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2017年12月アーカイブ

December 18, 2017

ニッポンvs韓国代表@EAFF E-1サッカー選手権

ニッポン!●試合の途中から自分はこれを「代表戦」にカウントしたくなくなってしまったのだが(この大会ってなんのための大会だっけという疑問をずっと引きずっている)、1点先制したら4点取られたというひどい試合になった、ニッポン対韓国代表。GK:中村航輔-DF:植田、昌子、三浦弦太、車屋紳太郎-MF:今野、井手口(→三竿健斗)、土居聖真-FW:倉田(→阿部浩之)、伊東純也(→川又)、小林悠。前の試合に続いて植田はサイドバックでの起用。唯一実績豊富な今野はやはり全試合先発。
●開始早々に伊東純也の仕掛けからPKをもらって、これを小林が決めて先制するが、その後はおもしろいようにやられた。韓国のトップにキム・シヌクという2m近い(?)長身ストライカーがいて、注文通りに頭で合わせられて失点。あとチョン・ウヨンの見事すぎる超絶技巧フリーキックで逆転。そのまま流れは最後まで引き戻せず、一方的にやられて計4失点。試合を通じてハリルホジッチ監督のいうところの「デュエル」で負け続け、攻守の切り替えも遅く、パワーと技術の両面で屈した感じ。ニッポンは全般に体が重そう。この急造チームのなかでは実績のあるはずの今野、井手口の中盤も機能せず。こうして3試合を戦うと、中国や北朝鮮に比べて、韓国はずっとレベルが高いことがよくわかる。お互いに欧州組が呼べず、よくわからないチームで戦っているという事情は同じなのだが、韓国側は伝統の「日韓戦」を戦おうとしていたのに対し、こちらは「引き分けでも優勝」といったふわっとした通常モードで試合に入り、なんだか焦点が合わないまま90分を終えてしまった。
●以前は「私は負けるの嫌い。負けると病気になる」とまで言っていたハリルホジッチ監督だが、試合後のインタビューは妙に淡々としていた。この実質B代表を見切ったからこそ、あっさりしていたのかな、と。もうこのチームが組まれることはないんだし、どうこう言ったところで意味がない。そんな本音が透けて見えた気がする。この煮え切らない大会を単純に「バックアッパーの選抜試験」と考えれば、ひとりかふたりの収穫はあった、ということか。

December 15, 2017

ヤン・リシエツキ ピアノ・リサイタル

●11日は紀尾井ホールでヤン・リシエツキのピアノ・リサイタル。リシエツキ、DGからリリースされるショパンで知って、ポーランド人だと思い込んでいたら、両親がポーランド人でカルガリー生まれのカナダ人なのだとか。リサイタルのプログラムがおもしろい。ショパンの夜想曲第15番ヘ短調と第16番変ホ長調、シューマンの4つの夜曲、ラヴェル「夜のガスパール」、ラフマニノフの幻想的小品集Op.3、ショパンの夜想曲第19番ホ短調とスケルツォ第1番ロ短調。テーマは「夜」。最後にスケルツォ第1番が置かれるのはどうしてかなと思ったら、中間部にポーランドのクリスマス・キャロル「眠れ、幼子イエス」が引用されているのだとか。
●リシエツキは1995年生まれ。唖然とするほどきれいなテクニック。粒のそろった美音で、強奏時でもきらびやかで決して響きのバランスを崩さない。特に「夜のガスパール」の第1曲「オンディーヌ」はこんなに精密に弾けるのかと思うほど。ショパンであれラフマニノフであれ感傷にも官能にも溺れず、整った造形で音のドラマを紡ぎ出す。スケルツォ第1番なんかはもう少し煽ってくれてもとは感じるんだけど、これだけ磨き抜かれた演奏はめったに聴けない。もっと客席がわくかと思ったが、好みの分かれるタイプということなのか。アンコールは2曲。ショパンのノクターン第13番ハ短調、とてもゆっくりしたテンポのシューマン「トロイメライ」。アンコールまで本編のテーマに即していた。

