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2023年1月アーカイブ

January 31, 2023

東京オペラシティアートギャラリー Sit, Down. Sit Down Please, Sphinx.:泉太郎 / project N 89 川人綾

Sit, Down. Sit Down Please, Sphinx.:泉太郎
●先日、阪田知樹ピアノリサイタルを聴く前に、同じ東京オペラシティ内のアートギャラリーに寄った。現在「Sit, Down. Sit Down Please, Sphinx.:泉太郎」が開催中。オペラシティのArts友の会に入っていれば同ギャラリーは無料で入れるので、新しい展示が始まると演奏会の前に立ち寄ることにしている。そんなわけで、どんなアーティストでどんな展示があるのかまったく予備知識がないまま訪れたのだが、これがびっくり。な、なんと、上の写真にある手前のテントを設置したのはワタシなんすよ……。ぼーっと作品を眺めるだけのつもりだったのに、なぜか展示に参加(?)しているという謎。水の入ったペットボトルをいくつも運んで、「なぜこんな面倒くさいことをしているのだ、ワタシは。重いからほっぽり出して帰ろうかな」などと迷いつつ、壁に記された指示(やたらと読みにくい)に羊のように従順に従ってしまった。

Sit, Down. Sit Down Please, Sphinx.:泉太郎
●で、このテントの中に入ることもできる。だから自分のテントに入ってみた。そしてテントの中から外部をそっと覗き見するように写真を撮ってみた。わ、いま覗き見してるよ、自分、東京オペラシティアートギャラリーの床で!みたいな謎の興奮があるような、ないような。
●ちなみにギャラリーに入場する際、いつもと違った場所にコインロッカーがあり、そのロッカーの中にかなり重たいマントが入っている。そのマントを受け取って、首からすっぽりと被る。被らないとテントを建てられないので、恥ずかしがらずに被るべし。
●このテントとは別に、ひとつ中心的な作品と思われる展示があったんだけど、番号札をとってファミレスみたいに順番を待つ方式だったんすよ。ほとんど人がいなかったのに、それでも30分以上は待ちそうだったので、途中であきらめた。残念だが、そんなに長時間待っているとワクワクする気分が雲散霧消してしまうのでしかたがない。もう一回行くべきか、縁のない作品だと思うか、迷う。
東京オペラシティ 川人綾
●上の階で同時開催されている「project N 89 川人綾」もとてもよかった。壁面にずらっと幾何学的なパターンが貼り込まれている。規則性があるようなないような線と色彩のバリエーション。
東京オペラシティ 川人綾
●近くに寄って見るとこんな感じ。正方形状の小さなパターンが敷きつめられているのだが、同一パターンはあるのだろうか。反復的だけど反復していない感。

January 30, 2023

阪田知樹 ピアノリサイタル バッハ、ベートーヴェン、ラヴェル、ショパン

●27日は東京オペラシティで阪田知樹ピアノリサイタル。今回のプログラムは前半にバッハ~阪田知樹編のアダージョBWV564、バッハ~ブゾーニ編のシャコンヌBWV1004、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番「熱情」、後半にラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」、ショパンのピアノ・ソナタ第3番。今回も高密度なプログラム。パッションにあふれ風格の漂う「熱情」に前半から会場が湧いた。もっとも印象的だったのは、後半のラヴェル「高雅で感傷的なワルツ」。清爽な響きで、前半とは一転してぐっとカラフルな世界へ。この曲、管弦楽版で聴くよりもピアノ独奏版のほうがずっと楽しめる気がする。エピローグでふわりとした余韻に浸れるのが吉。ショパンはスケールが大きく、白熱。
●アンコールはラフマニノフ~阪田知樹編の「ここは素晴らしいところ」、アール・ワイルドのガーシュウィンによる7つの超絶技巧練習曲より第6曲。本編で満腹だと思ったが、アンコールを聴くともっと聴きたくなる。デザートは別腹、なのか。
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●29日のFAカップ、ブライトン対リヴァプールの試合で、三笘薫がすさまじいゴールを決めたのでリンク。これもまた超絶技巧。

January 27, 2023

「窓際のスパイ」シーズン1&2 Apple TV+

●先日の「テッド・ラッソ」のついでに、同じApple TV+にある「窓際のスパイ」を見てみた。これはよくできている。イギリスを舞台としたスパイ物の連続ドラマなのだが、ジェームズ・ボンド的な世界とは正反対で、MI5の落ちこぼれスパイたちを描いている。コメディではなく、シリアス。チームを率いるボスは、ゲイリー・オールドマン演ずるジャクソン・ラム。ゲイリー・オールドマンといえばカッコいいけどブチ切れた悪役というイメージだったが、時は経ち、もう年齢相応のよれよれのオッサンになっている。口が悪くて、不潔でだらしないのだが、実は部下思いの切れ者という役どころ。みっともないはずなのに、なんだか得体のしれないカッコよさがあるのが不思議。全体として役者がいい。
●で、観た後に知ったのだが、これはしっかりとした原作があったんすね。ミック・ヘロン著の「窓際のスパイ」がシーズン1になっていて、続編の「死んだライオン」がシーズン2に相当する模様。長篇一冊分を1シリーズに展開するという手は悪くない。ただ、このドラマシリーズ、シーズン1は手際が良いと思ったけど、シーズン2になると「その登場人物が今そこでどういう理由でなにをしようとしているのか」がわかりづらく、ところどころ行動に合理性を欠いているようにも見える。これは原作もそうなのかなあ。ただ、それでも役者の魅力で見せてしまう。あと、元スパイのおじいちゃん役で「未来世紀ブラジル」「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」のジョナサン・プライスが出てくるんすよ!

