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2021年5月アーカイブ

May 31, 2021

ニッポンvsミャンマー代表@ワールドカップ2022カタール大会 アジア2次予選

●フクダ電子アリーナで無観客開催されたワールドカップ予選。結果はニッポン 10対0 ミャンマー。アウェイでは2対0だったが、ホームでは10点差がついてしまった。前回、モンゴル戦は14対0。とても「2次予選」とは思えない力の差。今回、2次予選の対戦相手に中東勢がおらず、ニッポンはずいぶん楽なグループに入っている。おまけに現在のウイルス禍では各国の準備の度合いにずいぶん違いがある。しかもミャンマーは軍事クーデターにより混乱が続いており、ワールドカップ予選どころではない。今回の代表チームにも軍事政権への抗議として代表召集を拒否した選手たちが何人もいたという。
●そんなわけで、内容については語るところの少ないワンサイドゲームに。試合が荒れなかったのは幸い。得点者を順に書いておくと、南野、大迫、大迫、大迫、大迫、守田、南野、鎌田、大迫、板倉。コピペする文字列「大迫」。スケジュールの都合によりJリーグ勢を欠く海外組ジャパンだったが、森保監督はかなりベテラン勢を起用。川島や長友が先発するとは。GK:川島-DF:酒井(→室屋)、吉田(→植田)、板倉、長友-MF:遠藤航(→橋本拳人)、守田(→原口)-伊東(→浅野)、鎌田、南野-FW:大迫。ここは若い選手を試すのに適した場ではなく、経験豊富な選手で試合をコントロールしたいということだったのだろう。W杯予選ながら5人まで交代できるルールだったので、前半だけで酒井と吉田を引っ込めるという公式戦らしからぬ采配。
●交代出場の浅野は現在無所属。所属していたパルチザン・ベオグラードの度重なる未払いを理由に選手側から契約解除したが、パルチザン側は反発している。いったん無所属になれば、どのチームでも移籍金ゼロで浅野を獲得できる。パルチザン側は裏で糸を引いている存在を匂わせていたが、仮にそうだとしても、浅野を非難できる立場にあるとは思えない。浅野の新たな所属先がスムーズに決まりますように。

May 28, 2021

ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団のベルク&マーラー

●27日はミューザ川崎でジョナサン・ノット指揮東京交響楽団。自分にとっては超久々の生ノット。それだけでも感激だが、プログラムがベルクの室内協奏曲(ピアノは児玉麻里、ヴァイオリンはグレブ・ニキティン)とマーラーの交響曲第1番「巨人」。ピアノ、ヴァイオリン、13管楽器によるベルク作品は生演奏でこそ伝わる編成の妙。熱気にあふれ、畳みかけるような第3楽章が印象的。休憩後、舞台を見て驚く。マーラーの「巨人」ってこんなに大編成だったんだ! ウイルス禍以降、ずーっと小~中規模編成のオーケストラばかりを聴いてきたので、広い舞台をびっしりと奏者が埋め尽くす光景はあまりに新鮮。物事は相対的だと感じる。以前だったら「巨人」を特別な大編成とは感じなかっただろうけど、今の自分には異形の交響曲だ。そしてオーケストラの慣性が大きい。小編成ならハンドルを右に切ったら即座にキュッと回れるのに、巨大編成だとグオオオオ……とゆっくりと徐々に右に回りだす。大型バスみたいなイメージ。響きの質もぜんぜん違う。くっきりではなく豊麗なリッチサウンドの美学。この正反対の世界に、コンチェルトの編成を一から定義し直すような前半のベルクがあると感じる。
●ノットのマーラーは大自然と人間の営みを雄弁に伝えるもので、第1楽章の木管楽器のさえずりは奔放なほど表情豊か、第2楽章のレントラーは思い切り鄙びて田舎風味。ひとつひとつのフレーズがニュアンスをたっぷり含んでいて、音楽全体が精彩に富んでいる。第3楽章のコントラバスはソロで。第4楽章は大きなうねりを伴った高揚感あふれるフィナーレ。盛大なブラボーを空想するが、最後の一音の後に一瞬余韻のための静寂が訪れる。ここで一瞬だけ待てる客席はスゴい。その後、盛大な拍手がわき起こり、カーテンコールへ。ノットも感慨深そうな様子。スタンディングオベーションにこたえて、ノットはミニ横断幕のようなもの(タオル?)を持ってくる。開くと「I'm home ただいま」のメッセージ。客席の拍手は爆発的に。当然のようにノットのソロ・カーテンコールになったが、こんどは「Thank you! ありがとう」のメッセージを見せてくれた。客席総立ち。これは得難い体験。じんと来る。

May 27, 2021

「悪口学校」(シェリダン/岩波文庫)

●もしバーバーが序曲「悪口学校」を作曲していなかったら、自分はこの本を読むことがなかったかもしれない。が、シェリダンの風習喜劇「悪口学校」(菅泰男訳/岩波文庫)は、少なくともかつてこの訳書が刊行された時点ではシェイクスピアと双璧を成す人気作で、ロンドンでの上演回数は「ロミオとジュリエット」「お気に召すまま」に続く第3位だったという。劇の初演は1777年(ちなみにバーバーの作曲は1931年)。人気作だけあって、なるほど、これはおもしろい。「悪口学校」が定訳になっているが、今だったらThe School for Scandalをそうは訳さないと思う。たとえば「スキャンダル学園」とか? 他人のウワサ話を無上の喜びとする身分の高いご婦人たちの集いを指している。
●「悪口学校」のストーリーの中心となるのは偽善家の兄と、放蕩者だが根は誠実な弟。この兄が本当にどうしようもなくて、口先だけの道徳家なんである。訳者解説によると、当時は道徳家が尊重されており、盛んに格言めいたことを言う風潮があった。浅はかな説教を垂れる人間がいて、それをありがたく拝聴する人間がいる。それをおちょくっている。もちろん、形だけの道徳を見破る人間もいる。まったく古びることのないテーマで、若き日のバーバーが感化されるのも納得。バーバーの序曲はこの喜劇の雰囲気をすごくよく伝えている。読んでみると、これはオペラ向きの題材なんじゃないかなとも感じる。ヴェルディの「ファルスタッフ」に近いテイストを想像する。

