●令和の奇書が爆誕!「名局と名曲のあいだ 将棋と音楽の芸術性をめぐって」(佐藤天彦、広瀬大介著/アルテスパブリッシング)。将棋の「名局」と音楽の「名曲」という一見つながりそうもないテーマなのに、両者が有機的に絡みあった内容になっている奇跡の一冊。対談形式になっており、お互いが相手の分野に対して造詣が深いから、話がしっかり噛み合う。で、この本、どちらかといえば将棋本なんすよ。そして、ワタシは将棋を指さないので、読んでも理解できないところがたくさんあるわけなんだけど、それでも興味深く読めた。「美しい棋譜」を後世に残す、という考え方が存在することを知る。そして、いま将棋界がAIによって大きく変化しており、棋士の側に危機意識があるという話が刺激的だった。
●AIが完全に人間を凌駕し、一手ごとにAIによる評価値が示されてしまう状況で、人間はどう将棋を指すのか、全員が同じようにAIの最善手を研究して対局に臨んだとして、それは観戦しておもしろいものであり続けられるのか、将棋に本来あったはずの指し手のインスピレーションから生まれる芸術性が損なわれないのか等々といったテーマはどれもおもしろい。そして将棋だけじゃなくて、広瀬さんもモーツァルトの「ジュピター」について突っ込んで語っていて、将棋本でありつつ音楽書でもあって、そこが稀有。
●第1章を読んでて思ったんだけど、将棋の世界で起きていることって、本当にサッカーの世界にそっくりだなと思った。勝負の世界だから勝つことは文句なしに最優先なんだけど、お客さんのほうは天才肌の選手の芸術性や創造性にあふれたプレイや、意外性のあるアイディア、遊び心みたいなものを期待している面がある。でも、今の時代、勝利至上主義が徹底され、統計に基づくゴール期待値が算出されるようになり、守備戦術がどんどん高度化し、フィジカルモンスターが重用され、天才肌の選手は歴史的な存在になりつつある。勝ち負けがある世界はあちこちで似た現象が起きているのかも。
---------
●ゴールデンウィーク期間の当欄は不定期更新で。ふだんは原則平日更新だけど、暦通りだと5連休になってしまうので。
2026年5月アーカイブ
May 1, 2026