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2023年9月アーカイブ

September 29, 2023

ドイツ・グラモフォンの「ステージプラス」でネルソンス指揮サイトウ・キネン・オーケストラ

●ドイツ・グラモフォン(DG)の定額制映像&音楽配信サービス「ステージプラス」を見てみる。先日、ジョン・ウィリアムズがサイトウ・キネン・オーケストラを指揮した公演がここで配信されたんだけど、あれってアーカイブでは観れないんすね。ライブ配信および直後の再配信だけだったのかな。見逃してしまったようだ……。
●で、その代わりと言ってはなんだけど、2022年のアンドリス・ネルソンス指揮サイトウ・キネン・オーケストラのマーラーの交響曲第9番があったので、こっちを観た。これは長野公演、それとも松本公演? どっちも会場の雰囲気がよく似ているんだけど、ワタシは長野公演のほうをライブで聴いている。印象はそのときと同じで、きわめて清澄なマーラー。浄化された天上の音楽というか、人間的というよりも超越的。映像だとバボラークとかタルケヴィとか、スタープレーヤーたちの表情がわかるのが吉。
●このサービス、「最新アーカイブ映像」の並びをもう一工夫できそうな気がする。最近の公演映像と過去の伝説的な名演の映像がごっちゃになって並んでいるんだけど、「今を聴きたい」と「過去の名演を聴きたい」はまったく別の欲求なので、両者を分けて表示するオプションがほしい。ユジャ・ワンの最新ライブとかブゾーニ国際ピアノコンクールを観るのと、ショルティ指揮シカゴ交響楽団とかクーベリック指揮ベルリン・フィルを観るのは、違う種類の喜びだと思うんすよね。前者は賞味期限があって今観ることに最大の価値があるけど、後者は賞味期限がなく今でなくてもいい映像。

September 28, 2023

小野伸二が現役引退

●現在コンサート札幌に所属する小野伸二が今シーズンをもって現役を引退すると発表。近年は出場機会が激減していたが、44歳まで現役を続けたのは立派というほかない。所属クラブは浦和、オランダのフェイエノールト、ドイツのVfMボーフム、清水、オーストラリアのウェスタン・シドニー・ワンダラーズFC、FC琉球、札幌。フェイエノールト時代がキャリアの頂点だろう。2001年にUEFAカップで優勝をはたし、5シーズンにわたって活躍した。技術の高さでは日本の歴代最高選手。
●小野伸二で思い出すこと。まずはワールドカップ1998フランス大会での大抜擢。岡田武史監督の「外れるのはカズ」のあの年、小野は18歳で選ばれてジャマイカ戦で出場した。そこから3大会連続でワールドカップに出場するわけだけど、むしろ記憶に残っているのはワールドユース1999ナイジェリア大会。トルシエ監督のもと決勝戦まで進んで準優勝を果たした。あらゆる年代の代表でこれ以上ワクワクさせられた大会はない。
●それからオリンピック予選でのフィリピン戦での怪我。ここからずっと小野は怪我との戦いが続いた。もしあれがなかったらどれほどの大選手になったかと思わずにはいられないが、それでもフェイエノールトで大活躍した。あとオランダに行った後、メディアから「もっともオランダ語の上達した外国人」みたいなのに選ばれたことがあって、試合後インタビューでもまったくの自然体でオランダ語をしゃべっていたのが衝撃的だった。
●決してゴールの多い選手ではないのだが、フェイエノールトが小野のトップ10ゴールの映像をあげているので、以下に。




September 27, 2023

「パワー」(ナオミ・オルダーマン著/安原和見訳/河出文庫)

●文庫化されたナオミ・オルダーマン著「パワー」(河出文庫)を読む。おもしろい。amazonプライムで映像化されているそうだが、知らずに楽しんだ。書名の「パワー」とは、ある日を境に女性だけが持つことになった電気的な力のこと。あらゆる女性が電撃によって人を攻撃できるようになり、男女の力関係がすっかり逆転してしまうというストーリー。女性はその気になればいつでも暴力で男性を痛めつけることができる。そんな設定のもと、現在の男性優位社会が逆転した世界が描かれる。それまで男性が無自覚的に権力(パワー)を手にしてきたことがあらわになるわけだが、女性優位の社会なら世の中がフェアになるみたいなぬるい話ではなく、容赦のない男女逆転復讐ファンタジーがくりひろげられる。
●で、それだけだと、そんなに斬新なアイディアとはいえないかもしれないし、男性は一部の暴力描写にドン引きしてしまうわけだが(でもそれは現実世界で起きていることの裏返しでもある)、この「パワー」はパニック小説として秀逸で、あえてB級SFテイストを狙っているようなところがあるのが痛快。エンタテインメントとしての期待を裏切らない。あと、パニック小説の外枠の物語が設定されているのだが、これが秀逸で、かなり皮肉が効いている。

