2008年3月アーカイブ

March 31, 2008

レーベル横断的な定額音楽配信サービスという現実的近々未来

●何日か経ってしまったが、最近のニュースで一瞬わが目を疑い、何度も読み返してしまったのがこれ。

iPodで聴き放題サービス 米アップル、有料で検討

●「音楽大手と交渉を進めている」というニュースであって、詳細はなにもわからない。でも定額を支払えば(仮に)現在iTunes Storeに載っている音楽を聴き放題になるとしたら、確実にワタシの(そしてワタシだけじゃなく)世界は大きく変わる。仮に新譜は発売から一定期間制限が付くとしてもインパクトはそう違わない。
●これまで音楽ファンは、最初は「自分のライブラリがない」というゼロ地点からスタートして、気に入った曲とかアーティストを買い揃えながら(そしてときどき発作的なジャケ買いしながら)、「自分の好きな音楽」という神秘の領域を徐々に形成してきた。でも定額サービスがあれば最初から古今のメジャーから中堅レーベルまで、ごっそり全部(とは言わないが大量に)手に入るんすよ。財力とかヒストリーとか無関係の開かれた地平。「1回だけ聴きてみたいな」という軽い好奇心も好きなだけ満たせる。極楽だなこりゃ。その一方で、そこまで恵まれた環境で、特定のアルバムやレーベル、アーティストへの理不尽な愛着みたいなものがこれまでと同じように生まれてくるかどうかも気になる。
●続いて、こういうニュースもある。

定額音楽サービスへ名乗り:ソニーBMGのCEO、独紙に語る

●一度動き出したらこういう流れは止まらなくなる、という予感。

March 28, 2008

ニッポンU23代表vsアンゴラ代表@五輪強化試合

ニッポン!●えっと、普通だったらこの試合はスルーしても可なんすよ。オリンピックに向けてのメンバー選考も兼ねた強化試合で、おそらく本大会に呼ばれる選手の多くが不在だし、昨夜の真剣勝負の後でU23の親善試合じゃ気が抜けるわけで。
●でも、行って来た、スタジアムまで。場所がワタシにとっての心のホームスタジアム、国立競技場だったから。埼玉や新横浜なら行かない。でも驚いた、信濃町の駅で下車して。試合開始1時間ほど前という、自分的には遅刻気味のタイミングで到着したのに、人がいない。弁当屋も出ていない。コンビニ混んでない。「あれ、日にちまちがえたかな?」と思った。有料入場者1万2000人くらいだったかな。もうガラガラ。五輪代表に宮本とか稲本とか小野とかいた頃にはなんでもかんでも満席になってた気がするが、あの頃とは雲泥の差。すなわち、ニッポンのサポは「スルーしていい試合は見に行かない」という常識的な態度を示すようになった。どう考えても現状がフツー。
●で、昨晩にバーレーンの悪夢を見たからか、この五輪代表がすごくエレガントに見えた。ホントにうまい。キックオフする頃になって気が付いたんだけど、こっちはU23なのに、相手のアンゴラはフル代表だ。見るからに体格も違う。でもニッポンがゲームをずっと支配していたし、結果的に追いつかれて1-1になったけど、手ごたえはあった。
●良かった選手は右サイドの長友佑都(FC東京)。前に持ち上がれる。森重真人(大分)は粗削りだけどポテンシャル高そう。豊田陽平(山形)はゴールを決めたとはいえ、その前にキーパーとの一対一にシュートを打てなかったのが残念。本来はスピードもあるはずだが、イマイチ平山との違いを見せられなかったかも。細貝、梅崎、李あたりはすでに当確の印が付いてる感じ。

