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2018年7月アーカイブ

July 31, 2018

ベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホールで、ラトルのブルックナー第9番完成版ふたたび

●ベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホール、なんとなくシーズンオフになると、まとめて一年分のアーカイブを漁りたくなる。気になっていたラトル指揮によるブルックナーの交響曲第9番補筆完成版(SPCM、つまりサマーレ、フィリップス、コールス、マッズーカによる)を観た。この補筆完成版、2012年にも配信されてCD化もされているのだが、ラトルは2018年5月に改めて再度とりあげている。自身の音楽監督時代の総集編ともいうべきラストシーズンに、どうしてもこの補筆完成版を再演したかったのだろう。補筆者のひとりコールスによれば、復元された第4楽章は「全部で653小節。440小節はブルックナーのスコアに符合し、うち208小節は完全にオーケストレーションも施されている。他の117小節は彼のスケッチなどから再生でき、96小節は音楽的な類推技術を使って勝ち取らねばなからなかった。まったくブルックナーの手によらないのはわずか37小節に過ぎない」という。ラトルの表現では「85%はブルックナー本人のもの」。この「純度」をどう評価するかは考え方次第だろうが、現実に演奏されてしまえば、途中に何人が介在していようとひとつの作品に収束してしまうのがおもしろいところ。
●ラトルは気迫の指揮で、非常にエモーショナルな雰囲気。第1楽章から順番に聴いていくと、やっぱり第3楽章で「ああ、終わった」感に浸ってしまうのは、慣れ以外の何物でもないはず。で、終楽章だが2012年に観たときに比べると、微妙に印象が変わったかも。全般的に密度が「薄い」感じは否めないかな。部分的にオーケストレーションが薄いとか、起伏に乏しくて直線的とか。でも終盤の高揚感はすばらしい。前回聴いたときはブルックナーよりむしろ補筆者のアイディアが冴えているんじゃないか的な感想を抱いたっけ。今後、補筆完成版が定着するかどうかは、まだまだなんともいえないけど、補筆者の創造性が鍵という気もする。最後はラトルのソロ・カーテンコール。
●この終楽章を聴いた後、もう一回、第3楽章に戻りたくなる気分もなくはない。

July 30, 2018

定額制音楽ストリーミング・サービス Apple Music vs Spotify 2018夏

●2か月ほど前にこんな話題があった。「Apple Music、ついに5000万ユーザーを達成。音楽配信サービスの最前線が近づきつつある」。Apple Musicのユーザー数が先行するSpotifyに近づいてきた、というニュース。日本国内だと順序が逆なので意外な感じがあるかもしれないが、定額制音楽ストリーミング・サービスといえばまずはSpotifyだったのが、だんだんApple Musicが追いつきつつあり、たぶんこの調子だと逆転しそうだという情勢なんである。自分の解釈では、Spotifyという音楽専門店にAppleという大型店が追いつくのは、ユーザー層の広まりを反映した自然なこと。
●で、しばらく前より有料サービスのSpotifyプレミアムとApple Musicの両方を併用しているのだが、現時点での使用感を記しておこう(Google Play Musicはもはや見限った)。Windowsでの利用を前提とすると、アプリケーションの出来はSpotifyの圧勝。起動が速く、軽快に動く。Apple Musicは動作がモッサリしているのみならず、基本的な挙動が不安定で、バージョンアップを頻繁に繰り返しているのに、なにかがよくなっているという気がしない。むしろ、新バージョンが出るたびで新たなバグがあるのではないかという不信感で、気軽にバージョンアップできない。日本語周りの扱いも怪しい。
●しかし、音源の数はクラシックに関して言えばやはりApple Musicのほうが豊富だという実感がある(特に新譜コーナーで比較するとはっきりそう感じる)。もしどちらかひとつだけ契約するとしたら、しぶしぶApple Musicを選ぶんじゃないだろうか。だって、ある音源が聴けるか聴けないかの差は決定的だから。で、現状どういう使い方をしているかというと、まずはSpotifyを優先的に立ち上げる。で、そこに聴きたい音源があれば聴くけど、なかったらしょうがないからApple Musicを起動して探す。
●というわけで、ワタシはまだしばらく両方を併用することになると思う。なお、これはこの種のサービスの基本だが、検索するときは(日本のレーベルを探すときを別として)欧文で検索する。日本語で検索して満足できる結果が帰ってくるサービスはナクソス・ミュージック・ライブラリーだけ。ナクソスの日本語対応はとてもしっかりしている。これはどういうことかというと、ストラヴィンスキーの「春の祭典」を検索したいときに、SpotifyやAppleでは The Rite of Spring と Le Sacre Du Printemps のどちらでヒットするかはわからないわけだ。その点、ナクソスは元のアルバムのタイトルがどちらであろうと「春の祭典」と日本語検索すれば全部ヒットする。「日本語対応」の意味はこういうところにある。

July 27, 2018

日本代表新監督に森保一

ニッポン!●噂通り、ニッポン代表の新監督に森保一。オリンピック代表監督に加えてフル代表も指揮することになった。最初に思ったのは、そんなことってできるのかな?ってこと。トルシエも両方を率いていたけど、あのときのワールドカップは自国開催なので予選がなかった。しかもトルシエ時代と違って、今のフル代表は海外組が過半を占めるので、Jリーグを見ていればいいというわけにはいかない。でも、できるから兼務するのか。
●いつも他人からひっぱられて日の当たるところに出てくるというのが森保のイメージ。選手時代、ニッポン代表監督にオフトが就任した際に、無名だった森保を代表に呼んだ。オフトはマツダ監督時代に森保の才能を見出していたんだけど、代表選手たちには森保を知らない者もいたというほど。でも呼ばれたら、森保は中盤の底でポジションを確保。当時は4-4-2の中盤がダイヤモンド型で、底に森保、あとの3人にラモス、福田、吉田あるいは北沢が入るのが基本形だったと思う。あそこでオフトがニッポン代表に招かれなかったら、森保が代表に定着することはなかったんじゃないだろうか。
●2012年に広島の監督に就任する際も、それまでペトロヴィッチ監督がチーム力を引き上げたところで、経営上の理由からペトロヴィッチでは続けられないということで、OBの森保が監督のキャリアをいきなりJ1でスタートさせることになった。これも巡り合わせというほかないんだけど、選手を買うクラブではなく選手を売る側のクラブでありながら、いきなりJ1で優勝、さらに翌年2013年は(悔しいことに最後の最後でマリノスが失速してしまったため)大逆転で広島が連覇を果たした。当初は前監督が残してくれた財産があっての強さのようにも思っていたが、2連覇したうえに、さらに一年空けて2015年にも優勝したのだから、監督しての力量は疑いようがない。最後のシーズンは低迷してしまったが……。
●最初はマツダでアマチュア選手として会社の仕事もしていたのに、プロになり、代表選手になり、広島の監督になり、五輪代表監督になり、ついにフル代表監督になった。わからないもの。
●まずはアジアカップというワールドカップ以外では最大のタイトルを賭けての戦いが来年1月にある。ここでの結果が第一の関門か。それと来年は6月から7月にかけてブラジルで開催されるコパ・アメリカ(南米選手権)にニッポンが招待されている。なんで南米選手権に日本が出るのかっていう疑問もあるだろうが、1999年にも一度招待されて惨敗している(トルシエ時代)。本当は2011年にも招かれていたのだが、震災があったため出場を断念した。なので、来年は20年ぶりの名誉挽回のチャンス。ここでまたコテンパにやられるようだと、解任論が出てくるだろうが、さて。