September 26, 2023

庄司紗矢香、モディリアーニ弦楽四重奏団、ベンジャミン・グローヴナー「フランスの風」

●25日はサントリーホールへ。ヴァイオリンの庄司紗矢香にモディリアーニ弦楽四重奏団、ピアノのベンジャミン・グローヴナーが加わった「フランスの風」と題された室内楽プログラム。かなりユニークなプログラムで、前半が武満徹「妖精の距離」、ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタ、ラヴェルの弦楽四重奏曲、後半がショーソンの「ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲」。このショーソンを演奏するために、ヴァイオリニスト、ピアニスト、弦楽四重奏が必要になる。なんというぜいたくプロ。珍しい曲だが(というか、珍しい曲だからこそ)客席はよく埋まっていた。
●なんかこのプログラムと出演者って、「ラ・フォル・ジュルネ」味がないっすか。実際、ワタシはショーソンの「ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲」を聴くのがこれで3度目だと思うのだが、過去2回は「ラ・フォル・ジュルネ」で聴いたし、そのときもモディリアーニ弦楽四重奏団が出演していたと思う(他の演奏者は違ってたけど)。売り出し中の頃は若手4人組扱いだったパリのモディリアーニ弦楽四重奏団も今や創設20年を迎えて成熟。
●最初、武満徹「妖精の距離」の演奏に先立って、武満が作曲にあたって着想を得た瀧口修造の同名詩を大竹直が朗読。これはありがたい。前半も庄司紗矢香の芯のある濃密な音色や繊細なモディリアーニ弦楽四重奏団を堪能したが、やはり後半のショーソンのインパクトが抜群。なんという陰鬱なロマンティシズム。最高だ。半ばワーグナー的な巨大な音楽世界を室内楽編成で実現してしまう編成の妙。ピアノ五重奏でもなく弦楽五重奏でもない不思議な編成だなと思っていたけど、こうして聴くとやっぱりこれはヴァイオリン・コンチェルトなんだなと納得。雄弁な表現力を持った独奏ヴァイオリニストを前提とする傑作なのだなと実感する。

September 25, 2023

連休フィーヴァー

●先々週の三連休で発熱して、数日間、寝込んだ。38度台後半の熱が出たものの、何日か高熱に耐えたら、すっと治った。コロナだったのか、インフルエンザだったのか(今、近隣の学校はインフルエンザで学級閉鎖が相次いでいる)、あるいはありきたりな夏風邪だったのか、どれもあり得ると思ったが、念のため、一週間すべての演奏会をあきらめ、外出予定もキャンセルした。なので、今週からようやく平常運転。
●そんなわけで、ライブではなにも聴いていないのだが、一昨日のロレンツォ・ヴィオッティ指揮東京交響楽団のサントリーホールでのライブが無料配信されているので、ありがたく視聴する。ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」とリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」という重量級ダブル・ヒーロー・プロ。これは本当にすばらしいと思った。特に後半の「英雄の生涯」は壮麗。なんという豊かなサウンドなのかと、配信で聴いても圧倒される。コンサートマスターのグレブ・ニキティンが渾身のソロ。
●今、ひそかに惹かれているのは宇都宮に新しくできたLRT。乗ってみたい。LRTって「トラム」とは違うの?

September 22, 2023

バッハ・コレギウム・ジャパンの新シーズン・ラインナップ記者発表

バッハ・コレギウム・ジャパンの新シーズン・ラインナップ記者発表
●21日、バッハ・コレギウム・ジャパンのオンライン記者発表に参加。Zoom使用。鈴木雅明、鈴木優人の両氏が登壇して、2024/25年シーズンのラインナップが発表された。合わせて2年にわたる新プロジェクト「コラールカンタータ300年記念」についても。
●まず全6回の定期演奏会は、例年通り受難節コンサートとして3月の最終週に「マタイ受難曲」で開幕。指揮は鈴木優人。エヴァンゲリストにベンヤミン・ブルンスが初登場。5月および2025年3月の公演は「コラールカンタータ300年」全10回シリーズの第1回と第5回(後述)。7月はBtoB「ブクステフーデからバッハへ」。ブクステフーデの名作「我らがイエスの四肢」がバッハと並んでとりあげられる。これは楽しみ。指揮は鈴木優人。9月は鈴木雅明指揮の「ロ短調ミサ」。2022年の欧州ツアーで絶賛された演目。10月はBtoB「バッハからメンデルスゾーン=バルトルディへ」と題され、メンデルスゾーンの交響曲第2番「讃歌」がとりあげられる。鈴木雅明指揮。メンデルスゾーン・バルトルディの二重姓は後ろの部分が省略されがちだけど、バルトルディはキリスト教徒の証ということで。このバルトルディがBだから、BtoB。
●2024年は「賛美歌制定の年」からちょうど500年、さらにバッハがコラールカンタータを作曲してから300年ということで、新プロジェクトとして始められるのが「コラールカンタータ300年」。全40曲のコラールカンタータを2年間かけて演奏する。少し入り組んでいるのだが、全10回シリーズの第1回と第5回が前述のように定期演奏会に組み込まれていて、残りの8回は調布音楽祭でもおなじみ、調布市文化会館たづくり くすのきホールで開催される。
●もうひとつ、特別公演として2024年12月に鈴木雅明指揮のベートーヴェン「第九」。その際、生誕200年を迎えるブルックナーの詩編第112篇および第114篇が合わせて演奏される。BCJの記者発表でブルックナーの名前を聞くとは。でも納得。バッハ、ブクステフーデ、メンデルスゾーン・バルトルディに加えて、ベートーヴェン、ブルックナーと「B尽くし」の記者発表だった。メンデルスゾーンがBという裏技感が吉。