March 27, 2008

バーレーンvsニッポン@ワールドカップ2010三次予選

バーレーン●以下、結果バレありですよー。
●前回のワールドカップ予選では最終予選でバーレーンと戦っているのであるが、そのときはアウェイでもニッポンが圧倒したんである、サッカーの内容で。それが今回は三次予選でこうなった。バーレーンが強くなってるのはたしかで、しかもアフリカから若くて才能のある選手をどんどん呼んできているんだから(これは他の中東の国でも以前からあったと思うけど)、まだまだ強くなるかもしれない。
●メンバー挙げるのもしんどい感じですが。でもまあ。なぜか突然3-5-2。GK:川口-DF:中澤、阿部(→玉田)、今野-MF:駒野、安田(→山岸)、中村憲剛、鈴木啓太、山瀬(→ 遠藤)-FW:巻、大久保。高原ケガ。稲本ケガで結局呼ばれず。
●前半つぶしあいになっての0-0はおそらく無問題。ただ後半に入ってもまったくペースが変わらず、「あれ、ハーフタイムには何もなかったのかな」と心配していたところに、相手の足が早々と止まりだした。そうか、バーレーン強しと思ったけど、彼らもいっぱいいっぱいだったのか。こちらはまだ余裕。勝点3を期待した。そこにつまらない失点をしてしまった。すっかり足が止まったチームでも味方がゴールしたら元気出る。これ、草サッカーからワールドカップに至るまで通用する普遍的真実。バーレーンは勝ち切った。
●勝点1ならまだしも、ゼロ。相手に3を与えたのが痛すぎる。もちろんまだ試合数はあるので、ニッポンはホームでバーレーンに勝てばいいんだし、1位になる可能性は十分ある。仮に1位じゃなくても、実は2位でもOK。一方で、同組はほかにオマーンとタイだということを考慮すると、3位で落ちても不思議はない。「ワールドカップ南アフリカ大会にニッポンが出場できない」という可能性は十分あると思ってはいたんだけど、正直「ニッポンが最終予選にも進めない」なんてことは予想してなかったわけで、目下、岡田ジャパンは「考えたくない可能性について考える」という試練を提供してくれている。
●脳裏に浮かんだですよ、激昂するオシム前監督の姿が。岡田監督、スマソ。オー、ノ~、懊悩。

March 26, 2008

桜が咲いたらカラヤン生誕100周年

●生誕100周年になんらかの記念行事がある指揮者や演奏家ってスゴいと思う。どうがんばったって、記念演奏会に本人は出て来れないわけだし(いやまだ健在で現役なら別だけど)。作曲家は作品が何百年でも残り得るけど、演奏家は記録物しか残せない。
●そう考えるとやっぱりカラヤンというのは例外的な存在だと思う。記録物でも(しかも既存のものでも)、まるで本人が生きてるみたいに雄弁に何かを語っている気がする。映像でイベントが成立する指揮者ってほかに存在するんだろうか。

カラヤン生誕100年記念
サントリーホール カラヤン・フィルム・フェスティバル

オズボーンのカラヤン●映画監督アンリ=ジョルジュ・クルーゾーとカラヤンの共同作業については、リチャード・オズボーンの『ヘルベルト・フォン・カラヤン』(白水社)にもあれこれ書かれていておもしろい(下巻のほう)。カラヤンのほうはクルーゾーに役者として使われる、つまり「カラヤンがカラヤンを演じる」ことになるのを危惧していたが、クルーゾーのほうはプロの俳優を嫌い、どんな素人からも名演技を引き出せると豪語していたという。この組み合わせはひとまず成功するわけだけど、ワタシらから見ると、ある意味「カラヤンはいつでもカラヤンを演じていた」ようにも見える。実際、メニューインとモーツァルトを共演したときは、先に録音しておいた音にあわせてカラヤン(とオーケストラ)は演奏しているふりをしなきゃいけなくなる。それって宇宙一本格派の「エア・コンダクター」じゃないか。しかもそれがカラヤンほど似合う人はいないだろうし、カラヤンほど嫌がった人もいないんじゃないかという気もする。
●もう一つ、こちらは音のほうの記念企画。衛星デジタルラジオのミュージックバードの「カラヤン伝説2008」。4月5日からスタート、目玉はオーストリア放送協会提供のライブ音源。高音質が売りの局なので、チューナー&アンテナが必要だけど、聴ける方はどうぞ。

March 25, 2008

Windows Live SkyDriveなるものに出会う

空は青いな大きいな~♪ それ、海だよっ!●「おのれのデータのバックアップなど要らん! ガハハハ」といった豪放磊落な方には無用の話であるが、小心なワタシなどは常に気にしてるのである、すなわちPCにある自作データやら仕事データ、これを2台PCで同期させて事実上のバックアップをしてみたり、ときどき外付けポータブルHDDにコピーしたりしてる、だがそれでもやはりバックアップはネット上に存在するのが本来のあり方なんじゃないか、バックアップはわが家PCとは極力独立存在であるべきであり、いざとなれば出先からもアクセス可能であってほしい!
●と考え、以前よりある低廉なる有料オンラインサービスに申し込み、そこにデータを放り込んだりしていたのだが、そんな時代を華麗に抜き去っていく恐るべき無料サービスがここに。Windows Live SkyDrive というのを使うと、いきなり5GBの容量をもらえてしまうんである。しかもこれ、個人用のバックアップエリアにも使えるだけじゃなくて、知人などと大容量ファイルの共有にも使えたりする。ワタシが使ってる有料サービスより使い勝手がいいではないか。こんなのまで無料でできるんだから、ネット上の有料サービスって、ホントに商売としては大変だと恐怖する。
●ただし、このWindows Live SkyDrive にはまだ練れてない感もあって、特に複数ファイル一括ダウンロードできないっぽいのが惜しい、惜しすぎる。あと、こういうのはローカルから見てドライブの一つみたいに扱う形が目先のゴールだろうから、単なる保存庫じゃヤだって見方もきっとあるだろう。でも、無料で5GBっすよ。つべこべ言わずに放り込みやがれっ!な広大にして不可視な空間、ぽっかりとそこに。