July 26, 2018

山根一仁&上野通明&北村朋幹 Vol.1

●24日はトッパンホールで山根一仁(ヴァイオリン)、上野通明(チェロ)、北村朋幹(ピアノ)のトリオ。プログラムが巧妙で、前半にベートーヴェンのピアノ三重奏曲第1番とショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第1番、後半にブラームスのピアノ三重奏曲第1番(1854年初稿)。若い奏者たちによるトリオのシリーズVol.1として、3曲の「第1番」を組み合わせたばかりでなく、各々の作曲者にとっても作品番号を持つ最初の室内楽作品であるという、まさしく第一歩にふさわしい選曲。
●こうして3作品を並べてみると、一曲目のベートーヴェンはこれが作品1-1とは思えない完成度というか、成熟度を感じる。最初の一歩からベートーヴェンはベートーヴェンだったんだな、と。やはりこの曲はピアノが主役で、北村朋幹のポエジーを堪能。この曲の終楽章、少しユーモラスというか、風変わりな(吃音風?)主題で始まるじゃないすか。これって、なにかの「ネタ」になってたのかなと想像する。この音型にぴたりとあてはまるドイツ語のフレーズがあったのか、流行していたメロディの変形なのか。自分にはわからないネタのジョークを囁かれている感じがある。
●ショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第1番は17歳の作品とあって、さすがに粗削り。微妙にベートーヴェンの空気を受け継いでいるような気も。一介の十代の若者であり、「二重言語」を話す必要性のない時代の作風として聴くのも吉。
●ブラームスのピアノ三重奏曲第1番が最大の驚きで、1854年初稿を聴いたのはこれが初めて。通常版よりも長い。そして、やっぱりアンバランスだと思うのだが、そこにおもしろさを感じ取れるかどうか。第1楽章の後半で出てくるフーガの労作感も半端ない。この部分は改稿で削られてしまって惜しいと思う反面、つなぎ目をなくすためには無理もないとは思う。モーツァルトの「ジュピター」終楽章がどれだけ奇跡的なのかと。全体を覆うメランコリーやパッションはブラームスならではで、終楽章の熱量はすさまじい。
●アンコールは、北村朋幹編曲によるショスタコーヴィチのジャズ組曲第1番よりワルツ。洒脱。

July 25, 2018

N響「夏」2018 サラステのシベリウス&ブラームス

●20日はNHKホールでN響「夏」2018。今年はユッカ・ペッカ・サラステの指揮、バイバ・スクリデのヴァイオリン。前半はシベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」とヴァイオリン協奏曲、後半はブラームスの交響曲第1番というプログラム。「アンダンテ・フェスティーヴォ」はティンパニ入り。オープニングの音楽にぴったり。ヴァイオリン協奏曲ではスクリデが濃厚で雄弁なソロを披露。ソリスト・アンコールがヴェストホフ(1656-1705)の「鐘の模倣」。この曲、前にも聴いたことがあるような、ないような……。今風の反復的なヒーリング・ミュージックに聞こなくもない。後で録音で聴いてみると、全5楽章のヴァイオリン・ソナタ第3番の第3楽章が「鐘の模倣」で、この楽章だけが無伴奏。おもしろい。
●後半は重厚で力強いブラームス。オーソドックスな造形だが、要所以外ではティンパニなど意外と抑制的で、弦楽器中心のまろやかで豊潤な響きを堪能。終楽章は熱かった。アンコールはシベリウスの「鶴のいる風景」。凍てつく寒さを連想させる曲を、猛暑に聴くという快感。まるでコタツに入って食べるアイスクリーム。この曲って、途中で鶴が鳴くんすよね。実際の鶴の鳴き声を聴いてみると、そこまできれいなものでもないって気はするけど。

July 24, 2018

祭りの後、そして都内で初の気温40度越えの歴史的猛暑

東京武蔵野シティFC対マルヤス岡崎
●青梅市で都内観測史上初の気温40度越え。30度で暑いとか言ってた時代があったなんて信じられない。しかし室内はエアコンのおかげで快適だ。エアコンがどれだけ多くの人命を救っているかわからない。今年のノーベル平和賞はエアコンに!
●ワールドカップは終わった。決勝戦が深夜に開かれる15日、昼間に武蔵野陸上競技場に出かけてJFLの東京武蔵野シティFC対マルヤス岡崎を観戦した。遠くのワールドカップより近所のローカルリーグ。しかし、暑かった。15時キックオフ。Jリーグなら夏はナイトゲームが当然だろうが、ここは4部リーグであるJFL、照明施設がないので昼に試合をするしかない。日陰のスタンドで見ているだけでもしんどいのに、ピッチ上で90分走り回るんすよ。怪物。試合は武蔵野が押しながらも0対0。19番の鈴木裕也の突破力がすばらしい。体格を生かして重戦車のように突進する。ボールキープもうまくて、このレベルではかなりの武器になりそう。岡崎は初めて見たチームだけど、前線に大ベテラン木島良輔39歳がいて、盛礼良レオナルド32歳もいた。先発の平均29歳はJFLでは異例の高さ。
●ロシア大会のことを、クリンスマンが「今のような形のワールドカップとしては最後の大会」と形容していた。そうなってしまうのだろうか……。ともあれ、いつものように観戦記事を一枚のページにまとめておいた→ワールドカップ2018ロシア大会。CSSをいじってわざわざモバイル対応にしたのだが、いったいだれが読むというのか。ともあれ、これまでの分と合わせてワールドカップ関連記事をまとめておく。

ワールドカップ2018ロシア大会
http://www.classicajapan.com/wn/worldcup2018.html
ワールドカップ2014ブラジル大会
http://www.classicajapan.com/wn/worldcup2014.html
ワールドカップ2010南アフリカ大会
http://www.classicajapan.com/wn/worldcup2010.html
ワールドカップ2006ドイツ大会
http://www.classicajapan.com/wn/worldcup2006.html
ワールドカップ2002日韓大会
http://www.classicajapan.com/wc2002/index.html
ワールドカップ1998フランス大会
http://www.classicajapan.com/france98.html

July 23, 2018

ロレンツォ・ヴィオッティ&東京フィルのラヴェル&ドビュッシー

●18日は東京オペラシティでロレンツォ・ヴィオッティ指揮東京フィル。先日の新国立劇場「トスカ」での快演で一気にこのコンビへの期待度が上昇。で、この日はフランス音楽プロで、前半にラヴェルの「道化師の朝の歌」とピアノ協奏曲(小山実稚恵独奏)、後半にドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」と「海」。ヴィオッティ、指揮台に立っている姿は本当に今風の若者って感じなんだけど、指揮ぶりは確信を持った堂々たるもの。明快で見通しのよいサウンドを満喫。「道化師の朝の歌」、冒頭のピツィカートから強弱をはっきり付けて、リズミカルで躍動感に富んだラヴェルに。ピアノ協奏曲ではソリストの緻密な音色のコントロールが印象的。後半の「牧神」は繊細さよりも官能性が前面に押し出されていた。最後は明るく輝く「海」。ほかのレパートリーでも聴いてみたくなる。
●ワールドカップが終わって、Jリーグが再開。マリノスは相変わらず過激戦術を展開しているようで、まず仙台相手に8対2というクレイジーなスコアで大勝し、続いて東京相手に2対5で大敗するという無秩序状態が続いている。このチームはどこへ向かっているのか。順位は13位に沈んでいる。ずぶぶぶぶ……。

