2022年12月アーカイブ

December 29, 2022

2023年 音楽家の記念年

●昨晩、ジョナサン・ノット指揮東響の「第九」をニコニコ生放送の配信で聴いてみた。「全40台のカメラで見る」というスペシャルな趣向が凝らされていたのだが、演奏がすばらしすぎてカメラを変えるのも忘れて普通に最後まで観てしまった……。これだけ年中行事感のないスリリングな「第九」はそうそう聴けない。
●さて、12月恒例、来年に記念の年を迎える主な音楽家をリストアップ。例によって生年か没年で100年区切りに該当する人のみ。50年とか10年とか細かく刻むと膨大な人数が並んで無意味なリストになるので。この手のリストは絞るのが難しい。

[生誕100年]
ジェルジュ・リゲティ(作曲家)1923-2006
中田喜直(作曲家)1923-2000
ロバート・クラフト(指揮者)1923-2015
ヴォルフガング・サヴァリッシュ(指揮者)1923-2013
スタニスワフ・スクロヴァチェフスキ(指揮者/作曲家)1923-2017
アリシア・デ・ラローチャ(ピアニスト)1923-2009
マリア・カラス(歌手)1923-1977
ビクトリア・デ・ロス・アンヘレス(歌手)1923-2005
チェーザレ・シエピ(歌手)1923-2010
フランコ・ゼフィレッリ(演出家/映画監督)1923-2019

[生誕200年]
エドゥアール・ラロ(作曲家)1823-1892

[生誕300年]
カール・フリードリヒ・アーベル(作曲家)1723-1787

[生誕400年]
アントニオ・チェスティ(作曲家)1623-1669

[没後400年]
ウィリアム・バード(作曲家)1543頃-1623

[没後500年]
ウィリアム・コーニッシュ(作曲家)1465年頃-1523

●メジャーなところとしては、リゲティの生誕100年とラロの生誕200年。といっても間口は狭いか……。こういうとき、消去法的に生誕150年のラフマニノフに注目が集まってしまうケースがありうる(ドビュッシー生誕150年のときがそうだった)。150年じゃぜんぜん「ちょうど」感がないけど、リゲティやラロよりラフマニノフでしょ!みたいな空気感が漂うことは容易に想像できる。
●バードの没後400年というのもすごい。400年経っても作品が演奏され続けているなんて。
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●宣伝を。ONTOMOの連載「心の主役を探せ! オペラ・キャラ別共感度ランキング」第7回はワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。キャラ視点によるオペラガイド。
●今年もあとわずか。年末年始はいつものように不定期更新モードで。よいお年をお迎えください。

December 28, 2022

東京国立近代美術館 大竹伸朗展

大竹伸朗 宇和島駅
●東京国立近代美術館で開催中の大竹伸朗展へ。事前に聞いてはいたが、美術館入口に「宇和島駅」が掲げられている。これは90年代半ばに宇和島駅が改築される際、廃棄される予定だった駅名ネオンを作者が引き取って保管していたものなのだとか。ちゃんと暗くなると点灯する! 竹橋駅を降りて宇和島駅に入場する不思議。

大竹伸朗展

大竹伸朗展
●展示点数はおよそ500点。もう圧倒的なボリュームなのだが、各々の作品が強烈なインパクトを持っていて、とても一回では見切れないほど。尋常ではない迫力。爆発的な創作力にくらくらする。

大竹伸朗展 モンシェリー

大竹伸朗展 モンシェリー

大竹伸朗展 モンシェリー
●なかでも魅了されたのは上の「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」と題された一角で、どこからどの角度で見てもすさまじい密度。本当になにを見たらいいのか途方に暮れるくらい。昭和ノスタルジーをくすぐる部分もあるが、そこが核心ではない感じ。

大竹伸朗展 スクラップブック
●これは中野のまんだらけ……ではなくて、大量に展示されているスクラップブックの一部。触って中を開くことはできないが、開かれている面を見ているだけでもひりひりするような熱さが伝わってくる。
●展示は2月5日までなのだが、本日28日から1月1日までは年末年始の休館。でも1月2日から開いているので、お正月休みに足を運べるのは吉。お年玉を握りしめて竹橋へGo!

December 27, 2022

全国共同制作オペラ「道化師」&「田舎騎士道」(カヴァレリア・ルスティカーナ)記者会見

全国共同制作オペラ「道化師」&「田舎騎士道」(カヴァレリア・ルスティカーナ)記者会見
●12月6日、東京芸術劇場で全国共同制作オペラ「道化師」&「田舎騎士道」(カヴァレリア・ルスティカーナ)の記者会見があった。ZOOMウェビナーでオンライン参加。これまでも大胆な演出家の起用で話題を呼んできた全国共同制作オペラだが、今回は今年3月まで宝塚歌劇団で話題作を手がけてきた演出家、上田久美子(写真前列左から2番目)がオペラに初挑戦する。演目はレオンカヴァッロの「道化師」とマスカーニの「田舎騎士道」(カヴァレリア・ルスティカーナ)という定番のダブルビル。23年2月に東京芸術劇場で、3月に愛知県芸術劇場で上演される。いつものように本格的なリハーサルに先んじて、演出家と日本人出演者による記者会見が開かれたのだが、写真のように出演者がずらり。いくら二本立てと言ってもなんだか人数が多すぎやしないか……と思うわけだが、実は今回の演出ではひとつの役を歌手とダンサーが演じる。そのため、人数もこんなに大勢いるのだ。オペラの役を歌手と俳優が演じ分ける例はこれまでにもあったと思うが、演出家上田久美子の着想源は文楽なのだとか。
●上田「もともとの作品意図を現代日本に伝えようとしたときになにができるかと考えたときに、貧富の差など、ふだん可視化されていないものを描き出したいと思った。そこで文楽方式で、歌とダンサーによる昔のイタリアと今の日本の重ね絵のようなものを実現したい」「いろんな舞台設定がある。歌手は太夫のように声のエネルギーでダンサーたちを動かしていく」。実際の舞台がどうなるのかは見てのお楽しみといったところだと思うが、かなり独自性の強い工夫が凝らされている模様。歌手陣からも演出について「腑に落ちた」「とても納得できた」といった言葉が寄せられており、期待できそう。題材が題材だけに、なんとなく印象としては、けっこうエグい感じになるのかなあと予想している。
●指揮はバイエルン国立歌劇場来日公演など、日本をたびたび訪れているアッシャー・フィッシュで、オーケストラは読響。主要キャストを歌手とダンサーを並べて挙げると、「道化師」ではカニオ(加美男)をアントネッロ・パロンビ/三井聡、ネッダ(寧々)を柴田紗貴子/蘭乃はな、トニオ(富男)を清水勇磨/小浦一優(芋洗坂係長)、「田舎騎士道」ではトゥリッドゥ(護男)をアントネッロ・パロンビ/柳本雅寛、サントゥッツァ(聖子)をテレサ・ロマーノ/三東瑠璃、ローラ(葉子)を鳥木弥生/髙原伸子、アルフィオ(日野)を三戸大久/宮河愛一郎が演じる。
●この全国共同制作オペラのシリーズ、これまでにもいろんな演出家が起用されてきて、ぜんぶ観たわけじゃないけど「ホームランか三振か」みたいなフルスウィングがもっぱら。確実にありきたりではないオペラを見せてくれるという点で貴重な存在。

December 26, 2022

「殺しへのライン」(アンソニー・ホロヴィッツ著/創元推理文庫)

●ワールドカップも終わったことなので、ようやくアンソニー・ホロヴィッツの最新刊「殺しへのライン」(創元推理文庫)を読む。この人の本を読むたびに、どうやったらこんなにおもしろい小説を書けるのかと感心する。元刑事の探偵ホーソーンと著者自身が、ホームズ役とワトソン役になって犯罪捜査に挑むという趣向のミステリ。ホームズばりに観察眼の鋭いホーソーンに対して、ワトソン役の著者はなんとも冴えない凡人っぷりなのがいい。主人公が著者本人という設定を生かして、作中人物に「ミステリでは犯人はいちばん意外な登場人物だ」みたいなことを言わせるなど、今作も軽いメタフィクション要素を含んだエンタテインメントになっている。
●ホロヴィッツのミステリはミステリと無関係な場面がやたらとおもしろい。事件など起きなくても一冊楽しく読めそう。著者が出版社に行って編集者やエージェントと打合せをする場面とか、文芸フェスの様子だとか、わりといじましい感じで本人が描かれているのが共感を誘う。著者がチャンネル諸島のオルダニー島で開催されるマイナーな文芸フェスに招待されて、そこで事件が起きるという話なんだけど、イギリスだと文芸フェスなるものが各地で盛んに開かれているんだというのが新鮮な驚き。あと、オルダニー島を観光する気分も味わえる。いや、観光じゃないな。出張気分を味わえる。あまり乗り気じゃなかった出張に行ってみると、初対面の人たちがなんだか気の合わなさそうな人ばかりで、うーんと思いつつも、なんとか気持ちを立て直そうとする感じの出張(って、あるじゃないすか)。