September 21, 2023

勝てないマリノス、インチョン相手に2対4で敗れる

●ここ最近のマリノスは本当に弱い。タガが外れたように負け続けている(一応、J1では優勝争いをしているはずなのだが)。けちの付き始めは8月26日の横浜FC戦で、1対4で敗れてしまった。残留争いをしている相手に大敗するとは。しかしダービーマッチではこういったことはままあるもの。そう言い聞かせたが、9月2日の柏戦でも完敗し、9月6日のルヴァン・カップ準々決勝第1戦は札幌に敗れ、10日の第2戦で取り返したものの、9月15日の鳥栖戦は1対1の引分け。そして、9月19日のACLグループステージのインチョン(仁川)戦は2対4の大敗だ。びっくりするほどよく負ける。しかも割と派手に負ける(そういう戦術ではあるのだが)。おのずとこの欄でマリノスの話題も減る。
●ちなみにこのインチョン戦、相手は堅守速攻を徹底しており、こちらは完全にその罠にかかった形。がっつり守って、カウンターになるとスピードのある外国人ストライカーが仕留めるスタイル。相手の戦い方は事前の分析でわかっていたそう。であれば、もう少しうまい守備ができそうなものだが、リーグ戦から中三日ということもあって、キーパー以外全とっかえで臨んでいる。個の力に差があったのかもしれない。
●シーズン開幕時に、今季のマリノスは選手層が薄くなったので優勝争いは難しいだろうと書いた記憶があるんだけど、実はシーズンの途中でもさらに選手が抜けてますます選手層が薄くなっている。もちろん補強もしているのだが、柱になるような選手は見当たらず……。逆にいえば、これだけ選手が減ってしまっても、まだリーグ2位に踏みとどまっているわけで、そこはケヴィン・マスカット監督の手腕でもあり、「マリノスのサッカー」が根付いているということでもある。
●つまり、今のマリノスはよく負ける、でも立派だ。それが結論だ。思い切り讃えたい。

September 20, 2023

東京オペラシティ アートギャラリー「野又穫 Continuum 想像の語彙」展

野又穫 Continuum 想像の語彙
●まもなく終了してしまうのだが(~9/24)、東京オペラシティコンサートホールで演奏会があったついでに、同アートギャラリーの「野又穫 Continuum 想像の語彙」展へ。野又穫(1955~ )の初期作から最新作まで、90点近くが広々とした空間に展示されている。
野又穫 Continuum 想像の語彙

野又穫 Continuum 想像の語彙
●作風はほぼ一貫していて、さまざまな超現実的な建造物が描かれている。建造物に多く見られるモチーフは階段、旗、螺旋、球体、植物。一見、機能性がありそうなもの、たとえば階段や窓などが、よく見るとなんの機能も果たしていなかったりする。そういった機能性の喪失も超現実的な感覚をもたらす理由のひとつだろう。どの作品にも静けさがある。そして、ときに楽園のようでもあり、ときにディストピアのようにも見える。
野又穫 Continuum 想像の語彙
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●宣伝を。ONTOMOの連載「おとぎの国のクラシック」、今回は「シェエラザード」がテーマ。ご笑覧ください。

September 19, 2023

池辺晋一郎 80歳バースデー・コンサート

●15日は東京オペラシティで「池辺晋一郎 80歳バースデー・コンサート」。広上淳一の指揮、オーケストラ・アンサンブル金沢、東京混声合唱団、北村朋幹のピアノ、古瀬まきをのソプラノ、中鉢聡のテノールという豪華出演者陣による三部構成で、新旧の多岐にわたる作品を並べて作曲家の足跡をたどる。第1部は無伴奏合唱による「相聞」Ⅰ~Ⅲ(1970、2005)。第2部はオペラで「死神」(1971/1978)から「死神のアリア」、「高野聖」(2011)から「夫婦滝」「白桃の花」、第3部はオーケストラ作品で、ピアノ協奏曲Ⅰ(1967)、シンフォニーⅪ「影を深くする忘却」(2023)世界初演(東京オペラシティ文化財団とオーケストラ・アンサンブル金沢の共同委嘱)。
●第1部から第3部まで、それぞれに旧作と近作/新作が配置されているという構成で、たっぷり。特に第3部は56年ぶりの再演という東京芸大卒業作品のピアノ協奏曲と、世界初演の交響曲が並べられて振り幅マックス。爆発的なエネルギーにあふれる協奏曲、深い余韻を残す交響曲の対比も鮮やか。協奏曲の後、北村朋幹がアンコールとして、池辺晋一郎「雲の散歩」こどものためのピアノ曲集より「メエエと啼かない ひつじ雲」を演奏。情感豊か。第2部のオペラ「高野聖」抜粋も聴きごたえあり。このオペラは以前に全曲上演に接しているので、抜粋といえども全体像の印象がある分、一段と楽しめた。妖しさと純愛の世界。山奥の妖女のもとを若い坊主が訪れるのはバルトーク「青ひげ公の城」の男女逆転版のよう。そのときも同役を歌っていた中鉢聡の日本語歌唱が聴きとりやすい。
●演奏後、全員で「ハッピーバースデートゥーユー」を歌うサプライズがあり、舞台袖から大きな誕生日ケーキが運ばれてきた。舞台上と客席の両方から池辺さんを慕う気持ちが伝わってきて、温かい雰囲気で終演。

