2018年6月アーカイブ

June 23, 2018

読響メンバーによるシュポーアの九重奏

●ワールドカップ期間中でも演奏会はある(そりゃそうだ)。20日はトッパンホールで「読響メンバーによるシュポーアの九重奏」。普段はなかなか聴けない室内楽曲をたくさん聴けるありがたいプログラム。メンバーは長原幸太(ヴァイオリン)、鈴木康浩(ヴィオラ)、富岡廉太郎(チェロ)、瀬泰幸(コントラバス)、片爪大輔(フルート)、北村貴子(オーボエ)、金子平(クラリネット)、岩佐雅美(ファゴット)、日橋辰朗(ホルン)という読響の名手たち。曲は一曲目にストラヴィンスキーの「プルチネッラ」編曲版が予定されていたのだが、権利上の都合によりプーランク(エマーソン編)の木管五重奏のためのノヴェレッテ ハ長調とエネスコの弦楽三重奏のためのオーバード(朝の歌)に変更。続いて、プロコフィエフの五重奏曲ト短調、R.シュトラウス(ハーゼンエール編)の「もうひとりのティル・オイレンシュピーゲル」、ヴィラ=ロボスの「ジェット・ホイッスル」、シュポーア(シュポア)の九重奏曲ヘ長調。
●「もうひとりのティル」、存在は前々から知ってはいても実際に生で聴いたのは初めて。この曲に欠かせないホルンを含めて、5人だけのミニミニ交響詩。相当な力技ではあるけど、ここまで小さくしても原曲のエッセンスが保たれていることに驚く。ヴィラ=ロボス「ジェット・ホイッスル」はラテン的カッコよさで満たされた佳品。メインのシュポーアの九重奏は4楽章構成で、室内楽編成によるロマン派交響曲のような趣。曲自体はメンデルスゾーンをいっそう穏健にしたような作風で、録音で聴くと少し微温的かなと感じていたのだが、実際に聴いてみると思った以上にソロイスティックで、精彩に富んだ演奏のおかげもあって聴き映えがする。あとは人の好さそうなユーモアが吉。楽しい。存命中にシュポーアが手にした名声の大きさに合点がいく。

June 23, 2018

グループE ブラジル対コスタリカ ネイマール対主審対ビデオ ワールドカップ2018

ブラジル●前回大会でもそうだけど、国歌の「持ち時間」が少なくなって、ブラジルとかアルゼンチンとかラテン諸国の長い国歌がばっさりカットされてしまっている。だれなんすか、こんな乱暴なことをするのは。前回大会はブラジルが開催国だったので、ブラジル代表の選手たちも観客たちもFIFAに抗議するかのように、曲が短縮バージョンで終わっても、録音を無視して勝手にみんなでフルバージョンを歌い続けた。正しい。が、ここはロシア。第1戦のスイス戦ではわずかに抵抗の意思が見られたものの、第2戦、ブラジル対コスタリカではさっさと短縮版で切り上げられて、すぐにコスタリカの国歌が始まってしまった。あー、盛り上がらない。全宇宙の大半のサッカーファンにとって、ブラジルとは自国が敗退したり不参加だったりした場合に応援する憧れの「王国」であり、ブラジル国歌は第2の国歌みたいなものではないの。
●で、試合だ。ブラジルは青のセカンド・ジャージで登場。明るく鮮やかな青でなんだかブラジルっぽくない。コスタリカの選手たちはブラジル代表ブランドをまったく恐れていない。前半13分、右サイドでガンボアが爆発的なスピードでブラジルのディフェンスを置き去りにして駆けあがる。マイナスの折り返しに中でボルヘスが合わせるも惜しくも外れる。前半はスコアレス。堅守のコスタリカに対して、攻めるブラジル。コスタリカは最後の砦、キーパーのナバスが好セーブを連発。なんといってもこの人はレアル・マドリッドの正ゴールキーパー。最高水準のキーパーがいると、こんなにも頼もしいものなのかと感心。時間とともにブラジルに焦りが見えてくる。特にネイマールは相手のファウルをなんども主審にアピール。たしかにスイス戦ではずいぶん削られて気の毒だったが、これではコスタリカと戦ってるのか審判と戦ってるのかわからなくなってくる。
●そしてついてに後半33分、ペナルティエリア内でネイマールは倒れてPKを獲得! ウオッッシャー! そんな雄叫びが聞こえてくるかのようなネイマールの顔。だが、ここで登場するのがVAR、ビデオ判定だ。テレビでスローで見ても、ネイマールは触れたか触れていないかくらいの相手の寄せに大げさに倒れ込んでいるのがわかる。主審だって同じ映像を見るわけだ。PKは取り消された。ネイマールは主審に勝つだけではだめで、ビデオにも勝たなければいけない。もっと倒れ方を工夫するべきだろうか。それとも、倒れるのではなく、プレイしてみてはどうだろうか。ネイマールからスーパースターのオーラが消えるのはこういう瞬間だ。
●スコアレスのままアディショナルタイムに入り、もうこれでブラジルの2試合連続引分けは確定したかに思われた。だが後半46分、クロスボールの折り返しをジェズスが落として、コウチーニョが豪快に蹴り込んだ。ナバスの股を抜いてゴール。ついに1点リード。ブラジルは喜びを爆発させる。そして、こうなるとそれまでの試合展開がウソのようにブラジルはリラックスした美しいボール回しを披露して、相手にボールを触らせない。ネイマールのヒールリフトも飛び出す始末(これがまたスーパースターらしくない余計なプレイだと思う)。後半52分、華麗なパスワークからついにネイマールもゴールを決めて2点目。ブラジルはプレッシャーから解放されてのびのびとプレイ。ブラジルには勝ち進んでほしいので、まあ、よい結果に終わったんだけど、このチームへの共感度はもうひとつ高まらない。

ブラジル 2-0 コスタリカ
娯楽度 ★★
伝説度 ★★

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●ところで、当サイトは1995年から続いているのだが、4年に1度ワールドカップがやってくるたびに、延々と観戦記を書くことになっている。過去の大会の観戦記へのリンクを以下に置いておこう。

ワールドカップ2014ブラジル大会
http://www.classicajapan.com/wn/worldcup2014.html
ワールドカップ2010南アフリカ大会
http://www.classicajapan.com/wn/worldcup2010.html
ワールドカップ2006ドイツ大会
http://www.classicajapan.com/wn/worldcup2006.html
ワールドカップ2002日韓大会
http://www.classicajapan.com/wc2002/index.html
ワールドカップ1998フランス大会
http://www.classicajapan.com/france98.html

