ドミノ・ピザ【PC向けサイト】

2017年11月アーカイブ

November 20, 2017

ソヒエフ&N響のプロコフィエフ「イワン雷帝」

イワン雷帝●17日はNHKホールでトゥガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団によるプロコフィエフ(スタセヴィチ編)のオラトリオ「イワン雷帝」。ソヒエフとベルリン・ドイツ交響楽団の録音がソニーから出ているが、ライブではまったく聴いたことのない曲。これは貴重な機会。もともとエイゼンシテイン監督による映画「イワン雷帝」のためにプロコフィエフが書いた音楽を、作曲者の没後にアブラム・スタセヴィチがオラトリオに編曲した。東京混声合唱団(かなり大編成だったが)、東京少年少女合唱隊にメゾ・ソプラノのスヴェトラーナ・シーロヴァ、バリトンのアンドレイ・キマチが加わるという一大スペクタクル(独唱陣の出番が少なくてもったいない)。しかし、ソヒエフは大音響で圧倒しようというのではなく、響きのバランスを美しく保ちながら、ていねいに作品を彫琢するといった趣き。約70分、休憩なしでこの一曲のみだが、ボリュームは十分。
●で、今回の公演では語りとして歌舞伎俳優の片岡愛之助が起用されたのが大きな特徴。もともと映画音楽でありストーリー性はあるのだが、なじみの薄い題材だけあって曲だけ聴いていても、なかなかストンと腑に落ちない。そこに日本語の語りが入ることでイワン雷帝の人物像がはっきりと浮かび上がってくる。というか、これがもう身振り手振りも交えての思い切り芝居がかった語りで、ほとんど主役級の大活躍。この語りでずいぶん救われた気がする。エイゼンシテインが二代目市川左團次率いる一座によるソ連初の歌舞伎公演を観劇し、その影響として映画「イワン雷帝」に歌舞伎の所作を思わせるカットが多数用いられることになった、という歴史的経緯を念頭に今回歌舞伎俳優が起用されたということなのか。

November 18, 2017

東京オペラシティ B→C 周防亮介、W杯ロシア大会出場国決定

●14日は東京オペラシティのB→C(バッハからコンテンポラリーへ)で周防亮介の無伴奏ヴァイオリン・リサイタル。プログラムはシュニトケの「ア・パガニーニ」、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ、尹伊桑の「大王の主題」、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番ト長調。もっとも新しい作品でも1982年のシュニトケなので「コンテンポラリー」とはいいがたいのだが、しかしこのシリアスなプログラムは魅力的。無伴奏ヴァイオリンのためのレパートリーの豊かさを痛感する。切れ味鋭く、雄弁でスケールの大きなソロ。バルトークとかイザイとか、本当にうまい。アンコールはがらっと雰囲気を変えて、タレガ(R.リッチ編曲)の「アルハンブラの思い出」。ていうか、雰囲気変わりすぎ。
_____________
ワールドカップ2018ロシア大会の出場国がすべて決定。自分内下馬評を覆して、オーストラリアは北中米4位ホンジュラスとのプレイオフを勝ち抜いて出場権獲得。イタリア、オランダ、アメリカ、チリが敗退する一方、アジアは5カ国も出ててスマンって感じだが、でもイタリアだって仮にアジア予選を戦ったらそれほど簡単でもないんじゃないの、とも思う。

