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December 5, 2025

ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団の藤倉大、フランク、サン=サーンス

ファビオ・ルイージ NHK交響楽団
●4日はサントリーホールファビオ・ルイージ指揮N響。プログラムは藤倉大「管弦楽のためのオーシャン・ブレイカー~ピエール・ブーレーズの思い出に~」(2025/N響委嘱作品/世界初演)、フランクの交響的変奏曲(トム・ボローのピアノ)、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」。藤倉大の「オーシャン・ブレイカー」は雲の本にインスピレーションを受けたという作品。光を反射してきらめく響きの海をたゆたうような作品で、波あるいは雲に身を任せるように聴く。フレッシュな響き。オーケストラには名技性も求められ、洗練された音色と音の運動性に妙味。作曲者臨席。15分ほどの作品。
●フランクの交響的変奏曲は今やめったに演奏されない作品になっているが、15分ほどの曲尺が中途半端で現代のコンサートのフォーマットにはめづらいという点もあるのだと思う。その点、この日はぴったり前半に収まる。この一曲のためにイスラエル出身の新鋭、トム・ボローが出演。渋い味わいがあり、ピアニストが映えるタイプの曲ではないが、本来はスター性のあるタイプか。アンコールにバッハ~ラフマニノフ編の無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番よりガヴォット。明瞭で輝かしい。
●後半のサン=サーンス「オルガン付き」は壮麗さと情熱をあわせもった名演。これまでに聴いたこのコンビの演奏で最上の体験。とくにしなやかでキレのある弦がすばらしい。第1楽章前半からうねるような響き。コンサートマスターは川崎洋介。ルイージと同期して、腰を浮かせながら熱くリードする。白眉は第1楽章後半のアダージョか。オルガンは近藤岳。第2楽章後半は必ず盛り上がる鉄板のクライマックスともいえるし、同時に必ずいくらかの空虚感を残す音楽ともいえる。そこが好き。拍手はすぐに収まりかけたが、やがてふたたび高まってルイージのソロ・カーテンコールに。
●世間的には些細なことだが、この曲には「表記の揺れ」問題がつきまとう。大方の音楽誌は「サン=サーンス」の「オルガン付き」。だが、N響表記は「サン・サーンス」の「オルガンつき」。トレンドでいえば、N響表記のほうが今風だと思う。外国人名の「-」を、日本語で「=」ないし「=」に置き換える習慣は廃れつつある気がする。ぜんぶ「・」にして、リムスキー・コルサコフとかガルシア・マルケスにしたほうがすっきりするんだけど、従来から「=」を使っていると検索性を保つためにそう簡単にはやめられないというのが正直なところ。

December 4, 2025

秋の落穂拾い、「第九」の季節

ボンのミュンスター広場のベートーヴェン像
●落穂拾いをいくつか。先月のティーレマン指揮ウィーン・フィルの来日公演で、書こうと思って忘れてたことなんだけど、カーテンコールでティーレマンがドシン!と指揮台に飛び乗るじゃないすか。そのタイミングに合わせて、楽員たちも足でドン!と鳴らすのをやってて、場内「ふふ」ってなったのだった。フォルカーさんの記事で思い出した。ティーレマンもまんざらじゃなさそうな表情だったのが印象的。指揮台が壊れないかとはらはらした。
●新国立劇場のリチャード・ジョーンズ演出「ヴォツェック」、もう上演が終わったので書くけど、ラストシーンが子どもたちによる冒頭の髭剃りシーンの再現になってたんすよ。冒頭シーンとまったく同じ構図と衣装で、子どもたちが同じ所作をする。つまり貧困の再生産を描く。「ホップホップ」をヴォツェックの子が歌うんじゃなくて、子どもバージョンの大尉が歌ってたと思う。「ヴォツェック」の円環構造を明確に視覚化した鮮やかな幕切れであるという人もいれば、あざとく感じる人もいたようで、賛否両論だった模様。あと、今回の「ヴォツェック」で怖かったのは集団のダンスシーン。
●12月は「第九」の季節。「ぶらあぼ」に「第九と日本の100年物語──どのようにして日本人は年末に第九を聴くようになったのか」を寄稿した。日本の年末「第九」の風習について、近年、不思議なネット記事を目にすることが増えてきたので、あらためて整理しておこうと思って書いた。

