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2023年2月アーカイブ

February 28, 2023

SOMPO美術館 FACE展2023

SOMPO美術館 FACE展2023
●今年も新宿のSOMPO美術館の「FACE展2023」を観た。公募形式の展覧会で入賞倍率はだいたい13倍ほど。作品の多様性が魅力。ビビビッと来るものもあれば、なにがいいんだかさっぱりという作品も。「オーディエンス賞」が設定されていて、最後に自分の推しに一票入れられるという趣向も楽しい。あと、混まないので快適な空間を満喫できるのも吉。ここは建物がきれい。
SOMPO美術館 FACE展2023
●自分が特にいいなと思った作品を挙げる。まず上は「かもられ」(栁沼亜樹)。カモ好きなので。部屋の中にカルガモやマガモなどカモが何羽もいるというありえない状況に人がひとり。肌の質感など、どことなくカモ化しつつあるようでもあり、「かもられ」ているということなのか。カモはかわいい。

SOMPO美術館 FACE展2023
●一目見て強烈なインパクトを感じた「無から空へ」(西濃俊史)。この「空」は sky のほうではなく emptiness。題に反して画面の情報量は多く、混沌のなかに生命の原初的なエネルギーがうごめいている。内宇宙への旅のようにも。

SOMPO美術館 FACE展2023
●つい二度見、三度見したくなる作品。「The disappearing city III」(桜井旭)。ありふれた寂れた建物のようだが、なぜか自分はここを知っているという気持ちになる。遠い昔にこの内部に入ったことすらある、と錯覚する。中は事務所だと思う。外に置いてあるソファがなんともいえず味わい深い。座ってはいけないソファ。ノスタルジーを刺激する。

SOMPO美術館 FACE展2023
●FACE展には毎回、食欲を刺激する系の絵があるような気がする。ジューシーでおいしそう……と思って眺めていると、はっと直感する。いかん、これは危険なワナなのだ。題を見たら「amorous」(山谷菜月)。

SOMPO美術館 FACE展2023
●この作品は題が「音と香りは大気に漂う」(樺山カナヤ真理)。そう言われると、ドビュッシーの前奏曲集第1巻の同名曲を連想しないわけにはいかない。その元ネタのボードレールの詩から来ているのかもしれないけど。なんとなくドビュッシーの音楽からは寒色系の情景を思い浮かべてしまうのだが、夕暮れの情景なのでこういう色調になるのが自然。
●3月12日まで。

February 27, 2023

マリノスvs浦和 2019年以来の開幕2連勝 J1リーグ第2節

●J1第2節、マリノスvs浦和戦をDAZNで観戦。互いに第1節と先発を変えずにぶつかり合ったこの試合、積極的な攻め合いから前半18分、マリノスは左サイドの永戸からのクロスにファーサイドで西村が折り返して、アンデルソン・ロペスが頭で押し込んで先制。その後は膠着状態が続いたが、後半開始から浦和が前線のブライアン・リンセンを下げて興梠を入れてからは、浦和のペースになっていたと思う。決定機がいくつもあった。マリノスは受けに回る苦しい展開だったが、64分に右サイドバックの松原を本来センターバックの上島拓巳(柏からの新戦力)と交代。攻守のバランスを落ち着かせる。89分、前がかりになった浦和に対して、カウンターから途中出場のマルコス・ジュニオール、西村とつないで、最後はやはり途中出場のヤン・マテウスが冷静にゴールを決めて2点目。昨シーズン、なかなかチームにフィットできなかったヤン・マテウスだったが、これでブレイクしてくれますように。マリノス 2-0 浦和
●結果は文句なしだが、内容的には微妙なところもあって、浦和の狙いがピタッとはまっていた局面も。マリノスに前線から激しくプレスをかけさせておいて、その後ろの空いたスペースをキーパー西川のキック一本で突くという場面なんかは、完全にやられたと思った。西川のレベルならこの精度でボールを蹴ってくるのか。浦和は最後のフィニッシュが伴わなかっただけ。あと、マリノスはやっぱり選手層が昨季より格段に薄くなっているので、先に進むにつれてやりくりに苦労しそう。
●成長著しい藤田譲瑠チマをベンチに追いやって、渡辺皓太が先発の座を守っているのは立派。新たな正ゴールキーパーはオビになりつつあるが、控えにはベテラン飯倉36歳が入った。神戸を去ってフリーになったところを、急遽マリノスが復帰させたわけだが、本当ならここには鹿児島への期限付き移籍から復帰した白坂楓馬26歳が入ってほしい気も。キーパー陣にはさらにガンバからのローンで獲得した一森純31歳もいる。キーパーというポジションは控えとしてベンチに座るのすら狭き門。ピッチ上に立つあらゆるゴールキーパーは、ライバルたちを退けたただひとりの勝者なのだと感じる。