March 24, 2008

アーサー・C・クラーク追悼

幼年期の終わり●光文社の古典新訳文庫からクラークの「幼年期の終わり」が出たときは驚いた。このシリーズにこういうジャンル小説が入るのか!っていうのもあったけど、ジャンルの枠を取り払っても「幼年期の終わり」は古典になってるのんだという発見あり、っていうか「幼年期の終わり」は1953年の作品だからもう半世紀も経ってる。半世紀前に書かれても現代音楽とか呼んじゃうのに慣れると、この辺の感覚がうまくバランス取れなくなるけど、すでに2種類の古い翻訳があってそこにさらに新しい新訳が出たわけだから、これを古典と呼ばずしてどうする。
●と思ってたら、アーサー・C・クラークの訃報が。享年90。クラークっていうとワタシはまず「2001年宇宙の旅」を思い出す。でもこれはクラークっていうよりキューブリックの映画か。読んでいて興奮したというか、楽しかった記憶というと「宇宙のランデヴー」。突如、太陽系に地球外文明の建造物というか宇宙船というか、よくわからないものが出現して、それがなんだかさっぱりわからない……という話、たしか。
●「幼年期の終わり」も10代で読んでそれっきりだけど、今読むと当時とは全然違ったところをおもしろく感じるにちがいない。記憶だけでストーリーを思い出して、「ああ、たしかこれは種が進化するというSFとしてのテーマがあって、自分の想像力の枠を超えた大きなビジョンを見せてくれるおもしろさがありつつ、同時にタイトルが示すように、子どもが大人になるという成長の物語でもあり、それはあんなのとかこんなのとか不条理に次々出会いつつも、人はそれを受け入れ、理解不能で不快な存在と共存共生するという話だったかなー」と思って、あらすじをググってみたら、まるで違ってた! (やれやれ)
●何を読んでもすぐ忘れるから当てにならない、実にならない。一度新訳を読んでおくか。

March 21, 2008

Jリーグ中継、本日の大一番

大Jリーグ中継●「ああっと、高原、倒されました。主審の岡田正義さんの笛が鳴ってPKです! 中澤にイエローカード。マリノス大ピンチです。浦和レッズが大きなチャンスを迎えました。……おや、ここで向こう上面のカマモト親方が右手を挙げています。物言いです! 岡田主審の判定に物言いがつきました。ピッチ上に審判委員が集まって協議に入りました。スローで再生してみましょう。舞の海さん、ここで中澤が高原の前褌を取ってますね」
「一気に寄り切ろうという作戦でしたが、高原選手、足で外掛けを狙って中澤選手を削ってますね」
「どうでしょう、これはむしろ高原選手のファウルかもしれません。あっ、ただいま協議が終わりました。カマモト審判部長、マリノスボールを示しています。行司軍配差し違えで高原選手のファウルです。マリノス、助かりました。決まり手は蹴返し、中澤選手勝ち点3を奪ってこれで勝ち越しです、明日はジュニーニョ山との対戦です」
「厳しい取り組みが続くので気が抜けませんね」
「絶対に負けられない一番がそこにありますね」

March 19, 2008

ドゥ・ニースへようこそ!

デニースへようこそ●先々週の土曜日だったかな、たまたま渋谷のタワレコに行ったらストアイベントで、ダニエル・デ・ニース(ドゥ・ニース)のミニライヴ&サイン会をやってたんすよ。あ、今の「たまたま」っていうのはウソなんだけど(笑)。あーあ、ったく、しょうがねーなー。でも彼女のヘンデルを少しでも生で聴こうと思ったら、この日ここに行くしかなかったわけですよ。期待通り歌ってくれました、「ジュリアス・シーザー」のアリア「難破した船が嵐から」(もはやこの曲は彼女の「持ち歌」にしか聞こえない)と、「リナルド」から「私を泣かせて下さい」を。数メートルくらいの至近距離で。いやー、ダニエル、すべてにおいて最高だな~(←あなた何者ですか)。
●ちなみに国内盤の写真は輸入盤に比べると彼女の顔がアップになっている。なにしろ「スウィート・ディーヴァ」っていうアルバム・タイトルが付いている。いや、声質はぜんぜんスウィートっていう感じじゃないんすけどね。
●名前の表記は定まらないまま。ユニバーサルミュージックが「ドゥ・ニース」、ホールオペラを主催したサントリーホールが「デ・ニース」。だから雑誌ごとにまちまち。ワタシは世界の成り立ちを定めるのはGoogleだと過大に確信している人間なので、こういう事態を極端に恐れる。「本当の発音」なんて意味レス(そもそもそんなものがあるとして)。Googleで定量的に扱えない概念は、ヒット数や被リンク数に敗北する……に違いないというどうしようもないほどの畏れを抱いているのだが、案外共感してもらえないんだな、この気分は。