June 22, 2018

グループC フランス対ペルー、グループD アルゼンチン対クロアチア スーパースターの使い方 ワールドカップ2018

●前夜のデンマーク対オーストラリアは1対1で引分け。アジアが勝点1をゲット。後半途中から見た限りでは、オーストラリアが勝つべきゲームだったと思う。オーストラリアはフランス相手でもそうだったが、内容に結果が追い付いていない感じ。ここまではアジアがまずまず健闘している。
フランス●で、フランス対ペルー。フランスは若い選手が大勢いて、しかもビッグクラブ所属の選手だらけのタレント軍団。ただ前のオーストラリア戦にしても、このペルー戦にしてもそこまでの強さは感じない。優勝候補の一角だからこそ、大会後半にコンディションのピークを持っていくということなのか。一方のペルーは欧州組もいるが、北中南米組が主体というアメリカ(大陸)色の強いチーム。個の能力はかなり高くて、フランス相手でも五分で戦う。特に右サイドが強烈で、スピードのあるカリージョとアドビンクラのコンビでなんどもフランスの守備を崩していた。
●試合は前半34分、ショートカウンターからエムバペのゴールでフランスが先制。ペルーは後半から選手をふたり替えたが、かえってボールを持てなくなってしまった。質の高いチャンスは作れるものの、最後の決定力を欠いてゴールならず。フランスがうまくゲームをコントロールして逃げ切った。格段によい内容ではないのに2連勝できたのは大きい。3戦目は控え選手を起用してモチベーションを高めながら、主力を休ませることができる。決勝まで進むためには理想的な展開では。
アルゼンチン●一方、アルゼンチン対クロアチア。アルゼンチンはタレントの宝庫にもかかわらず、極端にメッシ頼みのチームになっていて、前の試合でアイスランド相手に引分け。スター選手たちが難しい局面になるとメッシにお任せするという、やや珍妙なサッカーになっている。草サッカーの素人集団に経験者がひとり入ったチームに似てる。普通のチームならエースになる選手たちが、メッシのために滅私奉公するという使い古されたダジャレを言いたくなる極寒のフットボール。クロアチアはナイジェリアに勝ってモチベーションは上がっている。もともとこちらもラキティッチやモドリッチらが顔をそろえる実力者集団。前半はクロアチアが押す展開ながら拮抗した戦いに。
●事件が起きたのは後半8分。アルゼンチンのキーパー、カバジェロがバックパスを蹴り返そうとして痛恨のキックミス、ボールはふわりと不思議な軌道を描いてレビッチの目の前に。レビッチはこれを華麗なボレーでゴールに蹴り込んで先制ゴール。嘆きながら崩れ落ちるカバジェロ。これは事故といえば事故。ただし、クロアチアはカバジェロの足元が弱いと見ていたのか、再三にわたってカバジェロに蹴らせるように前線からプレッシャーをかけ続けていたフシがある。ここからアルゼンチンの怒涛の反撃が始まるべきだったのだが、逆境でまとまれないのがこのチーム。後半35分、ペナルティエリアより手前の中央でモドリッチが、対面するオタメンディを交わして豪快なミドルシュート。これがゴール右側から巻いて突き刺さるスーパーゴール。伝説級のシュートだが、しかしオタメンディの守備が緩慢すぎでは。クロアチアが懸命にプレスをかけ続けるのとは対照的に、アルゼンチンには献身性が足りない。後半46分、カウンターからラキティッチが持ち上がってシュート、弾いたボールをコバチッチが拾い、冷静にフリーのラキティッチにボールを渡してゴール。アルゼンチンの守備陣は帰ってこない。これで3点目。0対3。1分1敗。不必要な失点を重ねて、得失点差でも苦しくなってしまった。
●サンパオリ監督という戦術家を招いておきながら、結局は「戦術はメッシ」になってしまうというアルゼンチン。メッシもしきりにセンターライン付近まで戻ってディフェンスからボールを受けて、自分で組み立てようとする。チームはバラバラ。メッシがいないほうが勝てるんじゃないかと思ってしまうほど。前回ブラジル大会でそろって健闘していた南米勢が、今大会はひとつ残らず不調。ブラジルはスイスに引き分けるし、コロンビアは日本に負けるし、ペルーは連敗。どこもサポーターは驚くほど大勢来ているのだが。

フランス 1-0 ペルー
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

アルゼンチン 0-3 クロアチア
娯楽度 ★★
伝説度 ★★★★

June 21, 2018

グループB イランvsスペイン 幸運の女神 ワールドカップ2018

イラン●各グループ2試合目に入る。イラン対スペイン、力の差は明らかかもしれないが、この時点ではイランが勝点3、スペインが勝点1。イランは引分けでも悪くはないのに対し、スペインは引分けると一気に苦しくなる状況。イランのケイロス監督は当然のごとく、堅固な守備ブロックを敷いて全員で守るという戦い方を選択。これは正しい選択だったと思う。アジアでは驚異的なディフェンス力を誇ったイランの鉄壁の守備は、スペイン相手にも十分に通用した。膠着状態が続き、前半はスコアレス。注目すべきはイランはただサンドバッグになって耐えたわけではなく、スペインにボールを持たせても決定機は作らせない守備に成功していたということ。前半にスペインの枠内シュートは1本しかなかったと思う。イラン、狙い通りの展開。
●後半8分、イランはロングスローからのこぼれ球にアンサリファルドがシュート。一瞬、入ったかと思ったのだが、サイドネットだった。惜しい。これはもしや……と思った、その直後、後半9分のスペイン、前線のジエゴ・コスタが縦パスを巧みにトラップして前を向いたところで、イランのレザイーアンがタックル、蹴ったボールがジエゴ・コスタに跳ね返ってこれがきれいなゴールになってしまう。不運としかいいようがない。ほとんどオウンゴールだが最後にジエゴ・コスタに当たっているのでジエゴ・コスタのゴール。ずっとボールを回して意図をもった攻撃でチャンスを作れなかったスペインが、こんな形でゴールをプレゼントしてもらえるとは。トホホ。
●先制された後のイランは前に出る。ここからはお互いに攻め合うスリリングな展開に。後半17分、イランはフリーキックからエザトラヒが豪快なゴール。これで同点と思われたが、主審はビデオ判定(VAR)を待つ。そしてオフサイドでゴールは取り消されてしまった。スローで見るとなるほどわずかにオフサイドかもしれないのだが……。このビデオ判定、これ自体を適用するかどうかで恣意的な判断が紛れ込む余地はないのだろうか。その後、後半37分、イランのアミリが相手陣内深くでピケの股抜きに成功してクロス、中で合わせるも惜しくもゴールならず。決まっていれば伝説のプレイになりえたが。
●終盤、スペインは巧みにボールを回して、1点を守り切って勝利。しかしこれは薄氷の勝利というべきだろう。1試合中、枠内シュートは3本のみで、しかもゴールに入った1本は偶発的なものだった。あと、前半にあった場面なんだけど、イランのゴールキーパー、ベイランバンドがボールを持っているときに、そばを通ったジエゴ・コスタの足が一瞬つま先をかすっただけで、ボールを外に投げ出しながら、顔をしかめて倒れ込んだ。はいはい、それね、ワタシらはよく知ってる。主審はそんな三文芝居をまるっきり相手にしない。ジエゴ・コスタは苛ついた表情を見せていたので、なんらかの効果はあったかもしれないが、もう中東勢はこんな戦い方を止めるべき。普通に戦って、スペインと五分で渡りあえていたじゃないの。

イラン 0-1 スペイン
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★

June 20, 2018

グループH コロンビアvsニッポン 大迫半端ない ワールドカップ2018

コロンビア●ようやくグループHまで来た。ニッポン代表が登場。初戦の相手はコロンビア。4年前の大会では3試合目でコロンビアと対戦し完敗したのだが、まるでその続きをするかのよう。会場はロシアのサランスクというところにあるモルドヴィアアリーナ。圧倒的にコロンビア・サポーターが多い。ニッポンからもコロンビアからもサランスクはものすごく遠いと思うけど、どうしてこんなに差が付くんすかね。
●で、西野監督率いるニッポン代表の先発だが、トップ下に香川を起用し、本田をベンチに置いた。あとは山口ではなく柴崎をセントラルミッドフィルダーに置いたのが予想外。両サイドは乾と原口で、ずいぶんと攻撃的な布陣を敷いたなというのが第一印象。GK:川島-DF:酒井宏樹、吉田、昌子、長友-MF:長谷部、柴崎(→山口)、原口、乾、香川(→本田)-FW:大迫(→岡崎)。コロンビアは前回大会と同じくペケルマン監督。もっとも怖いハメス・ロドリゲスはベンチ、しかしトップにはファルカオがいる。
●開始早々の前半3分、まさかの事件が起きる。後方からのボールに抜け出した大迫が相手ディフェンダーと入れかわりキーパーの一対一でシュート、これをキーパーのオスピナがはじくが、こぼれたボールを香川がシュート。すると、カルロス・サンチェスが手で阻止してPK。しかもカルロス・サンチェスにレッドカードが出てしまった。これを香川が決めて先制ゴール。コースは甘かったが、キーパーが重心を動かす方向を見定めてから逆に蹴ったのだと信じたい。そんなわけで、ほとんど最初から11人対10人で1点リードした状態で始まるハンディマッチのような試合になってしまった。まるで福引で大当たりをひいてしまったようなもの。こういうこともあるからこそ、「ランクで決まるなら試合はいらない」。
●当初、個の能力で勝るコロンビアはひとり少ないながらも果敢に立ち向かってきた。なんだかこちらがひとり多いとは思えないくらいに、ボールが落ち着かない。人数が多いのにボールを持てないというのはなかなか屈辱的なのだが、しかしベテランぞろいのニッポン代表がさすがと思うのは、むしろ相手が前に出たところをカウンターで仕留めようという狙いが見えたところ。一方、コロンビアもしばらくすると失点リスクを恐れて攻勢を弱め、攻撃的なクアドラードを下げてバリオスを投入して試合を落ち着かせる。前半37分、ファルカオが長谷部ともつれて倒れるとファウルに。長谷部はなにもしていないと思うのだが、好位置からコロンビアのフリーキック。ここでキンテーロが、なんと、ジャンプしたニッポンの壁の下を通すグラウンダーのキック。これがゴール隅に決まってしまう。ボールをかきだした川島は抗議するが、ゴールライン・テクノロジーに教えてもらうまでもなく完全に入っていた。これで1対1。
●後半、展開次第でどんな状況もありえたと思うが、後半14分にキンテーロを下げてエース、ハメス・ロドリゲスを投入したところで潮目が変わった。4年前は同じ選手の途中出場でニッポン代表は大混乱に陥ったが、今回はまったく逆。ただでさえ人数が少ないのに、運動量の少ない選手が入ってしまい、以後ほとんどの時間帯でニッポンがボールを持つことになってしまった。ハメス・ロドリゲスは体にキレが感じられない。常に中盤の長谷部か柴崎のどちらかがフリーになるという楽な状況になったので、ミスさえしなければ容易にボールを回せる。後半28分、本田のコーナーキックに大迫が頭で合わせてゴール。ふたたび勝ち越す。大迫は再三にわたって足元にボールが吸い付くようなポストプレイを披露、運動量もすさまじかった。リードしてからも、ニッポンは落ち着いたボール回しで、ゲームを支配。コロンビアはなんどかカウンターでチャンスを迎えたが、決めきれない。終盤はファウル覚悟のタックルを連発してきて難儀するも、5分のアディショナルタイムを乗り切ってニッポンが前評判を覆す勝利。ワールドカップでニッポンが南米のチームに勝ったのは初めて。というかアジア全体でも初めて。大金星といってもいいだろう。大迫以外では乾の好調ぶりも印象的だった。
●もちろん、これは最初に福引で大当たりを引いたおかげなのだが、勝つこと自体がチームに自信を与えて、調子を上げるというのはままあること。ワールドカップはなにが起きるかわからない。