January 26, 2023

トゥガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団のバルトーク、ラヴェル、ドビュッシー

トゥガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団
●25日はサントリーホールでトゥガン・ソヒエフ指揮N響。前半がバルトークのヴィオラ協奏曲(アミハイ・グロス)、後半がラヴェルの「ダフニスとクロエ」組曲第1番と組曲第2番、ドビュッシーの交響詩「海」。盛りだくさんのプログラムのように思えるが、N響定期は生中継があるのだから格段に長いはずはないわけで。密度の濃い曲が並んでいるということか。あるいは単にバルトークが協奏曲としては短いからか。
●バルトークのヴィオラ協奏曲ではベルリン・フィルの第1首席ヴィオラ奏者、アミハイ・グロスがソリスト。スマートかつ勢いのある演奏。この曲、シェルイによる補筆が議論を呼ぶ曲ではあるが、どう補筆しようとも、どこか推敲課程にある作品のような気がしてしかたがない。補筆よりも再創造がほしいというか……。ちなみにシェルイはこの補筆をするよりもずっと前に、自身のヴィオラ協奏曲を作曲しているのだが、以前この曲を録音で聴いたときはけっこう驚いた。ある意味、バルトークっぽい。知らずに聴いたら、バルトークの補筆をした後に作曲したのかと勘違いしてしまいそう。そして、当然といえば当然だけど、完成された作品なのだ。だったら未完のバルトークじゃなくて、シェルイのヴィオラ協奏曲を弾けばいいのに……みたいなことを思った記憶が。ソリスト・アンコールでは、N響の首席ヴィオラ奏者佐々木亮が加わってバルトークの44のヴァイオリン二重奏曲(ヴィオラ版)から第37番「プレリュードとカノン」。これは楽しい趣向。
●後半はフランス音楽でソヒエフ節が炸裂。色彩感豊かで華麗なサウンドではあるが、軽くはなく、彫りの深い音楽。ビートが明快で、ダイナミクスが広く、テンポの遅いところはじっくりと入念。「ダフニスとクロエ」第2組曲冒頭など遅めのテンポで「夜明け」というよりは「天地創造」を描くかのようなスケールの大きさ。「海」も壮観。終演後、カーテンコールをくりかえした後、いったん拍手が止みかけたが、熱心なお客さんたちが続けて、ソヒエフのソロ・カーテンコールに。

January 25, 2023

Spotifyとバルセロナ、そしてSpotifyカンプノウ

●ところで今季からFCバルセロナの胸スポンサーがSpotifyになっている(その前は楽天だった)。胸スポンサーだけではない。Spotifyはカンプ・ノウ・スタジアムのネーミングライツも買った。上の試合ハイライトでも会場名が「Spotifyカンプノウ」と呼ばれている。練習着、プレスルーム、ミックスゾーンにもSpotifyの名前が表示されるという。胸スポンサーの契約額は一部メディアによれば年間6000万ユーロ程で4年契約というから総額2億4000万ユーロ、日本円にすると340億円ほど。カンプノウのネーミングライツはもっと長期にわたり、少なくとも12年間は「Spotifyカンプノウ」と呼ばれるのだとか。こちらも総額数百億円規模になるそうで(参照記事その1その2)、音楽配信サービスがここまで巨額のスポンサー契約を結ぶようになったことに驚かずにはいられない。AppleやAmazonのような巨大IT企業ではなく、スウェーデンの音楽配信専門の企業が、あのバルセロナの胸スポンサーなのだ。音楽配信の黎明期にこんな未来を予測できた人がいただろうか。
●このスポンサー契約については昨年の春頃に発表されたもので、ぜんぜん新しいニュースではないのだが、音楽配信のような趣味性の強いサービスが、やはり趣味性の強いサッカーのスポンサーになっていることに不思議な気分を感じる。つまりバルセロナ好きにとっては問題ないが、たとえばアンチ・バルサのレアルマドリッド・ファンは「じゃあ、オレはSpotifyは止めて、Appleを使うぜ」となったりしないのだろうか。
●バルセロナの胸スポンサー戦略は本当に巧みだと思う。かつてこのクラブは胸にスポンサーを入れないことを誇りとしていた。自分たちは特別な存在で、ソシオと呼ばれる会員組織に支えられているから、ここにスポンサー名を入れないのだ、と。しかし現代のサッカー界において、そんなおとぎ話は持続不可能だ。マネーなくして栄光なし。そこで、バルセロナはまず胸にUNICEFのロゴを入れた。これはUNICEFからお金をもらうのではなく、UNICEFにお金を寄付してロゴを入れたんである。UNICEFに寄付するためなら、美しい伝統がなくなっても仕方がない。みんな納得できる。でも次に何が起きるかは、だれもが察していた。5年間ほどUNICEFにお金を払った後、今度はなりふり構わず回収モードに入る。カタール財団、カタール航空、楽天と巨額のスポンサー契約を結び、今季からはSpotifyだ。もしUNICEF時代がなかったら、かなり生臭い感じになっていたわけで、あの「お金を払って胸スポンサーを入れる」というアイディアは本当に秀逸だったと思う。

January 24, 2023

第31回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

●23日は東京オペラシティで第31回出光音楽賞受賞者ガラコンサート。授賞式に続いて、出光音楽賞受賞者の3名が登場し、小林愛実がシューマンのピアノ協奏曲より第1楽章、岡本誠司がバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番より第1楽章、チェロの上野通明がドヴォルザークの「森の静けさ」とチャイコフスキーの「ペッツォ・カプリチオーソ」(カプリッチョ風小品)を演奏してくれた。共演は川瀬賢太郎指揮東京フィル。
●3人それぞれさすがの演奏だったが、特に印象に残ったのは岡本誠司のバルトーク。この曲、傑作として名高いわりに演奏頻度は低く、生演奏で聴く機会は貴重。こういった受賞記念演奏会で取り上げられるのはかなり意外だが、こういう機会だからこそやりたい曲を選んだということか。指揮者にとっても初めて振る曲で、お正月を返上して取り組んだというだけあって、聴きごたえ大。こうしてライブで聴いてみるとぜんぜん晦渋な曲ではなく、思ったよりユーモアの要素を感じる。あと、楽想的にもオーケストラと対抗するという意味でも線の細いソリストだと苦労しそうだが、しっかりと芯のある音が2階席まで届いていた。第1楽章だけではなく続きも聴きたくなる。
●以前は観覧車を募集して開催していた同コンサートだが、今回はコロナ禍により関係者のみを客席に入れての開催。それでもけっこうな人数が入っていた。公演の模様は「題名のない音楽会」(2月18日 テレビ朝日)で放送予定。

January 23, 2023

カーチュン・ウォン指揮日本フィルの伊福部&バルトーク

カーチュン・ウォン指揮日本フィル
●20日はサントリーホールでカーチュン・ウォン指揮日フィル。伊福部昭の「シンフォニア・タプカーラ」とバルトークの「管弦楽のための協奏曲」という絶妙な組合せのプログラム。土着性から生み出された普遍性という共通項を持った名曲だが、それだけではなく伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」を初演した指揮者セヴィツキーが、バルトーク「管弦楽のための協奏曲」を委嘱初演したクーセヴィツキーの甥だという縁もある。そして、どちらもアメリカのオーケストラによって初演された曲。
●バルトークにはもっと農村的な作品がたくさんあるけど、「管弦楽のための協奏曲」はモダンでスペクタクルも満載、都会的なきらびやかさすらある。なので、なんとなく伊福部の土俗性にバルトークを寄せるようなイメージを抱いて臨んだが、むしろバルトークに伊福部が寄せられていた感。強靭なビートが生み出す直線的な推進力は、熱いけれどもスマート。グローカル伊福部。前半で大いに盛り上がったが、後半のバルトークも細部まで神経が行き届き聴きごたえ十分。勢い任せではなく丹念。
●同じ会場で前夜の山田和樹指揮読響と二晩続けて、日本と欧州の20世紀オーケストラ曲を並べたプログラムを聴いたことになる。自然発生的シリーズが誕生する東京クラシック音楽シーン「あるある」。
●伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」は古くからの友人であった音楽評論家の三浦淳史さんに献呈されている。三浦淳史さんは先日ご紹介した「英国音楽大全」の著者。