May 26, 2021

反田恭平 Japan National Orchestra株式会社 設立記者会見

反田恭平 Japan National Orchestra株式会社 設立記者会見
●25日はオンラインで「反田恭平 Japan National Orchestra株式会社 設立記者会見」。登壇者はピアニストの反田恭平とDMG森精機株式会社の川島昭彦専務執行役員。反田恭平と17名の若きソリストたちによるジャパン・ナショナル・オーケストラがDMG森精機株式会社とのパートナーシップにより株式会社化されると発表された。社名はJapan National Orchestra株式会社、本社を奈良市に置き、川島昭彦代表取締役会長、反田恭平代表取締役社長のもと、反田自身と17名の音楽家により構成される。音楽家自らが株式会社を設立し、活躍の場を創出して持続的な発展を目指す。具体的には奈良と東京で年に2回の定期公演を開くほか、全国ツアーや個々のメンバーのリサイタルシリーズを開催する。また、オーケストラおよびメンバーの音源制作と配信、会員制オンラインサロン「Solistiade」を開設する。
●反田さん「世界的に大変な時代に突入しているなかで、より音楽に没頭したい、音楽に人生を捧げたいと考える人を集めて、そのお手伝いをしたい。人生最大の夢は2030年に学び舎を作ること。ゆくゆくはその学校の専属オーケストラにしたい」「オンラインサロンは簡単にいえばファン・クラブ兼クリニック。ゆくゆくは音源に対するワンポイントアドバイスなど、赤ペン先生みたいなこともやってみたい」「奈良は全国でももっともピアノ保有率が高い。将来の学び舎にふさわしい自然と歴史に恵まれた土地」。奈良はDMG森精機創業の地。すでにDMG森精機がネーミングライツを取得している「DMG MORI やまと郡山城ホール」が使用される。
●会見に先立って10分間、リハーサルが公開されるということで見てみると、反田指揮でチャイコフスキーの弦楽セレナードの第1楽章が演奏された。立奏スタイル。名手ぞろいでアピール度満点。配信にあたっては、eplusの高画質チャンネルと質疑応答用のZOOMを併行して使用。ZOOM側は少なくとも60名以上が参加していて、質疑応答も活発。「会社組織なので、楽員は社員となる。給与も支払われる。結果的に音楽に専念できる。当然、単体で黒字を目指していく。どんどん売り上げを増やして成長を目指すといった事業とは異なるが、黒字化は必要」(川島氏)。株式会社化という一点だけをとっても、従来の発想とは異なる新しいオーケストラの形、音楽活動の形が生まれつつあると感じる。

May 25, 2021

マリノスvs柏レイソル J1リーグ第15節、オフサイドルールの変更

●やれやれ、いくらパスを回しても、人はどこにも行けない。完璧なポゼッションなどといったものは存在しない。完璧な戦術が存在しないようにね(←村上春樹風に)。てなわけで、柏の知将ネルシーニョにすっかりやられてしまったのが週末のマリノスだ。久々に相手の戦術にきれいに嵌められた感がある。ポステコグルー監督率いるマリノスはこの日もハイライン、ハイプレスのサッカーを展開したが、ネルシーニョはきめ細かな守備ブロックを敷いて攻撃を受け止め、カウンターの局面でハイラインの背後を突くという戦いを貫いてきた。特に前半などほとんどマリノスが攻めていたようでいて、実はこちらの枠内シュートはゼロ、効果的なチャンスをいくつも作り出したのは柏のほうだ。
●マリノスはオナイウ、前田、エルベルの3トップとトップ下にマルコス・ジュニオール、さらにボランチにいつもの扇原ではなく天野を配して喜田とコンビを組ませる超攻撃的布陣。天野は後ろから組み立てるというよりは前線にまで出てきた。だが、シュートが打てない。後半37分、柏のクロスボールにファーサイドでイッペイ・シノヅカ(元マリノス)が合わせて、恩返し弾を決める。完全に負けパターンと思いきや、後半41分、マリノスは中央に進出した偽サイドバック、松原が豪快な右足キックでゴールに叩き込んで同点。これは練習でもそうそう決まらないシュートだろう。1対1。連敗は避けられたが、気分は負け試合に近い。
FIFAがオフサイドのルールを変更するという話が出てきた。現状では攻撃側の選手がオフサイドラインより少しでも前に体が出ていればオフサイドだが、改正案では体の一部がオフサイドラインに残っていればオンサイドとみなされるのだとか。FIFA理事でもある田嶋日本サッカー協会会長によれば「議論は始まっているというよりは、終わっている」。これはすごく大きな変更になりそう。ディフェンスラインの裏を破りやすくなり、ゴールが増える……かもしれない。でもどうなのかな。逆にハイラインは損だということになって、ディフェンスラインをぐっと低くするチームが増えるかも。あと、オフサイドトラップは消える。そして、VARがないリーグでは揉める判定が増えそう。