コロンビア 1-2 ニッポン
娯楽度 ★★★★★
伝説度 ★★★

June 19, 2018

グループG チュニジアvsイングランド 若返った「母国」 ワールドカップ2018

チュニジア●いま各国のリーグ戦でもっともレベルの高いのはおそらくイングランドのプレミアリーグ。スペインやドイツも最上位は強いんだけど、プレミアリーグは1部リーグ中位から下位でも資金力豊富なところが強み。なのに、ワールドカップとなるとイングランド代表を優勝候補に挙げる人はまずいない。プレミアのスターは外国人ばかりということだろうか。でも、今大会の「サッカーの母国」は期待できるかもしれない。サウスゲイト監督のもと、すっかり世代交代を進めて、前回から残っているのは5人のみ。選手の所属クラブはそうそうたるもの。ハリー・ケインやスターリングなど前線にスターもいるが、むしろチーム全体としてはタフな選手が多い印象。今大会では珍しい3バックのチーム。シンプルで力強い攻撃が信条か。一方、チュニジアはアフリカ勢としては国内組が多い。次いでフランス組。プレイスタイルはかなりヨーロッパ的。というか、近年、アフリカのなかでも北アフリカ勢が優勢で、その多くはプレイスタイル的にも選手の出自や所属クラブ的な意味でも、かなり「ヨーロッパB」化している感。ヨーロッパの代表チームもどんどん才能豊かなアフリカ系の選手を取り入れている以上、アフリカ勢ならではの「驚異の身体能力」なんていうのは昔話で、チュニジアのように組織的な守備を鍛えないと大陸予選を勝ち抜くのは難しい時代なのかも。
●で、チュニジアvsイングランド。前半11分にコーナーキックからキーパーが弾いたボールをハリー・ケインが決めてあっさりと先制。ワンサイドゲームの予感もあったが、35分にやや幸運なPKをもらって(ビデオ判定はなし)、サシが決めて同点。イングランドはなんどか決定機が作り出したが決めきれず。次第にチュニジアが自信を回復したかのように、ボールをつなぎ出す。特に後半は後ろからでも恐れることなくボールをつなぎ、なおかつ前から相手にプレッシャーをかけて、試合の主導権を握ろうとしていた。フォーメーションも相手に応じて柔軟に変化させ、つぶし合いの多い膠着状態に。こうなるとイングランドの攻撃はクリエイティビティに乏しい。引分けがふさわしい試合だろうと思ったが、後半46分、またしてもコーナーキックから中でマグワイアがボールをすらして、ファーサイドでフリーのケインが頭で2点目。イングランドが辛勝。結局どちらもコーナーキックからのケインのゴールだった。
●このグループ、もう一方のベルギー対パナマは順当にベルギーが勝利。チュニジアは志の高いチームだったが、前評判通りにイングランドとベルギーが勝ち抜く無風区となってしまうのだろうか。

チュニジア 1-2 イングランド
娯楽度 ★★
伝説度 ★

June 18, 2018

グループF ドイツvsメキシコ、グループE ブラジルvsスイス 反予定調和 ワールドカップ2018

ドイツ●いったいロシアまでどれだけのメキシコ人が来ているのか。ドイツ対メキシコ。どう考えてもドイツ人のほうが多そうなものだが、スタジアムの雰囲気はまるでメキシコのホームゲーム。自然発生的に歌声が広がって最高のムード。ドイツの選手たちが後ろでボールを回すとブーイングが起き、メキシコのパスに「オーレ」の声がかかる。そんなムードを反映して、立ち上がりから超ハイテンションの試合に。
●中盤構成力の高いドイツだが、メキシコは細かいパス回しで対抗。激しい当たりにも負けない。お互いにオープンに攻め合って、枠内シュートが異様に多い展開に。ミスが少ない。メキシコのキーパーはオチョア、ドイツのキーパーはノイアー。ともにセービング技術が高く、引きしまった好ゲームになった。ドイツのキーパーにはバルセロナのテアシュテーゲンもいるが、レーブ監督はバイエルンで出場機会を失っているノイアーを正キーパーに据え置き、チームの継続性を重視。メキシコは前線のエルナンデスがビッグスターだが、オランダPSVで売り出し中の若手ロサーノが希望の星。
●メキシコの監督はコロンビア出身のオソーリオ。かなりの策士のようで、ドイツのフリーキックのチャンスにも前に3人残してカウンターを狙うというリスキーな戦い方。左サイドをワイドに開いてカウンターの起点にするのも、ドイツの右サイドのキミッヒに攻めさせないという戦略か。意外と細かい約束事の多いチームなのかもしれない。
●メキシコは長い距離のカウンターに迫力がある。カウンターでボールを持って上がる選手が簡単にサイドのフリーの選手に出さず、ギリギリまで自ら突進する。前半35分、ついにカウンターが実を結んで、ロサーノが鮮やかな先制ゴール。なんという切れ味の鋭さ。前半は内容的にもメキシコが勝っていた。
●後半途中からドイツはケディラをロイスに代えて攻撃の枚数を増やす。エジルを少し下げて中盤の展開力を上げようという構え。前へ前へと怒涛の攻めが始まる。一方、メキシコは思い切りよく早めに選手を交代して、守備的な布陣へ。ついには39歳のレジェンド、マルケス(まだいたの!!)まで投入して、5バックで鉄壁の守りを敷く。ドイツはマリオ・ゴメスを投入して高さの勝負を仕掛ける。前半とは打って変わって、一方的にドイツが攻める展開へ。だが、メキシコもエネルギーは残っていて、ときどきカウンターが発動して、ラジョンが惜しい決定機を迎える。メキシコは足が止まらず、終盤になっても組織的な守備を忠実に実行する。後半43分、途中出場のドイツの若手ブラントが強烈なボレーシュートを放つがポストに弾かれる。47分、ドイツはコーナーキックでキーパーのノイアーが前線に上がり、グループリーグとは思えない捨て身の攻撃を仕掛けるが、それでもメキシコは耐えきった。爆発的に喜ぶメキシコの選手たちとサポーター。あの、憎たらしいほど用意周到なドイツが、まさか初戦で負けるとは。メキシコは最後は守りに賭けたわけだが、あくまで自分たちで主導権を握って選んだ展開であって、「守らされた」感がまったくない。オソーリオ監督のプラン通りの完璧な試合で、ドイツを強引にねじ伏せたといってもいい。選手たちのマッチョ性に知将の戦略が融合した恐るべきチーム。
ブラジル●さて、ドイツと並ぶ優勝候補がブラジル。前回は地元開催でドイツに屈辱的大敗を喫したわけだが、予選途中でチッチ監督を迎えてからは好調が続く。攻守ともに前回より選手層も厚くなっていると思う。ブラジル対スイス。スイスは大会前にニッポン代表相手にレッスンをしてくれたわけだが、ブラジルが相手となると余裕はない。ネイマールに対してはガツガツとファウルで止めにゆく。前半20分、ブラジルはコウチーニョがこぼれ球を拾って強烈なミドルを叩き込んで先制。ここまではよかった。しかしリードをすると、淡白な攻撃が続き、どこか気の抜けたムードに。後半5分、スイスのコーナーキックで、フリーになったツバーがヘディングシュートを決めて同点。これでブラジルの目が覚めるかと思いきや、ボールはつながるもアイディア不足の攻撃が続いて、スイスを崩しきれない。一方のスイスも主導権を握れないまま、守りに追われる。ブラジルのシュート20本のうち、枠内はわずか4本。その前のドイツvsメキシコがやたらと枠内シュートの多い試合だったこともあるが、どうにも締まりがない展開が続いて、そのままドロー。ブラジルは常に決勝までの一か月の長丁場を前提に調整しているのだ、と考えれば初戦はこれくらいでいいのか。しかしこのグループ、他がセルビア、コスタリカ(前回8強)で、まったく気を抜けない。
●今大会、ここまでを見たところ、消極的な試合がほとんどなく、攻め合いの多いエキサイティングな試合が目立つ。どうしてなんでしょ。

