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2026年7月アーカイブ

July 31, 2026

国立新美術館「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」

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●国立新美術館で開催中の「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」へ。これ、なんだ?と思ったけど、予想外に楽しめた。パリの国立ピカソ美術館所蔵のピカソの作品をもとに、デザイナーのポール・スミスが会場のレイアウトを考案するという企画。なんというか、一方通行のコラボレーションみたいな感じなのだが、それぞれに意匠を凝らしたカラフルな各セクションを巡るのが体験として新鮮。上はピカソ「腕を重ねて座る女」(1937)。これは一例に過ぎないんだけど、絵画の内部と展示室の壁をオレンジのストライプで軽く結びつけてある。

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●これは壁一面を埋め尽くす雑誌のVOGUEを背景に、ピカソが雑誌のVOGUEに落書き風に描き込んだものを展示している。ユーモラスでリズミカル。

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●こちらはピカソの「ギター」(1920)。コラージュ的な作品の背景に花柄系の壁紙を貼る。微妙に漂う昭和の台所感。

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●ちょうど昨日の「カルメン」の話題のあとにぴったりだが、ピカソがたびたびテーマにした闘牛のセクションから、「コリーダ:闘牛士の死」(1933)。セクション全体の壁はこの色で、牛ならずとも興奮してくる。フーッ。同じコーナーに版画連作「ラ・タウロマキア(闘牛術)」のための挿画が展示してあったけど、同じものを高崎市美術館でも見たと思う。

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●これはおもしろいアイディアで、ピカソのトレードマークのボーダーシャツを山ほど天井から吊るしてある。自分も着てみようかな!(ウソ)

July 30, 2026

チョン・ミョンフン指揮東京フィルのビゼー「カルメン」演奏会形式

チョン・ミョンフン 東京フィル 「カルメン」
●29日は東京オペラシティでチョン・ミョンフン指揮東京フィル。ビゼーのオペラ「カルメン」が演奏会形式で上演された(6年前にも同演目あり)。演奏会形式とはいえ可能な限り演技を入れる方式で、オペラシティの舞台の手前の空間(あまり広くはないわけだけど)を目一杯使う。ホセがカルメンを刺す場面はちゃんとカルメンが倒れるまで演じ切るスタイル。間奏曲では南風野香スペイン舞踊団によるフラメンコまで登場して、サービス満点。東京フィルのコンサートマスターは、新たに首席客演コンサートマスターを務める岡本誠司。これは強力。オーケストラは雄弁でダイナミック。起伏に富んだ表現で、「カルメン」としてはかなり重めのサウンド。冒頭の前奏曲から速めのテンポだったが、抒情的な部分はたっぷりと。第4幕冒頭の闘牛場の場面は快速テンポで畳みかけて鳥肌もの。
●歌手陣がとても豪華。カルメン役はステファニー・ドゥストラック。以前、新国立劇場のアレックス・オリエ演出の「カルメン」でも題名役を歌っていた。そのときは独自性の強い演出の印象が強かったけど、こんなに奔放に歌う人だったっけと軽く驚く。あれはもう5年前か。あくの強いカルメンらしいカルメン。ドン・ホセ役がマシュー・ポレンザーニ。うぉ、METライブビューイングでなんども見てるあの人の実物だ!と思ってしまった。さすがの歌唱で、のびやかな美声でありながらパワフル、余裕も感じさせる。ホセにしては成熟していて伍長というより将軍だし、ミカエラの許婚というよりはお父さんに見えてしまうが、圧倒的な声の魅力ですべてを超越する。演奏会形式の限られた条件でも、ホセの人間像をしっかり伝えるのは驚異的で、個人的にホセのハイライトというべき「ラッパが鳴ったから帰らなきゃいけないんですけど~」の場面の情けなさがたまらない。ああ、ホセ! わかるよ、ホセ!
●エスカミーリョ役のアンドリー・キマチは役柄にふさわしく堂々として、声も立派。ミカエラ役はスラーフカ・ザーメチニーコヴァー。清澄でひたむき。常々、オペラ界きっての邪悪な女はミカエラだと信じているのだが、その思いは変わらない。新国立劇場合唱団は歌に加えて、演技でも舞台を盛り上げる。事実上、演出があるわけだけど、ノリとしてはかなりストレートで、ど真ん中の「カルメン」。世田谷ジュニア合唱団はこの日のMVPかもしれない。泣けるほど尊い。
●今回の上演は19時開演ということもあってか、セリフ以外にも随所にカットがあって、第1幕のおしまいの場面をすっ飛ばして第2幕につなげるなど、いろんな工夫が凝らされていた。全般にテンポも速めに感じたけど、それでも終演は21時45分くらい。かなり遅い。ビゼーの音楽はすべて天才の手による貴重な宝物だけど、オペラにはシンフォニーと違ってプロダクションごとに事情に応じた上演形態を採用するフレキシビリティがあるはずなので、自分はさらにカットする方法はないものかとつい考えてしまった。21時半までに終われればオペラの可搬性が高まるのにな、と。あと、21時半を過ぎても舞台上に子供がいるのは、夏休み中とはいえ、気持ちが落ち着かない光景ではある。
●よく言われるように、メリメの原作にはミカエラという登場人物は存在しない。このキャラクターはオペラ化にあたっての偉大な発明だ。原作とオペラは別物でかまわないのだが、ドン・ホセがなぜ「ドン」かと言えば、本来は由緒正しいバスク人の下級貴族の家に生まれているのだが、暴力沙汰をきっかけに故郷を捨てることになった。オペラ内で危篤の母親が息子を許したいと言っているのはそういう背景を反映しているのだろう。都会に出てきたホセは原作中でこんなふうに身の上を語る。「そのころ私は若かったので、たえず故郷のことばかり思いつづけていたものでした。そして空色のスカートも、肩まで垂れるおさげ髪も持たない美しい娘なぞというものが、世の中にあろうとは思えなかったものでした」。カルメンみたいな女の存在は想定外だったわけだが、バスクでは当たり前の女性像、すなわち空色のスカートをはいて肩まで垂れるおさげ髪を持った美しい娘を、オペラのキャラクターとして実体化させたのがミカエラ。だから多くの演出ではミカエラは空色のスカートとおさげ髪の娘として描かれる。そこでだ(以上は長い前置きなのだが)、第1幕のミカエラの最初の出番、モラレスとの絡みをカットするというのはどうか。ここをカットしても話はつながるし、なによりいいのは、「実はミカエラはホセの空想上の存在である」という解釈が採用できる。原作上で想像上の存在だったキャラクターが、オペラ内でも想像上の存在だったとみなせれば、メタフィクション風味があっておもしろいのでは。が、そのためにはホセの不在の場面でミカエラが他者と会話するこのシーンは都合が悪いんだよなー、だからカットする。という考え方。ダメかな? あ、ダメ? やっぱりね……。

July 29, 2026

デイヴィッド・ロバートソン指揮PMFオーケストラの東京公演

●27日はサントリーホールでデイヴィッド・ロバートソン指揮PMFオーケストラ。札幌で開催されたパシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)の締めくくりとなる東京公演。今年の指揮者はデイヴィッド・ロバートソンということで、らしいプログラム。めったに聴けないストラヴィンスキーの管楽器のためのシンフォニーズ(1947年版)で始まって、吉本梨乃の独奏によるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、プロコフィエフの交響曲第5番という盛りだくさんのプログラム。かつてアンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督を務めたデイヴィッド・ロバートソンも、すっかり老教授風になり、若者たちの指導はお手の物か。一曲目のストラヴィンスキーから立派な演奏。
●ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は吉本梨乃のソロが鮮烈。思い切りよく、きわめてエモーショナル、技巧は鮮やか。よく鳴って、輝かしい。ロマンティックなスタイルではあるけど、突き抜けている。またすごい若手が出てきたという印象。アンコールにパガニーニの「ヴェニスの謝肉祭」。キレッキレのテクニック。後半、プロコフィエフの交響曲第5番は若い力が爆発。勢いあまって、というところもあるけど、強靭なプロコフィエフの音楽に込められたアイロニーもしっかり伝えつつ、スリリングな運動性を表現。戦争交響曲でもありマシーンの音楽でもあるが、最後の着地点はけたたましい笑い。コントの幕切れみたいだなといつも思う。苦悩から哄笑へ。