December 23, 2022

ワールドカップ2022カタール大会をふりかえる

●さて、忘れないうちにワールドカップ2022カタール大会を総括しておこう。今大会、競技面に関していえば、近年のワールドカップでもっとも盛り上がった大会になったと思う。ニッポンがドイツとスペインを破ってグループリーグを1位で突破するという、だれも予想しなかった大健闘を見せた。が、ニッポンだけではなく、世界中のサッカーファンにとってエキサイティングな大会だったんじゃないだろうか。理由はいくつかある。ひとつは決勝戦が劇的な名勝負になったこと。アルゼンチンが優勝し、伝説として語り継がれるであろうメッシが最後の大会で栄冠を勝ち取った。そんなストーリー性も満足度を高めてくれる。久々にヨーロッパ以外のチームが優勝したのも大きい。ワールドカップが欧州選手権になってしまうと盛り上がらない。おおむねワールドカップは、欧州/アフリカで開催されると欧州のチームが優勝し、南米/アジアで開催されると南米が優勝するのだが(例外は2回ある)、今回もその法則が適用された。あとは、正直なところ、事前の期待値が低かったせいもある。サッカーの熱狂がまるで感じられないカタールで開催され、気候を理由に秋に開催するなどの無茶がまかり通ってしまい、始まる前からこの大会は失敗であり、マネーの力に屈した大会だという屈辱感があった。だが、終わってみたら予想外によい大会になった。それは競技内容そのものがすばらしかったということに尽きる。
●今大会はいくつも従来から大きな変化があった。大会前から各国のリーグで採用されていたものではあるが、5人交代とVARはサッカーを変えたと思う。コロナ禍から生まれた5人交代(ただし交代回数はハーフタイムを除いて3回まで)ルールのおかげで、厳しい日程にもかかわらず「消耗戦」にならなかった。5人交代はベテランの活躍も後押ししたのでは。従来、キーパーとセンターバック以外は32歳にもなればそろそろトップレベルでは厳しい印象だったが、今大会ではメッシ35歳をはじめ、オリヴィエ・ジルー36歳、モドリッチ37歳、クリスチャーノ・ロナウド37歳など、ベテラン勢が目立った。ネイマールですらもう30歳なのだ。交代枠のおかげだけではないとは思うが、場合によっては前半だけでお役御免という起用法も可能になったのは大きい。それとVARに関しては、どちらかといえば攻撃の選手が恩恵を受けていると思う。すぐにPKチェックが入るので、ペナルティエリア内でディフェンダーが慎重なプレイをするようになった。
●過去の大会よりゴールが増えたという話もあったが、それに関してはアディショナルタイムが長くなったことも影響しているはず。厳密にアディショナルタイムを取ることになり、7分や8分はあたりまえといった調子。実はこれはあまりうれしくない。ただでさえ長い試合がさらに長くなる。実質、前後半それぞれ50分はかかるイメージ。だったら45分ハーフじゃなくて、もう40分ハーフにしてしまえばいいんじゃないの。時間稼ぎのプレーは減ってほしいけど、試合そのものが長くなるのはうれしくない。
●あまり話題にならなかったが、女性審判が参加した。フランス人の女性審判が史上初めて主審を務めた。日本からは山下良美さんが参加。ただ、「6試合で第4審判を務めた」ということなのだが、主審が無理でも、せめて副審くらいは任せてほしかったという思いも残る。ワタシはJFLの試合で山下さんが主審を務めた試合を観戦したことがあるので、心情的には応援モード。ワールドカップで主審を務める雄姿を見たかった。
●今回、開催国カタールはまったくいいところがなかったけど、代わってモロッコ代表がアラブ世界の代表としてベスト4に入る健闘を見せた。モロッコ対フランス戦の場内の雰囲気は、あれがアフリカ対ヨーロッパではなく、アラブ対ヨーロッパなのだということを知らしめたと思う。フランスがボールを持つたびに出るブーイングにはいろんなニュアンスがあったんじゃないかな……。フランスといえば決勝戦後のセレモニーにマクロン大統領が出てきたが、まったく場違い。自国開催ですらないのに、なんのつもりなのか。世界中のサッカーファンが心のなかでブーイングをしたと思うが、ひょっとしてそこまで計算に入れてカタールはマクロンの乱入を許したのかも、と思わなくもない。

December 22, 2022

井上道義指揮NHK交響楽団「第九」演奏会

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●21日はNHKホールで井上道義指揮N響のベートーヴェン「第九」。先週の鈴木優人指揮読響に続いてふたたび「第九」を聴くことに。強靭なサウンドによる巨大な音楽。新国立劇場合唱団と東京オペラシンガーズによる合唱団が(コロナ禍以降としては)大きなサイズで、NHKホールの大空間に「歓喜の歌」が響き渡る。合唱、独唱ともに第2楽章の後に入場する方式で、独唱者が入ると拍手が起こった。第4楽章、低弦のレチタティーヴォがものすごい気迫で入ってきたのが印象的。独唱陣はクリスティーナ・ランツハマー、藤村実穂子、ベンヤミン・ブルンス、ゴデルジ・ジャネリーゼ。バスは当初予定されたマシュー・ローズから変更になったのだが、代役のゴデルジ・ジャネリーゼがすさまじいパワーで雄弁な歌唱。深くて強くて、しかもまろやかな声。NHKホールでオーケストラの後ろからこんなに声が届くとは。この名前、どこかで聞き覚えが……と思ったら、新国立劇場「ボリス・ゴドゥノフ」のピーメン役で聴いたばかりではないの。あのピーメンもすごかった。第4楽章の途中で打楽器陣とピッコロが入ってきて、3人並んで下手に陣取ったのにはびっくり。まるでピッコロ協奏曲のような瞬間も。
青の洞窟 2022
●代々木公園は3年ぶりに「青の洞窟」が復活。クリスマスと「第九」が渾然一体となっている。幻想的な光景に魅了されるが、「第九」を聴き終えた後にここのムード満点なBGMを聴かなきゃいけないのが少し惜しい。

December 21, 2022

上野通明(チェロ) 東京オペラシティ B→C バッハからコンテンポラリーへ

東京オペラシティ B→C 上野通明
●20日は東京オペラシティリサイタルホールで「B→C バッハからコンテンポラリーへ 247 上野通明(チェロ)」。昨年のジュネーヴ国際コンクール優勝者による無伴奏リサイタル。パラグアイに生まれ、幼少期をスペインのバルセロナで過ごしたという経歴の持ち主。プログラムが魅力的で、前半にタヴナーの「トリノス」、クセナキスの「コットス」、バッハの無伴奏チェロ組曲第6番、後半に森円花「不死鳥」(上野通明委嘱作品、世界初演)、ビーバーの「ロザリオのソナタ」から「パッサカリア」、ブリテンの無伴奏チェロ組曲第3番。バッハと現代曲を並べただけではなく、プログラム全体に「祈り」というテーマが緩やかに流れ、楽曲間にも有機的なつながりが感じられるのが吉。
●最初のタヴナーは宗教家然とした芸風が敬遠しがちな作曲家なのだが、聖歌風の静謐簡潔な祈りの音楽。続くクセナキス「コットス」が圧巻。神話上の怪物が題材となっているだけにゴツゴツした手触りの鬼のような難曲と思いきや、鮮やかなヴィルトゥオジティで、ほとんど滑らかといっていいほどの雄弁さ。すっかり手の内に入っているようで、聴き手を強烈にひきつける。バッハは若々しい勢いのある演奏。後半のビーバーもそうだが、モダンなスタイルによる大らかな歌にあふれた表現。新作の森円花「不死鳥」は予想以上にしっかりと尺のある聴きごたえのある作品で、背景に抽象的な模様が変化する映像が投影され(美術:Sao Ohtakeとのみクレジット)、音楽と連動する。無伴奏チェロの作品で「鳥」題材とくれば、カタルーニャ民謡〜カザルスの「鳥の歌」を連想せずにはいられないわけで、現在形の「平和への希求」を自然と読みとる。時折ドシン!と踏み鳴らされる足音が衝撃的。ブリテンの無伴奏チェロ組曲第3番は複数のロシアの主題が用いられた作品。ビザンツ聖歌をキーワードに冒頭タヴナーと呼応するプログラムの妙。アンコールはなし。