November 16, 2017

レオニダス・カヴァコス&エンリコ・パーチェ

●13日はトッパンホールでヴァイオリンのレオニダス・カヴァコスとピアノのエンリコ・パーチェ。前半にヤナーチェクのヴァイオリン・ソナタ、シューベルトの幻想曲ハ長調、後半にメシアンの「主題と変奏」、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第10番ト長調。シューベルトからメシアン、ベートーヴェンと続く「主題と変奏」プログラムという趣向。カヴァコスのヴァイオリンが最強に強まっている。恐ろしくパワフルで輝かしい音色、キレキレのテクニック、すさまじい集中力。メシアンでたっぷりとヴィブラートをかけて朗々と楽器を鳴らし切ると、ホールが響きで飽和してまるでオルガンを聴いているかのような気分になる。あと、ベートーヴェンの終楽章の変奏。各変奏の性格付けのコントラストが鮮やかで、こんなにエキサイティングに聴ける曲だったとは。アンコールにベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第8番の第3楽章、ドホナーニのハンガリー牧歌。
●カヴァコスってビジュアル的にもカッコいいんすよね。アキバ系とか言われがちだけど、あれは半歩先を行くオシャレ長髪&メガネ。そのうちみんなマネするようになる、きっと。
●自分の記憶ではカヴァコスの名が日本で最初に話題になったのは、BISレーベルにシベリウスのヴァイオリン協奏曲の知られざるオリジナル版を世界初録音したときなんだけど、あのころの写真を見るとまるっきりカッコよくない。加齢とともにカッコよくなったというべきか、オーラが発せられるようになったというべきか。
●最近の録音と若い頃の録音。

November 15, 2017

ベルギー代表vsニッポン@親善試合

ベルギー●ベルギーのヤン・ブレイデルスタディオンで開催された対ベルギー戦。デブライネとかルカクとかビッグクラブで活躍するタレントが並び、現在FIFAランキング5位に立つ最強国とアウェイで戦えるという貴重な機会。結果としては1対0でベルギーが勝利したのだが、内容的にはむしろアウェイでこれだけのクォリティで戦えるニッポンのたくましさのほうを感じた。先日のブラジル戦は永久に背中が見えない個の力の差を痛感し、前半で3失点してゲームが終わってしまったという試合だったが、このベルギー戦はまったく違う。拮抗した戦いのなかで前半をスコアレスで終え、後半に両チームが選手交代を繰り返して事実上のテストモードに入った終盤での1失点で敗れたにすぎない、ともいえる。負けたは負けたにはちがいないんだけど、希望が持てる。
●ニッポンのメンバーはGK:川島-DF:酒井宏樹(→酒井高徳)、吉田、槙野、長友-MF:山口、井手口、長澤和輝(→森岡亮太)-FW:浅野(→久保)、原口(→乾)-大迫(→杉本)。ポイントは長谷部の不在。本大会でも長谷部がいないケースは大いに考えられるが、その代役として長澤和輝が代表初出場。落ち着いたプレイぶりで、高いレベルの相手とも戦えることがわかって大きな収穫。中盤は底に山口、インサイドハーフに井手口と長澤という形で、ここはハリルホジッチ監督の考えが伝わる部分。かつてはこのポジションに香川が置かれたりしていたが、強い相手と戦うときはここに井手口や長澤のような対人プレイに強く、ボールを奪えて、運動量も豊富な選手が必要になってくる。中盤でボールを奪い、なおかつ奪った後にいかにミスなく前にボールを繋げるかが生命線。センターバックの吉田の相棒はここに来てベテラン槙野が定着の予感。守備陣はベルギー相手に非常に組織立った連動性を見せていた。攻撃陣では大迫のポストプレイは頼りになる。パスはよくつながるが、最後に強引にシュートに持ち込めるタレントがいないのが辛いところ。ベルギーもニッポンも相手にプレッシャーを精力的にかけ続ける緊迫感のあるゲームだったが、後半途中からはラインが間延びして大味な試合展開になってしまった。
●このメンバーでこれだけできるのなら、本田、香川、岡崎が本大会でもメンバーに選ばれない可能性は十分ありそう。
●で、ブラジル戦となにが違ってたんだろうか。たぶん、ブラジルはベルギーよりもずっと強かったというのが納得できる説明。ベルギーは世界最強クラスだが、実は今のブラジルはそのレベルすら超越する異次元の強さだった、ということ。一方、もうひとつの可能性としては、ブラジルが相手だとハリルホジッチもザッケローニやオシムあたりもたぶんみんな言ってきたように「相手をリスペクトしすぎる」。ニッポンはブラジルと戦うといつもとても脆いチームになる。しかし、ベルギーが相手だと善戦する。というか、実は今回初めて負けた。過去4回戦ってニッポンの2勝2分(そのうち1引分けはワールドカップだ)。かつてはベルギーは今ほど強くはなかったが、しかし2013年のアウェイの親善試合でもニッポンは勝っている。FIFAランキングとはまた別の強さのスケールがあるような気がしてしょうがない。