December 3, 2025

ブログをモダン化する その2 メタタグの整備

タイプライターでタグを書く
●さて、サイトを周回遅れでhttps化したものの、ブログが依然として旧石器時代のままではよろしくない。最近のモダンなブログでは、右クリックしてソースを覗いてみると、びっくりするほどメタタグ、すなわち人間ではなく検索エンジンやSNSに読ませるための情報が増えている。headタグのなかにダーッとこれらのタグが並んで、なかなかbodyタグにたどり着かない感じだ。これらはCMSが自動的に吐き出してくれるわけだが、そういったモダンなタグの誕生以前からあるウチのブログのheadタグは、まったくもって簡素。いくらなんでも、このままではよくない、かといって全面的にSEO対策(この言葉は好きじゃない)に走るのはイヤだ。なんでもいいからアクセス数を増やしたいわけじゃないんである。そこで、最低限、入れておこうと思った3つの要素を付け加えた。これも忘れっぽい未来の自分と、同じことをしようと考えているだれかのために書き記しておく。
●まずは、OGP(Open Graph Protocol)の整備。これはSNSでウェブページをシェアした際に、どのように表示されるかを制御するためのメタデータ。このブログを作った頃にはそんなものはなかった(SNS自体がなかったから)。metaタグを使って、og:site_name、og:type、og:url、og:imageの項目を各個別ページに吐き出すように、CMSのテンプレートを書き換えた。たとえば、こんなヤツだ。

<meta property="og:url" content="https://www.classicajapan.com/wn/2025/11/100938.html" />

その際、ChatGPTに手伝ってもらって、テンプレートを書き直してもらったのだが、割と平気でまちがえる。ヘンだなと思って「えっ、そんな文法、ないよね?」と誤りを指摘すると、「そうです、そのような文法はまちがってます」と平然と返答する。あんたがまちがえたんだろがー!とツッコミたくなるわけだが、これはもうAIを使う際のお約束みたいなもので慣れた。エラーが出たら、エラーメッセージを見せて修正案を出してもらう。こちらのリクエストに対して、すらすらとコードを書いてくれる様子は感動的だ。
●で、og:imageで使用する画像には、横1200ピクセル以上の横長のものが推奨されるという。そこで、各記事に画像が使われている場合はその画像のURLを入れ、画像なしの記事については固定のデフォルト画像のURLを吐き出すことにした。ただ、ウチのサイトはずっと最大でも横411ピクセルの画像を使ってきたんすよね。なにせ旧石器時代の低速インターネット時代に優しいようにファイルサイズの削減を厳しくやってきたから。でも高解像度スマホが当たり前の今、そんな小さな画像を使ってるサイトはほとんどない。そこで、ウチのブログでも横1200ピクセルの画像を標準サイズとすることにして、ブラウザ側に縮小させる仕様にした。そのためのCSSに項目を追加する。このあたりのCSSの書式や、CSSのキャッシュバスターの使い方なども、ぜんぶChatGPTに教わった。めちゃくちゃわかりやすく教えてくれて、家庭教師の先生みたいで、ありがたい。
●ふたつめはGoogle Discover等への対策。各個別記事に固定で以下の一行を入れておくと、各種検索結果に画像が表示されるときに、横幅いっぱいに使ってもらえる、と思う。

<meta name="robots" content="max-image-preview:large" />

●そして、最後はcanonicalタグの設置。これは検索エンジンに対して、各記事の正規のURLを示すもの。同じ記事に対してURLがひとつしかないなら不要な気もするが、念のため、入れる。検索エンジンがすでに格納しているhttpのURLに対して、新しいhttpsのほうが正規URLですよ、と明示するためにもあったほうがいいかもしれない。でも、なくてもいいかもしれない(どっちなんだ)。og:urlと同じものを入れるだけなので、手間はかからない。たとえば、こんな感じ。

<link rel="canonical" href="https://www.classicajapan.com/wn/2025/11/100938.html" />