July 20, 2018

ワールドカップ2018ロシア大会をふりかえる

ワールドカップ2018ロシア大会
●さて、ワールドカップ2018ロシア大会を総括してみよう。クロアチアが決勝まで進んだ、ベルギーがベスト4まで来た、ニッポンがあと一歩でベスト8に届きそうだった……各国の力の差はますます小さくなってきた。そんな声が聞こえてくる。いやいや、そうかなあ? むしろ逆なんでは。
●だって、アジア勢は結局ニッポンしかグループステージを突破できなかったんすよ! しかもそのニッポンも相手がいきなりPKをプレゼントしてくれて一人退場したコロンビア戦しか勝っていない。4年前のアジア勢無勝の屈辱に比べればましにはなったけど、94年のアメリカ大会だってサウジアラビアは2勝して決勝トーナメントに進んだよ? あと強いはずの南米勢だって、次々と脱落して、途中からヨーロッパしかいない欧州選手権に変わってしまった。
●アフリカ勢に至ってはグループステージで全滅。一頃、アフリカ脅威論みたいなのがあったのに、どうしてこんなに弱体化してしまったのか。でも、これって前から言われていたことでもあるんすよね。つまり、アフリカのヨーロッパB化。アフリカから、あるいはアフリカの移民の子から、次々と才能は誕生しているけど、もっとも才能のある選手たちはヨーロッパの育成システムに乗っかって、ヨーロッパの代表選手になる。そこまでではない選手はアフリカの代表選手になる。優勝したフランス代表の23名のうち、13名はアフリカにルーツを持つ。その選手の多くたちはアフリカの代表選手になる資格も持っていたけど、フランスを選んでいる。一方、アフリカの代表選手にはヨーロッパで生まれ育った選手もたくさんいる。ワールドカップに出るためにルーツの国の代表選手になる。まるでヨーロッパが優先選択権を持っているような状態で、アフリカの代表がときどきヨーロッパBに見えてしまう……。いや、これは見方の問題かもしれない。反対側から見れば、フランスがアフリカSだったのであり、アフリカの勝利ともみなせるわけだ。
●もうひとつ、ニッポン代表監督の人事問題。西野監督の後任はまだ発表されていない。報道では森保監督になりそうな気配。でも、今大会でもはっきりしたけど、ワールドカップでベスト8とかベスト4に勝ち進むためには、監督以前にいかに選手が高いレベルのリーグでプレイしているかが最重要。もっといえば欧州を代表するビッグクラブの主力が何人いるか。クロアチアが決勝まで行ったのはモドリッチやラキティッチやマンジュキッチがいたから。ベルギーが強かったのはアザールやデブライネ、ルカク、クルトワといったスーパースターたちがいたから。今のニッポンの位置づけはブンデスリーガの中堅クラブくらい。現代の効率化した移籍市場では、未知の才能がワールドカップで発見されることなんてまずなくて、ヨーロッパでの評価というひとつの物差しだけで選手の能力が定められてしまう感がある。現状、「サッカーはますます世界へと広がっている」よりも「サッカーはますますヨーロッパに収斂している」が実態にふさわしいのでは。
●最後にあとひとつ、プレイスタイルの問題について。決勝のフランス対クロアチアが典型だけど、ますますもってサッカーは「ボールを持ったほうが不利」になっている。ワールドカップのような一発勝負になるといっそう顕著。ゴールのほとんどはカウンターとセットプレイで生まれる。流れのなかで攻撃を組み立ててディフェンスを崩すのは、かなり損だ。しかしボールゲームなのに、ボールを持つ側が不利というのは大いなる自己矛盾じゃないだろうか。それって楽しくない。システマティックな守備戦術は進化したけど、攻撃はどう工夫しても結局カウンターがいいって話に落ち着いてしまう。もし今後もこの状況が変わらないようであれば、どんなゴールも一点という等価でいいのかっていう疑問がわいてくる。

July 19, 2018

ノット&東京交響楽団のエルガー「ゲロンティアスの夢」

●14日はサントリーホールでジョナサン・ノット指揮東京交響楽団。このコンビでエルガー「ゲロンティアスの夢」を聴けるとは! この曲、録音で聴いても今ひとつピンと来なかったのだが、すばらしい体験となった。声楽陣は東響コーラス(暗譜だった)、マクシミリアン・シュミット(テノール)、サーシャ・クック(メゾ・ソプラノ)、クリストファー・モルトマン(バリトン)。誤解を恐れずに言えば、「パルジファル」の後日譚というかエピローグ的な存在、あるいはワーグナーのオペラの結末でたびたび訪れる観念的な死を肉付けして敷衍した作品とでもいうか。冒頭の前奏曲からして、あまりにも「パルジファル」的。第2部の悪魔の合唱が出てくるあたりで、ワーグナーからむしろヴェルディの「レクイエム」に一瞬移行しかけて、おいおいと思ったら、その後は「ワグエルガー」が戻って来てほっとする。
●第1部に比べると、死後を描いた第2部は作品内死生観に共感しづらいこともあって距離の取り方が難しくなるのだが、おそろしくハイクォリティの合唱、独唱、オーケストラのおかげで音楽の喜びに浸ることができた。完璧な上演だったけど、ひとつだけ惜しいのは字幕がなかったことか。演奏中は暗くて(そして字が小さくて)対訳は読めないし……。昔はそんな便利なものはなかったんだけど、今やすっかり字幕に甘えてしまっている自分に気づく。
●それにしても19世紀末から20世紀初頭にかけてのワーグナー・ウィルスの猛威はすごい。エルガー、ドビュッシー、ショーソン、アルベニス、ストラヴィンスキー……。この感染力と来たら。

July 18, 2018

トン・コープマン パイプオルガン・リサイタル

●ワールドカップが終わって、祭りの後の寂しさ。今大会については総括としてあと一回書くつもりだが、その前にコンサートの振り返りを。
●13日はミューザ川崎でトン・コープマンのパイプオルガン・リサイタル。前後半で違った趣きのプログラムを楽しめた。前半はバラエティ豊か。ケルルの「バッターリア」で幕を開け、カバニリェスのイタリア風コレンテ、ブクステフーデのプレリューディウム 二長調、わが愛する神に、フーガ ハ長調BuxWV174、クープラン「修道院のためのミサ曲」より「奉納唱」「聖体奉挙」、C.P.E.バッハのソナタ 二長調Wq70-5、バッハの小フーガ ト短調。C.P.E.バッハの気まぐれすぎる感情表現が吉。おなじみ小フーガ ト短調はまるで前半のアンコールみたい。
●後半はほぼ「オルガン・ミサ」ハイライト。クラヴィーア練習曲集第3部の冒頭とおしまいに置かれた前奏曲とフーガ 変ホ長調BWV552の間に、「おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け」BWV622、「永遠の父なる神よ」BWV669、「世の人すべての慰めなるキリスト」BWV670、「聖霊なる神よ」BWV671が挟まれるという構成。このプログラムなら拍手を入れずに一気に弾くのかなと思いきや、途中でなんども椅子から立ち上がり、拍手を受けてから袖に下がっていた。前のめり気味というか豪放磊落というか、エネルギッシュなバッハを堪能。アンコールにバッハ「われ汝に呼ばれる、主イエス・キリストよ」、スカルラッティのソナタ ト長調、ジョン・スタンリーのヴォランタリー。
フェスタサマーミューザ2018のポスター
●ミューザ川崎ではまもなくフェスタサマーミューザが今年も開幕。どーんと大きく掲出されているポスターが涼しげ。「奏soクール」だし。

