ていない。革新的な戦術でチームカラーを一変させたポステコグルー監督だが、豪州メディアによれば今季終了後に欧州の著名クラブへ移るという話も。そう……もうお互いに新しいチャレンジが必要な時期だと思う。むしろウイルス禍ですでにワンテンポ遅れた感もある。ポステコグルー監督は文句なしにすばらしい監督だが、一昨シーズンで優勝を果たし、昨季アジア・チャンピオンズリーグを戦ったことで、ひとつのサイクルが終わったように感じている。初期のゴールキーパーの役割(走るキーパー飯倉)のようなラディカルさがなくなり、次第にバランスを保ち、チームが成熟してきたゆえに、進むべき道が見えづらい。今季の難しさはそこ。

March 8, 2021

カーチュン・ウォン指揮日本フィルのショスタコーヴィチ、シュトラウス、ベートーヴェン

●5日は二晩続けてサントリーホールへ。カーチュン・ウォン指揮日本フィル。来日できないインキネンに代わって、カーチュン・ウォンが日本フィルにデビュー。カーチュンはシンガポール出身、2016年のグスタフ・マーラー国際指揮者コンクール優勝者で、ニュルンベルク交響楽団首席指揮者を務める新星。日本語もかなり達者。プログラムは実に魅力的。ショスタコーヴィチ(バルシャイ編)の室内交響曲、リヒャルト・シュトラウスのオーボエ協奏曲(杉原由希子)、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」。当初予定から一曲変更してショスタコーヴィチを入れることで、全体からひとつのストーリーが浮かび上がってくる。困難の時代を経て喜びの時代へ、あるいは人間社会の軋轢から自然賛歌へ。どう読んでもいいだろうが、今の時代の気分に寄り添うものだったと思う。
●1曲目のショスタコーヴィチ~バルシャイが秀逸。緊密でキレのあるアンサンブルで雄弁。シュトラウスのオーボエ協奏曲は首席奏者杉原由希子によるまっすぐで伸びやかなソロを堪能。前夜の読響に続いて楽員がソリストを務める協奏曲を聴くことになったが、やはり仲間同士の信頼感が伝わってくる温かい雰囲気になる。後半の「田園」は楽曲本来の描写性をいっそう強調するような解釈で、第1楽章からしばしば訪れる管楽器の強調に鳥のさえずりや風のざわめきを感じ、第3楽章は一段とひなびて楽しげで、嵐の後の終楽章はすこぶる陶酔的。弦は10型で、響きはやや薄め。カーチュンは指揮棒を持たず、はっきりした動作でオーケストラを率いる。いくぶん大げさなくらいのゼスチャーなんだけど、全身から彼の持っているポジティブなオーラがあふれ出てくるようで、好感度はマックス。このパーソナリティは稀有。また聴きたくなる。
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●ONTOMOの連載「耳たぶで冷やせ」第24回は「戦禍で生まれ、コロナ禍にも通じるストラヴィンスキー『兵士の物語』のメッセージ」。「兵士の物語」の元ネタとなったロシア民話について書いている。ご笑覧ください。