March 18, 2008

「のだめカンタービレ」第20巻

のだめカンタービレ●遅ればせながら読んだ、「のだめカンタービレ」第20巻。物語が佳境に入ってきて、泣かせる曲が次々と出てくる。これを読むと、ターニャの「クライスレリアーナ」を聴きたくなるけど(すっごく濃いんだろう)、清良のベルク/ヴァイオリン協奏曲は特に聴きたくならない。って感じてしまうところが、よくできている。むしろベルクのほうはウチにあるクレーメルとかのCDを聴きたくなる。
●黒木クンのドン引き発言がツボ。あと、のだめが某協奏曲に惚れる場面がすばらしい。この曲、ここまでとっておいたのかなあ。
●最後のページの「バラとプルトニウム」で10分くらい笑える。
●でもターニャみたいなピアニストは難しいっすよね。目立つし、とりあえず聴きたくなるけど、気持ち悪いと思ったらもう恥ずかしくなって聴けない。唖然とするほどのテクニックがあれば、あんな弾き方でも許されるというか、もてはやされるし媒体ウケもいいだろうけど、そんなわけでもないしなあ。ショパン弾きにならないほうがいいと思うんだよね。いや、これマンガだから、一音も発せられてはいなくて、全部自分の脳内イメージに向かって言ってるんだが。

March 17, 2008

週末楽園フットボール、スマソ横河武蔵野

●「聖地初見参!!」と書いたチラシがウチのポストに入っていた、聖地それはすなわち国立競技場。なんとJFL(J2の下、日本の3部リーグ)に所属する横河武蔵野フットボールクラブが、JFLとしては初めて、国立競技場で試合をするというではないか。すげえっ! JFLなのに国立。そして選手たちはどんなに嬉しいか、ワタシも立ちたいぞ国立に! そんなエキサイティングなチラシに体全身で応えてやった、いざ行かん! と力んでみたコンマ1秒後に気づく、日曜日はコンサートがあるではないか。スマソ横河武蔵野、国立の試合はもうないが、近くホーム武蔵野陸上競技場に足を運ぶ、きっと必ずや。
●わがマリノスは札幌のアウェイへ。敗北目前、立て続けの2ゴールで逆転勝利。開幕2連勝という、予想もしていなかった展開に夢が膨らむ。しかし夢見るととたんに鬼連敗したりするからサッカーの神様は基本的にイジワル。
●驚いたのはレッズがオジェック監督を解任したこと。開幕2試合で監督交代とは。で、コーチのゲルト・エンゲルスが新監督に就任! これが悔しすぎる。ワタシはひそかに「ゲルト・エンゲルスがマリノスの監督になってくれたらなー」と期待してたのに。ブッフバルト監督時代から、ゲルト・エンゲルスがコーチなのはもったいないと思っていたが、ついにレッズの監督になってしまった。
●ゲルト・エンゲルスで忘れられないのは、横浜フリューゲルス監督時代。ANAが撤退して、フリューゲルスがマリノスと合併することになって以後、全戦全勝、消滅するチームが天皇杯に優勝するという前代未聞の事態に。ホーム最終戦で「だれでもいい!助けてくれ!」と新スポンサーを求めて必死に叫んでいたシーンが印象に残っている。日本語堪能。京都でも天皇杯優勝を果たしている。滝川二高のコーチを経てJ監督っていうのも外国人監督としては異色。