July 17, 2018

決勝戦 フランスvsクロアチア オウンゴール+VAR+疑惑のPK+乱入者+GK大チョンボ+土砂降りのドタバタ劇 ワールドカップ2018

フランス●4年に1度のお祭りの最後は「なんでもあり」のドタバタ劇で締めくくられた。今大会を象徴するあれこれがあったという意味では決勝戦にふさわしかったのかも。フランスとクロアチア、ただでさえ決勝戦までの日程が一日クロアチアが不利なのに、彼らは3戦連続で延長戦を戦っている。コンディションの差が否めない。おまけに、どちらに転んでもおかしくないようなほんのわずかな運が試合の行方を大きく左右してしまった。とはいえ、フランスの優勝は実力にふさわしいもの。2回目の優勝。ワールドカップで「自国開催以外で優勝した国」が新たにひとつ誕生した。フランスの優勝はリアリズム、クロアチアの側にあったのはロマンティシズムだったと思う。
●前半、クロアチアがゲームを支配。攻めるクロアチアと守るフランスという構図は両者にとってゲームプラン通りだろうが、前半18分、フランスはフリーキックでグリーズマンがクロスをゴール前に入れると、クロアチアのマンジュキッチが痛恨のオウンゴール。これは不運というしかないのだが、その前のフランスがフリーキックを得た場面でそもそもファウルがあったのかどうかが試合後に物議を醸した。前半28分、クロアチアはフリーキックからモドリッチがファーサイドに走り込んだブルサリコにロングパスを送り、その折り返しのボールの混戦からペリシッチが蹴り込むビューティフル・ゴールで同点。前半34分、この試合で最大の問題の場面が。フランスのコーナーキックでマテュイディが競ったボールがペリシッチの腕に当たった。当初、主審は問題なしと見たようだが、VARのアドバイスでビデオを確認して、PKを宣言。グリーズマンがPKを決めて2対1。実質的に3点ともクロアチアが入れたようなもので、フランスがなにも攻撃しないうちに2対1までスコアが進んでしまった! この場面、手に当たっていることは明らかなのだが、すぐ目の前で高速で飛ぶボールの軌道が変わったため、クロアチア側から見れば腕をどけることなど不可能な話。しかしフランス側から見れば、腕に当たるような姿勢で競り合っている時点でミスということになるのだろうか……。いずれにしても、こんなほとんど避けようもないハンドで試合が決定づけられることが、サッカーの競技性に貢献することは決してない。
●フランスはリアクションサッカーに徹する。後半10分でカンテをエンゾンジに交代したというのが意外だったが、後半14分、ポグバがミドルシュートを弾かれたところに再度狙い澄ましたシュートを打って3点目。もうこれで試合は決まったようなもの。後半20分にはエムバペの鋭いシュートで4点目。クロアチアはがっくりと膝をつくはずだったが、その直後、後半24分にフランスのキーパー、ロリスが大チョンボ。つめてくるマンジュキッチに対してなにを思ったのか足技で交わそうとしたら、そのままマンジュキッチにかっさわれて失点。ワールドカップ優勝国のキーパーですら、ありえないミスをするということか。3点差が2点差になったことで、最後の最後までクロアチアは走り切った。もちろん、ここからなにかが起きるはずもないのだが……。
●4対2という決勝らしからぬスコアでフランスが優勝。しかし派手なゲームではなく、やや後味の悪いゲームだった。結局、ビデオ判定をしてもやっぱり誤審問題がクローズアップされるということを決勝戦で明らかにしてしまったという皮肉。でも一度使えば、ビデオ判定はもう止められない。これがあれば少なくとも2002年のような事件は起きないはず。使い方が難しいのと、そもそもサッカーのルールは客観的事実ではなく経験則で運用されるところが多すぎるがために齟齬が生じているような気がする。おまけにこの試合ではクロアチアの反撃ムードが高まりかけたところで、ピッチ上に複数の乱入者が現われる始末。なんでも反プーチンのバンド「プッシー・ライオット」とかいう人々なんだそうだが、完全に場違い。サッカー・ファンの逆鱗に触れて、いったいなにを共感してもらえると思っているのだろうか。ちなみに、ボール支配率は63%でクロアチアが大きく上回っていた。シュート数も敵陣ペナルティエリアでのプレーもコーナーキックでもクロアチアは勝っていたのだが、現代サッカーではそれはなんの優位も示していない。
●表彰式は土砂降りになった。プーチンもいる。全員がずぶ濡れになっている姿が妙にドラマティックだ。大会MVPはクロアチアのモドリッチ。ニコリともせずにトロフィーを掲げた。彼はスター性ではなく献身性でこの賞を獲得した。フランスのデシャン監督は、キャプテンとして現役時代に優勝し、監督としてまた優勝を果たしたことになる。フランスの選手たちがデシャンを胴上げをする。「ワッショイ!」の声が聞こえてきそうだ(言ってないと思うけど)。98年、開催国フランスが初優勝した際には、新時代のヒーロー、ジダンへの熱狂とともに彼らの勝利を心から祝福できたのだが、今回の決勝ではむしろモドリッチがヒーローになってほしかったという思いが残る。リアルか、ロマンか。決勝戦での勝者と敗者のコントラストはいつだって胸を打つ。

フランス 4-2 クロアチア
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★★

July 15, 2018

3位決定戦 ベルギーvsイングランド グループステージの再戦 ワールドカップ2018

ベルギー●すでに敗れた者同士が戦う3位決定戦は、ワールドカップにおいて蛇足以外のなにものでもない。この3位決定戦の敗者は、世界4強まで勝ち上がるという快挙を成し遂げたにもかかわらず、最後は連敗して大会を去らなければいけないという不条理。とはいえ、決勝戦までの休養日にほかにどんな試合を組めばいいのかというと、妙案はない。限りなくエキシビション・マッチに近い公式戦。試合が始まってみると、いかにもフレンドリー・マッチ的な雰囲気が漂っている。ベルギーとイングランドの両者はグループステージ第3戦でも、半ば消化試合的な雰囲気で戦っているのだが、それが3位決定戦でも再現されるとは。とはいえ、結果至上主義にならない分、スペクタクルが見られるのも3位決定戦。
●上位進出したチームのなかで、スペクタクル志向という点ではベルギーが抜群だったと思う。アザール、デブライネ、ルカクを中心とした攻撃陣はアイディアも豊富、ドリブルやパスワークも見ごたえがある。クリエイティヴィティという点でイングランドとの差は歴然。イングランドは強いし速いんだけど、なんにもないところからチャンスを創出する選手がいない。得点の4分の3がセットプレイからというのも納得。開始早々、ルカクの完璧なスルーパスからシャドリの低いクロスにムニエがボレーで蹴り込んでベルギーが先制。ルカクは使われるタイプだと思いきや、使うこともできるとは。後半37分にはアザールのキレキレのプレイで追加点。2対0で勝つべきチームが勝ったという印象。
●ベルギーは3位になった。でもワールドカップで3位になったチームを覚えてる人はいない。決勝で見たかったなというのが本音。この3位決定戦はさながらプレミアリーグ対決といいたくなるほど、イングランドプレイする選手が多かったが、やはり現状ではプレミアリーグが最強のリーグだと思う。他の国に比べて最上位チームから下の層が厚い。ベルギーみたいにプレミアリーグのスターを何人もそろえるチームが、過去の実績の有無にかかわらず上位まで勝ち上がってくる。これはサッカー選手の移籍市場の効率性の高さを示すものと理解している。