May 24, 2021

原田慶太楼指揮NHK交響楽団、三浦一馬のラテン・アメリカ・プログラム

●21日は東京芸術劇場で原田慶太楼指揮NHK交響楽団のラテン・アメリカ・プログラム。ゲスト・コンサートマスターに白井圭。カマルゴ・グアルニエーリ(ブラジル)の「弦楽器と打楽器のための協奏曲」日本初演、ピアソラ(アルゼンチン)のバンドネオン協奏曲「アコンカグア」(三浦一馬)、休憩をはさんでヒナステラ(アルゼンチン)の協奏的変奏曲、ファリャ(スペイン→アルゼンチン)のバレエ組曲「三角帽子」第1番という意欲的なプログラム。ファリャ以外は珍しい曲ばかりだが、むしろファリャが霞むほどどれもエキサイティングな曲ばかり。
●グアルニエーリ作品は1972年作曲だがスタイルとしては20世紀前半風で、編成から「ジャングルのバルトーク」的な曲を勝手に予想するも、むしろ洗練されたカッコよさ。オーケストラのソロの見せ場が多く、コンチェルト・グロッソ的。というか、この日は各曲ソロ満載で、あたかもプログラム全体がオーケストラのための協奏曲のよう。ピアソラのバンドネオン協奏曲「アコンカグア」は作曲者生誕100年にふさわしい堂々たる協奏曲。こちらは1979年作品。曲の立派さからいえば長くレパートリーに残ってもおかしくない傑作だと思うが、将来的にはバンドネオンという楽器の盛衰と運命共同体か。久々に見た三浦一馬がすっかり大人の男性になっていて驚く。アンコールに、なんと、大河ドラマ「青天を衝け」(実は毎週見てる)。ヒナステラの協奏的変奏曲はソロ無双で、まさしく管弦楽のための協奏曲。エンディングが華麗なのもバルトークを連想させる。華やかさではこの日のクライマックス。これで十分なくらいのボリューム感だと思ったが、ファリャ「三角帽子」組曲第1番を聴いてしまうと、第2番も聴きたくなる(欲張りすぎ)。原田指揮N響は切れ味鋭く、くっきりした明快なサウンド。ダイナミックでエネルギッシュだが精緻さも失わない。この鮮やかさ、雄弁さは稀有。

May 21, 2021

上野deクラシック Vol.56 田原綾子&實川風

●20日夜は東京文化会館小ホールで、東京音楽コンクール入賞者によるシリーズ「上野deクラシック」Vol.56。第11回東京音楽コンクール弦楽部門第1位の田原綾子(ヴィオラ)と實川風(ピアノ)が共演。今聴きたいふたりで、なおかつプログラムが強力。ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタとラフマニノフのチェロ・ソナタ(ヴィオラ版)。休憩なしの短時間公演とするにはかなり濃密で重厚。ロシア出身の作曲家たちによるソナタが並ぶが、ショスタコーヴィチ作品は作曲者が世を去る直前に絞り出した告別の音楽、ラフマニノフ作品はピアノ協奏曲第2番に続く20代充実期の音楽と、創作の背景は対照的。ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタは当初チェロ・ソナタとして構想されたという話もあるので、その点でもラフマニノフのチェロ・ソナタ ヴィオラ版と組合せるのはおもしろい。
●開演時間になると照明が消えて真っ暗のなか、ふたりが登場。暗闇のなかでショスタコーヴィチが始まり、やがて明かりがつくという劇的な趣向。これだと拍手なしでふっと始まるのがいい。フレッシュで溌溂としたエネルギーが注ぎ込まれるが、最後はベートーヴェン「月光」モチーフの引用とともに晦渋な楽想がすべてを飲み込み、ふたたび照明が消えて漆黒の沈黙が訪れる。重い曲だけに休憩なしはどうなんだろうと思っていたら、曲間で奏者のトークが入ってよい気分転換に。ショスタコーヴィチの後に聴くラフマニノフは開放感にあふれていた。豊かなパッション、伸びやかで無理のない音楽の流れ、深く渋みのあるヴィオラの美音とブリリアントなピアノの音色の組合せにすっかり魅了される。チェロ版とはまた違った華やかさと高揚感、飛翔するような自在さを感じる。アンコールなし、充足。

May 20, 2021

「欧州 旅するフットボール」(豊福晋著/双葉社)

●サッカーには「観る楽しみ」「蹴る楽しみ」に加えて「読む楽しみ」がある。日本語で読めるサッカー本だけでも相当な厚みと質の高さがあって、これほど「書く文化」が発達している競技がほかにあるだろうかと思う。2014年にはサッカーに関する書籍を対象とした「サッカー本大賞」まで創設されている。
●で、「サッカー本大賞」2020年度受賞作の「欧州 旅するフットボール」(豊福晋著/双葉社)を読んだ。バルセロナ在住のサッカー・ジャーナリストの著者がヨーロッパ各地を旅したサッカー紀行。フットボールが根付いた街の情景が美しく切り取られていて、旅の気分を味わえる。クラブや選手の話題のみならず、その街に暮らす人々や食文化、風景が浮かび上がってくる。文体が端整で、読み心地がいい。
●やはり日本人選手を獲得したクラブが取材対象となることが多いのだが、その街がどんなところかは、勝敗中心のスポーツ報道だけではわからないもの。たとえば、岡崎慎司が奇跡のプレミアリーグ優勝を果たしたレスター。レスターは英国一の移民の街で、人口30万人の半数が英国にルーツを持たないという。インド料理屋がひしめく。インド系、東南アジア、東アジア、いろんなルーツの人がいて、レスターのオーナーはタイの富豪。そんな街でヴァーディやカンテやマフレズや岡崎がおとぎ話の主人公となったわけだ。プレミアリーグはどのチームも多国籍多民族集団だけど、レスターには特別な背景があったのだなと知る。あと、中村俊輔が最初に欧州に渡った街、イタリアのレッジーナ。ここはマフィアの街で、みかじめ料を払っていない店が爆破されたりするような事件が日常茶飯事だったとか。当時、まだ逞しさを身につけておらず、内気な青年に見えた俊輔がここでどんな奮闘をしていたのか、思いを馳せる。