December 20, 2022

鈴木優人指揮読響のベートーヴェン「第九」

東京芸術劇場
●今回のワールドカップについてはまた改めて総括するとして、遡って16日は東京芸術劇場で鈴木優人指揮読響のベートーヴェン「第九」。BCJの「第九」を聴けなかったので、今年初「第九」。今年の読響「第九」は、第1部として鈴木優人のオルガン独奏がある。「第九」にオルガン曲を組み合わせるのは珍しくないが、指揮者自らが演奏し、しかも毎公演ごとにバッハの異なる曲を演奏するという趣向は、ほかの人にはまねできない。初日となったこの日は対照的な曲調の「神のひとり子なる主キリスト」BWV601と「トッカータとフーガ」ニ短調BWV565を独奏。久々に芸劇のオルガンのクラシック面を見たかも。オルガン曲の後、休憩が入るというアナウンスに客席が「え、入るの?」みたいな感じでどよめいたのがおかしかった。
●「第九」で感じたのは鈴木優人と読響の一体感が増しているということ。逆説的だけど、それゆえに読響サウンドの「第九」を聴いたという実感。指揮者の作り出す清新な造形と、オーケストラ持ち前の骨太のサウンドが組み合わさって、集中度の高い「第九」に。「第九」のヴィオラってこんなにきれいなんだという発見も。驚いたのは第3楽章の後で、ステージ上に合唱団も独唱者もいないのに、そのまま第4楽章に突入してしまった。独奏者が出番に合わせて入ってくる演出はなんどか見たことがあるけど、まさか合唱も? しかもピッコロとか打楽器とかも人が足りないような。と、思っていたら、オーケストラの歓喜の主題とともに合唱団、奏者たちが入場。なんだか入学式とか卒業式みたいだなと思いつつも、予想外の展開を楽しむ。声楽陣はキャロリン・サンプソン、オリヴィア・フェアミューレン、櫻田亮、クリスティアン・イムラーの独唱と新国立劇場合唱団。終楽章は熱気にあふれ、コーダで一段と盛り上がった。師走のスパートに向けてエネルギーを注入してもらう。

December 19, 2022

アルゼンチンvsフランス 最後に訪れた戴冠式 ワールドカップ2022 決勝

アルゼンチン●一か月に及んだワールドカップ2022カタール大会もついに決勝戦。キックオフが日本時間の24時で意外にも早い時間帯。暑さは?と思ったら、12月も後半に入りさすがのカタールの空気もひんやりとしてきた、らしい。アルゼンチン対フランス、そしてメッシ対エムバペの決勝戦は、決勝戦らしからぬスペクタクルになった。
●アルゼンチンは4-3-3の布陣。34歳ベテランのディ・マリアを左ウィングで先発させた。本来の右ではないが、右にはメッシがおり、中央に運動量豊富なアルバレスがいる。フランスは試合前、感染症で体調を崩す選手が多かったと言うが、ふたをあけてみればどうということもなく、4-3-3の布陣。前評判では(自分の予想でも)完成度の高いフランスが押す展開になると思われていたが、序盤からアルゼンチンがハイテンションで立ち向かい、なんとフランスが守勢に回る。ディ・マリアは動きにキレがあり、持ち前の技術の高さで左サイドを支配、対面するクンデをちんちんにする無双ぶり。そのディ・マリアが左サイドからカットインしてエリア内に切れ込んだところをデンベレが後ろからひっかけてPK。誘って取ったPKという感も。PKをメッシがキーパーの動きを見て落ち着いて決めて前半23分にアルゼンチンが先制。さらに前半36分、アルゼンチンは自陣から流れるようなパスをダイナミックにつなぎ、右からマカリスターが入れたラストパスを走り込んだディ・マリアが決めて2点目。ディ・マリアの大活躍で2点リードする予想外の展開になった。フランスはデシャン監督が前半41分のタイミングでデンベレとジルーを下げて、コロムアニとテュラムを入れる早い決断。これでテュラムを右サイドに置き、ここまで目立たないエースのエムバペを中央に置く布陣に。
●前半はそのまま終了し、後半半ば、アルゼンチンはディ・マリアを下げて、4-4-2のブロックで守る態勢に入る。これで試合が終わると思えたが、後半34分、フランスはコロムアニがオタメンディに倒されてPKを獲得。エムバペが決めて1点差。その直後、エムバペがテュラムとのワンツーで抜け出して、浮き球を美しいボレーで叩き込んで同点弾。あっという間に追いついてしまった。
●2対2のまま延長戦に突入すると、延長後半3分、アルゼンチンはゴール前の細かいパス交換からラウタロ・マルティネスがシュート、キーパーのロリスが弾いたところをメッシが蹴り込んでゴール。今度こそ試合が決まったと思ったが、延長後半13分、フランスは相手のハンドから得たPKをエムバペが決めて3対3の同点。これはシュートのブロックに入ったモンティエルの腕にたまたま当たってPKとなったもの。試合は盛り上がるが、判定としてはつまらない。こんなPK、1点ではなく0.5点にしたいくらいだ。
●延長戦の終盤に両者ビッグチャンスを迎えたが決まらずPK戦に。コイントスで、フランスが統計的に有利な先攻を得たものの、2本目、3本目を失敗。全員成功させたアルゼンチンが勝者となった。そもそもPK戦は「試合は引分けたが、先に進む勝者を決めるためのもの」と考えると、決勝戦にPK戦が必要なのか疑問も感じるのだが、とはいえ両者優勝では盛り上がらないのもたしか。それにしても、この試合もそうだが、大会全体を通して「PK」が主役になりすぎているとは思う。あと、PKを下に蹴る選手が多かったのも印象的(ニッポンもそうだったが)。一時期、上に速いボールを蹴れば読まれても止められないとして、上に蹴る選手が増えたと思っていたが、今は明らかに下が多い。きっと根拠があるのだろう。ともあれ、ハンドによるPKと、PK戦はルール再考の余地があると思う。
●内容的にもアルゼンチンが勝者にふさわしいと思っていたので、PK戦に勝ってくれてよかった。メッシが自身に唯一欠けていたタイトル、ワールドカップ優勝を手にしたのもうれしい。35歳なので最初で最後の優勝だろう。メッシはマラドーナも含めて歴史上最高のプレーヤーだと思うが、あまりにも傑出しているがゆえに、不合理な批判にさらされることが多かった。重圧から解放され、セレモニーで家族と一緒に喜びあう姿が印象的。そして、なぜかセレモニーに加わっているフランスのマクロン大統領。はっきり言って、場違いだ。

アルゼンチン 3(PK4-2)3 フランス
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★★

December 17, 2022

新日本フィル2023/24シーズン定期演奏会年間プログラム 佐渡裕記者発表会

新日本フィル 記者発表 佐渡裕 宮内義彦
●11月21日に開催された新日本フィル「2023/24シーズン定期演奏会年間プログラム 佐渡裕記者発表会」の話題を。会場は東武ホテルレバント東京。佐渡裕新音楽監督、宮内義彦理事長が登壇して、ふたりの対談コーナーをはさみながら進めるというスタイル。佐渡「新日本フィルは子供の頃から、⼩澤征爾先⽣や⼭本直純さんがいた憧れのオーケストラ。夜行バスに乗って京都から通ったこともある。東京デビューもこのオーケストラだった。そんな新日本フィルに第5代音楽監督として戻ってくることができて大変光栄であり、責任も大きい」
2023/24シーズンのプログラムで中心となるのは「ウィーン・ライン」。これからの数年間、ウィーンで活躍した作曲家たちを新日本フィルでのレパートリーの中心に置きたいという。「ウィーンで学んだことを手土産にしたい」(佐渡)。墨田区という地域に根差したオーケストラを目指しながら、オーケストラの特色を打ち出し、日本を代表する楽団にしたいといった抱負が語られた。
●新日本フィルのシーズンは4月はじまりなので、まずは23年4月に佐渡裕指揮でラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(辻井伸行)とリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」で開幕。佐渡音楽監督はほかにブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」、マーラーの交響曲第4番ほかを指揮。客演指揮者陣で目を引くのは、久石譲が9月に自作の新作とマーラーの交響曲第5番を指揮。「すみだクラシックへの扉」ではジャン=クリストフ・スピノジがロッシーニ、ヴェルディ、ワーグナー、ビゼーのオペラ序曲&名曲集を披露する。ほかにデュトワ、沼尻竜典、秋山和慶、デリック・イノウエ、ジョゼ・ソアーレス、阿部加奈子、鈴木秀美、上岡敏之が登場。
●ところでこの記者発表とはぜんぜん関係がないのだが、昨日のNHK「きょうの料理」が「マエストロ 佐渡裕の深夜メシ」だった。NHK+でオンデマンド視聴可。マエストロがリコーダーで番組テーマを演奏する姿を見ることができる。メニューは「ナポリタン」「オニオングラタンスープ」など。
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●宣伝を。「東京・春・音楽祭」の短期集中連載コラム「ヴヴヴのヴェルディ」は最終回となる第4回「仮面の向こうの素顔」を公開中。ご笑覧ください。