November 14, 2017

マレク・ヤノフスキ&N響のヒンデミット&ベートーヴェン

●11日夜はNHKホールでマレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団。前半がヒンデミットの「ウェーバーの主題による交響的変容」と「木管楽器とハープと管弦楽のための協奏曲」、後半がベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。東京・春・音楽祭で圧倒的なワーグナーを聴かせてくれたコンビが定期公演でも実現。
●断然おもしろいのはヒンデミットの「木管楽器とハープと管弦楽のための協奏曲」。ソリストがフルート(甲斐雅之)、オーボエ(茂木大輔)、クラリネット(松本健司)、ファゴット(宇賀神広宣)、ハープ(早川りさこ)という陣容。この曲、たぶん初めて聴いた。バロック音楽的というかコンチェルト・グロッソ的な意匠に、ヒンデミットの職人芸が醸し出す淡々とした運動性とユーモア、乾いたリリシズムが込められる。終楽章にメンデルスゾーンの「結婚行進曲」が織り込まれていて、作曲者から妻への銀婚式プレゼントになっているという趣向も、なんだか頑固オヤジが照れくさそうにやってるみたいな味わいがあって吉。うっすらと類似性を感じて、バルトークの「管弦楽のための協奏曲」とどっちが先なんだっけと思って調べてしまった。バルトークは1943年/45年改訂、ヒンデミットは1949年と少しだけ後。ひとつだけ惜しいのは、この曲はもっと小さな空間向けの作品なのかなとも思う、しょうがないけど。
●後半のベートーヴェン「英雄」は木管倍管編成。かつてのN響を思わすような重厚なサウンド。精悍で格調高く、緊密。

November 13, 2017

トリトン晴れた海のオーケストラ 第3回演奏会

●11日は第一生命ホールで「トリトン晴れた海のオーケストラ」第3回演奏会。矢部達哉コンサートマスターのもと、首都圏オーケストラの名手たちを中心とした指揮者を置かない室内オーケストラ。プログラムはオール・モーツァルトで、前半に「フィガロの結婚」序曲、オーボエ協奏曲(独奏:広田智之)、後半にセレナータ・ノットゥルナ ニ長調 K239、交響曲第39番。小気味よく精彩に富んだモーツァルトを満喫。このプログラムだと、前半に主役を務めたオーボエが後半ではお役御免になるんすね。代わって後半はティンパニ(岡田全弘)が大活躍。あれはバロック・ティンパニって呼んでいいんだろうか。セレナータ・ノットゥルナではセンターに配置されて両側のアンサンブルを司る。交響曲第39番でも第1楽章冒頭すぐにティンパニが鋭く楔のように打ち込まれて、一気に全体がひきしまった感。第3楽章のひなびたトリオでクラリネットが装飾を入れるのも吉。第4楽章で次第に音楽が白熱して、幸福感と高揚感で満たされてゆく様はまさにモーツァルトを聴く醍醐味。アンコールにディヴェルティメントK334の有名なメヌエット。
●いろんな表現の可能性がありうるモーツァルトで、指揮者を置かない。となると、みんなの共通認識にあるぼんやりとした平均値のモーツァルト、肉でも魚でもないモーツァルトになったらどうしようという心配があるわけだけど、このオーケストラではそれは杞憂。はっきりとした顔のあるモーツァルトになっている。じゃあ、それがだれのモーツァルトなのかっていうと、ひとまずはコンサートマスターのモーツァルトなのかなとは思うんだけど、それだけでもないはず。いろんなプレーヤーたちのアイディアなりスタイルなりが刺激しあって、ひとつの答えに到達するものなんだろう。でも、それって指揮者がいても同じことが言えるような気もする。指揮者がすべてを制御することは不可能だし、指揮者がいてもプレーヤー間で触発されて生まれる表現だっていくらでもあるだろう。場合によっては指揮者がいるのにオーケストラ側がハンドルを握ってしまうようなことだってなくもない。となると指揮者がいる/いないというのは視覚的には明確な違いだけど、音楽的にはいる/いないの境目は曖昧なものなのかも。
●トリトン晴れた海のオーケストラ、今後は2018年から2020年にかけて全5回でベートーヴェンの交響曲チクルスを開催するそう。第一生命ホールで「第九」ってスゴくないすか。