ベルギー 2-0 イングランド
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

July 13, 2018

準決勝 クロアチアvsイングランド 消耗戦の果てに ワールドカップ2018

クロアチア●スタジアムに響くゴッド・セイヴ・ザ・クイーンの大合唱。南米勢が去った後、ようやくイングランド・サポがスタジアムに熱いムードを生み出してくれた。若いイングランドに対して、ベテランが中心選手のクロアチア。ここまで2戦続けて延長PK戦を戦い抜いてきた。要の選手となるレアル・マドリッドのモドリッチ、バルセロナのラキッチがともに汗かき役としても絶大な存在だけに、ベンチには下げづらい。で、試合が始まってみると、やはりクロアチアの選手に疲労度を感じる。開始5分、イングランドはいきなりゴール前のフリーキックで、トリッピアーが見事な先制点。高い壁の上を超えてゴール右上に吸い込まれた。イングランドのプレイぶりはシンプル。自陣でボールを奪ったら、すぐに前線に残した快足スターリングにロングパスを出すという約束事がある模様。コーナーキックが特徴的で、中央に縦に選手が密集して並び、キッカーが蹴る瞬間にパッとめいめいの方向に散る。これはなかなか良策かも。クロアチアはモドリッチの位置が低く、組み立てでは有効だが、前線での攻撃のバリエーションが少ない。後半に入るとイングランドのプレッシャーにクロアチアが苦しむ場面も見られ、このままフリーキックの1点だけで勝敗が決しそうな勢い。
●ところが、後半23分、クロアチアは右サイドからブルサリコがアーリー・クロスを入れると、ゴール前でペリシッチが相手ディフェンダーの鼻先スレスレに足を延ばすような力技のシュートで同点ゴール。すると一気に形勢は変わり、クロアチアがイングランドを押し込むようになる。ゴッド・セイヴ・ザ・クイーンで励ますイングランド・サポ。お互い決定機はあったが、両キーパーの好セーブもあって延長戦へ。これでクロアチアは3戦連続の延長戦。疲れ果てた体で走り回る。この試合、一見、可能性の薄そうなアーリー・クロスをクロアチアはなんども入れているのだが、事前の狙いとしてあったのだろうか。1点目に続いて、2点目もアーリークロスから。延長後半4分、クロスボールへの競り合いのこぼれ球にすばやくマンジュキッチが反応して、左足で蹴り込んで逆転ゴール。次々と選手が動けなくなり両チームとも交代枠を使うが、イングランドのトリッピアーが動けなくなった頃にはすでに延長戦の4枚目の交替カードも使った後。トリッピアーは退場し、イングランドは10人で攻めようとするものの、クロアチアに隙はない。まさかの3連連続延長戦でまたしてもクロアチアが勝ち進むことになった。初めての決勝進出。
●これで決勝はフランス対クロアチアに決定。たまたまだが、決勝トーナメントの組合せが決まった時点で予想した通りの対戦カードになった。ワールドカップの優勝国というのは、実はとても限られている。リネカーの名言に「サッカーとは22人の男たちがボールを追いかけまわし、最後はドイツが勝つスポーツ」というのがあるが、端的に言えばドイツかブラジル、そうでなければイタリアか開催国(あるいは最近開催国だった国)が優勝する。例外は2010年のスペイン。フランスはかつて98年に開催国として一度優勝した。クロアチアは初めての決勝だが、やはり98年に3位になっている。どちらが勝っても「開催国ではない優勝国」がひとつ増える。ロシア大会ということを考えると、広い意味でのスラヴ文化圏ということでクロアチアが勝つストーリーも成立する。
●ところで、この試合、クロアチアのビダ(ヴィダ)がボールを持つたびにブーイングが執拗に起きた。イングランドとなんの因縁があるのか、ぜんぜんわからなかったのだが、かつてキエフに所属していたビダが親ウクライナ的な発言をしたということで、どうやらイングランド・サポではなくロシア人たちがブーイングをしていた模様。選手が不用意に政治的発言をするのはよくないが、しかし試合と無関係なブーイングにはがっかり。サッカー的な文脈のなかでのブーならわかるのだが。

クロアチア 2-1 イングランド
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★

July 11, 2018

準決勝 フランスvsベルギー 1998年大会の歓喜は再現されるか ワールドカップ2018

フランス●いよいよ準決勝。フランス、ベルギー、イングランド、クロアチア。すべてのチームに優勝の資格があると納得できる4強がそろった。フランス対ベルギーはどちらも欧州ビッグクラブに所属する選手たちをずらりとそろえる。なので、必然的にチームメイト対決も増える。ベルギーのフェライニとルカク、フランスのポグバはマンチェスター・ユナイテッドの同僚。ベルギーのクルトワとフランスのカンテとジルーはチェルシーの同僚といったように。マンチェスター・シティやトッテナム所属の選手たちも含めて、プレミアリーグ色の強い対決に。
●前半からベルギーが攻めて、フランスが守るという展開。前半15分にやっと最初のシュートがあって、アザールの惜しいチャンス。アザールはキレキレ。前半21分、コーナーキックからベルギーのアルデルワイレルトがシュート、しかしロリスがスーパーセーブ。ロリス、クルトワ、ともにキーパーがすばらしい。ゴールが生まれたのは後半6分。フランスのコーナーキックでニアに飛び込んだウムティティが頭ですらしてゴール。ウムティティは194センチのフェライニに競り勝った。183センチのウムティティが小さく見える。
●コーナーキックから頭で決めた1点で試合が決まってしまうとおもしろくないな……と思っていたのだが、後半17分あたりからフランスは逃げ切り体制に入る。堅守速攻の構え。ベルギーはメルテンス、カラスコといった攻撃の選手を途中から投入して突破口を探す(フェライニを下げてカラスコを入れるというパワープレイに頼らない宣言)。デブライネを中盤に下げて攻撃の起点となり、アザールやルカクが攻めるのだが、攻めきれずにフランスにボールを奪われるとエムバペの高速カウンターが待っている。フランスは堅実に守って、試合を終わらせた。試合終了後にベルギーのクルトワはフランスの守備戦術を非難し、アザールに至っては「あんなフランス代表の一員として勝つくらいならベルギー代表の一員として負けた方がいい」とまで言い放っている。まあ、こういうのを負け惜しみというわけだが。
●なるほど、ニッポンにできなかったのはこれかー。ニッポンは最後まで攻めようとして大逆転されたわけだが、臆面もなく守っていれば2点リードを守った末に、こんなふうに悪口を言われたかもしれない。負けて褒めたたえられるよりも、そっちがよかったなとは思う。
●フランスは自国開催の1998年大会に優勝している。そのときにシラク大統領からワールドカップを手渡されたキャプテンが、現監督のデシャン。あとひとつ勝てば、監督としてふたたびワールドカップを手にすることになる。カッコよすぎでは。

フランス 1-0 ベルギー
娯楽度 ★★
伝説度 ★

July 10, 2018

CD「はじめてのクラシック~親子で楽しむ世界の旅」、新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室「トスカ」

●ワールドカップは準々決勝と準決勝の間の小休止。この間に宣伝をふたつ。
●まずはCD、「はじめてのクラシック~親子で楽しむ世界の旅」。これはソニー音楽財団の未就学児向けクラシックコンサート・シリーズ Concert for KIDS と連携したCDで、ブックレットの曲目解説を書かせてもらった。曲としては「乾杯の歌」とか「天国と地獄」とか「主よ、人の望みの喜びよ」等々、未就学児にも聴きやすそうな曲が並んでいるのだが、解説を書くにあたって(親が子に読み聞かせるという前提で)幼児に理解可能な概念だけを用いて書こうと試みた。つまり、こういう子供向け企画って、なんとなく平易な日本語で書けばオッケーかな~的な考え方もあるとは思うのだが、もし本当に幼児に語りかけるとしたら、たとえば「愛の喜び」の解説を書くのに、なんの説明もなく「愛」という言葉を使うのはNGなんじゃないか、って思った。だって、「愛」って普通の幼児には難しすぎる言葉だし。「オペラ」も「イエス・キリスト」もNGだ。その代わり、どんな解説にも書いてあるような基本事項を押さえる必要はないはず、と考えた。
●もうひとつ。現在、新国立劇場で平成30年度高校生のためのオペラ鑑賞教室「トスカ」が上演中。先日、一般向けの公演を観たわけだが、続いて同じ演出で高校生向け公演が開かれているんである(キャストは別)。オペラ初体験に「トスカ」。なかなかいい作品選択では。このプログラムノートに作品解説、聴きどころ等の原稿を書いた。こちらは高校生が読むという前提で書くわけで、どんな書き方をすればいいんだろうと一瞬だけ悩んで、すぐに答えが出た。ふつうに楽しく書けばいい。おおむね高校3年生時点の知力は大人の知力を上回っているんじゃないだろうか。数学IIIとか日常的に解いてるんだし。