July 28, 2026

ヴェネツィア音楽祭 「ヴェネツィア、響きの凱旋」 チパンゴ・コンソート

●26日は六本木ルーテル教会でヴェネツィア音楽祭 「ヴェネツィア、響きの凱旋」。ヴェネツィア音楽祭はチパンゴ・コンソート主催で2日間にわたって開かれる音楽祭で、今回が第1回。ヴィヴァルディを中心とする作品をとりあげる。バロック・ヴァイオリンの杉田せつ子、イル・ジャルディーノ・アルモニコの創立メンバーであるマリア・クリスティーナ・ヴァーシ、三輪真樹、廣海史帆、バロック・ヴィオラの森田芳子、バロック・チェロの西山健一、チェンバロの及川れいねによるアンサンブル。教会の小ぢんまりとした空間で、名手たちの精彩に富んだ演奏を間近で聴くという、すこぶるぜいたくな体験。鮮烈にして優雅。ヴィヴァルディ、レグレンツィ、カステッロ、ガルッピ、ロカテッリの作品が生命力に満ちあふれた演奏でよみがえる。
●この日は「ヴェネツィア、響きの凱旋」と題され、2部構成。各曲の演奏の前に杉田さんの朗読が入り、曲にまつわるさまざまなテキスト、たとえば献辞や手紙などが読まれるというスタイル。これがとても効果的だった。作曲者が生きていた時代にタイムスリップする感覚がある。以下、長いけど曲を並べると、前半にカステッロの「現代的な手法によるソナタ・コンチェルタータ」第2巻より第16番、レグレンツィの「ラ・チェトラ」ソナタ集第4巻よりソナタ第3番、ヴィヴァルディの「調和の霊感」より第4番、第1番、30分の休憩をはさんで、後半にレグレンツィの「2、3、5、6声のソナタ集」第3巻より5声のソナタ「ラ・スクアルツォーナ」、ガルッピの「4声のコンチェルト」第1番、ヴィヴァルディの「四季」より「夏」第3楽章、ロカテッリの「12の合奏協奏曲」より協奏曲第5番、ヴィヴァルディの「調和の霊感」より第9番。この曲は演奏前に大島真寿美の小説「ピエタ」からの一節が読まれた。
●当日はイタリア伝統焼菓子が配られ、30分の休憩では上階の一室でひとくちワインまたはピーチティーがふるまわれた。すばらしいホスピタリティ。
●六本木ルーテル教会、初めて行く場所なのでどこかと思って調べたら、六本木ヒルズの一角にあって、こんなところに教会があったのかとびっくり。このあたりはテレ朝だけがピンポイントでよく行く場所で、周辺のことがわかっていない。どこからどこまでが六本木ヒルズなのか。

July 27, 2026

フェスタサマーミューザ開幕!ロレンツォ・ヴィオッティ指揮東京交響楽団

ロレンツォ・ヴィオッティ 東京交響楽団
●今年もフェスタサマーミューザKAWASAKIが開幕。25日はミューザ川崎へ。ロレンツォ・ヴィオッティ指揮東京交響楽団によるオープニングコンサート。チケットはもちろん完売。サマーミューザのオープニングといえば、これまではノット&東響の出番だったが、今年は新音楽監督ヴィオッティが登板。三澤慶「音楽のまちのファンファーレ」もヴィオッティが指揮(ホール内での演奏)。輝かしくパワフル。プログラムはドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」、リムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」と交響組曲「シェエラザード」。サマーコンサートらしく爽快で楽しい名曲集。ヴィオッティの意向でソロがふんだんに盛り込まれた曲がそろっており、名手たちの腕自慢の様相も。この日、大活躍のコンサートマスターは小川ニキティングレブ。
●「牧神の午後への前奏曲」は弱音による質朴としたフルートのソロで開始。「スペイン奇想曲」はきらびやかで色彩感豊かな極上のエンタテインメント。「シェエラザード」も豊麗で雄弁。白眉は第3楽章「若い王子と王女」かな。たっぷりと歌い、儚くも詩情豊か。ていねいに磨きあげたサウンドで作品本来の魅力をまっすぐ伝える快演。客席の反応も上々で、今回も指揮者のソロ・カーテンコールあり。東響は前任者が毎回のように「先入観を揺さぶり、作品の意味を問い直す」冒険を楽しませてくれたが、これからは作品の核心に迫り、高みを目指すような演奏が増えていくのだろう。新たな黄金コンビとして、着実に成果を積み上げていくにちがいない。
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●ワールドカップの決勝から一週間が経った。えっ、まだ一週間しか経ってないの?という感じ。だが、米代表バログン出場停止猶予事件は忘れていない。

July 24, 2026

ワールドカップ2026北中米大会をふりかえる

ワールドカップ2026 トロフィーリフト
●さて、忘れないうちにワールドカップ2026北中米大会をふりかえっておきたい。この大会に対する気持ちは複雑だ。大会のハイライトは準決勝でスペインがフランスを下した試合。技術と戦術がフィジカルモンスターたちを打ち破った。スペインが2度目の優勝を果たしたのはすばらしい。ただ、大会全体の後味はかなり苦い。決勝戦でのアルゼンチンの態度があまりに悪く、グッドルーザーからほど遠かった。昔からそういうガラのチームだけど、メッシまで主審を欺こうとしていたのは残念すぎる。で、優勝セレモニーでのスペイン代表のトロフィーリフトに、あろうことかトランプが割り込んでくるというトンチンカンな事態に。スペイン代表の前を徘徊し、インファンティーノにフレームから外れるように促されたのに無視して、最終的に横に立って、しっかりカメラのフレームに収まってしまった。どうするのこれ。と思ったら、後で見た写真ではトランプの姿が消えていて、AI、役に立ってるぞ!と感激したのだった。
●ずっと不要な試合だと思っている3位決定戦が、とんでもない乱打戦になって、イングランド 6-4 フランス。前半でイングランドが4ゴールを奪ったのに、後半、追いつかれそうになった。そりゃ10ゴールも入ればおもしろいにはちがいないけど、まるでエキシビションマッチのような大味な試合。
●アメリカ代表のバログンのレッドカード猶予事件はどうなるのか。でたらめだと思った。あと、決勝戦でアメリカ国歌が歌われたのも違和感あり。まるでアメリカの国内大会みたい。
●参加チームが32から48に増えた。FIFAは大成功だったと言っているが、観る側からすれば試合が多すぎるし、大会が長い。32に戻してほしい。でも、たぶん64になりそう。
●ハイドレーション・ブレークは事実上のクォーター制。その分、アディショナルタイムが増え、試合がますます長くなった。中継ではCMがたっぷり。不評を買って当然だろう。ただ、クォーター制には試合が見やすくなる、戦術的な工夫がしやすくなるなど、いい面もあると思っている。

July 23, 2026

セバスティアン・ヴァイグレ指揮読響のシュトラウス「アルプス交響曲」、悲運の音楽家オスカー・ベーメ

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●ワールドカップが終わったので、本欄は従来通りの原則平日更新ペースで。今回のワールドカップについては、また改めて振り返るとして、21日はサントリーホールでセバスティアン・ヴァイグレ指揮読響。プログラムはヘンツェの「夢見るセバスティアン」(日本初演)、マティアス・ヘフスの独奏でオスカー・ベーメのトランペット協奏曲ヘ短調作品18(マティアス・ヘフス編)、リヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」。ヘンツェ作品は日本初演ということで貴重な機会。「夢見るセバスティアン」の題はザルツブルク生まれの詩人ゲオクル・トラークルの詩に由来し、ザルツブルクの夜の風景や少年期の空想などを題材としているのだが、トラークルになじみがないこともあって、受け止め方が難しい曲。シンプルに聴けば、かなり後期ロマン派風の色彩感の音楽ではある。ヴァイグレの名前もまたセバスティアンであることはたまたまなのだろうか。
●一方でベーメのトランペット協奏曲はロマン派スタイルの華やかなコンチェルト。トランペットの発色の強い音色によるロマン派協奏曲という楽曲自体の新鮮さがある。技巧的、オペラ風味。アンコールは珍しくもオーケストラも伴う曲で、オスカル・リンドベルイ(ヘフス編)の「ダーラナの夏の牧舎の古い賛美歌」。後半の「アルプス交響曲」は壮大。序盤は重心軽めで、やや抑制的だなと感じたが、徐々に熱を帯びてパワフルな頂上へ。精緻な音響構築物というよりは血の通った人間ドラマとしての登山。熱く、スリリング。オーボエのソロが印象に残る。わりと快速登山。終わった後の静寂がかなり長くてブルックナー級。バンダは2階席L側の扉を開けて。
●トランペット協奏曲の作曲家オスカー・ベーメは悲運の音楽家。ドイツに生まれ、サンクトペテルブルクに活動の場を移し、ロシア国籍も取得してそのまま定住したが、スターリンの大粛清が始まると、ドイツ系だったためにオレンブルクに流刑になった。これは反革命組織への参加という濡れ衣を着せられたためらしい。で、以前、ベーメの別の曲の解説を書く機会があって調べたことがあるのだが、その後の行方がはっきりしていなかった。1938年に追放先で処刑されたという話と、1941年にトルクメン運河建設現場で強制労働に就いているところを目撃されたという証言があって、どちらが正しいのか、よくわからなかったのだ。が、処刑されたというはっきりした資料が近年に見つかったようだ。ベーメはオレンブルクへ3年間の追放処分になっていたが、その期限が終わる直前にまたスパイ容疑で逮捕されてしまう。そしてオレンブルクのNKVDトロイカによって死刑を宣告され、即日銃殺された。この事実は遺族にも伏せられていたが、1989年になってから事件記録が再検証され、ベーメの容疑はNKVDによる捏造であり、有罪答弁は拷問によって引き出されたものだと結論付けられ、ベーメは名誉を回復した(参照:New research on Oskar Böhme)。
●あまりにひどい話で気が滅入るが、そこでやや引っかかるのは、1938年に銃殺されたのなら、1941年にトルクメン運河建設現場でベーメを見かけたという証言はなんだったのか、ということ。単に人違いだった、他人の空似だった、ということかもしれない。だが、もしもこれがガセでないなら? たとえば、こう考えたらどうだろう。1938年の処刑者リストにベーメはたしかに載っている。だが、なんらかの理由で処刑は実行されず(あるいは別人が銃殺され)、ベーメは生き延びた。公的には銃殺されたことになっているので、ベーメは別人として生き、その姿をトルクメン運河で知人に見られた……。そういう設定で、映画か小説にならないだろうか。