May 19, 2021

ロスレス配信時代の到来へ

昨日のAppleの発表によれば、6月よりApple Musicのカタログ全体がロスレスオーディオになる。一部の音源を対象とするのではなく、「カタログ全体」と言い切っているのが頼もしい。しかも、サブスクリプションの登録者は追加費用なし! プレスリリースに「Apple Musicのロスレスのレベルは、16ビット/44.1kHzのCD品質から、最大24ビット/48kHzまで」とあるので、ここでいうロスレスとはCD品質とハイレゾの両方を含んでいる(一部24ビット/192kHzも提供されるが対応デバイスが必要)。ファイルサイズが大きくなるので、利用者は明示的に設定をONにする必要があるようだ。
●そこで気になるのはライバルのSpotify。Spotifyはすでに今年2月に「今年の後半よりSpotify HiFiに音質をアップグレードする」と発表している。CD品質のロスレスオーディオを指しているのだが、日本が対象に含まれているのかどうかはわからず。料金体系も気になるところ。Apple Musicがこうなった以上、同水準のサービスを提供してくれるものと強く期待。
●これまでストリーミング配信といえば、原則としてなんらかの方式の圧縮音源を指していたが、今後はCDと同品質かそれ以上が標準になっていくのだろう。これがどれくらい歓迎されるのかはよくわからない。自宅のオーディオ装置でじっくり聴く人はロスレスを選ぶだろうし、主に屋外で聴く人はそもそも環境ノイズが多いのにデータ量が爆増するロスレスを求めようとは思わないかもしれない。いずれにせよ、ひとついいことがある。これで「ストリーミングはCDより音が悪いからダメだ」という話にならずに済む。正直なところ、自分にとって音楽をオーディオで楽しむうえで、音源のスペックに大した重要性はないのだが(スペック≠録音の質)、この点だけでも十分な意味がある。

May 18, 2021

「現代音楽史 闘争しつづける芸術のゆくえ」 (沼野雄司著/中公新書)

●遅まきながら読了、「現代音楽史 闘争しつづける芸術のゆくえ」 (沼野雄司著/中公新書)。20世紀から21世紀初頭にかけての音楽の歴史を新書一冊のコンパクトサイズで概説する。これは必携の一冊。なにしろ類書がない。20世紀音楽史についての本はいくつもあるが、2021年を迎えた現在、それらは現代の音楽についての本とは言いがたい。新しくて、コンパクトな現代音楽史がずっと待たれていた。この「現代音楽史」のすばらしいところは、なんといっても新書一冊分にまとまっているところ。過去の歴史についての記述を簡潔にまとめることはできても、最近の動向を限られた文字数で記すのは至難の業。それを実現している。
●前半、20世紀中盤くらいまでは、著者ならではの明快な視点で大きな歴史の流れが記され、後半で時代が新しくなると、ストーリー性よりも具体的な作曲家名や作品名をたくさん盛り込むことが優先され、リスナー向けガイドの性格を帯びてくる。聴いたことがない曲、知らない曲を聴きたくなる。ここに挙がっている曲をぜんぶ聴けるSpotifyのプレイリストがあったらいいのに!
●この本の前書きにも書かれているけど、今は録音でよければ、SpotifyとかYouTubeでいろんな曲が聴ける時代。以前だったら、未知の作曲家や作品のCDを前にして、ショップで延々と買うか買わないか迷わなければいけなかったのが、今は即座に聴ける。現代音楽を聴くためのハードルは格段に下がった。聴きはじめて、趣味に合わないなと思ったら途中で止めて、それっきりにもできる。そこで感じるのは、こういったわがままな聴き方が一般的になったことで、より多くの人が知られざる作品に触れるチャンスを得たと考えるべきなのか、あるいは実はその逆で、膨大な音源のなかでより埋もれやすくなっていくのか、どちらなのかなということ。これは現代音楽だけじゃなくて、クラシック全般についてもいえることなんだけど。