ドイツ 0-1 メキシコ
娯楽度 ★★★★★
伝説度 ★★★★

ブラジル 1-1 スイス
娯楽度 ★★
伝説度 ★

June 18, 2018

ピエタリ・インキネン、日本フィル首席指揮者の契約を延長

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●15日、アークヒルズクラブで日本フィルのピエタリ・インキネン記者会見へ。インキネンは現在の首席指揮者の契約を2020/21シーズンまで2年間延長する。今後の大きな話題としては、2019年4月にこのコンビでヨーロッパ公演を行なう。日本フィルにとっては13年ぶりのヨーロッパ公演で、日本・フィンランド外交関係樹立100周年ということもありマエストロの母国フィンランドをはじめ、ドイツ、オーストリア、イギリスの諸都市を巡る。フィンランドではヘルシンキのほか、インキネンの故郷であるコウヴォラという小さな都市も訪れるのだとか。インキネン「ツアーはどんなオーケストラにとっても大きなチャンス。楽団と私の絆を深めるという点でも大きな意味がある。指揮者にはこういう考え方をしない人もいるが、私は個々の楽員と結びつきを強めることはとても大切なことだと思っている」
●ツアーのプログラムは、シベリウスの交響曲第2番とチャイコフスキーの交響曲第4番のいずれかをメイン・プログラムに置き、武満徹の「弦楽のためのレクイエム」、ラウタヴァーラの「イン・ザ・ビギニング」他。日本のオーケストラがフィンランドでシベリウスを演奏するというのがおもしろい。ツアーのプログラムは帰国後に東京と横浜でも披露される。
●2019/20シーズンからは新シリーズとしてベートーヴェン&ドヴォルザークを中心としたプログラムがスタート。ベートーヴェンの交響曲というストレートなプログラムをこのコンビで演奏するとどうなるのか、興味津々。

June 17, 2018

グループC フランスvsオーストラリア、グループD アルゼンチンvsアイスランド 南北対決 ワールドカップ2018

フランス●うーん、始まってみたらおもしろすぎるぞ、ワールドカップ。で、フランス対オーストラリアだ。続々登場するアジア勢。さて、オーストラリアといえば、アジア予選で「つなぐサッカー」にバージョンアップした結果、ニッポン相手に敗れたわけだが、そのときの監督が現マリノス監督のポステコグルーだった。彼の戦術はマリノスで格段に先鋭化して毒々しく花開いているわけだが、それはさておき、新監督ファンマルワイク率いるオーストラリアはやはりパスワークを重視しているよう。特にゴールキーパーからパスをつなぐというスタイルは変わっていないのだが、これがもう見ていてハラハラドキドキ。いや、ウチの(マリノスの)飯倉、貸してあげようか? そう思ってしまうくらい、ぎこちない。
●とはいえ、守備になればオーストラリアは堅い。フランス相手によく耐えた。前半をスコアレスで乗り切る。しかし後半13分、リズドンのスライディングタックルがグリーズマンの足にひっかかってPK。判定には今大会から導入されたビデオ判定が活用されたのだが、うーん、これってスロー再生してもかなり微妙。ともあれ、グリーズマンがPKを決めてフランスが先制。後半17分、今度はフランスが自陣ゴール前でハンドしてしまい(これは明白)、オーストラリアがPKを獲得。ジェディナクのキックは甘いコースに飛んだが、キーパーは逆に飛んでいた。これで同点。後半36分、フランスのポグバのシュートがクロスバーを叩く。ボールはいったん下に落ちてから枠外に跳ね返った。ゴールラインテクノロジーの判定によりゴールが認められてふたたびフランスがリード。これが決勝点となって2対1でフランスが勝った。ボール支配率は半々程度。アジア勢が強豪相手に勝点1を得るかと期待したが……。
●フランスは2点ともテクノロジーの助けで得たゴール。1点目のPKはあまり納得できない。2点目はもちろん疑いもなくゴールなのだが、あれがゴールラインを超えるかどうかは運の世界だろう。昔は主審の判定に委ねられていた運が、今は真実という判定に委ねられているのであって、どちらも運には違いないというのがワタシの理解。サッカーではしばしば幸運の女神が弱いほうに味方することがあるが、同じ回数だけ、強いほうにも味方しているのだという当然のことに思い当たる。つまり、一言でいえば、悔しい。
アルゼンチン●メッシのアルゼンチンは、前回のEUROで躍進を遂げたアイスランドと対決。たくましい大男たちが集まるアイスランド代表は、ひたすらシンプルで力強い。小国の代表でありながら大国を打ち破る姿が共感を呼ぶ。が、どうなんだ、このサッカー、おもしろいのか? 好感度は高いけど、正直いって、ワタシはぜんぜんおもしろくない。一方、アルゼンチンはスペクタクルだ。パスワークに酔いしれるように狭いところを通して、つないで、突破する。メッシは相変わらずうまい。しかしプレイはすっかり枯れていて、極限まで最適化された効率的フットボール。前半19分、ロホのミドルシュートを、アグエロが足元でぴたりとトラップして(人間離れした超絶技巧!)、一瞬で反転してシュート。先制ゴール。これで楽勝かと思いきや、すぐ後の前半23分、アイスランドのダイナミックな左右の揺さぶりから、こぼれ球をフィンボガソンに蹴り込まれて同点。その後、アルゼンチンはほれぼれするような球回しを見せるのだが、アイスランドの堅い守備を崩せず。パスは回るがシュートが遠い。
●結局、アルゼンチンは74%という極端なボール支配を得ながら、1対1でドロー。なにかこう、みんながメッシに遠慮して安全なプレイを続け、一方でメッシはムダのない職人芸の世界に耽溺しているように見えてしまう。なるほど、これだけタレントがそろいながらアルゼンチンが南米予選であわや敗退直前まで追い込まれたのもなんとなくわかる。気が付けばベテラン化も著しい。このチームには、だれか火をつける存在が必要。求む、空気を読まない若者。