November 11, 2017

ニッポンvsブラジル代表@親善試合

ブラジル●フランスのリールで、ニッポンvsブラジル代表の親善試合が実現。今回の欧州遠征はブラジルとベルギーという現在世界最強クラスの二か国と欧州で戦える貴重な機会。もうどこもワールドカップ本番までに試合ができる機会は限られているので、メンバーも本大会仕様のはず。先にブラジルの先発メンバーだけでも書いておくと(記念に)、GK:アリソン-DF:ジェメルソン、マルセロ、チアゴ・シウバ、ダニーロ-MF:カゼミーロ、フェルナンジーニョ、ジュリアーノ、ウィリアン-FW:ジェズス、ネイマール。監督はチッチ。
●ニッポンはハリルホジッチ監督が思い切って香川、本田、岡崎のビッグスリーを落選させたこともあって、攻撃陣の世代交代がいくぶん進んだ陣容に。GK:川島-DF:酒井宏樹、吉田、槙野、長友-MF:山口、長谷部(→森岡亮太)、井手口(→遠藤航)-FW:原口(→乾)、久保(→浅野)、大迫(→杉本健勇)。
●それで試合なんだけど、キックオフ早々に現実を思い知らされたというか。差はあって当然なんだけど、想像以上にブラジルが強い。もともとブラジルが上手いのは百も承知だが、チッチ監督のブラジルにはこれまでのブラジルにないリアリズムに徹した強さを感じる。ブラジル代表が2点リードしてても、まだ前線の選手がニッポンのディフェンスに勤勉にプレスをかけてくるんすよ! いやー、やっぱりワールドカップでドイツ相手に1対7で敗れたという歴史的屈辱が効いているんだろうか。そして、恐ろしいのはカウンターアタックの切れ味。戦慄。ニッポンがたまに攻撃するじゃないすか。人数をかけて攻め込んだときに、攻めきれなかったときが恐怖。シュートまで持ち込めるかな、あ、打てなかった、ボールを奪われた、そこからカウンターが発動して猛スピードでニッポンのゴールに襲い掛かる。怖すぎる。守ってるときより、攻めてるときのほうが失点しそうで怖い。途中でマルセロがルーレットで井手口をもてあそぶかのように交わすシーンがあったじゃないすか。あれが従来のブラジルのイメージなんだけど、そっちは怖くない。マルセロだってリードしてるからああやって遊んだだけで、試合開始直後は容赦のない戦いをした。つまり、弱い相手にも前線からプレスをかけるし、高速カウンターで仕留める。
●そんなわけで、ビデオ判定によるPKだの、不運だといいわけしようと思えばできなくもない事件はあったものの、前半で3失点したのは力の差そのもの。前半はニッポンが前からのプレスが弱くてやられたが、後半は積極的なプレスが実って無失点で抑えながら1点を返した、という見方もあるのかもしれない……が、そうかなあ? 0対3になった時点で試合は実質的に終わっていたというか、ブラジルはもう心の中で帰り支度をしていたんだと思う。後半のニッポンのゴールはコーナーキックから槙野が頭で合わせたもの。
●印象に残ったのは井手口。いいほうでも悪いほうでも目立っていた。ブラジルが相手でも奪い切る守備ができるのはスゴい。でも奪った後のミスが目立つし、失点につながるミスもあった。後半から出た浅野の仕掛けは目立っていた。ただし先発であれができるかどうか。ゴール前のフリーキックを吉田が蹴ったのには驚いたけど、バーを叩いてあわやという惜しいキックだったのにはもっと驚いた。酒井宏樹には武闘派の頼もしさと、ビデオ判定でどれだけカードをもらうかわからないという不安の両方を感じる。