May 17, 2021

鹿島vsマリノス J1リーグ第14節

●5月15日は「Jリーグの日」なのだとか。28年前のこの日、Jリーグは国立競技場で開催されたヴェルディ川崎vs横浜マリノス戦で幕を開けた。その創設時から続く「オリジナル10」同士の対決が実現。「Jリーグの日」がたまたま試合開催日に重なったおかげ。しかも鹿島とマリノスは降格を経験していない「オリジナル10」の2チーム同士という奇遇。DAZNで観戦。
●マリノスはJリーグ創設時からずっと鹿島を苦手にしてきたという実感がある。数字上の勝敗もさることながら、ここぞという試合でやられる印象。ただ、今季のマリノスは守備が安定しており、個の力でも相手を上回っている確信があった。だから鬼門のカシマスタジアムでも自分たちのペースで圧倒できるはず。それなのに、それなのに……鹿島 5対3 マリノス。恐るべし、ジーコ(→いません)。
●いや、強いと思うんすよ、今のマリノス。技術、スピード、プレイ強度、戦術的な洗練度、みんな高い。でも鹿島相手だと途中から歯車の回転が噛み合わなくなるというか、メンタリティで一歩及ばない、ような気がする。スコアだけ見たら乱打戦だが、中身はぜんぜん違う。お互いに猛烈なテンションでプレスをかけあい、コンパクトな布陣を保ち、攻守の切り替えが速く、「ああ、Jリーグもここまで進化したのか」と感慨を抱く濃密さ。25分、マリノスはエウベルが右サイドをワンツーで突破、爆速ダッシュで町田を振り切って低いクロスを入れ、これをオナイウが倒れ込みながらのヘッドでゴールに叩き込んで先制。ここまではよかった。
●しかし、40分、キーパー高丘がコーナーキックからハイボールをキャッチミス、さらにミスの後のリカバリーもできず土居に押し込まれて失点。さらに後半開始直後、相手ゴール前まで攻め込んだボールを奪われると、そこから縦パスであっという間にハイラインを破られ、白崎のスルーパスに抜け出た土居がキーパーと一対一になり逆転ゴール。53分、またも白崎のスルーパスにハイラインの裏を突かれて、松村が抜け出て、これをティーラトンがファウルで倒してPK。土居が決めてハットトリック。この失点が痛かった。この後、マリノスは、すぐに荒木にも決められて3点差を付けられてしまう。この4対1が最終的に5対3になったのだが、終盤はドタバタ劇を目にする思い。高丘にしてもティーラトンにしても、ミスは必ず起きるもの。ただミスの後で落ち着きを欠いている。5失点目も高丘のミスから。キーパーのポジション争いが激しいマリノスだが、ポステコグルー監督は次の試合で高丘を使うだろうか。大きなミスをしたからこそ使うと考えるか、ベンチの梶川が復権するのか。
●鹿島の監督は解任されたザーゴの後を継いだ相馬直樹。前半はサイドのスペースを狙っているように感じたが、後半はハイラインの裏をまんまと突いた。これでまた一段と鹿島への苦手意識が強くなってしまった。

May 14, 2021

デジタルサントリーホール オルガン プロムナード コンサート 浅井美紀

●13日はデジタルサントリーホールのオンライン配信で、浅井美紀のオルガンプロムナードコンサート。入場定員50%以下で開催された公演で、急遽オンラインでも無料ライブ配信されることになった。無料公演ということもあって、プラットフォームはYouTubeサントリー公式チャンネル。なので、なんの手続きもなく、ライブですぐに鑑賞できた。リピート配信もあるので、5月31日までオンデマンドで聴ける。
●ラインチタイムの30分公演で、バッハの前奏曲とフーガ変ホ長調BWV552「聖アン」、ジャン・アランの「光の創造主」による変奏曲、および「リタニー(連禱)」の3曲。バッハは悠然としたテンポで前奏曲が開始され、朗々として荘重。ジャン・アランの「リタニー」がカッコいい。冒頭部分こそ詠唱風だが、以降は祈りの音楽と呼ぶには妙にヴィヴィッドで、曲名から予想するイメージとはだいぶ異なる。重厚さと軽快さが同居していて、1937年作品ながら妙に今っぽいというか、コマーシャルに使われてもおかしくない雰囲気。この曲を書いた3年後、作曲者は第二次世界大戦でわずか29歳で命を落としている。
●オルガンはもちろん現地で空間ごと体感するような聴き方ができれば最上だが、配信だと手元のアップや奏者の姿も見えるのが吉。なによりランチタイムコンサートなので、カジュアルにアクセスできるのはありがたい。演奏後にアーティスト・インタビューがあったのも配信ならではの趣向で新鮮。インタビュアーは映さず、画面中央にアーティストが正面を向いてひとりでしゃべる形式。ディスタンスをとるのであれば、自然とこうなるか。

May 13, 2021

部屋にいる象

部屋にいる象
●最近なにかで elephant in the room っていう慣用句を目にして、なるほどなーと思ってしまった。つまり、だれもが重要だと認識しているのに口に出さない問題。サッカーファンとしては、ずばり、オリンピックがまさにそれ。とうにグループステージの組み分けも発表されているわけで、本来だったら開催国ニッポンは有利なくじを引いたのかとか、オーバーエイジ枠にだれを選ぶのかとか、どのポジションにだれが選出されるのかとか、大いに事前に盛り上がるところだが、緊急事態宣言中の現在にそういう気分にはなれない。一応、書いておくと、ニッポンはメキシコ、フランス、南アフリカというかなりきついグループに入った。そして本来ならU23の大会だが、一年遅れなので各国ともU24のチームが参加する。
●いつもオリンピックではそうだがサッカーは開会式より一足早く試合が始まる。7月21日が初戦で、おしまいは8月7日。これまで自分は、現実的にはどこかのタイミングで東京オリンピックの中止が発表されるのだろうと思っていたのだが、5月半ば現在、中止を検討している様子は見えない。最近の世論調査では開催派は3割弱、残りの7割強が中止派と延期派。
●男子サッカーに関して言えば、少なくとも再延期はないと思う。U23だったチームがU25になって、ほとんどの選手が所属クラブの主力に育ってしまう。いったんチームをばらして下の年代で再編成するか、あるいはB代表的なチームにするのか。でもそれだったら予選はなんだったのという話。ただでさえオリンピックの男子サッカーにはU23+オーバーエイジ枠という不思議な規定があって、著名選手が参加しない伝統国と最強メンバーをそろえる新興国がメダルを争う図式になっているのが落ち着かない。なんかフェアじゃない。そして主力選手を送り出すクラブのファンは選手の消耗を心配している。いっそのこと、オリンピックはU23ではなくO35マスターズにして、エキシビション的な気持ちで眺められる大会にしてくれたら、もっと素直に楽しめるのに……。

May 12, 2021

「RESPECT 監督の仕事と視点」(反町康治著/信濃毎日新聞社)