フランス 2-1 オーストラリア
娯楽度 ★
伝説度 ★★

アルゼンチン 1-1 アイスランド
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★

June 16, 2018

グループB モロッコ対イラン、ポルトガルvsスペイン 2強2弱の行方 ワールドカップ2018

イラン●グループBはだれがどう見ても結果が見えているというポルトガル、スペイン、モロッコ、イランの2強2弱。2強を脅かすためには、モロッコ対イランはお互いにどうしても勝点3が欲しい試合。モロッコはアフリカ勢ではあるが、選手のほとんどはフランスやオランダなど国外で生まれ育った選手。アフリカなんだけど実質「もうひとつのヨーロッパ」という、ワールドカップあるある状態。一方、イランはアジアの最強国。名将ケイロス監督が8年も率いているという継続性が実を結んで、アジア予選ではぶっちぎりの1位、異常なまでに失点が少ない。
●で、試合が始まってみるとモロッコが猛然と攻めてきて、イランはたじたじ。アジアでは鉄壁の守備がワールドカップではこんなにも脆く見えてしまうのか……。特にモロッコは左サイドからの攻撃が強い。ところが、前半の途中から次第にイランのカウンターアタックが冴えはじめ、すっかりとイラン・ペースの試合になってしまう。お互いに体と体がガツンとぶつかる音が聞こえてくるような激しい試合。
●両者ともに高い位置でボールを奪ってカウンターを決めたいという展開。前半42分にイランに惜しい決定機。後半はほとんどイラン・ペース、後半34分、モロッコに決定機が訪れるもイランのキーパー、ベイランバンドがスーパーセーブ。終盤はともに足が止まって魂の消耗戦になった。長いアディショナルタイムがあり、後半50分、イランは好位置でフリーキック。ハジサフィがクロスを入れると、中に飛び込んだ選手の頭にドンピシャでゴール! いや、スローで見ると、これはモロッコの選手のオウンゴールだった。イランが勝点3をゲット。前回大会1勝もできなかったアジアだが、エースがようやく勝利をもぎ取った。イランの勝利は20年ぶり。つぶし合いながら、熱いバトルという点で見ごたえあり。
スペイン●同じグループBでも世界の大半が注目しているのはこちらのイベリア半島ダービー、ポルトガルvsスペイン。ヨーロッパ・チャンピオン対元世界チャンピオン。クリスチャーノ・ロナウドをはじめスターたちがずらり。スペインには楽天、じゃない、神戸にやってくるイニエスタが先発。ポイント2倍、メール・マガジン増量級の華麗なテクニックを披露。これが欧州トップのスタンダードだというハイレベルな試合で、互いにオープンな戦いを仕掛けたことから、エキサイティングなゲームになった。クリスチャーノ・ロナウドはハットトリック。3点目のフリーキックは完璧。スペインはエースのジエゴ・コスタが2点、ナチョ・フェルナンデスが1点。ジエゴ・コスタの1点目が圧巻で、前線で1対2の不利な状況ながら強引なドリブルとシュートフェイントで相手を交わして右足で叩き込んだ。怪物。華やかな打ち上げ花火のような3対3。ワールドカップでこれだけ景気のいい試合はめったに見れないが、2強2弱がわかり切っているからこその打ち合いか。アジア勢としては、この予定調和をイランにぶち壊してほしいものである。

モロッコ 0-1 イラン
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★

ポルトガル 3-3 スペイン
娯楽度 ★★★★★
伝説度 ★★

June 15, 2018

ロシア対サウジアラビア 華やかな開幕戦は最弱対決 ワールドカップ2018 グループA

russia.gif●いよいよモスクワのルジニキ・スタジアムでワールドカップ2018が開幕。FIFAランキングで大会参加国中最低であることから史上最弱の開催国とも呼ばれるロシアだが、相手はサウジアラビア。こちらは参加国中下から2番目。つまり最弱対決だ。しかし、そうは言ってもこれはワールドカップ、プーチン大統領やFIFA会長の挨拶ではじまる華やかな開幕戦であり、このお祭り感は格別。
●サウジアラビアは代表監督人事が迷走した結果、昨年から元チリ代表監督のピッツィ監督を招聘。堅守速攻のイメージが強いが、始まってみると細かいパスを交換するポゼッション重視のスタイルに。ロシアはもちろんハイテンションでキックオフ直後から激しいプレッシャーをかける。前半12分、ロシアはコーナーキックの後の流れで左サイドからゴロビンがクロスを入れ、これにがら空きのファーサイドでガジンスキーが頭で合わせて先制ゴール。サウジは足元の技術は高いのだが、こねくり回すようなスタイルがかえってミスを増やし、不用意に相手にチャンスを与えてしまう。もっとシンプルなプレイをしたいところ。
●43分、サウジのやや怠慢な守備から手薄の守備陣を突かれて、チェリシェフが決めてロシアに追加点。サウジはここから精神的な強さを発揮するチームではないことをアジアの戦いでワタシたちは知っている。案の定、集中力を欠いてしまい、後半は大崩れ。後半26分、途中交代で入ったロシアの長身フォワード、ジュバがスローインの流れからクロスに頭で合わせて3点目。アディショナルタイムに入り、後半46分はチェリシェフが左足のアウトにかける技巧的なシュートで4点目、もう笛が鳴る直前の後半49分にゴール前のフリーキックをゴロビンが直接入れて5点目。サウジは次々と余計な失点を喫してしまった。開催国ロシアが5対0で勝つというのは、大会としては理想的なスタートかもしれない。
●しかし、前回大会でも弱さが際立っていたアジア勢が、今回いきなり大敗してしまったわけで、まあ、これはがっかりする。サウジから見ると、大会唯一の「格下」だったのに。ポゼッションは60%で相手を大きく上回った結果の惨敗。ピッツィ監督によるモデルチェンジが間に合っていない。カミソリのような鋭いカウンターアタックを見たかった。

ロシア 5-0 サウジアラビア
娯楽度 ★
伝説度 ★★
(満点は星5つ)

June 14, 2018

いよいよワールドカップ2018ロシア大会開幕へ

ロシア 2018●さて、本日深夜にワールドカップ2018ロシア大会が開幕する。ニッポン代表の大会直前の練習試合、スイス戦とパラグアイ戦についてはあまり気にしていない。西野ジャパンはスイス戦に主軸選手、パラグアイ戦に控え選手たちを先発させたと思うが、スイス戦は完敗、パラグアイ戦は快勝。しかし、今のスイスは世界最強クラスの一角、一方パラグアイはワールドカップに出場しないのにわざわざシーズンオフにチームを組んでくれたスパーリングパートナー。当然の結果ともいえるわけで、これで選手の序列が変化するのもおかしな話。ただ、なんであれ、勝てたのはいいこと。
●この試合から中6日でワールドカップのコロンビア戦がやってくる。まだまだトレーニング中にも選手のフィジカル・コンディションは変化するはず。4年前のザッケローニ・ジャパンは絶好調時にはかなりの水準までクォリティが高まったが、肝心のワールドカップに向けて次々とケガ等で主力選手のコンディションが落ちていった。もう個の能力は急に上がりも下がりもしないわけで、今後はコンディションを優先するか、監督の戦術を優先するか(たとえばトップの選手に守備を求めるなら岡崎、ポストプレイを求めるなら大迫といったように)の選択になるのだろう。
●意味不明のままハリルホジッチ監督が解任されてしまい、かつてないほどニッポン代表に期待が持てないワールドカップになってしまったが、サッカーはなにが起きるかわからない。実力通りなら3戦全敗だが、「ランクで決まるなら試合はいらない」(岡田武史の名言)。
●それにしても、昨日スペイン代表監督が解任されてしまったのにはびっくり。 代表チームとの契約を延長したばかりのロペテギ監督が大会後にレアル・マドリッドの監督に就任すると発表し(つまりジダンの後を継ぐ)、これを不快としてサッカー協会が解任。明日からワールドカップなのに後任監督を決めなきゃならなくて、協会のスポーツ・ディレクターのイエロ(懐かしの名選手って感じだ)が新代表監督になった。少しニッポンと状況が似てる。
●本日深夜の開幕戦はロシア対サウジアラビア。開催国なのに前評判はもうひとつのロシアとはいえ、これは勝利を義務付けられた試合といっていい。ロシアの人々がサウジアラビアをどう思っているかは知らないが、ワタシたちはこのチームの気質をかなりよく知っている。地力はあるのだが、内弁慶だ。彼らのお家芸はしばしばアジアで通用しても、世界ではまるで無力だったりする(人のことはいえない)。しかし、できることならサウジにはロシアをイラつかせるような試合を期待したい。徹底した堅守から切れ味鋭いカウンターアタックでサウジが先制し、以降、露骨な時間稼ぎで相手の冷静さを失わせて、ロシアにも「アジアの戦い」テイストを少しでも味わってもらえたら。そう願っている。

