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2021年8月アーカイブ

August 31, 2021

都内三大キリンについて

多摩動物公園のキリン
●これより私的「都内三大キリン」を発表する。まずは第1位。多摩動物公園のキリン。本来、キリンは群れで生息する動物。多摩動物公園では15頭ほどのキリンが飼育されている。上野動物園の約4倍という広大さを誇る多摩動物公園でなければ実現できない余裕のある飼育環境が吉。東京都日野市。

羽村市動物公園のキリン
●第2位。羽村市動物公園のキリン。多摩動物公園が動物園界のサントリーホールだとすれば、羽村市動物公園はトッパンホール。いや、もしかしたら近江楽堂。動物が近い。コンパクトな敷地の中にレッサーパンダやミーアキャット、ワオキツネザルなど見どころの多い構成が組まれている。間近に見るキリンは迫力がある。柵から首を出して、人がいる目の前に生えている草を食む。東京都羽村市。

練馬区立美術館のキリン
●第3位。練馬区立美術館のキリン。巨大都市東京で完全に野生を失い、アートの領域に進化したキリン。過剰な色彩に埋め尽くされる東京の街を反映するように、その肌はジラフ柄ではなく彩度の高いカラフル迷彩になっている。同じ敷地には巨大クマやゾウなども生息する。しばしば興味深い展覧会も開かれており、9月23日からの「ピーター・シスの闇と夢」も気になるところ。東京都練馬区。
●ウイルス禍で耳にするようになった言葉が「マイクロツーリズム」。遠出は憚られるので、地元観光みたいな感じ? アーサー・C・クラークもびっくりの「2021年近所の旅」。

August 30, 2021

映画「バーニング 劇場版」とフォークナー「響きと怒り」

●先日フォークナーの「響きと怒り」について書いたが、そこで思い出したのがイ・チャンドン監督の映画「バーニング 劇場版」。近年見た映画では出色の出来だと思ったが、映画のなかでたびたびフォークナーが言及されるのが気になっていた。主人公はフォークナーを読んでいる。これについてもっともシンプルな説明は以下のようなものだ。映画「バーニング 劇場版」の原作は村上春樹の短篇「納屋を焼く」。そしてフォークナーにも「納屋を焼く」という短篇がある(Barn Burningというダジャレみたいな原題)。村上春樹短篇とフォークナー短篇の関係性は脇に置くとして、イ・チャンドンはそこになんらかの意味を読みとって、映画のなかでフォークナーに焦点を当てた。
●実際、主人公ジョンスの境遇はフォークナー作品で描かれるアメリカ南部と一脈通じるところがある。ジョンスは北朝鮮との境界線近くの寂れた土地で牛の世話をして暮らしており、母親は家出をし、父親は暴力沙汰で裁判にかけられている。この主人公と奇妙な三角関係になるのが謎めいた青年ベン。ベンはソウルの高級住宅地に住み、なにも仕事をせずに派手に遊んで暮らしている。ベンの趣味はときどきビニールハウスを焼くこと(納屋ではなくビニールハウスという設定になっている)。ベンはジョンスのすぐ近くでビニールハウスを焼くと宣言する。ジョンスは近所を探すが、どこにも燃えたビニールハウスは見当たらない。一方、同郷の幼なじみだった恋人は忽然と姿を消し、その行方は杳として知れない。
●で、ここから映画の結末部分について少しだけ触れてしまうが(ネタバレというほどではないが、最初の新鮮な驚きを大切にしたい人はここまで)、フォークナー「響きと怒り」とは叙述のスタイルという点で共通点がある。「響きと怒り」では第1章も第2章も語り手にやや特殊な人物を設定して、どこまで記述が信用できるのか疑問を抱かせる構成になっていた。映画「バーニング 劇場版」でも最後の場面で「あれ?」と観る人に思わせる仕掛けがある。そこに至るまでも微妙に現実認識が人によってずれていたりして、落ち着かない気分にさせる物語なのだが、最後の場面でこれは現実に起きたことなのか、それとも虚構なのかと戸惑うことになる。自分にとってごく自然に思われる解釈は、終盤で主人公がせっせと小説を書きだすところまでが現実、その先の描写は主人公が書いた小説内の出来事という解釈。でもまあ、全部が現実だという解釈だって成立する。「響きと怒り」にあった暗く抑圧的な土地の雰囲気と叙述スタイルのパズル的な巧緻さが作り出すコントラストが、この映画にもあったのだと気づく。

August 27, 2021

反田恭平 ピアノ・リサイタル 2021

●26日夜はサントリーホールで反田恭平ピアノ・リサイタル。市松模様の客席で、同日に昼夜2公演を開催。プログラムはオール・ショパン。これから迎えるショパン・コンクールを予告するかのよう。プログラムは前半にノクターン第17番ロ長調Op.62-1、ワルツ第4番ヘ長調Op.34-3、マズルカ風ロンド ヘ長調Op.5、バラード第2番ヘ長調、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ、後半に3つのマズルカOp.56、ピアノ・ソナタ第2番「葬送」ということだったが、なぜか前半にスケルツォ第2番も演奏された。
●華やかな前半もさることながら、より魅了されたのは後半。3つのマズルカOp.56の玄妙さを噛みしめる。作品の味わい深さという点でも白眉か。ソナタ第2番は集中度の高い演奏で、大きなドラマが作り出される。第1楽章の鬱屈した情熱、逸脱気味の官能性、第3楽章の鐘の音のような葬送行進曲と蒼穹を思わせる澄んだ中間部との音色の対比、終楽章の滑らかで柔らかい謎めいたエピローグ。久々にこの曲を堪能できた。戯画的にならない葬送行進曲。楽章間でほとんど間を取らずに一気に。アンコールにショパンのラルゴ、さらに拍手を待たずに続けて英雄ポロネーズ。このラルゴ、知らない曲だったので、なんだかショパンらしくないなと思ったんだけど、帰宅してから確認。風変わりな曲。
●客席は50%の範囲で盛況。時節柄ブラボーは出ないが、スタンディングオベーション多数。本来なら満席のお客さんが熱狂するところ。まだ緊急事態宣言は続く。
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●宣伝を。ONTOMOの連載「神話と音楽Who's Who」第3回でネプチューン/ポセイドンについて。