July 8, 2018

準々決勝 スウェーデンvsイングランド フットボールの母国に最大のチャンス到来 ワールドカップ2018

スウェーデン●スウェーデンとイングランド、ともに前評判のそれほど高くないチームがここまで勝ち上がってきた。ずばり、イングランドは決勝進出のビッグチャンスを手にしている。強豪がトーナメントの反対側に集中したため、こちらの山の最大の敵と予想されるのはクロアチア。これを逃したら次に決勝を狙えるのはいつになるかというくらいの大チャンス。一方、スウェーデンは堅牢な守備ブロックとパワープレイが持ち味。
●試合開始早々から「もしかして暑いのかな?」と思うような間延びした展開。後で調べたら26℃。さほどでもない。特にスウェーデンの選手の体が重そうに見える。彼らの守備戦術が功を奏して前半はタイトで眠くなるような展開が続くが、30分、イングランドのコーナーキックからマグワイアが頭で合わせて先制。こうなるとスウェーデンも守ってばかりはいられないはずだが、イングランドの勢いに押されて耐える展開に。後半14分、イングランドは右サイドからリンガードがファーにふわりとクロスを入れてデレ・アリが頭で決めて2点目。追うスウェーデンだがセットプレイとパワープレイ以外では得点の香りがしない。だれか創造的なプレイをする選手がひとりふたりいてほしいところ。イングランドはキーパーのピックフォードが圧巻。エバートン所属の24歳。控えのバトランドも25歳で、「キーパーだから経験重視」などという考え方がない。エースのケインだって24歳、スターリング23歳、リンガード25歳、デレ・アリ22歳。この若さは大会最終盤の武器になるかも。
●残るもう一試合の準決勝、ロシア対クロアチアは開催国の予想外の健闘によって2対2でPK戦にまでもつれ込んでしまった。ロシア、開幕前は「史上最弱のホスト国」と呼ばれていたのに……。PK戦はロシア先攻。統計的には勝率60%で有利なのだが、なんとなんと、またまたまたまた後攻のクロアチアが勝ってしまった。いや、開催国のプレッシャーと、そもそも個の技術がクロアチアのほうが高いことを考えれば、不思議はないのだが。トーナメントのこちらの山はクロアチアが決勝に進むというのがワタシの予想だったけど、ここでこんなに消耗してしまうのは誤算。中盤の要、モドリッチとラキティッチの両ベテランがキープレーヤーだが、次に若いイングランドと中三日で戦うことになった。これは見もの。

スウェーデン 0-2 イングランド
娯楽度 ★
伝説度 ★★

July 7, 2018

準々決勝 ウルグアイvsフランス、ブラジルvsベルギー ここから先は欧州選手権 ワールドカップ2018

●さて、中二日の休みをはさんで、ワールドカップは準々決勝へ。おおむねワールドカップは終盤に進むにつれて地味な試合が増える傾向にある。攻撃的でオープンな試合が多かった今大会だが、ここからはどうなるだろうか。
ウルグアイ●まずはウルグアイ対フランス。ウルグアイはスアレスと並ぶ二枚看板のカバーニをけがで欠く。フランスは19歳のスピードスター、エムバペが大会最大のスターになりそうな勢い(なにしろメッシもクリスチャーノ・ロナウドももういない)。キックオフからハイテンションな戦いで、走る速度もパスの速度も強烈。エムバペは加速がすごい。ただ、その速さを有効に使えないムダなプレイも目に付く。攻めるフランスとカウンターで対抗するウルグアイという展開で、40分、フランスはグリーズマンのフリーキックにヴァランが頭で合わせて先制ゴール。
●後半16分、グリーズマンは遠目の位置からぶれ球のミドルシュート。これをウルグアイのキーパー、ムスレラがほぼ正面で受けながら後方にボールを弾いてゴールへ。苦悶の表情を浮かべるムスレラ。今大会、キーパーの受難が目立つのだが、使用ボールの影響もあるのだろうか。グリーズマンはニコリともしない。これで2点のリード。ここから試合が荒れだした。ウルグアイは好チームなのだが、全般に汚いプレイが多いのが惜しい。マッチョであることとフェアーであることは両立できないものか。ラフプレイに頼るとゲームはそこまで。フランスは残り時間を慎重に使って、ゲームを終わらせた。依然、優勝候補の筆頭という印象だ。
ブラジル●もう一試合、ブラジル対ベルギー。こちらはニッポンが2点差をひっくり返されなければベルギーに代わってここにいたのだが、という複雑な思いで観戦。ブラジルはFIFAの規定による短縮版国歌の録音を無視して、曲が終わってもアカペラで延々と最後まで客席と選手が一体となって歌い続ける(結局今大会でも前回に続いてこうなった。短縮版の規定は南米の国歌へのリスペクトを欠いている)。ベルギーはニッポン戦で途中出場したフェライニとシャドリを先発させ、メルテンスとカラスコの攻撃的な選手をベンチに置いた。デブライネのポジションは一列前へ。ニッポン戦でのよい流れを引き継ぎつつ、ブラジルの攻撃力を警戒した布陣。
●前半13分、あっけなくベルギーの先制点が生まれる。コーナーキックで、クリアしようとしたフェルナンジーニョの肩にボールが当たってそのままゴールに吸い込まれるオウンゴール。ベルギーは自信を持ってブラジルに渡りあう互角の展開。ブラジルの攻撃力はたしかに驚異的なのだが、ベルギーはデブライネ、アザール、ルカクらの突出した個の能力に平均188cmにもなろうという高さが加わるのが強み。ルカクはEURO2016で見たときは、たしかに強い選手だけどオフ・ザ・ボールの動きが物足りないなと思っていたのだが、今や完璧なセンターフォワード。前半31分、デブライネがマルセロを交わして低い弾道のスーパーミドルを放って、ベルギー2点目。
●ブラジルはこの試合でもネイマールがたびたび倒れるのだが、ベルギーのプレイぶりはニッポン戦と同様にフェアー。ネイマールがレフェリーとその向こうのVARとの駆け引きをすればするほど、彼からスーパースターのオーラが消えてゆく。後半31分になって、ようやくブラジルにゴール。コウチーニョの浮き球のクロスにレナト・アウグストが頭で合わせた。そこからブラジルの猛攻が始まったが、コウチーニョは決定機に外し、ネイマールのシュートはクルトワのファインセーブに阻まれ、試合終了。1対2でベルギーが試合内容にふさわしい勝利を収めた。
●準々決勝一日目でウルグアイとブラジルの南米勢が敗退して、残る6か国はすべて欧州勢になった。おおむねどの大会でも欧州開催時は欧州勢が強く、その他の地域では南米勢が健闘するという傾向があるのだが、どうやらロシアも欧州にはちがいないようだ。会場の雰囲気はむしろ中南米だったのだが……。あの熱心なサポーターたちが帰国してしまった後はどうなるんだろう。

ウルグアイ 0-2 フランス
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

ブラジル 1-2 ベルギー
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★

July 5, 2018

新国立劇場「トスカ」

●ワールドカップはラウンド16と準々決勝の間に中二日のお休みが入る。この中二日を有効に活用するのが4年に1度の「ワールドカップ進行」の肝。
●ということで、4日は新国立劇場でプッチーニの「トスカ」。定評あるアントネッロ・マダウ=ディアツ演出の再演で、オーソドックスな本格派の舞台。各幕ごとにゴージャスな舞台装置が用意されていて、視覚的にもスペクタクル。トスカにキャサリン・ネーグルスタッド、カヴァラドッシにホルヘ・デ・レオン、スカルピアにクラウディオ・スグーラ。歌手陣も十分にすばらしいが、白眉はロレンツォ・ヴィオッティ(マルチェッロ・ヴィオッティの息子)指揮の東フィル。明快で輝かしいサウンドで、情感豊かでドラマティック。煽るところは煽りつつも、バランスを崩さない。近年、新国で聴いた東フィルのなかでは、もっとも心に残る好演だった。もともとこの作品、自分のなかではプッチーニの多彩なオーケストレーションが最大の聴きどころなので、大いに堪能。やはりオーソドックスな演出は、音楽に力があってこそと再認識。
●「トスカ」って名作中の名作なんだけど、ヒロインがイヤな女っていう珍しいパターンだと思うんすよね。なにしろ病的に嫉妬深い。しかもその嫉妬深さが愚かさに直結していて、見当ちがいな猜疑心のために自分も恋人も破滅してしまう。画家が描いた絵の目の色を青から黒に直せっていうリクエストも、芸術家としてどうかと思うんだけど。スカルピアにナイフを突き刺す場面には親指を立ててグッジョブ!とねぎらいたくなるが、なんだかその後の牢屋でカヴァラドッシに会う場面にうっすらと図々しいオバサン感が漂っている。「ほら、あんた、ちゃんと銃が鳴ったらバタン!と倒れんのよっ! うまくやってよね」みたいな。かねがね思ってるんだけど、トスカって本当はスカルピアと似合いのカップルなんじゃないかな。つきあってみたら意外と気が合う気がする。カヴァラドッシみたいなリベラルな男とうまくいくはずがない。
●「トスカ」にしても「マノン・レスコー」にしても「蝶々夫人」にしてもそうなんだけど、作者のヒロインに対するジワ~っとした悪意を感じる。なにかの復讐、かな。