January 20, 2023

山田和樹指揮読響の矢代秋雄&シュトラウス

●19日はサントリーホールで山田和樹指揮読響。プログラムは矢代秋雄の交響曲とリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」で重量級。今月の山田和樹&読響コンビは3プログラムあって、最初がポゴレリッチとのラフマニノフ+チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」、次が黛敏郎「曼荼羅交響曲」+マーラー交響曲第6番「悲劇的」、そして掉尾を飾るのが今回の矢代秋雄の交響曲+シュトラウス「アルプス交響曲」。大作交響曲連峰の最後にアルプス挑戦みたいなタフな大縦走だったと思う。
●矢代秋雄の交響曲、生演奏で聴くのは初めてだが、思った以上に大編成の曲で、ピアノ、チェレスタ、ハープ2、多数の打楽器群を要する3管編成。第1楽章からストラヴィンスキー「春の祭典」の影響が色濃い。第3楽章はメシアン風。全般にストラヴィンスキー、メシアン、スクリャービン風か。作曲は1958年。お囃子風の第2楽章スケルツォが楽しい。演奏はきわめて充実。どちらかといえば前半に力点の置かれたプログラムだったと思う。後半の「アルプス交響曲」は超然とした大自然の威容よりも登山者の感情の起伏にフォーカスしたような演奏。遠くのガルミッシュ・パルテンキルヒェンよりも近くの高尾山トレッキング的な親しみを覚える。バンダが2階後方から聞こえてきたのはびっくり。終演後は拍手が止みそうで止まず、しばらく待った末に指揮者のソロ・カーテンコールに。
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●宣伝を。ONTOMOの連載「心の主役を探せ! オペラ・キャラ別共感度ランキング」第8回はモーツァルト「魔笛」。キャラ視点によるオペラガイド。打倒ザラストロ。

January 19, 2023

「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」シーズン1 Apple TV+

●あまりの評判のよさに、ついに「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」シーズン1を観てしまった。Apple TV+で配信されているアメリカのドラマ・シリーズで、アメリカンフットボールのコーチだった主人公テッド・ラッソが、イングランドのプレミアリーグの監督に抜擢されるというコメディ。なにをどうまちがってもアメフトからプレミアリーグへの転向などありえないのだが、そこはコメディなのでとことん荒唐無稽だ。主人公はオフサイドすら理解していないサッカーのド素人。でも、だれもが好きになれずにはいられないナイスガイで、最初はまったく相手にされていないが、次第にみんなのハートをつかむようになる。
●主人公が監督に就任したのはAFCリッチモンドなる架空のチーム。対戦相手にはマンチェスターシティなど実在のチームが出てくる(もちろん役者が演じている)。このドラマ、最初はプレミアリーグが舞台だからサッカー・ファンとして見どころがふんだんにあるのではないかと期待して見始めたのだが、これは大きなまちがいで、本格的な試合シーンなどは出てこない。それどころか、選手たちは到底プレミアリーグのアスリートには見えない体型だし、まれに出てくる試合場面も世界最高峰のフットボールリーグのゴージャスさはかけらもなく、全米大学選手権地区予選くらいの規模に見える。しかもドラマの設定がアメリカ人的な発想で作られていて、どうやらAFCリッチモンドを万年弱小チームとして描こうとしているのだが、野球界と違ってサッカー界に万年弱小チームは存在しない(降格があるから)。でも、そのあたりのピントのズレ具合を全部うっちゃって、このドラマはおもしろい。いいヤツ、いやなヤツ、いろんな人物が出てくるけど、悪人がひとりもいないのがよい。
●主人公がカンザスからロンドンにやってきたという設定なので、米英の違いがしばしば笑いのネタになる。たとえば主人公が記者会見で水を飲んだら、プーッと噴き出すとか(炭酸入りだから)、紅茶を勧められて「オエッ!マズッ!これホントにうまいのか?」みたいになる場面とか(カンザスの人は紅茶を飲まないの?)。いちばん笑ったのは「プレミアリーグから降格したらチャンピオンシップを戦うんだぜ!?」っていう場面。そう、イングランドの2部リーグは「チャンピオンシップ」と呼ばれるのだ。たしかにこれはわけがわからない。

January 18, 2023

「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」のミュージシャンたち

●1月22日に終わってしまうのだが、国立西洋美術館の「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」へ。ベルクグリューン((1914~2007)という人は美術商で、世界有数の個人コレクションを築き上げた人で、そのコレクションの主要作品をドイツ政府が購入してできたのがベルクグリューン美術館なのだとか。ピカソ、パウル・クレー、アンリ・マティス、アルベルト・ジャコメッティ、セザンヌらの作品を中心に約100点が展示されていた。ずらりと名作が並ぶ超高密度コレクション。そのなかから音楽家や楽器を題材にした作品をいくつかピックアップしてみる。
ピカソ ヴァイオリン
●まずはピカソから。「ヴァイオリン」(1912-13)。ピカソにヴァイオリンを題材にした作品はいくつかあるようだが、これは初めて見た。ふたつのf字孔やスクロールも描かれていて、比較的明快にヴァイオリン。

ピカソ ギターと新聞

ピカソ グラス、花束、ギター、瓶のある静物

青いギターのある静物
●続いてはピカソとギター。ギターは頻出する。上から「ギターと新聞」(1916)、「グラス、花束、ギター、瓶のある静物」(1919)、「青いギターのある静物」(1924)。

ギターを持つアルルカン
●ピカソ作品で楽器も人物も描かれているのが「ギターを持つアルルカン」(1918)。これはかなり明快に描かれている。アルルカン(アルレッキーノ)といえばレオンカヴァッロのオペラ「道化師」のベッペを思い出すが、このアルルカンはなにかを企んでいそうな顔つき。信用ならないタイプ。