July 22, 2026

ピエール=ロラン・エマールのバッハ 平均律クラヴィーア曲集第2巻

彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
●18日、彩の国さいたま芸術劇場の音楽ホールでピエール=ロラン・エマールのピアノ・リサイタル。プログラムはバッハの平均律クラヴィーア曲集第2巻全曲。休憩がなかったら厳しいなと心配していたが、真ん中で休憩一回あり。譜面、譜めくりあり。理知的な印象があるエマールだが、ライブでは熱く、意外なほど勢いのある自在のバッハ。声を出さずにずっと歌っているような様子。本来、「前奏曲とフーガ」は両者の対比を基礎としたミニチュア的な世界だが、こうして全曲を一気通貫すると、仰ぎ見るような弩級の大曲になる。小ぢんまりした親密な音楽から、ロ短調ミサ級の覚悟して聴く音楽へ。こういう演奏のされ方、聴き方は想定されていない作品だと思うが、レコード/CD時代のカタログ文化的な発想が生んだ「大作」化というか。実際、こういった聴き方で初めて得られる体験の深さはまちがいなくあると思う。
●楽譜の収録順に演奏されるので、ハ長調→ハ短調→嬰ハ長調→嬰ハ短調→ニ長調→ニ短調というカタログ的と言うか物理っぽい並びになる。聴き方としては、ハ長調の前奏曲、ハ長調のフーガ、ハ短調の前奏曲、ハ短調のフーガと4曲セットで聴いて、心のなかで一息ついて、次の嬰ハ長調&嬰ハ短調の4曲セットに向かうみたいなイメージ。4曲セット×6組で休憩が入り、後半はまた4曲セット×6組を聴く、という段取りだ。ときどき、その4曲セットの切れ目で、エマールは足元のペットボトルの水を飲んだ。サッカー・ファンはみんな思ったんじゃないかな。あ、これ、ハイドレーション・ブレークだ! 幸い、CMは入らない。
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●宣伝をいくつか。月刊誌「音楽の友」2026年8月号の特集「ドラゴンクエストの音世界」に寄稿。なんと、「ドラクエ」特集だ。DQ4~DQ6のページを担当。びっくり。それから、札幌のPMF2026ガイドブックに聴きどころ原稿に加えて、コラム「大作曲家たちのコーヒーブレイク」を寄稿。札幌のカフェ案内のページに添えられたコラムだが、うまく機能していると思う。もうひとつ。東京芸術劇場の広報誌「東京芸術劇場です」に全国共同制作オペラ「イル・トロヴァトーレ」の紹介記事を寄稿。主に作品のおもしろみについて書いている。

July 20, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 決勝 スペインvsアルゼンチン

ニュージャージ・スタジアム
●ついに決勝戦だ。欧州王者スペイン対前回世界王者アルゼンチン。完璧なカードが実現したともいえるのだが、内容は一方的な展開になった。ボールを持って攻め続けるスペインと、守りながら39歳メッシの奇跡を待つアルゼンチン。アルゼンチンはもともとそういうチームではあるが、ラフプレイが目立ち、審判との駆け引きで試合を有利に運ぼうとする。メッシがいなかったらアルゼンチンなど応援しない。
●なにしろスペインは準決勝であのフランスを一蹴したのだ。アルゼンチンはボールを持てない。90分でスペインのシュートが20本、アルゼンチンは0。後半48分にアルゼンチンのエンソ・フェルナンデスが2枚目のイエローで退場。もともと劣勢なのに、さらに不利に。それでもアルゼンチンはキーパーのエミリアーノ・マルティネスのファインセーブもあって延長戦にまでもつれ込んだ。なお、ハーフタイムショーが既定の長さを越えて行われた模様。いろんなアーティストたちが登場し、ドゥダメルが指揮者として登場したのは目をひいたけど(背番号は1)、それまでのピリピリした試合の雰囲気からすると、かなり異質。このお祭り感、試合の前にやればぴったりなのに。
●延長前半6分、スペインは右サイドのクロスから、こぼれ球をニコ・ウィリアムズが押し込んでゴール、と思いきや、ファウルがあって取り消し。メリノがオタメンディを倒したということらしいのだが、映像で見てもファウルがあったようには見えない。主審のスラヴコ・ヴィンチッチは安定感のあるジャッジで巧みに試合をコントロールしていたけど、ここはオタメンディに欺かれた感も。アルゼンチンの2連覇というかメッシの2連覇を願っていたけど、もしこの試合内容でスペインが優勝できなかったら正義がなさすぎる。延長後半1分、右サイドからのクロスにファーでニコ・ウィリアムズが頭で折り返し、フリーになったフェラン・トーレスがズドンと蹴り込んで、ようやくスペインがゴールを決めてくれて、ほっとした。この日はメッシにもノーチャンス。スペイン 1-0 アルゼンチン。スペインは4大会ぶり2度目の優勝。国際試合38試合無敗、今大会通して失点はわずか1。すごすぎる。守りが強いというか、相手に攻める機会を与えない。勝者にふさわしい。
●試合終了後、「ノーサイド」とはならずに、アルゼンチンの選手とスペインの選手の小競り合いが続いて、後味が悪い。アルゼンチンは試合後もずっと態度が悪い。表彰式の場面で、トランプとインファンティーノ会長が出てくると、場内から一斉にブーイング。なんと、スペイン代表のトロフィーリフトの場面になってもトランプが選手の横に立ち続けて、あわててインファンティーノが退くように促すも、トランプは動こうとしなかった。今大会を象徴する場面だったと思う。