●「RESPECT 監督の仕事と視点」(反町康治著/信濃毎日新聞社)を読んだ。反町康治元松本山雅FC監督が監督就任中に地元新聞に寄稿していた連載をまとめた一冊。実はこの続編である「RESPECT2 監督の挑戦と覚悟」が最近刊行されたところなのだが、どうせ読むなら前編からと思って読んでみた。2012年、松本山雅の監督就任時から2016年開幕時まで、月イチペースで監督のサッカー論、指導者論などが綴られている。当初はプロとは呼べないような集団だったチームが次第に成長し、自らを律する真のプロ集団に変貌するまでの記録であり、この間、松本山雅はJ2からJ1に昇格し、そして一年でJ2に降格している。J1の壁に跳ね返されたとはいえ、地域の新興クラブによるまれに見る快進撃が成し遂げられた。
●読んでいてなんども感じたのは、反町監督の真摯さ、厳しさ、そしてフェアプレイへのこだわり。フェアプレイが好成績に結び付くと信念をもって語れる監督はなかなかいない。そして、現にこの人ほどJリーグで結果を残してきた日本人監督はまれ。新潟であれだけ成功して、さらに松本でもやはり同じようにチームのレベルを引き上げたのだから、並外れている。オシムから強い影響を受けているのもおもしろい。あと、印象的だったのは、選手の給料を知らないという話。クラブが作る選手資料からわざわざ給料の欄を消してもらっているという。選手全員をフラットな目で見る姿勢が徹底している。
●この本でも回想されているけど、選手時代の反町康治といえば会社員Jリーガーとして話題を呼んだのを思い出す。日本に念願のプロリーグが誕生して、みんながこぞってプロ契約をするなかで、反町は実業団時代と同じく全日空の社員の身分のままフリューゲルスでプレイした。傍目には、バブリーで先行きの不透明なプロリーグに身を投じるよりも、定年まで身分が約束される会社員のほうがいいという判断のように見えたけど、結局、退社してベルマーレでプロ選手としてキャリア最後の数年を過ごした。そんな異色の選手が、時を経て日本を代表する名監督になったのだから、わからないもの。
●続編も読むしか。また遠からずアルウィンで山雅の試合を観戦したい。あの専用スタジアムはうらやましい。

May 11, 2021

Spotifyアプリでの再生回数

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●最近、Windows用Spotifyアプリのデザインが少し変更されて、トラックごとの再生回数が明示されるようになった。これまではメーターで大雑把な人気度がわかるだけで、再生回数を知るためにはマウスポインターを置いて一息待つ必要があったのが、今やどうやっても目に入る位置にバーンと表示されるように。そんなに見たい数字でもなかったんだけど、見えるとつい見ちゃうわけで、なんだか生々しい。
●で、この数字を見ると、かつての常識では判断できない人気度がうかがえる。つまり、メジャーレーベルのスターアーティストが有名曲を録音するとたくさん売れて、その逆だとあまり売れない……みたいな先入観を抱きがちだけど、そういうのは要注意だなと思った。たとえば、たまたま自分がお気に入りに入れていたアルバムなんだけど、ドイツハルモニアムンディ・レーベルの録音で、ボリス・ベゲルマンのヴァイオリンによるテレマンのヴァイオリン・ソナタ集がある。このアルバムでいちばん再生回数の多いトラック2は156万回も再生されている。スゴくないすか? これがドイツグラモフォンのネルソンス指揮ウィーン・フィルによるベートーヴェンの交響曲全集だと、いちばん多いトラックの「運命」第1楽章でも11万9千回。一桁少ない。ボリス・ベゲルマンのテレマンがネルソンス指揮ウィーン・フィルのベートーヴェンをぶっちぎる世界。
●もちろん、これはSpotifyに限った再生回数なので、Apple Musicとか他のサービスでは違った光景が広がっているのかもしれないし、レーベル側が特定トラックの再生回数が上がるようなプロモーションをしたのかもしれない。あるいは人気のプレイリストに収められたとか? いろんな背景があるのだろう。少しおもしろいなと思ったのはドゥダメル指揮ウィーン・フィルのムソルグスキー~ラヴェル「展覧会の絵」。このアルバムで「展覧会の絵」の各トラックは10万~30万回台程度の再生回数なんだけど、最後に入っているチャイコフスキー「白鳥の湖」ワルツは100万回を超える再生数で、このアルバムでは断トツ。ムソルグスキー・アルバムを制作したら、一番人気はオマケのチャイコフスキーだった、という形。こういう例は探せばいくらでもありそう。