September 15, 2023

国際音楽祭NIPPON 2024 オンライン記者会見

国際音楽祭NIPPON 2024 オンライン記者会見
●11日に国際音楽祭NIPPON 2024 オンライン記者会見に参加。ヴァイオリニストの諏訪内晶子が芸術監督を務める音楽祭で、2024年1月11日から東京、横浜、名古屋、大船渡で開催される。今回のテーマはウィーン。東京では二日間にかけてサッシャ・ゲッツェル指揮国際音楽祭NIPPONフェスティヴァル・オーケストラとの共演で、諏訪内晶子独奏によりモーツァルトのヴァイオリン協奏曲全5曲が演奏される。会場は東京オペラシティ。写真はプログラム監修の沼野雄司さんとのトークセッション。和やかな雰囲気でプログラムについて語り合うところ。
●室内楽では新旧のウィーンの音楽を集めるということで、紀尾井ホールで「Akiko Plays CLASSIC with Friends ~ウィーン1800~」と「Akiko Plays MODERN with Friends ~ウィーン1900~」の2公演が開催。前者のCLASSICはポール・メイエらとのモーツァルトのクラリネット五重奏曲や、シューベルト「ます」他。後者のMODERNはエフゲニ・ボジャノフのピアノ他でコルンゴルトのピアノ三重奏曲、シェーンベルクの「清められた夜」他。加えて委嘱作品として、新ウィーン楽派に影響を受けた作曲家という安良岡章夫の新曲も。安良岡章夫は諏訪内晶子の高校時代の担任の先生でもあったとか。室内楽はベンジャミン・シュミット(ヴァイオリン)、鈴木康浩(ヴィオラ)、イェンス=ペーター・マインツ(チェロ)ら、メンバーがとても豪華。そのほか、シューマンの室内楽マラソンコンサート、マスタークラスやアウトリーチ活動など。この音楽祭は諏訪内晶子が指導する唯一の機会だそう。
●会見の使用ツールはZOOMウェビナー。リモートだと参加しやすいのはまちがいなし。体感的には出席率が2倍以上になる。

photo © Eishi Ishida

September 14, 2023

ニッポンvsトルコ代表 キリンチャレンジカップ2023

●さて、遅まきながら12日のニッポンvsトルコ代表戦も振り返っておこう。開催地はベルギーのゲンク。先に行われたドイツ代表vsニッポン戦は、ドイツの求めに応じて招待された試合だった。ニッポンには1億円+渡航費のギャラが支払われたと言われている(ワールドカップで勝ったおかげ)。が、貴重な代表ウィークなのだから、2試合戦いたい。そこでニッポンはそのままヨーロッパに残って対戦できる相手として、トルコを選んだ。この週、欧州各国はEURO予選を戦っているのだが、トルコはグループが奇数であるためお休みということで可能になった。だから、こっちの試合はキリンチャレンジカップの扱いで、スタジアム内の広告も日本のテレビ視聴者向け。ちなみにトルコ代表との対戦は、あの2002年のワールドカップ日韓大会で決勝トーナメント1回戦で対戦して以来。あのとき中田浩二が無駄にコーナーキックをプレゼントしてしまい、なんかイヤな流れだなあと思ったらそのコーナーから失点したんだよな……あっ、テレビ中継の解説が中田浩二だ。これ、わざと?(いやいや)
●ニッポンは選手をほぼ全とっかえ。ドイツ戦からひとりだけ変わらなかったのが、左サイドバックの伊藤洋輝。実は完勝のドイツ戦で唯一もうひとつだったのが伊藤洋輝で、これは「追試」なのかなあと思った。というわけで、メンバーはフレッシュ。GK:中村航輔(→シュミット・ダニエル)-DF:毎熊晟矢(→橋岡大樹)、谷口彰悟、町田浩樹(→冨安健洋)、伊藤洋輝-MF:伊藤敦樹(→遠藤航)、田中碧-堂安律(→伊東純也)、久保建英、中村敬斗(→前田大然)-FW:古橋亨梧。攻撃の中心は完全に久保。トップ下で躍動。今の代表では右サイドの伊東は完全にエースなので、ベストメンバーでは久保が右サイドの控え扱いだが、久保は中央でも生きる(それはそれで鎌田のライバルになるわけだが)。
●前半、浦和の伊藤敦樹がワンツーから切り込んで先制ゴール、さらに久保の強烈シュートをキーパーが弾いたところに中村敬斗が決めて2点目、セレッソ大阪の毎熊のアシストから中村敬斗がふたたび決めて3点目。なんと、前半で3点をリード。できすぎ。しかし、そこからトルコに2点返されて、ドタバタに。ドイツ戦同様、リスクをとってキーパーからボールをつないでビルドアップするのだが、少しずつ精度が足りない。森保監督は途中から伊東、遠藤、冨安ら実力者たちを投入してチームを落ち着かせる。伊東がスピードでぶっちぎってPKをもらい、自分で決めて4点目が入って、ニッポン4対2トルコ。伊東はかつてのホームスタジアムでゴールを決めたことになる。よく点の入る試合だった。今のニッポンが史上最強だと思うけど、少し歯車が狂うと簡単に失点するサッカーではある。
●キーパーの中村航輔は負傷交代。柏時代とは別人のようなワイルドな風貌に変身して、ポルティモネンセで活躍している。今回はファンブルしたところを決められて失点してしまったが、実績からすると正守護神になっていい。
●伊藤洋輝、伊藤敦樹、伊東純也(途中出場)の三大ITOが実現。