July 18, 2026

スザンナ・マルッキ指揮東京都交響楽団の「青ひげ公の城」

スザンナ・マルッキ 東京都交響楽団
●18日はサントリーホールでスザンナ・マルッキ指揮都響。実はワールドカップ対応で2週間ほど演奏会の予定を入れていなかったのだが、あとは決勝戦を待つばかりなので、そろそろ通常営業へ。プログラムがおもしろい。前半はデュカスのオペラ「アリアーヌと青ひげ」第3幕への前奏曲、拍手を入れずにつなげてドビュッシーの「夜想曲」より「雲」「祭」、後半はバルトークのオペラ「青ひげ公の城」演奏会形式(ジョン・レリエのバス、シルヴィア・ヴェレシュのメゾソプラノ)。これは「青ひげ」プログラムなのだ。ドビュッシーの「夜想曲」は本来なら全3楽章で、「雲」「祭」の後に女声合唱入りの「海の精」が続くわけだが、マルッキはデュカスの「アリアーヌと青ひげ」第3幕への前奏曲の後にドビュッシーの「雲」「祭」をつなげて、全3楽章の曲のように仕立てた。こうすると、おしまいは「祭」で盛大に終わるのも好都合。なんだかハッピーエンドの「青ひげ」が誕生した感。いや、実際ペローの童話の「青ひげ」は、シリアルキラーの青ひげが最後に殺されてハッピーエンドなわけだが!
●後半はバルトークのオペラ「青ひげ公の城」。もともとオペラといっても演技らしい演技がほとんどない作品で、一幕もの、クライマックスのオーケストラは壮絶ということで演奏会形式にはぴったり。マルッキが都響から引き出すサウンドは逞しく硬質な質感による精緻な細密画。バスのジョン・レリエは最初の一声からぐっと引き込まれる深い声でノーブル、シルヴィア・ヴェレシュも強い声から柔らかい声まで用いて起伏に富んだ表現。非常に高水準の上演。
●で、バルトークの「青ひげ公の城」だが、前半との対比も効いていて、この作品で描かれる青ひげ公というキャラクターの独自性が際立っていたと思う。この人、青ひげなんだけど青ひげじゃないというか。もともとの物語の肝として、開けてはいけない扉を開けるという禁忌があると思うんだけど、バルトーク&バラージュの「青ひげ」は最初から開ける気マンマン。最後の扉も「押すなよ!絶対押すなよ!」みたいな感じで、開けますよ宣言している。じゃあ、青ひげはなにをしてるかといえば、「コレクションの開陳」。この話は孤独な男の暗いロマンの体裁を借りて、男のコレクター気質を描いている。武器だ、宝物だ、庭園だ、領土だとコレクションを見せて、最後の扉に陳列されているのは女。ユディットはコレクション完成のための最後の一ピースとして、そこに収納される。青ひげは恋愛プロセスをすっ飛ばして、出会った女を即アーカイブ化する男。でも女たちは死体じゃなくて「生きている」って言うんすよね。コレクションの蝶をピン留めしているイメージなんだけど、それだと生きているとは言えないから、どういう状態なのかな……。「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」のハン・ソロみたいにカーボン凍結されてるとか? ユディットはユディットで収納されて上等という崖っぷちを全力疾走する女。これは暗黒の「割れ鍋に綴じ蓋」なんだと思う。

July 16, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 準決勝 イングランドvsアルゼンチン

アトランタ・スタジアム
●ワールドカップ準決勝のもう一試合はイングランド対アルゼンチン。この両者の対戦にはいろんなストーリーがある。最大の事件は1986年メキシコ大会でのマラドーナの「5人抜きゴール」、そして「神の手ゴール」だろう。もちろん「神の手ゴール」は今だったらVARで取り消されるだけだが。神は死んだ!(違) 1998年フランス大会では、ベッカムがシメオネの挑発に乗ってしまい、レッドカードで退場し、PK戦でイングランドは敗退。続く2002年の日韓大会でも両者の対戦があり、ベッカムが決勝点となるPKを決めた。で、今大会の対戦では、アルゼンチン代表にあのシメオネの息子、ジュリアーノ・シメオネがいる。スカローニ監督は期待に応えて(?)、シメオネを先発起用!
●試合は序盤からイングランドがハイプレス。だが、アルゼンチンもスペインばりのパス回しでプレスをかわして対抗。まったく五分の展開になった。因縁の対決とあってか、荒っぽい肉弾戦になってしまうが、アメリカの主審イスマイル・エルファスはラフプレイにカードを出さない。選手たちの小競り合いがたびたび勃発。つまらないレッドカードで決着しなければいいがと心配になるほど。前半は両チームともほぼ決定機がなかったが、中盤に下がってきたメッシに一瞬の鬼神プレーあり。ありえない39歳。ハイドレーションブレイクで恒例のブーイング。これだけ締まった試合を中断されるのは、観客席にとってストレスだろう。
●後半10分、イングランドは長い縦パスをロジャーズが受けて、右サイドからクロスを入れると、ファーに走り込んだゴードンが右足でゴール。人も手数もかけずに1点。膠着した試合だったが、入るときはこんなもの。ここから攻めるアルゼンチンと守るイングランドの構図に。イングランドのトゥヘル監督は5バックにして5-3-2でゴール前を固める。これに対してアルゼンチンは相手の中盤の3枚の脇からどんどんクロスを入れて攻勢を強める。なんだかニッポンvsブラジル戦を思い出す光景。これでは耐えきれないと、トゥヘルは5-4-1で中盤の枚数も増やして、なんとしても守り切るという布陣に。ところが後半40分、メッシがショートコーナーのリターンを受けてマイナス方向へのパス、これを受けたフェルナンデスが豪快なミドルを蹴り込んで同点弾。これでさらにアルゼンチンは勢いを増し、アディショナルタイムの後半47分、マックアリスターのミドルがポストを叩いて跳ね返ったところで、右サイドからメッシが右足のクロスを入れると、これがセンターバック間にポジションをとるラウタロ・マルティネスの頭にドンピシャで合って逆転ゴール。怒涛の逆転劇でアルゼンチンが決勝進出を決めた。激しくガッツポーズをくりかえすメッシ。選手たちの感情の高ぶりがすごい。アルゼンチンはエジプト戦での2点差からの逆転劇といい、ドラマティックな展開のゲームが続く。イングランド 1-2 アルゼンチン
●イングランド側から見れば、5バックにして守りを固めたら、連続失点して逆転されたのだから、トゥヘルの策は大失敗。当然のごとく監督批判の嵐になる。アルゼンチンはカウンターアタックに対しての守備が弱い印象があるので、5バックにしてもボールを跳ね返した後の攻め手があればまた違ったのだろうが、単純に防戦一方になってしまった。だから、まあ、失策なのかな。とはいえ、アルゼンチンの最初のゴールはコーナーキックからなので、布陣とは関係なくありそうなゴールともいえる。サッカーは結果論で語られがちで、トゥヘルの策で耐え切る確率はどれくらいだったのか。10回中8回成功したのか、5回成功したのか、1回しか成功しなかったのか。正解はだれにもわからない。

July 15, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 準決勝 フランスvsスペイン

ダラス・スタジアム
●みんなが見たかった対決が準決勝で実現。ここまでの大会を見て、最強と感じたのがフランス。エムバペという突出した個の力だけではなく、チーム全体としてのフィジカルの強さと速さは圧倒的で、このチームに対抗できる存在を想像できなかった。一方は現在の欧州王者であるスペイン。技術の高さはナンバーワンだとしても、フランスが相手となればパワーとスピードで劣勢なのは明らか。現代のハードワークするフットボールの世界で、ポゼッション前提のスペインがどこまでやれるのか、というのが試合前の見方。
●が、試合が始まって驚愕。そこにはスペインの超絶技巧連発のパス回しにフランスが手も足も出ないという、まさかの光景が。フランスのフィジカルモンスターたちがプレスをかけてくるというのに、スペインの選手は自陣でもするするとパスを回すのだ。ワンタッチパスの精度が異様に高く、さらに足元にぴたりとボールが収まる。そして、視野が広い。逆にフランスにボールを奪われても、ほかのチームなら一気にピンチになるところだが、落ち着いて対応する。すべての局面で相手を上回る技術の高さが前提となっているプレイぶりで、なんというか、勇気づけられる。もしこの試合でフランスがスペインを圧倒していたら、「結局、最後はフィジカルなのね」の結論が出てしまうところだった。スペインは世界中の妄想ゴールゲッターたちの夢を守ってくれた。技術上等!
●スコアはフランス 0-2 スペイン。前半、オヤルサバルがPKを決めたが、これはどうかと思うつまらないファールをとられたもの。一方、後半のペドロ・ポロのゴールはオルモとのコンビネーションからきれいにディフェンスを崩したビューティフル・ゴール。スペインの攻撃はスペクタクル。一方、フランスは攻勢に出た場面がほとんどなく、点差以上の内容の差があった。フランスのプレスにもっと連動性があれば、また違った展開になったとは思う。
●スペインのボール回しは往年の「ティキタカ」風味だったが、かつての「ティキタカ」は成熟度を深めすぎた結果、ボールを回す美しいサッカーから、やがてリスクを冒さない退屈なサッカーへと変貌した感があった。今のスペインも「ボールを保持している限りは相手に攻撃されない」というフィロソフィーでは共通すると思うけど、以前に比べると相手のゴールへと向かうプレーがずっと多く、見ていて楽しい。実のところ、EURO2024でもスペインは準決勝でフランスを破っている。そのときの決勝の相手はイングランドで、スペインが2対1で勝った。今大会でも同じカードが実現する可能性があるわけだが、それは明日の試合の結果次第。
●主審がエルサルバドルのイバン・バートン。日本対スウェーデン戦でも笛を吹いていた人だが、この日も基準に一貫性が感じられず、よくない意味で目立っていた。こんな重要な試合で笛を吹くのだからFIFAでの評価は高いのだろう。いつも「目立つ審判」という印象を持っている。
●会場のダラス・スタジアムには巨大なスクリーンが設置されている模様。インファンティーノFIFA会長が映し出された瞬間に、場内から大ブーイングがわき起こったのは痛快だった。インファンティーノは苦笑い。アメリカ代表バログンへのレッドカード猶予事件はまだ終わっていない。