February 24, 2023

アンナ・ラキティナ指揮読響のチャイコフスキー他

●22日はサントリーホールでアンナ・ラキティナ指揮読響。近年は若い指揮者が増えた。女性指揮者もぜんぜん珍しくない。でも「若い女性の指揮者」となると、かなり少数派。華奢で小柄なラキティナが指揮台に立つと、新しい時代の到来を感じる。ラキティナはウクライナ人とロシア人の両親を持ち、現在はボストン交響楽団のアシスタント・コンダクターを務める。すでにシカゴ交響楽団やニューヨーク・フィル、パリ管弦楽団、LAフィルを振っているそう。指揮の動作は明快でスムーズ。七分袖の指揮者は珍しいが、腕の動きの視認性を高めるためなのだろうか。弦楽器は通常配置だが上手側にチェロ。
●プログラムはエレナ・ランガーのオペラ「フィガロの離婚」組曲(日本初演)、ベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」(ルノー・カプソン)、チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。本当だったらルノー・カプソンは、ミュンヘン・フィルらが委嘱したエスケシュの新作ヴァイオリン協奏曲を日本初演する予定だった。が、昨年の欧州での世界初演が延期されてしまい、東京の公演を世界初演とすることができず、ベルクに変更された次第。
●一曲目のエレナ・ランガーの「フィガロの離婚」組曲、これは曲名がすでにオチみたいな曲だが、もとになったオペラがちゃんとあって、既存の同名戯曲とボーマルシェ3部作の戯曲「罪ある母」(←ぶっ飛んだストーリーにより一部で有名)をもとに台本が書かれているのだとか。曲自体はさまざまなスタイルのごった煮みたいな楽しい曲なのだが、なにせ元のストーリーが未知なので、もどかしい気分は残る。ルノー・カプソンのベルクはたっぷりと潤い豊かな音色。第1楽章は速めのテンポで、まるで踊るかのように弾く。内省的で思索的な作品のように思っていたけど、こんなに輝かしく弾けるのかと感心。アンコールはグルックの「精霊の踊り」。これでもかというくらいに朗々と美音を鳴らす。
●後半のチャイコフスキーがラキティナの本領発揮なのだろう。整然とした端正なチャイコフスキー。音楽の流れが自然で、ぜんぜん土臭い感じがない。すっきりしすぎて薄味といえばそうなんだけど、バランスのとれた爽快な響きで、清潔感がある。また聴いてみたくなる。
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●宣伝を。ONTOMOの連載「心の主役を探せ! オペラ・キャラ別共感度ランキング」第9回はリヒャルト・シュトラウス「サロメ」。キャラ視点によるオペラガイド。

February 22, 2023

ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023 記者会見

ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023 記者会見
●21日は東京国際フォーラムでラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023の記者会見。そう、今年はラ・フォル・ジュルネが4年ぶりに復活するのだ。5月4日から6日まで、「Beethoven―ベートーヴェン」をテーマに開催される。主催はラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023運営委員会(三菱地所株式会社/株式会社東京国際フォーラム/株式会社KAJIMOTO)。アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンが来日して記者会見に登場、今年の見どころなどを語ってくれた。
●3日間にわたる開催だが、規模はコンパクトになる。有料公演の会場はホールA、ホールC、ホールD7の三か所で、公演数は50公演(ほかに無料公演も開かれる)。つまり、ホールD7以外の小さな会場の公演がなくなった。したがって公演数はぐっと減っているわけだが、大きなホールでの公演は残っているので、客席数ベースで考えるとそこまで減ってはいないはず。地上広場のキオスクコンサートや屋台村、マスタークラス、講演会なども開催されるということなので、ラ・フォル・ジュルネらしい雰囲気は帰ってくると期待している。0歳児コンサートも健在。出演者陣も含めて、持続可能な形でこの音楽祭らしさを作り出すために知恵が絞られたという印象を受けた。
●すでに有料公演のラインナップは発表されている。テーマがベートーヴェンなのは、パンデミックで失われた2020年のベートーヴェン生誕250年のリベンジでもあり、第1回と同じテーマによるリスタートでもあり、また災禍に打ち勝つというニュアンスを込めた作曲家の選択でもあるのだろう。交響曲や協奏曲の主要作品から室内楽、ピアノ曲、そして後世の音楽家たちによる編曲作品やオマージュ、ジャンルを超えたアーティストたちの登場など、ルネ・マルタン・カラーがしっかり打ち出されている。ざっとプログラムを見て、目立ったアーティスト名を挙げると、ピアノではエル=バシャ、ケフェレック、ペヌティエ、ヌーブルジェ、レミ・ジュニエ、亀井聖矢、福間洸太朗、萩原麻未、広瀬悦子、谷口知聡ら。室内楽は初登場組が多く、ハンソン四重奏団、トリオ・ゼリハ、トリオ・アーノルド他で新鮮。航空運賃の高騰もあって、オーケストラは日本センチュリー、シティ・フィル、東響、神奈川フィルら国内勢で固められている。渋さ知らズ、林英哲と英哲風雲の会も登場する。全体として、ホールCに足を運ぶ機会が増えそうな予感。

February 21, 2023

そば茶上等

●20日は東京芸術劇場で藤田真央と務川慧悟のピアノ・デュオ……を聴くはずだったが、公演関係者にコロナ陽性反応が確認されたため、中止になってしまった。期待度最強の公演だったので残念な限り。
●そんなわけで、夜はズズッとそば茶をすすりながら仕事を進めていた。そう、そば茶なのだ、最近は。細かく言えば、韃靼そば100%のそば茶ティーバッグ。これがおいしい。もともと自分は熱烈なコーヒー党なのであるが、最近は夜にカフェインを摂取すると眠れなくなってしまうため、代わりの飲み物を探していた。ウーロン茶やほうじ茶にも、コーヒーほどではないがほどほどのカフェインが含まれている。そこで、カフェインレスなコーン茶、黒豆茶、そば茶のティーバッグを試してみたところ、そば茶を気に入った(コーン茶も悪くない)。すでに3社の製品を使っているのだが、どれも同じようにおいしい。というか、どれも同じ味に感じるのだが、飲み慣れていないからなのか。
●週末に確定申告を済ませた。こんなに早く済ませられるようになったのは、市販の会計ソフトを止めてエクセル簿記/ExcelBというツールを使うようになったおかげであり、日々こまかな入力作業をしているからなのだが、それにしても税務が煩雑すぎると感じる。新しい制度が増えるたびにどんどん新しいルールができて、事務作業が増えてくる。マイナンバーカードが導入されてさらにややこしいことになっている。e-Taxで申告する際、国税庁のサイトとマイナポータルを行ったり来たりしたが、あのわかりづらさと来たら! 本当ならマイナンバーカードをピッとやったら瞬時に作業が片付いて「あ~、楽チン」となるべきだと思うのだが、ぜんぜん楽になってない。いまだに新しい取引先が増えるたびに、マイナンバーカードの表と裏をコピーして台紙に貼り付けて簡易書留等で郵送するように求められるのは、なにかのジョークなのか。プンプン!
●はっ。そうじゃない。ここは世間に怒りをぶつける場所ではないのだった。気分を鎮めたい、そば茶でも入れて。ふー、ルチン最高~。