December 14, 2017

ニッポンvs中国代表@EAFF E-1サッカー選手権

●巷ではぜんぜん盛り上がっている感じがないEAFF E-1サッカー選手権。ニッポン代表といっても海外組がいなくて地味ということもあるのかもしれないが、この大会名称ってどうにかならにんすかね。EAFF E-1って、なにかの型番みたい。
ニッポン!●で、第2戦は対中国戦。中国を率いるのはあの名将リッピ。おお、ベンチにリッピがいる。久々に見た。リッピは広州恒大の監督を務めた後、中国代表監督に就任したのだとか。中国といい中東といい、日本はクラブレベルでも代表レベルでも経済力の差を感じることが増えてきた。中国代表は北朝鮮よりさらに大型チームで、平均で184.4cm。ニッポンは178cmほど。高さでは対抗しようがない。特に前線の選手は迫力がある。ダイナミックだが粗削りなサッカーで、かつてのオーストラリア代表を連想させる。フォーメーションは3-4-3。リッピは試合ごとに3バックと4バックを使い分けている模様。
●ニッポンは前の試合からだいぶ選手を入れ替えてきた。GK:東口-DF:植田、三浦弦太、昌子、山本脩斗-MF:今野、大島(→井手口)、倉田、土居聖真(→阿部浩之)、伊東純也(→川又)-FW:小林悠。アンカーに今野を置く。やはり頼りになるベテランをひとり入れておかないとチームにならないということか。山本脩斗は32歳でまさかの代表デビュー。本来センターバックの植田を右サイドバックに起用したのも驚き。しかも植田はサイドバックの動きがきちんとできていて、コンビネーションからサイドをえぐって、正確なクロスボールを供給するなど大活躍。こうして両方できる選手がいると、チーム編成の自由度が格段に上がる。
●序盤はかなりニッポンがボールをスムーズに回せていた。前の試合と違って、前線も活性化していて流れはよかったと思うのだが、前半30分に大島が痛恨の負傷退場。代わって井手口が入ると、急激にボール支配率が下がってしまった。井手口の獰猛で執拗な守備はとても有効なのだが、大島がいないと中盤の選手が視野の広さを失ってしまったよう。前の試合で収穫だった伊東純也を先発起用。突破力のあるところは見せてくれたが、突破した後のプレイに物足りなさも。好機の少ない試合で、流れとしては0対0で終わってもおかしくない雰囲気だったが、後半39分、中央で倉田の縦パスを小林がフリック、これを交代出場の川又がシュート。シュートは弾かれるが、こぼれ球を小林が拾って、ゴールエリア右から体をひねるように反転して浅い角度からシュートを決めた。圧巻は後半43分。センターバックの昌子がボールを拾うと、思い切ってロングシュート。まさかの43メール弾が決まってしまった。伝説のゴールといってもいいインパクトだが、相手ゴールキーパーにも問題を感じる。試合終了直前、延々と続くフィジカル勝負に疲れ果てたのか、青息吐息の山本がジャンウェンジャオを倒してPK。これを決められたものの、2-1で勝利。
●収穫としては植田のサイドバック起用か。さんざん国内組を試した結果、ワールドカップ本大会に生き残ったのが大ベテラン今野だったしても驚かない。