July 13, 2026

イモージェン・ホルストの「不運な旅人」

●Apple Music Classicalのニューリリースのコーナーを眺めていたら、ダグラス・ボストック指揮南西ドイツ室内管弦楽団のアルバム British Music for Strings IV (CPOレーベル)が目に留まった。聴いてみると一曲目のホルストの The Unfortunate Traveller なる曲がなかなか心地よい。民謡調の旋律が用いられた快活な組曲。でも、ホルストにこんなタイトルの曲、あったっけ? 定訳はあるのかなと思って調べてみたら、自分の思い違いに気がついた。これ、よく見たらI.Holstって書いてあるよ! グスターヴ・ホルストじゃなくて、娘のイモージェン・ホルスト(1907~1984)の曲だ! てっきり、お父さんの曲かと思った。
●曲名はトマス・ナッシュのピカレスク小説「不運な旅人」(邦訳はあるけど入手困難)に由来するのだとか。作曲は1929年で、イモージェンの初期作品。王立音楽大学の卒業制作として書いた金管バンドのための組曲を弦楽オーケストラ用に編曲したもの。いったん失われた楽譜が発見されて、近年に再評価された。イモージェンという人は大変に有能な人だったようで、ブリテンのアシスタントを務め、オールドバラ音楽祭の芸術監督として音楽祭を牽引する一方で、父親の音楽遺産を後世に伝えるための職務にも尽力し、父の作品目録の編纂や楽譜の校訂、伝記の執筆、指揮に奔走し、おかげで作曲活動に割ける時間は限られていたようだ。しかし、女性作曲家再評価の機運に乗って、こうしてレコーディングも増えつつある。「不運な旅人」は初期作品だが、成熟期以降の作品は NMCレコーディングスの Imogen Holst String Chamber Music などで聴くことができる。
●イモージェンはホルストの一人娘で、生涯独身だった。したがって、ホルストに孫はいない。若き日のイモージェンは後に詩人となるマイルズ・トマリンと親密な間柄だったが、なんらかのすれ違いから結婚に至らず、後年になってブリテンに「もしマイルズからプロポーズされていたら、結婚していただろう」と打ち明けたという。

July 12, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 準々決勝 ノルウェーvsイングランド、アルゼンチンvsスイス

マイアミ・スタジアム
●準々決勝の残り2試合は同一日の開催。ノルウェーvsイングランドとアルゼンチンvsスイスという好カードが並んだが、どちらも予想外のアクシデント(?)があって、片方のチームが実力を発揮できなかったのが残念。まず、ノルウェーvsイングランドは、ノルウェーのエース、ハーランドが体調不良だった模様。前半はともに慎重な立ち上がり。気温が高かったのか、序盤から運動量少なめだったが、前半36分、ノルウェーのシェルデルップが左サイドから仕掛けて、意表を突いた左足のシュートで先制。というか、あれはクロスボールが流れたんだと思う。ゴールから遠ざかる回転がかかっていたけど、ファーサイドのポストを叩いて入った。前半47分、イングランドはベリンガムがドリブルでペナルティエリア内に鋭く切り込んでシュートを放って同点弾。後半で決着つかず、延長戦へ。延長前半3分にイングランドはロジャーズが強烈なミドルシュート。ノルウェーのキーパー、ニーランはボールをキャッチしようとしたが前にこぼし、飛び込んできたベリンガムがまたも決めて逆転。スペインvsベルギー戦でも似たような場面があったのを思い出す。ノルウェー 1-2 イングランド
●ハーランドは延長前半終了時にラーセンと交代したが、すでに後半途中くらいから膝に手を当てて辛そうにしている。ゆっくりと歩いている場面が多く、体が動かない様子。実際のところはわからないが、熱があるのかな、とは思った。
●もうひとつの試合、アルゼンチンvsスイスは、スイスのエンボロが主審を欺くプレイをしたために、試合を壊してしまった。序盤からスイスが試合の主導権を握っていたが、前半10分、メッシのコーナーキックにマックアリスターが頭で合わせて先制。その後、膠着状態が続いたが、後半22分、スイスのエンドイェが左サイドからワンツーで抜け出してシュートを決めて同点ゴール。全般にフィジカルで勝るスイスが押し込む展開で、アルゼンチンはかなり苦しそうに見えたが、後半24分、スイスのエンボロがパレデスと交錯し、足を引っかけられて派手に転倒し、パレデスにイエローカードが出た……と思いきや、VARが介入。映像で確認すると、エンボロは透明人間に足を削られたかのように宙に浮いて転んでいる。これは受け身の練習なのか? 主審はパレデスのイエローを取り消し、代わってエンボロのシミュレーションに対してイエロー。これが2枚目だったのでエンボロは退場だ。激しく抗議するエンボロ。いや、そんなに抗議されても、映像でバレてるし。ぜんぜんゴールの近くでもないのに、そして一枚イエローをもらっているのに、ここまであからさまなダイブをするとは。涙を流しながら退場するエンボロ。魔が差した、ということなのか?
●あとは数的有利のアルゼンチンがひたすら攻め続けるが、10人になったスイスも5バックを敷いて魂のフットボールで爆守備。メッシが自由にポジションを変えながら、あの手この手で攻めるのだが、ゴールは遠い。今大会のメッシ、ゴール前でファウルをもらいに行くプレイが目立つような……。延長に入っても同様の展開が続いたが、延長後半7分、アルバレスが左からカットインしてゴール右上隅に蹴り込むビューティフル・ゴール。場内の興奮ぶりがすさまじかった。その後、一人少ないスイスが攻撃に出たところで、カウンターアタックからラウタロ・マルティネスが決めて勝負あり。アルゼンチン 3-1 スイス
●前の試合に続いて、この試合でもアルゼンチンが苦しみながら勝ち抜いた。メッシはフル出場。次は中三日でイングランド戦。チーム全体が疲弊している感はあるが、それは相手も似たようなものか。

July 11, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 準々決勝 スペインvsベルギー

LAスタジアム
●準々決勝の2試合目はスペインvsベルギー。どちらもスキルの高い好チーム。とくにベルギーはトランプ介入事件があっただけに応援したい気持ちにもなるが、だが、この試合の勝者がフランスと対戦するのだ。しかも一日休養日の長いフランスと。フランスを倒すチャンスがあるとしたら、スペインのほうだろう。試合が始まってみると、やはりスペインがベルギーを押し込む展開。さまざまなアイディアで相手の守備を崩そうとする。見ていて楽しいサッカー。
●前半30分、ポロとヤマルのワンツーから右サイドを崩して中央でオルモがシュート、その跳ね返りをファビアン・ルイスが決めて先制ゴール。ベルギーもさすがで前半41分に右サイドからのクロスに中でデケテラーレが競り合いに勝って頭で同点ゴール。後半、攻めるスペインと守るベルギーの構図が続くが、ベルギーのキーパーのクルトワが足に違和感を覚えて、交代。代わりに入ったのはマンチェスター・ユナイテッドの守護神センヌ・ラメンス。このクラスになると控えキーパーでもすごい人が出てくる。が、この日のラメンスはついていなかった。クバルシの強烈なミドルシュートをキャッチしようとして、手前にこぼしたところを、突風のように走り込んできたミケル・メリノに蹴り込まれて失点。これが決勝点になってしまった。実力者でも大舞台でミスをしたら、そこばかりがクローズアップされてしまうゴールキーパーの辛さ。スペイン 2-1 ベルギー
●ベルギーはクルトワの負傷交代の後、デブライネも足がつって交代。交代枠を予定外に使わされた印象。ベテランが多く、チームがかなり熟している。デブライネは35歳、クルトワは34歳、途中出場のヴィツェルは37歳、ルカクは33歳。ルカクはもともと大型選手だが、体がさらに大きくなった印象で、厚みがすごい。重戦車級の迫力。競り合えば無敵の巨体だが、ポストプレイでボールが収まるかというと、これがそうでもない。スペインは十分に対策を心得ている感じ。
●これで準決勝でフランス対スペインが実現。フランスのフィジカルやスピードに対抗するのはほとんど不可能に思えるんだけど、スペインだったらなにかを起こせるかもしれない。