February 20, 2023

2023年のJリーグ開幕! 川崎vsマリノスは耐えて逃げ切る展開に

●「4年後じゃない。2ヶ月後だ」。予想外の盛り上がりを見せたワールドカップ2022カタール大会の後、Jリーグのプロモーションビデオにあった秀逸なコピー。その2ヶ月後がやってきた。第1節、マリノスは一足早く金曜日にアウェイの川崎戦で開幕。試合はDAZNで観戦。開始早々の4分、マリノスの前線からの精力的なプレスが実を結んで、川崎のキーパー、チョン・ソンリョンのキックミスを誘発、これをエウベルをカットして、西村が落ち着いてゴール。さらに38分にエウベルが追加点。終了間際に1点を失ったが、なんとか逃げ切った。川崎 1-2 マリノス
●しかしこの試合、内容はまったくよくなかった。優勝した昨季に続いて今季もケヴィン・マスカット監督のもと、ハイテンションのアタッキング・フットボールを継続するはずだったが、多くの時間帯で川崎にボールを支配され、受け身に回る展開に。パスの成功率も低く、目指している形とはずいぶん違っていたはず。正直なところ、今季のマリノスはかなり順位を落とすと思う。だって、昨季の主力級がごっそり抜けた。MVPの岩田智輝がスコットランドのセルティックに去り、守護神の高丘陽平はバンクーバー・ホワイトキャップスに去り、ゴールゲッターのレオ・セアラはセレッソ大阪に移り、元MVPの仲川輝人は悔しいことにFC東京に移籍してしまった。そして、ビッグネームと呼べる補強はなし。選手層が格段に薄くなったのに、ACLもある。積極投資の時期は終わったのかも。たぶん、今シーズンはマリノスでも川崎でもないクラブが優勝を争うのでは。
●活躍した選手がチームを去るのは残念だけど、これはプロ選手の宿命なのでしかたがない。選手が第一線で活躍できる期間は短い。主力として優勝したり、MVPを獲ったら、次のチャレンジに向けて出発するのは当然のこと。サッカー選手は選手である限り旅人だ。岩田も高丘もどんどんステップアップしてほしい。仲川もレオ・セアラも新天地でがんばってほしい、ただしマリノス戦以外で。

February 17, 2023

ヤクブ・フルシャ指揮NHK交響楽団のシマノフスキ、ブラームス

ヤクブ・フルシャ指揮NHK交響楽団
●16日はサントリーホールでふたたびヤクブ・フルシャ指揮NHK交響楽団。プログラムはドヴォルザークの序曲「フス教徒」、シマノフスキの交響曲第4番 「協奏交響曲」(ピョートル・アンデルシェフスキ)、ブラームスの交響曲第4番。先日の「ダブル・シンフォニック・ダンス」もよかったが、それを上回る充実度。一曲目の「フス教徒」、知らずに聴けばスメタナ「わが祖国」パート2といった趣。「わが祖国」の第5曲「ターボル」と第6曲「ブラニーク」もフス教徒が題材になっているが、共通する主題が出てくるのみならず、闘争的な楽想やシンバルが活躍するオーケストレーションなども似ている。「わが祖国」でスメタナだと思って聴いていたものの何割かは汎ボヘミア成分なのかも。
●シマノフスキの交響曲第4番 「協奏交響曲」はたぶんライブでは初めて。名は交響曲だけど、実質的にはピアノ協奏曲。ひたすらカッコいい。意外にも簡明さや透明感があってバルトークのピアノ協奏曲第3番を連想するが、こちらのほうが先。ラヴェルの2曲のピアノ協奏曲を思わすところも。民俗的でもあり古典的でもありモダンでもありのバラエティパック風味。第3楽章は地中から怪獣が出てきそう感があり。クライマックスへと向かう反復的パッセージの輝かしさときたら。熱い。アンデルシェフスキは確信と共感のソロ。年輪を重ねても雰囲気はあまり変わらない人だなと思う。アンコールはバルトークの「シク地方の3つの民謡」。絶品。
●後半はブラームスの交響曲第4番。4曲の交響曲のなかでもっとも好きな曲だけど、ライブでは期待外れに終わることも多い難しいレパートリーという認識。が、フルシャとN響は本格派の見事なブラームスを披露。全体の造形は20世紀の伝統にのっとったもので、粘るところは粘る、締めるところは締めるで、寂寞とした情感と切れ味の鋭さを両立。先日の演奏でも感じたけど、このコンビのサウンドは明るめだけど重量感がある。特にこの日はホルンセクションが強めに鳴っていた。楽員退出後も拍手は続き、フルシャとコンサートマスター白井圭のふたりで、デュオ(?)カーテンコール。