June 13, 2018

フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクル「春の祭典」

●12日は東京オペラシティでフランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクル。今年最大の注目公演。前半にドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」と「遊戯」、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」、後半にストラヴィンスキーの「春の祭典」。レ・シエクルは膨大な楽器のコレクションを持ち、作品に応じて当時の楽器を使用するというアンサンブル(だいぶ前にラ・フォル・ジュルネでも来ているのだが、大きな話題になるには早すぎた)。プログラムノートには「春の祭典」の使用管楽器&打楽器リストまで載っていて、おおむね1900年前後の楽器が並んでいて壮観だが、実際にそれらの楽器がステージ上で演奏されるというんだから。「春の祭典」は1913年初演時の楽譜を復元したもので、100年前のパリへと仮想タイムスリップできる得難い機会。
●どの曲にも共通するのは、なんども聴いたことがある曲であっても、まるで初めてその曲に触れたような感銘があったということ。響きの色合いが違う。モダン・オーケストラがブリリアントでツルツルに磨かれた響きだとすると、こちらはもっとざらりとして、くすんだ質感、だけどパレットの色数は多くて、変化に富んでいる。たとえるなら具の種類がやたらと多いサンドイッチみたいな(なんだそりゃ)。
●で、楽器はさておいても、演奏そのものが生命力にあふれているのが、すばらしい。ヴィルトゥオジティではなく、アンサンブルとしての巧みさ。ときにロトはオーケストラをエネルギッシュに鼓舞する。でも妙なタメとかはなくて、粘らず、どんどん進む。清潔感すら感じる。
●前半、「ラ・ヴァルス」が終わったところで、すでに客席は大喝采、ブラボー多数、スタンディングオベーションも。もうこれで終演したかのような盛りあがり。前半「牧神の午後への前奏曲」でフルートのソロ、後半「春の祭典」でファゴットのソロで始まるという対称性も吉。「春の祭典」の後、ふたたびわきあがる客席に向かって、ロトはメモを丸読みして日本語で挨拶、アンコールにビゼーの「アルルの女」第1組曲よりアダージェット。清冽。最後はロトのソロ・カーテンコール。
●それにしても「春の祭典」って、(当たり前すぎるけど)1913年以降の音楽がなにひとつ存在しない段階で生み出されたわけで、ストラヴィンスキーは天才。別の惑星からやって来たのか、モノリスにでも触れたのか。

June 12, 2018

小山実稚恵ピアノシリーズ「ベートーヴェン、そして……」制作発表

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●4日、Bunkamuraオーチャードホールのビュッフェで、小山実稚恵ピアノ・シリーズ「ベートーヴェン、そして……」の制作発表へ。これは2019年6月から2021年11月(予定)までの3年間にわたる全6回のシリーズで、軸となるのはベートーヴェンのピアノ・ソナタ第28番から第32番までの後期5曲。各回でそれぞれベートーヴェンのソナタ一曲に加えて、なんらかの要素が結びついたシューベルトやバッハ、モーツァルトらの作品が合わせて演奏される。たとえば、第1回はシューベルトのソナタ第13番イ長調にベートーヴェンのソナタ第28番イ長調、シューベルトの即興曲から。第3回はベートーヴェンのソナタ第30番にバッハのゴルトベルク変奏曲を組み合わせる、等々。「気持ちを込めてプログラムを組んだ。音楽会にはテーマ性が大事。予測がつきそうでつかないことを重視している」。壇上には小山実稚恵さんに加えて、ベートーヴェン研究の平野昭さんも登場して、各回のプログラムを展望。
●第4回だけはソナタではなく、協奏曲がテーマになっていて、山田和樹指揮横浜シンフォニエッタとの共演で、ピアノ協奏曲第0番WoO4とピアノ協奏曲第5番「皇帝」というダブル変ホ長調協奏曲プロ。第0番っていう言い方があるんすね。平野先生によれば、なんどか日本でも演奏されてはいるのだとか。
●各回には第1回「敬愛の歌」、第2回「決意表明」、第3回「知情意の奇跡」……といった題名が添えられている。これは「回の雰囲気を伝えたい」と思い、小山さん自身が考えたそう。2020年のベートーヴェン生誕250周年をはさむ3年シリーズ「ベートーヴェン、そして……」。「そして……」と言われると、「伝説へ」と受けたくなるのだが。

June 11, 2018

「村上さんのところ」 (村上春樹著/新潮文庫)

●しばらく前にネット上で大反響を呼んだ村上春樹のなんでも相談室(?)「村上さんのところ」(新潮文庫)、文庫になったのを機に読む。世界中から集まった質問相談約3万7千通のなかから、サイトで回答されたのは約3700通で、この一冊に収められたのは473通。さすがに厳選されているだけあって、世の中にはいろんな質問があるというか、いろんな人がいるものだと感心するばかり。もちろん、回答はそれぞれに興味深い。基本、真摯な姿勢があり、ユーモアがある。企画趣旨からいって当然なんだけど、これって「ファンの集い」みたいな感じの本なんすよね。だからファンじゃなかったらぜんぜん共感できないノリだってあるわけなんだけど、でもいくつかすごく印象的な回答があって、何か所もページの片隅を折ってしまった。
●たとえば、なんだけど。なかなか思いが伝わらないという広報のお仕事の方から、メッセージを伝える極意を問われて、「親切心です。それ以外にありません。親切心をフルに使ってください。それが文章を書く極意です」。あと講演のコツについて「原稿をそっくり暗記する」とあったのも、すごく印象に残る。「だから手間もかかるし、すごく疲れます」。やっぱり話すのって書くのよりもずっと準備に時間がかかるものなのだと得心。
●こういうのって、しばしば質問者側のほうが、回答者が見たことも聞いたこともない世界を生きているわけなんだけど、どんな深い悩みにも決して薄っぺらな答えが帰ってこない。

June 8, 2018

カザルス弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクルI ~ サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

●7日のサントリーホール、隣の大ホールでウェルザー=メスト指揮クリーヴランド管弦楽団がベートーヴェン・シリーズの最終日に大フーガと「第九」を演奏している同時刻に、ブルーローズ(小ホール)ではベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏シリーズが開幕。サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン恒例のシリーズで、今年はスペインのカザルス弦楽四重奏団が登場。結成20周年を迎えて世界各都市でベートーヴェン・シリーズを敢行中。この日のプログラムは弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」と弦楽四重奏曲第13番「大フーガ付き」。なんと、同日に「大フーガ」が弦楽四重奏と弦楽合奏版で演奏されるという珍しい事態に。
●大ホールでオーケストラのベートーヴェン・シリーズを聴いた流れから、小ホールでベートーヴェンの弦楽四重奏を聴くと、弦楽四重奏の「近さ」は圧倒的。この生々しさ、鋭く剥き出しの直接音は決して大ホールでは味わえない。このシリーズに登場する常設クァルテットはどこもキレッキレで、カザルス弦楽四重奏団も鮮烈このうえないんだけど、加えて情感と構築感のバランスが絶妙で、濃密な時間を堪能。すばらしく聴きごたえがあった。少しおもしろいと思ったのは、第2ヴァイオリン(アベル・トマス)の雄弁さ。第1ヴァイオリン(ヴェラ・マルティナス・メーナー)のほうが線が細い。常にではないにせよ、しばしば第2は音圧で第1を凌ぎ、同じようなフレーズを弾くときにも微妙に第2のほうが雄弁。なんとなく第1と第2の間に緊張感を感じとってしまうんだけど、それが結果的にいい方向に作用していたんじゃないだろか。
●「セリオーソ」、第2楽章はすでに後期の作風に片足を突っ込んでいる。第13番の終楽章、短いバージョンの持つユーモアや軽やかさも捨てがたいんだけど、しかし「大フーガ」を聴けるんだったらそりゃあそっちを聴きたい。これって「フィデリオ」序曲と「レオノーレ」序曲第3番の関係に(少しだけ)似てる。峻厳な「大フーガ」が始まったときの異世界観ははんぱない。怪物的。もっと軽い別バージョンが求められるのももっともな話。
●いま東京は自然発生した一か月にわたるベートーヴェン・フェスティバルが開催中なんだと思う。チョン指揮東フィルと新国立劇場の2種類の「フィデリオ」で始まり、ウェルザー=メスト指揮クリーヴランド管弦楽団の交響曲全曲サイクルがあって、カザルス弦楽四重奏団の弦楽四重奏曲全曲サイクルが続くというお祭り。祝、ベートーヴェン生誕248年。