March 5, 2021

山田和樹指揮読響のウェーベルン、別宮、グラズノフ

●4日はサントリーホールで山田和樹指揮読響。前半にウェーベルンのパッサカリア、別宮貞雄のヴィオラ協奏曲(鈴木康浩)、後半にグラズノフの交響曲第5番という、めったに聴けない曲ばかりのプログラム。最初のウェーベルンから熱風が吹くような演奏。爛熟したロマンの香り、漂う世紀末ブラームス感。別宮貞雄のヴィオラ協奏曲では読響ソロ・ヴィオラ奏者の鈴木康浩が圧巻のソロ。深く艶やかな音色で、切れ味鋭くパワフル。この日の主役だった。バルトークやショスタコーヴィチを連想させる作品だが1971年作曲で、思いのほか新しい。パラレルワールド日本への発見の旅。
●後半、グラズノフの交響曲第5番も熱演。終楽章の盛りあがりは大変なもの。ブラスセクションの重厚な響きも堪能。番号は「第5」だけど、全体の曲想としては大らかな自然賛歌風で、とりわけ第3楽章アンダンテが詩情豊か。第4楽章の力ずくのクライマックスは、大胆さと気恥ずかしさでチャイコフスキーの「第5」に負けてない。客席は半分ほどの入りだが、拍手はかなり熱かった。
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●一応、現在の東京は緊急事態宣言中で、しかもさらに延長して今月21日まで続けることになりそうだが、もう街に緊張感はすっかりなくなっている。上記のように新規陽性者数も下げ止まってしまい、7日移動平均で見ると日によっては増えている。2週間のタイムラグがあるので、現在は増加に転じていたとしても驚かない。もっと強力な「スーパー緊急事態宣言」とか「ウルトラ緊急事態宣言」を出して減らすのか、あるいはいったん解除してしばらくしたら3度目の緊急事態宣言を発出することになるのか。どちらもうれしくないが、一般へのワクチン接種はまだ遠そう。

March 4, 2021

SOMPO美術館 FACE展2021

●2日、新国立劇場の記者発表でせっかく初台まで来たので、会見後に新宿のSOMPO美術館に寄って「FACE展2021」(~3月7日)。損保ジャパン本社ビルにあった東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館が、昨年、隣接した新美術館に移り、新たに「SOMPO美術館」として開館。独立した建物になって、ぐっとアクセスしやすい雰囲気に。明るくてきれいで居心地のよい空間。
●で、FACE展というのは新進作家による公募コンクールとして開催されるもので、今回で9回目になるそう。1193名の応募から、入選作品83点(受賞作品9点を含む)が選ばれている。おもしろいのは観覧者投票による「オーディエンス賞」があるところで、すさまじく幅広い作風の力作たちからたった一点を選ぶというミッションが課せられていると思うと、がぜん、見る側も楽しくなる。実際にちゃんと投票してきた。
●まったく多種多様な作品群ではあるんだけど、全体を大きくとらえて感じる要素を3つ挙げるとすると、ヴィヴィッド、ポップ、ダークサイド、かな。壁面がパッと鮮烈でいかにも楽しげだけど、ディテールには心がざわざわするような暗い要素が潜んでいる、という傾向。以下、自分が特にいいな!と思ったものを挙げる。写真OKの展覧会ってすばらしい。写真は自分へのお土産。

山本亜由夢「パライソ」
●山本亜由夢「パライソ」。審査員特別賞受賞作のひとつ。半ば南国的な楽園のようであり、半ば不穏なディストピアを示唆するようでもあり。絶妙の色調から物事の二面性を読みとる。

フカミエリ「夜につれられて。」
●フカミエリ「夜につれられて。」。これも鮮やかな色調だが、自分の分類では「怖い絵」。獣たちの策略に引っかかりそうな男。森の奥が妖しい。題に句点が含まれているのは編集者泣かせ。

原真吾「デリバリさん」
●原真吾「デリバリさん」。なんともいえないイジワルなユーモアが漂っている。中央に宝石のように煌めくハンバーガーが鎮座。その周囲を回っている自転車乗りはUber Eatsかと思いきや、ランドセルを背負った小学生たち。マスクをしてうつむき加減。通学路の日常とデリバリーサービスを結びつけるとは。

多田耕二「橋と時空」
●多田耕二「橋と時空」。この橋はなぜか強烈なノスタルジーを喚起する。これに似た橋はあそこにもあそこにもある。どこにでもありそうなんだけど、圧倒的に力強い。間近で見ると鋼の表面のざらりとした質感が気持ちよさげ。弓なりの部分を上っててっぺんまで行ったら怖そう……と想像してしまうのは、遠い木登りの記憶がそうさせるのか。