ピカソ「タンバリンを持つ女」
●続いてピカソ「タンバリンを持つ女」(1939)。全裸でタンバリンを鳴らすと楽しそうである。

パウル・クレー「運命のファゴット・ソロ」
●こちらはパウル・クレーの「運命のファゴット・ソロ」(1918)。ファゴット奏者と、ファゴットらしきもの、そして鳥たちが見える(→拡大図)。ファゴットの目立つソロがある曲といえば、まず思いつくのがストラヴィンスキー「春の祭典」。パリでの初演は1913年。英題はFatal Basson Soloで、あのソロならFatalであってもおかしくない感じ。これは「春の祭典」の演奏風景なのだろうか。いや、待てよ。鳥が描いてあるということは同じストラヴィンスキーでも「火の鳥」とか? 「火の鳥」であれば「子守歌」にファゴット・ソロが出てくる。でもあれはFatalって感じではないと思うから、やっぱり「春の祭典」では。それともひょっとしてチャイコフスキー「悲愴」のファゴット・ソロ?

デュフィ「モーツァルト」
●オマケで同じ国立西洋美術館の常設展に展示されたデュフィ「モーツァルト」。手間にピアノとヴァイオリン、奥のほうに譜面台と弦楽器奏者たちが並んでいるが、これはオーケストラ・ピットなのだろうか。

⇒関連記事
国立西洋美術館のミュージシャンたち
東京国立博物館のミュージシャンたち その1
東京国立博物館のミュージシャンたち その2

January 17, 2023

ワールドカップ2022カタール大会 補遺 メッシのリケルメ・ポーズ

●先月のワールドカップ2022カタール大会について書き忘れていたことをひとつ。荒れた試合になった準々決勝のオランダ対アルゼンチンだ。ABEMAの中継ではよくわからなかったのだが、メッシがPKを決めた後、わざわざオランダベンチの前に向かって、リケルメのポーズ(トッポジージョ・ポーズ)をとった場面があった。両手を耳の横につけて広げるポーズだ。その場面の写真をここに載せたいところだが、権利上無理なので代わりに日刊スポーツの写真をリンクしておくけど、メッシはわざわざオランダのファン・ハール監督にあのポーズを見せに行ったんである。メッシにとってファン・ハール監督はバルセロナ時代に自身のアイドルであるリケルメを干した監督。キックオフ前からオランダの挑発が続いていたこともあり、メッシは復讐するかのようにわざわざリケルメのポーズを見せつけた。あまり感情を表に見せないメッシにしては珍しい行動だが、よほど腹に据えかねていたのだろう。
●ファン・ハール嫌いは他のアルゼンチンの選手たちにも浸透していて、メッシの盟友ディ・マリアもファン・ハール監督時代のマンチェスターユナイテッドで不遇をかこった。のちにディ・マリアはファン・ハールを最悪の監督だったとこき下ろしている。
●上に掲げた映像は、そのメッシの元ネタとなったリケルメのトッポジージョ・ポーズ。リケルメはアルゼンチン代表の一員として、キリン・チャレンジでジーコ・ジャパンとも対戦している他、トヨタカップでボカ・ジュニアーズの一員としても来日している。古典的な10番タイプのファンタジスタで、モダンフットボールとの相性はよくない。ゴールしたときの両手を耳の横で広げるポーズについて尋ねられた際、「娘がトッポジージョを好きだから」と言ったそうなのだが、それは方便みたいなものだろう。見たままに解釈するのが自然だと思う。この歓声を聞け、と。

January 16, 2023

ChatGPTとの音楽談議

●話題の対話型AI、ChatGPTをようやく試してみた。お絵描きAIのStable Diffusionも強烈だったが、こちらのチャットボットもとてつもない可能性を感じさせる。パソコン初期には「人口無能」なる簡易なチャットボットが流行したが、あれが事前に用意されたパターンを返すだけのものだったのに対し、今はディープラーニングの時代。自然な会話が設立してしまう。ChatGPTにも得意な分野と不得手な分野があるだろうし、日本語は英語に比べるとかなり弱いかもしれないが、以下、ワタシとの会話例をコピペしておく(一部欠落している文があるが、出力をそのまま載せている)。「ええっ、そんな答えを返せるの?」と感じるか、「なーんだ、AIといってもその程度のものか」と感じるか。全般として冗長だが、ときどきドキッとするような答えを返してくる。

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ワタシ すぐれたオーケストラの条件とは?

ChatGPT すぐれたオーケストラの条件は、次のようにされます。
演奏者の能力: オーケストラは、優れた演奏者によって構成されなければなりません。
指揮者: オーケストラは、優れた指揮者によって指揮されなければなりません。
楽器バランス: オーケストラは、楽器のバランスが良く調整されていることが重要です。
音質: オーケストラは、音質が美しく、平均的な音量が適切であることが重要です。
合奏: オーケストラは、合奏がうまく行われることが重要です。
リハーサル: オーケストラは、十分なリハーサルを行うことが重要です。

ワタシ では、すぐれた指揮者とはどういう指揮者のことを言うのでしょうか。

ChatGPT すぐれた指揮者は、次のような特徴を持っていることが一般的に期待されます。
演奏者のリーダーシップ: 指揮者は、演奏者を引っ張って、最高のパフォーマンスを引き出すことができるリーダーシップを持っていることが望まれます。
音楽理解力: 指揮者は、演奏する楽曲を理解し、それを演奏者に正確に伝えることができる音楽理解力を持っていることが望まれます。
指揮技術: 指揮者は、演奏者に対して明確かつ正確な指示を出すことができる指揮技術を持っていることが望まれます。
演奏者との共感: 指揮者は、演奏者との共感を持っていることが望まれます。
音楽性: 指揮者は、音楽性を持っていることが望まれます。
経験: 指揮者は、多くの経験を持っていることが望まれます。

ワタシ わかったよ。で、具体的にすぐれたオーケストラとすぐれた指揮者は誰だと思う?

ChatGPT すぐれたオーケストラと指揮者は、時代や音楽ジャンルによって異なります。ただ、世界的に有名なオーケストラとして、バイエルン放送交響楽団、ロンドン交響楽団、ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団、オペラ・ド・パリなどが挙げられます。また、近年活躍する指揮者には、Gustavo Dudamel、Simon Rattle、Daniel Barenboim、Mariss Jansonsなどがいらっしゃいます。これらは、すぐれたオーケストラと指揮者の代表例と言えるでしょう。

ワタシ そこでウィーン・フィルやベルリン・フィルを挙げないのはなぜなのかな?