June 7, 2018

フランツ・ウェルザー=メスト指揮クリーヴランド管弦楽団のベートーヴェン「田園」他

●ウェルザー=メスト指揮クリーヴランド管弦楽団のベートーヴェンをもう一公演(サントリーホール)。6日のプログラムは前半に交響曲第2番、後半に交響曲第6番「田園」、「レオノーレ」序曲第3番というプログラム。昨晩と同様に、磨き上げられたアンサンブルとまろやかサウンド。交響曲第2番の第2楽章冒頭でのシルキーかつスモーキーな弦楽器の美しさと来たら。「田園」はこの演奏コンセプトともっとも曲想が合致してるかも。嵐のティンパニですら丸みを帯びて、しなやか。第5楽章は陶酔的。この日も後半は大編成でコントラバス9人体制、倍管。でも決して叫ばない。ノーブル。弦楽器はモダン配置。
beethoven_cut.gif●おしまいに「レオノーレ」序曲第3番。一夜のコンサートの最後にこの曲が置かれるのは珍しいのでは(アンコールならともかく)。ここ一か月の間に、この曲を聴くのは3回目だが、全部普通の状況とはいえないのがおもしろい。チョン・ミョンフンの「フィデリオ」演奏会形式では、「フィデリオ」序曲の代わりに冒頭にこの曲が置かれた。新国立劇場「フィデリオ」では、飯守泰次郎指揮東京交響楽団がフィナーレの合唱の前にこの曲を挿入し、曲が流れる間、延々と石牢が作られていた。そして今日は一夜のコンサートのメイン・プログラムとしての序曲。しかし、恐るべきは新国立劇場でカタリーナ・ワーグナーがかけた呪いで、舞台袖のトランペットが大臣到着のファンファーレを奏でたところで、思わずこの後のイジワルな鬱展開を思い出して、苦笑してしまう(あの演出では正義は敗れ、悪が勝つ)。もちろん、アンコールはなし。昨夜に続いて、マエストロのソロ・カーテンコールあり。
●今晩、シリーズの掉尾を飾る「第九」が演奏されるのだが、ワタシは2公演のみなので、これでおしまい。このコンビのベートーヴェンには気品がある。自分の好みでいえば、もう少し下品なガハハ笑いをするベートーヴェンがいいのだが、これだけクォリティが高ければどんなスタイルであれ脱帽するしか。

June 6, 2018

フランツ・ウェルザー=メスト指揮クリーヴランド管弦楽団のベートーヴェン「運命」他

●創立100周年を迎えたクリーヴランド管弦楽団が、サントリーホールで「ベートーヴェン交響曲全曲演奏会」を開催中。5日、全5公演中の3日目を聴いてきた。序曲「コリオラン」、交響曲第8番、交響曲第5番「運命」というプログラム。最初の「コリオラン」冒頭、通常ならまなじりを決して気迫の強奏で始まりそうなものだが、柔らかくふくよかなサウンドにびっくり。以後の曲目でも、アメリカのオーケストラに対する先入観をひっくり返すようなまろやかさで、なおかつこの楽団伝統の鉄壁のアンサンブルは健在。まるで緻密な音響彫刻物。キレや熱量ではなく、端正な造形美で推進力を生み出す独自のベートーヴェン。大編成の「運命」なんだけど、音圧はむしろ控えめ、音色は豊麗。
●かつてアメリカのオーケストラに「ビッグ5」なんていう言い方があったけど、それぞれ明暗が分かれ、一方で西海岸のオーケストラが元気いっぱいで、総体としては西へ西へといろんなものが向かっている印象なんだけど、そんななかでクリーヴランドは変わらずわが道を邁進しているのだと納得。このオーケストラ、セル、マゼール、ドホナーニ、ウェルザー=メストとシェフの選択にも筋が通っているように感じる。
●この後、本日6日、7日に公演あり。

June 5, 2018

METライブビューイング「サンドリヨン」 ロラン・ペリー演出


●4日は東劇でMETライブビューイングのマスネ作曲のオペラ「サンドリヨン」。つまり「シンデレラ」。MET初演/新演出。ロラン・ペリーの演出(衣裳も)、指揮はベルトラン・ド・ビリー。「シンデレラ」といえば、ロッシーニの「チェネレントラ」のほうがオペラ作品としては知られているかもしれないが、あちらは魔法もガラスの靴も登場しない別系統のシンデレラ。ワタシたちがよく知っている「シンデレラ」に近いのは、こちらのマスネの「サンドリヨン」のほうだ。ロラン・ペリーの演出はもう完璧。洗練されていてオシャレ、ディテールまで作り込まれていて、しかも上質なユーモアにあふれている。本気で笑えて、しかもほろりとさせられる(シンデレラなのに!)。真のラブコメだ。つい先日のカタリーナ・ワーグナー版「フィデリオ」のいい解毒剤になった。女子だけではなく、男子も見る価値ありと断言。
●サンドリヨン(リュセット)役がジョイス・ディドナート、シャルマン王子役がアリス・クート。つまり、シンデレラと王子さまはどちらも女声なんである。だからハイライトは女声同士の二重唱になり、さらにそこに妖精役のキャスリーン・キムが絡んでくる。女声だらけで、なんだかシュトラウスの「ばらの騎士」を連想させる。もちろん、マスネのほうが先なんだけど。そしてシンデレラで王子が女声ということは、このオペラにテノールの居場所はないってことなんすよね。幕間インタビューでド・ビリーもちらっと言ってたように、そのあたりがやや人気にも影響しているのかも。継母がステファニー・ブライズ、パパさんがロラン・ナウリ。歌手陣はみな歌もすばらしいし、演技も達者。キャスリーン・キムのコロラトゥーラが人外魔境の妖精感。
●アリス・クートはちゃんと男性に変装していた。レオノーレは本当にフィデリオになれるのかもしれない。前半の第1幕と第2幕はコメディタッチで、特に第2幕のコミカルなバレエは秀逸。第3幕は一転してトーンが変わって、シンデレラと父のやりとりにしんみり。このパパさんの人物像がよく描けていて、娘シンデレラに対して本物の愛情を持ったやさしいパパなんだけど、一方でつまらない野心にもとらわれているがゆえに怪物的な妻(継母)と結婚してしまった。娘に「ここから逃げて幸せになろう」とか言うんだけど、彼が口先だけでなにもできない弱い男であることはわかり切っている。「シンデレラ」でありながら、ちゃんと男性側の人物像が描けているのって、スゴくない? 同様にシャルマン王子も薄っぺらい書割みたいな人物ではなく、苦悩する王子になっている(ところでシャルマン王子って、そんな名前が付いていたっけなあと思いながら見ていたのだが、途中でこれが「プリンス・チャーミング」のことをフランス語で言っているのだと思い当たった。プリンス・チャーミング=人間性を感じさせない王子のシンボルと解していたのだが、ここではそうではない)。
●すごく小さなことなんだけど、シンデレラって深夜12時になって、あわてて帰るじゃないすか。あの帰り道はどうやって帰ってるんだろうって気にならないすか。魔法が解けたんならカボチャの馬車はもう乗れないのでは? だったら歩いて帰るのか、でも歩いて帰れる距離なのか? ドレスはボロ着に戻るのか?とか。このあたりは童話でははしょられがちでは。あ、でもディズニー映画ではちゃんと描かれているのか。このオペラでは歌詞で回想されていて、やっぱりカボチャの馬車は使えなくて、人目を避けながら道の端を歩いて必死で帰ってきたみたいなことが歌われる。うん、そこが疑問だったので、ちゃんと説明してくれてうれしい。みんなジェイソンが13日の金曜日になにをしているかは知っていても、14日の土曜日をどんなふうにくつろいでいるかは知らないわけで、12時を過ぎたシンデレラの帰り道はもっと語られてしかるべきって気がする。