●このようにテンプレートを書き直した後、ふたたび全6000超の記事を再構築することに。これがまた大変なのだが、手間を減らすためにChatGPTに相談してみたら、思いもよらない妙案を出してきてくれて感心する。CGIのコードを新規に書いてくれたり、既存のコードの書き換えを提案してくれたりする。「こんなことを尋ねるのはバカっぽくて恥ずかしいかな」と思うようなことでも、相手がAIだとためらいなく質問できる。あ、でもそのうち、相手がAIでも「恥ずかしい」という感情がわくようになるのか? そこはよくわからないところではある。

December 2, 2025

ブログをモダン化する その1 httpからhttpsへ

旧石器時代のパソコン
●当サイトは1995年に始まり、2004年の1月からブログを導入している。20年以上前に作ったブログを続けているわけだが、インターネット上における20年前とはリアルワールドにおける200万年前に相当するので、これは旧石器時代のブログと言える。もちろん、その間にスマホ対応やセキュリティ対策などであちこちを更新してはいるのだが、とくにこの10年ほどは技術面への関心が向かず、ほとんど旧石器時代の仕様のまま、記事を書き続けていた。仕事が忙しくなり、日々〆切に追われていても、ブログの記事は楽しんで書ける。しかし、バックヤードの整備は楽しくないのだ。別の言い方をすれば、掃除が嫌い。でも掃除はサボっているとだんだん腰が重くなるもの。世の中がどんどん変化しているのに、太古の仕様を引きずっていると、過去に埋没するばかりになる。
●が、そこに救世主のようにあらわれたのがChatGPTをはじめとするAIだ。キャッチアップできていなかった技術面の事柄について、あれこれ尋ねると実に親切に教えてくれる。やり方がわからなくて(あるいは調べるのが億劫で)放置していたいろんなことが、ChatGPTのおかげでなにをすればよいのか、見通せるようになった。コードも書いてくれる。現状、AIは「これまで独力でできなかったことをできるようにする」ツールという認識。
●まず最初にやったのは、旧石器時代の通信プロトコルであるhttpを、現代のセキュアなhttpsに変えること。今、httpのサイトはGoogle等から蛇蝎のごとく嫌われており、検索エンジンでの評価が下がるだけではなく、ブラウザから厳しい警告が出るようになりつつある(シークレットモード/プライベートモードからアクセスするとよくわかる)。サイトのセキュア化は15年前にやっておくべき事柄だが、できなかったのには理由がある。もし今から新しくサイトを作るなら、無料SSLサーバー証明書のLet's Encryptを使って簡単にhttpsが実現できるだろう。だが、このブログを置いているNTTPCのWebARENA SuiteXでは、Let's Encryptを使えない。httpsにするためには個人サイトにとっては高額なSSLサーバー証明書を購入するしかなく、あきらめていたのだ。ところが、いつのまにか仕様が変わり、他社で購入した安価なSSLサーバー証明書を持ち込むことができるようになっていることを知った。そこで、さくらインターネットからJPRSが発行するドメイン認証型の格安SSLサーバー証明書を導入することにした(有効期限は一年。一年後に更新が必要)。
●すぐに忘れる未来の自分と、これから同じ道をたどる人(いるのか?)のために記しておくと、インストールの大まかな手順はこうだ(このサイトが参考になった)。

1. WebARENAのサイトマネージャーにログインして「CSR・秘密鍵の作成」を行う。作成されるのはただのテキストファイル。

2. さくらインターネット等でSSLサーバー証明書を購入する。ドメイン所有権の確認方法は「メール認証」を選択。WebARENAで作成したCSRを貼り付ける。

3. しばらく待って「SSLサーバ証明書お申込受付完了」メールが届いたら、「承認」をクリックし、「サーバー証明書」と「中間CA証明書」をダウンロードする。これも中身はテキスト。