December 15, 2022

フランスvsモロッコ スーパースターの大会 ワールドカップ2022 準決勝

フランス●もうひとつの準決勝はフランス対モロッコ。前回王者のフランスはグループリーグから圧倒的な強さを見せながら順当に勝ち上がってきた。モロッコはアフリカ勢として初のベスト4進出。というよりはアラブ勢として、というべきか。場内は完全にモロッコ・ホームで、フランスがボールを持つとブーイングが出るほど。
●フランスはラビオとウパメカノのふたりが不在、モロッコはアマラーとアティヤットアラーがベンチスタート。モロッコはセンターバックを3枚にして5バックでブロックを敷く布陣。ニッポンがドイツやスペイン相手に成功を収めた試合を思い出させるが、開始早々の前半5分にいきなり失点してしまう。ゴール前の混戦からエムバペのシュートがこぼれたところに、テオ・エルナンデスが浮き球を鮮やかなボレーで決めて、フランスが先制。
●早い時間帯の失点はモロッコにとって大誤算だったと思うが、その後、センターバックのサイスが負傷交代して4バックに変更。本来の4バックのほうが中盤の厚みも増し、モロッコは攻撃が機能し始める。これを見ると、最初からいつも通り4バックにしていればと思わなくもないが、一方でフランスが先制していたのでモロッコにボールを持たせたとも言える。フランスになんどか決定機が訪れたが、モロッコは前半を1失点で耐えた。モロッコは前半45分、エルヤミクによるアクロバティックなオーバーヘッドシュートが最大の見せ場。枠をとらえていたが、フランスのキーパー、ロリスがファインセーブ。
●後半はモロッコがボールを持ち、フランスがカウンターを狙う展開に。フランスはジルーを下げてテュラムを投入。あのフランス大会でフランスが初優勝したときのリリアン・テュラムの息子だ。父は名ディフェンダーだったが、その父のアドバイスでフォワードになったのだとか。やはりアタッカーのほうが脚光を浴びるからなのか。後半34分、左サイドのテュラムからパスを受けたエムバペがゴール前の密集地帯をすり抜けるようなドリブルで突破、シュートが相手ディフェンダーに当たって右に流れたところに、途中交代で入ったばかりのコロ・ムアニが楽々と押し込んで追加点。コロ・ムアニはファーストタッチがゴール。これで勝負は決まり。2対0でフランスが完勝。あと一歩で1950年以来のヨーロッパ不在の決勝戦が実現するところだったが、フランスが強すぎた。
●決勝はアルゼンチン対フランス。波乱の多い大会と言われたが、最後はみんなが見たいカードが実現したのでは。モロッコが決勝まで勝ち進めばカタール大会が「アラブの大会」として記憶される可能性もあったわけだが、どうなんだろう、ヨーロッパの人々にはほっとした気持ちもあるんじゃないだろうか。
●今大会、異例の秋開催のため、各国とも準備期間がほとんど(あるいはまったく)なく、ぶっつけ本番ワールドカップのようになった。だから波乱が起きるのではないかと予想していたが、準備期間がないからこそ(そしてシーズン中でコンディションが万全だったからこそ)、アルゼンチンのメッシとフランスのエムバペという突出した個の能力で試合が決まった感が強い。決勝はメッシとエムバペのスーパープレイの応酬になればおもしろいが、だいたいは堅い試合になるんすよね。

フランス 2-0 モロッコ
娯楽度 ★★
伝説度 ★

December 14, 2022

アルゼンチンvsクロアチア 王様と従者たち ワールドカップ2022 準決勝

アルゼンチン●異例の秋のワールドカップもとうとう準決勝。アルゼンチン、クロアチア、モロッコ、フランスの4チームが残った。ここからは一日一試合のみの開催で、まずはアルゼンチン対クロアチア。ともに中心選手が明確で、アルゼンチンは4-4-2でトップにメッシ、クロアチアは4-3-3で中盤にモドリッチがいる。両者はまったく対照的で、メッシは多くの時間を歩いており、前線からの守備にエネルギーを浪費しない。一方、モドリッチは神出鬼没で、ビルドアップの場面にはディフェンスラインに加わる形で最後方からチームをサポートし、一方で前線にも顔を出してプレスにも参加する。後ろにも前にもいるモドリッチ。
●前半はお互い慎重で膠着状態が続いたが、前半32分から一気に試合が動く。アルゼンチンのフェルナンデスから浮き球の縦パス一本に抜け出たアルバレスが、飛び出してきたキーパーのリバコビッチとぶつかってPK。この判定にクロアチア側は納得がいかないようだが(VARもなかった)、メッシがPKを決めて先制。ここまでPK阻止で大活躍してきたリバコビッチだが、メッシは右上にズドンと蹴り込んだ。人類には絶対に止められないというコースとスピードなので、キーパーの技術も読みも関係なく決まる。さらに前半39分、相手コーナーキックからアルゼンチンがカウンターアタック、ハーフウェイライン手前からアルバレスが大爆走。左にフリーの選手がいたが、中央を突進、相手ディフェンスに2度もボールを触られながらも、その度にボールがアルバレスに帰ってきて、そのままシュート。ややツキもあったが、これで2点目。
●粘りのクロアチアもさすがに前半で2点を奪われると、動きが重い。選手たちの疲労も蓄積しているようで、高さの勝負に頼りがち。次々と交代選手を投入するがゴールが遠い。後半24分、メッシが右サイドからドリブルで深い位置まで斬りこんで、折り返したところをアルバレスが楽々とゴール。3対0でアルゼンチンが完勝した。
●アルゼンチンも5人の交代枠を使い切って選手を入れ替えるんだけど、35歳のメッシは下げない。なるほどと思ってしまった。走らないメッシを下げるよりも、メッシの分まで走り回らなきゃいけない選手たちを下げて、次の試合にフレッシュな状態にしておくことのほうが大切だというのは理にかなっている。メッシという超越的な異能を前提としたアンチ・モダンフットボール。それでペナルティエリア内の細かいパス交換とかドリブル突破など、ファンが見たいスペクタクルを見せてくれたのだから言うことなし。メッシ時代以降、アルゼンチン代表はあまりにメッシ依存度が高く、もっと別の戦い方のほうが強いんじゃないかと疑っていたが、アルゼンチンは2014年ブラジル大会以来の決勝に進出した。

アルゼンチン 3-0 クロアチア
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★

December 13, 2022

セバスティアン・ヴァイグレ指揮読響のチャイコフスキー&タネーエフ

●12日はサントリーホールでセバスティアン・ヴァイグレ指揮読響。チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番(反田恭平)とタネーエフの交響曲第4番という渋いプログラムながらチケットは早々と完売。反田さんのおかげで、タネーエフの交響曲第4番を満席のお客さんが聴くという現象が実現。すごい!
●チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番、まったく聴く機会がないわけではないが(過去にユジャ・ワン、ベレゾフスキーで聴いたと思う)、第1番に比べると極端に演奏頻度が少ないので貴重。第1楽章冒頭や第3楽章は十分キャッチーだと思うのだが、特に第1楽章が長くて構成感がつかみにくいのが不人気の理由だろうか。第1楽章のカデンツァが立派。第2楽章がピアノそっちのけでヴァイオリンとチェロの二重奏で開始される。これを聴くとブラームスのピアノ協奏曲第2番の第3楽章がチェロのソロで始まるのを連想するわけなんだけど、チャイコフスキーが1880年完成で1882年初演、ブラームスが1881年完成&初演で地理的条件も考慮すると、どちらかがどちらかの影響を受けたわけではなさそう。偶然なのか。第3楽章はとりわけ華やかで、ソリストとオーケストラが一体となって圧倒的な高揚感を生み出していた。長い協奏曲だったからなのか、ソリスト・アンコールはなし。
●後半、タネーエフの交響曲第4番は録音でも聴いたことがなく、今回初めて聴く曲。堂々たる三管編成から重厚で骨太の響きが聞こえてくる。大枠では師匠チャイコフスキーばりの交響曲なのだが、師よりも少しアカデミックな作風と言うのかな。構築感と抒情性を両立している立派な作品なんだけど、師と違うのは臆面もないロマンティックなメロディが決して出てこないということ。これだけの筆力があるなら、民謡由来のわかりやすいメロディをひとつふたつ導入すればレパートリーに定着する人気曲になったかもしれないのに……と思わなくもないが、作曲家としてはそんなつもりはさらさらないといったところか。第2楽章のおしまいでヴァイオリンのソロが出てくるのはブラームスの交響曲第1番の同楽章を連想させる。第4楽章の終盤でティンパニのロールでいったん曲を区切って輝かしいフィナーレへ向かうあたりはチャイコフスキー風味。幕切れは豪快。日頃聴けない曲を充実した演奏で聴けて満足度の高い公演だった。
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●宣伝を。小学館のファッション誌 Precious 2023年1月号にまたもや寄稿。Precious ChoiceのMusicの1ページで、今回はお正月らしくシュトラウス・ファミリーの話題。毎回言ってるけど、この雑誌、広告ページにびっくりで、コートが143万円、ワンピースが23万円、ブーツが35万円みたいな価格帯で、ワタシのような庶民が原稿を書いててすみませんって感じだ。価格帯だけ見れば高級オーディオ雑誌に近い世界。