March 14, 2008

冬の旅、黄色い雨

冬の旅●以前から不思議だったんだけど、「好きな歌曲」みたいなアンケートを採ると、必ずといってもいいほど第1位がシューベルト「冬の旅」になるんすよ。もちろん名曲なんだけど、なにしろ描かれているのが孤独と絶望、死じゃないですか。作曲者が生前、友人たちに聴かせたところ、曲のあまりの暗鬱さにみんなドン引きしたっていう話があるけど、それも当然だと思う。恋に破れて疎外感とか孤独を味わっているうちはまだ「この世」側にいるけど、幻に襲われたり、墓場をうろついて安らかに眠る死者と出会ったりするのは「あの世」側なわけで、心躍る作品とはいいがたい。でもなんか琴線に触れるところがあるってことなのか、日本人には。
●いや日本人だけじゃないか。孤独を突きつめると詩が生まれる。ってことなのかもしれん。
黄色い雨●もっとも孤独な物語といえば? フリオ・リャマサーレスの「黄色い雨」だろうか。一人また一人と人々が村を去り、廃村となりつつあるアイニェーリェ村にたった一人だけ留まった男の物語だ(背景としてスペイン市民戦争があるのだが、具体的には何も言及されない)。主人公以外には死人と犬一匹しか出てこない。いや、主人公すら生きていないかもしれない。孤独と沈黙、忘却、幻想と狂気のなかで静かに死を待つ男の姿を描く。すると詩になる。「冬の旅」が「冬」であることに疑問を持つ人はいないが、「黄色い雨」を読むと、冬を終えてやってくる春こそが孤独と喪失にふさわしいと気づく。

雪は三、四日で完全に溶けた。その後、雪解け水が村に近い傾斜地の最後に残った側溝を破壊し、通りを泥水で覆い尽くした。それと同時に、家々がその切断された手足や骨をむき出しにしはじめた。あたり一面が雪に覆われている時は、昔のアイニェーリェ村と変わりないように思えたが、陽射しが以前の亀裂や荒廃ぶりだけでなく、この冬が無残にも破壊した家々を白日の下にさらけ出した。(中略) 私は以前住んでいた人たちのことを思い返しながら、そうした建物のあいだを歩きまわり、キイチゴの茂みに覆われた玄関から家の中に入り、荒れ果てた台所や部屋の中を見てまわったが、その姿はおそらく兵隊が全員脱走したか、死体に変わってしまった塹壕にひとり戻ってきた狂った将軍を思わせたにちがいない。

 凄絶な春の到来である。もっとも雪が融けて、埋もれていたものが出てくるからこその春であって、積雪しない土地ではこの光景はピンと来ないかもしれない。春になって泥水から出てくるのは何かといえば、それは幽霊なのだ。

March 13, 2008

君の名はきっとセリョージャ

●一昨日ラフマニノフの伝記に触れたと思ったら、たまたまこんな映画情報が。

映画「ラフマニノフ ある愛の調べ」
http://rachmaninoff.gyao.jp/

 ゴールデンウィークに向けて、Bunkamura ル・シネマ、銀座テアトルシネマ他にて全国順次公開なんだそうです。パーヴェル・ルンギン監督のロシア映画。どうやら渡米後、主にピアニストとして活躍していた頃のラフマニノフを描いているっぽい。これは見るしか。
●告知ついでに。Sheet Music Plus でC.F. Peters 20%OFFセール開催中。

Sheet Music Plus - Annual C.F. Peters Sale

●音楽とは関係ないけど、もう一個お役立ちサイトのご紹介。「このURLってホントに安全なのかなあ? もしかして怪しいサイトだったらヤだなあ」ってときに使うサイト。URLを入力するとあれこれ調べてくれます。いわばeコロ杖。あ、転ばぬ先の杖。

aguse.jp
http://www.aguse.jp/

March 12, 2008

元気鶏

今なら全品3割高セール実施中!●近所のスーパーで、「産直元気鶏モモ肉」ってのを買ったんすよ。「抗生物質・合成抗菌剤を飼料に一切使用しません」っていう元気鶏。でも元気鶏ってことはないと思うんすよ。すでにぜんぜん元気じゃないわけだし、ニワトリとして。てか、もう死んでるし。確実に。

March 11, 2008

大作曲家の伝記

伝記 ラフマニノフ●大作曲家の伝記でいいな!と思うのは、このバジャーノフの「伝記 ラフマニノフ」(小林久枝訳/音楽之友社)みたいなタイプ。まるで著者がその現場に居合わせたかのように、ラフマニノフ視点で書いている。青年期のラフマニノフが偉大なる先輩チャイコフスキーに会って、そのにじみ出るオーラに感激する場面とか、絶対にそれ実際には目にしてないっていうシーンを、さも見てきたかのように書く。すばらしい。伝記作家は、事実を積み上げなきゃならないのは当然として、さらにその人物をどう描くか、対象となる人生からどのような物語を紡ぎ出すかが腕の見せどころなんだと思う。
●というのも、フツーの人でも人生は長くて複雑で、一言で形容できるものではない。あなたの人生をどう描くか。視点をどこに置くかで、愉快な生涯を送ったとも苦労だらけの人生だったとも書けるかもしれない。富める者だったとも貧しい者だったとも書けるかもしれない。快活な人物だったか気難しい人物だったか。そんなの本人にすらわからなかったりする。これを確認するために「事実」を詳細に積み上げると、ますますわからなくなる。20代は気難しかったけど、30代は快活だった、でも40代は東京にいた頃は気難しかったけど、沖縄に移住したら快活な人になった、仕事仲間には快活だったが家族には気難しかった……さあ、では本当はこの人は快活な人だったのでしょうか、気難しい人だったのでしょうか。人は複雑だから、だれだってそう簡単には割り切れない。だから「事実」だけを果てしなく並べても伝記にはならず、そこには「物語」が必要になってくる。優れた伝記作家の功績はその人物に物語を与えた点にある。たまに、新たに見つかった「事実」によって既存の「物語」が否定されることがある。それはそれでしょうがないのだが、物語を剥奪した者は、代わりとなる新たな物語を与えてやってほしい。シントラーがベートーヴェンについて書いたことはウソ八百だったんだろう。にもかかわらずシントラーの書いたことがずっと残ったのは、それだけ彼が優れた伝記作家であったということを意味している。
●ある作曲家を忘却の彼方へと葬りたいなら、彼についての物語を単なる事実によって徹底的に否定するのが近道なんじゃないか。逆にある作曲家を売り出すなら、シントラーを、それが今の時代に許されないなら、せめてバジャーノフを雇うのが良いかもしれない。