March 3, 2021

新国立劇場2021/2022シーズンラインアップ記者発表

新国立劇場2021/2022シーズンラインアップ記者発表 大野和士
●2日は新国立劇場で2021/2022シーズンラインアップ説明会。対面での記者会見は本当に久しぶりで、たぶんワタシは一年以上なかったと思う。なぜオンラインではないのか、少し悩んだ末に出席することに。例年であればバレエや演劇も合同で説明会をして、その後で分野ごとの懇談会に移るところを、今回はオペラのみで会見を行い、懇談会も省略。大野和士オペラ芸術監督からラインナップがあって、その後、質疑応答という流れ。
●で、注目のラインナップだが、新制作はロッシーニ「チェネレントラ」、ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」、グルック「オルフェオとエウリディーチェ」、ドビュッシー「ペレアスとメリザンド」の4演目。大野監督はグルックのオペラ改革を軸に4つの作品の関連性を説明してくれた。シーズン開幕を飾る「チェネレントラ」は大野さんが「イタリア・オペラ最後の巨匠」と語るマウリツィオ・ベニーニが指揮。演出は粟國淳。アンジェリーナ役は注目の脇園彩。「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は本来なら昨年6月に上演が予定されていたものだが、今シーズンに仕切り直し。「奇跡的に招聘歌手全員がそろうことになった。神様の後押しを感じる」(大野)。イェンス=ダニエル・ヘルツォーク演出、大野和士指揮。「オルフェオとエウリディーチェ」では指揮に大活躍中の鈴木優人が抜擢される。演出は勅使川原三郎ということでダンスの要素にも期待。「ペレアスとメリザンド」はケイティ・ミッチェル演出で、2016年エクサンプロヴァンス音楽祭で初演されたプロダクション。題名役はベルナール・リヒターとカレン・ヴルシュ。大野和士指揮。
●レパートリー公演は「蝶々夫人」「さまよえるオランダ人」「愛の妙薬」「椿姫」「ばらの騎士」「魔笛」。目を引いた名前を挙げると、「蝶々夫人」の指揮が下野竜也、「さまよえるオランダ人」の指揮がジェームズ・コンロン、「愛の妙薬」のアディーナ役に「アルマゲドンの夢」でヒロイン役を歌っていたジェシカ・アゾーディが再登場、「ばらの騎士」の指揮がウィーン生まれで日本でもおなじみのサッシャ・ゲッツェル。大野体制は新制作で攻める分、レパートリー公演で名作を並べて、オフェンスとディフェンスのバランスをとっている感。
●こうしてランナップを眺めると、やはりワクワクする気分になる。一瞬、現在のウイルス禍を忘れてしまうというか。開幕の「チェネレントラ」が今年10月、おしまいの「ペレアスとメリザンド」が来年7月。さて、この間にパンデミックは終息しているのだろうか。ワクチン接種率が十分に高まっていれば新しい段階に進むとは思うが、はたしてそれがどんな形になるのかはよくわからない。ある意味、オペラの世界で描かれる虚構よりも現実がぶっ飛んでいるため、かつて非日常をもたらしていた劇場が、今や懐かしき日常が回帰する場所に変貌したとも感じている。

March 2, 2021

Jリーグが開幕。今季J1の見どころは残留争い

●早くもJリーグが開幕。マリノスはいきなり王者川崎相手に0対2で完敗。先に結果を知ってしまったので、まるで試合を観る気になれない。ハイライトだけ確認したが、マリノスは3バック。攻撃陣からごっそりブラジル人がいなくなっていて、なんだか寒い。みんな、帰ってきてー。
●で、今季のJ1の注目点はずばり、残留争い。昨季はウイルス禍の特別措置として「降格なし」の特別ルールで戦ったわけだが、今季はその分ごっそり4チームが自動降格する。20チームで戦って、4チームが降格、J2から2チームが昇格するという変則レギュレーション。これだけ落ちるとなると、もうどこが落ちてもおかしくない。マリノスだって、優勝争いも残留争いもありうる。
●マリノス以外のチームの試合を眺めるとき(主にハイライトだが)、ワタシは常に引き分けになるように念じながら見ている。どうか負けているチームがゴールを決めますように。同点ならもうゴールが生まれませんように。なぜなら、どちらかが勝つとその試合の価値は勝点3になるが、引分けなら試合の価値は勝点2にしかならない。したがって、マリノス戦以外はすべて引分けに終わるのが理想だ。自分の試合の価値を最大化し、他の試合の価値を最小化する。これが戦略的一貫性のある唯一の観戦方法というもの。ただひとつ問題なのは、ワタシがどんなに念じようとも、試合結果には微塵も影響しないということなのだが。