August 26, 2021

J1リーグ、連勝するマリノス、初黒星を喫した川崎、リッチすぎる神戸

●さて、このあたりでJリーグの現状を振り返っておこう。欧州中心のフットボールの世界でJリーグはローカル・リーグなのだと痛感させられるのがこの時期。欧州のシーズンオフに合わせて選手の移籍が活発になり、Jリーグはシーズン中にもかかわらず主力選手が入れ替わる。これも日本人選手が大勢欧州でプレイするようになったからで、進歩の証といえばそうなのだが、連続ドラマの中盤でいきなり主役級の役者が交代するみたいな落ち着かなさはある。
●ぶっちぎりの強さを誇り、今季は開幕から無敗だった川崎がついに福岡相手に黒星。昨季から続く無敗記録30がストップしたというのだが、30戦無敗は尋常じゃない。三笘薫(イングランドのブライトン→ベルギーのユニオンにローン)、田中碧(ドイツ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフ)が抜けてチームの再構築が必要になったのかもしれないが、本来ウイルス禍がなければもっと前の段階で選手たちが入れ替わっていたはず。その意味ではここまで成熟したチームは今後なかなか出てこないのでは。……とか思ってたら、次節からまたずっと無敗が続くなんてこともサッカーではあり得るわけだが。
●で、マリノスだ。今、ウソのように強い。昨日は好調の鳥栖を相手にアウェイで4対0で完勝。その前の仙台戦は5対0、その前の大分戦は5対1。こんなに点が入るなんて。背中が見えないと思っていた首位川崎との勝点差はわずか1に。マリノスに関して言えば、もっともよかったことはポステコグルー監督がセルティックに去ったことだと思う。現在のマリノスの超攻撃サッカーはすべてこの人が作ったといってもいい恩人だが、優勝を果たした後はサイクルの終わりに入った印象がどうしても拭えず、新しいチャレンジが必要だと感じていた。後任監督はケヴィン・マスカット。同じオーストラリア人で、かつてのポステコグルーの右腕。チームはフレッシュさを取り戻した。ストライカーのオナイウがフランスに去った代わりに、なかなかチームにフィットしなかったレオセアラがやっと本領を発揮しているのが吉。
●神戸もチームがだいぶ変わった。古橋がポステコグルーに引っ張られてセルティックに移ったのは驚いたが、なんとヨーロッパから大迫勇也と武藤嘉紀を呼んできた。これにイニエスタや酒井高徳やセルジ・サンペールやフェルマーレンがいるわけで、すさまじい選手層(しかもボージャンが加わるのだとか)。大迫や武藤のケースはJリーグにとっての試金石かなと思っている。こういう欧州帰りの選手が個の能力でバリバリと活躍できてしまうようだとJのレベルはまだまだ。どうなんだろう。

August 25, 2021

サントリーホール サマーフェスティバル 2021 マティアス・ピンチャー指揮アンサンブル・アンテルコンタンポラン「コンテンポラリー・クラシックス」

●24日はサントリーホールでサマーフェスティバル2021「ザ・プロデューサー・シリーズ アンサンブル・アンテルコンタンポランがひらく ~パリ発 - 『新しい』音楽の先駆者たちの世界~ コンテンポラリー・クラシックス」。演奏会のタイトルが史上最長級なのだが、簡潔にいえばマティアス・ピンチャー指揮アンサンブル・アンテルコンタンポランによる「コンテンポラリー・クラシックス」。腕利き集団アンサンブル・アンテルコンタンポランが予定通りに来日できた。来日アンサンブルを聴けたのはいつ以来なのか……もしかして昨秋のウィーン・フィル以来?
●プログラムは大盛。ヘルムート・ラッヘンマンの「動き(硬直の前の)」(1983/84)、ピエール・ブーレーズの「メモリアル(…爆発的・固定的…オリジネル)」(1985)(ソフィー・シェリエのフルート)、マーク・アンドレの「裂け目(リス)1」(2015~17/19)日本初演、ジェルジュ・リゲティのピアノ協奏曲(1985~88)(永野英樹のピアノ)、ここまでが前半で、後半がマティアス・ピンチャーの「初めに(ベレシート)」(2013)日本初演。終演して駅で電車を待っている間にようやく気が付いたのだが、終わったのが21時40分くらいで、すごく長い演奏会だった。なるほど、休憩時に後半の長さをレセプショニストに尋ねている人がいたのは、それでか。道理で疲れたわけだ。でも楽しかった。曲ごとに編成が異なるため転換にかなり時間を要した。
●ラッヘンマンの「動き(硬直の前の)」はカブトムシの断末魔の痙攣みたいなイメージが、特殊奏法満載のアンサンブルで表現される。が、日本の夏のおしまいにイメージするのはなんといってもセミだろう。毎日のように目にする弱ったセミ、道端でひっくり返るセミ。ラッヘンマン流セミファイナル。そんなイメージで聴くとおかしみが増す。リゲティのピアノ協奏曲はこの日のなかでは随一の楽しさ。躍動感と機知。「コンテンポラリー・クラシックス」という看板にふさわしい殿堂入り感。
●後半、ピンチャー自演となる「初めに(ベレシート)」は、正直なところ聴く前は気乗りしない選曲だった。「コンテンポラリー・クラシックス」というテーマを掲げて自作を演奏するのはヘンな感じだし、30分以上の長い曲だというし、世界のはじまりが題材だというし、きっとうねした調子で切れ目なく音楽が続いて、あっという間に文脈を見失って迷子のように途方に暮れるのでは。そう恐れていたのだが、予想に反してまったく退屈しない。次から次へとイベントが発生して、響きのおもしろさで引っ張られていく。びっしり細部まで描き込まれたパノラマ画のように、情報量と密度が長さを解決してくれた。
●最後はピンチャーのソロ・カーテンコールに。今回のサマーフェスティバル、都合でこの一公演しか足を運べないのだが、「コンテンポラリー・クラシックス」という切り口はいい。言葉の上では矛盾している気もするが、かつて現代音楽と呼ばれたものが時を経て「今日の音楽」ではなくなる以上、そこには時代を超える名作のパッケージがあってほしい。いろいろなものが並列的に存在し、容易には忘れ去られない時代だからこそ、これから来る人のためのある種の「スターターキット」が欲しくなる。

August 24, 2021

フォークナー「響きと怒り」(平石貴樹、新納卓也訳/岩波文庫)