December 12, 2022

パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルのベートーヴェン

パーヴォ・ヤルヴィ DKB●ワールドカップは準々決勝の後に二日間のお休み。遡って、9日は東京オペラシティでパーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィル。二日続けて通う。初日はオール・ハイドンだったが、二日目はオール・ベートーヴェン。しょうがないけど、こちらのほうが客入りがかなりいい。このコンビのベートーヴェンは伝家の宝刀。前半に「コリオラン」序曲、交響曲第8番、後半に交響曲第3番 「英雄」。一曲目、「コリオラン」の最初の一音からノン・ヴィブラートの弦の澄明さにグッと来る。ティンパニとトランペットがピリオド楽器の折衷仕様。対向配置。小編成だが、迫力に不足なし。切れ味鋭くエネルギッシュ。細部の完成度は前夜の驚異的なハイドンには及ばないものの、推進力にあふれた筋肉質のパーヴォのスタイルで、ユーモアの要素も忘れず自在のベートーヴェン。
●交響曲第8番で第2楽章からアタッカで第3楽章を続けたのがおもしろかった。パーヴォの意図はわからないけど、この曲って、第2楽章も第3楽章もスケルツォ的だなと思うので、スケルツォ~トリオじゃないけど、ひとまとまりにできそう。「英雄」でもやっぱり第2楽章と第3楽章をつなげていた。第3楽章から第4楽章にアタッカで入るケースはよくあるけど、これは珍しい。
●アンコールにシベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォ(ティンパニ入り)。前夜以上に盛んな拍手で、パーヴォのソロ・カーテンコールに。この日も空席のオーケストラを称えるポーズで喝采に応えた。

December 11, 2022

モロッコvsポルトガル イベリア半島制圧 ワールドカップ2022 準々決勝

モロッコ●ワールドカップ準々決勝二日目、スペインをPK戦の末に制したモロッコは、今度はポルトガルと対戦。ジブラルタル海峡を渡りイベリア半島へと進撃するモロッコ。スペイン戦と同様、相手にボールを持たせて、堅い守備を武器にカウンターをくりだす試合展開に。ポルトガルは前の試合に続いてクリスティアーノ・ロナウドがベンチ。前のスイス戦で代役の若いゴンサロ・ラモスがハットトリックの大爆発を見せたのだから、勢いのある若手をそのまま先発させるのはフェルナンド・サントス監督ならずとも自然な考え方だろう。
●ポルトガルは技術が高く、スペインよりも攻撃のアイディアが豊富。モロッコのディフェンスをたびたび脅かすが、決めきることができない。押され気味のモロッコだったが、前半42分、左サイドからアティヤットアラーがクロスボールを放り込むと、中央でジャンプしたエンネシリが驚異的に高い打点からヘディングで合わせて先制ゴール。ニッポンが失点した場面にも言えることだが、クロスを入れる選手に対してノープレッシャーだと、本当に中でドンピシャで合ってしまう。この後、ポルトガルはクリスティアーノ・ロナウドらを投入し、惜しいチャンスをなんども作ったが、守ると決めたモロッコは堅い。そのまま1点を守って逃げ切った。モロッコの、そしてアフリカ勢の初のベスト4進出が決まった。ここまで劇的な試合が多かっただけに、この逃げ切りはやや味気ない気もしたが、実際にはワールドカップは先に進むほどこういう試合が増えるのが常か。
●過去21回の歴代ワールドカップを振り返ると、2度の例外を除いて、欧州/アフリカで開催した場合は欧州が優勝し、北中南米/アジアで開催した場合は南米が優勝している(例外は1958年スウェーデン大会のブラジル優勝と2014年ブラジル大会のドイツ優勝)。今回はアジアなので南米優勝の可能性が高いという見方もできるが、カタールがアジアなのはFIFAの分類にすぎないわけで、初めてのアラブ世界での開催とみなせば、アラブの一員であるモロッコこそが優勝にふさわしいのかもしれない。

モロッコ 1-0 ポルトガル
娯楽度 ★★
伝説度 ★★★

December 10, 2022

クロアチアvsブラジル 延長戦の王者 ワールドカップ2022 準々決勝

クロアチア●ニッポンと引き分けてPK戦で準々決勝に進出したクロアチアは、ブラジルと対戦。前の韓国戦では4対1のお祭りサッカーをくりひろげたブラジルだが、この試合はまったく違った渋い展開になった。クロアチアは意外と前線からプレスをかけてくる。個々の守備能力が高く、ブラジル相手に一歩も引くことのない戦いぶりで、なんと前半はボール保持率でブラジルを上回った! 時間帯によってはブラジルがブロックを敷いて守る場面もあったほど。運動量も豊富。
●クロアチアはやはりモドリッチが獅子奮迅の働き。今大会、ニッポンは4バックのところを3バックにして(つまりセンターバックを1枚増やして)強豪と対戦していたが、そこには後ろを一枚増やさないとボールを持てない、ビルドアップができないという事情があったと思う。クロアチアの場合はどうするかというと、中盤のモドリッチがバックラインに入ってビルドアップに参加する。ブラジルはネイマールが守備をしないので、モドリッチはネイマールの近くでボールを持つと、余裕を持って前にボールを供給できるのだ。その一方、ブラジルがディフェンスラインでボールを持っているときには、気がつくとモドリッチが前線にいて、相手にプレッシャーをかけていたりする。前に行ったと思ったら、後ろに帰ってくる。モドリッチが戻りっち。これがクロアチアの生命線。
●しかし、後半の後半あたりからさすがのクロアチアにも疲れが見え、次第に耐える展開に。モドリッチが戻れないっちになる。キーパーのリバコビッチのファインセーブもあって、かろうじて持ちこたえたものの、延長戦に入るともはや限界に。ブラジルの華麗なパス回しから中央突破したネイマールがキーパーを交わして、先制ゴール。これで決まりと思った試合だったが、延長後半12分、オルシッチがドリブルでペナルティエリア左に侵入、折り返したところをペトコビッチがシュート。これが相手ディフェンスに当たって角度が変わり、ゴールに吸い込まれた。もう執念のゴールと呼ぶしか。ブラジルにとっては不運な失点。1対1の同点。
●PK戦ではクロアチアが有利な先攻をゲット。ブラジルは最初のロドリゴと4人目のマルキーニョスが失敗。日本戦に続いてまたしてもPK戦でリバコビッチがヒーローになった。それにしてもクロアチアのメジャー大会における延長戦突入率の高さと、その突破率は相当なものでは。この後もすべて延長PK戦で優勝してくれたら最高だ。そもそもクロアチアはこの大会で1勝しかしていない。5試合やって、1勝4引分け(記録上、PK戦は引分け扱い)。カナダに1勝しただけで優勝したら……それは伝説。
●ちなみにもう一試合、オランダ対アルゼンチンはやはり延長PK戦でアルゼンチンが準決勝に進出した。この試合はかなり荒れた内容になった。アルゼンチンが2点リードして何事もなく終わりそうだったのが、選手同士の余計な揉め事をはさみながら、オランダが2点を追いついた。PK戦でも選手間の挑発などがあったようで、詳しいところまではわからない。
●今回、ABEMAが全試合無料ネット配信してくれたのはありがたいのだが、ライブでは高画質なのに、見逃し配信だと画質がいまひとつ。なので深夜の試合はなるべくテレビ中継の録画を観たいのに、全部の試合は放送してくれない。クロアチアvsブラジル戦はテレビ放映があったが、オランダ対アルゼンチンはABEMAのみ。ABEMAに見逃し配信でも高画質になる有料オプションがあればいいのにと思うが、そういうものは見当たらない。

クロアチア 1(PK4-2)1 ブラジル
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★

December 9, 2022

パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルのハイドン

オペラシティ クリスマスモード
●ワールドカップはラウンド16と準々決勝の間に2日間のお休みが入る。さすがのカタール大会もこの休養日をカットすることはできなかったか。
●で、8日は東京オペラシティでパーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィル。二日続けての公演で初日はオール・ハイドン・プログラム。前半に交響曲第102番、交響曲第96番「奇跡」、後半に交響曲第104番「ロンドン」。自分史上最強に強まったハイドンを聴いたという充実感。キレッキレで、明るくてカラフル。隅から隅までピントがぴたりと合っているような気持ちよさ。第102番はベートーヴェンを先取りするかのような屈指の傑作だと思うが、推進力豊かでパワフル。「奇跡」はユーモアの要素が際立っていた。自然と笑みが漏れるハイドン。管楽器の達者な名人芸も楽しい。「ロンドン」は一段と高揚感にあふれ、遊び心もたっぷり。これだけエキサイティングで壮麗なハイドンを聴いてしまうと、並の演奏が色褪せてしまいそう。
●パーヴォはN響首席指揮者時代にたくさん聴く機会があったわけだけど、なんだかもう懐かしい気持ちになってしまう。このビシッとビートを打ち込む感とか。
●アンコールは知らない曲だったが、レオ・ヴェイネルのディヴェルティメント第1番より第1楽章。カーテンコールをくりかえした後、意外と早く拍手が弱まったが、それでも場内に残った人たちの拍手が続いて、パーヴォのソロ・カーテンコールに。パーヴォは空のステージに向かってオーケストラを称えるしぐさを見せてくれた。