March 10, 2008

サッカー・ファン/ヲタ/サポ/廃人

●そんなわけで週末にJリーグ開幕。しかし改めてNHKのサッカー中継番組表を眺めてみると、意外とJリーグ中継は少ない。毎節BSで1試合、ときどき地上波で1試合みたいな感じか。番組表だけ見ると、むしろイングランド・プレミアリーグのほうが目立っている。いつの間にかプレミアの生中継まで始まっているではないか。非プレミア者としては軽くショック。
●これにWOWOWがあると毎週スペインリーグが4試合ある。さらに代表の試合とか、民放地上波、ローカル局のJ中継もある。スカパーと契約しなくても、これ全部見たらサッカー廃人になれる。ならないけど。なれないし。でもなりたいかも。いやなりたくないな。
●サカヲタも大変っすよね。クラヲタも同じだけど、限りがない。
●「ファン」と「サポーター」と、どっちが熱狂度の高い言葉かという問いがあると、多くの人は「サポーター」って答える。「ファン」は軽い気分でも名乗れる、と。でもだれが言ってたのか忘れたけど、「ファン」のほうが強い言葉だって言うんすよ。つまり「ファン」= fanatic(狂信者、熱狂的な愛好者)の略だから。なるほどと膝を打って、ワタシは「ファン」という言葉がますます好きになった/嫌いになった。

March 9, 2008

マリノスvs浦和@Jリーグ開幕戦

やっぱりJリーグが一番●ドゥワヲッシャーーー! と言語化不能な謎の雄叫びを挙げて見たJリーグ開幕戦、スタジアムには行けなかったのでテレビ観戦、しかし試合前はどんよりした気分もあった、なぜなら相手は浦和。えー、開幕戦でまた浦和? それは厳しすぎるのでは。と戦う前から自分内言い訳モードに入っていた、スマソ、オレのFマリ。恐るべき浦和を相手に、1-0で完勝。予想に反して、試合開始から一貫してゲームを支配、大きなピンチもなく、途中退場者まで出してしまったのに、勝点3をゲット。
●マリノスの今年のメンバーってスゴく若返ったんすよ。レギュラーでは中澤だけがベテランで、控えを見ても松田がいるくらいで、後はみんな若い。山瀬だって上のほうであって、実感としては平均22~23歳くらいのイメージ。吉田とか上野とか那須とかいなくなって、ユース出身者とか新人が増えた。でも最大の驚きは監督が元磐田の桑原監督だってことで、今日からさっそく桑原色が出てた、きわめて非マリノス的な。
●えっと、興味ないかもしれないけど、書いておきます、先発イレブンを。3バック。GK:榎本哲也-DF:中澤佑二、栗原勇蔵、田中裕介-MF:左 小宮山尊信、右 田中隼磨、中 松田直樹、山瀬功治、ロペス(仙台から移籍)-FW:大島秀夫、ロニー(新外国人)。中盤の底は本来河合のポジションなんだけど、ケガということで驚愕の松田直樹起用。これがすばらしく効いていた。あと、4バックの頃だと小宮山尊信と田中裕介という才能ある若手が同じ左サイドバックを奪い合うみたいな困った事態があったんだけど、3バックにして田中を中央で使うと二人を共存させられるという解決策が発見されたのも吉。今日はその小宮山のJ初ゴールが決勝点。
●途中、1点リードしている状況で、2枚目のイエローでロニーが退場。これまでのマリノスだったら、こうなったらもうとにかく体を張って鉄壁のディフェンスを敷く(そしてそれはえてして破られる)のが通例なんだけど、桑原監督は強い。ロペスを下げて、フォワードの坂田を入れて2トップを守った。今日一番驚いたのはこれかな。しかもちゃんと成功して、カウンターから2点目を奪うチャンスすらあった。
●高原とエジミウソン(新潟から移籍)というとんでもない2トップを手に入れた浦和だけど、今日に関しては攻撃がうまく機能していなかった。マリノス側から見ると、ポンテの不在に助けられた。長谷部、小野が移籍して、しかもポンテがいないんだから、中盤の雰囲気はかなり変わってた。それにしても浦和のベンチ見たら眩暈するですよ。田中達也、永井雄一郎、梅崎司、細貝萌。贅沢すぎる。
●開幕戦に勝ってしまうと過剰に期待が膨らんでしまうという傾向がある。昨日まで「今年は若い選手を育てる年」と割り切っていたのだが。今のうちに夢を見ておこう。今日は90分があっという間だった。