February 16, 2023

調布国際音楽祭2023 One Melody for All 記者会見

調布国際音楽祭2023
●14日は「調布国際音楽祭2023 One Melody for All」の記者会見。対面とリモートのどちらでも参加可能な形式だったのでリモートで。直前まで都心で別件が入っていたのだが、近場に個室ブースを見つけられず、すぐそばにあったカフェに飛び込んでPCを開く。これだと自分はしゃべれないので質疑応答には加われないが、聞くだけでもと割り切って参加。
●BCJの創設者である鈴木雅明さんが調布在住というご縁から始まったこの音楽祭も今年で11回目。昨年の第10回はコロナ禍にありながらも、これまでで最多となる約1万名の来場者を記録したそう。会見には音楽祭エグゼクティブ・プロデューサーの鈴木優人さんとアソシエイト・プロデューサーの森下唯さんらが登壇。今年は One Melody for All をテーマに掲げ、街の音楽祭としてあらゆる人々と音楽を共有したいという願いが込められる。期間は6/24(土)から7/2(日)まで。グリーンホール大ホールおよび小ホール、文化会館たづくり くすのきホール・むらさきホール・エントランスホール、せんがわ劇場、深大寺他が会場となる。
●プログラムは多彩。オープニングコンサートは鈴木優人指揮読響で「銀幕を彩る名曲たち」。ジャン・チャクムル独奏によるモーツァルトのピアノ協奏曲第21番、鈴木優人が「メンデルスゾーンのいちばん愛する作品」という交響曲第3番「スコットランド」他。バッハ・コレギウム・ジャパンは佐藤俊介のヴァイオリンとともにヴィヴァルディ「四季」を二日間にわけてバッハの作品とともに演奏。こちらも指揮は鈴木優人。室内楽では川久保賜紀×佐藤晴真×松田華音のトリオによるチャイコフスキー「偉大な芸術家の思い出に」他。
●鈴木雅明指揮フェスティバル・オーケストラは、バッハの管弦楽組曲第2番(フルートに上野星矢)とベートーヴェンの「第九」を演奏。このフェスティバル・オーケストラは各パートの首席に名だたる名手をそろえつつ、これにオーディションに合格した若手演奏家たちが加わるという編成(公募あり)。ほかにも清塚信也をゲストに招いたガラ・コンサート(合唱・手歌にホワイトハンドコーラスNIPPONが加わる)や、櫻田亮のテノール、懸田貴嗣のチェロ、西山まりえのチェンバロによる「深大寺で聴く古のうた」、おんがくしつトリオなど、企画の幅が広い音楽祭になっている。鈴木優人さんの「毎年新しい花火を打ち上げるつもりで」臨んでいるという言葉が印象に残った。

February 15, 2023

ChatGPTとの音楽談議 コンサートレビュー篇

先日に続いて対話型AI、ChatGPTの話題を。新たな産業革命をもたらすAIなのか、表面的によくできた回答を返すだけの巧妙なチャットBOTにすぎないのか、いろんな見方があるわけだが、ともあれChatGPTは文章を書ける。そこで、先日の札幌交響楽団東京公演の公演評を書いてくれと頼んでみたところ、すげなく断られた。

ワタシ 昨晩の札幌交響楽団東京公演の批評を書いてほしい。

ChatGPT 申し訳ございませんが、私は訓練データに限定されているため、特定のイベントの批評を書くことはできません。代わりに、一般的な交響楽団の演奏に関する話題について話すことはできます。例えば、交響楽団の演奏の質や指揮者の技術、演奏会のアレンジなどについて教えてもらえますか?

ワタシ わかった。では、マティアス・バーメルト指揮札幌交響楽団の演奏の特徴や傾向について教えてほしい。

ChatGPT マティアス・バーメルトは現在、札幌交響楽団の指揮者として活躍しています。彼の指揮スタイルは激しいとも言われており、強烈なエネルギーをもって演奏をリードすることが特徴です。

彼は演奏者と密接な関係を築き、彼らの演奏能力を最大限に引き出すことに力を入れています。また、彼は演奏者に新しいアプローチや視点を提供することを重視しており、演奏者が新たな風を吹き込むことができるよう努めています。

彼はまた、オーケストラの演奏を美学的にとらえ、演奏のバランスや繊細なニュアンスにも細心の注意を払っています。このこだわりによって、彼の主演する演奏は美しさと強さを兼ね備えたものとなっています。

このように、マティアス・バーメルト指揮の札幌交響楽団の演奏は、指揮者の技術と演奏者との信頼関係、演奏に対する美学的アプローチから成り立っています。

ワタシ ありがとう。僕と少し見方は違うけど、同じところもある。参考になるよ。

ChatGPT それは素晴らしいことです! 見方の違いは良いことです。これが議論を生む原因であり、深い理解を深めることができます。私がお手伝いできてうれしいです。何か別の質問がありましたら、どうぞお気軽にお尋ねください。

●ChatGPT、適当なゴタクを並べやがって……と思ったけど、最後に予想外に建設的な答えが返ってきて、軽く友情を感じた。

February 14, 2023

鈴木秀美指揮神戸市室内管弦楽団 東京特別演奏会

●13日は紀尾井ホールで鈴木秀美指揮神戸市室内管弦楽団の東京特別演奏会。昨年、神戸文化ホールで「コジ・ファン・トゥッテ」抜粋を聴いて以来の同コンビを東京で。2021年に鈴木秀美音楽監督を迎えて今すごく元気のある楽団。プログラムが凝っている。前半がモーツァルトのセレナーデ第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、セレナーデ第12番「ナハトムジーク」、後半がシュニトケの「モーツァルト・ア・ラ・ハイドン」、プロコフィエフの交響曲第1番「古典」。前半がモーツァルトで後半がモーツァルトら古典派にインスパイアされた作品という趣向。モーツァルトは弦楽器と管楽器のためのセレナーデを一曲ずつ聴けるのも吉。
●「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」では指揮者を置かず、鈴木秀美がチェロを演奏。管楽器のほうの「ナハトムジーク」ではナチュラルホルンを使用(ナチュラルホルン、ナチュラルトランペット、バロックティンパニは楽団所有なのだとか)。ともにニュアンスが豊かで精彩に富む。特に管楽器の「ナハトムジーク」の色彩感が印象的。シュニトケの「モーツァルト・ア・ラ・ハイドン」では暗闇の中から解体再構築されたモーツァルトが浮かび上がり、最後はひとりまたひとりと舞台を去り暗闇で終わるハイドン「告別」のような演出が施されている。この流れで行くと最後のプロコフィエフはハイドン流の軽快な性格が強調された演奏なのかと思いきや、むしろ豪快に鳴らしたパワフルな演奏で、鮮やかなクライマックスを築く。アンコールに「きっとプロコフィエフは知らなかった作品」というハイドンの交響曲第62番の第2楽章。古典と擬古典の行ったり来たりが楽しい。
●帰り際、神戸ワインのおみやげあり。お酒を飲まない自分には神戸ウォーター。ありがたくいただく。