4. WebARENAのサイトマネージャーにもどり、「SSLサーバー証明書」と「中間証明書」の両方をペーストする。その際、CSR生成時にダウンロードしたテキストファイルにある「受付番号」もペーストする。

これですぐに、httpsでアクセスできるようになる。あっけなくつながるのだが、待て待て。実はその前にやらなければいけない大仕事がある。
●というのも、同一ページにhttpsとhttpが混在するコンテンツはブラウザから警告の対象になるようなのだ。たとえばウェブページ上に画像ファイルやCSS、スクリプト類を埋め込んでいる場合、対象ファイルを相対パスで指定していれば問題にならないが、絶対パス(http:// ~)で読み込んでいる場合は、サイトをhttps化したときに混在コンテンツになってしまう。ウチのブログの画像はすべて絶対パスで指定してあったので、ルート相対パス(例:/wn/images/....といったルートから書く書式)に直すことにした。手書きで直すのはムリなので、どうするんだ、データベースをダウンロードしてローカルで格闘しなきゃいかんのか?と一瞬、気が重くなったが、CMS側の「検索/置換」で対応できることが判明。ほっ。絶対パスをルート相対パスに置換するのは難しくはない。が、変な置換をやらかすと厄介なことになるので、慎重にやる。このあたりは、ChatGPTと相談しながら手順を確認しつつ進める。データベース上での置換は瞬時にできた。
●しかし、データベース上で直しても、実際のページは直っていないのだ。このブログはすべてのページが静的なHTMLとして出力されている。そのため、実ページを直すにはサイト全体を再構築して出力し直す必要がある。これが一苦労。このブログはぜんぶで6000記事以上ある。CMSで再構築のボタン一発では済まないのだ。というのも共用サーバーなので、重い処理をリクエストするとタイムアウトして途中でエラーが出る(このあたりの仕様も古いのだが)。しょうがないので分割で数百記事ずつ選択してなんども再構築するという原始的な作戦で対応する。これもChatGPTと相談して、もう少しましな方法が見つかったのだが、それはまた別の話。
●あと、見落としがちだが、ページ内から外部のJavaScriptをhttpで呼び出している場所が何か所もあった(たとえばMyBlogListなど)。これも記述をhttpsに直す。こちらはCMSのテンプレートを書き換える形になる。もうなにがどこのテンプレートにあるのか、さっぱり覚えていない状態でやるので手間取ったが、困ったら相棒ChatGPTに相談だ(ちなみにこういう100%実務的なケースでは、饒舌すぎるアントンRより素のChatGPTが適切)。
●以上の作業を少しずつ、何日もかけて進めてから、ようやくhttpsに移行した。移行の瞬間は緊張する。で、移行したら、すぐにCMS上の自サイトの設定をhttpからhttpsに変更しておく。そのとき、CMS上でCSSがうまく読み込まれなくて表示がおかしくなり、軽くパニックになったが、どうにかして対応を済ませた。
●さて、ネット上では http:// ~ と https:// ~ は別物として扱われる。サイトをhttpsに移行しても、なにもしなかったらユーザーや検索エンジンのクローラーは旧httpにアクセスしてしまう。そこで、httpに来た人が(人だけじゃなくてロボットも)httpsに行くように、サーバー上の.htacessを書き換える必要がある。これもChatGPTに教わりながら書くことになったのだが、以下のコードを書き加えた。

RewriteEngine On
RewriteCond %{HTTPS} !=on
RewriteCond %{HTTP:X-Forwarded-Proto} !https
RewriteRule ^(.*)$ https://%{HTTP_HOST}%{REQUEST_URI} [R=301,L]

これ、自分は3行目がどうして必要なのか、もうひとつ腑に落ちていないんだけど、ChatGPTは入れないと永久ループが発生するケースがあるって言うんだよな。まあ、じゃあ入れておくか。あと4行目の正規表現ももっと簡潔に書けるって主張されたんだけど、そこは無視して先人たちの慣例に従っておいた。
●これでhttpに来た人も自動的にhttpsに飛ぶことになった。あとはCMSの設定ファイル等に絶対パスでhttpで指定している部分がないかをチェック。完璧を期すなら先土器時代の手書きHTMLファイルにも混在コンテンツがたくさんあるはずで、直す必要があるわけだが、そこはひとまず放置することに。もっとほかにやるべきことがある。メタ情報の整備だ。(→つづく