●夏休み読書感想文……というわけではないのだが、夏になると普段は手にしないガッツリした古典を読みたくなる。というわけで、ずっと手が出なかったフォークナー「響きと怒り」(平石貴樹、新納卓也訳/岩波文庫)を読む。これまで「サンクチュアリ」「アブサロム、アブサロム!」「八月の光」と読んできたが、どうしても「響きと怒り」は読みづらいという先入観から敬遠していた。いや、実際、読みづらいのだが、しかしこの岩波文庫版の親切さと来たら! 詳細な訳注のみならず、各章の主要出来事年表、各章の場面転換表、コンプソン家の見取り図などが付いており、すこぶるありがたい。ていうか、これがなかったらわからないことだらけだったはず。最初、クェンティンっていう主要登場人物のひとりが男性だと思っていたら、途中で女性みたいな記述が出てきて混乱したのだが、訳注を見たら「この作品にはキャディの兄とキャディの娘のふたりのクェンティンが登場する」って書いてあって、これは男性にも女性にも使われる名前なのかよっ!と頭をのけぞらせたのであった(生まれる前から男の子であれ女の子であれ、この名前を付けようと決めていたという話だと後からわかる)。
●1920年代の一時期に焦点を当てながら、アメリカ南部の名家の没落が3人の兄弟の視点から描かれる。最初の第1章では、重い知的障害を持ったベンジーの意識の流れが綴られており、現実の出来事がわかりづらく、ひんぱんに記憶が過去に遡ったり戻ってきたりする(訳注等に助けてもらえるのだが)。第2章になるとインテリの兄のクェンティンの視点に変わって、一気に物事がすっきり見通せると思いきや、この兄がやたらと観念的な悲観主義者で、だんだん現実を語っているのか妄想を語っているのか怪しくなってくる。第1章、第2章ともに共感困難な人物が出てきて鬱展開が続くと思ったら、第3章に真の鬱が待っている。この章の主人公である弟ジェイソンは唯一わかりやすい凡人なのだが、その邪な人物像が読んでいて辛すぎる。最後の第4章は三人称の視点から描かれ、黒人召使のある種の気高さに救われ、宗教的高揚感に圧倒されるも、もはや一家の崩壊は避けられない。つまり、ずっと鬱々としながら読んでいた。南部の抑圧的な空気と出口のない閉塞感、血筋という呪い、身分制度のなかで居場所を定められる黒人たち。暗鬱な土臭さが横溢する物語世界の一方で、叙述のスタイルは緻密に組み立てられたパズルのようで、両者のコントラストが圧倒的な力強さをもたらしている。第1章の前日が第3章、翌日が第4章、そして第2章は18年も昔の日付になっている。第4章まで読んだ後で、もう一度第1章を読み直したくなる。
●「響きと怒り」という題はシェイクスピアの「マクベス」に由来するのだそう。なんとなく文字面からプロテスト・ソング的ななにかを連想していたが、ぜんぜん違っていて、マクベスの「白痴のしゃべることなど、わめきたてる響きと怒りはすさまじいが、なんにも意味はありゃしない」というセリフを引いてきている。つまり、ベンジーのことを指している。シェイクスピアに由来する表現は本文中にも出てきて、第3章でジェイソンはこんなことを言う。

俺は一人前の男なんだし、我慢だってできるんだ、面倒を見てるのは自分の血を分けた肉親なんだし、俺がつきあう女に無礼な口をきく男がいたら、どうせ妬んで言ってることは目の色を見りゃあわかるのさ

訳注で知ったのだが、これは「ヴェニスの商人」が出典で、嫉妬する者は緑色の目をしているのだという。
●「緑色の目」は「オセロ」でも言及される。イアーゴはオセロに向かって、「嫉妬にご用心なさいませ。嫉妬とは緑色の目をした怪物であり、人の心を弄んで餌食にするのです」と警告する。さて、ヴェルディのオペラ「オテロ」には緑色の目をした怪物は登場するのだろうかと思ったが、記憶にない。ともあれ、これは17世紀から伝わるライフハックとして活用できそうだ。嫉妬心は目の色にあらわれる。

August 23, 2021

オーケストラ・キャラバンTOKYO 坂入健司郎指揮名古屋フィル

●20日は東京オペラシティでオーケストラ・キャラバンTOKYOで、坂入健司郎指揮名古屋フィル公演。東京で名フィルを聴ける貴重な機会。そして指揮の坂入はかねてより注目される若手。会社員との二足の草鞋を履いての指揮活動だったが、この夏より指揮活動に専念するという。今回、プロ・オーケストラでの指揮を初めて聴いたが、上々の船出となったのでは。
●オール・ロシア・プロでボロディンの交響詩「中央アジアの草原にて」、グラズノフのサクソフォン協奏曲(堀江裕介)、チャイコフスキーの交響曲第4番。前半はサクソフォン協奏曲の先駆的作品であるグラズノフを聴けたのがうれしい。ソロはつややかで濃密。後半のチャイコフスキーは若さと勢いで押すかと思いきや、むしろ着実。名フィルは厚みのある弦の響きで新鋭を盛り立てた。終楽章は推進力を高めて、力強いフィナーレに。大喝采にこたえて、アンコールに快速テンポの「白鳥の湖」より「スペインの踊り」。一気にリラックスして弾けた雰囲気になったのが吉。その後、オーケストラが退場しても拍手が鳴りやまず、なんと、指揮者のソロ・カーテンコールに。客席が祝祭的なムードを作り出した稀有な公演。

August 20, 2021

ワールドカップ最終予選の放映権をDAZNが獲得、アジアカップ2023と2027も

●時代は変わる。9月から始まるワールドカップカタール2022アジア最終予選の放映権をDAZNが獲得。で、ホームゲームは地上波でも放送されるようだが、時差のあるアウェイゲームはテレビ中継の予定がないという。ワールドカップ予選も有料配信で観る時代があっさり到来。だんだんスポーツ中継は「観たい人だけが有料で観る」ものになって、たまたまテレビをつけたら試合をやっていた、みたいな出会いはなくなりそう。
●で、DAZNが配信するのはこれだけではなく、AFCと2028年までの長期契約を結んでいて、ワールドカップ2026予選、アジアカップ2023、アジアカップ2027も配信するほか、U20、フットサル、女子の大会も一括して契約している。さらにアジア・チャンピオンズリーグも2028年まで独占配信。Jリーグも含めて、もうサッカーファンはDAZNがなきゃどうにもならないという感じ。ありがたいといえばありがたいのだが、あまりに一社に集中して競争がなくなるのも考えもの。
●ワールドカップ本大会はどうなるんだろう? テレビで全試合を観戦できる時代は終わるのかも。

August 19, 2021

SKIPPY ピーナッツバター チャンク、それともクリーミー?