February 13, 2023

ヤクブ・フルシャ指揮NHK交響楽団のダブル・シンフォニック・ダンス

ヤクブ・フルシャ NHK交響楽団
●16日はNHKホールでヤクブ・フルシャ指揮NHK交響楽団。この日は東京では珍しく積雪あり。電車が止まって会場にたどり着けないパターンかと恐れたが、夕方から雨になり、思ったほど交通機関の混乱もなかった。とはいえ、どの駅からも遠いホールなので、客席に空席が多かったのは天候を考えればしかたがない。この日はCプロなので、19時30分開演で休憩なしのプログラムだが、18時45分からN響メンバーによる室内楽がある(入退場自由)。この日はチャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」から第1楽章。
●本編のプログラムはバーンスタインの「ウエスト・サイド・ストーリー」から「シンフォニック・ダンス」、ラフマニノフの「交響的舞曲」。つまりダブル・シンフォニック・ダンス。しかもどちらもアメリカ生まれ。なるほど、この手があったか。フルシャはけれん味のない指揮ぶりで、両曲ともにキレがあるけどズシンと重量感もあるパワフルな音楽になっていた。直線的なドライブ感。バーンスタインでは楽員たちの「マンボ!」の発声もばっちり。ここのシャウトで照れくさそうだったり渋々だったりする時代はもう終わった。ラフマニノフはスペクタクル満載の輝かしい音楽だけど、最後にドシャーンと銅鑼が鳴って、破壊的な余韻を残す。ここでしっかりと余韻を響かせながら、フルシャが客席を向いて拍手を受けるのが効果抜群。楽員退出後、少数のお客さんが拍手を続けて、フルシャのソロ・カーテンコールに。
●金曜夜の演奏会は酔客の多い帰路がやや鬱なのだが(なので終演は早めがありがたい)、雪のおかげで人が少なく平和だった。渋谷ですら穏やかに思えるほど。

February 10, 2023

マティアス・バーメルト指揮札幌交響楽団のシューベルト他

●9日はサントリーホールでマティアス・バーメルト指揮札幌交響楽団。札響は一年前にも聴いたが、そのときはバーメルトが入国できず、コロナ禍における「全日本首席客演指揮者」級の活躍を見せたスダーンが代役を引き受けた。今回、ようやく首席指揮者バーメルトの指揮する札響を聴けることに。マティアス・バーメルトはもう80歳。古典から現代音楽、知られざる作品まで幅広いレパートリーを持ち、古くから名前を目にしていた名指揮者が、いま札響の首席指揮者を務めているのがなんだか不思議な感じ。
●プログラムは武満徹「雨ぞふる」、モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲(カール=ハインツ・シュッツ、吉野直子)、シューベルトの交響曲「ザ・グレイト」。生前バーメルトと交流のあった武満作品が冒頭に置かれている。札響のシーズン・テーマが「水」ということで、「雨ぞふる」が選曲されたそうだが、一夜明けた本日の東京は「雪ぞふる」で、北の大地を思わせる天候になっている。モーツァルトではウィーン・フィルのソロ・フルート奏者カール=ハインツ・シュッツとハープの吉野直子のふたりが聴きもの。清澄で優雅(この作品、人気曲だけど、自分にとってはあまりモーツァルトらしくない曲に分類されている)。アンコールにイベールの間奏曲。抜群に楽しく、爽快。
●バーメルト&札響コンビの本領発揮は後半。シューベルトの「ザ・グレイト」はきわめて見通しのよい鮮明なサウンドで、ふだんは聞こえないような声部も明瞭。骨格を明らかにするワイヤーフレームのシューベルト。明快なリズムによる推進力のある演奏で、湿気ゼロ。なるほど、これくらい首席指揮者の色に染まるのであれば、ほかでは聴けない「オレたちのオケ」になるのだなと納得。おしまいの拍手はもう一呼吸置きたかった気もするが、アンコールにシューベルトの「ロザムンデ」バレエ音楽第1番より。終演21時30頃の長丁場。帰り際に昨年同様、片栗粉のプレゼント。ありがたい。
●「ザ・グレイト」の第2楽章の後に、2階席から男の大声が発せられるアクシデントがあった。「〇〇さん!ナントカカントカ!」と叫んだ後で、ひとりで手を叩いていた。大原さん?大前さん? だれか個人の奏者に対して、叱咤したのか激励したのかなと思ったが、後からSNSを見たら「オーボエさん」と叫んでいたらしい。怒っているのか、暴れ出そうとしているのか、あるいは不条理な情動のあらわれなのか、最初はコンサート会場でときどき見かけるタイプのゾンビかと身構えたのだが(オーケストラの音も緊張感が増した、と感じた)、攻撃的な意図ではなかったらしいと後から知った。サッカーの試合で監督が檄を飛ばして手を叩くみたいなのに似てる。
●ポスターでもプログラムノートでも曲目表記が交響曲「ザ・グレイト」になっているのは見識だと思った。これがいい。本当なら「ザ・グレイト」は交響曲第9番、「未完成」は交響曲第8番のままにしおけばよかったと思うが(欠番があってなんの不都合が?)、2008年頃から急速に第8番「ザ・グレイト」、第7番「未完成」の表記が広がった。でもすでに世に出た録音物や出版物は旧番号のままなので混乱しがちだし、海外のサイトでは従来の番号のままの表記もよく見かける。だれかが携帯電話を解約したら、ほかの契約者たちはその空き番号を詰めるように番号を変更しましょう、みたいなナンセンスさを感じる。