March 7, 2008

不条理ドラマ「マノン・レスコー」

●もう20年以上も大昔なんだけど、ディーン・R・クーンツ「ベストセラー小説の書き方」を読んで(←そんなの読むなよっ)、いまだに覚えている「ベストセラーの条件」ってのがいくつかあって、そのひとつが「主人公は愚かであってはならない」。主要登場人物がバカすぎると読者は共感してくれない、と。いま一つピンと来なかったんだけど、クーンツは実際にベストセラー作家だから、そんなものかと記憶に残った。
プッチーニ●で、「METライブビューイング」で見てて思い出したんだけど、プッチーニの「マノン・レスコー」ってクーンツに叱られそうな脚本っすよね。マノンは愛よりもお金、というか、愛があれば富がほしくなるし、でもセレブ(ていうか愛妾か)になって愛を失うと愛のほうが大事に思えて、結局すべてを失う。まるで水面に映った骨をくわえた己の姿を見てワンと吠えた犬みたいな女子で、これは普遍のテーマだからいいとしても、デ・グリューまでいっしょになって愚かなのがやるせない。
●デ・グリューがどうして第4幕までマノンに誠実でいられるのかがわからない。いや、それ以上に途中でマノンのお兄さん(この人のやることは一から十まで動機不明で銀河最大の謎)が、大臣の屋敷でマノンに向かって言うじゃないですか。「実はデ・グリューはお前を助け出すために、いま一生懸命賭博に打ち込んでおる。この私が指南してやったからきっと大丈夫だよ、ワハハハハ」。って、それダメすぎじゃん!!  デ・グリューは努力の方向をまちがいすぎ。「麻雀放浪記」じゃないんだから。あなたドサ健気取りですか。そんな愚かすぎるデ・グリューが、愛に生きてムダ死にするから、ホント、第3幕以降は見てらんない。おい、どうしてお前さんまでアメリカに島流しになるんだよ! 落ち着け、デ・グリュー。
●でもなー。音楽的には最高なんですよ、「マノン・レスコー」は。アリアはみんなすばらしいし、ステキな間奏曲もあるし、第2幕の終わりのジェロンテが憲兵を呼んで来るあたりのスリリングな場面なんかも本当にドキドキする。
●第3幕の港のシーンは、マノンが娼婦としてフランスの植民地であるルイジアナに売り飛ばされるっていうことなんだけど、「罪を犯してアメリカに島流し」っていうのが今はなかなかわかりにくいよなー。きょうびアメリカから追放される人はいっぱいいるけど、アメリカに追放される人はなかなかいない。で、4幕で砂漠をトボトボと二人で歩いてて、いきなりもう衰弱して死ぬしかない状況に追い込まれていて、3幕と4幕の間に何が起きたのか全然わからん(また逃げたの?)。砂漠で水も食料もなく、地平線までなにもない。ある意味、もっとも見たくない陰惨な死の光景。で、なぜかここで同じくプッチーニの「西部の娘」のラストが勝手に脳内混信してきて、いつの間にかワタシの頭の中では「西部の娘」の二人、ミニーとジョンソンが砂漠の中の絶望的な逃避行をしていることになっている。
●今の商業映画だったら、第4幕はハッピーエンドに書き直せってプロデューサーから命じられるかもしれない。賛成しなくもない。ただ砂漠の真ん中で二人が救われるには、どんなプロットを用意すればいいのやら。クーンツ先生ならきっと超自然の力でなんとかしてくれるのかもしれないが。