July 4, 2018

ラウンド16 コロンビアvsイングランド PK戦のジンクスの終焉 ワールドカップ2018

コロンビア●サウスゲート監督率いる若返ったイングランド代表はこの大会で3バックを採用する数少ないチーム。ハードワークする規律のあるチームという印象だ。エースのハリー・ケインは好調。グループリーグ3戦目で選手を入れ替えるターンオーバー策をとり、コンディションも万全か。一方、コロンビアのエース、ハメス・ロドリゲスはケガで欠場。会場は例によってコロンビアのサポーターでいっぱいに。ロシアは南米から近く、ヨーロッパからは遠いという不思議。
●前半はタイトな戦いでチャンスがほとんど生まれない。後半、ケインが競り合いのなかで倒れてPK。主審は目の前で見ていたが、少し厳しすぎる判定では。コロンビアは激しく抗議。とはいえVARの「物言い」も付かず、ケインが自ら決めて先制ゴール。ここから選手が熱くなって、ラフなプレイが目立ち始める。アディショナルタイムに入るとコロンビアはパワープレイへ。そこから得たコーナーキックで長身のミナが頭で決めて劇的同点ゴールが生まれた。つまらないPKで試合が決まらなくてよかった。
●延長に入るとNHK地上波のサブチャンネル012に放送が移り、ぐっと画質が落ちてしまう。データ圧縮率高すぎ。画質に呼応するかのように運動量もプレイの質も落ち、最後は消耗戦に。イングランドのプレイぶりは堅実だが、流れを変えるようなアイディアが乏しい。途中交代で元気なヴァーディやラッシュフォードをもっと活用したいところ。こうなると期待できそうなのはセットプレイで、延長後半にコーナーキックからダイアーがフリーでヘディングする絶好機があったが、枠をとらえられず。
●120分では決着つかずPK戦へ。先攻はコロンビア。統計的には有利だ。コロンビアのオスピナ、イングランドのピックフォード、ともにファインセーブが一本ずつあったが、コロンビアがひとりバーを叩いて外した差で、イングランドが8強進出。む、またまた不利な後攻が勝ってしまった。もっともイングランドはPK戦も見すえて代表合宿からPK戦の練習を取り入れ、心理学者までスタッフに入れていたのだとか。これもイングランドがずっとPK戦に負け続けているというジンクスがあったからこそ、新監督は対策を打ち出したわけだ。監督の策が実ったのか、単に後攻勝率40%の目が出ただけなのかは、だれにもわからない。

コロンビア 1(PK3-4)1 イングランド
娯楽度 ★
伝説度 ★★

July 4, 2018

チェンバロ・フェスティバル in 東京 第5回「バッハへの道、バッハからの道」第一夜

チェンバロ・フェスティバル in 東京 2018
●30日夜は浜離宮朝日ホールのチェンバロ・フェスティバル in 東京 第5回「バッハへの道、バッハからの道」へ。3日間で5回の演奏会と関連企画が集中開催されるチェンバロのためのフェスティバル。会場内にはチェンバロやヴァージナル、クラヴィコードなども展示されていた。
●第一夜の公演には植山けい、大井浩明、曽根麻矢子、野澤知子、渡邊順生のチェンバロ奏者たちが代わる代わる登場。バッハとC.P.E.バッハの作品(渡邊)に続いて、リゲティが書いたチェンバロ作品3曲をその着想のもととなった作品と並べて聴くという趣向で、パッヘルベルのカノン+リゲティのハンガリー風パッサカリア(曽根)、クープランのティク・トク・ショク+リゲティのコンティヌウム(植山)、ストラーチェのチャコーナ+リゲティのハンガリー風ロック(野澤)。リゲティの機知とユーモアが伝わってくる。
●後半はまず古川聖の「アリアと18の変換~ゴルトベルク変奏曲に基づく」(大井)。音楽祭の委嘱作品、世界初演。冒頭にバッハのゴルトベルク変奏曲のアリアが演奏されて、以下、オリジナルの変奏がなんらかのアルゴリズムによって変換されたと思しき曲が続く。これがもとの変奏の原型をかなりの程度まで留めながら、歪んだり、ずれたり、削られたりした変種ゴルトベルクみたいな音楽。頭のなかで想起されるバッハの原曲と実際に耳に聞こえている変種とがコンフリクトを起こしてしまうという逸脱感が痛快。うっかり左右のコンタクトレンズを逆に入れてしまったかのような落ち着かなさ。最後に帰ってくるアリアも変種になっていた。まるでじわじわと感染が広がったみたいに。最後はバッハのブランデンブルク協奏曲第5番。曽根麻矢子のチェンバロと、阪永珠水のヴァイオリン他によるチェンバロ・フェスティバル・アンサンブルの演奏で。晴れやかで躍動感あふれるバッハ。

July 3, 2018

ラウンド16 ベルギーvsニッポン 2点のリードを逆転される ワールドカップ2018

ベルギー●2002年の日韓大会に続いてまたもワールドカップでベルギーと対戦することになった。ただし、今回はベスト8を賭けての戦い。そしてベルギーはアザールやデブライネ、ルカクといった最高クラスの選手たちを擁するFIFAランキング3位の優勝候補へと飛躍している。グループリーグ第3戦で主力選手たちを休ませて万全の構え。一方、ニッポンも6人を交代させた第3戦から当初のメンバーに戻してきた。GK:川島-DF:長友、昌子、吉田、酒井宏樹-MF:長谷部、柴崎(→山口)-乾、香川、原口(→本田)-FW:大迫。
●ニッポンは本来のメンバーに戻ったことで第3戦で欠いていたオートマティズムを回復、序盤は強豪相手にもパスを回して対抗するが、時間とともにベルギーに押されるようになる。アザールのドリブルや、前線のルカクのパワーに手を焼き、次第に耐える展開に。しかし前半をスコアレスで乗り切れたのはゲームプラン通りだろう。後半3分、ニッポンはカウンターから柴崎が長いスルーパスを出し、原口がこれを受けて突進、いったんフェイントを入れてから右足を振り抜いてゴール。ここから試合が激しく動き出す。直後にベルギーもアザールがポストを叩く惜しいシュート。後半7分、今度はゴール前で乾が、相手のチェックが遅れてフリーになるとペナルティエリア手前から右足で思いきり無回転シュートを蹴り込む。これが右隅に入ってニッポンがまさかの2点目。キーパー、クルトワの長い手がわずかに届かず。ここで、はっきりとベルギーのペースが落ちた。ニッポンは攻勢を緩めず、3点目のチャンスすらあった。
●後半20分、ベルギーはメルテンスとカラスコに代えて、フェライニとシャドリを投入。長身のフェライニが加わり、高さ勝負を挑まれる予感。後半24分は悔やまれるシーン。川島のパンチングからディフェンスの中途半端なクリアに対して、左サイドでベルトンゲンがヘディング。これは中に折り返したボールだと思ったが、そのまま川島の頭を越えてゴールに吸い込まれてしまう。川島はスーパーセーブもあるのだが、キャッチングへの不安があるのか、大会中不安定なプレイが目立ったことは否めない。これでベルギーは一気に息を吹き返す。そして後半29分、恐れていたフェライニの高さに屈して2失点目。あっという間に2点を追いつかれてしまう。
●ニッポンは後半36分に疲労度の高い原口と柴崎に代えて本田と山口を投入。ルカクのシュートを川島が好セーブするなど、押されつつも耐える。フリーキックを得て、本田はかなり長い距離から無回転シュートを放つが、クルトワが飛びついて弾き出す。これが決まっていれば8年前を彷彿とさせる伝説だったが、このレベルではそうそう入らない。そして、ここで得たアディショナルタイムのコーナーキックが運命を分けた。本田のコーナーキックに、難なくクルトワがボールをキャッチして、すぐにデブライネに転がして電光石火のカウンターへ。ここでニッポンは戻れなかった。ムニエのクロスから中央でフリーのシャドリが決めて、延長戦目前の後半49分に大逆転。ベルギーが8強に進んだ。
●実のところ、2点をリードした時点で、次の試合のスケジュールを確認したくなるほど、ニッポン初の8強の可能性は高まっていた。これをひっくり返されたのだから力負けというほかない。第1戦目からそうだったが、ニッポンは守備を固めるのではなく、攻撃的な布陣で戦い、結果としてゴールも生まれたし、失点も多かった。カウンターで得たチャンスもたくさんあったが、最後はカウンターで敗れたともいえる。振り返ってみれば、開始早々にPKをもらって相手が一人退場したコロンビア戦しか勝っていないのだが、内容的にはセネガル戦やベルギー戦のクォリティが高く、大会を通してチームが成長したという充実感がある。ベテラン選手が多く、これが代表のひとつのサイクルの集大成だったといえるかも。本当に立派な戦いだった。ただ、ワールドカップで2点差をひっくり返されたことには屈辱感しかない。25分間で3失点。「守ったらやられる、攻めなければ勝ちきれない」というのが西野監督の哲学なんだろうか。実際、あそこで守れる選手を投入してゴール前に壁を築いても守りきれたという保証はないのだから、すべては結果論でしか語れない。チーム一丸となって組織的に戦った結果、痛感するのは逆説的だけど個の力の大切さ。この上を目指すには、欧州のビッグクラブやプレミアリーグなど、普段から高いレベルでプレイする選手をどれだけ増やせるか(特にキーパー)にかかっている。あとは、局面ごとの戦術的な柔軟性をもう一段、高められれば。
●深夜に起きて生中継を見たが、朝になってみるとぜんぶ夢だったみたいな気もする。甘美な夢だったような気もするし、悪夢だったような気もするし……。ワールドカップはこれから佳境に入る。