September 13, 2023

マリオ・ヴェンツァーゴ指揮読響のブルックナー「ロマンティック」

●「おらおら、ブルックナーでモッサリしてんじゃねーよっ!」と指揮者の煽る声が聞こえてきそうな快演であった、マリオ・ヴェンツァーゴ指揮読響。12日、サントリーホール。プログラムは前半にスタニスワフ・スクロヴァチェフスキの交響曲(日本初演)、後半にブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」。なんといっても後半のインパクト大。
●前回の客演ではブルックナーの交響曲第3番で見事な演奏を披露してくれたヴェンツァーゴだが、今回もすこぶる痛快なブルックナー。全体のテンポ設定はかなり速め。第1楽章、最初の主題からして史上最速(自分比)。もっさり感ゼロ、湿気がなくカラッとした、躍動するブルックナー。しかし、ぜんぜん即物的ではなく、ためるところはぐっとためたり、意外な表情付けがあったりして十分にエモーショナルなのだ。読響から明快で硬質な響きを引き出す。終楽章も高速で、舞踊性すら感じる。前へ前へと止まることのない推進力。もうロマンティックが止まらない! 深い森もなければ野人でもない、大伽藍でもなく、むしろ高層建築がそびえ立つコンクリートジャングルのよう。鋭い光を反射してきらきらと輝きながら、マグマのようなエネルギーを放出する。
●曲が終わると完璧な沈黙が訪れ、盛大なブラボー。指揮者はハイテンションで喜びをあらわにする。指揮台でこんなにご機嫌なブルックナー指揮者はなかなかいない。客席の反応はわりとはっきりわかれていたんじゃないかな。さっさと帰る人は帰る、でも熱心なお客さんたちが大勢居残ってソロ・カーテンコールで大喝采。ヴェンツァーゴ、大勝利。

September 12, 2023

ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団のオール・シュトラウス・プロ

ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団
●9日はNHKホールでファビオ・ルイージ指揮N響。新シーズンの開幕公演に首席指揮者ルイージが選んだのはリヒャルト・シュトラウスの3曲。それもひとひねりしてあって、交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」、「ブルレスケ」(マルティン・ヘルムヒェン)、交響的幻想曲「イタリアから」というラインナップ。3曲をくくるとすれば、笑い、ないし戯れか。
●「ブルレスケ」を聴ける機会は貴重。実質ピアノ協奏曲で、ソリストはマルティン・ヘルムヒェン。ソリストのヴィルトゥオジティがロマンではなくユーモアに昇華されてゆくという稀有な曲。「ティル」と並べて聴くにはぴったりか。あるいはパロディ的な性格からメタ・ピアノ協奏曲として聴くこともできるのかも。ピアノとともにティンパニが活躍することもあってか、少し前に聴いたばかりのマーラー第7番をつい連想する。ヘルムヒェンはダイナミックで、NHKホールの大空間を相手に健闘。アンコールにシューベルトの「楽興の時」第3番。
●後半の交響的幻想曲「イタリアから」は、なんといっても終楽章の「フニクリ・フニクラ」が最高におかしい。ルイージの指揮ぶりは「ティル」でも「イタリアから」でもはめを外すようなところはなく、正攻法。華麗なるオーケストレーションに浸りながら、脳内に流れるのは「鬼のパンツはいいパンツ」。しかし西洋人はこの曲を聴いても「鬼のパンツ」など思い浮かばないわけで、われわれはこの曲を「一粒で二度おいしい」楽しみ方をしている。
●N響の機関誌「フィルハーモニー」(プログラムノート)で、今号からはじまった「はじめてのクラシック」のコーナーにIKEさんがイラストを寄稿している。オンラインでもPDFで読めるので、おすすめ。