December 13, 2017

ノット&東京交響楽団の「ドン・ジョヴァンニ」

ツェルリーナをマゼットから強奪するドン・ジョヴァンニ●10日はミューザ川崎でジョナサン・ノット指揮東京交響楽団の「ドン・ジョヴァンニ」演奏会形式。直前にドン・ジョヴァンニ役がミヒャエル・ナジからマーク・ストーンに、ドンナ・エルヴィーラ役がミヒャエラ・ゼーリンガーに交代するというアクシデントがあったが、結果的には大成功に。騎士長にリアン・リ、レポレッロにシャンヤン、ドンナ・アンナにローラ・エイキン、ドン・オッターヴィオにアンドリュー・ステープルズ、マゼットにクレシミル・ストラジャナッツ、ツェルリーナにカロリーナ・ウルリヒ。合唱は新国立劇場合唱団。演奏会形式ではあるが、演技もあり、舞台上にはオーケストラの手前に簡素なベッド状のものが置かれて活用される。演出監修は原純。前回のノット&東響コンビによる「コジ・ファン・トゥッテ」と同じく、ノットはハンマーフリューゲルを弾きつつ指揮をする。今回は川崎の一公演のみ。トランペットとホルンはピリオド楽器を採用。
●オペラの演目って重なりがちで、今年はパーヴォ・ヤルヴィ指揮N響によるほとんど理想的といってもいいスタイリッシュな「ドン・ジョヴァンニ」を聴いたばかり。これも最低限の簡素な装置だけを置いて演技を付けるスタイルだったので、どうしても思い出してしまうのだが、あちらは磨き抜かれた完成品の魅力、こちらは今その場で湧きあがる音楽の生命力が肝といった感。歌手の変更があったにもかかわらず、チームワークは万全。ノットの鮮度の高いモーツァルトを満喫。カーテンコールではオーケストラ全員が去っても拍手が鳴りやまず、ノットと歌手陣が再度登場して大喝采。残っていたお客さんのスタオベと多数のブラボーで最高にいい雰囲気になった。
●レポレッロが「カタログの歌」でスマホを取り出すのはもはや標準演出か。数年前と違うのは、きっとデータはクラウド上に置かれてるはずで、安心のバックアップ体制が敷かれている。レポレッロが従者を辞めてもドン・ジョヴァンニはデータにアクセス可能だ。「コジ」等で肖像を見せる場面なんかもそうだけど、今はデータ化可能なものはみんなスマホで見せないと不自然だと感じるようになってきた。ドン・ジョヴァンニがレポレッロに金貨を渡す場面ではお札が舞っていたが、あれも遠からずスマホ決済になるにちがいない。ピピッ!みたいな音がして。
●レポレッロという役柄には2種類の描かれ方があると思う。ひとつは生まれながらの従者タイプ。この日のシャンヤンはそう。人物像としては伝統的でわかりやすい。もうひとつは本当はカッコいいレポレッロ。N響「ドン・ジョヴァンニ」はそちらだったという認識。たまたま身分制度上従者になっているが、実はイケメン。そうしておくとレポレッロがドン・ジョヴァンニと衣装をとりかえて人違いが起きる場面のリアリティが増すし、「カタログの歌」にも別の味わいが生まれる……。いや、待て待て、どうやってもリアリティなんかないか。ダ・ポンテ三部作はどれも話の発端はおもしろいんだけど、途中からグダグダでどうでもよくなり、モーツァルトの神音楽がすべてを解決してしまう。
●地獄落ちの場面。ドン・ジョヴァンニが銃口を自分の頭に向けるという演出。個人的には現代的かつリアルな手段で自らの命を絶つ場面には抵抗があるのだが、もうそうもいってられないのか。最後、ティンパニのロールを不気味に残してハッピーエンドのフィナーレにつなげるアイディアは秀逸! この間に、ドン・ジョヴァンニが起き上がって、皆の顔を見ながら去ってゆく。そういえば死者が起き上がって歩き出す光景は、河瀨直美版「トスカ」でも見たっけ。別にゾンビになったという演出ではないので、魂が肉体から抜け出たとでも思えばいいのだろうか?
●このオペラでもっとも危険な人物はドン・オッターヴィオだと思っている。大昔に最初に見たときから、この人、なんかヘンだよねっ!と感じていたのだが、今はその違和感の正体が理解できる。甘いテノールで最初から最後までずっと正論を歌って善人オーラを振りまこうとしているが、実は口だけで自分じゃなにもやっていない、それがドン・オッターヴィオ。いるいる、こういう人! 立派なことを言ってて、思いやりもありそうなんだけど、よく考えたらこの人、いてもいなくてもまったくいっしょで、話の行方になんの影響も与えていない。上司にしたくない登場人物ナンバーワン。ドンナ・アンナも薄々その邪悪さに感づいたから、結婚を先延ばしにしようって言ってるんじゃないかなー。

December 12, 2017

井上道義指揮日本フィルの「錯乱」&「幻想」プロ

●8日はサントリーホールで井上道義指揮日本フィル。ラヴェル「マ・メール・ロワ」組曲、八村義夫「錯乱の論理」(ピアノに渡邉康雄)、ベルリオーズ「幻想交響曲」という錯乱プログラム。八村義夫「錯乱の論理」の曲名の由来となった花田清輝の評論集についてはなにも知らないのだが、「幻想交響曲」での主人公が錯乱し破滅に至るというストーリーと結びつけて、ひとつの大きな流れを読み取ることができる。そしてこれを「マ・メール・ロワ」のおとぎ話で始めるのがおもしろい。終曲「妖精の園」に続いて(舞台転換には時間がかかるが)「錯乱の論理」が始まったところで、同じ世界を表から裏に回って見つめ直したかのような印象を受ける。情念渦巻く「幻想交響曲」はまれに聴く大轟音。
●定期演奏会では珍しく、最後にマエストロがマイクを持って登場し、あいさつ。日本のプロオーケストラの定期演奏会デビューが日フィルでこの「幻想」だったそうなのだが、オーケストラに向かってそのときにもいた人は?と尋ねると、ひとりかふたり反応があって(よくわからなかった)「オーケストラってこれくらい人が入れ替わるんです」。40年も経てばそれはそうか。本来「幻想」はもっと若い指揮者の振る作品だから、最近はあまりやっていなかったというお話も。トークで一段と会場は盛り上がった。