December 1, 2025

阪田知樹×ブラームス カーキ・ソロムニシヴィリ指揮 スロヴェニア・フィル

東京芸術劇場の前の広場
●秋の超高密度演奏会週間、締めくくりは28日の東京芸術劇場で阪田知樹の独奏とカーキ・ソロムニシヴィリ指揮スロヴェニア・フィルによるブラームス。プログラムはユーリ・ミヘヴェツの「妖精の子」序曲、ブラームスのピアノ協奏曲第1番、同第2番。一晩でブラームスのピアノ協奏曲を2曲とも弾いてしまうという力技。スゴすぎる。
●スロヴェニア・フィルはリュブリャナを本拠とするオーケストラ。たぶん聴くのは初めて。ローカル色を残した温かみのあるサウンド。最初の「妖精の子」序曲の作曲者ミヘヴェツはスロヴェニアの作曲家なのだとか。ぜんぜん知らなかったけど、古典派スタイルの明快な序曲で、ベートーヴェンからロッシーニくらいの作風。創意に富むとは言いづらいけど、気持ちのよい曲ではある。
●ブラームスのピアノ協奏曲、第1番と第2番、両方並べるならどちらがメインプログラムになるんだろう。素直に考えれば、より成熟した、人気も高い第2番が後か。でも作品世界の広大さ、激烈な感情表現ということでは第1番が後に来てもおかしくない気がする。どちらが好きかと言われたら、どっちも大好きだけど、心揺さぶるのは第1番。ともあれ、この日はふつうに作曲順に前半が第1番、後半が第2番。第1番、オーケストラは豪放に始まったが、独奏ピアノはこれを落ち着かせるように優しく入る。巨大な音楽を作るというよりは、むしろ抒情的で抑制的。透明感すら感じる。後半の第2番は高揚感にあふれ、輝かしく雄大。音色は澄明。ブラームスを聴く喜びをたっぷりと堪能できた。もう一度、聴きたくなる。冒頭ホルンも第3楽章のチェロのソロもまろやか。さすがにアンコールはない。
●写真は芸劇の前の広場。グローバルリングって言うんだっけ。賑やかそうな催しを準備中だった。

November 28, 2025

イゴール・レヴィット ピアノ・リサイタル

東京オペラシティコンサートホール
●秋の超高密度演奏会週間はあと一息。26日は東京オペラシティでイゴール・レヴィットのピアノ・リサイタル。シューベルトのピアノ・ソナタ第21番、シューマンの4つの夜曲、ショパンのピアノ・ソナタ第3番というプログラム。たまたまではあるが、ノット&東響のマーラー交響曲第9番に続いて、「おしまいの音楽」をまたも聴くことに。ザルツブルク音楽祭でも弾いたプログラムということで、やはり現在の戦禍が反映されているということなのか。プログラム全体がひとつの作品のような構成でもある。
●それにしても、シューベルトのソナタ第21番を前半に置くとは。いきなりこの曲。冒頭から驚くほど柔らかい音色が出てくる。単に弱音というのではなく、温かみのある音色で、儚く幻想的でもある。全般に遅いところはより遅く、速いところはより速くといった傾向を感じるものの、決してゼスチャーの大きな音楽ではなく、親密で思索的。後半のシューマンの4つの夜曲、こんなにいい曲だったとは。ショパンのピアノ・ソナタ第3番は力強さと内省が一体になった独自の世界。こんな冷厳としたショパンがありうるのか。コンクール的な世界線とはねじれの位置にあるような屹然としたショパン。アンコールはシューマンの「子どもの情景」より、おしまいの「詩人は語る」。
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●今月は当ブログの改修工事を裏で着々と進めており、ようやく一段落した。外見はほぼ変わらないが、ソースは全ページ更新されている。やったのはhttps対応とheadタグのモダン化、CSSの調整、CMSのパッチ適用、テンプレートの書き換えなど。従来、URLはhttp://で始まっていたが、今はセキュアなhttps://になっているので、関係各位はリンクを直していただければ幸い。もちろん、httpに飛んでもhttpsに転送される設定になっているので、そのままでも不都合は起きない。