July 10, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 準々決勝 フランスvsモロッコ

ボストン・スタジアム
●さて、本日からワールドカップは準々決勝。ここからはあっという間だ。会場はボストン・スタジアム。まずはフランスvsモロッコ。現在の強豪同士の対戦となったが、フランスが終始ゲームを支配。モロッコはたとえ相手がフランスであってもボール保持にこだわり、自陣深くで相手に囲まれていても落ち着いてボールをキープする志の高いサッカーをする。が、やっぱりそれだと奪われるのだ。モロッコの個の力も高いはずなのに、フランスはさらにその上を行く高さ。尋常ではない。スタッツに試合内容がよくあらわれていて、ボール保持率はほぼ五分五分なのだが、枠内シュートはフランスの10に対してモロッコは1。前評判通り、フランスは今大会で最強だと思う。前半にエムバペがPKを甘いコースに蹴ってキーパーのヤシン・ブヌにキャッチされるという場面があったが、後半にエムバペとデンベレがゴールを決めて、フランス 2-0 モロッコ。どちらも個人能力で決めた得点で、とくにエムバペのゴールは無から生み出したゴールといった感。防ぎようがないと思った。
●両チームともキックオフで、相手の陣地の奥深くにボールを蹴り出すスタイル。相手のスローインになってしまうので、一見、損に思えるのだが、この方式が大きく広がったのは(大島監督のマリノスもやっていた)、統計的なアドバンテージが明白にあるからなのだろう。つまり、キックオフからボールをつないだ場合と、たとえボールを相手に渡してでも相手の陣地の奥まで侵入した場合では、後者のほうが得点につながる確率が高い(あるいは失点する確率が低い)ことが、過去の統計の分析から判明しているのだと思う。一度、答えがわかれば、ほかのチームは自前で分析する必要はなく、まねをすればいい。実際、これは納得できる話なのだ。サッカーの本質は陣取り合戦なので、基本的に相手のゴールの近くでプレーしたほうが得。それから、オシムの言葉も思い出す。オシムは逆の立場から「自分たちのスローインでは、ピッチ上は必ず数的不利になる」と警句を発していたと思うが、まさにそういうこと。スローインは不確定要素が大きく、案外と危険な場面につながりやすい。
●が、一方でモロッコは、相手がこの作戦を採用したときの解決策も見つけているように思った。フランスがキックオフでボールを大きく蹴ってタッチラインの外に出したとき、モロッコの選手はあらかじめディフェンスラインを深くしておいて、即座にスローインをしてセンターバックの選手にボールを渡した。相手の選手が上がってくるより前にすぐにプレーを始めてしまえば、前述の統計的なアドバンテージはなくなるはず。味方と敵の選手が集まった状態でスローインをするからボールを奪われることがあるわけで、そうならないように準備しておけばいいわけだ。このキックオフ戦略はまもなく廃れるかも。

July 9, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 外国生まれの代表選手たち

●ワールドカップはベスト8が出そろい、準々決勝の前に一日のお休み。そこで、ロイターに興味深い記事が出ていたので、紹介しておこう。World Cup’s foreign-born recruitment doesn’t guarantee success という記事で、今回のワールドカップでは、大勢の代表選手がその国とは別の国で生まれた選手であることを伝えている(ブラウザが翻訳してくれるから日本語で読んじゃう)。26人の代表選手の内、何人が外国で生まれているか。たとえばキュラソー代表は25人が外国生まれ。というか、オランダ生まれ。コンゴ代表は22人が外国生まれで、そのほとんどはフランス出身。現在、勝ち残っているモロッコは19人が外国生まれ。ざっと見たところ、半数以上の選手が外国生まれのチームが9つもある。
●代表選手の供給元という観点から見るとフランスが最大で、アルジェリア代表に13人、コンゴ代表に11人、ハイチ代表に11人、セネガル代表に10人、コートジボワール代表に8人、チュニジア代表とモロッコ代表に6人ずつ……といった具合に大量の選手を送り出している。ある意味、真のサッカー大国。これはフランス出身者だらけのワールドカップなのだ。次いで、オランダ、イングランド、ドイツ、スペイン、ベルギーと続く。どれも強豪国ばかりで納得。そして、ヨーロッパとアフリカの境目はどこにあるのかという気持ちもわいてくる。
●このロイターの記事の見出しは「外国生まれの選手をリクルートしても成功は保証されない」というニュアンスだけど、自分はまったく逆の認識だ。キュラソーもコンゴもモロッコも大成功してるじゃないの。ワールドカップに出場している時点で大成功なのにね。
●アフリカのチームの多くがヨーロッパ出身者を多く含んでいるが、エジプトと南アフリカは例外。基本的に自国の出身者でチームを組んでいる。

July 8, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 ラウンド16 アルゼンチンvsエジプト

アルゼンチン●こんな壮絶な試合になるとは、だれに予想できただろう。W杯2026のラウンド16のアルゼンチンvsエジプト戦。DAZNの中継からも、試合前からアルゼンチンが勝って当然のような空気が流れていたかもしれないが、始まってみればエジプトが強敵であることは明らか。相手を恐れずにボールをつなぎ、守備は組織的で、序盤は五分の展開。前半15分にゴール前でヤセル・イブラヒムが頭で合わせて先制ゴール。あれ?と思うほどアルゼンチンの守備が淡泊。これで試合がおもしろくなったと思ったら、その4分後にアルゼンチンがPKを獲得。蹴るのは39歳のエース、メッシ。だが、これを失敗! コースが甘すぎた。実はメッシはよくPKを外す。謎すぎる謎。
●前半を1点リードで終え、後半は攻めるアルゼンチンと守るエジプトの図式が鮮明に。ところが後半13分、自陣深くでボールを奪ったエジプトは、ハッサンが超絶的な粘りのドリブルで右サイドを駆け上がって、中央でモスタファ・ジーコが決める鮮やかなカウンターアタックで2点目! しかし、これにVARが介入し、エジプトが自陣深くでボールを奪った時点でファウルがあったとして、ゴールが取り消されてしまう。えっ、そんなところまで遡ってビデオ判定するの?と、思う人は多いだろう。でも、これはJリーグでも同様にゴールが取り消されるパターンで、自分の理解では「疑惑の判定」でもなんでもない。少なくともJリーグではVARはAPP(アタッキング・ポゼッション・フェイズ)まで遡ることになっている(参照:VARはどこまでさかのぼれる?APPを徹底理解)。そして、そんな判定よりも、もっと痛快なことがある。なんと、後半22分に、ほとんど似たような形で、カウンターからモスタファ・ジーコが本物のゴールを決めたのだ! あまりにもアルゼンチンはカウンターを警戒していない。一度やられてVARに救われたのに、なにも修正しなかったらまた同じ形でやられたという形だ。
●さすがに2点差になったら、アルゼンチンも厳しい。あとはエジプトは守ればいい。このままエジプトが勝つと確信したが、後半38分からクリスティアン・ロメロ、メッシ、エンソ・フェルナンデスがゴールを決めて、まさかまさかの大逆転。アルゼンチンはベンチもサポーターも異常な盛り上がりに。メッシが力を振り絞って凄まじいドリブルでゴール前に切り込んでいく場面があったが、まだこんな爆発的な力が残っていたのかと驚愕。鬼神か。メッシはその直後にボレーで同点ゴールを叩き込んでいる。試合終了後、メッシは滂沱の涙。自分の感情を制御できない状態になっているようだった。こういう姿を見たら、メッシを応援せずにはいられなくなる。アルゼンチン 3-2 エジプト
●もう一試合のスイスvsコロンビアは0対0の延長戦の末、PK戦でスイスが勝ち抜け。これでベスト8が出そろった。準々決勝はフランスvsモロッコ、スペインvsベルギー、ノルウェーvsイングランド、アルゼンチンvsスイス。なんとなくこの並びは、最後のところがスイスではなくコロンビアだったほうが「きれい」で、PK戦で神様がうっかりまちがったような印象を受ける。いずれにせよ、偶然にも全カードが「優勝経験国vs初優勝を狙う新時代の強豪」の構図になっている。

July 7, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 ラウンド16 ポルトガルvsスペイン、アメリカvsベルギー