ChatGPT ウィーン・フィルハーモニックやベルリン・フィルハーモニックなどは、世界で最も有名で優れたオーケストラの一つであり、その演奏技術や指揮者のクオリティは高いです。しかし、私が述べたオーケストラは、特にバイエルン放送交響楽団、ロンドン交響楽団、ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団、オペラ・ド・パリなどは、特にジャンルを問わず様々な音楽を演奏することができるオーケストラであり、また、指揮者に関しては、近年活躍している方々を紹介させていただきました。 ウィーン・フィルハーモニックやベルリン・フィルハーモニックは、特にクラシック音楽に特化しているオーケストラであり、特に指揮者に関しては、それぞれ特に歴史的に活躍した方々が多くいらっしゃいます。

ワタシ じゃあ、話題を変えよう。次のチャイコフスキー国際コンクールは開催されると思う?

ChatGPT チャイコフスキー国際コンクールは、ロシアのチャイコフスキー芸術センターによって主催される音楽コンクールで、ピアノ、バイオリン、チェロ、オーケストラ指揮などの分野で実施されています。開催日は、私が知っている最新の情報のカットオフ日2021年になりますので、現時点ではわかりません。開催日や詳細については、公式サイトなどで確認することをお勧めします。

ワタシ もちろん、現時点ではわからない。現在の状況で、次回の開催があり得るかどうか、予想を尋ねているんだけど。

ChatGPT 現在の状況により、次回のチャイコフスキー国際コンクールの開催については、確定的な情報はありません。コンクール開催は、多くの因素によって影響を受けるため、新型コロナウイルスの影響もあるため、開催が可能かどうかは未知数です。それでも、チャイコフスキー芸術センターは、可能な限り開催を行うことを目指して、現在調整作業を行っていると思われます。公式サイトなどで最新情報を確認することをお勧めします。

ワタシ チャイコフスキー国際コンクールの場合、新型コロナウイルスよりももっと重大な問題があるとは思わない?

ChatGPT 新型コロナウイルスの影響により、多くの音楽イベントやコンクールの開催が延期や中止になっています。チャイコフスキー国際コンクールも同様であり、開催に際しては、新型コロナウイルスの影響を考慮しなければならないでしょう。
ただ、音楽に関しては、新型コロナウイルス以前から存在する問題もあります。例えば、資金難、演奏者の育成など。それらの問題も同時に解決する必要があります。特に、国際コンクールの場合は、参加者や審査員が世界中から集まるため、新型コロナウイルスの影響が大きいです。

ワタシ チャイコフスキー国際コンクールがどこで開かれているかは知っているよね?

ChatGPT はい、チャイコフスキー国際コンクールは、ロシア・モスクワにあるチャイコフスキー芸術センターで開催されています。このセンターは、ピアノ、バイオリン、チェロ、オーケストラ指揮などの分野で実施される国際コンクールを主催しています。チャイコフスキー国際コンクールは、世界的に有名な音楽コンクールの一つで、優れた演奏者を求めて開催されています。

ワタシ 今、コンクールのためのそこに行こうと思う人がいるかな。

ChatGPT 今の状況においては、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、国や地域によっては旅行制限や入国制限が設けられていることがあります。また、イベントやコンクールの開催に関しても、新型コロナウイルスの影響により延期や中止が発生することがあります。そのため、チャイコフスキー国際コンクールに参加するためには、事前に公式サイトなどで最新情報を確認し、旅行制限やイベントの開催状況などを考慮することが必要です。

ワタシ バイエルン放送交響楽団はいいオーケストラだと思う。君はどんなところが好き?

ChatGPT バイエルン放送交響楽団は、世界的に有名なオーケストラの一つであり、高い演奏技術と指揮者のクオリティを持っています。それらが高いと評価される理由は様々ですが、その中でも特に挙げられるのは、演奏者たちの素晴らしい演奏技術、統一された音質、そして多くの演奏会で演奏する楽曲のバリエーションが豊富であることが挙げられます。 私は機械学習のモデルであるため、音楽に対する評価をすることはできませんが、バイエルン放送交響楽団は高い評価を受けているオーケストラであることは間違いありません。

ワタシ ドイツにはバイエルン放送交響楽団よりも評判のいいオーケストラはあると思う?

ChatGPT ドイツには多くの優れたオーケストラがあり、それぞれに特色があります。バイエルン放送交響楽団は、ドイツのオーケストラの中でも優れていると言われていますが、他にも優れたオーケストラがあります。例えば、ベルリン・フィルハーモニックは、世界的に有名なオーケストラの一つで、高い演奏技術と指揮者のクオリティを持っています。また、ウィーン・フィルハーモニックは、特にクラシック音楽に特化しているオーケストラであり、歴史的に活躍した指揮者が多くいらっしゃいます。
他にも、ハンブルク・フィルハーモニック、ドイツ・フィルハーモニック・ベルリン、ミュンヘン・フィルハーモニックなども挙げられます。これらは、各オーケストラが持つ特色によって、バイエルン放送交響楽団とは異なる魅力があります。

ワタシ いやいや、ウィーン・フィルはドイツじゃなくてオーストリアのオーケストラだ。

ChatGPT ご指摘いただきありがとうございます。確かにウィーン・フィルハーモニックはオーストリアのオーケストラであり、ドイツに所属しているオーケストラではありません。申し訳ありませんでした。その代わりに、ドイツに所属しているオーケストラとしては、ハンブルク・フィルハーモニック、ドイツ・フィルハーモニック・ベルリン、ミュンヘン・フィルハーモニックなどが挙げられます。これらのオーケストラも優れた演奏技術を持ち、多くの演奏会で演奏する楽曲のバリエーションも豊富です。

ワタシ バイエルン放送交響楽団とベルリン・フィルの個性の違いはどんなところにあると思う?

ChatGPT バイエルン放送交響楽団とベルリン・フィルハーモニックは、どちらも世界的に有名なオーケストラの一つで、高い演奏技術と指揮者のクオリティを持っています。それでも、それぞれに特色があり、それが個性になっています。
バイエルン放送交響楽団は、演奏者たちの素晴らしい演奏技術、統一された音質、楽曲のバリエーションが豊富であることが特徴です。また、指揮者によっても音楽性が異なり、演奏する楽曲も異なります。
一方、ベルリン・フィルハーモニックは、特に新作や現代音楽に焦点を当てたプログラムを多く演奏することで知られています。また、指揮者によっては、独自の音楽性を持ち、演奏する楽曲も異なります。
どちらも優れたオーケストラであり、音楽性については個性があります。これらの個性を楽しむためには、両オーケストラ

ワタシ ところで、ミルクティーをいれるときは、先にミルクがいい? それとも後にミルクを足すのがいい?