December 11, 2017

ニッポンvs北朝鮮代表@EAFF E-1サッカー選手権

●さて、EAFF E-1サッカー選手権が開幕したんである……が、なんだそのEAFF E-1って? この大会、名称がどんどん変わっていくのだが、以前は東アジアカップと呼ばれ、その前には東アジア選手権とも呼ばれていた気がするし、ルーツをたどればダイナスティカップ(当時弱小国のニッポンがオフト監督のもと初めて国際タイトルを手にした大会)にまで遡る。日本と北朝鮮と韓国と中国の東アジア勢でタイトルを争う。今回は日本の味スタで開催中。
ニッポン!●ただし、この大会は東アジアローカルな日程で組まれたもので、インターナショナル・マッチデイとは同期していない。欧州リーグ戦は休みにならないので、基本的に国内組で代表を組むことになる。おまけにFIFAクラブワールドカップに出場する浦和の選手が呼べない。だから形式上はA代表だけど、ベストメンバー1チーム分くらいを除いた選手たちによる代表というか、実質的にB代表くらいの感じだ。ってことは……そうだな、少しおもしろそう。今のニッポンのJリーグ勢の水準でどこまでできるかを知る好機。ちなみに前回大会はニッポンは一勝もできずに終わった。
●で、メンバーは新鮮。GK:中村航輔-DF:室屋、谷口彰悟、昌子、車屋-MF:今野、井手口、高萩(→伊東純也)-FW:倉田(→阿部浩之)、小林悠、金崎(→川又)。復帰組と元五輪組が目立つ。若い選手が多いなかでベテラン今野が起用されているのがおもしろいところ。川崎の阿部浩之は28歳で代表初選出、初キャップ。で、こうして即席チームを作ってプレイすると、やっぱりニッポンはパスをつなぐサッカーになる。北朝鮮が堅守速攻を目指した戦い方を選んだこともあり、パスは横につながるけれど、縦にはなかなか入らず、ボール支配率ばかりが高くチャンスの少ない展開に。アジアでは毎度おなじみの展開にやっぱりなってしまう。ボールをサイドに運んで前が詰まると逆サイドに動かして、また前が詰まると逆サイド……みたいな。前線で小林悠がしきりにボールを呼び込む動きをしていたようだが、所属チームのようにはいかない。シュートが遠い。
●一方、北朝鮮代表はむしろハリルホジッチ監督が好みそうな効率的なサッカー。平均身長180cm超の高さと強さのある選手たちをそろえ、球際の争いに強く、ボールを奪うと素早くカウンターアタック。この戦術がぴたりとハマって、たびたび決定機を作り出していた。中村航輔のファインセーブで救われた。全体に力強さではニッポンを上回り、技術も予想以上にある。ただし攻守の切り替えや決定機など、ここぞという場面で技術的なミスが出てしまう。北朝鮮の監督は元ノルウェー代表フォワードのヨルン・アンデルセン。外国人監督を迎えたのが意外だが、だが、実はサッカー界に関して言えば北朝鮮はそんなに「閉じた国家」でもなくて、海外組も何人かいる模様。日本と同じく今回欧州組は呼べないわけだが、在日コリアン組は呼べるわけで、カマタマーレ讃岐のリ・ヨンジ(李栄直)が先発出場。J2讃岐ではレギュラーポジションを取れていない選手だが代表では中心選手になっているようで、このあたりは日本代表の選手が海外移籍した場合にまま見られるのと似た現象。ほかに熊本のアン・ビョンジュン(安柄俊)、町田のキム・ソンギ(金聖基)が代表入り。仙台のベテラン、おなじみリャン・ヨンギ(梁勇基)は招集されず。
●90分を通して、ニッポンはボールを回すばかりで決定機が乏しく、チャンスの質でもシュート数でも北朝鮮が上回ったゲーム。0対0で終わるかと思えたが、アディショナルタイムもそろそろ終わろうかという後半48分、スルーパスに抜け出た川又が左サイドからファーサイドへ高いクロスボールを入れ、これを今野が慎重で頭で中に落とし、中央で井手口が豪快に蹴り込んだ。ボールは相手選手にかすって、そのままゴールへ。1対0で劇的な幕切れ。ニッポンの収穫はキーパーの中村航輔だが、ホームで北朝鮮と試合をしてキーパーが目立ってしまう展開は厳しい。伊東純也の縦への突破力は魅力。先発で見たい。