November 9, 2017

定額制ストリーム音楽配信Amazon Music Unlimitedが国内で提供開始

●遅まきながらといった感じではあるが、アマゾンが定額制ストリーム音楽配信Amazon Music Unlimitedの国内提供を開始した。同種の配信サービスとしては、すでにApple Music、Google Play Music、Spotify、Naxos等があるわけだが、もうひとつ選択肢が増えた。料金プランはいろいろあるけど、シンプルに個人月額だと980円。料金はどのサービスも大差はないので、ここはあまり問題ではないはず。
●アマゾンといえばすでにプライム会員向けにオマケでついてくるPrime Musicというサービスがある。今回のAmazon Music Unlimitedはそれとは別のサービス。Prime Musicの楽曲数が「100万以上」と、他社のサービスに比べると極端に少なかったのに対して、Amazon Music Unlimitedは4000万以上の楽曲を配信する。
●じゃあ、その「4000万以上」ってのは多いのか少ないのか。サービスに加入しなくても検索するとどういう音源があるのかはわかるようなので、思いつくままにクラシックのアーティスト名を何人か入れて、どれくらいヒットするかをApple Musicと比較してみた。結論としては、現時点ではApple Musicの優位は揺らがないといったところ。中堅レーベルで差が出る感じ。
●今のところ、音源のタイトル数およびクラシックの新譜の分量と一覧性で、定額制ストリーム音楽配信ではApple Musicがファーストチョイスか。とはいえ、Appleにも弱点はあって、Windows版のiTunesはソフトウェアとしての作りが迷走気味。これに愛想をつかしてSpotifyなりGoogleなりAmazonなりに逃げるという人がいても十分理解できる。あと、クラシックのみでよければ、唯一メタデータの日本語対応ができているNaxosがあればいいという考え方もあるとは思う。どこと契約しようが、長年かけて築いたCDライブラリをはるかにしのぐ巨大ライブラリが一瞬で手に入ることには変わりはないわけで、これから聴く人には最高のパラダイス。

※ 明日の更新は夜のニッポンvsブラジル代表戦の後を予定しています。

November 8, 2017

ドキュメンタリー映画「新世紀パリ・オペラ座」(ジャン=ステファヌ・ブロン監督)

映画「新世紀パリ・オペラ座」
●プレス試写でドキュメンタリー映画「新世紀パリ・オペラ座」(ジャン=ステファヌ・ブロン監督)を見た。これは良作。ジャン=ステファヌ・ブロン監督はまったくオペラには縁がない人で「80年代のポストパンクの流れにあるロックを聴いて育った」というのだが、とてもそうは思えないほどよくできていて、音楽の使い方も秀逸。音楽監督のフィリップ・ジョルダン(写真)やヨナス・カウフマン、ブリン・ターフェル、オルガ・ペレチャッコといった歌手たちも登場するが、映画の主役ともいえるのはオペラ座総裁のステファン・リスナーであり、さらにいえば劇場で働く無名の人たち。総裁がストで頭を抱えていたり、メディア対応とかチケット価格設定についての打ち合わせの場面とか、劇場の裏側をふんだんに目にすることができる。
●さらりとあちこちにユーモアが散りばめられているのが吉。合唱団の練習に一年間かけたという(ホントに!?)シェーンベルクの「モーゼとアロン」が出てくるんだけど、演出はカステルッチ(先頃来日したバイエルン国立歌劇場の「タンホイザー」を演出した人)。このオペラには「黄金の子牛」が出てくるのだが、本物の牛を使おうということになって、ウェブブラウザで写真を見ながら牛の品定めをしているシーンには爆笑。「こいつじゃなきゃ迫力が出ない」みたいなことを言って選ぶんだけど、しかしあんな巨体を舞台に出演させるとは怖すぎる。自分だったら絶対に共演したくない。内容の薄い会議とかやれやれな対立の場面なんかも笑いどころとして入っているんだと思う。けっこうカオス。
●同じ劇場を題材にした名作に、鬼才フレデリック・ワイズマンの「パリ・オペラ座のすべて」がある。あちらがバレエが中心で、かなり観客を選ぶタイプの芸術作品だったのに対し、このブロンの「新世紀パリ・オペラ座」はオペラが中心で、音楽好きならだれもが楽しめるようなバランスのよさがある。編集も巧みで、退屈な場面がない。ほかにも子供たちの教育プログラムの場面とか、ロシアの田舎から抜擢されてパリにやってきた若い歌手ミハイル・ティモシェンコのくだりとか、あれこれと考えさせられる。