September 11, 2023

ドイツ代表vsニッポン 国際親善試合 @ヴォルフスブルク

●今週は代表ウィーク。近年、ヨーロッパ各国の代表はネーションズ・リーグやEURO予選でスケジュールが埋められてしまい、もうニッポンは欧州勢とほとんど対戦できなくなってしまったのだが、なんと、ドイツ代表との対戦が実現! というのも、ドイツは次回EUROの開催国なので予選が免除されており、日程が空いている。そこで、カタールW杯に続いて、ドイツ対ニッポンの試合が組まれることに。ドイツにとってはリベンジマッチ。ニッポンはアウェイで強豪ドイツと対戦できる超貴重なチャンス。ワールドカップ本大会では「前半はがまん(1失点してもなお)」のタイトな戦い方だったが、こんどはオープンな戦い方になる。場合によってはだいぶ失点することもあるだろう……と思っていたら!?
ドイツ●な、な、なんと。 まさかのドイツ 1-4 ニッポン! 大量得点で勝ってしまった。ワールドカップでは「勝つ可能性があるとしたらこれしかない」という思い切った戦術をとってそれがピタリとはまって勝った。ギャンブルに勝ったという印象が強い。だが、今回の試合はニッポンが攻守ともに相手を凌駕して、勝つべくして勝った。長い間、代表の試合を見てきたけど、サッカー大国と対戦して個の技術でこちらが上回ってるなと感じたのは初めてのこと。特にゴールキーパーからのビルドアップの場面。相手のプレスを交わしながらセンターバックやボランチ、サイドバックで速くて正確なパスをつなぐ。そこ、ミスったら即失点でしょ、みたいなところを当然のようにつないでくる。逆にドイツがニッポンのプレスにミスをして大ピンチを迎える場面もいくつか。こんな時代がやってくるとは……。
●ニッポンのメンバーはGK:大迫敬介、DF:菅原由勢(→橋岡大樹)、板倉滉、冨安健洋、伊藤洋輝-MF:守田英正(→田中碧)、遠藤航-伊東純也(→久保建英)、鎌田大地(谷口彰悟)、三笘薫(→堂安律)-FW:上田綺世(→浅野拓磨)。唯一Jリーグ勢から広島のキーパー大迫が先発。危なげないというか、なにせドイツの枠内シュートは3のみ(ニッポンは11)。目をみはったのは右サイドバックの菅原由勢。ニッポンの1点目は菅原が縦に走り込んで低いクロスボールを入れ、中で伊東がリュディガーと競りながらニアの狭いところを抜いてゴール。これは気持ちのよいゴール。その後、ドイツは巧みなパスワークからサネがゴール左隅に流し込み同点。ここまではやっぱりドイツは強いなと思った。が、直後、またも菅原の低いクロスに伊東が合わせ、さらにそのボールに上田がとっさの反応でコースを変えて2点目。菅原が2点にからんだ。前半はニッポンが1点リードして終える。
●後半15分に森保監督は鎌田を下げて谷口を入れて、センターバックを3枚に増やす。これで実質5バックに。中盤が薄くなったので、ここから一気にドイツのボール支配率が上がる。ワールドカップとは逆で、先にリードして、後半は守るという展開。これで守り切ればそれだけでも立派なものだが、後半45分からニッポンは2点を奪ってしまう。まずは相手の高い最終ラインからボールを奪った途中出場の久保が、ゴール前に独走。キーパーのテア・シュテーゲンを引き付けてから中央ドフリーの浅野に横パスを出して、浅野が悠々とゴール。あそこで浅野に出した久保はえらい! レアルソシエダで中心選手としてあれだけ活躍しながら代表で先発できなかったのに、この大人のプレイ。浅野は久保といっしょにジャガーポーズ。ドイツでプレイする浅野が、ワールドカップに続いてまたもドイツから得点。さらに後半47分、久保のクロスに中央でドフリーになっていた田中碧が冷静にコースを狙ったヘディングを決めて4点目。こんなこともできる選手だったとは。得点にからんでいないが三笘は今日もキレッキレ。守備では冨安が圧倒的。
●ニッポンが最高によかったことはまちがいないけど、ドイツの不調ぶりも尋常じゃない。あのドイツがこんなに自信を失ってプレイしているなんて。直近ではコロンビア、ポーランドにも負けているので、ドイツは3連敗。さらに遡ってもウクライナと引分け、ベルギーに負け。ハンジ・フリック監督解任論も出ているようだが、これまでドイツ代表で監督が途中解任されたという話は聞いたことがない。

September 8, 2023

東京都美術館 うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈展

東京都美術館 荒木珠奈展 Caos poetico(詩的な混沌)
●今、東京都美術館で開催中の「うえののそこから『はじまり、はじまり』荒木珠奈展」がとてもよい(~10月9日)。版画、立体作品、参加型のインスタレーションなど多彩で、アイディアが豊富。上の写真は「Caos poetico(詩的な混沌)」(2005)と題された作品。メキシコでの留学体験が着想源となっており、電柱から勝手に電線を引いて電気を使用しているメキシコの人々の暮らしぶりに触発されたのだとか。ぶら下がっている明かりを下から覗くと、ひとつひとつ内側のデザインが違っていて楽しい。

東京都美術館 荒木珠奈展 うち
●こちらは「うち」(1999)。壁一面に扉の付いた箱がたくさん並んでいる。箱の中に明かりが灯っている。開いている箱もあれば、閉まっている箱もある。箱を開けるには鍵が必要。

東京都美術館 荒木珠奈展 うち
●鍵はこちら。鍵をひとつ手渡されて、それを使って鑑賞者が箱を開けるという趣向になっている。鍵には番号が記されており、それに対応した番号の箱を開けるのだが、箱は番号順に並んでいないので探し出さなければならない。

東京都美術館 荒木珠奈展 うち
●箱を見つけたら、鍵を使って開ける。なかにはそれぞれ違った絵が入っているが、そこにあるのはさまざまな家庭の情景。着想源は作者が幼少時に住んでいた団地なのだそう。

東京都美術館 荒木珠奈展 記憶のそこ
●こちらは最下フロアにどーんと展示されている「記憶のそこ」(2023)。でかい。ぱっと見、禍々しい雰囲気があって、エイリアンの卵を連想する。中に入れる。