December 8, 2017

映画「ブレードランナー2049」(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)

●もう上映館も少なくなってしまっているが、滑り込みでなんとか映画館で見た、「ブレードランナー2049」(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)。カルト的な人気を獲得している前作「ブレードランナー」(リドリー・スコット監督)が1982年の作品だから、なんと35年も経ってから続編が作られたわけだ。ひえーーー。これだけ忘れられることなく語り継がれる作品も珍しいだろう。今回の「ブレードランナー2049」も語りたくなる映画に仕上がっている。そして、よくできたエンタテインメント。
●ネタバレを避けつつ、いいなと思ったところ。これが非人間同士の物語であるところ。主人公はレプリカントだし、その恋人はホログラフで投射されるAI。非人間の形態として対照的なあり方(スタンドアローンの物理実体とクラウド上に存在するデータ)のふたりをカップルにしているのが秀逸、そして切ない。旧作の主人公で今やハードボイルド爺となったハリソン・フォード演じるデッカードもレプリカントだし、戦う相手も女レプリカント、主要登場人物の多くが人間じゃない。で、人間であるはずのウォレス社の大ボスみたいなのがやたらと非人間的だったりする。主人公の幼少時の記憶をめぐるエピソードもなかなかいい。彼のしょぼくれた感じの人間像は、前作のデッカードとはずいぶん違うんだけど、おおもとの原作であるP.K.ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」の主人公はむしろこんな感じの男なんじゃないだろうか。
●舞台となるロスアンゼルスが前作以上に暗く、ディストピア化している。殺伐とした雰囲気はまあしょうがないのか。いくつか引っかかるところもある。まず長すぎる。2時間40分を超えるので、映画館で予告編を見せられるとほぼ3時間コースになってしまう(なぜ課金モデルなのに広告を見なければならないのか、という映画館への根本的な不満)。トイレ退出続出。それと前作へのオマージュ要素がとても強くて、嬉しい反面、どこかリメイク的な印象も受けてしまう。これは「スター・ウォーズ」の新シリーズ1作目なんかにも言えるんだけど。オペラでいう「新演出」とまでいうといいすぎだが、同じテーマで今作り直したらこうなる的なヴィジョンというか。あと、今の自分にとってはバイオレンス成分はもう少し控えめのほうが嬉しいかな。前作を映画館で見た人はみんな35歳、年を取ってるわけで。
●だらだら雑談を続けるけど、前作「ブレードランナー」について言うと、ワタシは初見ではどちらかといえばこの映画に失望した。というのも原作を読んで頭をガツンとやられた者にとって、リドリー・スコット監督の映画には原作で重要だと思う要素がふたつほど落ちていたのが寂しかった。ひとつはマーサー教という宗教モチーフ。山登りをする教祖とか、すごくディック的な仕掛けがあるんだけど、それがない。もうひとつはオペラの要素。原作にはオペラ劇場のシーンとか、オペラ歌手のレプリカントが登場するじゃないすか。たしか「魔笛」も出てくる。そういうオペラ要素にはリドリー・スコットはあまり惹かれなかったみたい。もちろん原作と映画は別物で当然なので、そのうち映画は映画のほうで好きになったのだけれど。
●あと、デッカード本人がレプリカントだっていうのは、かなり後付けっぽい設定だと感じたんすよね。まあ、ただの人間だったら最後のロイ・バッティとの戦いで秒殺されてるだろうから、それでいいのかもしれないんだけど、この話はデッカードが人間のほうがおもしろいんじゃないかっていう点で釈然としなかった。その点、今作の「ブレードランナー2049」はもっとスマート。
●「ブレードランナー2049」を見てて思ったのは、みんなスマホ持ってないなーってこと。未来の人たちは携帯情報端末に頼ってなくて、いちいち用があると実際に出かけたり会ったりする。演出的にはわかる。スマホを眺めてる登場人物はどうやってもカッコ悪いし、スマホをスマートウォッチとかスマートグラスに置き換えたとしても、やっぱり見映えがしないもの。
●羊の折り紙に「いいね」を押したい。