12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー/配給:ギャガ/photo © 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS
November 7, 2017

「オーケストラ解体新書」(読売日本交響楽団編/中央公論新社)

●オーケストラの内側を語った案内書はこれまでにもあった。しかし当のオーケストラの事務局が編者となって書かれた本はそうそうないのでは。「オーケストラ解体新書」は読響事務局による渾身の一冊。コンサートがどうやって作られるのか、名指揮者たちが音楽を生み出す現場の様子、楽団員はどんな日常を送りなにを考えているのか等、音楽ファンが知りたいと思うことがぎっしりと詰まっている。
●なんといっても事務局という内側からの視点がふんだんに盛り込まれているのがおもしろい。世間の多くの人はオーケストラ=プレーヤーと思いがちなんだけれど、実際に楽団を運営するのは事務局の人々。演奏会の企画立案から出演者との交渉、楽器運搬の手配もあれば、チケット販売から助成金獲得まで、膨大な仕事がある。そんな様々な背景や裏話のひとつひとつがおもしろく読めて、なおかつその向こう側にある楽団の持つ志みたいなものが伝わってくるのが本書の魅力。あと、オーケストラ事情に詳しい人には、「へー、読響ではそんな風になってるんだ」的な興味深さもあるかも。おまけのカンブルランのインタビューも出色。
●オーケストラ内幕本では、自分のなかではアンドレ・プレヴィン編の「素顔のオーケストラ」がこの分野の伝説的名著に君臨している。これは40年近く昔の本なので今では入手困難だと思うけど、大らかに裏話が書かれていて、野次馬的な興味もひく本だった(記憶では)。プレヴィン編ってなってたけど、実際に執筆した人はだれだったんだろ。ひそかにワタシは「あの本の日本版を作れないかなあ……」と野望を抱いていた頃もあったけど、あるときそれは不可能だと悟った。というのも、仕事でオーケストラの楽団員に取材する機会はあっても、それらはいずれも公演のプロモーションのためのものばかり。宣伝になるから先方も取材に協力してくれるわけだし、こちらも原稿をどこかに掲載してもらえるから取材できる。そうでないならムリな話。しかも、なにか裏話を聞けたとしても、本にするとなれば各方面の許諾が必要になる。プレヴィン本にあったような指揮者や楽団を揶揄するような話とか、いまどき載せられるだろうか。そう考えると、楽団自身が編者になるという発想は目からウロコって感じだ。もちろん、そこには「よい話しか書けない」という制約は発生するわけだが、この現場感はそれを補って余りある。