ChatGPT お茶を入れる順番は、それぞれの人によって異なりますが、一般的には、先にお茶を入れてから、ミルクを加えるのが一般的です。これは、お茶が適切な温度になるまで待つことができるためです。また、お茶を先に入れることで、お茶の香りや味を楽しむことができるからです。
一方で、特にイギリスなどでは、先にミルクを入れてから、お茶を入れるのが一般的です。これは、お茶が濃くなりすぎないようにするためです。また、ミルクを先に入れることで、お茶が熱すぎないようにすることもできます。
いずれにしても、お好みに合わせて、お茶を入れる順番を選ぶことが大

ワタシ じゃあカフェオレの場合はどうだろう。先にミルクか、後にミルクか。

ChatGPT カフェオレの場合は、一般的には、先にコーヒーを入れてから、ミルクを加えるのが一般的です。これは、コーヒーが適切な温度になるまで待つことができるためです。また、コーヒーを先に入れることで、コーヒーの香りや味を楽しむことができるからです。
ただし、特にカフェオレを作る際に使用する機械によっては作り方が異なります。例えば、エスプレッソマシンで作る場合は、ミルクを先に加え、それを温めてからコーヒーを加えることもあります。
いずれにしても、お好みに合わせて、カフェオレを作る順番を選ぶことが大切です。

ワタシ 僕はミルクティーでもカフェオレでも、先にレンジで少量のミルクを温めてから、そこに紅茶やコーヒーを入れている。おすすめしたい。

ChatGPT ご提案いただきありがとうございます。ミルクを先に温めることで、それが適切な温度になり、味や香りも均一になります。また、お茶やコーヒーを入れた後にも、温めたミルクが続いているため、お茶やコーヒーが熱すぎないようにすることもできます。それによって、温かくて美味しいミルクティーやカフェオレを楽しむことができると思います。それでも、それぞれの人によって好みは異なりますので、自分に合った作り方を見つけることが大切です。

ワタシ どうやら君は簡単なことを長々と述べる癖があるようだが。

ChatGPT ご指摘いただきありがとうございます。確かに、私は質問に対して詳細な回答をすることを心がけていますが、それが長く感じられることもあるかもしれません。それでも、それぞれの人に合った情報を提供することが重要だと考えております。今後は、短くもっと明確な回答を心がけていきます。申し訳ありませんでした。

ワタシ いや、つき合ってくれてありがとう。

ChatGPT どういたしまして。私はあなたの質問に対して、できるだけ正確で詳細な情報を提供することを心がけておりますので、どんな質問でもお気軽にお尋ねください。

January 13, 2023

アーティゾン美術館 パリ・オペラ座 響き合う芸術の殿堂

アーティゾン美術館の「パリ・オペラ座 響き合う芸術の殿堂」
●アーティゾン美術館の「パリ・オペラ座 響き合う芸術の殿堂」展へ(~2/5)。歌劇場が美術展の対象になり得るというのもすごい話だが、それが余裕で可能になってしまうのがパリ・オペラ座。仕事上、これは見ておかねばまずいという義務感もあって足を運んだのだが、想像以上に充実した展示ですっかり魅了されてしまった。作品数は約250点でかなりのボリューム。オペラ座を題材にした絵画といった間接的な作品もあるにはあるが、多くは劇場そのものとダイレクトに結びついた作品、たとえば舞台デザインや衣装デザイン、ダンサーや作曲家の肖像、ポスター、劇場の天井画の習作等々であって、完全に音楽ファン、バレエ・ファンのための展示になっている。自筆譜も何点か展示されている。ラモーの「遍歴騎士」やロッシーニの「ウィリアム・テル」など。
マネの「オペラ座の仮装舞踏会」
●大半の展示物が撮影不可だったので、写真でその迫力を伝えることはできないのが惜しい。上はマネの「オペラ座の仮装舞踏会」。アーティゾン美術館の所蔵作品なので撮影できる。
●ラモーやリュリが活躍したバロック・オペラの時代、栄華を極めたグランド・オペラの時代、ディアギレフのバレエ・リュスの時代など、それぞれにいろんな作品がこの劇場から生み出されているわけだが、こうして長い歴史を一望する展示を見ていると、かのオペラ座であっても多くの作品は歴史の中で埋もれてゆくのだなという儚さを感じる。大規模だっただけにグランド・オペラの時代は特にそう(といっても、今後マイアベーア・ブームがやってこないとは限らないが)。あと印象的だったのはダンサーたちに群がるブルジョワの紳士たちの姿かな。ある種の「課金システム」の存在を感じさせて、生々しい。

January 12, 2023

トッパンホール ニューイヤーコンサート 2023 ~ ユリアン・シュテッケル、山根一仁、原ハーゼルシュタイナー麻理子

●11日は「トッパンホール ニューイヤーコンサート 2023」。ニューイヤーコンサートと銘打ちながら辛口硬派のプログラムを用意するのがトッパンホール。プログラムは前半がコダーイの無伴奏チェロ・ソナタ(ユリアン・シュテッケル)、後半がバッハ~シトコヴェツキ編の「ゴルトベルク変奏曲」(山根一仁、原ハーゼルシュタイナー麻理子、ユリアン・シュテッケル)。コダーイの無伴奏チェロ・ソナタ、正月ボケを吹き飛ばしてくれる曲として、1月中旬のニューイヤーコンサートにはぴったりかも。大変すばらしい。この曲、やや晦渋な作品だと思っていたけど、生で聴くと思いのほかパワフルで、シュテッケルのチェロは雄弁。難曲を難曲と感じさせない洗練された演奏で、なおかつスケールが大きく、気迫のこもった熱演。
●普通ならこれで前半終了だが、ここでサプライズあり。なんと、シュテッケルに師事した岡本侑也が登場して、チェロの師弟デュオが実現。パガニーニ~トーマス・デメンガ編の「モーゼ幻想曲」を演奏してくれた。岡本の潤いのあるまっすぐな美音と、シュテッケルの深く陰影豊かな音色によるヴィルトゥオジティ合戦。ぜいたくなお年玉。
●後半の弦楽三重奏版「ゴルトベルク変奏曲」は、ドミトリ・シトコヴェツキの編曲。シトコヴェツキ本人による最初の録音が出た頃、どう考えても弦楽器向きの曲ではないし、ひとりで演奏する曲を3人で演奏するのは密度が薄すぎてウケないよなあ……と思ったものだが、それは大まちがいで、以後多くの奏者たちに愛奏され、こうして何十年も経っても人気が衰えていない。もはや新たなスタンダードなのかも。で、編曲に対する印象は今もそう変わらないのだが、実演で聴くと原曲とはまた違ったリラックスして聴ける楽しみがあるのだと知る。特にテンポの遅い変奏では弦楽器ならではのしっとりとした味わいあり。