December 7, 2017

Windows 10 Fall Creators Updateでスリープから復帰すると画面が乱れる事件

●先日、PCの電源を投入したら、画面表示が乱れて縞模様になってしまうという不具合が起きた。わわ、これは困った。慌てて再起動すると普通に立ち上がって安堵するのだが、いったんスリープにして復帰しようとすると、また縞模様になってしまう。うーん、参った、これはハードウェア的な不具合なのか……と思ったが、検索してみると、どうやらWindows 10のFall Creators Updateの適用をきっかけに同じ症状で困っている人が少なくない。ワタシが使用しているエプソンダイレクトのサイトにもこのように案内があった。現時点では対応策が載っておらず、スリープを使うなという指示があるのみ。
デバイスマネージャー●が、親切な個人ブログでワタシと同じような環境の方が解決策を書いてくれていたので、そちらを試してみることにした。ディスプレイドライバにIntel HD Graphics 530を使っている場合、「デバイス マネージャー」から「ディスプレイ アダプター」を開き、Intel HD Graphics 530のプロパティを開く。ドライバーのタブを確認すると、バージョンが22.20.16.4749と表示されていると思う。Fall Creators Updateにアップデイトされた際にこのドライバがインストールされるようなのだが、これをIntelのサイトから現時点で最新の15.60.0.4849をダウンロードして、手動でインストールしてアップデイトする。すると、無事スリープから復帰できるようになった。さらば、縞模様。
●今のところ問題はないけど、副作用が出る可能性もあるだろうから、なにかあっても自力で回復できる人向け。だれかの役に立つかもしれないので、書いておこう。

December 6, 2017

2018年 音楽家の記念年

●恒例、来年に記念の年を迎える音楽家一覧を。例によって100年単位で区切りを迎える主だった人を挙げている。ここ数年、特集記事などが組まれるような著名な作曲家が少なめだったが、一転して来年は話題豊富。なんといってもレナード・バーンスタイン生誕100年が強力だ。バーンスタインの曲をたくさん聴けそう。ドビュッシー没後100年も大きいのだが、数年前に生誕150年が中途半端にとりあげられてしまった感もあって、そのあたりの影響は微妙。
●グノー生誕200年とか、例年ならもう少し目立ってもよさそうだが、ほかにネタが豊富なだけにどんなものか。
●ここ数年、毎年生誕100年を迎える大歌手がいる。「大歌手たちの時代」を未来形で追体験している感。
●生誕100年の人は、100年後に全員そろって生誕200年になるんすよ。生誕300年も生誕1000年もみんないっしょに迎える。うん、当たり前だ。当たり前だけど、なんだか惜しい。

[生誕100年]
レナード・バーンスタイン(作曲家、指揮者)1918-1990
ベルント・アロイス・ツィンマーマン(作曲家)1918-1970
ゴットフリート・フォン・アイネム(作曲家)1918-1996
ジョージ・ロックバーグ(作曲家)1918-2005
レーモン・ガロワ=モンブラン(ヴァイオリニスト、作曲家)1918-1994
ヘンリク・シェリング(ヴァイオリニスト)1918-1988
ルッジェーロ・リッチ(ヴァイオリニスト)1918-2012
レナード・ローズ(チェリスト)1918-1984
ジェラール・スゼー(歌手)1918-2004
ビルギット・ニルソン(歌手)1918-2005

[没後100年]
クロード・ドビュッシー(作曲家)1862-1918
アッリーゴ・ボーイト(作曲家、台本作家)1842-1918
リリ・ブーランジェ(作曲家)1893-1918
ツェーザリ・キュイ(作曲家)1835-1918
ヒューバート・パリー(作曲家)1848-1918
シャルル・ルコック(作曲家)1832-1918
トイヴォ・クーラ(作曲家)1883-1918