November 6, 2017

クリスチャン・ヤルヴィ サウンド・エクスペリエンス2017

●3日はすみだトリフォニーホールで「クリスチャン・ヤルヴィ サウンド・エクスペリエンス2017」。クリスチャン・ヤルヴィ(パーヴォの弟、ネーメの息子)が新日本フィルを指揮する一公演に「サウンド・エクスペリエンス」という題が付いているのは、「これまでのコンサートとはまったく異なる新しいアプローチを通じて、パーソナルかつエモーショナルな体験を聴衆に提示する」(クリスチャン・ヤルヴィ)から。プログラムは前半にクリスチャン・ヤルヴィ自身が作曲した「ネーメ・ヤルヴィ生誕80年のためのコラール」(日本初演)、フランチェスコ・トリスターノ作曲のピアノ協奏曲「アイランド・ネーション」(日本初演、ソロはもちろん作曲者自身)、後半にワーグナー~デ・フリーヘル編曲の「ニーベルングの指環」オーケストラル・アドベンチャー。
●前半はそれぞれ自作自演の曲が並んだことになる。父兄弟の3人がそろって世界的指揮者というヤルヴィ家のクリスチャンが父を讃える祝祭的な家族の肖像で幕を開け、続いてフランチェスコ・トリスターノが登場。以前の記者発表にあったように、ピアノ・パートの多くが即興という協奏曲。なのだが、これはなんて形容すればいいのかなー、オーケストラを使ったテクノ? クラシックしか知らない自分にはうまく表現できないんだけど、クラブ・ミュージック? たぶん、これはじっと客席に座って耳を傾けるという音楽ではなく、椅子を取っ払って立ち上がって体を動かしながら楽しむような音楽じゃないかって気がする。しかしここはコンサートホール、お客さんたちは微動だにしない。延々と曲が続いて、最後の最後になってクリスチャン・ヤルヴィが客席を向いて熱く激しく両手を叩いたら、堰を切ったように手拍子が始まって……すぐに曲が終わった。なんだか、自分らノリが悪くて、うまく「サウンド・エクスペリエンス」できなくてスマン!って感じだ。これ、客席はどういう振る舞いが期待されていたんだろ。「ラデツキー行進曲」みたいになってしまってゴメン。なんにせよ、客席で率先してなんらかのアクションを起こすのは難しいものではある、昨今コンサートホールで激高する人々をたびたび目にしているので。アンコールにフランチェスコ・トリスターノのソロ、2曲。「パストラル」と「ラ・フランシスカーナ」。
●後半はワーグナー~デ・フリーヘル編曲の「ニーベルングの指環」オーケストラル・アドベンチャー。これは以前よりある編曲だが、クリスチャン・ヤルヴィの目指すところは重厚長大でズシリとお腹に響くような伝統的なワーグナーとはまったく違う。事前にバルト海フィルハーモニックとの録音を耳にして期待したのは、歯切れよく、タメない引きずらないワーグナーであり、もしかすると前半の音楽につながるようなダンサブルなくらいに躍動感あふれるワーグナー。半ば期待通りだけど、もっとその先があったはずという感も。
●プログラムノートといっしょに配布された紙片に予告あり。「クリスチャン・ヤルヴィ サウンド・エクスペリエンス2019」詳細近日発表とか。すみだトリフォニーホールのFBページによればマックス・リヒターが来日するそう。