May 10, 2021

マリノスvsヴィッセル神戸 J1リーグ第13節

●9日はDAZNでマリノスvsヴィッセル神戸戦。会場は新横浜の日産スタジアム。東京都ではないので、観客入り。ただし客席制限により入場者5000人ということで、スタジアム定員の十分の一にも満たず。マリノスは相変わらずハイプレス、ハイラインの攻撃サッカーなのだが、選手たちの連動性がスムーズなこともあって、ここ最近は予想外に守備が安定している。一方の神戸だが、こちらも前線から精力的にプレスをかけてくるチームで、その点では似たチーム同士の対戦になった。序盤から激しいプレス合戦になって、がっつりとかみ合った結果、マリノスに一日の長があったという感。序盤は膠着状態だったものの、前半20分にマルコス・ジュニオールがアクシデントで天野と交代すると、よりマリノスのビルドアップがスムーズに。前半41分の相手のオウンゴールと、後半35分の神戸のキーパー前川のキックミスから奪った天野のゴールで2対0で完勝。ゴールシーンそのものは運や相手のミスに助けられたものだが、結果は内容にふさわしいものだったはず。
●神戸の選手で印象に残ったのは、センターバックの菊池流帆。フィジカルでもメンタルでも強い。エウベルを抑えた場面は熱かった。大卒でレノファ山口を経由して昨年から神戸に移ったそうだが、なんというか、欲しくなる選手。中盤の井上潮音も気になる存在。この人は東京ヴェルディ育ちで、J2のヴェルディの試合でなんどか見ている。いかにもヴェルディらしいテクニシャンで、エレガントなプレイスタイルの持ち主だが、あまりに線が細く、J1のチームに移るイメージは正直なかった。しかし、意外にも神戸でスタメンの地位を勝ち取っている。若いのでどんどん伸びるということか。元マリノスのゴールキーパー飯倉にも注目したいところだが、先発の座を前川黛也に譲っている。前川はかつてのニッポン代表GK前川和也の息子。感慨深い。日本サッカーの歴史、ここにあり。こちらにも水沼貴史の息子、水沼宏太がいるぜー。
●もうひとり、神戸で忘れることのできないのがイニエスタ。ベンチスタートで、後半14分から投入された。まもなく37歳になるのだから、もちろん全盛期と同じような動きはできないが、技術の高さや視野の広さはさすが。古橋へのスルーパスから決定機を作り出した場面は脅威。チーム全体の戦術的な練度とは無関係に、ああいう突出した個人能力だけで試合が決まることは往々にしてあるわけで、やはり怖い存在。ただ、物事には表と裏があって、神戸は途中からイニエスタ、リンコン、アユブ・マシカといった攻撃陣を投入して攻撃力は増しただろうが、その分、ハイプレスの連動性が失われてこちらは楽になったような気も。
●あ、マリノスの話をしようと思っていたら、神戸の話ばかりしてしまった。なんなのか。そういえば神戸の監督は三浦淳寛だ。選手時代、元マリノスだったし、なんだか気になるのかも。マリノスのメンバーだけ書いておくと、GK:高丘-DF:松原、チアゴ・マルチンス、畠中、ティーラトン-MF:喜田、扇原-マルコス・ジュニオール(→天野→渡辺皓太)-FW:エウベル(→小池龍太)、オナイウ(→レオ・セアラ)、前田大然(→水沼宏太)。暑いのに、みんなよく走った。

May 7, 2021

「恋するアダム」(イアン・マキューアン著/村松潔訳/新潮社)

●イアン・マキューアンの新作「恋するアダム」(新潮社)読了。先日紹介したカズオ・イシグロの「クララとお日さま」と同じく、AIが主要登場人物のひとりに設定されている。現代のイギリスを代表する作家がともにAIを巡る物語を描くという偶然。いや、偶然じゃないのかな。今、とりあげるべきテーマという意味で必然なのかも。
●「恋するアダム」の舞台は、現実と少し違った運命をたどるパラレルワールドのイギリス。フォークランド紛争でイギリスは敗れ、人工知能の父アラン・チューリングが悲劇的な死を迎えず(当人がこの小説に登場する)、テキサスで襲撃されたケネディが一命をとりとめ、再結成されたビートルズが新譜を発表している1980年代。主人公は30過ぎの冴えない独身男で、転がり込んできた遺産を使って、最先端のAIが組み込まれたアンドロイドのアダムを購入する。アダムはほとんど人間と区別がつかないほど精巧に作られており、極めて高度な学習能力を持つ。そんなアダムが主人公とガールフレンドの間に奇妙な三角関係をもたらす……。今作でもジャンル小説の枠組みを借りていて、SF仕立てでもありミステリー仕立てでもある。
●筋立ても雰囲気もぜんぜん違うが、やはりカズオ・イシグロの「クララとお日さま」と似通ったところがある。人間性とはなにかという根源的なテーマにまっすぐ向き合いながらも、「AI怖い、人間万歳」みたいな生ぬるい人間賛歌にならないところも同じ。そして、どちらもメインテーマは「愛」。ただ、「恋するアダム」はそれに「正義」が加わる。AIという新しい題材から、「愛と正義」というもっとも古典的なテーマに迫っている。意地悪さやユーモアはカズオ・イシグロとも共通する要素だが、マキューアンの場合はさらに辛辣で悪趣味。そこが魅力。そして「まちがってそうな道を自信満々で歩むダメ男」を書かせたら、この人の右に出る人を知らない。あと、マキューアンは科学やテクノロジーの世界に対しても視野の広さを持っているなと感じる。旧作で連想したのは「ソーラー」。
●饒舌さはマキューアンの持ち味のひとつだけど、それゆえに前半は少し読み進めるのに苦労した。その寄り道のおしゃべりは楽しいんだけど、似た話を以前にも聞いたことがあるような……。おまけに先に読んだ「クララとお日さま」があまりに完成度が高く、無駄のない物語だったこともあって、なおさら。しかし、中盤以降に話が進みだすと、これが想像していたよりもずっと骨太の物語であることがわかってきて、最後は疑いようのない傑作を読んだという充足感を味わえた。
●中身は文句なしだけど、唯一の難点は文字組。文字が小さく、フォントも細くて、老眼には読みづらい。この点は「クララとお日さま」の圧勝。書棚に並べたくて紙の本を買ってしまったが、Kindle版にすべきだったか。