February 9, 2023

「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」シーズン2

●先日、Apple TV+の「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」シーズン1を紹介したが(→該当記事)、続くシーズン2も観てしまった。アメリカンフットボールの監督が、イングランドのフットボール(サッカー)の監督に抜擢されるという荒唐無稽な設定によるハートウォーミングなコメディ。もちろん、現実にはそんな無茶苦茶なことは起こりえないのだが(最高レベルのライセンスを取得しないとプレミアリーグの監督にはなれない)、登場人物のキャラクターが魅力的で、とてもよくできている。サッカーの試合場面をめったに出さないという割り切った作りも成功している。物語の舞台となるAFCリッチモンドは架空のチームだが、対戦相手には本物のプレミアリーグのクラブ名が出てくる。シーズン2には、スポーツニュースのコメンテーターとして、ティエリ・アンリが本人役で登場する。主要登場人物のひとり、ロイ・ケントはかつてのマンチェスター・ユナイテッドのキャプテン、ロイ・キーンがモデルなのだろうか。
●で、シーズン2になると、戦いの舞台が2部リーグのチャンピオンシップに移る。シーズン1に比べると、人間の負の面に焦点が当てられており、クラブが専属セラピストを雇ったり、テッド・ラッソが過去のトラウマと向き合ったりする。そして、シーズン1の嫌われ役がいいヤツになったと思ったら、こんどはいいヤツだと思っていた人物がイヤなヤツになる。これは連続ドラマあるあるっすよねー。そして、やっぱりロマンスが前面に出てくる。もうこれは避けようがない(実際、おもしろいわけだし)。ゾンビドラマだった「ウォーキング・デッド」が、シーズンが進むにつれて、人間の愛憎を中心としたドラマに変容し、ゾンビ禍そっちのけになったのと似ている(途中で観るのを止めたから、その後どうなったかは知らないけど)。
●シーズン2でも英米の違いをあらわす「水ネタ」がまた出てきて、アメリカ人のテッドが水をもらう場面で、Still or sparkling? と尋ねられて、still water をもらう。なるほど、イギリスで炭酸の入っていない水は、still water って呼ぶんすね。テッドは「最初の頃は『まだ水』って言ってるのかと思った。前から水だったけど、今もまだ水、みたいな」とジョークで答えていた。

February 8, 2023

入試問題利用報告

●拙著を入試問題に利用したという報告がメールで届いた。これが本を書いている人たちの間でしばしば話題になる噂のアレか! 著作権法上、本の一部を入試問題に使用する際に著者の許諾は必要ない。これはもっともな話で、入試問題という性格上、事前に知らせようがない。ただし、過去問題を学校説明会等で配布する場合は著作権法で認められた使用範囲を超えるので、許諾が必要になる。そこで、入試問題に使ったという事後報告とともに、次年度での過去問題の配布の許諾が求められた次第。もちろん、かまわない。
●使用されたのは「クラシック音楽のトリセツ」(SB新書)の一部で、なんと、ある私立中学校の国語の入試問題。ということは、小学6年生が解く問題なのか! 小学生でも理解できる文章を書けている証なのだから、喜ばしいことである(難しい言葉には注釈が付く)。実際に使用された試験問題も送られてきたので、一応、自分でも解いてみようかなと思って問題を読んでみたが、なかなか手ごわい。今どきの小6、優秀すぎる。「本文中の筆者の考えと共通する内容を以下の選択肢から選びなさい」みたいなタイプの問題には考え込んでしまった。文の正しい読み方はひとつではないし、決して著者が「正解」を知っているわけではないのだと実感する。
●あと、問題を作成する先生方の苦労は大変なものだとも思う。毎年のことなのだから、頭が下がる。

February 7, 2023

デヴィッド・ラングのオペラ「note to a friend」

デヴィッド・ラング note to a friend
●4日は東京文化会館小ホールでデヴィッド・ラング作曲&台本のオペラ「note to a friend」。小ホールで歌手は一名のみ(セオ・ブレックマン)、これに役者一名、弦楽四重奏が加わる一幕もの約60分の新作。演出はレジェンド、笈田ヨシ。すでに1月にニューヨーク公演が行われている。オンライン記者会見の模様をレポートした際にも記したように、題材となっているのは芥川龍之介作品で、主に「或旧友へ送る手記」および「点鬼簿」。オペラの題は「note to a friend」となぜか英語表記で、日本語表記がほしかった気もする。
●デヴィッド・ラングの音楽を最初にライブで聴いたのは「ラ・フォル・ジュルネ」の公演だったと思う。簡潔で反復的で、透明感があり、静謐さのなかにほのかな悲しみやノスタルジーを湛えたエモーショナルな作風だと記憶しているが、その印象は今回のオペラでも変わらない。60分の間、ほとんどの時間帯で身振りの小さな音楽が続く。静けさいう点ではドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」をもしのぐ。演奏は見事で、成田達輝、関朋岳、田原綾子、上村文乃による弦楽四重奏は望みうる最上のものだろう。オペラ歌手ではないので、セオ・ブレックマンはマイク付きの歌唱。リリカルな声。
●身振りが小さいのは音楽だけではなく、舞台上も同じ。「羅生門」スタイルに触発された、自殺した男が友に語り掛けるという趣向。物語的というよりは詩的で、オペラというよりは連作歌曲風。テーマは自殺。記者会見では作曲者も演出家もこれを悲劇的なものとはとらえていないという話があった。そこは自分には理解の及ばない領域で、まっすぐにこのテーマに向き合うことは難しい。
●約60分だとあっという間。まだこれから「トリスタンとイゾルデ」の一本くらい聴けそうなくらい(ウソ)。

February 6, 2023

全国共同制作オペラ「田舎騎士道」&「道化師」(上田久美子演出)