●一頃、マーマレード熱が高まっていた時期があった。「最強のマーマレードを求めて」で書いたように、真の苦みと甘みの調和を実現したマーマレードを探し出そうと、いろんなマーマレードを食べ比べていた。その間、ワタシはずっと朝食のトーストにマーマレードを塗り続けていた。結論だけ書いておくと、王者はTIPTREEであり、それに次ぐのがMACKAYSだった。が、今はマーマレードを常備していない。
●ではなにをトーストに塗っているのかといえば、ずばり、SKIPPYだ!……あれ、SKIPPY、なじみないっすか? アメリカンな雰囲気のピーナッツバター。これはピーナッツそのものの味わいを楽しめる濃厚なピーナッツバターなんである。最初、340gのサイズを買って「これ、デカすぎでしょう、アメリカンすぎ!」と思っていたのだが、今ではさらにビッグな462gのサイズを常備している。勘違いされやすいのだが、SKIPPYはよくコンビニとかスーパーに置いてある日本のピーナッツクリーム(たとえばソントンあたりの)とはぜんぜん別物なんである。そういうピーナッツクリームは原材料名の最初に「水あめ」が来る。糖質(炭水化物)メインで、私見ではより節度がある。しかしSKIPPYは違う。こちらは脂質がメインだ。ピーナッツはそもそも脂質が多い。そして、脂質の多い食い物は臆面もなくうまい。たっぷりとトーストに塗ると背徳的な気分になれる。そんなファッティでジャンクな魅力を発散しているのがSKIPPYだ。
●ところで、SKIPPYには2種類ある。ひとつは青色のデザインのスーパーチャンク。粗びきのピーナッツ粒が入っていてワイルドだ。もうひとつは水色のデザインのクリーミー。こちらは粒が残っておらず、スムーズにパンに塗れる。どちらがいいのか。その答えを出すべく、毎回スーパーチャンクとクリーミーを交互に買い続けている。何往復かしたが、まだ答えは出ていない。

August 18, 2021

Apple Music、Androidでもロスレス対応に

●全カタログのロスレス化を敢行したApple Musicだが、7月下旬からAndroid端末でもロスレス・ハイレゾ楽曲の再生が可能になっている。これでスマホユーザーはみんなロスレスを楽しめることになった。ただし、ロスレスで聴くためにはアプリの設定を自分で変更する必要がある(設定→オーディオの品質→ロスレスオーディオをON)。さらにモバイル通信とWi-Fiで設定を変えられるようになっており、一般的なユーザーであればモバイル通信を「高効率」(低データ使用量の圧縮音源)、Wi-Fiを「ロスレス」で使用することになると思う。なお、「ロスレス/ハイレゾ」という選択肢もあるが、その場合はハイレゾ用に外部DACが必要になるのが普通。
●なのでワタシのようなAndroidユーザーも、Apple Musicのアプリから同じ音源をAAC(圧縮音源)とロスレスで切り替えながら聴き比べることができるようになった。ロスレスの音源を再生中はロスレスと表示される。あるいは聴き比べるのであれば、ロスレスに設定したApple Musicと、まだロスレス化されていないSpotifyで比べてもいい。両方を契約している人なら、こちらのほうが操作は簡単。さて、ロスレスの恩恵を感じられるだろうか?
●Windows版iTunesはまだロスレス非対応。Spotifyは今年後半にロスレス化するはずだが、まだ具体的な発表がない。今はSpotifyメインで使っているのだが、Apple MusicとSpotify、一長一短でどちらかに一本化するのは難しそうな感じ。

August 17, 2021

大宮アルディージャvsブラウブリッツ秋田 J2リーグ第25節 NACK5スタジアム大宮

NACK5スタジアム大宮
●2回目のワクチン接種から2週間経ったら、どこかに行こう。そう考えて先週末は一泊二日の地方遠征を企んでいた。が、かつてないほどの感染拡大に怯み、諸々の条件を考慮した末に取りやめに。代わりに近場のサッカー専用スタジアムということで、NACK5スタジアム大宮でJ2の大宮vs秋田戦を観戦することにしたのであった。
●大宮のスタジアムはあまりに久しぶりすぎて、記憶にあるのとはぜんぜん別のスタジアムに生まれ変わっていた。以前はベンチシートに座ったような記憶があるし、ゴール裏はスタンドがなくて芝生席みたいな感じだったと思うのだが、2007年に大規模改修されたそうで、座席はセパレートになっているし、両ゴール裏に急勾配の立派なスタンドができていて、迫力のあるスタジアムになっていた。名前も大宮公園サッカー場からNACK5スタジアム大宮に変わっている。
NACK5スタジアム大宮 バックスタンド側
●もともとこのスタジアムの見やすさには定評があって、写真のようにバックスタンドの最前列からピッチは目の前。すぐそこにタッチラインがあって、いつボールが飛んでくるかわからない緊張感がある(実際、近くに飛び込んできた)。しかもバックスタンドは10列くらいしかないので最後列でもやっぱり近い。大宮駅から徒歩で行けるアクセスのよさも吉。ただ泣きどころは、古いスタジアムなので屋根がほぼないということ。この日はあいにくの雨。雨中のカッパ観戦も相当に久しぶりだったが、雨量は少なく、寒い季節でもなかったのは救い。もちろん、時節柄、客席は販売数が制限されており、両隣は空席でスタジアム全体も疎ら。全員マスク着用で、声も出せない。代わりに手拍子や拍手で応援する。ウイルス禍での観戦スタイルはすっかり確立されている。屋外ということもあり、感染対策的にはクラシックのコンサート以上にしっかりしている感じ。入場はQRチケットを自分で「ピッ!」とタッチすればOK。QRチケットだと発券手数料もシステム利用料もかからなくてすっきり。
●大宮は長らくJ1にいたチーム。一方、秋田はJ3から上がってきたチームで、ワタシはJFL時代の秋田と横河武蔵野FCの試合を観戦したことがある。当然、大宮が上位かと思いきや、現在の立場は逆で、なんと秋田のほうが順位は上なのだ。大宮はJ3への降格圏に沈んでおり、6月に前監督を解任して新たに元日本サッカー協会技術委員長の霜田正浩監督を迎えている。この日の試合は大宮が開始早々に相手のミスを突いて先制ゴールを決め、多くの時間で試合を支配していたのだが、終盤にセットプレイから失点して1対1のドロー。4戦連続引分けで、負けないけど勝てないという、勝点計算的には損な展開。内容的にはJ3に降格するようなチームには見えず、これから順位を上げていきそうなもの。結果が付いて来ないことで疑心暗鬼にならなければいいのだが……。一方、秋田は見るからにフィジカルが強靭で、体格で大宮を圧倒している(みんなムキムキなのだ)。堅守速攻型のチームのようだが、ロングボール一辺倒でもなく、粘り強く耐えて勝点1をもぎ取ったという印象。J2初昇格で、22チーム中13位は立派というほかない。フィジカルの強さは大きな武器になると感じた。