December 8, 2022

モロッコvsスペイン ジブラルタル海峡対決 ワールドカップ2022 ラウンド16

モロッコ●さて、ワールドカップはベスト8が出そろった。ラウンド16のモロッコ対スペイン戦は、延長戦まで戦って0対0。PK戦になって、なんと、スペインは3人連続失敗して大会を去ることになった。PK戦といえばニッポンもこれでクロアチアに敗れたわけだが、スペインのルイス・エンリケ監督は試合前に「選手たちに大会に向けてPKの練習を1000本するように命じてある」といい「PKはクジではない。練習すればうまくできる」と豪語していたという。それでもスペイン代表の名手たちが全員外してしまうのがPK戦。ルイス・エンリケ監督の発言こそが、逆説的にPK戦はクジであることを示しているようにも思う。
●しかも、なにがカッコ悪いかといえば、ルイス・エンリケ監督は延長戦の終盤で途中交代で出場していたニコ・ウィリアムズを下げて、わざわざPK戦要員としてパブロ・サラビアを投入していたのだ(そして彼は一人目に蹴って失敗した)。ニコ・ウィリアムズはチャンスを作っていただけに、この策はなんとも間が悪い。そしてニコ・ウィリアムズはもう監督を信頼しないだろう。PK戦について確実に言えることは、統計的に先攻が明白に有利であるということくらい。
●で、試合内容だが、モロッコは5バックこそ敷かなかったものの、ニッポン対スペイン戦を参考にしたかのような戦いぶりだった。試合序盤からスペインにボールを持たせて、自陣にブロックを敷いて、粘り強く守りながらカウンターのチャンスを狙う。ボール支配率もパスの本数も成功率もスペインが圧倒的に高かったのだが、実際には数字とはうらはらに五分の戦いだと感じた。というのも、スペインに決定的なチャンスをクリエイトする力が不足しており、むしろモロッコのほうが質の高いチャンスを作っていた。120分で、スペインの枠内シュートはセットプレイからの2本だけ。同じパスサッカーをしていると言っても、かつてのシャビやイニエスタがいた「ティキタカ」全盛期とはだいぶ違っている。内容的にはニッポン戦よりも低調だったかも。
●これでアフリカ勢が一か国だけベスト8に残った。もっとも「アフリカ勢」という呼び方にどれだけ意味があるかとは思う。4年前のワールドカップ2018ロシア大会テレビ観戦記にも書いたことだが、アフリカのヨーロッパB化が進んでおり、アフリカといってもヨーロッパの育成組織の出身だったり、そもそもヨーロッパの生まれや育ちだったりする一方、ヨーロッパの主要強豪国はアフリカにルーツを持つ最高の選手たちを代表選手に迎えている。象徴的だったのは、グループステージでのスイス対カメルーン戦。スイス代表のエンボロがゴールを決めた瞬間、ぐっとこらえて歓喜のポーズを自制した。この選手のことを知らなかったけど、なにが起きたかはすぐに察した。エンボロはカメルーン生まれの選手なのだ。子供の頃にフランスに移り、その後、スイスで暮らしている。スイスとカメルーン、どちらの代表になることもできただろうが、スイス代表を選んだ。そして、大舞台で母国と対戦することになり、決勝点となるゴールを決めた。ニッポン代表の選手たちがよく言う「国を背負って戦う」という概念がここではかなり複雑化している。
●ベスト8の対戦カードはクロアチア対ブラジル、オランダ対アルゼンチン、モロッコ対ポルトガル、イングランド対フランスに決まった。モロッコはスペインを破って、さらにポルトガルと対戦するのがおもしろい。この勢いで優勝しないだろうか。異例づくめのカタール大会だけに「初優勝国」が誕生するのではないかと期待している。ちなみにモロッコ代表を大会前まで率いていたのは、かつてニッポン代表監督を解任されたハリルホジッチで、主力選手との確執から今年8月に解任された。それでレグラギ新監督が快進撃をしているわけで、どうにもハリルホジッチという人はついていないと言うべきなのか、それともそうなってしまう必然があると考えるべきなのか……。

モロッコ 0(PK3-0)0 スペイン
娯楽度 ★
伝説度 ★★★

December 7, 2022

ブルース・リウ ピアノ・リサイタル

東京オペラシティ
●ワールドカップが巨額マネーの力で無理やり秋開催になったおかげで、各チーム、これまでより短い間隔で試合をせざるを得なくなっている。本当にけしからん話なのだが、唯一、よいことがあるとすれば、シーズン中なので選手のコンディションは万全だという点。しかし、ワタシたちは連日連夜エキサイティングなコンサートが開催されているシーズン中に、真夜中やら早朝やらに試合を観るためにコンディション調整で苦労している。FIFAよ、これでいいのか……あ、この話、何度目だ?
●というわけで、5日の夜は東京オペラシティでブルース・リウのピアノ・リサイタルへ。ショパン・コンクール優勝者をようやく聴くことができた。場内は満席。女性の比率がとても高く、年齢も若め。夜の公演だが子連れの姿も。リウのファン層というよりは、ショパン・コンクール入賞者の客層はこうなるのか。同じ会場でもシフなんかのリサイタルとはぜんぜん雰囲気が違う。
●プログラムは前半がショパンで、マズルカ風ロンド、バラード第2番、「ドン・ジョヴァンニ」の「お手をどうぞ」変奏曲。後半がラヴェルの「鏡」とリストの「ドン・ジョヴァンニの回想」。前後半をそれぞれ「ドン・ジョヴァンニ」テーマで締めるきれいなプログラム。ラヴェル「鏡」の「道化師の朝の歌」もドン・ファン的な題材といえるかもしれない。ピアノはFAZIOLI。きらびやかで軽やかな音色が似合う。一曲目のマズルカ風ロンドから技術的に最高水準のピアニストであることを実感。キレもあり柔らかさもあり、表現のコントラストが鮮やかで、細部まで磨き上げられている。踊りの要素が感じられるのも吉。プログラム全体に一貫して華麗なピアニズムを堪能。
●本編のプログラムが終わると、特に1階席前方を中心にお客さんがさっと立ち上がる。これが若さなのか。アンコールを弾き出すと座り、弾き終わると立ち上がる。立ったり座ったりがめんどくさくないという機動力。アンコールは、まずラモーの「優しい嘆き」、同じくラモーの「未開人」、ショパンのノクターン第20番嬰ハ短調遺作、ショパンの3つのエコセーズop.72-3、リストの「ラ・カンパネラ」。ピアノに座るたびに客席から期待のどよめきが漏れる。特に「ラ・カンパネラ」が始まったら、客席が本当にぞぞぞっとざわついた。この雰囲気、久しく体験してなかったけど、そういえばライブにはこういう喜びがあるのだったと思い出す。あと、小学生の女の子がぴょんぴょんと飛び跳ねながら拍手していて、とてつもなく尊いものを目にしたと思った。
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●宣伝を。「東京・春・音楽祭」の短期集中連載コラム、「ヴヴヴのヴェルディ」第3回「その占いは当たる」を公開中。どうぞ。