May 6, 2021

新国立劇場バレエ「コッペリア」無観客ライブ配信

●新国立劇場のバレエ「コッペリア」無観客ライブ配信を観た。ドリーブ作曲、ローラン・プティ振付。緊急事態宣言により公演は中止となったが、代わって全4公演が無観客ライブ配信されている(見逃し配信はなし)。都合により2日の初日に第1幕を、5日に第2幕以降を観る。キャストは2日が米沢唯のスワニルダ、井澤駿のフランツ、5日が池田理沙子のスワニルダ、奥村康祐のフランツ。コッペリウスはともに中島駿野。冨田実里指揮東京フィル。8日にあと一公演、残っている。
●「コッペリア」というとあの有名なワルツくらいしか知らなかったので、全曲を聴いたのはたぶん初めて。思いのほか華麗な音楽で、サービス満点。たとえるなら前菜もメインディッシュもすべておしゃれスイーツだけでできたコースメニューのようで、その甘さと過剰さははなはだ快楽的。振付はコミカルで愉快。バレエ門外漢も初見で楽しめる。ストーリーも明快に表現されていてありがたい。スワニルダの恋人フランツが自動人形コッペリアに心を引かれるものの、最後はめでたく結ばれるという喜劇。しかし感情移入の対象になるのは自動人形を作ったコッペリウス博士。最後のシーンではコッペリアがバラバラになってしまい、なんともいえない疎外感を味わえる。いったんは魂が宿ったかと思った自動人形が、元の木阿弥になるという苦さは大人向けだ。
●で、コッペリウスといえば、オペラ・ファンがまっさきに思い出すのはオッフェンバックの「ホフマン物語」だろう。「ホフマン物語」にもコッペリウスが登場し、自動人形に恋する男のエピソードが描かれる。これはどちらもE.T.A.ホフマンの「砂男」が元ネタということになっている。ただ、元ネタにあるはずの「怪奇と幻想」テイストが「ホフマン物語」にはいくらか残るのに対して、「コッペリア」では影も形もない。コッペリウスの正体は恐ろしい砂男(サンドマン)などではなく、むしろ孤独な機械好きのオッサンにすぎない。自分が作った機械の人形に魂を込めるというコッペリウスの夢はかなわなかったわけだけれど、実のところ彼は生身の人間よりも機械と向き合っているときのほうがハッピーなんじゃないかな、という気も。
●そういえば新国立劇場のバレエといえば以前「くるみ割り人形」(ウエイン・イーグリング振付)の配信について書いたが、「コッペリア」も「くるみ割り人形」も原作はE.T.A.ホフマンだ。「コッペリア」に登場するコッペリウスは、「くるみ割り人形」のドロッセルマイヤーのもうひとつの姿のようにも感じる。

May 4, 2021

講談社の50%ポイント還元キャンペーン

●Kindle本はときどき大胆な割引価格で販売されることがある。今、開催されているのは「講談社50%ポイント還元キャンペーン」。5000点以上のタイトルが対象という迫力のあるキャンペーンで、対象レーベルも幅広く、特に講談社学術文庫ブルーバックスは強力。明日5月5日まで。
●音楽書でいえば、講談社学術文庫には「バッハ=魂のエヴァンゲリスト」新版(礒山雅著)がある。これは紙で持っていた本を、電子化された際にKindle版で買い直した。Kindle本だと検索もできるし、自分がハイライトした場所を後から容易に参照できるという、紙にはない実用性がある。ワタシは紙の本だとハイライトする代わりにページの端を折るようにしているのだが(ためらわずに折る)、一冊に何十か所も折ってしまうとそれはもはや目印でもなんでもなくなってしまう。同シリーズにはほかに同じく礒山雅著「バロック音楽名曲鑑賞事典」なども。
●ブルーバックスというと、宇宙論とか量子力学みたいな大きなテーマの本をまず思い浮かべるが、実は「コーヒーの科学 おいしさはどこで生まれるのか」(旦部幸博著)のようなコーヒー好きにとっての名著もあって、意外と守備範囲が広い。コーヒーの味を職人の経験則ではなく、化学的アプローチで語る本は貴重。

May 3, 2021

連休に「コッペリア」、東京vsマリノス

●ゴールデンウィーク中なので不定期更新モードで。緊急事態宣言の影響で、新国立劇場のバレエ「コッペリア」全4キャストの公演が無観客でライブ配信されている。無料、ライブのみ。5月2日の上演を第1幕まで観た。続きは後日の別公演で観るつもり。この後、5月4日、5日、8日と続く。



●Jリーグでは、2日のFC東京対マリノス戦をDAZNで。こちらも東京ホームなので無観客開催。苦手の東京相手だったが、最近のお互いの調子を反映してマリノスが快勝。オナイウ阿道がハットトリックを決めて、FC東京 0-3 マリノス。この試合、マリノスの前線は中央にオナイウ、左に前田大然、右にエウベルという並び。前田はウィングよりも中央でストライカーを務めるのがよいと思っていたが、結果的にはうまくいった。右のエウベルがすばらしい。3点の内、2点はエウベルが相手のサイドを崩して、中のオナイウが楽々と決める形。残る1点もエウベルのシュートをキーパーが弾いてオナイウが決めた。エウベルが本領発揮、もはやその能力に疑いなし。この並びだと右で崩して中/左で決める形が増えそう。トップ下にマルコス・ジュニオール、その下に喜田と扇原、ディフェンスラインは松原、チアゴ・マルチンス、畠中、ティーラトン、キーパーに高丘。チアゴ・マルチンスの復調も感じた。後半途中から天野、渡辺皓太、レオ・セアラ、水沼、終了直前に小池龍太を投入。5人の交代枠をフル活用した。
●ウイルス禍の副産物として、交代枠5人、前後半の途中に飲水タイムありというルールが一時的に採用されているわけだが、このルールが今後どうなるのかは要注目だと思う。飲水タイムは図らずも「試合をいったん止めて監督が選手に指示を与える」機会を作り出した。交代枠の増加と合わせて、従来ルールより一段と戦術的なサッカーを実現しやすくなっていると思う。いったんこれに慣れると、元のルールに戻ったときになんだか古臭く感じてしまうような気もする。

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