March 6, 2008

METライブビューイング、その後

●そういえば、前にちらっとご紹介した「METライブビューイング」、先日「マノン・レスコー」を見てきた。やっぱりこういうのって、実際に体験してみないとダメっすね。最初は「えー、わざわざ録画を見るために劇場に足を運ぶのってなんだかな~」みたいな感じがしてたんだけど、行ってみるとこれが意外と楽しかったんである。幕間の映像とかよくできてるし、映像のクォリティはギョッとするほど鮮明。公式サイトを見てもわかるように、現在上映しているのはほとんどがシネコン。ワタシはMOVIX昭島に行ったんだけど、どこでも見かけるタイプのシネコンのチケット売り場があって、空席案内のところに「超劇場版ケロロ軍曹3」とか「ガチ☆ボーイ」とかと並んで「マノン・レスコー」がある。あ、そうか、これって映画なんだと思ったら腑に落ちた。
●映画館でオペラを見るってのは、体験として「新しい」のか「古い」のかさっぱりわからない。でも「自宅に立派なホームシアター作ってオペラを楽しもう」と全然思えない派の自分みたいな人間には、シネコンに行くってのが手っ取り早くて、娯楽としてもなじみ深い。
●幕間の映像がどんな感じだったかとか詳細は、改めて金曜更新の日経PCオンライン連載コラム「ネットエイジのクラシックジャンキー」にて。ちなみに現在掲載されている回は仮面ライダーキバの話題。週刊更新だから猛烈な勢いでネタが消費されてゆく。

March 5, 2008

「もやしもん」 6 TALES OF AGRICULTURE

●うーむ。ここしばらくスゴく読書量が落ちてしまってて、物語濃度が低まりすぎててよろしくない。人は物語がなくては生きていけない。
もやしもん●とか言いながら、手に取ったのは「もやしもん」第6巻だったりする。物語ってそれかよっ!
●今回は強引にも舞台がフランスになってて、日本語堪能なフランス人少女が出てきたりする。農大キャンパスを舞台にした日本酒をめぐる菌の話が、ブルゴーニュを舞台にしたワインの話になっているともいえるし、長谷川研究員と美里先輩の愛と冒険の始まりを描いたものとも言える。かもしてメルシー、かもされてジュテーム。堪能。
●ちなみに帯に国立科学博物館での特別展『菌類のふしぎ~きのことカビと仲間たち』の案内が載っていて、「もやしもんがお手伝い」するらしい。でもこれ、10月開催って半年以上も先ではないか!

March 4, 2008

ジャイアントスウィングしてポストに書類を投函

●毎日大量のシューベルトを摂取し続けていると、心が。
フリーランスを代表して 申告と節税について教わってきました。●と、なにか詩的あるいは病的なことを言う寸前で止めて、きわめて世俗的な話題へとキックフェイントして切り返すと、すなわち確定申告、書類一式をまとめて税務署へ郵送。去年までは持参してたけど、今年は足を運べそうにないので郵送。今年も銀河最大の謎複式簿記と死闘を繰り広げた気がするが、要は自分が仕組みとかルールをよくわかってないから苦労するのであって、ホントは全然必要のない戦いを独りよがりにやってただけな気がする。いや気がするじゃなくて確実に。でもまあ、そういうことって多いじゃないですか、世間って。見えてないから見当はずれの苦労を背負い込む。わかってないから、正解ルートを進んでいたのに心配になって元の分岐点まで戻って間違いルートをたどりなおす。「すばやさ」を上げてあらかじめスクルトとかバイキルトかけておくと魔王が「いてつく波動」で無効化する。明晰に道筋を見通せることばかりじゃない。ああ、確定申告って人生の縮図だなあ。
●……なわけない、断じて。この総勘定元帳って全部プリントアウトして保存するのかなー。どうしてPDF保存じゃいけないのかわからない。プリントアウトしたけど。

March 1, 2008

カツラを脱いだバッハ

バッハ
●バッハの顔というとこんな漠然としたイメージが脳内に定着してるんだけど、なんと、遺骨をもとに法医学技術とCGを駆使して復元したバッハの顔というのが公開された→これがバッハの「本当の顔」? ドイツで公開。これ! カツラかぶってないよ!(そりゃそうだ)。そういえば、カツラかぶってないバッハって、見たことなかったよなあ。っていうか、このオジサン、どこかで見たことないですか。似てる、だれかにスゴく似てる。八百屋のオヤジだったか豆腐屋の兄ちゃんだったか、その辺で見た気がする。
●CGの復元段階図がこちら。だんだん進化してます、みたいな。左から順に名前をつけてみました。ガイコツ、サイボーグガイコツ、デビルバッハ、偽バッハ、大バッハ。中央のデビルバッハは人類征服企んでる悪の組織の中ボスくらいにいそうな感じ。
●若武者バッハってのも見てみたいっすね。勝手な想像だけど、細身の美青年で、長髪をなびかせるバッハとか。

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