January 11, 2023

「ブラック・フォン」(ジョー・ヒル著/ハーパーコリンズ・ジャパン)

●昨年読んだ本でひたすら感心したのがジョー・ヒルの短篇集「ブラック・フォン」(ハーパーコリンズ・ジャパン)。この本、以前に小学館から刊行された「20世紀の幽霊たち」を改題した新装版で、表題作の「ブラック・フォン」(以前の題は「黒電話」)がイーサン・ホーク主演で映画化されたことをきっかけに再刊されたらしい。映画のほうは未見で、見るつもりもないのだが、この短篇集は秀逸。一応はホラー小説というジャンルにくくられるのかもしれないが、メタフィクション的趣向もあれば、青春小説もあれば、挫折した大人の物語もあって、一言ではとてもくくれない。ただ全体のトーンとして「ほろ苦さ」があって、そこがなんとも味わい深い。英国幻想文学大賞短篇集部門受賞作。
●特によいと思ったのは、「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」。主人公はショー・ビジネスの世界を夢見て都会に出たものの、売れないまま故郷に帰った男で、エキストラとしてゾンビ映画に出演している。もちろんただのゾンビ役のひとりだ。そこでやはりゾンビ役のエキストラとして参加している高校時代のガールフレンドと再会する。ふたりは高校時代は人気者のベストカップルだった。彼女は息子を連れて参加している。ふたりは適切な距離感を探り合いながら会話を進め、やがて現在の境遇にあらためて目を向ける。そんな場がゾンビ映画の撮影だというのがたまらない。他にもかつての親友は風船人間だったという素っ頓狂な設定で書かれた青春小説「ポップ・アート」だとか、カフカの「変身」ばりにある日とつぜん昆虫になってしまった男が、その能力に目覚める「蝗の歌をきくがよい」、ホラー小説についての小説でありつつそれ自体が一級のホラーになっている「年間ホラー傑作選」等々。巧緻な作品が目立つ。むしろ表題作が弱いか。
●で、ワタシは知らなかったのだが(あるいは知っていたけど忘れていたのかも)、著者のジョー・ヒルはあのスティーヴン・キング(とタビサ・キング)の息子なのだとか。これにはびっくり。いや、文才を受け継いでいるという意味では納得か。しかしキングの息子であるということは大金持ちの家に生まれているわけで、それでいてこんなにもやさぐれた世界、敗者の世界を巧みに描けるというのは、どういうことなのか。父親の名を伏したまま、無名の新人としてこの短篇集でデビューしたそうだが、後でキングの息子だと知った人は心底驚いたのではないだろうか。

January 10, 2023

山田和樹指揮読響、ポゴレリッチのラフマニノフ&チャイコフスキー

●7日は今年最初の演奏会で東京芸術劇場で山田和樹指揮読響。ソリストにイーヴォ・ポゴレリッチが登場するとあって7日と8日の2公演とも完売。プログラムはチャイコフスキーの「眠りの森の美女」のワルツ、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ポゴレリッチ)、チャイコフスキーのマンフレッド交響曲(スヴェトラーノフ版)。ポゴレリッチはいつものように譜めくりを従えて、ゆっくりと歩いて登場。事前にどんな演奏になるかまったく予測のつかない人なので身構えていたが、冒頭はノーマルなテンポで開始されて安堵(あるいは落胆?)。が、第2楽章はかなり速く、第3楽章はゆっくり始まったりと、全体に独特のテンポ設計。独自性の強い解釈は相変わらずで、ダイナミクスも特異、やや粗く、アクが強い。山田和樹指揮のオーケストラは献身的。しなやかなオーケストラと、自然な流れを拒むかのようなソリストの化学反応から生まれる規格外のラフマニノフ。アンコールはなし。
●後半、チャイコフスキーのマンフレッド交響曲はとてもパワフルだけどバランスよく整えられた演奏で、物語性豊か。バイロンの原作で描かれるマンフレッドの厭世的で超然とした人物像がよく伝わってくる。この曲のご先祖様はベルリオーズだと思うが、特に第4楽章の邪神の館の饗宴は「幻想交響曲」ゆずり。「チャイコフスキー交響曲全集」では無視されがちな不遇な作品でもあって、その原因は冗長さにあるのかもしれない。特に終楽章は長い。たぶん、そこを解決するのが今回用いられていたスヴェトラーノフ版なのだろう。スヴェトラーノフの録音で聴くことができるが、第4楽章の中盤に大幅なカットがある。さらに終盤で第1楽章の終結部にジャンプして、そのまま第1楽章のおしまいをくりかえす(その際にドラを追加して劇的効果を高める)。これで音楽的には一気に見通しがよくなって、交響曲としてのバランスがよくなる。一方で、原作のストーリーとは大きく外れて、魂の救済もなにもないまま爆発的なクライマックスで作品を閉じることになる。あと、チャイコフスキーが珍しくチャレンジした労作のフガートもばっさり削られる。通常の版と比べてどちらがいいのか、一長一短で難しいところ。なんなら第1楽章にカットの余地はないものかと思わなくもないので、いろんな魔改造版「マンフレッド交響曲」があっていいのかも。

January 6, 2023

SOMPO美術館「おいしいボタニカル・アート 食を彩る植物のものがたり」展

SOMPO美術館 おいしいボタニカル・アート
SOMPO美術館で開催中の「おいしいボタニカル・アート 食を彩る植物のものがたり」展が楽しい(1月15日まで)。英国キュー王立植物園の協力のもと、食用となる植物を描いたボタニカル・アート(植物画)が展示されている。たとえば、リンゴ。いろんなリンゴの絵がずらっと並ぶ。で、これらはアートであってアートでないというか、その草花がどのような形態をしているかを正確に伝えるための絵なんである。つまり図鑑みたいなもの。一見すると作家性は薄い。でもそんな植物画であっても、時を経た作品を眺めてみると、そこには時代性なり地域性なりが滲み出ているはずで、やっぱりアートなんだなと思えてくる。
SOMPO美術館 おいしいボタニカル・アート モモ
●これはモモ「ラ・ノブレス」(ウィリアム・フッカー/1818)。この絵はちゃんと中の断面と花の絵が添えてあるのが吉。実も花もわりとなじみのある感じ。なかには「えっ、そんな果物があるの?」みたいなものもけっこうある。
SOMPO美術館 おいしいボタニカル・アート ヘーゼルナッツ
●これはヘーゼルナッツなんだけど、こんなふうに実がなっているんだと知る。どんぐりみたい。ほかにもコーヒーやカカオなどもあった。写真撮影は一部コーナーのみ可。
SOMPO美術館 おいしいボタニカル・アート ヴィクトリア朝のダイニング・テーブル・セッティング
●こちらはヴィクトリア朝のダイニング・テーブル・セッティングを再現した一角。思わずここに座って食事をしたくなる。展示全体に空腹を刺激されるというか、眺めているうちにだんだんと八百屋さんに行きたくなる効果がある。なにかおいしい果物でも買って帰ろう。そう思って帰路にスーパーに寄ってみたが、現実のスーパーはヴィクトリア朝の雰囲気からはほど遠く、お値打ち品の大根と舞茸を買って帰ったのであった。