ポルトガル●ラウンド16の3日目はポルトガルvsスペイン。イベリア半島対決。この対戦カード、目にする機会が多い気がするが、いつも拮抗したゲームになる。直近7試合のうち、6試合が90分で決着がついていないのだとか。お互いにボールを保持して主導権を握ろうとするし、お互いに技術が高く、創造性が豊か。とても似ているが、決定的な違いはポルトガルにクリスチャーノ・ロナウドがいること。もう41歳。守備免除、ポジションはフリーのフィニッシャーだ。かつてポルトガル代表はクリスチャーノ・ロナウドが突出した能力を誇り、あとの選手たちは同レベルでプレイするのに苦労しているように見えたが、今では立場はすっかり逆転。クリスチャーノのところにボールが来ると、とたんにプレイが遅くなる。中盤に下がってボールを受けて、前に出してほしいところでも悠然とバックパス。サウジアラビアリーグでもこんなプレイスタイルなのだろう。フル出場。同じ「走らないレジェンド」でも、アルゼンチンのメッシ39歳がゴールを量産しているのとは対照的。
●後半、次第にスペインのポゼッションの時間が長くなり、ポルトガルは守勢に回る。よくがんばっていたが、後半46分、スペインが華麗に中央から崩してミケル・メリノがゴール。らしいゴールで試合を決めた。ポルトガル 0-1 スペイン。ブラジルのネイマールといい、ポルトガルのクリスチャーノといい、かつてのスーパースターの姿に寂しさを感じる。
ベルギー●もう一試合、アメリカvsベルギーは試合をフルに観戦していないのだが、とんでもない事件が起きたので記しておく。アメリカのエース・ストライカー、バログンは前の試合で一発レッドをもらい、本来ならこの試合に出場する資格はなかった。ところが、報道によればトランプ大統領がFIFAのインファンティーノ会長に電話をしたことで、出場停止処分に一年間の猶予が付いたのだとか。さっぱり意味がわからない。ベルギー側はFIFAの決定に猛反発。アメリカ以外のサッカー・ファンはみんな怒っていると思う。こんなにも堂々とルールを捻じ曲げて自国の利益を主張する姿勢にはあきれるほかないが、昨今、既視感のある現象でもある。アメリカのポチェッティーノ監督の意味不明な言い分にもがっかり。いっぺんでこの人が嫌いになった。
●だから、この試合にはぜひともベルギーに勝ってほしいと思っていたわけだが、期待通り、アメリカ 1-4 ベルギー。チーム一丸となっての圧勝だ。4点目を決めたルカクはゴールセレブレーションで電話をかけるポーズをとり、続いて謎の動きを見せた。あれは「トランプダンス」なのだとか。パンチが効いている。
●バログンは一度、決定機があったがキーパーに阻まれてノーゴール。アシストもチャンスメイクもなく、プレー機会も少なかったようだ。試合後、バログンはベルギーのガルシア監督のもとに行き、祝意を伝えたという。ガルシア監督はバログンに対して、この騒動に責任を感じる必要はないこと、ここまでのすばらしいプレーが台無しになってはならないと励ましたそう。バログンも犠牲者だ。「不当な利益を手にして苦しむ者がいる」ことを、権力者たちは想像できるだろうか。

July 6, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 ラウンド16 ブラジルvsノルウェー、メキシコvsイングランド

ブラジル●ラウンド16の屈指の好カードがともに月曜日の朝に開かれることに。まずはブラジルvsノルウェー。ニッポンに逆転勝利したブラジルだが、実はノルウェー相手に一度も勝ったことがない。以前、ワールドカップで対戦したときも敗れている(あれはグループリーグで負けても問題ない状況だったとは思うが)。で、今回のノルウェーはハーランドやウーデゴールといった攻撃のタレントを擁し、優勝候補の一角にも挙げられている。なんと、試合はボールを保持するノルウェーと、守ってカウンターをくりだすブラジルという展開に。まさか、ブラジルがそんな戦い方を強いられるとは。ノルウェーはブラジル相手にどんどんボールを回す。それが序盤だけではなく、一試合続く。ノルウェーのボール保持率は67%、パスの本数はブラジルの倍近く。ノルウェーは怪物ハーランドの個人能力で2ゴールを奪って、ブラジルを一蹴した。ブラジル 1-2 ノルウェー
●前半10分にブラジルが獲得したPKをギマランイスが決めていたら、違った展開になったかもしれない……いや、どうかな。高さで圧倒できるノルウェーだが、簡単にボールを放り込まず、可能な限りボールを保持する。後半34分にシンプルなクロスからハーランドが頭で決めて先制、後半45分にふたたびハーランドがペナルティエリア手前からズドンと豪快に打ち込んで2点目。攻撃の戦術はハーランド。ハーランドを見ていると、子どもの試合に大人がまじっているかのよう。規格外のフィジカル。ノルウェーが後半開始時に前線の両サイドを交代したのはどういう意図だったんだろう。予定していた交代なのか。
●驚いたのはアンチェロッティ監督が後半からネイマールを投入したこと。トップレベルでのプレイから離れて久しいネイマールが代表に選ばれたことも意外だったが、こんなに大事な場面で使うとは。そしてネイマール投入後に、ノルウェーが2ゴールを決めてしまう。これで試合は決まったと思ったが、アディショナルタイムの後半53分にブラジルがふたたびPKをゲット。VARで見ても「不要なPK」としか思えなかったが、PKキッカーはネイマール。なにかキーパーを煽った後、PKを決めて、その後、にっこりとして投げキッス。いやいや、あんた、いま負けようとしてるんだけど! 場違いも甚だしい。蛇足としか思えない茶番劇。アンチェロッティは稀代の名将だけど、こういうところはなんといえばいいのか。全方位的な配慮の一環? ともあれ、ブラジルは「伝説」の予感を漂わせないまま大会を去った。
メキシコ●もう1試合はメキシコvsイングランド。場所はメキシコのホーム、標高2240mのアステカ・スタジアム。空気が薄い。序盤から現代フットボールとは思えないほど選手間の距離が広く、ハイプレス合戦もコンパクトな守備陣形もなし。このスタジアムでメキシコは13年間負けていない。地の利は圧倒的にメキシコ。率いるのは元日本代表監督のアギーレ。優勝候補のイングランドも苦戦は必至。実際、「オーレ!」の掛け声とともにメキシコがペースを握っていたのだが、前半36分、サカのクロスにベリンガムがヘディングでゴール。ここはメキシコのディフェンスがルーズになっていたと思う。で、その直後、メキシコのボールロストからイングランドが攻めて、ふたたびベリンガムが2点目。この連続失点が痛かった。
●これで試合が壊れるかと思いきや、メキシコは魂のフットボールでキニョーネスが1点返す。さらに後半、イングランドのクアンサーが危険なタックルで退場。これで試合がおもしろくなるかと思いきや、メキシコは不用意なPKを与えて、ハリー・ケインが決めてふたたび2点差に。さらに場内の雰囲気に押されるように、こんどはメキシコにもPKが与えられて、ラウル・ヒメネスが決めて2対3。あとはメキシコが攻め続け、イングランドがよれよれになりながら守る時間が続いて、タイムアップ。メキシコ 2-3 イングランド
●感想を一言でいえば、メキシコの自滅か。地の利も数的優位もあったのに。イングランドは勝ち進んだけど、かなり疲弊したはず。

July 5, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 ラウンド16 パラグアイvsフランス

●さて、ワールドカップはラウンド16に突入。いつもよりトーナメントの試合数が多いので、決勝トーナメント1回戦を終えた時点でベスト16が出そろうことになる。開催国が3つとも残っているのは立派。ラウンド16の対戦カードは、カナダvsモロッコ、パラグアイvsフランス、ブラジルvsノルウェー、メキシコvsイングランド、ポルトガルvsスペイン、アメリカvsベルギー、アルゼンチンvsエジプト、スイスvsコロンビア。アジア勢は消えた。ドイツやオランダといった強豪国もすでに敗退している。山によってだいぶ大変さは違うのは確か。
パラグアイ●で、少し早起きしてパラグアイvsフランスを追っかけ再生で観戦。眠かったけど、試合を見たら目が覚めるかと思えば、さらに眠くなってしまうひどいゲームで、人によっては今大会最低のク○試合と呼ぶかもしれない。パラグアイは抜け目ない詐欺師のような戦い方を徹底した。5バックでベタ引きするのは問題ない。これも戦術のひとつ。ただ、ラフプレイを連発するのと、相手を挑発してレッドカードを誘発させようとしたり、審判との無用な駆け引きがあったりして、とてもVAR時代とは思えないクラシックな戦い方。最大の疑問はウズベキスタン人の主審で、パラグアイのラフプレイ連発に対して一枚のカードも出さなかった。
●ただ、ラフプレイや挑発を除けば、パラグアイの戦い方は一本筋が通っていた。5バックといっても両サイドバックによる攻撃参加を前提としておらず、本当にゴール前に密集地帯を作って、ひたすら体を張って守り続ける。でも、これじゃあボールを奪ってもカウンターも出せないじゃないの。と、思いきや、たまに前線の選手の驚異的なキープ力でチャンスの片鱗くらいは作り出す。もしかするとフランス相手に一泡吹かせるんじゃないか……と期待させる凄味があった。後半25分にエムバペのPKでフランスが先制した後も、かすかに期待感を抱かせたが、そのままタイムアップ。パラグアイ 0-1 フランス。試合が終わると両チームの選手たちは険悪な雰囲気に。パラグアイのキーパーがエムバペに握手を求めたが、エムバペは完全無視。試合中、エムバペはどんなに挑発されても、笑みを浮かべて相手にしなかった。
●フランスのPKの場面、キッカーはエムバペなのだが、デンベレがボールを持ってペナルティスポットに立った。パラグアイの選手たちはわらわらとスポットの周囲に集まり、スパイクで土を荒そうとする(やれやれ)。デンベレはパラグアイの選手がなにをするかわかっていて、土を守っていたのだった。
●前評判通り、フランスはおそらく最強のチームだと思う。こんなおかしな試合で負けなくてよかったと思うけど、心のどこかでパラグアイを応援する気持ちがなかったとは言えない。