December 6, 2022

ニッポンvsクロアチア ふたたびPK戦に阻まれる ワールドカップ2022 ラウンド16

ニッポン!●最近、夜更かしはしない主義だったが、ライブでテレビを観る。午前0時からの試合だけど、2時には終わってくれないんすよね、延長PK戦に入ると。だが、試合中に眠くなる瞬間は訪れなかった。決勝トーナメント一回戦、ニッポンは前回準優勝のクロアチアと対戦。クロアチアは37歳のモドリッチが中心選手として健在。団結力がありチームとして戦うという点で、ニッポンと似たタイプ。優勝も狙える強豪ではあるが、個の力ではグループステージで戦ったスペインやドイツほどではない。
●だから、もしかすると森保監督は4バックに戻して、多少攻撃的な布陣にするかも、と期待していた。センターバックの板倉が出場停止で、右サイドバックの酒井が初戦以来ケガから復帰しているので、4バックだとセンターバックを吉田と冨安、あるいは冨安がまだ万全でなければ吉田と谷口で組める。その場合は左ウィングに三笘を先発させるかも……。が、森保監督は現状で機能している布陣を優先する方針で、3バック(5バック調)を採用。GK:権田-DF:冨安、吉田、谷口-MF:伊東、遠藤、守田(→田中碧)、長友(→三笘)-堂安(→南野)、鎌田-FW:前田(→浅野)。序盤は5バック調だったので、ほとんどの時間帯でクロアチアにボールを持たれる展開。相手が攻撃に人数をかけていないのに引きすぎだと思ったが、次第に両サイドの長友、伊東が高い位置まで上がるシーンが増えて、ニッポンもボールを持つ時間が増えるようになる。クロアチアも慎重。しかし前半43分、ニッポンのショートコーナーから堂安が入れたクロスにファーサイドで吉田が折り返したところに、すばやく反応した前田が蹴り込んで先制。とてもよい時間帯の先制点で、クロアチアとしては大誤算だったはず。
●しかし後半10分、クロアチアは右サイドからロブレンがクロスを入れると、これをペリシッチが頭で合わせて同点ゴール。サイドを深いところまでえぐられたわけではなく、なんでもないクロスだったのだが、クロスを上げる選手にプレスをかけなかったため、すごい精度のボールが飛んできてしまった。これはスペイン戦の失点とまったく同じ。この日の悔やまれるプレーはここだけ。その後、一進一退の状況が続き、途中出場の三笘が長い距離をドリブルして惜しいシュートを放つなど見せ場は作ったが、得点には至らず。途中出場の浅野、南野もインパクトを残せない。どちらがゴールを奪ってもおかしくない状況だったが、延長戦に入ると互いにリスクをとらずペースダウンして、PK戦へ。
●ニッポンは統計的に有利な先攻だったが、いきなり南野、三笘が続けてセーブされ、浅野は決めたが、4人目の吉田までセーブされてしまう。枠を外すのではなく、3人もキーパーにセーブされてしまったのだから、これはもうクロアチアのキーパー、リバコビッチの鬼セーブを称えるしかない。クロアチアはワールドカップでもEUROでもいつも延長戦までもつれこんでいる印象があり、相手の型にはまったという気もする。2010年南アフリカ大会のパラグアイ戦と同じく、ニッポンはPK戦にベスト8を阻まれた。PK戦の本質は抽選であり、試合の勝敗としては引分けなので、クロアチアに「負けた」という感覚はない。「勝てなかった」というのが実感。こうなったらクロアチアに優勝してほしい。モドリッチはすでに伝説だが、37歳で優勝したら新たな伝説が誕生する。
●ニッポンの今大会、冨安を筆頭に遠藤、酒井などコンディション面でやりくりが苦しかった。絶対的エースと期待された南野の今シーズンの不調も誤算。谷口、長友にここまで出番が回ってくるとは。守田も本調子には遠い様子。それでもトータルでは史上最強チームだったと思う。5人交代制、VARといった新しいルールを味方につけた戦いも印象に残った。そして、個々の選手が普段から欧州の高いレベルでプレイすることが強化の王道だと改めて感じるとともに、その礎となるのはJリーグのレベルアップであり、中田英寿のいにしえの名言「Jリーグもよろしく」は今なお真実。
●その後のもう一試合はブラジルが韓国に4対1で圧勝。これで決勝トーナメントに進出したオーストラリア、日本、韓国がそろって敗退。明日、モロッコがスペインに勝たない限り、ベスト8は「欧州選手権+ブラジル・アルゼンチン」という毎度おなじみの顔ぶれになって、ここまでの波乱などきれいさっぱり忘れられてしまいそう。

ニッポン 1(PK1-3)1 クロアチア
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★

December 5, 2022

ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団のブルックナー2

ファビオ・ルイージ NHK交響楽団
●ふー。日々カタールで熱戦がくりひろげられているなか、東京のコンサート・シーンも熱い。だからこんなハイシーズンにどうしてFIFAはワールドカップを開いたのかと(以下略)。
●3日はNHKホールでファビオ・ルイージ指揮N響。前半にワーグナーのウェーゼンドンクの5つの詩(藤村実穂子)、後半にブルックナーの交響曲第2番(初稿/1872年)。ブルックナーの2番、しかも初稿という貴重なプログラム。前半は藤村実穂子の深くまろやかな歌唱とオーケストラの陰影に富んだ音色を堪能。第3曲の「温室で」、なぜ愛の歌に温室が出てくるのか、というのはプログラムノートの広瀬大介さんの解説を読むとよくわかるわけだが、ここでいう温室とはトマトやホウレン草を育てるビニールハウスではなく、南国の植物を生育させるオランジェリーのほう。ということは、なじみ深い場所でいえば、新宿御苑が誇る大温室がそれに近いのか? 東京のど真ん中に植えられた約2700種もの熱帯・亜熱帯の植物たちに思いを馳せる。
●ブルックナーの交響曲第2番というと、かつてムーティ指揮ウィーン・フィルの来日公演で聴いて、「こんなにすばらしい曲があったのか!」と驚いたのだが、たぶん、そちらとは版が違っていて、初稿。第2楽章がスケルツォで第3楽章が緩徐楽章になっている。初稿だからなのかな、できあがったブルックナーと粗削りのブルックナーが渾然一体となっていて、どこか「推敲前」みたいな印象を受ける。ルイージとN響の演奏はしなやかな流れを持った歌うブルックナー。終楽章は熱い。コーダの妖しいダサカッコよさは尋常ではない。ここを聴くと、オジサンたちがスキップしながら輪になって踊ってる光景を連想するのはワタシだけなのか。

December 4, 2022

アルゼンチンvsオーストラリア アジア勢の健闘はどこまで? ワールドカップ2022 ラウンド16

●ワールドカップ2022カタール大会は決勝トーナメントに入った。開催国カタールがまったくいいところなく敗退してしまったが(アジア・カップではあんなに強かったのに)、アジアからはオーストラリア、日本、韓国の3チームがグループステージを勝ち抜いた。アジア勢3チームは史上初。敗退したサウジとイランもそれぞれアルゼンチン、ウェールズに勝利しており、これまでのようにアジアは「やられ役」にはなっていない。特に韓国の第3戦はポルトガルに勝利した上で、もうひとつの試合が理想的な結果に終わってくれて大逆転での決勝トーナメント進出で、これにはびっくり。もちろん最大の驚きはニッポンがドイツとスペインに勝って1位通過したことだが。あと、3戦全勝が1チームもない。
●16強の内訳は欧州8、アジア3、南米2、アフリカ2、北中米1。アフリカも健闘している一方、南米はブラジル、アルゼンチンのみ。北中米1はいつものメキシコではなくアメリカだ。
アルゼンチン●で、ここからは一発勝負。ラウンド16のアルゼンチンvsオーストラリア戦は、予想通り、アルゼンチンが攻めてオーストラリアがブロックを敷いて守る展開。オーストラリアはファジアーノ岡山のフォワード、ミッチェル・デュークがこの日も先発。J2の選手がワールドカップに出場し、さらに決勝トーナメントで戦っているという未来がここに。ディフェンスのミロシュ・デゲネクも元マリノスの選手。アルゼンチンはやはり35歳になったメッシが中心のチーム。メッシはおおむね歩いている。代わりに他の選手が走る。アルゼンチンはそういうサッカー。前半35分、縦パスを受けたオタメンディがワンタッチで落としたところにメッシが左足を振り抜いて先制ゴール。オーストラリアは前半をこの1失点で凌いだ。
●後半、オーストラリアは前線へプレスをかけ、前に出る。ところが後半12分、前線へのプレスを実らせたのはアルゼンチンのほう。メッシは歩いていても他の選手が走るのだ。デパウルがディフェンス・ラインにプレスをかけ、オーストラリアのキーパー、ライアンがバックパスの処理をわずかに誤って前にボールが流れたところをアルバレスが奪って、ゴールに流し込んで2点目。ふたりの連動したプレスから相手のミスを誘った。悔やまれるのはオーストラリアのキーパーのライアンで、バックパスをそのままダイレクトで蹴り返せばなんでもなかったところを、甘いトラップを刈られてしまった。
●後半32分、オーストラリアはグッドウィンの思い切り打ったシュートが相手ディフェンスにリフレクトしてゴールに入って1点を返す。ここからパワープレイを交えながらオープンな攻め合いになったが、今のオーストラリアは一昔前と違って案外とパワープレイがうまくない。むしろときどき爆発的に躍動するメッシが脅威を与えていた。終了直前にゴール前の混戦からクオルにビッグチャンスが巡ってきたがこれを決めきれず、アルゼンチンが2対1で勝利。アジア勢にはここからの壁が高い。