March 1, 2021

藤田真央ピアノ・リサイタル ~ 彩の国さいたま芸術劇場ピアノ・エトワール・シリーズ

彩の国さいたま芸術劇場●26日は彩の国さいたま芸術劇場へ。昨年5月から延期された藤田真央ピアノ・リサイタル。客席は空席を置かずに販売され、ほぼ埋まっていた。客席の女子率高し。プログラムがすばらしい。前半にモーツァルトのピアノ・ソナタ第6番ニ長調「デュルニツ」と同第14番ハ短調、後半にブラームスの2つのラプソディとリヒャルト・シュトラウスのピアノ・ソナタ ロ短調作品5。シュトラウスが16歳で書いた初期作品がメイン・プログラムというリサイタル。この曲、かつてはグールドがレコーディングした珍曲みたいな感じだったけど、こうして真正面から取り上げられるようになるとは。後半のブラームスの2つのラプソディとシュトラウスのピアノ・ソナタという流れにグールド味もうっすら漂うが、たぶんそれは関係なくて、両者がほぼ同時期に書かれたという繋がりか。
●シュトラウスのソナタが期待をはるかに上回るすばらしさ。完全に手の内に入った演奏で、ワーグナーがいなかったロマン派ドイツ音楽のパラレルワールドから生まれてきたかのような堂々たる4楽章制ソナタを満喫。第1楽章はベートーヴェン~ブラームスの系譜に連なる堂々たるアレグロ。第2楽章の瞑想的なアンダンテ・カンタービレはこの日の白眉。第3楽章のスケルツォはメンデルスゾーン風の妖精たちの跳梁。第4楽章はシューベルトを思わせる決然とした歌謡風主題で始まるも、やがて一段スケールの大きな楽想が展開され、後のシュトラウスを予感させる陶酔的な高揚感に満たされる。これが16歳の曲というのも驚きながら、いったいここからなにをどうやったら「ドン・ファン」「サロメ」「ばらの騎士」へと道がつながるのか。魔人だ。
●これだけでも満足だったのだが、まだ時間が早めということもあってか、アンコールあり。モーツァルトのピアノ・ソナタ第5番ト長調の第1楽章を快速テンポで。アンコールでソナタの第1楽章を聴ける、しかも提示部のリピートもやってくれて得した気分だなあと思っていたら、ほぼアタッカで第2楽章を弾き始めて、なんとそのまま第3楽章まで丸々演奏してくれた。こういうインスピレーションに富んだタイプの曲は彼にぴったり。で、相当変わっているのがアンコールの後で、マイクを持って漫談が始まった。もうアンコールは弾いたからお話だけですよとあらかじめ断って、自分が埼玉県民であるという地元トークが始まった。子供時代に受けた県のコンクールの思い出、このホールの客席でいろんなピアニストを聴いてきたこと、ペライアの公演でトークがあって見た目と違って声が甲高くてぴっくりしたことなど、独特の語り口による真央節炸裂で客席大ウケ。アンコールの前ならともかく、弾いた後にトークだけして終わる人は珍しい。でもこの客席の心をつかむ術はすごく大切。みんなが応援したくなる。
●彩の国さいたま芸術劇場に足を運んだのはすごく久しぶりだったんだけど、途中、武蔵浦和駅でホルストの「木星」が駅メロになっていることを知る。有名な中間部ではなく、冒頭のカッコいい部分。武蔵浦和とホルストの間になにかご縁があるんだろうか。

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