January 5, 2023

システム手帳 vs Googleカレンダー 2023

●一年のはじまりということで、長年使っているシステム手帳用リフィル「ダヴィンチ 週間2」の2023年用をゲット……と言っても、今どき紙の手帳ですべてを済ませるのは大変なので、何年も前からGoogleカレンダーと併用している。紙とデジタル、一長一短でどちらにも絞り切れないまま、しょうがなく両方を使い続けている感じ。Googleカレンダーの利点は明快で、予定を他人と共有することができるし、自分にリマインダーを送れる、日程の変更が容易、月ごとや年ごとの決まったパターンの予定を入力できる、PCからもスマホからもアクセスできる、外出するたびに手帳を持ち歩く必要がない、等々。だからGoogleカレンダーだけでいいじゃないのとも思うのだが、どうしても紙の手帳のほうが勝る点もある。
●紙の手帳のほうが「だいたいこの辺でやる」みたいな曖昧な予定を入れやすい。あと、文字の大小とか勢い(?)とかで、予定に強弱を付けて書けるのがいい。なので、仕事の進行管理は主に紙の手帳を使う。月曜から金曜まで、その日にどの原稿を書くかという予定を先々まで埋めていって、その日が来たら手帳に書いてある通りに原稿を書く。でも、その日にこの原稿は書けそうにないなと思ったら、別の日と予定を丸ごとチェンジしたりする。なるべくチェンジを可能にするために、原稿を書く日は〆切よりも何日か前に設定しておく。予定通りに書けなかった場合は、土日に「休日残業」して取り戻す。だから土日は原稿書きの予定を入れない。取材やミーティング、外出予定は、少し面倒だが紙の手帳とGoogleカレンダーの両方に入れる。急な仕事の依頼が来たときは、〆切までに空いている日があるかどうか見て、もう空きがなければあきらめて断るか、〆切を遅らせることができないか先方に相談する。
●こういうスタイルでやっていると、手帳よりも仕事の進行が遅れてしまうとやたらと気持ちが焦ってしんどくなるし、たまに手帳よりも仕事を先取りできるとフッと心が軽くなる。手帳ひとつで大いに気分が変わるのだから、これはもう手帳様ともいうべき恐れ多き存在といってよい。ときどき自分は嬉々として手帳様の奴隷になっている。そう思うと「手帳様」は許せても、「Googleカレンダー様」はなんとなく許せない気がする。そのあたりも紙を捨てきれない理由のひとつか。

January 4, 2023

「メキシカン・ゴシック」(シルヴィア・モレノ=ガルシア著/青木純子訳/早川書房)

●年末年始に読んだ本、その1。シルヴィア・モレノ=ガルシア著「メキシカン・ゴシック」(早川書房)。ホラー小説からは遠ざかっていたが、英国幻想文学大賞ホラー長篇部門(オーガスト・ダーレス賞)、ローカス賞ホラー部門、オーロラ賞を受賞した「ホラー三冠王」というふれこみにひかれてゲット。序盤は古色蒼然としたゴシック・ホラーで、「えっ、まさかこの調子でずっと続くの?」と心配になったが、書名通りメキシカン・ゴシックであることがミソ。主人公は都会の裕福な家庭に生まれ、学者志望の知的な若い娘でメスティーソ(混血)。この主人公が外界から孤立した幽霊屋敷みたいなおどろおどろしい館に招かれるのだが、こちらの幽霊屋敷側に住むのはイギリスからやってきた伝統を重んじる旧弊な白人一家。ホラーの体裁をとりながらも、ヒロインが戦っている相手は家父長制であり白人優位主義であり植民地主義なのだという図式が見えてくると、これが今日の小説であることが腑に落ちる。
●もっとも全体のトーンは案外カジュアルで、格調高いゴシックスタイルかと思いきや、進むにつれて荒唐無稽な50年代SFホラー調になっていくのがおかしい。同時にこれは真菌類小説でもあって、人間がキノコやカビに対して抱くうっすらとした恐れが反映されている。その点では東宝特撮映画「マタンゴ」に通じるかも。ヘンなモノ食わされる感にモゾモゾする。

January 1, 2023

謹賀新年2023

うさぎ 浮世絵風
●賀正。元旦のウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートはフランツ・ウェルザー・メストが指揮。3回目の登場で指揮者に新味はないが、プログラムがかなり凝っていて、なんとプログラムの15曲中14曲がニューイヤー・コンサート初登場。これにはびっくり。様式化されたお楽しみ、たとえるなら「紅白歌合戦」で1組以外の出場者は全員初登場だとしたら?……悪くない。ヨーゼフ押しも吉。さすがにアンコールの定番2曲は外さなかった。「美しく青きドナウ」の代わりに今年はヨーゼフの「天体の音楽」を演奏します!的な暴挙はなかった。
●NHKの現地からのテレビ中継はゲストに反田恭平さん。番組が終わるやいなや、Twitterで反田さん(と小林愛実さん)のアカウントからふたりの結婚の報告があって、このタイミングでの発表の目出度さときたら「ラデツキー行進曲」で全力手拍子級だと思った。お幸せに。
●年末にWi-Fiルータを買い替えた。ようやくWi-Fi 6対応。前回の買い替えからあまり時間が経っていないのだが、Wi-Fi機器が増えていることや映像コンテンツ等でトラフィックが増大していることもあって、少しハイパワーなものに。前回の買い替えほど劇的な変化は体感できていないが、きっとこれでWi-Fi環境の快適度があがったはず。こういう環境整備も年末年始ならではって気がする。
●うさぎイラストはAI画伯Stable Diffusion作。今年もよろしくお願いいたします。

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