アルゼンチン 2-1 オーストラリア
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

December 2, 2022

ニッポンvsスペイン 伝説はくりかえす、コピペのように ワールドカップ2022 グループE

ニッポン!●朝4時からの試合を5時半から追っかけ再生で観戦した。グループEはすべてのチームに決勝トーナメント進出のチャンスがある状況で、ニッポン対スペイン戦とコスタリカ対ドイツが同時キックオフ。コスタリカ戦で敗れて意気消沈したが、ここでニッポンとコスタリカが勝利すればそろって勝ち抜け、スペインとドイツが敗退するわけで、ひそかにそんな事態を夢見ていた。なにせ大会前はだれもがグループEは2強2弱の無風区と決めつけていたのだから。
●試合は奇妙なくらいドイツ戦と似た経緯をたどった。ただしニッポンは最初からセンターバックを3枚にして3バック、いや、もう完全に5バック。左の長友はともかく、右のウィングバックと思われた伊東までディフェンスラインに吸収されている。中盤のキープレーヤー遠藤はベンチ、冨安もベンチで、谷口がセンターバックの一員として大会初出場。GK:権田-DF:伊東、板倉、吉田、谷口、長友(→三笘)-MF:田中碧(→遠藤)、守田-久保(→堂安)、鎌田(→冨安)-FW:前田大然(→浅野)。
●前半は一方的なスペインペース。開始早々に高い位置で奪って伊東がシュートを打つなどチャンスはあったが、以降はひたすら耐える展開。前半11分にスペインはモラタのヘディングシュートであっさり先制。完全に右サイドバックの位置まで下がる伊東。前田はプレスをかけるだけで疲弊する。センターバック3人が3人とも前半のうちにイエローカードをもらう厳しい展開。スペインの攻撃を凌いで、ようやくボールを奪っても、それが次につながらない。この相手にはもう一段階、技術に精度がないとボールが持てない。前半だけで3失点くらいしてもおかしくない内容で、ドイツ戦と同様、1失点で済んだのは運もあったと思う。
●後半、森保監督は長友を三笘に、久保を堂安に交代。前線からのプレスがはまり、後半開始早々の3分、右サイドから中に入った堂安の豪快なシュートが相手キーパー、シモンの手をはじいて同点ゴール。得意の形。これもドイツ戦の再現のよう。さらに後半6分、堂安のパスにファーサイドでゴールラインぎりぎりで追いついた三笘が折り返し、中央に走り込んだ田中碧が押し込んで逆転!……なのだが、これはゴールラインを割っていたように見えたので、VARでゴールが取り消されるはずだと思った。どう見てもラインを割っていたように見えたので、こちらも喜ぶことなく冷静に待っていたら、な、なんと、VARの結果ゴールが認められた! ええっ。が、これはもちろんビデオで確認したのだから判定は正しいのだ。肉眼ではラインを割っているように見えても、上から見ればボールの端がわずかながらラインに残っていたっぽい。ビデオ判定がなければ認めてもらえなさそうなゴールで、これはテクノロジーの恩恵。
●さすがのスペインも逆転されると前半がウソのように動きが悪くなり、しばらく一進一退の時間帯が続く。スペインは選手交代で攻勢を強め、ニッポンは遠藤、冨安といった守備のキープレーヤーを投入。終盤はふたたび一方的にスペインが攻める展開になったが、ニッポンは権田の好セーブもあって守り切った。まさかの逆転勝利、ドイツ戦の再現。ニッポンはグループ1位で決勝トーナメント進出を決めた。ニッポンのボール保持率は17.7%。これはワールドカップ史上、もっとも低い保持率での勝利なのだとか。かねてよりボールを保持するスタイルを「自分たちのサッカー」に掲げていたチームが、保持しないことの有利さを大舞台で証明するとは。
●コスタリカ対ドイツ戦も、前半終了時にはドイツがリードしていたが、後半にコスタリカが逆転する時間帯があった。そのわずかな時間、ニッポンとコスタリカが進出、スペインとドイツが敗退するという順位が実現していたのだが、ドイツが追い付き、さらに逆転してしまった。ドイツがしぶとく勝ってくれたおかげで、スペインは負けても2位通過できるという状況だったので(しかも2位通過のほうが後の対戦相手が楽)、最後の最後はスペインも無理をする必要はなかった。もっとも、ピッチ上の選手たちはコスタリカが逆転したことも、ドイツが再度逆転したことも知らなかったかも。逆にドイツの選手たちは、まさかニッポンがスペインに勝つとは思っていなかっただろうから、勝利したのに敗退が決まったことをすぐには受け入れられなかったかもしれない。

ニッポン 2-1 スペイン
娯楽度 ★★★★★
伝説度 ★★★★★

December 1, 2022

ロナルド・ブラウティハムのベートーヴェン&シューベルト

ロナルド・ブラウティハム トッパンホール公演
●ワールドカップはグループステージ第3戦で一日4試合も開催されているのだが、ハイシーズンだけに聴きたい演奏会もいっぱいある。やっぱり秋にワールドカップを開催するのはおかしいんじゃね? 真夏のカタールでやればよかったじゃん。灼熱の砂漠で、みんな水筒を背負って随時水分補給しながら20分ハーフで決着をつける草サッカーみたいなワールドカップでも、ワタシは許せたよ、この時期にやるくらいだったら。FIFAよ、考え直せ、今からでも遅くない!(遅いです)。
●というわけで、16日はトッパンホールでロナルド・ブラウティハムのフォルテピアノを聴いた。プログラムは前半がベートーヴェンの「エロイカの主題による変奏曲とフーガ」とピアノ・ソナタ第23番「熱情」、後半がシューベルトのピアノ・ソナタ第21番。ステージ上には2台のフォルテピアノが置かれており、ベートーヴェンではポール・マクナルティ(2002年作)によるアントン・ワルター・モデル(1800年頃)を、シューベルトではハン・ゲオルク・グレーバーのオリジナル(ウィーン式/1820年製)を使用。
●こうして当時の楽器で聴くと、演奏行為が楽器製作というクラフトマンシップと不可分な関係にあると改めて感じる。特にベートーヴェンはある種の超越性にとりつかれているかのようで、与えられた環境の境界条件を探ろうとする音楽を書いている。音域やダイナミクス、形式など、矢印がいつも外側に向いている感じだ。もしベートーヴェンがモダンピアノを手にしていたら、きっとモダンピアノの限界に挑むような作品を書いていたにちがいない。それに比べると、後半に聴くシューベルトはずっと矢印が内向き。しかし、それによって音楽が小さくなるかといえばそうはならず、むしろこの最後のソナタともなると豊穣なるインナースペースへの探索によってベートーヴェン以上のスケールの大きな音楽を作り出している。
●ピリオド奏法はあり得ても、ピリオド聴法は困難だとよく感じる。ギトギトのロマン主義に侵された脳は、ついつい「えっ、そこはもっとタメないの」とか条件反射的に思ってしまったり。いや、タメなくていいんすけど。一種の認知的不協和というべきか。アンコールはシューベルトの「楽興の時」第3番、ベートーヴェンの「エリーゼのために」。
●ところで、明日の午前4時からニッポン対スペイン戦が始まるわけで、いったいこれはどうしたものか。ライブで観てしまうとその日の予定がガタガタになってしまいそうだが、かといって普通に起床してから録画を観るなどと悠長なことを考えていると、光速で結果バレしそうである。そこで、もろもろバランスを考慮して、まだ試合が終わっていない午前5時半から追っかけ再生で観る作戦がよいのではないかと思いついた。どうかな。

December 1, 2022

イランvsアメリカ クラシックvsモダン ワールドカップ2022 グループB

イラン●ふう。今日は純粋にサッカーの話題だ。今回のグループステージでも必見のカード、イラン対アメリカ。もともと両国の関係から注目度の高い試合だが、両チームとも勝てばグループステージ突破が決まるという熱い状況での対戦になった。地の利を生かしてイランは観客席を味方につけるが、案外とアメリカのサポーターも多いのが驚き。ワールドカップならではのひりひりするようなタフなゲームになった。主審も簡単には笛を吹かないジャッジ。見ごたえのある試合に。
●両チームのカラーは対照的。イランはケイロス監督が復帰したのがはたしてよかったのかどうか……。堅守速攻のクラシカルなスタイル。開始早々こそ観客席に後押しされて攻め合いになったが、すぐに守りの姿勢に。一方、アメリカはコレクティブなモダン・サッカー。全員が欧州のクラブに所属し、ビッグクラブの選手も何人かいるうえに、全体が若く、スピードも運動量もある。前回対戦したときに感じたことだが、わりとニッポンと似ている(そのときはこちらが一枚上手とは思ったが)。イランは守ってボールを奪っても、周囲の選手のサポートが少なく、攻撃がつながらない。トップのアズムンの運動量があまりに乏しい。次第にアメリカの攻撃に耐えられなくなり、前半38分、プリシッチに決められて失点。
●後半頭からイランはアズムンを下げてサマン・ゴドスを投入。最初からこうすればよかったのに。タレミが核となって攻める。アメリカは後半半ばから5バックにして守り切る姿勢にチェンジ。高さとパワーで勝るイランはロングボールを用いながら、猛攻を繰り出す。ただ、これが拙攻気味で、プレイが雑なのと、選手の連動性が足りないために、決定機が少ない。気になったのは終盤になるとイランが主審のほうを向いてプレイすること。この状況で不要なアピールは損なのに。結局、アメリカが逃げ切った。イランはアジアではめっぽう強い反面、ワールドカップは6度目の挑戦にして一度も決勝トーナメントに進出できていない。中東中心の「アジアの戦い」に最適化しすぎていて、FIFAの「世界の戦い」になると勝手が違うのかな……と思わなくもない。ともあれ、アジアの好敵手イランが勝利できなかったのは本当に残念。アジア勢ではいちばん可能性が高いと期待していたのだが。

イラン 0-1 アメリカ
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

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