August 16, 2021

サラダ音楽祭 メインコンサート Noism&大野和士指揮東京都交響楽団、新国立合唱団

サラダ音楽祭 メインコンサート
●12日昼は東京芸術劇場へ。先日に続いて入口で手荷物検査あり。今回はサラダ音楽祭のメインコンサートで、大野和士指揮東京都交響楽団にNoism Company Niigata(演出・振付/金森穣)、ハープの吉野直子、ソプラノの小林厚子、新国立劇場合唱団が共演するというデラックス仕様の公演。プログラムは前半にジョン・アダムズの「ザ・チェアマン・ダンス」(ダンス付き)、カステルヌオーヴォ=テデスコのハープと室内管弦楽のための小協奏曲、マーラーの交響曲第5番より第4楽章アダージェット(ダンス付き)、後半にモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」、プーランクのグローリア。
●自分はダンスの分野にはまったく疎くて初めてNoismを見たのだが、本当にすごい。人間の身体表現にこんなにも豊かな語彙があるのかと新鮮な感動を味わった。特に冒頭の「ザ・チェアマン・ダンス」の複数人によるダンス(用語がわからない)は、音楽に呼応して反復的でリズミカルで、オーケストラのシャープなサウンドと相まって鮮烈。マーラーのアダージェットは井関佐和子のソロによるダンス。ピアノより高さのある大きな台と椅子2脚が舞台中央に運ばれてきて、へー、この台に飛び乗ったり、上で踊ったりするのかなあ……とぼんやり思っていたら、いきなり台の中からダンサーが登場してびっくり。わ、人が入ってたんだ。たぶん、大切な人を失った悲しみ、喪失感のようなものが表現されていたと思うのだが、曲調から想像するよりもずっと動きが多く、雄弁。ふだん、オペラの合間のバレエシーンなんかにも感じることなんだけど、ダンサーの動きがあまりに滑らかで洗練されていて、とても同じ人類とは思えない。
●カステルヌオーヴォ=テデスコの協奏曲では、先日の東フィルでニーノ・ロータの協奏曲を弾いた吉野直子さんがソロ。これも暗譜。たまたま両曲を立て続けに聴いたから感じるけど、ニーノ・ロータとカステルヌオーヴォ=テデスコ、ハープ協奏曲について言えば、ニーノ・ロータのほうが新古典主義的で、カステルヌオーヴォ=テデスコのほうが映画音楽風だなと感じる。後半の合唱はオルガン席と左右バルコニーにディスタンスをとりながらの散開配置。結果的に空間的な広がりをたっぷりと感じられて吉。独唱はエモーショナル。プーランクは本当にカッコいい。
●サラダ音楽祭の公演であること、ダンスが入ることから、客席は子連れファミリーとかダンスファンが多いのかなと思っていたら、意外と普通のオーケストラの演奏会とそんなに変わらない感じ。でもこれはもっと客層が広がっていてもいい公演だと思った。ワタシが「Noismスゲー!」と圧倒されたのと同じように、ダンスファンの人も「都響スゲー!」って感じてほしい。長い曲がないのはファミリー向けの配慮だったのかな。

August 13, 2021

「Jリーグ新戦術レポート2020」(西部謙司著/サンエイムック)

●少し前に出た本だが、昨シーズンのJリーグを戦術視点で振り返る「Jリーグ新戦術レポート2020」を読んだ(西部謙司著/サンエイムック)。これは良書。前年のバージョンも読んだが、2020年シーズンがコロナ禍による特殊な一年だったこともあって、さらにおもしろく、ためになる。今シーズンを観るうえでも大いに役立つことはまちがいない。たとえ監督交代や選手の移籍などがあっても、チームには継続性があり、そこに至るまでの物語があるもの。相手がどんな戦い方を基本戦術としてきたかを事前に知っておくだけでも、試合観戦のおもしろさが増す。観戦ガイドとしての実用性が高い。
●で、この本には実は戦術の話以外にもおもしろいところがいくつもあって、ひとつは大学サッカーの話。昨年、川崎の三苫や旗手など、大卒ルーキーたちが大活躍した。かつては大卒の有望新人はJ1下位やJ2ではポジションを獲れても、それより上で安定して活躍するのは厳しいような印象を持っていた。が、今はぜんぜん事情が違う。その理由として、著者と筑波大蹴球部監督の対談で挙がっていたのは、ウイルス禍の影響で交代枠が増えたこと、それと昨季は降格がなかったこと。あと、大学のほうがプロ以上に戦術が整備されている面もあるといい、高橋秀人が「ゾーンディフェンスのやり方は大学のほうが洗練されているかも」と話していたというのがおもしろい。
●大学には組織としてマンパワーがあるという話も目からウロコ。Jリーグは社員20~30人の中小規模組織なのに対して、筑波大学蹴球部だと200人の部員がいる。そのなかには情報学類や社会工学の学生もいて人的資源は豊富なので、分析やマネジメント、トレーニングに活用できるという。このあたりは欧州にはない独自の文化だと感じる。

August 12, 2021

サラダ音楽祭 子どものためのオペラ「ゴールド! ~ 少年ヤーコプとふしぎな魚のものがたり」GP

サラダ音楽祭「ゴールド!」
●11日昼、東京芸術劇場のシアターイーストへ。サラダ音楽祭の公演、子どものためのオペラ「ゴールド! ~ 少年ヤーコプとふしぎな魚のものがたり」ゲネプロを拝見(12日と13日の本番はすでに完売)。作曲はレオナルド・エヴァース、演出と台本日本語翻訳は菅尾友、出演はソプラノの柳原由香と打楽器の池上英樹。2012年にオランダで初演され、すでに欧州で何度も上演されており、今回が日本初演。たったふたりの出演者によるキッズ向けオペラなのだが、これがとてもよくできていた。
●題材となっているのはグリム童話の「漁師とおかみさん」(ほぼ同じ物語にロシア民話「金のさかな」がある)だが、主人公が少年に設定されている。少年が魚を捕まえるが、魚は逃がしてくれたらなんでも望みを叶えてあげると言う。そこで少年は魚を海に戻し、靴が欲しいと願う。だが靴を手に入れただけでは満足できず、願い事はどんどんとエスカレートしてゆく。欲望と幸福という普遍的なテーマを扱っており、子供が年齢に応じて自分なりの理解ができるテーマなのが吉。さらに音楽的にも大人が聴いて楽しめるのがいい。オペラと銘打つ以上はやはり音楽が主役。柳原由香は一人多役を歌いわけ、発音も明瞭で、演技力も抜群。池上英樹はマリンバをはじめ多数の打楽器を身体の一部のように自在に操り、ときには鍵盤ハーモニカを奏したり、役のひとりとなって演技や台詞まで披露するという八面六臂の活躍ぶり。
●演出と日本語台本も随所にアイディアが盛り込まれていて、子供たちを飽きさせない工夫が凝らされていた。波のシーンでは客席の子供たちに足踏みをさせたり膝を叩かせたりして参加を促す。子供向けとしては少々長いので(約1時間)、こういった参加要素は必須。子供はどんな斬新な音楽に対しても耳も心も開いてくれるが、長さにだけは耐えられないので。