東京都美術館 荒木珠奈展 記憶のそこ
●中に入って、上を見上げるとこんな感じ。「記憶のそこ」というだけあって、やっぱり怖い感じ。
●ほかにも作品多数で、思った以上のボリューム感。平面作品も見ごたえあり。全体を通して感じるトーンは、きれい、グロテスク、怖い、ノスタルジア。

September 7, 2023

「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(安藤寿康著/SB新書)

●これはだいぶ前に読んだ本なんだけど、先日ふとしたきっかけで思い出したので備忘録代わりに。「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(安藤寿康著/SB新書)という一冊。煽り気味の書名に抵抗を覚えるかもしれないが(ワタシ自身もSB新書から本を出させてもらってるのでナンだけど)、中身は行動遺伝学の本でたいへん興味深い。特に「なるほど」と膝を叩いたのは、人間のさまざまな能力や性格などについて、遺伝による影響と環境による影響を切り分けるために、一卵性双生児と二卵性双生児で相関を比較するという手法。一卵性双生児は100%、二卵性双生児は50%の遺伝子を共有している。1万組近くの双生児のデータを調査して、双生児のペアの学力やIQ、才能等について相関係数を算出している。
●極端に遺伝の影響が強いのが音楽や数学の能力で、一卵性双生児のペアの相関係数はともに0.9前後になる。対して二卵性双生児のペアは音楽では0.5くらい、数学では0.1にも満たない。IQは一卵性双生児のペアで0.85くらいとかなり高く、二卵性双生児のペアは0.6。遺伝が強いが、環境要因もわりとある。意外にも遺伝が決定的要素になっていないのが美術で、一卵性双生児のペアで相関係数が0.6程度。このあたりの結果は簡易な表がAERAdotの記事にも載っているのだが、だいぶ話が単純化されているので詳しい話はちゃんと本を読んだほうがよいかも。で、ワタシが目をみはったのは次の事柄だ。
●知能におよぼす遺伝と環境の影響を、児童期、青年期、成人期初期でわけて比較すると、児童期には遺伝の影響と環境の影響が似たような程度だが、成人期初期になると圧倒的に遺伝の影響が大きくなり、環境の影響は薄まってゆく。著者はいう。

 人間は年齢とともに経験を重ねてゆくわけですから、環境の影響が大きくなっていきそうなものですが、実際は逆なのです。
 つまり、人間は年齢を重ねてさまざまな環境にさらされるうちに、遺伝的な素質が引き出されて、本来の自分自身になっていくようすが行動遺伝学からは示唆されます。

●年をとるとともに、私たちは本当の自分になる。年配者の姿は経験や地位によって作られているのではなく、生まれながらの自分が出てきただけかもしれない。そんな可能性を心に留めておく。♪ありのーままでー。

September 6, 2023

マウスのセンターホイールが効かなくなったら

●ふだん、ワイヤレスのマウスを使っているのだが、あるときマウスのセンターホイールが効かなくなった。ブラウザのスクロールはもっぱらセンターホイールを回しているので、たいへん不便である。センターホイールそのものはちゃんと回転するのだが、スクロールしてくれない。ときどき少し効くこともあるが、すぐに効かなくなる。

マウスのセンターホイールが効かなくなったら

●最初は電池がなくなってきたのかと思ったが、そうではなかった。どうやらこれはセンターホイールとマウス本体の隙間に埃が入ったのが原因らしい。解決策としては、マウスを分解して掃除すれば完璧なのだろうが、もともと分解できるようにできていないものをばらすのは気が進まない。そこで、矢印の部分に、思い切り「フッーーー!」と息を吹き込んでみた。なんどかやってみたら、センターホイールが完全に復活! 息だけじゃダメだった場合は、エアダスターを使うつもりだったのだが、その前に解決。クルクルッと快適。クルクルッ、クルクルッ。ふふ。

September 5, 2023

東京国立近代美術館 所蔵作品展 MOMATコレクション

●演奏会の前に少しだけ時間があったので、東京国立近代美術館に立ち寄る。「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が9/10までということで、企画展のほうはずいぶん混雑しているが、コレクション展はほどほどで快適。13000点を超える所蔵作品から会期ごとに約200点を展示しているというだけあって、コレクション展であっても毎回いくつも新しい作品に出会える。
東京国立近代美術館 ミリアム・カーン「私のユダヤ人」
●上の写真はミリアム・カーンの「私のユダヤ人」(2005-11)の一部。壁にいくつもの絵が掲げられていて、その全体がひとつの作品になっている。さまざまな形や色で表現されるアイデンティティ。はなはだ不穏。
東京国立近代美術館 シャガール「コンサート」
●音楽ネタを挙げると、シャガールの「コンサート」(1974-75)。コンサートといってもクラシックのコンサートではなく、もっと猥雑な雰囲気。音楽家もいれば、軽業師もいるし、動物たちもいるということで、これはサーカスなのだろう。中央人物が吹いているのがクラリネット、その上の女性が弾いているのがヴァイオリンだとすると、クレズマー音楽のようなものを思い起こせばいいのだろうか。
東京国立近代美術館 月に憑かれたピエロ 大辻清司
●もうひとつ興味をひかれた作品を。今期のコレクション展では生誕100年を迎える写真家の大辻清司が特集されていて、その作品のひとつがこちらの「月に憑かれたピエロ」(装置・仮面デザイン:北代省三,衣装:福島秀子)(1955)。展示にはシェーンベルクのシェの字も出てこないのだが、これはなに?と思うじゃないすか。で、とりあえずWikipediaを鵜呑みにしちゃうと、シェーンベルク「月に憑かれたピエロ」の日本初演はこの一年前の1954年の実験工房による「シェーンベルクの夕べ」なのだが、1955年にも武智鉄二演出で「月に憑かれたピエロ」が上演されているそうなので、そのときの写真なのかな。音楽作品の上演なのに、写真のみがアートとして残り、美術館で鑑賞されているという状況がおもしろいと思った。