July 4, 2026

樫本大進×小菅優×クラウディオ・ボルケス トリオ 2026

樫本大進 × 小菅優 × クラウディオ・ボルケス トリオ●2日は東京オペラシティで樫本大進(ヴァイオリン)、小菅優(ピアノ)、クラウディオ・ボルケス(チェロ)によるトリオ。改修工事があったのでオペラシティのコンサートホールは久々。ボルケスはドイツ出身で、ペルーとウルグアイ出身の両親を持つ。旧知の間柄の3人による親密なトリオ。曲は前半がモーツァルトのピアノ三重奏曲第7番ト長調K564、武満徹「ビトゥイーン・タイズ」、シューベルトの三重奏曲変ホ長調「ノットゥルノ」、後半がメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番ニ短調。
●名手ぞろいで一見、華やかな印象だが、とくに前半は寂しさや孤独といった要素を強く感じさせる。3曲とも作曲者の晩年の作品ということもあるのかもしれない。モーツァルトのピアノ三重奏曲第7番は、たとえばピアノ・ソナタ第16番変ロ長調K570などと同じで、長調なんだけど内省的な性格が強い曲。武満の「ビトゥイーン・タイズ」は偶然にも先月に葵トリオで聴いたばかり。ゆっくりと流れる時間のなかで時々刻々と変化する潮の満ち引きのイメージだが、波の連想も働く。つづくシューベルト「ノットゥルノ」にも寄せては返す波ような表現があって、つながっている。この曲も寂しげな音楽。後半のメンデルスゾーンはぐっと開放感が増して、情熱的でスリリング。3人のビジョンがぴたりと重なって、ひとつの音楽に結実したという印象。アンコールにベートーヴェンのピアノ三重奏曲第1番作品1-1より第2楽章。
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●ワールドカップはベスト16が出そろった。いよいよ、ここから。
●宣伝を。ぶらあぼに取材記事「INTERVIEW 平野一郎(作曲)× 成田達輝(ヴァイオリン) 禅の思想が息づくヴァイオリン協奏曲、世界初演へ」を寄稿。今、インタビュー取材の仕事は受けていないのだが、これは例外。楽しく、やりがいのある仕事だった。

July 3, 2026

ワールドカップ2026北中米大会 決勝トーナメント1回戦 イングランドvsコンゴ

イングランド●この試合はしっかり見た! ワールドカップの決勝トーナメント1回戦の好カード、イングランドvsコンゴ。試合はお互いに主導権を握ろうとするチーム同士がぶつかり合うナイスゲームとして始まった。コンゴはグループリーグ第3戦のウズベキスタン戦で先制されながらも終盤に大爆発して逆転勝利を収めたチーム。当初は5バックを採用していたらしいが、ウズベキスタン戦の4バックの成功を受けて、イングランド相手にも4-3-3の攻撃的な布陣で立ち向かった。コンゴ代表といっても、プレミアリーグなどでプレイする選手たちから構成され、メンバーの大半はヨーロッパ生まれ。コンゴにルーツがあるが、ヨーロッパで生まれ、ヨーロッパでプレイする選手たちなのだ。当然、プレイは洗練されている。キーパーからボールをつなぐ際は、両サイドバックが高いポジションを取り、配給力のあるボランチが一枚、センターバックの間に下りてきて3バック調になる。序盤からすっ飛ばしてきて、なんと、前半7分にチペンガが左の浅い角度からキーパーのニアを豪快にぶち抜いて先制ゴール。
●この後もお互いに攻め合って、あわやコンゴの2点目もありえた。イングランドは個の突破力による仕掛けは有効なのだが、チーム全体としてのダイナミズムや連動性がもうひとつ。一部の選手は体が重そうに見える。後半の後半になると、イングランドが攻めて、コンゴが守る展開に。ここで決定的な役割を果たしたのが、イングランドのエース、ハリー・ケイン。後半30分、ふわりとした、なんでもないクロスに対して、するするとフリーになったケインがゴールから遠ざかりながらのテクニカルなヘディングで同点ゴール。さらに後半41分、ペナルティエリア手前からケインがぬるっと持ち込んで豪快な右足弾をゴール右上に突き刺して逆転。ほとんどチャンスとも言えない状態から、ケインが個人の能力で問題を解決してしまった。イングランドが逆転勝利。コンゴ側から見ると、ニッポンvsブラジル戦を思い出すような展開。
●後半だったかな、イングランドのトゥヘル監督が選手に対して激高している場面があった。どうやらスローインを後ろにした場面らしい。
●ハイドレーション・ブレークのブーイングはすっかり定着している。
●大半の選手が外国生まれなのはコンゴだけではない。強豪モロッコも同様。アルジェリアやカーボベルデ、チュニジア、セネガルなど、アフリカ勢の多くのチームでは外国生まれの選手が大勢選ばれている(例外はエジプト、南アフリカ)。かつてサッカー界にアフリカ脅威論が囁かれた時代があったが、実際にはアフリカ系の才能はどんどんヨーロッパに取り込まれ、ヨーロッパの代表チームのアフリカ化が勢いよく進んだ。すると、その次はヨーロッパで生まれヨーロッパで育成されたアフリカ系の選手たちが、ルーツのある国の代表選手に選出されるようになった。アフリカからヨーロッパへ、そしてヨーロッパからアフリカへ。だが、この後はどうなるのだろう。今、コンゴにルーツのある欧州の選手たちがコンゴ代表になれても、次の世代はもう親も欧州生まれになってしまい、コンゴ代表の資格を喪失するのではないか。そう考えると、コンゴの今後は難しい(←それ言いたかったの!?)

July 1, 2026

新国立劇場 リヒャルト・シュトラウス「エレクトラ」新制作

新国立劇場 「エレクトラ」
●29日は新国立劇場でリヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」新制作。演出はヨハネス・エラート。平日夜の公演。この日は深夜にワールドカップのニッポンvsブラジル戦もあったので高密度。大野和士指揮東京フィル。エレクトラにアイレ・アッソーニ、クリソテミスにヘドヴィグ・ハウゲルド、クリテムネストラに藤村実穂子、オレストにエギルス・シリンス、エギストに工藤和真。音楽面は充実。この作品にはオーケストラの切り裂くような鋭利さと潤いのある豊麗さの両面が必須だと思うが、東フィルが好演。アッソーニの題名役は、超越的というよりは人間的な苦悩や葛藤を感じさせるエレクトラ。むしろハウゲルドの妹クリソテミスのほうが超然としてパワフル。
●「エレクトラ」は父アガメムノンを殺した母クリテムネストラに対する娘エレクトラの復讐譚だが、この物語には本来前史があって、アガメムノンはトロイア戦争のために娘イフィゲニアを生贄に捧げている。クリテムネストラは娘の復讐としてアガメムノンを殺した。この前史を考えると、クリテムネストラにも正義があるわけで、エレクトラの母殺しに共感できなくなるわけだが、シュトラウスのオペラはそこを描いてはいない。むしろ閉じた物語で、毒親と子の閉じた密室の家庭劇といった感がある。ヨハネス・エラートの演出は舞台上を狭く使って閉塞感のある家庭の情景を切り取るもので、トーンとしてはダーク&ポップ。室内の左右に設置されたブランコ、クマちゃんのぬいぐるみたち、ピンクの公衆電話、白塗りのピエロたちなど、思わせぶり。開幕前から「ドクン、ドクン……」と心臓の鼓動音らしき重低音が流されていた。これらにどんな狙いがあるのか、知ったところで「なるほど」と思えるかどうかはわからない。賛否両論あるはず。ただ、情報量の多さという点では歓迎。隙間が埋まらない伝統演出よりは、饒舌な現代演出のほうが楽しめる。みんな、ブランコを漕ぐ。大人がブランコを漕ぐ場面って、それだけで心がざわざわするのはなぜなのか。
●監視の女に森谷真理、下女に清水華澄、田崎尚美といった実力者たちの名前が並んでいたが、それぞれクリソテミス、クリテムネストラ、エレクトラ役のカバーを兼ねていた。
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●ワールドカップは決勝トーナメント1回戦が猛スピードで消化されている。ドイツがPK戦の末にパラグアイに敗れたのは番狂わせ。

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