August 11, 2021

コロナ・ワクチン備忘録

ワクチンっぽい絵
●2回目のワクチン(モデルナ)を打った日、ワタシは38.9度の発熱で丸一日寝込んだのだが、周囲を見ているとモデルナを打った人はだいたい発熱しており、ファイザーを打った人はあまり発熱していない。それを裏付ける報告があって(参照記事)、自衛隊職員らを対象にしたモデルナでは2回目接種後に78%もの人が発熱(37.5度以上)しているのに対し、医療従事者を対象にしたファイザーでは2回目接種後は38%の人しか発熱していない。対象者は異なるが、実感とも合致している。これだったらファイザーにしておけばよかった……というのはウソで、仮にこの情報を前もって知っていたとしても、先に打てるほうを打っていたと思う。
●なにかの役に立つかもしれないので、現時点の状況を整理しておくと、ワクチンは近所のクリニックや自治体の集団接種で打った場合はファイザーになり、職域接種や自衛隊大規模接種センターで打つとモデルナになる。自治体ごとに状況は大きく異なっていて、同じ東京都内でも早いところと遅いところの差はかなりある感じ。自分の場合は自衛隊で1回目を6月下旬に打ったが、もし自治体の集団接種で打つとしたら1回目が8月上旬から中旬くらい、近所のクリニックで打ったら7月下旬になっていたはず(クリニックは診察券がある人のみ対象のところとだれでもOKのところがあった)。これとは別に職域接種のチャンスが3回ほどあって、最初の機会は7月中旬にあった。当初、職域接種とは大企業等に勤めている人のためのもので自分は無関係と思っていたが、意外にも自営業者向けや文化芸術関係者向けなどの機会があって、個人事業主も気にかけてもらえているなと感じた。
都内の最新感染動向を見ると、状況はこれまでになく酷いのだが、街中の雰囲気はだいぶ緩んでいて、電車で渋谷などを通ると、賑やかに会話を楽しむウレタンマスクの若者たちがドッと乗り込んできたりする。感染対策的には問題なのだろうが、実のところ、もし自分が彼らと同じ年代だったとしたら同じようなふるまいをしたにちがいない。20代前半だったら、なんの恐れも感じないだろうし、頭ではわかっていても1年半もの時間をがまんして過ごせるとは思えない。ワクチンのために近所のクリニックに何件も電話することなど、思いつきもしないだろう。一日中、ひっきりなしに聞こえる救急車のサイレンもまったく気にならなかったはず。その程度のバカ者だったと自信を持って言える。

August 10, 2021

フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 原田慶太楼指揮東京交響楽団 フィナーレコンサート

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●9日、またもミューザ川崎へ。フェスタサマーミューザKAWASAKI2021のフィナーレコンサートは、原田慶太楼指揮東京交響楽団。盛りだくさんの意欲的なプログラム。前半にヴェルディの「アイーダ」の凱旋行進曲&バレエ音楽、かわさき=ドレイク・ミュージック・アンサンブル「かわさき組曲~アイーダによる」(世界初演)、後半にジョン・アダムズの「アブソルート・ジェスト」(カルテット・アマービレ)、オリンピック開会式でも話題を呼んだ吉松隆の交響曲第2番「地球(テラ)にて」(改訂稿/4楽章版)。
●最初の「アイーダ」も雄弁かつ鮮烈だったのだが、前半の主役はその「アイーダ」に触発された「かわさき組曲」。これは障害のある人が積極的に音楽にかかわることのできる環境を作ろうと、川崎市とブリティッシュ・カウンシルが英国のアート団体ドレイク・ミュージックと協働したプロジェクトから生まれた作品。川崎市内の特別支援学校3校の生徒たちと教員、そして日英の音楽家たちがのべ20回ものワークショップを積み重ねたという。最終的にはプロフェッショナルなオーケストレーションの施された作品になっており、作品として十分に楽しめる。ウイルス禍で制約のある中、こうして形にするまでにどれだけのエネルギーがつぎ込まれたかを思うと頭が下がる。演奏の前に原田さんとブリティッシュカウンシルの人が登場して説明をしたうえで、ワークショップの様子を映像で見せてくれた。ていねいかつ簡潔なプレゼンテーション。
●障害の克服という点でつながるのがベートーヴェンで、後半のジョン・アダムズの「アブソルート・ジェスト」はベートーヴェンの交響曲や弦楽四重奏の断片が引用され、これらを素材にジョン・アダムズ流に再構築された機知に富んだ作品。オーケストラに弦楽四重奏が共演するという特異な編成。カルテット・アマービレはチェロ以外は立奏。曲中で弦楽四重奏曲第16番の第2楽章が引用されて、この執拗さが頭にこびりつくのだが、アンコールではそのベートーヴェンのオリジナルをカルテット・アマービレが演奏するという趣向で、これもおもしろい。
●最後は吉松隆の交響曲第2番「地球(テラ)にて」(改訂稿/4楽章版)。1991年作曲で、2002年の改訂稿で4楽章構成になっている。オリンピック開会式で使われたのは終楽章で、作曲者の言葉を借りれば「アフリカ風ボレロ」。そういえばオリンピックでは、「ボレロ」の後で、この「地球にて」が流れる展開だったのでは。オリンピックが「地球にて」で開幕して、フェスタサマーミューザが同じ曲で閉幕するというのはあまりにできすぎた偶然。そう、サマーミューザのほうがずっと先に曲が決まってたはずだから、偶然……なんすよね? アジアからヨーロッパ、アフリカへと地球全体を巡る「疾走する鎮魂曲」(作曲者談)ということで、ウイルス禍に応じた選曲なのだが、作品そのものは巨大なエネルギーにあふれており、とりわけ終楽章は輝かしい。サマーミューザというお祭りの掉尾を飾るにふさわしい作品と演奏。最後は指揮者とコンサートマスター(水谷晃)のふたりでソロ、じゃなくてデュオ・カーテンコール。
●音楽祭がどの公演も中止になることなく無事に開催されて本当によかった。

August 9, 2021

フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィル

●6日はまたもミューザ川崎へ。フェスタサマーミューザKAWASAKI 2021で、アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィル。予定通りにバッティストーニが来日、サービス満点のイタリア音楽プロを披露してくれた。前半はヴェルディの「シチリア島の夕べの祈り」序曲、レスピーギの組曲「シバの女王ベルキス」、後半はニーノ・ロータのハープ協奏曲(吉野直子)とレスピーギの交響詩「ローマの松」。久々に聴くバッティストーニだが、やはり音楽に勢いがあってドラマティック。東フィルの明るく華麗なサウンドでスペクタクルを堪能。お腹いっぱい。
●「シバの女王ベルキス」は吹奏楽の世界では人気曲なんだそうけど、オーケストラで聴く機会はめったにない。バンダも大活躍でド派手。なぜか和太鼓が使われていて、これがひなびたテイストを醸し出していて妙にカッコいい。ニーノ・ロータのハープ協奏曲も珍しい。新古典主義風で、蒸し暑さを吹き飛ばす爽快さ。擬古的ではあるんだけど、パロディ的な趣も感じる。ブランデンブルク協奏曲第3番っぽい第1楽章とか。あるいは今から見るとRPGのBGM風とも。アンコールにトゥルニエの演奏会用練習曲「朝に」。「ローマの松」は壮麗。ミューザの空間は大音響にも飽和せず、スカッと鳴り切る。このホールならではの快感。クラリネットのソロが絶品。盛大に盛り上がっても荒っぽくならないのも吉。この日も拍手が鳴りやまず、バッティストーニのソロ・カーテンコールに。いや、コンサートマスター(近藤薫)と一緒に登場したからソロとは言えないのか。デュオ・カーテンコール?