November 2, 2017

ハリルホジッチ、欧州遠征のニッポン代表メンバー発表

ニッポン!●今月のニッポン代表の欧州遠征は、対戦相手がブラジルとベルギー。ハリルホジッチ監督ならずとも「世界の二強」と言いたくなるような最強国と、日本を離れて戦う貴重な機会。ワールドカップ本番でもシードの関係上、同じグループにこのクラスの相手が少なくともひとつ(もしかしたらふたつ)入ってくるわけで、アジア内の戦いでは決して実現しないテストが可能になる。最大の注目点は、W杯予選で成功したオーストラリア戦のような戦術を採用するのかどうか(たぶん、する)、そしてそれがどの程度通用するのか。あえて相手にボールを持たせ、前線の選手から激しいプレスをかけて、ボールを奪ったら手数をかけずにカウンターで攻めるという、強い相手に立ち向かうときの現代の標準戦術。もちろん、相手が上手いのでオーストラリア戦のようにはいかない。オーストラリアは後ろの選手の足元がもうひとつでこちらのプレッシャーに対してボールを失う場面が多々あったが、同様のシーンがブラジル相手に起きることなどほとんど期待できない。しかも、ボールを持たせておけばいずれ網に引っかかるだろうと思えたオーストラリアと違って、持たせた結果、コテンパ(死語)にやられる可能性があるのがベルギーやブラジル。しかし、それでもこれが勝点を得る確率を最大に高める戦い方であるとするのが、今の多くの監督の考え方。ハリルホジッチ以前のアギーレだって、当初からそんな戦い方をイメージしていたはず。
●で、メンバー。本田、香川、岡崎の三大スターが落選した。一方、長谷部や長友は残っている。攻撃陣を刷新し、若い選手に遠慮なくやらせたいということか。若手の登用だけではなく、復帰組も目立つ。GK:川島(メッス)、東口(ガンバ大阪)、西川(浦和)、DF:長友(インテル)、槙野(浦和)、吉田(サウサンプトン)、酒井宏樹(マルセイユ)、酒井高徳(ハンブルガー)、車屋(川崎)、昌子(鹿島)、三浦弦太(ガンバ大阪)、MF:長谷部(フランクフルト)、倉田(ガンバ大阪)、山口(セレッソ大阪)、森岡亮太(ワースランドベベレン)、長沢(浦和)、遠藤航(浦和)、井手口(ガンバ大阪)、FW:興梠(浦和)、乾(エイバル)、大迫(ケルン)、原口(ヘルタ)、杉本(セレッソ大阪)、久保(ヘント)、浅野(シュツットガルト)。
●浦和とガンバ大阪勢が多い。森岡はベルギーで絶好調。長澤はサプライズ。攻撃陣のビッグスリーが呼ばれない一方、吉田と長谷部は代わりの効かない選手という感じ。しかし慢性的に膝のコンディションに苦しむ長谷部が、本大会を万全で迎えられる可能性はどれくらいあるんだろう。つい前回大会を思い出す。

November 1, 2017

バッハ・コレギウム・ジャパン第125回定期演奏会 ルター500プロジェクト 5

●31日は東京オペラシティで鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン。宗教改革500周年を記念したルター500プロジェクトのシリーズ最終回。今回も練られたプログラムで、まず前半にルターのコラール「われらが神こそ、堅き砦」が歌われ、続いてアグリコラ、ヨハン・ヴァルター、ブクステフーデのオルガン独奏版、シャイン、カルヴィジウス、プレトリウス、ハスラー、バッハによる「われらが神こそ、堅き砦」が奏でられ、バッハのカンタータ第79番「主なる神は太陽にして楯なり」が演奏される。後半はオルガン独奏の「いざ、すべての者よ、神に感謝せよ」に続いて、カンタータ第192番「いざ、すべての者よ、神に感謝せよ」、そして最後にカンタータ第80番「われらが神こそ、堅き砦」で閉じられるという趣向。完璧な調和、壮麗でドラマティックなバッハ。最後のカンタータ第80番「われらが神こそ、堅き砦」が傑作すぎて鳥肌。
●演奏に先立って鈴木雅明さんがステージにマイクを持って登場した。「さて、今日はなんの日でしょうか?」。ここはBCJの定期演奏会。この日のプログラムノートにあるように500年目の宗教改革記念日だ。「宗教改革記念日とお答えになった方は優等生です。今日はハロウィーンでもあります」。ここで客席から笑いが起きる。それから宗教改革とハロウィーンはまったく無関係でもないというお話が続いた。初台は渋谷と違って仮装した群衆も見当たらず平和。この一帯はハロウィーン勢よりも宗教改革記念日勢が勝ってた。
●元ネタよりも先にメンデルスゾーンの交響曲第5番「宗教改革」に親しんでいる自分は異教徒。メンデルスゾーンいないのに、すごいメンデルスゾーン度。

このアーカイブについて

このページには、2017年11月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2017年10月です。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。

ショップ

国内盤は日本語で、輸入盤は欧文で検索。