September 4, 2023

山田和樹指揮日本フィルのモーツァルト、バッハ、ウォルトン

山田和樹指揮日本フィル
●2日はサントリーホールで山田和樹指揮日本フィル。プログラムは前半がモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、バッハ~斎藤秀雄の「シャコンヌ」、後半がウォルトンの戴冠式行進曲「宝玉と勺杖」と交響曲第2番。去年、同コンビでウォルトンの交響曲第1番の名演があったけど、今回はめったに聴けない第2番がメイン・プログラム。
●「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は今では珍しい大編成による厚みと潤いのあるモーツァルト。情感豊かでたっぷり。遊び心にあふれ、テンポや強弱の変化に富む。20世紀巨匠風のスタイルに少したじろぐけど、続くバッハ~斎藤秀雄の「シャコンヌ」も管楽器入りの大編成バッハなわけで、趣旨は一貫している。昭和のモーツァルト、昭和のバッハという昭和ピリオド・アプローチ。あるいは昭和ロマン、とか。
●ウォルトンの「宝玉と勺杖」は壮麗。「勺杖」(しゃくじょう)ってどんなんだっけと検索してしまった……。で、交響曲第2番。ブラビンズ指揮都響以来、久々に聴いた。第1番から四半世紀を経て書いた第2番とあって、若さと勢いにあふれた第1番とはだいぶテイストが違う。ウォルトンなりに20世紀前半のモダニズムの洗礼を受け、当時のさまざまな作曲家たちの影響を受けている。第1番にあったヒロイックな要素は後退し、代わって洗練された味わい。オーケストレーションはカラフルで華やか。なにせ初演は1960年なので、当時は時代錯誤といわれてもしょうがないとは思うが、今になってしまえば関係ないわけで。3楽章で30分ほどで、やや短いので、うっすらと「もう1楽章、足りないのでは」感も。終楽章がパッサカリアでブラームスの第4番を思わせる趣向、前半のバッハのシャコンヌと対応させたプログラミング。主題に12音が使用されているそうなんだけど、「そんな足枷、いらないのに……」と思わなくもない。フガート以降はバルトーク「管弦楽のための協奏曲」終楽章を強く連想させる。幕切れは輝かしく、パワフル。もう一度聴きたくなるような演奏だった。
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●宣伝を。ONTOMOの連載「おとぎの国のクラシック」、第3話は「青ひげ」。よろしければ、どぞ。

September 1, 2023

「デビュー50周年記念! スティーヴン・キングを50倍愉しむ本」(文春e-Books)

●なんと、この電子書籍は無料でゲットできるのだ、「デビュー50周年記念! スティーヴン・キングを50倍愉しむ本」(文春e-Books)。もちろん、スマホでもPCでもKindle専用リーダーでも読める。来年、スティーヴン・キングが作家デビュー50周年を迎えるということで、新作のプロモーションも兼ねて発行された模様。キング・ファンにもキング入門者にも便利なガイドブックになっており、しかも、ここでしか読めない短篇がひとつ収められている。「ローリー」と題された短篇で、これがなかなかよい。どういう話か、なにも知らないほうが楽しめると思うけど、差しさわりのない範囲でいえば「犬小説」。犬好きが読んでも問題ない内容とだけは言っておこう。
●あと、おもしろいなと思ったのは「一目でわかる、キング代表作マトリックス」という図。横軸が「エモい⇔怖い」、縦軸が「リアル⇔幻想と怪奇」になっていて、主要作品が座標平面に配置されている。たとえば第1象限のもっともリアルでもっとも怖いに置かれているのが「ミザリー」。座標の原点には「IT」が配置されている。納得。で、気がついたのだが、自分が好きなキング作品は、横軸で見ると「怖い」の最大部分に偏っており、縦軸で見ると「リアル」から「幻想と怪奇」まで偏りなく分布している。つまり、自分はホラー作家としてのキングに惹かれていることになるのだが、そんなつもりはなかったので驚く。たしかにキングは「モダンホラーの帝王」だけど、彼の魅力は「怖い」ところにあるのではぜんぜんないし、自分はホラーが特段好きではない。
●具体的に好きなキング作品ベスト5を挙げるとしたら、なんだろうか。「シャイニング」「キャリー」「ミザリー」「ニードフル・シングス」「呪われた町」あたりか。近作は読んでいないので、どうしても過去の名作ばかりになる。先日も書いたけど、「シャイニング」はキューブリックの映画よりキングの原作がオススメ。

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