August 6, 2021

「クラシック・キャラバン2021 クラシック音楽が世界をつなぐ~輝く未来に向けて~」コンサート全国ツアー 記者会見

クラシック・キャラバン2021 記者発表 仲道郁代
●5日は「クラシック・キャラバン2021 クラシック音楽が世界をつなぐ~輝く未来に向けて」コンサート全国ツアーの記者発表。会場は東京オペラシティリサイタルホールだが、リモートで参加。YouTube配信。一般社団法人日本クラシック音楽事業協会が「文化庁 大規模かつ質の高い文化芸術活動を核としたアートキャラバン事業」の一環として開催する全国ツアーで、組織の垣根を越えて総勢約250名以上の演奏家たちが参加する。会見には日本クラシック音楽事業協会入山功一会長、出演者を代表してピアニスト仲道郁代、アンバサダーの檀ふみ(俳優)、ロバートキャンベル(早稲田大学特命教授)、メディカル・アンバサダーの亀田総合病院集中治療科部長の林淑朗の各氏が登壇。
●プログラムは3種類で、札幌から沖縄まで全国13か所で19公演が開かれる。大ホールでのオーケストラ公演である「華麗なるガラ・コンサート」(11公演)、小ホールでのストラヴィンスキー「兵士の物語」(4公演)、サン=サーンスの「動物の謝肉祭」(4公演)。いずれも司会入り。オーケストラは「スーパー・クラシック・オーケストラ」として今回の公演のために組まれ、ソリストやフリーランスの奏者が中心となるそう。出演者が膨大なので紹介しきれないが、「華麗なるガラ・コンサート」での指揮は広上淳一、沼尻竜典、高関 健、曽我大介、円光寺雅彦、田中祐子と公演ごとに異なり、それぞれの公演で仲道郁代をはじめ複数のソリストが登場する。有名曲が並んで最後にベートーヴェン「第九」終楽章が演奏されるというのが基本形。幅広い層の聴衆が対象となっている模様。「兵士の物語」と「動物の謝肉祭」も出演者が多岐に渡り、それぞれ日本のトップレベルの奏者たちが出演する。
●入山会長「ソロやフリーランスの演奏会に演奏機会を創出し、事業者への仕事を作り出すと同時に、これまであまりクラシック音楽になじみのなかった方にも足を運んでもらいたい。クラシック音楽業界が結束してコロナ禍を乗り越えたいと思っている。文化庁の補助金を得て協会がこういった企画を主催するのは初めてのこと。文化庁に感謝したい」。
●仲道郁代「コロナ禍で演奏会がなくなった時期、大きな不全感を感じた。音楽は聴く人がいて初めて成立するものと改めて感じた。音楽が人の心と心をつなぐ、そんな祝祭的な空間がコンサート。今回、多くの会場で祝祭的な空間をみなさんと共有したいと願っている」
●最初の公演は9月3日と4日、沖縄・シュガーホールでの「動物の謝肉祭」「兵士の物語」。「華麗なるガラ・コンサート」は9月14日の愛知県芸術劇場コンサートホールがスタート。12月まで続くツアーなので、その間、感染状況もどんどん変化していくと思うが、無事の開催と公演の成功を願う。

August 5, 2021

フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 広上淳一指揮京都市交響楽団

フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2021
●4日はミューザ川崎へ。フェスタサマーミューザKAWASAKIに広上淳一指揮京都市交響楽団が初登場。前半はブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲(ヴァイオリンに黒川侑、チェロに佐藤晴真)、後半はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。2022年3月での退任が発表されているマエストロと京響コンビの成果を披露するにふさわしい本格派プロ。京響のサウンドは豊麗で、成熟しており、まさしくトップレベル。かつての20世紀の巨匠たちが築いた伝統の延長上にある堂々たるブラームスとベートーヴェンを堪能。ブラームスでの黒川侑と佐藤晴真は室内楽での共演も多いのだとか。地味に思われがちな二重協奏曲に鮮やかさと鋭さ、生命力をもたらしてくれた。「英雄」は悠然としたテンポによるスケールの大きな演奏。開演前のトークで(司会は奥田佳道さん)、マエストロは「温故知新」のベートーヴェン像を語ってくれたが、納得。盛大な喝采の後、恒例の分散退場になったが、拍手は鳴りやまず、だいぶ待った後でマエストロのソロカーテンコールに。すでに着替えに入っていたようで上着なしの姿で登場。
●日々目が離せない「都内の最新感染動向」、新規陽性者数が過去最高を更新している。東京文化会館で予定されていたオペラ夏の祭典2019-20 Japan⇔Tokyo⇔World「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は、公演関係者の感染により準備が整わないことから2公演とも中止になってしまった。無念というほかない。先日、札幌のPMFがやはり途中で中止となってしまった。従来とは異なるフェーズに入っているのを感じる。その一方で、ワクチン接種は案外とハイペースで進んでいて、周囲では現役世代でもすでに2回接種を終えた人が増えてきた。まだら模様の夏が進む。