全国共同制作オペラ「田舎騎士道」&「道化師」
●3日は東京芸術劇場で全国共同制作オペラ「田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)」&「道化師」。毎回、チャレンジングな演出家の起用が話題になるシリーズだが、今回は宝塚歌劇団で多くの演出を手掛けてきた上田久美子がオペラに初挑戦。最高に野心的な演出による刺激的な舞台が実現した。終演後にコロナ禍以降、初めて客席から大きなブーが出たのを耳にしたが、これだけ果敢な演出にブーが出なかったらあまりに寂しい。賛否両論は狙いが成功した証だろう。率直に言って、改善の余地のある部分も多々あったと思うのだが、「もう一回、見たい!」と思える演出だったことはたしか。
●事前の記者会見で「文楽方式で、歌とダンサーによる昔のイタリアと今の日本の重ね絵のようなものを実現したい」という上田の言葉があったが、まさにその通りで、ひとつの役に対して歌手とダンサーとふたりの配役があり、それぞれ同時に舞台上で物語を演じる。ただ、歌手は台本通りのイタリア・オペラの世界を生き、ダンサーは大阪の街で生きている。歌手の役名は本来の作品通りだが、ダンサーの役名はそれを日本語化した名前になっている(たとえばトゥリッドゥは護男、アルフィオは日野、カニオは加美男といった具合に)。おまけに字幕も2種類あるのだ。ひとつは本来の字幕、もうひとつは大阪弁に翻案された字幕(これが秀逸!)。通常の演出と読み替え演出が同時進行することで、イタリアと大阪のパラレルワールドが出現。そしてたまに、このパラレルワールドが交わり合う瞬間がある。
●だけど、それじゃ情報量が多すぎてわけがわらないのではないか。そんな心配があるわけだが、実際にマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」はカオスだった。本来のオペラにダンサーたちの活発な演技も加わり、どこに目をやっていいのかわからない。せっかく読響がいて、そこにアッシャー・フィッシュが指揮をしているというのに、混乱して音楽がまるで頭に入って来ない。歌手陣はトゥリッドゥにアントネッロ・パロンビ、サントゥッツァにテレサ・ロマーノ、ローラに鳥木弥生、アルフィオに三戸大久、ルチアに森山京子。ダンスに関しては門外漢なのだが、聖子(=サントゥッツァ)役の三東瑠璃が異次元の身体能力で爆発的なエネルギーを発散。全体としてはヴェリズモの救いのない世界が、大阪とパラレルワールド化することで、予想外にコミカルなテイストになっていた。大阪という身近な世界に近づいたはずなのに、かえって他人事感が出てきて悲劇の度合いが薄まるというか。あと、字幕は大阪弁だけでよかったんじゃないか、とも感じる。
●でも、後半のレオンカヴァッロ「道化師」はこの演出スタイルがピタッとはまって、うまくいっていた! 劇中劇があるだけになおさらカオスになるかと思えばそんなことはなく、イタリアの世界と大阪の世界がちゃんと共存していて、整理されて描かれている。歌手陣はカニオにアントネッロ・パロンビ、ネッダに柴田紗貴子、トニオに清水勇磨。「道化師」冒頭の前口上でみんな気づいたと思うけど、本来はこちらが先に上演されるプランだったんすよね。前口上が演出意図のガイドになっている。でも、予定が変わって「道化師」が後になった。これは演出家が気の毒ではあるけど、やっぱり音楽作品としては「道化師」が後になるのはいろんな点で正解だと思う。大阪の世界では登場人物たちは和風の旅芸人一座として描かれているんだけど、芝居の前に村人たちが教会に行くんじゃなくて、みんなでナイターの阪神巨人戦をテレビで応援する設定に読み替えられているのには感心。納得するしか。
●この演出、なにせ歌手とダンサーの両方がすべての役に必要なわけで、リハーサルも大変だったと思うけど、できれば再演してほしいもの。

February 3, 2023

「親愛なるレニー レナード・バーンスタインと戦後日本の物語」(吉原真里著/アルテスパブリッシング)

●話題の本、「親愛なるレニー レナード・バーンスタインと戦後日本の物語」(吉原真里著/アルテスパブリッシング)を読んだ。題材となっているのは著者がワシントンの議会図書館で出会った、バーンスタインに宛てられた数百通の手紙。日本では最初期のバーンスタイン・ファンであるカズコ、バーンスタインと激しい恋に落ちたクニ(橋本邦彦氏)のふたりの日本人との交流をひも解きながら、ステージ上からは見えないバーンスタインの姿を描き出す。2019年に英語で原著が出版されており、それを著者自身が改稿の上、自ら日本語で書き直して出版したというノンフィクション。生前のバーンスタインがこれらの手紙を手元に保管しており、それがいま図書館にアーカイブされていて閲覧できるというのもすごい話。
●もっとも印象深かったのは橋本邦彦氏とバーンスタインのラブストーリー。橋本氏からバーンスタインに宛てた手紙がたくさん引用されているのだが、当然のことながらとてもプライベートな内容で、熱烈な愛の手紙が続く。他人が読んではいけないものを読んでしまった感が半端ではない(本人の許諾はとれている)。そして、読むと憂鬱になる。だって、ふたりの関係性はどう転んだって不均衡なものだから。たとえ濃密な時間をふたりで過ごせたとしても、それはひとときのもの。相手は世界中を飛び回るスーパースターであり、独占することはできず、ともに人生を歩むことはかなわない相手。いちばんグサッと来たのは、橋本氏と同席していた場で、ゼッフィレッリがバーンスタインに向かって「海で魚を釣ったら、魚をいったん眺めた後は、海に放してやらなきゃいけない」と諭したという場面。つまり橋本氏が魚。これはゼッフィレッリのやさしさでもあるだろうけど、しんどい一言なわけで……。ただ、その先に待っているのは決して暗い結末ではない。バーンスタインというより、橋本邦彦の物語が美しい。
●もうひとつ柱になっているテーマは、書名にもあるように「戦後日本の物語」。これは最初のほうは知らない過去の話だけど、途中から自分も知っている時代になってきて、「そういうことだったんだ!」という発見がいくつもある。バーンスタインがイスラエル・フィルと来日したとき、ワタシはまだ大学生で、名古屋公演を聴くことができたんだけど、あのときのツアー実現の経緯なんかも興味深かった。コミュニケーションの行き違いでチケット発売後に演目の変更があったと書いてあったけど、まさに名古屋公演がそれで、当初の発表からマーラーの交響曲第9番に変わったんである。この変更を知って、ワタシは思わず「マジか?ヨッシャーーーー!」とガッツポーズをとったのだった(最初からマーラー9番だったら、チケットが取れなかったかもしれないと思った)。初めて目にした実物のバーンスタインが、あまりに身長が低くてイメージと違っていたのも忘れられないが(大男だと信じていた)、やっぱり同じ感想を持つ人も多かったんすね。あの公演の後、バーンスタインは名古屋に泊まらずに、能を鑑賞するために新幹線で大阪に戻ったという話は初耳。あと、日本はバブル期があったから、今とは違った景色が広がっていて、あの頃の時代の空気も伝わってくる。