November 27, 2025

ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団の武満徹&マーラー

ジョナサン・ノット 東京交響楽団
●23日はミューザ川崎でジョナサン・ノット指揮東京交響楽団。プログラムは武満徹の「セレモニアル」(笙:宮田まゆみ)とマーラーの交響曲第9番。休憩なし。前日に東響定期として同じプログラムがサントリーホールで演奏されており、この日はミューザ川崎の名曲全集としての開催。チケットは完売。2014年から音楽監督を務めてきたノットのラストシーズンの掉尾を飾ったのは、就任記念公演と同じプログラム。ノットは就任記者会見のときから、折に触れオーケストラとの協働を「旅」にたとえてきたが、旅の終着点は出発点でもある。そしてマーラーの第9番はおわりの音楽だ。
●武満の「セレモニアル」では笙、オーボエ、フルートを上方に配置して音が降り注ぐかのよう。奏者の移動や出入りがあるので、そのままマーラーに続けるというわけにはいかないが、両曲の世界観はつながっていると思わせる。マーラーの第1楽章はエモーショナルというよりは清澄。彫りが浅いわけではないのだが、どこか淡々とした表情にも。第2楽章は鋭利で、舞踊性を強く感じさせる。第3楽章のブルレスケは、いつもは怒りの音楽、フォースの暗黒面に堕ちた音楽だと感じるのだが、むしろまっすぐなジェダイの音楽。第4楽章は弦楽器の質感がすばらしい。お別れの音楽よりも希望の音楽として受け止める。この曲のテーマは「生と死」であるとは思うが、おしまいの部分は終焉というよりは、溶解というか、相転移みたいなイメージで受け止めたい自分がいる。曲が終わった後に長い長い沈黙。
ジョナサン・ノット 東京交響楽団
●大喝采の後、楽員が退出してノットがソロ・カーテンコールにこたえるのはお約束だが、さらに楽員総出で舞台と客席が一体となってノットの特製タオルマフラーを掲げる感動的なシーンが続いた。こんなに聴衆と楽員に愛された音楽監督をほかに知らない。
ニコニコにこの日の公演の動画あり。

November 26, 2025

キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルのシューマン、ワーグナー、ブラームス

ペトレンコ ベルリン・フィル
●22日はミューザ川崎でキリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィル。プログラムは前半がシューマンの「マンフレッド」序曲、ワーグナーの「ジークフリート牧歌」、後半がブラームスの交響曲第1番というドイツ音楽プロ。つい先日、パヤーレ指揮N響で聴いたばかりの「マンフレッド」序曲をまたも聴くという偶然。ベルリン・フィルが弾くとシューマンのオーケストレーションもぜいたくなごちそうに。弦は対向配置。稠密な質感による異次元のサウンドが出てくる。途中、トランペットが舞台袖に退出して、「英雄の生涯かよっ!」と思ったら、少しだけ裏から吹いて、またすぐに舞台に戻ってきた。スコア上にそんな指定はないと思うけど、これは「マンフレッド」のストーリーと結びつけた解釈なんだろうか(異界の精霊の叫びとか?)。続くワーグナー「ジークフリート牧歌」は白眉。ぐっと編成を絞って、たぶんこれまでに聴いたベルリン・フィルの最小編成。聴いたことがないような柔らかく夢幻的な音が出てくる。魔法だ。心のコージマが随喜の涙を流していた。
●後半のブラームスはかなり細かいテンポの操作や綿密なダイナミクスの設計に基づいた練った造形。自然な流れよりは意匠を重んじるというか。第1楽章は意外と軽めに始まって後半で白熱。第2楽章のヴァイオリン・ソロはコンサートマスターのノア・ベンディックス=バルグリー。隣に樫本大進、弦楽器は首席奏者2名が並ぶ形。終楽章はぐっとアクセルを踏んで最後は加速して強靭なコーダへ。フルートにパユ、オーボエにマイヤー、クラリネットにフックス、ホルンにドールと気がつけばベテランぞろい。奏者も音楽も熟している。ブラームスでは第1ヴァイオリンに若いMINAMIの姿。
●大喝采の後、楽員退出後も拍手が止まず、ペトレンコのソロカーテンコール。会場売りのCD購入者は楽団員3名によるサイン会に参加できた模様。

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飯尾洋一(Yoichi Iio)

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