August 4, 2021

東京オリンピック2020、U-24ニッポンvsU-24スペイン

スペイン●東京オリンピック2020、U-24ニッポンは準決勝でU-24スペインと対戦。シーズンオフに開かれるオリンピックに対して、欧州の強豪国がベストメンバーを送り込むことはほとんどないが(特に今年はEURO2020があったので)、例外はスペイン。なんと、スペインの各クラブは選手の招集に応える義務があるのだとか。そんなわけで真に世界のトップ選手たちが顔をそろえているのだが、かなりのメンバーはしばらく前までEURO2020でもプレイしていた選手たち。彼らは夏にふたつも国際大会に出場することになる。いくら代表選手だからといって、こんなに休みなく肉体を酷使していいのだろうか。本当にサッカー界はオリンピックをどうにかしたほうがいい。U-20の大会にする(オーバーエイジなし)とか、O-35マスターズにするとか。いや、参加しないのがベストかもしれない。脱退したい。
●はっ。これが負け惜しみというヤツなのか。そう……もしかしたらという期待を持ってしまっただけに、延長後半のマルコ・アセンシオのゴールが恨めしい。ニッポンとスペイン、大きく括ればサッカーのスタイルは似ている分、レベルの差を痛感した試合でもあった。序盤からほとんどスペインにボールを持たれてしまい、ニッポンは守備ブロックを敷いてカウンターを狙うしかない耐える展開。吉田がPKを取られた瞬間には失点を覚悟したが、VARに救われた。VARに感謝するしか。おそらく監督のプラン通りに進んだゲームでもあって、守備に奔走しながらも後半途中まで0対0で乗り切ったのは森保監督の「成功」といってもいい。お互いにフレッシュな選手を投入したが、終盤はスペインの足が先に止まり、ニッポンが初めて優位に立ったように感じた。ここで決める展開もあったとは思う。延長戦に入ってからは消耗戦で、互いにチャンスはいくつかあったが、わずかな差でスペインがゴールを決めた。ある意味、ニッポンの成長をしみじみと感じた試合でもあって、こういった戦い方が成立するところまで個の力が上がったのであり、選手層が厚くなったということでもある。U-24ニッポン 0対1 U-24スペイン
●それにしても奇妙なのは、ニッポンは敗退したのにもう一試合を戦わなければならないということ。毎回思うのだが、4位のチームは必ず連敗で大会を終えることになる。サッカーだけに限った話ではないが、本来、世界のトップ4は讃えられるべき結果なのに、最後に屈辱を味わう。EUROのいいところは3位決定戦というナンセンスな試合がないところだということを思い出す。オリンピックも見習うべき。3位が2チームあってもなにも困らないだろう。3位決定戦など、いったいだれが見るというのか……。あ、最後のは少しウソ。というか、しつこく負け惜しみ。
●ニッポンのメンバーだけ。GK:谷晃生-DF:酒井宏樹、吉田麻也、板倉滉、中山雄太-MF:遠藤航、田中碧(→橋岡大樹)-堂安律(→前田大然)、久保建英(→三好康児)、旗手怜央(→相馬勇紀)-FW:林大地(→上田綺世)。ワントップのポジションを上田ではなく林が獲ったのは意外に思ったが、あの泥臭いプレイスタイルは魅力。前線で体を張ってボールを保持できる。

August 3, 2021

ドキュメンタリー映画「ボクシング・ジム」(フレデリック・ワイズマン監督)

●フレデリック・ワイズマンといえば、当欄ではドキュメンタリー映画「パリ・オペラ座のすべて」を紹介したことがある(傑作)。その「パリ・オペラ座のすべて」に続いて2010年に製作されたのが「ボクシング・ジム」。EURO2020目当てで入会したWOWOWで、たまたま配信されていたので見た。これもまた心に刺さるドキュメンタリー。
●「パリ・オペラ座のすべて」でもそうだったが、ワイズマンは画面に映っているものに対して一切説明を加えない。ナレーションもキャプションもない。それどころか取材対象へのインタビューすらない。ただありのままを映し、それを編集する。今回の「ボクシング・ジム」で映し出されているのは、テキサス州オースティンのボクシング・ジム。古くて雑然としたジムだが繁盛している(地元では名の知れたジムらしい)。通っている多くの人は普通の人々で、年齢も性別も人種も職業もまちまち。本格派の人もいれば、軽いフィットネス目的の人もいる。ボクサーらしい引きしまった人もいれば、ぽっちゃりした人も多い。映像はトレーニングのシーンと何気ない会話で組み立てられている。
●なにせ題材がボクシングなので、みんな殴り合いの練習をしているわけで、最初は不穏な空気を感じた。サンドバッグやスパーリング、シャドウボクシング、ステップワーク、筋トレなど、秩序だったトレーニングが映されているが、どこかでマッチョな荒くれ者が規律を乱すのではないか、と。ところがこのジムに通う人たちはみなストイックで、いい人たちばかりなのだ。生活に苦労している人もいるようだが、月50ドル払っていつでも通えるこのジムを気に入っている様子。ジムのオーナーらしきオヤジがいい味を出している。新規入会希望でやったきた学生が、目の周りに痣を作っているのを見逃さない。聞けば喧嘩だという。ジムのオヤジは「ボクシングは人を殴るためにやるんじゃねえぞ。殴ると拳をケガするから、トレーニングができなくなるぜ」みたいなことを諭しつつ、エールを送る。そのうち、ジムに通う人同士の会話で、銃の乱射事件の話題が出る。悲しんでいる人も怒っている人もいる。そこで気づく。最初に感じた暴力の気配は、ジムのなかにはまったく見当たらないが、外の世界の日常に充満しているのだと。ワイズマンはボクシング・ジムを求道者たちのサンクチュアリとして描いているのだ。

August 2, 2021

東京オリンピック2020、U-24ニッポンvsU-24ニュージーランド

ニッポン!●オリンピックは決勝トーナメントに入るといきなり準々決勝なのだった。U-24ニッポンvsU-24ニュージーランド、まず相手がニュージーランドだというのが驚き。グループリーグで南ア、メキシコ、フランスと対戦してきて、まさかのニュージーランド。フル代表のランクでいえば、これまでの3戦のほうがよほど強い相手。実際、ニュージーランドは韓国相手に1勝したおかげで決勝トーナメントに滑り込めたようなもの。ニッポンはフランス相手に4対0で勝ったのだから、もうこれは結果が見えている……。
●と思いきや、ぜんぜんそうはならないのがサッカー。ニュージーランドは鍛えられた好チーム。ニッポン相手に守備ブロックを敷いて守ってくるだけではなく、前線から精力的にプレスをかけてくる。選手の連動性が高く、システマティックな印象。しかもフィジカルの強さがあり、ニッポンは中盤でなかなか余裕を持ってボールを持てない。特に後半はニュージーランドが押す時間帯もあって、どちらにゴールが入ってもおかしくない展開に。久保、堂安を中心にニッポンの攻撃陣も決して悪くはなかったのだが、蒸し暑さもあってか時間が進むにつれてアイディアが出なくなった感。延長戦は消耗戦。交代枠が6人あっても、やはり両チームとも動きは如実に落ちるものだというのが発見。0対0。
●PK戦は不利な後攻だったが、キーパー谷晃生のスーパーセーブが飛び出して勝利。ニッポンは攻撃の選手がずいぶん交代してしまっていたのでだれが蹴るのかと思ったら、上田綺世(途中出場)、板倉滉、中山雄太、吉田麻也の順。上田以外はディフェンスの選手だらけ。これは監督が決めた順番ではなく、その場でキッカーを募って決めたそう。こういうところでさっと手を挙げる上田綺世は大したもの。5人目はだれが蹴る予定だったんだろう。そして、この日の吉田麻也はらしからぬミスも多く、どこか不安定に見えたのだが、PKは度胸で決めてくれた。最後は技術よりもメンタルなのか。

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