February 2, 2023

ANA「旅するクラシック」で「東京・春・音楽祭」特集

●以前よりANAの機内オーディオ番組「旅するクラシック」の番組作りに携わっている。パーソナリティは松尾依里佳さん。コロナ禍で一時はずっとリモート収録だったが、最近はまた対面でスタジオ収録できるようになった。毎回、都市や時代、季節の風物詩、楽器など、さまざまなテーマを設定して選曲している。この2月&3月は、「東京・春・音楽祭」特集。基本的にプロモーション絡みのテーマは不可だと思っていたのだが、ANAが「東京・春・音楽祭」の協賛企業でもあり、いろんなご縁があって超例外的に実現。
●といっても、一般のお客さんが聴いて楽しめるものにしたいので、音楽誌みたいな知識を前提とする紹介はできない。また、特定アーティストをフィーチャーすると感染状況により来日中止になったときに困るし、音源がユニバーサルミュージック提供という事情もある。あれこれ悩んで「東京・春・音楽祭」で上演される作品を紹介する形にした。ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」やプッチーニの「トスカ」からの名曲を聴いてもらいつつ、音楽祭にも興味を持ってもらえたらいいなという趣向。ANAの飛行機に乗る機会があったら、ぜひ。この番組は松尾依里佳さんの爽やかな語りが最大の魅力。
●ところで自分は最後に飛行機に乗ったのはいつだったかなと思い出してみたら、たしか琉球交響楽団の取材で沖縄に行ったのだった。まだコロナ禍の序盤で、沖縄には感染者がほとんどおらず、普通にお店で飲み食いしていたし、だれもマスクをしていなかった段階。その時点では「インフルエンザみたいに春になれば本州でもウィルス騒動は収まるんでしょうかね」などと話していた。

February 1, 2023

新国立劇場 ワーグナー「タンホイザー」 ハンス=ペーター・レーマン演出

新国立劇場 タンホイザー
●31日は新国立劇場でワーグナー「タンホイザー」(ハンス=ペーター・レーマン演出/2007年プレミエ)。演出は一部で映像の投影なども使用するが、奇を衒わないオーソドックスなスタイル。久々に登場のステファン・グールドが題名役で貫禄の歌唱。エリーザベトのサビーナ・ツヴィラク、ヴェーヌスのエグレ・シドラウスカイテが役柄にふさわしく好演。ヴォルフラムにデイヴィッド・スタウト、領主ヘルマンに妻屋秀和、ヴァルターに鈴木准。出番はわずかだが、牧童役の前川依子の清澄な声が印象深い。一声でがらりと空気が変わる。新国立劇場合唱団が大活躍。第1幕のバレエは東京シティ・バレエ団。いわゆるパリ版とドレスデン版の折衷版ということだが、ここでバレエが入ると得した気分。歌手が歌うより先にバレエを楽しめるという眼福仕様で、メインディッシュの前にデザートを平らげる背徳感が吉。ピットにはアレホ・ペレス指揮東京交響楽団。冒頭序曲は抑制的で、第1幕はもう少し煮詰めた表現が欲しくなるところもあったが、尻上がりに調子を上げて第3幕では堂々たるクライマックスを築いた。
●で、作品についてなんだけど、このオペラ、久々に見て「逆カルメン」だなと思った。「カルメン」は終場に男と女の別れがあって、自由を求めた女が破滅するじゃないすか。「タンホイザー」は最初の場に男と女(ヴェーヌス)の別れがあって、自由を求めた男が破滅するっていう話。ヴェーヌスを娼婦のように見るんじゃなくて、タンホイザーとヴェーヌスという恋人同士の別れとして見ると、このオペラは最初がクライマックスにして修羅場。後から出てくるエリーザベトとの対話よりも、タンホイザーとヴェーヌスの別れ話のほうがずっと生々しい人間の感情が描かれている。
●が、そんなタンホイザーを許さないのが、ヴァルトブルク城のモテない騎士軍団。気高さや純粋さをお題目に掲げるが、本音のところではセクシー派にも清純派にもモテモテのタンホイザーに嫉妬し、宗教権力を振りかざして排除する。イラッと来たタンホイザーは、つい騎士のひとりに言ってしまう。「はっ?お前、モテたことなんか一度もないくせに、なに偉そうに愛を語ってんの?」うっかり言ってはいけないことを言ってしまったタンホイザー。モテない騎士軍団は激おこ。男の嫉妬は無尽蔵、モテない騎士軍団のボスが「その杖が芽吹いたら許す」と、かぐや姫級の無理難題をふっかける。不寛容と同調圧力に屈したタンホイザーは、無駄に辛いだけの巡礼までやらされて気の毒というほかない。もうこうなったらヴェーヌスのもとに帰って、頭を下げるしかない。そんな決断をするも、見てないところでいつの間にかエリーザベトが絶命している。なんでそこで勝手に逝くのよ!? 絶望したタンホイザーは現世から離脱。きっとワーグナーもあの手の連中にはずいぶんと辟易したにちがいない……という話だと思って観ている、毎回。

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