June 4, 2018

新国立劇場「フィデリオ」(カタリーナ・ワーグナー新演出)ネタバレ編


●さて、全日程も終わったところで、カタリーナ・ワーグナー新演出による新国立劇場のベートーヴェン「フィデリオ」を振り返っておこう。主な配役はレオノーレにリカルダ・メルベート、フロレスタンにステファン・グールド、ドン・ピツァロにミヒャエル・クプファー=ラデツキー、マルツェリーネに石橋栄実(好演!)、ロッコに妻屋秀和、
●1回見ただけなので見落としや勘違いもあるだろうが、舞台は一回性のものなので気にせずに書く。舞台は4階建てというか4層構造になっている。地上1階と2階が刑務官たちの世界で、地下1階が見捨てられたフロレスタンの独居房、地下2階が一般囚人たちの雑居房。通常、フロレスタンの出番は第2幕からだが、第1幕からフロレスタンは姿を見せて、黙役として孤独な演技をずっと続ける。一方、地下2階は最初は見えないのだが、後で舞台装置全体がせりあがって姿を見せる。くすんだ灰色の舞台のなかで、ひとりだけ明るく華やかな衣装を着ているのがマルツェリーネ。彼女はフィデリオに恋する乙女で、自分の周りで起きていることがまったく見えていない過剰にラブリーな存在。上から当てた照明が、マルツェリーネの影を地下1階の独居房に投影する。それを見て、壁に女の絵を描き出すフロレスタン。妻レオノーレの姿を描いているのだろうか。そして、レオノーレは女の姿であらわれて、控室(?)で男の姿に変装してフィデリオになる(まあ変装といっても軽い着替えとカツラ程度なんだが)。
●第2幕、フロレスタンが発する第一声はさすがのグールドの声の力を感じさせるが、元気なのは声だけ。そのうち、フロレスタンは地面を掘り出す。むむ、これは地下2階へ通じる穴でも掘っているのか、それとも脱獄でもしようとしているのかと一瞬思うが、どうやらこれは自分の墓穴を掘っている。笑。この囚人はもう体力も気力も衰えている。ロッコとレオノーレが独居房に入ってきたシーンで、ロッコはうっかりレオノーレのカツラを取ってしまい、男装がバレる。レオノーレは狼狽しつつも、またカツラをかぶって男になる。ピツァロがあらわれて、フロレスタンが絶体絶命となったところで、レオノーレが助けに入る。ここからがカタリーナ・ワーグナーの真骨頂。話は本来のストーリーとはまったく違ったところに転がっていく。
●レオノーレはピツァロの手からナイフを奪う。男の服とカツラを捨てて自分の正体を明かす。しかし、大臣到着のファンファーレとほぼ同時に、ピツァロは難なくレオノーレの手からナイフを奪い返す。そして、まったく易々とフロレスタンを刺してしまう。で、ピツァロはさらにレオノーレをねちっこく抱きしめて、やっぱり刺す。えっ、もうここでふたりとも死んじゃうの? いや、死んだらその後の話が続かない。そして、「レオノーレ」序曲第3番が挿入される。この場違い感と来たら。勝利の大序曲の間、なにが起きるかというと、ピツァロが地下1階の入り口に石を積み上げて、瀕死のフロレスタンとレオノーレを幽閉する。「アイーダ」の地下牢かよっ!
●なるほど、この話では正義の大臣が到着してなにもかも解決するというのいちばん素っ頓狂なところだから、大臣が到着してもふたりは救われないという結末は大いにありだろう。大臣は正義の味方などではなかった。だけど、音楽はまだ続くんである。終場の輝かしい合唱はどうするの? すると、地下1階でレオノーレとフロレスタンはそのまま歌い続けるんである。普通なら「愛は勝つ」みたいなことを歌うハッピーエンドの場面を、刺されたまま石牢で瀕死で歌っている。そう、現世的には「お前はもう死んでいる」状態だが、観念的には愛の勝利なのかもしれない。「アイーダ」のように? あるいは演出家の曽祖父が作った「トリスタンとイゾルデ」のように?
●一方、地下2階では囚人たちは解放されて喜んでいる。囚人たちの妻がやってきて喜び合う。そこにピツァロが変装してニセ・フロレスタンとして姿を見せる。さらにニセ・レオノーレもあらわれる(この人、だれ? 最初はマルツェリーネかと思ったけど、違ってた)。ニセ者が囚人たちと喜びをわかちあっている。で、曲が終わるやいなや、ニセ・フロレスタンとニセ・レオノーレはすばやくゲートを閉じて、囚人とその妻たちを全員閉じ込めて、してやったり。なにそのバッドエンディング。口封じのためにか、家族もろとも(おそらく)あの世行き~、というオチ。なんという後味の悪さ。
●この日の公演では、すでに演出家は帰国していたようで、カーテンコールに姿を見せなかった。客席の多くの人たちがブーイングする気満々だったはずだが、対象が不在。好演の歌手陣や指揮者にブーをぶつけるわけにもいかず。こういうときは、代わりにカタリーナ人形みたいなパネルかなにかを出すと、みんな(ブラボーも含めて)発散できていいかも。演出の方向性とはまるで違って、飯守泰次郎指揮東京交響楽団は格調高く滋味豊かなベートーヴェン。ピットからとてもいい音が出てくる。20世紀巨匠風味の心地よさ。
●自分はこの演出、大いに楽しんだ。最後はもう大笑いしたくなる。情報量が多すぎるので、できれば再演でまた見たいもの。もちろん、ツッコミどころは満載だ。最大の問題点は最後の場面で、鳴っている音楽と起きている出来事の齟齬。もし「フィデリオ」の最後の合唱が、たとえばショスタコーヴィチやマーラーの交響曲第5番のフィナーレのように、「一見輝かしいけれども、これってひょっとしてパロディ?」みたいな二重性のあるもの、アイロニカルなものだったら、この演出はぴたりとハマるが、この場面のベートーヴェンはどう考えても全肯定の音楽。ちぐはぐだ。それから事前の記者会見で演出のカタリーナ・ワーグナーとドラマトゥルクのダニエル・ウェーバーが語っていたことに対しても違和感は残って、そんな大上段に構えてオペラの演出とはかくあるべきとか、自由は、権力は、愛は、などと語らなくても、「ハハッ! おもしろいアイディアがあるんだ、みんな、楽しんでくれよなっ!」くらいのノリでいいんじゃないかって気がする。でもまあ、そんなのは些細なこと。素の「フィデリオ」台本がどれほど白々しく、天才の音楽からかけ離れているかを思えば、カタリーナはベートーヴェンを救ってくれたといってもいいほど。ワーグナー家はベートーヴェンに奉仕している。

June 1, 2018

東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」

リッカルド・ムーティ「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」
●30日昼は、イタリア文化会館で東京・春・音楽祭のリッカルド・ムーティ 「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」の記者会見へ。来春15回目を迎える東京・春・音楽祭が、3年にわたってムーティによる「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」を開催する。これは毎夏イタリアのラヴェンナで開催されているイタリア・オペラ・アカデミーの東京版ともいえるもの。同アカデミーのゼネラルディレクターでありRiccardoMutiMusicのCEOであるドメニコ・ムーティ(写真左)、東京・春・音楽祭の鈴木幸一実行委員長と芦田尚子事務局長の各氏が登壇。
●毎年ヴェルディの作品が一作ずつ取り上げられ、2019年は「リゴレット」、2020年は「マクベス」、2021年は「仮面舞踏会」。アカデミー対象者としては35歳以下の指揮者3~5名(オーディションあり)がムーティの指導によりリハーサルに参加、また30歳以下の聴講生(音大在学・卒業程度)120名がリハーサルを聴講できる。2019年は3月28日から4月3日まで東京芸大でリハーサルを行い、4月4日に東京文化会館でムーティ指揮東京春祭特別オーケストラによって演奏会形式(抜粋上演)で上演される。ソリストは調整中。オーケストラは日本の若手奏者たちによる編成。別途、ムーティによる作品解説も。
●鈴木幸一氏「ムーティさんとは長い付き合いになる。この東京・春・音楽祭をなんどかサスペンドしようかと思ったこともあったが、そのたびにムーティさんが『音楽祭はザルツブルクだってどこだって大変なもの。でも音楽祭でいちばん大切なことは続けることなんだ』と言って、励ましてくれたおかげで続けることができた。多くの人たちにムーティの教えを受ける機会を提供したいと思っている」。ドメニコ・ムーティ「このアカデミーを日本でも開くことになり、とてもうれしく思う。ムーティの師はアントニーノ・ヴォット。そしてヴォットの師はトスカニーニ。トスカニーニは『オテロ』の初演でチェロを弾いていた。ムーティはイタリアの古いメソッドを受け継ぐ指揮者。これを少しでも多くの人に広めたい」

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