ベルギー 3-2 ニッポン
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★★★

July 2, 2018

ラウンド16 スペインvsロシア、クロアチアvsデンマーク PK戦という変則的抽選 ワールドカップ2018

スペイン●グループリーグを通過したものの、むしろひとつのサイクルの終わりを感じさせる黄昏のスペイン、参加国中最低ランクながら波に乗る開催国のロシア。スペイン対ロシアは対照的な両チームの戦いになった。スペインは相変わらず技巧的なパス回しによる詰将棋みたいなポゼッションサッカーだが、ボールを失うことを嫌がり、低リスクの攻撃に徹する。前半12分にオウンゴールであっさり先制して、消極的な「ティキタカ」が続く。前半40分、スペインは不運なハンドを取られてPKを与える。これを決められて同点。これでやっと試合が動き出すと期待したが、偉大なる老巨匠の荘厳なパスワークが延々と続き、PK戦にもつれ込んでしまった。ロシアはパッションの守備。
●統計的にPK戦は先攻の勝率は60%、後攻が40%で圧倒的に先攻が有利とされる。スペインは有利な先攻を引いたが、最後まで追い風が吹かず。開催国がまさかの8強へ。これは伝説の始まりなのだろうか。
クロアチア●一方、クロアチア対デンマーク、こちらは奇妙な試合展開になった。キックオフ直後、デンマークのロングスローのこぼれ球からマティアス・ヨルゲンセンが先制ゴール。開始1分の先制点。クロアチア優位と思っていたが、これで試合がわからなくなった……と思ったら、4分、ゴール前でデンマークのクリアボールが味方に当たって跳ね返り、これを拾ったマンジュキッチが同点ゴール。たった4分で両者1点ずつを奪い合う激しい展開。ところが、ここから試合の様子は一変して膠着自体に。攻めるクロアチアと堅守速攻のデンマークという図式も次第に崩れ、結局延長戦までやっても次のゴールは生まれず。1対1。クロアチアは3戦目に主力を軒並み休ませたはずなのに、全般に体が重そうで、ダイナミズムを欠く。グループリーグとは別のチームみたい。決勝まで進むと思っていたのだが……。
●PK戦の先攻はデンマーク。クロアチアのスバシッチもデンマークのシュマイケル(岡崎の同僚だ)も止めまくったが(あるいはキッカーが弱気だったか)、クロアチアが勝利を収めた。この日のふたつのPK戦はどちらも不利な後攻が勝ったわけだ。まあ、そんなこともある。

スペイン 1(PK3-4)1 ロシア
娯楽度 ★★
伝説度 ★★

クロアチア 1(PK3-2)1 デンマーク
娯楽度 ★★
伝説度 ★

July 1, 2018

ラウンド16 フランスvsアルゼンチン 超人たちの祭典へ ワールドカップ2018

●さて、いよいよ決勝トーナメントに入ったワールドカップだが、その前にグループリーグについて一言。先日のニッポンvsポーランド戦の終盤の「パス回し」が議論を呼んでいるが、あの件については「残り10分でセネガルが得点しない」ことに賭けたことが自分は信じられないと思った。せめて西野監督が何に賭けたのかを確認しようと思い、コロンビアvsセネガル戦の、コロンビアがゴールして以降を録画で確認してみた。失点直後、もはや攻めるしかないセネガルはダイナミックな攻撃で立て続けにコロンビアのゴールを襲った。その後、時間がなくなると捨て身のパワープレイを仕掛けた。フォーメーションもなにもないパワープレイなので、選手間の距離は開き、最後の数分はセネガルにもコロンビアにもゴールが生まれやすい状況になった。しかし、そのままで終わった。西野監督は後で録画でこの場面を見てどう感じたのか、知りたいものである。ワタシだったら血の気が引く。
フランス●さて、ラウンド16。グループリーグが終わった時点で、自分の決勝の予想はフランス対クロアチア、願望はメキシコvsコロンビアだ。で、いきなりフランス対アルゼンチンがラウンド16で実現。トーナメントのこちらの山に強豪が偏った感がある。とはいえ、アルゼンチンはもはやチームはバラバラで、メッシ頼みももう限界の様子。この試合ではアグエロもイグアインもベンチに置かれて、3トップの中央にメッシ、左にディ・マリア、右にパボン。一部報道によるとサンパオリ監督は前の試合から実質指揮権を剥奪されて、メッシとマスチェラーノで先発メンバーを決めているんだとか。そんなバカなことはないだろうとは思うが、チームが迷走している様子はわかる。
●で、試合が始まってみると、これがスーパーゴールの連発で、今までとはまったく違うステージに入ったことを宣言する派手な打ち上げ花火のような試合に。前半11分、フランスのエムバペが爆発的なスピードでマスチェラーノを置き去りにして、ペナルティエリア内に突進、これをロホが倒してPK。決めたのはグリーズマン。その後、アルゼンチンがディ・マリアの超絶ミドルシュートで追いつき、後半にはメッシのシュートにメルカドが足で触って(あるいは当たって?)コースが変わって逆転、今度はフランスのパバールが技巧的かつパワフルなスーパーボレーをゴールに突き刺して同点、そこからエムバペが立て続けに2ゴールを奪い、終了直前にアグエロが1点を返す。ゴールラッシュで4対3でフランスが勝利した。内容的にはフランスが一枚も二枚も上手だが、アルゼンチンは個の能力で面目を保ったといったところ。むしろこんなエキサイティングな試合で終わって、救われた面もあるんじゃないだろか。
●メッシからエムバペへとスーパースターの座が移ったかのような印象すらある。まだ19歳。メッシでもクリスチャーノ・ロナウドでもネイマールでもない、新たなスターをみんなが待望している。

フランス 4-3 アルゼンチン
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★

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