[生誕200年]
シャルル=フランソワ・グノー(作曲家)1818-1893
マリユス・プティパ(舞踊家,振付家)1818-1910

[生誕400年]
ジョアン・セレロールス(作曲家)1618-1676

[没後400年]
ジュリオ・カッチーニ(作曲家)1551-1618

[没後500年]
ピエール・ド・ラ・リュー(作曲家)1452頃-1518
ロワゼ・コンペール(作曲家)1445-1518

December 5, 2017

2017年のJリーグを振り返って

サッカー場J1の優勝争いが最終節までもつれ込むのはいったい何度目だろう。先週末、1位鹿島(勝点71)、2位川崎(勝点69)の状況で迎えた最終節は、感動的なフロンターレ川崎の逆転優勝で決着した。鹿島といえば「勝者のメンタリティ」、一方川崎といえば「シルバーコレクター」。ところが鹿島は磐田相手にドロー。今季J1に復帰した磐田だが6位フィニッシュは立派。往年のライバル相手に意地を見せた。リーグ最少失点のチームを作り上げた名波監督はいずれ名監督になるかもしれない。一方、川崎は大宮に大勝。結果として勝点で並んだが、得失点差で川崎が大きくリードしているため、悲願の初優勝、初タイトル。そもそもこれだけ「強いクラブ」というイメージの定着している川崎が、初タイトルというのが驚き。中村憲剛の男泣きもわかろうというもの。これほどの名選手が現役を無タイトルで終えかねないところだったわけで、サッカー選手の喜びというものについて考えさせられる。名声とタイトルの価値はどのあたりで釣り合うものなのか、と。
●得失点差で頭一つ抜け出ている川崎が優勝したのは順当といえばまったく順当。もともと川崎といえば点はよく取るけど、よく取られるイメージが強かったのに、今季は守備も堅く、失点の少なさでリーグ3位。得点は1位のまま、失点を減らしているんだから、今季から就任した鬼木達監督の手腕あってこそなんだろう。まだ現役選手みたいな雰囲気だが、この人も名監督候補。
●わがマリノスは、ACL圏内の可能性もあったが、終盤に失速して結局は5位に。自慢のディフェンスも終わってみればそれほど堅かったともいえない。モンバエルツ監督の退任にうっすらと希望を抱くが、監督というよりはチーム編成の問題か。
●降格は甲府、新潟、大宮。甲府は勝点差1に泣いた。J2からは1位湘南、2位長崎が自動昇格、3つ目の枠を巡る3位から6位までの謎プレーオフは、名古屋、福岡、ヴェルディ、千葉で争われ、順当に3位名古屋が勝ち抜けた。順当というか、順当であることが珍しいプレイオフではある。名古屋は1シーズンでJ1に返り咲いてめでたいところだが、J2でワンシーズン戦って湘南や長崎より下になったという結果はそれなりに重い。
●V・ファーレン長崎は高木琢也監督で5シーズン目という継続性に加えて、今季から「ジャパネットたかた」創業者の高田明社長を迎えたのが大きそう。昇格を決めた試合後スピーチが滑らかすぎて笑ってしまう。そのまま有力選手の大特価セールを始めるのではないかとドキドキしたが、そんなことはなかった。スピーチの最後にアウェイサポへの御礼を欠かさないあたりはさすが経営者。来季のJ1は長崎対広島の平和祈念ダービー(?)が実現する。

December 4, 2017

ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団のホルン・プロ

●2日はサントリーホールでジョナサン・ノット指揮東京交響楽団。いつもながらノットのプログラムはおもしろくて、前半にリゲティのホルンと室内アンサンブルのための ハンブルク協奏曲(ホルン:クリストフ・エス)、シューマンの4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック(ソロ:ジャーマン・ホルンサウンド)、後半にベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」というホルン大活躍プロ。ジャーマン・ホルンサウンドはクリストフ・エス、シュテファン・ショットシュテット、ゼバスティアン・ショル、ティモ・シュタイニンガーの4人の同門のホルン奏者からなるアンサンブル。4人がぴたりと調和してひとつの音楽を奏でる。シューマンのこの曲、以前にも聴いたことはあるけど、4人もソロがいるのにソリスティックではない変な曲だなーと思っていたんだけど、4人ホルンをひとつのパートくらいに見ればいいのかも。小協奏曲でもあり小交響曲でもあるような、鬱屈とロマンが一体となったくすんだシューマン・ワールド。なんとアンコールがあって、ブルックナー(M.ヒルツェ編)の4本のホルンのための3つのコラールよりアンダンテ。
●後半の「英雄」はスリリング。弦楽器が14型と小ぶりの編成(いつもの対向配置)なんだけど、その分、全力を振り絞って弾き切ることで初めて成立するようなエネルギッシュなベートーヴェン。ところどころにノットからの仕掛けがあって、これにオーケストラが応えるといった丁々発止のやり取りが(たぶん)あって、あえて端正な造形を拒むかのようにキリキリと軋みをあげながら猛進する。つい先日、ヤノフスキとN響でおそろしく完成度の高い「英雄」を聴いたばかりだけど、ノットはまったく別のアプローチで今まさに目の前で音楽が生み出されているという体験を提供してくれた。客席は大喝采で、ノットのソロ・カーテンコールに。定期公演で、しかもマーラーやブルックナーの大曲でもなく、ベートーヴェンの「英雄」でソロ・カーテンコールが起きるのは珍しいのでは。この日、オクタヴィアによるレコーディングが入っていた模様。どこまでこの興奮が録音で伝わるか興味深いところ。
ジャーマン・ホルンサウンド●休憩中にロビーに黒山の人だかりができていて、なにかと思ったらジャーマン・ホルンサウンドの4人が現われて大撮影大会に。これはよくわかる。というのも、コンサートでは演奏中以外であっても撮影するチャンスがほとんどなく、せっかくコンサートに行ってもインスタ的な意味で「お土産」がない。みんなしょうがなくホールの外観とか公演ポスターとかの写真を撮ってSNSに載せてるわけだけど、それって行ってなくても撮れる写真ばっかりで、一抹の寂しさが残る。というわけで、自分も喜んで撮った。

December 1, 2017

新国立劇場「ばらの騎士」 ジョナサン・ミラー演出、ウルフ・シルマー指揮

nntt_rosenkavalier2017.jpg●30日は新国立劇場で「ばらの騎士」。2007年のプレミエ以来たびたび上演されているジョナサン・ミラー演出の再演。ウルフ・シルマー指揮東京フィルで、元帥夫人にリカルダ・メルベート、オックス男爵にユルゲン・リン、オクタヴィアンにステファニー・アタナソフ、ゾフィーにゴルダ・シュルツ、ファーニナルにクレメンス・ウンターライナーという布陣。ジョナサン・ミラー演出は時代設定を初演当時に置き換えるというものだが、オーソドックスで、初めてこのオペラを見る人にも安心の舞台。つい最近、METライブビューイングで見たロバート・カーセンの新演出が同様の設定を採用して、よりはっきりと未曽有の世界大戦前夜の気配を打ち出していたのに比べると、こちらはぐっと控えめ。軍服姿のオクタヴィアンに、まもなく彼に訪れるであろう暗い運命を想像することはできる。なんど見ても心動かされる名作。序盤はぎこちなさも感じたが、次第に熱を帯び、幕切れは陶酔的でしみじみ。歌はゴルダ・シュルツのゾフィーがすばらしい。アタナソフのオクタヴィアンはいかにも青年貴族らしい。
●このオペラで味わい深い登場人物がファーニナル。最初、この人は貴族社会に踏み込んできた成金で、娘を有力貴族と結婚させて自分の地位を確固たるものとしようと思っているだけの利己的な人物に見える。でも、だんだん違う見方があると気づく。元帥夫人にも男爵にもお付きの者が何人もいて、彼らのやっていることといえば、廊下でただ椅子に座って待っているとか、それが仕事。この社会、まったくもって生産性が低い。そして、身分のある男性以外はだれもが他人の人生を生きている。元帥夫人も含めて。古き良き時代ではなく、古き悪しき時代。でも平民生まれのファーニナルは自分の才覚で地位を築いた男なんすよね。軍需産業なんだろうけど、社会の実需にこたえて財を成した。しかしファーニナルには大きな弱みがある。第1幕で男爵がいうように、彼は健康ではない。妻に先立たれ、子供は娘のゾフィーだけ。財を成したけれど、男子の後継ぎはおらず、自分がいつまで元気でいられるか自信がない。だから一刻も早く、ゾフィーを貴族に嫁がせたい。なのにゾフィーはこんな相手はイヤだと言い出すものだから、もう頭がカッとなってお前の顔なんかもう二度と見たくないみたいな心にもないことを口走ってしまう。父性の描かれ方で「椿姫」のジェルモンなんかと通じるところがあると思う。

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